特許第5972008号(P5972008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972008
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/14 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
   F16H61/14 601Q
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-78533(P2012-78533)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-209993(P2013-209993A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】平尾 知之
(72)【発明者】
【氏名】岸 大輔
(72)【発明者】
【氏名】畑内 慎也
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−121750(JP,A)
【文献】 特開平09−004707(JP,A)
【文献】 特開2007−255663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトから回転駆動力の伝達を受けて稼働する液圧ポンプが吐出する作動液をプライマリレギュレータバルブ及びセカンダリレギュレータバルブに順次入力し、これらレギュレータバルブにより調圧した作動液をトルクコンバータに供給してロックアップクラッチの締結/開放の切り換えを行うシステムを制御するものであって、
トルクコンバータに向かって流れる作動液の流量を調節するためのソレノイドバルブに与える、当該ソレノイドバルブの開度を増減させる制御入力を補正するパラメータを学習するとともに、
前記レギュレータバルブにより調圧される作動液の圧力が目標からある程度以上乖離するような所定の事象として、ベルト式CVTにおいてベルトを挟圧するプーリの実挟圧力が目標挟圧力よりも低く、その目標挟圧力から実挟圧力を減算した値が所定値を超えていることを感知した場合には前記学習を禁止することを特徴とする制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関及び自動変速機を備える車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時の自動車は、自動変速機を実装していることが少なくない。車両用の自動変速機として、トルクコンバータ及びベルト式連続可変変速機構(Continuously Variable Transmission)を具備してなる無段変速機が公知である(例えば、下記特許文献1を参照)。
【0003】
トルクコンバータには、その入力側と出力側とを相対回動不能に締結するロックアップクラッチが付設されていることが通例である。ロックアップクラッチを締結状態から開放状態へと切り換える場合、または逆に開放状態から締結状態へと切り換える場合には、ロックアップクラッチを作動させるべくトルクコンバータに供給される作動液の流量をソレノイドバルブによって徐変させる。
【0004】
ロックアップクラッチやソレノイドバルブその他液圧回路の構成要素には、特性の個体差(ばらつき)が存在している。この個体差を吸収するために、従来より、ロックアップクラッチの締結状態と開放状態との間の切り換えに要する時間について目標を定めておき、実際に切り換えに費やされた時間とその目標との偏差に応じて、ソレノイドバルブに与える制御入力を補正するパラメータを学習するようにしている(例えば、下記特許文献2を参照)。
【0005】
トルクコンバータに供給される作動液は、内燃機関のクランクシャフトに従動して回転する液圧ポンプから吐出される。液圧ポンプの吐出圧及び吐出量は、エンジン回転数等に応じて常に変動する。それ故、液圧ポンプが吐出する作動液をレギュレータバルブにより調圧した上で、トルクコンバータに供給している(例えば、下記特許文献3を参照)。
【0006】
しかしながら、時に、レギュレータにより調圧している作動液の圧力が目標の圧力からずれてしまうことがある。このときに前記パラメータの学習を実行してしまうと、ロックアップクラッチの切り換えに要する時間が最適化されない。
【0007】
ロックアップクラッチの切り換えに要する時間が不適正なものであると、ロックアップクラッチの締結/開放に伴うショックが発生したり、ロックアップクラッチの締結時に当該クラッチの滑り期間が長くなって燃費を損ねたり、あるいはロックアップクラッチの開放時にエンジンストールに陥るリスクが上昇したりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−071427号公報
【特許文献2】特開2007−232160号公報
【特許文献3】特開2007−255663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ソレノイドバルブに与える制御入力を補正するパラメータの誤学習を適切に防止することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、内燃機関のクランクシャフトから回転駆動力の伝達を受けて稼働する液圧ポンプが吐出する作動液をプライマリレギュレータバルブ及びセカンダリレギュレータバルブに順次入力し、これらレギュレータバルブにより調圧した作動液をトルクコンバータに供給してロックアップクラッチの締結/開放の切り換えを行うシステムを制御するものであって、トルクコンバータに向かって流れる作動液の流量を調節するためのソレノイドバルブに与える、当該ソレノイドバルブの開度を増減させる制御入力を補正するパラメータを学習するとともに、前記レギュレータバルブにより調圧される作動液の圧力が目標からある程度以上乖離するような所定の事象として、ベルト式CVTにおいてベルトを挟圧するプーリの実挟圧力が目標挟圧力よりも低く、その目標挟圧力から実挟圧力を減算した値が所定値を超えていることを感知した場合には前記学習を禁止することを特徴とする制御装置を構成した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ソレノイドバルブに与える制御入力を補正するパラメータの誤学習を適切に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態における車両用内燃機関の全体構成を示す図。
図2】同実施形態における駆動系の構成を示す図。
図3】同実施形態における駆動系の各種装置を作動させるための液圧回路を示す図。
図4】同実施形態におけるソレノイドバルブの制御入力とロックアップクラッチの制御差圧との関係を例示する図。
図5】同実施形態におけるロックアップクラッチの制御差圧の目標値の推移を例示する図。
図6】同実施形態の制御装置が実行する処理の手順例を示すフロー図。
図7】同実施形態の制御装置が実行する処理の手順例を示すフロー図。
図8】本発明の変形例の一におけるロックアップクラッチの制御差圧の目標値の推移を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。
【0014】
本実施形態における内燃機関は、火花点火式ガソリンエンジンであり、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。本実施形態では、特に、二気筒エンジンを想定している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子であるイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0015】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0016】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0017】
図2に、車両が備える駆動系の例を示す。この駆動系は、トルクコンバータ7及び自動変速機8、9を備えてなる。特に、本実施形態では、自動変速機8、9の構成要素として、遊星歯車機構を利用した前後進切換装置8、及び無段変速機の一種であるベルト式CVT9を採用している。
【0018】
内燃機関が出力する回転トルクは、内燃機関のクランク軸からトルクコンバータ7の入力側のポンプインペラ71に入力され、出力側のタービンランナ72に伝達される。タービンランナ72の回転は、前後進切換装置8を介してCVT9の駆動軸94に伝わり、CVT9における変速を経て従動軸95を回転させる。従動軸95の回転は、出力ギア101に伝達される。出力ギア101は、デファレンシャル装置のリングギア102と噛合し、デファレンシャル装置を介して車軸103及び駆動輪(図示せず)を回転させる。
【0019】
トルクコンバータ7は、ロックアップ機構を備える。ロックアップ機構は、この分野では既知のもので、トルクコンバータ7の入力側と出力側とを相対回動不能に締結するロックアップクラッチ73と、ロックアップクラッチ73を断接切換駆動するための作動液圧(油圧)を制御するロックアップソレノイドバルブ57とを要素とする。ロックアップソレノイドバルブ57は、制御入力たる開度制御信号lを受けてその開度を変化させる流量制御弁である。
【0020】
一般的に、ロックアップ機構は、自動変速機8、9による減速比(変速比)の変更を伴わない状況において、トルクコンバータ7の入力側と出力側とを締結する。ロックアップ時、ロックアップクラッチ73はトルクコンバータカバー74に押し付けられ、トルクコンバータカバー74と一体となって回転する。ロックアップ時、トルクコンバータ7の入力側(のドライブプレート)に入力された機関のトルクは、トルクコンバータカバー74からロックアップクラッチ73を経由してトルクコンバータ7の出力側、ひいては前後進切換装置8に直接伝達される。ロックアップ時、トルクコンバータ7の出力側回転数の入力側回転数に対する比である速度比は1となる。
【0021】
翻って、非ロックアップ時には、ロックアップクラッチ73がトルクコンバータカバー74から離反する。非ロックアップ時、トルクコンバータ7の入力側に入力された機関のトルクは、トルクコンバータカバー74からポンプインペラ71、タービン72へと伝わり、前後進切換装置8に伝達される。非ロックアップ時、トルクコンバータ7の速度比は、駆動状態に応じて1よりも小さくなったり大きくなったりする。
【0022】
ロックアップクラッチ73の一方には締結側油室75が、他方には開放側油室76があって、何れかの油室75、76に作動液の圧力が導入されることでロックアップクラッチ73が締結され、または開放される。締結側油室75と開放側油室76との差圧(Pa−Pr)は、ロックアップコントロールバルブ54を介して制御する。差圧(Pa−Pr)は、ロックアップクラッチ73を締結する際に正値となり、ロックアップクラッチ73を開放する際には負値となる。
【0023】
ロックアップコントロールバルブ54は、スプリングにより一方向から付勢されており、スプリングと対向する信号ポートに入力される液圧力Psが所定値以下のときには、セカンダリレギュレータ圧Ptが入力ポート、第一出力ポートを介してロックアップクラッチ73の開放側油室76に供給される。これにより、ロックアップクラッチ73が開放される。
【0024】
信号ポートに入力される液圧力Psが所定値以上に上昇すると、セカンダリレギュレータ圧Ptが入力ポート、第二出力ポートを介してロックアップクラッチ73の締結側油室75に供給される。これにより、ロックアップクラッチ73が締結される。
【0025】
このように、ロックアップコントロールバルブ54は、スプリングの荷重、信号ポートに入力される液圧Ps、スプリングに対向する方向にフィードバックされる解放液圧Pr、スプリングと同方向にフィードバックされる締結液圧Paの相互のバランスによって作動する。信号ポートに与える液圧Psを増減させれば、締結液圧Paと解放液圧Prとの差圧(Pa−Pr)を比例的に制御できる。従って、ロックアップクラッチ73の締結状態から開放状態への切換制御、及び開放状態から締結状態への切換制御を、時間勾配をもって緩やかに行うことができる。
【0026】
ロックアップクラッチ73を作動させるべくトルクコンバータ7に供給される作動液は、液圧ポンプ51から吐出される。液圧ポンプ51は、内燃機関のクランクシャフトから回転駆動力の伝達を受けて稼働する、既知の機械式(非電動式)のものである。図3に示しているように、液圧ポンプ51が吐出する作動液は、プライマリレギュレータバルブ52及びセカンダリレギュレータバルブ53に順次入力される。これらレギュレータバルブ52、53により、ロックアップコントロールバルブ54を介してロックアップクラッチ73の締結側油室75または開放側油室76に選択的に供給される作動液の圧力Ptが、ある目標の圧力に調圧され、維持される。
【0027】
本実施形態の液圧回路においては、プライマリレギュレータバルブ52が、液圧ポンプ51の吐出口に接続している流路内での圧力であるライン圧Poを、目標のライン圧に調圧する働きをする。即ち、図3に示しているように、プライマリレギュレータバルブ52は、液圧ポンプ52の吐出口に接続している流路から作動液の入力を受ける。プライマリレギュレータ52に付随するパイロット管路は、プライマリレギュレータ52の上流の圧力をフィードバック室に導いている。プライマリレギュレータ52は、ライン圧Poが目標よりも低いときにはドレンポートを閉じてライン圧Poが低下しないようにする一方、ライン圧Poが目標よりも高いときにはドレンポートを開いて余剰圧力を排出する。
【0028】
そして、プライマリレギュレータ52から出力されるこの余剰の作動液をロックアップクラッチ73の作動に利用することで、省エネルギを図っている。セカンダリレギュレータバルブ53は、ロックアップクラッチ73に向けて供給される作動液の圧力であるセカンダリレギュレータ圧Ptを、目標の供給圧に調圧する働きをする。セカンダリレギュレータ53は、プライマリレギュレータ52のドレンポートに接続している流路から作動液の入力を受ける。セカンダリレギュレータ53に付随するパイロット管路は、セカンダリレギュレータ53の上流の圧力をフィードバック室に導いている。セカンダリレギュレータ53は、セカンダリレギュレータ圧Ptが目標よりも低いときにはドレンポートを閉じてセカンダリレギュレータ圧Ptが低下しないようにする一方、セカンダリレギュレータ圧Ptが目標よりも高いときにはドレンポートを開いて余剰圧力を排出する。
【0029】
ロックアップコントロールバルブ54の信号ポートに供給される作動液も、液圧ポンプ51から吐出される。そして、その作動液は、一または複数のモジュレータバルブ55、56に入力されて調圧された後、ロックアップソレノイドバルブ57に入力される。ロックアップソレノイドバルブ57は、例えばデューティソレノイドバルブであり、制御信号l、より具体的には指示電流のDUTY比を増減させることで、その開度を増減させることができる。ひいては、ロックアップコントロールバルブ54の信号ポートに入力される液圧力Psを制御できる。結局、制御信号lによって、ロックアップクラッチ73を駆動する差圧(Pa−Pr)を制御することが可能である。
【0030】
前後進切換装置8は、そのサンギア81がタービンランナ72と連絡し、リングギア82が駆動軸94と連絡している。プラネタリギア831を支持するプラネタリキャリア83と変速機ケースとの間には、断接切換可能な液圧クラッチたるフォワードブレーキ84を介設している。また、プラネタリキャリア83とサンギア81(または、トルクコンバータ7の出力側)との間にも、断接切換可能な液圧クラッチたるリバースクラッチ85を介設している。
【0031】
走行レンジのうちのDレンジでは、フォワードブレーキ84を締結し、リバースクラッチ85を切断する。これにより、トルクコンバータ7の出力軸の回転が逆転されかつ減速されて駆動軸94に伝達され、前進走行となる。翻って、Rレンジでは、リバースクラッチ85を締結し、フォワードブレーキ84を切断する。これにより、サンギア81とプラネタリキャリア83とが一体的に回転し、トルクコンバータ7の出力軸と駆動軸94とが直結して後進走行となる。フォワードブレーキ84またはリバースクラッチ85断接切換駆動するための作動液圧を制御するソレノイドバルブ(図示せず)は、制御信号mを受けてその開度を変化させる流量制御弁である。
【0032】
非走行レンジであるNレンジ、Pレンジでは、フォワードブレーキ84及びリバースクラッチ85をともに切断する。
【0033】
CVT9は、駆動プーリ91及び従動プーリ92と、両プーリ91、92に巻き掛けられたベルト93とを要素とする。駆動プーリ91は、駆動軸94に固定した固定シーブ911と、駆動軸91上にローラスプラインを介して軸方向に変位可能に支持させた可動シーブ912と、可動シーブ912の後背に配設された液圧サーボ913とを有しており、液圧サーボ913を操作し可動シーブ912を変位させることを通じて減速比を無段階に変更できる。並びに、従動プーリ92は、従動軸95に固設した固定シーブ921と、従動軸95上にローラスプラインを介して軸方向に変位可能に支持させた可動シーブ922と、可動シーブ922の後背に配設された液圧サーボ923とを有しており、液圧サーボ923を操作し可動シーブ922を変位させることを通じてトルク伝達に必要なベルト推力を与える。
【0034】
走行レンジを操作するべくフォワードブレーキ84またはリバースクラッチ85に供給される作動液や、CVT9における減速比を操作するべく液圧サーボ913、923に供給される作動液もまた、液圧ポンプ51から吐出される。その作動液は、一または複数のモジュレータバルブ58に入力されて調圧された後、前後進切換装置8やCVT9に提供される。
【0035】
ライン圧Po及びCVT9への供給液圧力Pxは、ソレノイドバルブ59の開度操作を通じて調節することが可能である。
【0036】
液圧ポンプ51は、内燃機関のクランクシャフトからトルクの伝達を受けて稼働する。この作動液は、トルクコンバータ7に用いられる流体と共通である。
【0037】
本実施形態の制御装置たるECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0038】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるクランク角信号(N信号)b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、運転者が指令する要求負荷、要求出力)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、ブレーキペダルの踏込量を検出するセンサから出力されるブレーキ踏量信号d、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、トルクコンバータ7の作動液(CVT9の作動液でもある)の温度を検出する作動液温センサから出力される作動液温信号f、トルクコンバータ7のタービン72の回転数を検出する回転センサから出力されるタービン回転数信号g、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号(G信号)h、可動シーブ922(の後背の液圧サーボ923)に供給される作動液の圧力Pxを検出する圧力センサから出力される液圧信号o等が入力される。
【0039】
出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、ロックアップクラッチ73の断接切換用のロックアップソレノイドバルブ57に対して開度制御信号l、フォワードブレーキ84またはリバースクラッチ85の断接切換用のソレノイドバルブに対して開度制御信号m、CVT9に対して減速比制御信号n、ソレノイドバルブ59に対して開度制御信号p等を出力する。
【0040】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量等に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、トルクコンバータ7のロックアップを行うか否か、自動変速機8、9の減速比といった各種運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能である。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、l、m、n、o、pを出力インタフェースを介して印加する。
【0041】
CVT9を搭載した車両においては、車速が所定値(例えば、10km/h)以上である場合、ほぼ常時トルクコンバータ7をロックアップする。車速が所定値以下となれば、トルクコンバータ7のロックアップを解除する。
【0042】
しかして、本実施形態のECU0は、トルクコンバータ7に向かって流れる作動液の流量を調節するためのソレノイドバルブ57に与える、当該ソレノイドバルブ57の開度を増減させる制御入力lを補正するパラメータの学習を実施する。
【0043】
以降、締結しているロックアップクラッチ73を開放するロックアップ解除の際の制御、及びそのときの補正パラメータの学習に関して詳述する。
【0044】
図5に、ロックアップクラッチ73を締結状態から開放状態へと切り換える制御における、締結液圧Paと解放液圧Prとの差圧(Pa−Pr)の目標値の推移の一例を示す。図5に示しているように、この目標値は時間の関数となっており、完全に締結しているロックアップクラッチ73が完全に開放されるまでに要する所要時間が適正なものとなるように定められる。
【0045】
図4に、ソレノイドバルブ57に与える制御信号lのDUTY比と差圧(Pa−Pr)との関係、いわば入出力特性を示す。この入出力特性は、ECU0が、差圧(Pa−Pr)を目標値に制御する目的で、制御信号lのDUTY比を決定するために参照するものである。図4中、実線は基本特性を表し、破線及び鎖線はそれぞれ基本特性に学習した補正パラメータを加味した後の特性を表している。ロックアップクラッチ73やソレノイドバルブ57その他液圧回路の構成要素には個体差(ばらつき)が存在している上、環境条件等も常に一定ではない。故に、基本特性に則って制御信号lのDUTY比を決定しても、差圧(Pa−Pr)を確実に目標値に制御できるとは限らない。基本特性に加味する補正パラメータの学習を行うのは、そのためである。
【0046】
図4に示している例では、補正パラメータにより、入出力特性を図4中右方(若しくは、下方)または左方(若しくは、上方)に平行移動させるようにしている。ここでは、入出力特性を基本特性から右方にスライドさせることを正の補正、左方にスライドさせることを負の補正と定義する。つまり、正の補正パラメータは、破線にて表しているように入出力特性を基本特性から右方にスライドさせる。負の補正パラメータは、鎖線にて表しているように入出力特性を基本特性から左方にスライドさせる。その上で、補正パラメータの絶対値が、基本特性からのスライド移動量(入出力特性の線の切片)となる。
【0047】
図6及び図7に、ECU0がプログラムに従い実行する処理の手順例を示す。締結しているロックアップクラッチ73を解除するための所定条件(車速が所定値以下となった等)が成立したとき(ステップS1)、ECU0は、ロックアップ解除制御(ステップS2)を開始する。ロックアップ解除制御ステップS2では、差圧(Pa−Pr)が図5に示したような目標に沿って推移するよう、図4に示した入出力特性に則ってソレノイドバルブ57に入力する制御信号lのDUTY比を随時調整してゆく。なお、入出力特性を規定するデータである、上述の基本特性及び学習した補正パラメータは、ECU0のメモリに記憶保持されている。
【0048】
ロックアップ解除制御ステップS2は、ロックアップクラッチ73の開放動作が完了するまで(ステップS4)反復する。ロックアップクラッチ73の開放動作が完了したことは、内燃機関のクランクシャフトの回転数とトルクコンバータ7のタービン72の回転数との差が所定値以上に拡大したことを以て判断できる。
【0049】
また、ECU0は、ロックアップクラッチ73の締結状態と開放状態との切り換えに要した時間、即ち締結していたロックアップクラッチ73の開放を開始してからクランクシャフトの回転数とタービン72の回転数との差が所定値以上となるまでの所要時間を計数する(ステップS3)。
【0050】
ロックアップクラッチ73が完全に開放された後、ECU0は、その開放動作に要した時間を基に、補正パラメータを学習、更新する。但し、下記の条件の何れか少なくとも一つが成立している場合には、補正パラメータを誤学習する蓋然性が高いため、学習を禁止する(ステップS11)。
【0051】
まず、Qp<Ql+Qs+Qsol+αが成立したときには(ステップS5)、学習を行わない。
【0052】
ここで、Qpは、液圧ポンプ51の吐出量である。Qpは、エンジン回転数に正比例する。Qlは、液圧回路においてトルクコンバータ7の開放側油室76または締結側油室75に供給されることなく漏出する作動液の漏れ量である。Qlは、作動液の温度及び目標ライン圧の関数である。Qlは、作動液温が高いほど大きくなり、また目標ライン圧が高いほど大きくなる。作動液温が高いと、作動液の粘性が低下して漏れ量Qlが顕著に増大するので、学習を禁止するべきである。Qsは、CVT9の変速比の変更に費やされる作動液の量である。Qsは、可動シーブ912、922の変位量(位置)の時間微分に比例する。車両の急減速時等には、CVT9において費やされる作動液量Qsが顕著に増大するので、やはり学習を禁止するべきである。Qsolは、ロックアップソレノイドバルブ57において消費される作動液の量である。Qsolは、制御信号lのDUTY比が50%程度となるときに最も大きくなり、そこからDUTY比が大きくなるほど、または小さくなるほど、小さくなる傾向にある。αは、適合等により決定することができるが、α=0としてもよい。
【0053】
要するに、液圧ポンプ51の吐出量Qpが絶対的に足りない状況では、学習を行わない。
【0054】
さらに、レギュレータバルブ52、53により調圧される、ロックアップクラッチ73に供給されるべき作動液の圧力Ptが目標からある程度以上乖離するような所定の事象を感知したときにも(ステップS6)、学習を行わない。
【0055】
本実施形態では、CVT9の可動シーブ922に供給される作動液の圧力Px、つまりCVT9においてベルト93を挟圧するプーリ92の実挟圧力Pxが目標挟圧力よりも低く、その目標挟圧力から実挟圧力を減算した値が所定値を超えていることを以て、所定の事象としている。
【0056】
図3に示している液圧回路において、各モジュレータバルブ55、56、58に付随するパイロット管路はそれぞれ、当該モジュレータバルブ55、56、58の下流の圧力をフィードバック室に導いている。これは、各モジュレータバルブ55、56、58が、その下流側の圧力を制御するためのものであるからである。ポンプ51の吐出能力が低下して上流側の圧力が不足した際には、モジュレータバルブ55、56、58が拡開し、その下流側の圧力が上流側の圧力に近づく。換言すれば、モジュレータバルブ55、56、58の下流側圧力が急低下することはない。
【0057】
これに対し、レギュレータバルブ52、53に着目すると、ポンプ51の吐出圧力が低下して上流側の圧力Poが不足するとき、プライマリレギュレータバルブ52は全閉またはこれに近い開度となり、プライマリレギュレータバルブ52のドレンポートからの作動液の供給が絶たれる。従って、セカンダリレギュレータバルブ53の開度を如何に絞ったとしても、セカンダリレギュレータ圧Ptは急激な低下を免れない。レギュレータバルブ52に入力されるライン圧Poが不足している状況では、目標のセカンダリレギュレータ圧Ptを確保できず、ロックアップクラッチ73を作動させる液圧力(Pa−Pr)も不足してしまう。
【0058】
ライン圧Poを一段階減圧したモジュレータ圧Pxとその目標との差が所定値以上乖離している場合には、ライン圧Poが不足しており、源を同じくしているセカンダリレギュレータ圧Ptの急低下が生じているものと推測される。ECU0は、モジュレータ圧Pxを常時センシングしており、(目標モジュレータ圧−実モジュレータ圧Px)>所定値であるときに(ステップS6)、学習を禁止する。
【0059】
上記の条件が何れも成立していない場合、補正パラメータを誤学習する蓋然性が低いことから、学習による補正パラメータの更新を試みる。ステップS4にて計測した、ロックアップクラッチ73の締結状態と開放状態との切り換えに要した時間が、その目標時間に近いか等しい(実測所要時間と目標所要時間との差の絶対値が所定値以下)ならば(ステップS7)、補正パラメータを更新する必要はない。
【0060】
これに対し、ロックアップクラッチ73の切り換えに要した時間が目標時間よりも長いならば(ステップS8)、ソレノイドバルブ57に与える制御信号lのDUTY比の低下、即ちコントロールバルブ54の信号ポートに入力する作動液圧Psの低下が遅れているということであるので、その低下を速める方向に補正パラメータを更新する(ステップS9)。図4に示している例によれば、補正パラメータを負の方向に減少させ、入出力特性を図4中左方向に変位させる。
【0061】
逆に、ロックアップクラッチ73の切り換えに要した時間が目標時間よりも短いならば(ステップS8)、ソレノイドバルブ57に与える制御信号lのDUTY比の低下、即ちコントロールバルブ54の信号ポートに入力する作動液圧Psの低下が進んでいるということであるので、その低下を遅らせる方向に補正パラメータを更新する(ステップS10)。図4に示している例によれば、補正パラメータを正の方向に増加させ、入出力特性を図4中右方向に変位させる。
【0062】
以上、締結しているロックアップクラッチ73を開放するロックアップ解除制御の際の補正パラメータの学習に関して述べたが、開放しているロックアップクラッチ73を締結するロックアップ制御の際の補正パラメータの学習についても、同様とすることができる。ロックアップクラッチ73の締結状態と開放状態との切り換えに要した時間は、開放しているロックアップクラッチ73の開放を開始してからクランクシャフトの回転数とタービン72の回転数との差が所定値以下となるまでの所要時間を計数することで知得できる。そして、その所要時間と目標時間との差に基づいて補正パラメータを更新するとともに、上記のステップS5及びS6の条件の何れかが成立している場合には、補正パラメータの学習を禁止するのである。
【0063】
本実施形態では、内燃機関のクランクシャフトから回転駆動力の伝達を受けて稼働する液圧ポンプ51が吐出する作動液をプライマリレギュレータバルブ52及びセカンダリレギュレータバルブ53に順次入力し、これらレギュレータバルブ52、53により調圧した作動液をトルクコンバータ7に供給してロックアップクラッチ73の締結/開放の切り換えを行うシステムを制御するものであって、トルクコンバータ7に向かって流れる作動液の流量を調節するためのソレノイドバルブ57に与える、当該ソレノイドバルブ57の開度を増減させる制御入力lを補正するパラメータを学習するとともに、前記レギュレータバルブ52、53により調圧される作動液の圧力Ptが目標からある程度以上乖離するような所定の事象((目標挟圧力−実挟圧力Px)>所定値)を感知した場合には前記学習を禁止することを特徴とする制御装置0を構成した。
【0064】
本実施形態によれば、ロックアップクラッチ73に供給されるべき作動液の圧力Ptが目標の圧力からずれてしまっている等の状況下における、補正パラメータの誤学習を適切に予防できる。
【0065】
特に、内燃機関が二気筒エンジンであるとその出力トルクの変動が大きい上、CVT9は有段自動変速機に比べてより多く作動液圧を必要とすることから、液圧ポンプ51の吐出性能が不足してセカンダリレギュレータ圧Ptが目標から乖離しやすい。本実施形態の制御装置0は、そのようなシステムに好適なものである。
【0066】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態における補正パラメータは、図4に示した入出力特性の基本特性に対するスライド移動量であったが、これ以外に、補正パラメータを、入出力特性の線の傾きを増大または減少させるものとすることも考えられる。
【0067】
上記実施形態における補正パラメータは、図4に示した入出力特性を変化させるものであったが、これに替えて、またはこれとともに、ロックアップクラッチ73の締結状態と開放状態との切り換えの最中における差圧(Pa−Pr)の目標値を変化させるようにしてもよい。その例を、図8に示す。図8は、図5と同じく、ロックアップクラッチ73を締結状態から開放状態へと切り換える制御における、差圧(Pa−Pr)の目標値の推移である。図8中、実線は基本目標を表し、破線及び鎖線はそれぞれ基本目標に学習した補正パラメータを加味した後の目標を表している。
【0068】
図8に示している例では、補正パラメータにより、ロックアップクラッチ73の作動中における差圧(Pa−Pr)の目標値の推移を図8中上方または下方に平行移動させるようにしている。また、目標値の推移を基本目標から上方にスライドさせることを正の補正、下方にスライドさせることを負の補正と定義する。つまり、正の補正パラメータは、破線にて表しているように目標値の推移を基本目標から上方にスライドさせる。負の補正パラメータは、鎖線にて表しているように目標値の推移を基本目標から下方にスライドさせる。その上で、補正パラメータの絶対値が、基本目標からのスライド移動量となる。
【0069】
また、差圧(Pa−Pr)の目標値ではなく、内燃機関のクランクシャフトの回転数とトルクコンバータ7のタービン72の回転数との差の目標値に補正パラメータによる補正を加味する態様をとることもできる。
【0070】
補正パラメータを更新する学習において、補正パラメータを直近の値からどのくらい増減させるか、換言すれば補正パラメータの更新のゲイン(例えば、ロックアップクラッチ73の締結状態と開放状態との切り換えに要した時間とその目標時間との差分にゲインを乗じたものを、直近の補正パラメータに加算して、学習するべき新たな補正パラメータを算出する)を一定とするか可変とするかは、任意である。可変とする場合には、ゲインを(Qp−Ql−Qs−Qsol+α)の関数とすることが好ましい。即ち、(Qp−Ql−Qs−Qsol+α)が正でかつある値以上であるならばゲインを高くして学習を奨励し、そうでなければゲインを低くまたは0として学習を抑制する。
【0071】
上記実施形態におけるステップS6では、セカンダリレギュレータ圧Ptが目標から乖離するような所定の事象として、モジュレータ圧Pxとその目標との差が所定値以上乖離していることを感知するようにしていた。これ以外の態様として、セカンダリレギュレータバルブ53より上流側における作動液の圧力をセンシングし、その圧力と目標圧力との差が所定値以上乖離していることを所定の事象として感知し、当該事象を感知した場合に前記学習を禁止することとしてもよい。ここに言う「セカンダリレギュレータバルブ53より上流側における圧力」は、プライマリレギュレータバルブ52とセカンダリレギュレータバルブ53との間の領域の作動液圧力をセンシングしたものであってもよいし、プライマリレギュレータバルブ52の上流の作動液圧力Poをセンシングしたものであってもよい。因みに、モジュレータバルブ58が存在せず、ライン圧PoがそのままCVT9の液圧サーボ923に供給されるシステムもあり得る。
【0072】
自動変速機は、ベルト式CVTには限定されない。有段変速機を搭載した車両に、本発明を適用することも可能である。
【0073】
その他、各部の具体的構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、内燃機関及び自動変速機を備える車両の制御に利用できる。
【符号の説明】
【0075】
0…制御装置(ECU)
52…プライマリレギュレータバルブ
53…セカンダリレギュレータバルブ
7…トルクコンバータ
73…ロックアップクラッチ
8、9…自動変速機(前後進切換装置、CVT)
l…制御入力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8