特許第5971887号(P5971887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5971887マニピュレータの制御方法および制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5971887
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】マニピュレータの制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/00 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
   B25J13/00 Z
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-97899(P2010-97899)
(22)【出願日】2010年4月21日
(65)【公開番号】特開2010-253676(P2010-253676A)
(43)【公開日】2010年11月11日
【審査請求日】2013年1月28日
【審判番号】不服2014-17014(P2014-17014/J1)
【審判請求日】2014年8月27日
(31)【優先権主張番号】10 2009 018 403.1
(32)【優先日】2009年4月22日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】10 2009 049 327.1
(32)【優先日】2009年10月14日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】10 2009 049 329.8
(32)【優先日】2009年10月14日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510112741
【氏名又は名称】クーカ・ロボター・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ハーゲナウアー
【合議体】
【審判長】 久保 克彦
【審判官】 栗田 雅弘
【審判官】 落合 弘之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−302449(JP,A)
【文献】 特開平3−262009(JP,A)
【文献】 特開平6−309040(JP,A)
【文献】 特開2001−157975(JP,A)
【文献】 特開平5−158514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多軸マニピュレータ、とりわけロボット(1)の制御方法であって、
少なくとも1つの案内軸をコンプライアンス制御する段階(S50)と、
少なくとも1つの別の軸を剛性制御する段階(S50)と、
を含んだ方法において、
前記少なくとも1つの別の軸の目標値(q2、q5)が、前記案内軸の実際値(q3mess)に基づいて決定され、
前記マニピュレータがコンプライアントに回避すべき力(Fmax)、および/または前記マニピュレータがそれに沿ってコンプライアントに回避すべき作用線(s+λk)が、とりわけ作業空間内に設定され、
コンプライアンス制御と剛性制御とが選択的に切り換えられ(S40)、
前記作用線は直線、曲線、平面、超平面、および超空間とすることが可能であり、
複数の可能な作用線が決定され、とりわけ前記作用線に沿った制御可能性に基づいて、および/または前記力の観察可能性に基づいて、前記作用線から1つの作用線が選択され、前記マニピュレータがそれに沿ってコンプライアントに回避すべき作用線(s+λk)として設定されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記マニピュレータの少なくとも1つの運動軸が、前記設定された作用線に沿った制御可能性に基づいて、および/または前記力の観察可能性に基づいて、案内軸として決定されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記力および/または前記作用線が継手空間内に変換される(S20)ことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記変換が局所的に線形化および/または適応されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項5】
コンプライアンス制御が、力制御として構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記コンプライアンス制御が、間接的な力制御として、とりわけインピーダンス制御として構成されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記コンプライアンス制御が、直接的な力制御として、とりわけ並列型の力/位置制御として構成されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記力制御のために、前記マニピュレータに作用する力が、少なくとも1つの案内軸の駆動部の反力に基づいて、とりわけ駆動モータの電流値に基づいて決定されることを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
剛性制御が位置制御として構成されることを特徴する請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
別のある軸の目標値が、少なくとも1つの案内軸の実際値に線形または非線形に依存する((q2=0・q3mess,q5=−q3mess);(q3=−q2mess;q5=(y2/y6)q2mess))ことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記マニピュレータの姿勢に依存して種々異なる案内軸が選択されることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの案内軸のためのコンプライアンス制御器と、少なくとも1つの他の軸のための剛性制御器と、を備えたマニピュレータ、とりわけロボット(1)用の制御装置(4)において、
前記制御器が、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実施するように構成されていることを特徴とする制御装置(4)。
【請求項13】
請求項12に記載の制御装置中で実行されるとき、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実施するコンピュータプログラム。
【請求項14】
機械により読み取り可能な媒体に記憶されており、請求項13に記載のコンピュータプログラムを含んだプログラムコードを備えているコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多軸マニピュレータ、とりわけロボットの制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の工業用ロボットは、主に位置制御される。このために、補間回路で目標継手位置が生成され、ロボットの個々の駆動部にある個別の継手制御器がそこに向かって進む。しかし例えば障害物、または軌道計画の際の不正確な環境モデリングにより目標位置に達しないと、純粋な位置制御では、調整量限界を超え、そのため制御が遮断されるか、またはロボットが目標位置まで強引に進められ、その際に場合によっては障害物、構成部材、工具、またはロボット自体が損傷するまで駆動力が高められる。
【0003】
具体的な例は、溶接ガンによる点溶接である。この場合、溶接電極を、構成部材の所定の個所で、所定の押圧力によって構成部材に押し付けるべきである。しかし構成部材が溶接姿勢の計画の際の基礎となっている位置になく、例えば溶接ガンの閉鎖方向にずれていると、純粋に位置制御されるロボットは、溶接電極を所定の位置に強引に押しやり、その際に構成部材および一方の電極が損傷し、他方の電極が構成部材と接触しなくなることがある。損傷に至らない場合であっても、溶接プロセスに好ましくない力が発生し、この力が溶接スポットの質を低下させ、故障に至ることもある。
【0004】
このような問題を解決するために、ロボット構造に、例えばいわゆる"RCC"(Remote Center of Compliance)によって意図的な受動コンプライアンスを与えることが知られている。しかし剛性方向およびコンプライアンス方向は各用途に特有のものであるため、種々異なる適用例に対してこれを使用することはできない。能動的に調整可能な工具接続部、例えば圧縮空気またはサーボモータによって種々異なる平衡位置に調整することのできる浮動支持された溶接ガンであっても、それぞれの適用例に適合させなければならず、受動的コンプライアンスの場合と同様に、装置技術面での追加のコストを必要とする。
【0005】
したがって長い間、力制御が研究されてきた。本明細書では、逆平行の力の対、すなわちトルクも一般的に力と称される。力制御とは、特に、いわゆる力トルク制御を意味する。ここで、"FTCtrl"(力トルク制御)と業界で呼ばれている概念は、位置/力制御される部分空間への分割である。これは、選択行列によって、またはそれぞれの調整量の重畳による並列型の位置/力制御によって、または力学的法則、とりわけバネダンパ質量モデルによって位置と力が関連付けられるインピーダンス制御によって行われる。その概要は、例えば非特許文献1、または非特許文献2に示されている。
【0006】
しかし、このアプローチの実現は、実際にはたびたび問題に直面する。例えばデカルト座標空間での力制御は、デカルト座標方向に沿って、上記の適用例では例えば溶接ガンの閉鎖方向に沿ってコンプライアンスを表すのに、高い計算コストを必要とし、それに対応して制御挙動が緩慢になる。他方で、すべての軸を力制御する場合、ロボットに作用する力のそれぞれの成分をモータ電流から決定することは問題がある。なぜなら、ギヤ変速比、摩擦およびノイズのため、力を正確には再現できないからである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H.-B. Kuntze著「Regelungsalgorithmen fuer rechnergesteuerte Industrieroboter」Regelungstechnik, 1984年, 215〜226頁
【非特許文献2】A. Winkler著「Ein Beitrag zur kraftbasierten Mensch-Roboter-Interaktion」Dissertation, TU Chemnitz, 2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の課題は、マニピュレータの挙動を実際に改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1の特徴を含む方法によって解決される。請求項15は制御装置を特許請求し、請求項16または17はコンピュータプログラムまたはコンピュータプログラム製品、とりわけ請求項1による方法を実施するためのデータキャリアまたは記憶媒体を特許請求する。従属請求項は有利な変形形態に関する。
【0010】
本発明は以下の技術思想に基づくものである。デカルト座標空間または作業空間におけるコンプライアント運動は、1つまたは複数の運動軸、例えばマニピュレータの回転継手または直線軸での運動に相当する。これらの軸の少なくとも1つが案内軸として規定され、コンプライアンス制御される。別の軸、好ましくは残りのすべての軸は剛性制御されるが、目標値は、案内軸(1つまたは複数)の実際値に基づいて決定される。デカルト座標空間におけるコンプライアント運動は、いわば、案内軸(1つまたは複数)を介してパラメータ化される。このとき、一方ではコンプライアンスを、この案内軸(1つまたは複数)のコンプライアンス制御によって表現することができ、他方ではデカルト座標空間における所望のコンプライアント運動を、コンプライアント軸に追従する他の軸の剛性制御によって保証することができる。
【0011】
有利なことに、本発明の概念により、簡単で、頑丈で、効率的な制御器を、案内軸および他の軸のために使用することが可能になり、したがって、本発明の概念は、複雑な理論的アプローチとは異なり、信頼性をもって簡単に実現することができる。
【0012】
本明細書では、コンプライアンス制御とはとりわけ、例えば案内力や障害物に衝突した際の接触力などの力の下で、運動、とりわけ回避運動を生じさせる制御を意味する。この回避は好ましくは、力の大きさおよび/または方向に応じて行われる。コンプライアンス制御は好ましくは、それぞれの案内軸の個別の継手制御として構成される。
【0013】
とりわけコンプライアンス制御は力制御として構成することができる。このために、作用する力を、例えば力センサまたは力トルクセンサによって直接的に、好ましくはマニピュレータの工具フランジにおいて検出することができる。それに加えて、またはその代わりに、マニピュレータの変形に基づいて、例えばマニピュレータの部材の撓みに基づいて間接的に検出することもできる。それに加えて、またはその代わりに、マニピュレータの駆動部における反力に基づいて、例えばそこに配置された力センサまたは力トルクセンサによって力を検出することもできる。また、反力は、無接触の軌道または力の加わらない軌道において発生する力以外の、例えば静的保持力または動的遠心力および加速力以外の、駆動部がもたらさなければならない力に基づいて求めることもできる。このような力はとりわけ駆動電気モータの電流値に基づいて求めることができる。なぜなら、運動制御のためにもたらされるモータ電流は、重力作用、慣性作用、および摩擦作用について修正済みであり、個々の軸における反力に対して実質的に線形であるからである。ここで再度、本明細書ではトルクも力と呼ぶことを指摘しておく。
【0014】
コンプライアンス制御は、間接的な力制御として、とりわけインピーダンス制御として構成することができる。同様にコンプライアンス制御は、直接的な力制御として、とりわけ並列型の力/位置制御として構成することもできる。この並列型の力/位置制御では、目標力と実際力との差、および目標位置と実際位置との差の両方が考慮され、例えば対応する調整量が重畳される。
【0015】
力制御の簡単な手段は、案内軸の駆動力を制限することである。このために、案内軸は基本的に位置制御される。この案内軸の駆動力は、例えばカスケード制御器の電流制御回路における最大目標モータ電流の限界により、目標-実際値の差が大きい場合でも所定の限界値を超えることができない。このようにして力制御される軸が所定の限界値を超えない抵抗を受ける場合、この軸はその目標位置まで進もうと試みる。しかし、例えば障害物との衝突により、この抵抗がこの限界値を超える場合は、軸が変位することがあり、限界値に対応する力だけが軸に対抗する。したがってこの軸はコンプライアンス制御される。
【0016】
これに対応して、本明細書において、剛性制御とはとりわけ、対抗する力に実質的に関係なく所定の目標位置まで進める制御、あるいは例えば案内力や障害物に衝突した際の接触力などの力の下でできるだけ回避運動を生じない制御を意味する。ここではもちろん、損傷を阻止するために、所要の調整力に対する上限を考慮することができる。剛性制御は好ましくは、他のそれぞれの軸の個別の継手制御として構成される。
【0017】
とりわけ剛性制御は、(純粋な)位置制御として構成することができる。本明細書において、位置制御または配置制御とは、例えば、好ましくは速度予備制御および/または加速度予備制御を伴うカスケード制御の形態で、目標位置と実際位置との差、その積分値、および/または時間導関数に基づいて、調整量、例えばモータ電流が決定される制御を意味し、例えば1入力または多入力比例(P) 制御、微分(D) 制御、および/または積分(I)制御(P,PD,PI,PID)である。
【0018】
好ましい一実施形態では、マニピュレータがコンプライアントに回避すべき力、および/またはマニピュレータがそれに沿ってコンプライアントに回避すべき作用線が、例えば空間固定された慣性系における対応するベクトルによって、好ましくは前もってデカルト座標空間または作業空間内に設定される。
【0019】
設定される力は、例えばマニピュレータが作用線に沿って及ぼすべき接触力とすることができる。これは例えば溶接ガンのその閉鎖方向に沿った押圧力であり、この押圧力を超えるとマニピュレータは作用線に沿って回避すべきである。
【0020】
設定される作用線は例えば、一続きのTCPの位置および方位とすることができる。この作用線は例えば、3つの位置座標と3つの角度座標を有する、パラメータ化された6次元ベクトルによってデカルト座標空間内に設定することができる。同様に、例えばTCPの位置だけ、または方位だけを規定する作用線も可能である。それに対応して、この作用線を、パラメータ化された3次元ベクトルによって設定することができる。他方で、1つの平面に沿って、または他の超平面に沿って、または位置および/または方位の空間における超空間内で、または継手座標の構成空間内で、複雑な空間的コンプライアンスを設定することもできる。これらすべての直線、曲線、平面、超平面、および超空間を、以下では簡潔にするため、一般的に作用線と称する。
【0021】
したがって、本発明の意味での作用線の設定により、例えばマニピュレータのTCPが方位を維持してもしくは維持せずにそれに沿ってコンプライアントに回避すべきデカルト座標空間内の平面、またはTCPがコンプライアントに回避する場合にその中に留まっているべき球を設定することもできる。
【0022】
このような作用線に沿った制御可能性に基づいて、および/またはこの力の観察可能性に基づいて、マニピュレータの1つまたは複数の運動軸を案内軸(1つまたは複数)として決定することができる。冒頭に説明したように、デカルト座標空間の作用線に沿った力または運動は、マニピュレータの個別の軸における対応する力成分または運動を引き起こす。この成分または運動の大きさは、例えば作用線に沿った制御可能性または力の観察可能性の尺度となり得る。すなわち、マニピュレータ、とりわけ作用するレバーアームの運動学や、ギヤ変速比などに基づいて、駆動部で比較的大きな成分を与える力を、この軸においてより良好に観察することができる。マニピュレータが、駆動部の運動の際に作用線に沿って比較的大きな区間を進む場合、この作用線はこの軸によってより良好に制御可能である。したがって案内軸を、制御可能性および/または観察可能性の考慮の下で、例えば重み付けされた和またはペナルティ関数として選択すれば、マニピュレータがそれに対して撓むべき力またはマニピュレータがそれに沿って撓むべき作用線を、この案内軸によって特に良好にパラメータ化することができる。
【0023】
力成分または運動は、したがって制御可能性または観察可能性は、マニピュレータの目下の姿勢に応じて変化することがあるので、好ましい一実施形態では、マニピュレータの姿勢に応じて種々異なる案内軸が選択されるようになされている。
【0024】
とりわけ、力成分または運動を、したがって制御可能性または観察可能性を評価できるようにするために、好ましい一実施形態では、力および/または作用線がデカルト座標空間または作業空間から、個々の軸の値領域によって規定される継手空間に変換される。
【0025】
この変換も同様にマニピュレータの姿勢に依存する。いずれにせよ、基準姿勢からの変化が小さい領域では、変換を線形テイラー展開によって近似することができる。このような線形変換は計算技術的に効率的に実行されるので、好ましい一実施形態では、変換が、とりわけマニピュレータの所定の姿勢に対して局所的に線形化される。このような線形化は、通例、局所的にのみ良好に近似されるので、この線形化を種々異なる姿勢に対して実施することができる。対応する線形変換を切り換えることにより、または補間することにより、マニピュレータのさらに大きな作業領域に対してもこの変換を適合させることができる。
【0026】
好ましい一実施形態では、他の軸の目標値が案内軸(1つまたは複数)の実際値に線形に依存する。とりわけ線形変換を行う場合、デカルト座標による作用線が継手座標の線形関数に変換される。したがって案内軸の継手座標によるパラメータ化が、他の軸での線形関数に移行する。しかし同様に、案内軸の実際値と別の軸の目標値との間で非線形関数を選択することもできる。この非線形関数は例えばテーブルに記憶することができ、テーブル値の間は補間することができる。同様に、場合によっては、適切な有限次元関数空間、例えば多項式、スプライン、有限フーリエ級数などによる、アプリケーションによって設定された作用線の形態に特に有利な表現も適している。
【0027】
好ましい一実施形態では、まず複数の可能な作用線が決定される。例えばTCPがその方位を維持しながらそれに沿って撓むべきデカルト座標空間内の直線または平面の他に、TCPがその方位を変えながらそれに沿って撓むべき共直線または共平面を、別の可能な作用線として決定することができる。次にこれら可能な作用線の1つを、好ましくは作用線に沿った制御可能性に基づいて、および/または力の観察可能性に基づいて選択し、マニピュレータがそれに沿ってコンプライアントに回避すべき作用線として設定することができる。したがって例えばTCPの方位が変化する直線に沿った回避運動を1つの軸で改善して制御することができれる場合、好ましい一実施形態では、例えばオプティマイザにより、この軸が案内軸として選択される。
【0028】
好ましくは、案内軸の数は、所定のコンプライアンスの自由度の数、またはこのコンプライアンスを記述する作用線の次元に相当する。マニピュレータのTCPが、例えばその方位を維持しながらデカルト座標空間内の直線に沿って撓むべき場合、これは1次元の作用線であり、TCPは1の自由度を有する。この場合、運動軸を案内軸として選択することができ、残りの軸をこの軸によりパラメータ化することができる。これに対して、マニピュレータのTCPが、例えばその方位を維持しながらデカルト座標空間内の平面に沿ってコンプライアントであるべき場合、これは2次元の作用線または超平面であり、TCPは2の自由度を有する。この場合、2つの運動軸を案内軸として選択することができ、残りの軸をこれらの軸によりパラメータ化することができる。
【0029】
マニピュレータは多くの適用例で、一部の区間でのみコンプライアントであるべきである。例えば工業用ロボットは、無接触の軌道を、例えば剛性に高精度で出発姿勢まで進むべきであり、例えば溶接ガンの閉鎖によって周囲と接触して初めて、所定の方向にコンプライアンス特性を有するべきである。したがって好ましい一実施形態では、少なくとも1つの案内軸のコンプライアンス制御と、すべての運動軸の剛性制御とが選択的に切り換えられる。
【0030】
さらなる利点および特徴は、従属請求項および実施形態から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態による制御装置を備えるロボットを示す図である。
図2図1の制御装置による本発明の一実施形態の方法の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、基本位置にある6軸屈曲アームロボット1を示す。この基本位置で、ロボットの6つの軸角度または継手角度q1,q2,...q6は、数値ゼロを有する。簡潔にするため、軸1、4および6は運動しないものとし、したがって以下では1つの平面運動と、継手座標q2、q3およびq5とだけを考察する。これらはそれぞれのギヤ変速比を介して駆動モータの対応する回転位置を決定する。そして、2つの薄板3をスポット溶接する溶接ガン2の工具基準系TCPのベクトルxは、基部に固定された慣性系I内で、図1にプロットされた軸間隔x1,...y6を用いると次式のとおりである。
【0033】
【数1】
【0034】
ただし成分rx、ryはTCPに対する位置ベクトルrであり、オイラー角φはz軸周りにおけるものである。図1に示された基本姿勢におけるヤコビ行列は次のとおりである。
【0035】
【数2】
【0036】
ロボット1は慣性系yのy方向にコンプライアント柔軟性をもつであるべきである。これにより溶接ガン2が、溶接電極とともに薄板3へと進む際にこの方向でセンタリングすることができる。このためにロボットのTCPはデカルト座標による数式3で現される直線に沿って、数式4で現される最大の力Fmaxをもたらす。
【0037】
【数3】
【0038】
【数4】
【0039】
この直線s+λkと最大の接触力Fmaxは、式(2)から(4)およびロボット技術で一般的に公知の恒等式Q=JT*FおよびJ*dq=dxに従い、点sを中心にして局所的に継手座標の空間q=[q2,q3,q5]Tに変換される。
【0040】
【数5】
【0041】
直線s+λkに沿った力Fは、レバーアームが消えるので継手5においてトルク(Qz=0)を形成しない。したがって第5の軸は、観察可能性が悪いので力トルク制御には適さない。他方、第2の軸は動かない。したがって第3の軸が作用線s+λkに関してより良好な制御可能性を有する。
【0042】
したがって第3の軸が案内軸として選択され、ロボット1がそれに沿ってコンプライアントであるべきデカルト座標による直線が継手角度q3によりパラメータ化される。このようにして、一方では十分に大きな案内量が達成される。他方では接触力を、第3の軸の駆動モータで形成されたトルクに基づいて良好に求めることができる。
【0043】
したがってロボット1がそのTCPとともに図1に示したスタート姿勢に進んだとき、第3の軸がコンプライアンス制御される。このことは例えば次のようにして行われる。すなわちq3s=0のスタート位置を目標位置として維持しようとするカスケード位置制御部での第3の軸の目標電流は、伝動装置被駆動側で発生されるトルクが、慣性力を補償するためのトルクから最大で±x3・Fmaxだけ異なるように制限される。したがってロボットはこの軸でのスタート姿勢からの障害運動に対して、最大x3・Fmaxのトルクで対抗する。もちろん第3の軸を別のやり方でコンプライアンス制御することも可能であり、例えば力/位置制御器の調整量に重畳される並列型の力/位置制御、またはインピーダンス制御も可能である。所定のデカルト座標による直線に沿ってTCPに掛かる力の実際値は、例えば第3の軸の駆動部に力を加えるトルクから求めることができる。または例えばモータ電流から、またはロボット1の工具フランジにある対応する力センサまたは力トルクセンサによって、または例えばロボットのアームの弾性変形から求めることができる。
【0044】
これに対して他の軸、この例示的実施形態ではとりわけ第2および第5の軸は、剛性である、または位置制御される。このために例えば継手角度q2またはq5および/または継手角速度dq2/dtまたはdq5/dtが、例えばタコメータ、レゾルバ、または増分回転数発生器によって検出され、フィードバックされ、位置速度電流カスケード制御で目標値q2sまたはq5sに追従制御される。
【0045】
本発明によれば、位置制御される第2および第5の軸に対する目標値は、コンプライアンス制御される第3の軸の実際値q3messに基づいて求められる。式(5)によれば目標値q2sとq5sは例えば数式6として設定することができる。
【0046】
【数6】
【0047】
次にロボット1が、図1に示したスタート位置から出発して、その溶接ガン2を薄板3のスポット溶接のために閉鎖する場合に、例えば薄板3の不正確な位置、不正確なTCPの位置決め、または薄板厚の公差のため、薄板が溶接ガン2の作動点TCPに来ないことがある。そのためガンの閉鎖の際に、反力Fが、デカルト座標による直線s+λkに沿って、すなわち溶接ガン2の閉鎖方向に発生する。
【0048】
第3の軸のコンプライアンス制御に基づいて、ロボットはこの方向で回避することができる。なぜなら、反力Fに基づき、第3の軸に印加されるトルクが許容値±x3 Fmaxを超えると直ちに、モータ制御器の目標電流は、位置がずれているにもかかわらずそれ以上上昇しなくなり、ロボット1は反力の下でその第3の軸において回避するからである。
【0049】
この回避運動、すなわち継手角度q3messの測定された実際値は、これが剛性位置制御されるので、第2の軸および第5の軸における対応する追従制御をもたらす。この追従制御は、第3の軸の回避運動に追従し、その際、TCPがデカルト座標による直線s+λkに沿って、すなわち溶接ガン2の閉鎖方向にずれる。このようにして、溶接ガン2は簡単で頑丈で高速の制御器によってセンタリングされる。
【0050】
この例示的実施形態から明らかなように、位置制御される軸の目標値が、式(6)に従って案内軸の実際値に線形に依存する場合、TCPは、一般的には近似的にのみデカルト座標空間または作業空間内で直線に沿ってずれる。しかし、通常は1から2cmの調整距離の相応に小さいスポット溶接の適用例の場合、これですでに十分であり得る。
【0051】
とはいえ、本発明の方法を比較的大きな軌道に対しても一般的に使用することができる。これは例えば線形化、とりわけ式(2)によるヤコビ行列の評価を、区間ごとに反復するか、またはロボット1の種々異なる姿勢に対して反復し、変化した動力学的性質に適合させることによって行われる。その際に、場合によっては案内軸を変更することもできる。軌道が比較的大きい場合の別の手段は、案内軸を介してパラメータ化された継手空間の直線によって作用線を近似する (すなわちこの例示的実施形態で示した線形化) のではなく、デカルト座標空間における所望の作用線を、継手空間でのより高次の近似によって表現することである。その際にも好ましくは、後続の軸が案内軸の関数として現れる表現を選択すべきである。
【0052】
図2は、例えば制御ラック4内に配置されたロボット制御部で実現することのできる対応する制御を示す。
【0053】
第1の段階S10では、好ましくはオフラインで前もって、ロボットがそれに沿ってコンプライアントであるべき作業空間内のデカルト座標による直線s+λk、ならびに制御パラメータ、例えばそれ以上の力でロボットが回避すべきである最大の力Fmaxが設定される。
【0054】
次に段階S20で、場合により複数の姿勢に対して、好ましくは線形に、所属の継手角度qkとトルクQが求められる。デカルト座標による直線に沿った力の観察可能性、すなわちこの力により駆動モータに印加されるトルクの大きさと、制御可能性、すなわちデカルト座標による直線に沿って進む際のそれぞれの軸の調整距離の大きさとに基づいて、案内軸、この例示的実施形態では第3の軸が選択される。
【0055】
ロボット1は、すべての軸2、3、5の純粋な位置制御によってそのスタート姿勢に進む。そのために段階S30には、比例位置制御器、速度予備制御部、PID制御器および比例積分モータ制御器または電流制御器を備える、個々の軸i=2、3および5に対するカスケード制御部が示されている。
【0056】
ロボット1がそのスタート姿勢に進むと直ちに、本発明による制御に切り換えられる(S40:"J")。
【0057】
ここでは第3の軸がコンプライアンス制御される。そのために段階S50には、目標電流制限部10が示されている。残りの軸i=2、5は位置制御される。しかしこれらの軸の目標値は、もはやロボット制御部4の補間器から得られるのではなく、第3の軸の実際値から得られる。これも同様に段階S50に部材20で示されている。
【0058】
スポット溶接過程が終了すると直ちに、制御はすべての軸に対する純粋な位置制御に戻る(S40:"N")。ここで好ましくは、軸位置の目標値と実際値の調整が実行される。
【0059】
上記の例示的実施形態でTCPは、直線s+λkに沿って撓むときにその方位(φ=q2+q3+q5=0)を局所的に維持する。この要件を破棄すれば、式(2)の3行目が省略されるので、別の作用線を例えば次式によりパラメータ化することができる。これに関して、軸が、式(6)に関する第3の軸よりも良好な制御可能性および/または観察可能性を有している場合は、例えば制御可能性および観察可能性を品質基準として考慮するオプティマイザによってこの軸を、式(7)では例えば第2の軸を案内軸として決定し、作用線を式(7)に従って設定することができる。
【0060】
【数7】
【符号の説明】
【0061】
1 ロボット
2 溶接ガン
3 薄板
4 制御ラック
q1,...q6 継手角度
I 慣性系
TCP ツールセンタポイント(工具基準系)
x1,...y6 軸間隔
図1
図2