特許第5972106号(P5972106)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972106
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】偏光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
   G02B5/30
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-187401(P2012-187401)
(22)【出願日】2012年8月28日
(65)【公開番号】特開2014-44355(P2014-44355A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2014年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100143650
【弁理士】
【氏名又は名称】山元 美佐
(72)【発明者】
【氏名】後藤 周作
(72)【発明者】
【氏名】池嶋 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中野 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】金子 修
【審査官】 後藤 亮治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−073575(JP,A)
【文献】 特開2011−212550(JP,A)
【文献】 特開2012−022071(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0134459(US,A1)
【文献】 特開2002−071947(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/114532(WO,A1)
【文献】 特開2010−049094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の樹脂基材と該樹脂基材の片側に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体を延伸、染色して、該樹脂基材上に偏光膜を作製する工程と、
該積層体の偏光膜側に光学機能フィルムを積層して光学機能フィルム積層体を作製する工程と、
該光学機能フィルム積層体の幅方向端部を切断する工程と
該切断後に、該樹脂基材を該光学機能フィルム積層体から剥離する工程と、を含み、
該切断する工程において切断された切断片は、該樹脂基材と該偏光膜と該光学機能フィルムとを含む、
偏光板の製造方法。
【請求項2】
前記積層体の延伸が自由端延伸である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記積層体の延伸が水中延伸である、請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な画像表示装置である液晶表示装置には、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光膜が配置されている。偏光膜の製造方法としては、例えば、樹脂基材とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層とを有する積層体を延伸し、次に染色処理を施して、樹脂基材上に偏光膜を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。このような方法によれば、厚みの薄い偏光膜が得られるため、近年の画像表示装置の薄型化に寄与し得るとして注目されている。
【0003】
ところで、上記偏光膜は、通常、他の光学機能フィルム(例えば、保護フィルム)と積層させて、偏光板として用いられる。ここで、上記樹脂基材を偏光膜から剥離する場合があるが、その際、樹脂基材の剥離不良(例えば、破断)が発生しやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−338329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、樹脂基材の剥離性に優れた偏光板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の偏光板の製造方法は、長尺状の樹脂基材と該樹脂基材の片側に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体を延伸、染色して、該樹脂基材上に偏光膜を作製する工程と、該積層体の偏光膜側に光学機能フィルムを積層して光学機能フィルム積層体を作製する工程と、該光学機能フィルム積層体の幅方向端部を切断する工程とを含み、該切断片は、該樹脂基材と該偏光膜と該光学機能フィルムとを含む。
好ましい実施形態においては、上記切断後に、上記樹脂基材を上記光学機能フィルム積層体から剥離する工程を含む。
好ましい実施形態においては、上記積層体の延伸が自由端延伸である。
好ましい実施形態においては、上記積層体の延伸が水中延伸である。
本発明の別の局面によれば、偏光板が提供される。この偏光板は、上記製造方法により得られる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光学機能フィルム積層体の幅方向端部を切断することにより、優れた樹脂基材の剥離性を達成することができる。その結果、高い生産性を維持しながら、外観に優れた偏光板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の好ましい実施形態による積層体の部分断面図である。
図2】本発明の切断工程の一例を示す概略図であり、(a)はその斜視図であり、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0010】
本発明の偏光板の製造方法は、長尺状の樹脂基材とこの樹脂基材の片側に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体を延伸、染色して、樹脂基材上に偏光膜を作製する工程と、積層体の偏光膜側に光学機能フィルムを積層して光学機能フィルム積層体を作製する工程と、光学機能フィルム積層体の幅方向端部を切断する工程とを含む。以下、各々の工程について説明する。
【0011】
A.偏光膜の作製工程
A−1.積層体
図1は、本発明の好ましい実施形態による積層体の部分断面図である。積層体10は、樹脂基材11とポリビニルアルコール系樹脂層12とを有する。積層体10は、長尺状の樹脂基材11にポリビニルアルコール系樹脂層12を形成することにより作製される。ポリビニルアルコール系樹脂層12の形成方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、樹脂基材11上に、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「PVA系樹脂」という)を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層12を形成する。
【0012】
上記樹脂基材の形成材料としては、任意の適切な熱可塑性樹脂が採用され得る。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重体樹脂等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ノルボルネン系樹脂、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。
【0013】
1つの実施形態においては、非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。中でも、非晶性の(結晶化しにくい)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が特に好ましく用いられる。非晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールをさらに含む共重合体が挙げられる。
【0014】
後述する延伸において水中延伸方式を採用する場合、上記樹脂基材は水を吸収し、水が可塑剤的な働きをして可塑化し得る。その結果、延伸応力を大幅に低下させることができ、高倍率に延伸することが可能となり、空中延伸時よりも延伸性に優れ得る。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を作製することができる。1つの実施形態においては、樹脂基材は、好ましくは、その吸水率が0.2%以上であり、さらに好ましくは0.3%以上である。一方、樹脂基材の吸水率は、好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。このような樹脂基材を用いることにより、製造時に寸法安定性が著しく低下して、得られる偏光膜の外観が悪化するなどの不具合を防止することができる。また、水中延伸時に基材が破断したり、樹脂基材からPVA系樹脂層が剥離したりするのを防止することができる。なお、樹脂基材の吸水率は、例えば、構成材料に変性基を導入することにより調整することができる。吸水率は、JIS K 7209に準じて求められる値である。
【0015】
樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは170℃以下である。このような樹脂基材を用いることにより、PVA系樹脂層の結晶化を抑制しながら、積層体の延伸性を十分に確保することができる。さらに、水による樹脂基材の可塑化と、水中延伸を良好に行うことを考慮すると、120℃以下であることがより好ましい。1つの実施形態においては、樹脂基材のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上である。このような樹脂基材を用いることにより、上記PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、樹脂基材が変形(例えば、凹凸やタルミ、シワ等の発生)するなどの不具合を防止して、良好に積層体を作製することができる。また、PVA系樹脂層の延伸を、好適な温度(例えば、60℃程度)にて良好に行うことができる。別の実施形態においては、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、樹脂基材が変形しなければ、60℃より低いガラス転移温度であってもよい。なお、樹脂基材のガラス転移温度は、例えば、構成材料に変性基を導入する、結晶化材料を用いて加熱することにより調整することができる。ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて求められる値である。
【0016】
樹脂基材の延伸前の厚みは、好ましくは20μm〜300μm、より好ましくは50μm〜200μmである。20μm未満であると、PVA系樹脂層の形成が困難になるおそれがある。300μmを超えると、例えば、水中延伸において、樹脂基材が水を吸収するのに長時間を要するとともに、延伸に過大な負荷を要するおそれがある。
【0017】
上記PVA系樹脂層を形成するPVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%〜100モル%であり、好ましくは95.0モル%〜99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%〜99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0018】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択され得る。平均重合度は、通常1000〜10000であり、好ましくは1200〜4500、さらに好ましくは1500〜4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。
【0019】
上記塗布液は、代表的には、上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部〜20重量部である。このような樹脂濃度であれば、樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0020】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。また、添加剤としては、例えば、易接着成分が挙げられる。易接着成分を用いることにより、樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させ得る。その結果、例えば、基材からPVA系樹脂層が剥がれる等の不具合を抑制して、後述の染色、水中延伸を良好に行うことができる。また、このような実施形態においては、後述の切断工程による樹脂基材の剥離性向上の効果が顕著となり得る。
【0021】
上記易接着成分としては、例えば、アセトアセチル変性PVAなどの変性PVAが用いられる。アセトアセチル変性PVAとしては、下記一般式(I)で表わされる繰り返し単位を少なくとも有する重合体が好ましく用いられる。
【0022】
【化1】
【0023】
上記式(I)において、l+m+nに対するnの割合(変性度)は、好ましくは1%〜10%である。
【0024】
アセトアセチル変性PVAのケン度は、好ましくは97モル%以上である。また、アセトアセチル変性PVAの4重量%水溶液のpHは、好ましくは3.5〜5.5である。
【0025】
変性PVAは、上記塗布液に含まれるPVA系樹脂全体の重量の3重量%以上となるように添加されることが好ましく、さらに好ましくは5重量%以上である。一方、当該変性PVAの添加量は、30重量%以下であることが好ましい。
【0026】
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。
【0027】
上記塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
【0028】
PVA系樹脂層の延伸前の厚みは、好ましくは3μm〜40μm、さらに好ましくは3μm〜20μmである。
【0029】
PVA系樹脂層を形成する前に、樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。これらの中でも、易接着層を形成(コーティング処理)することが好ましい。易接着層を形成する材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂などが用いられ、ポリビニルアルコール系樹脂が特に好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂およびその変性物が挙げられる。ポリビニルアルコール樹脂の変性物としては、上記アセトアセチル変性PVAが挙げられる。なお、易接着層の厚みは、0.05〜1μm程度とするのが好ましい。このような処理を行うことにより、樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。その結果、例えば、基材からPVA系樹脂層が剥がれる等の不具合を抑制して、後述の染色、水中延伸を良好に行うことができる。また、このような実施形態においては、後述の切断工程による樹脂基材の剥離性向上の効果が顕著となり得る。
【0030】
A−2.積層体の延伸
積層体の延伸方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、固定端延伸でも、自由端延伸でもよいが、自由端延伸を採用することが好ましい。自由端延伸は、通常、一方向のみに延伸する延伸方法を意味する。積層体をある一方向に延伸すると、当該延伸方向に対して略垂直方向に積層体が収縮し得るが、この収縮を抑制することなく延伸する方法を自由端延伸という。
【0031】
積層体の延伸方向は、適宜、設定され得る。1つの実施形態においては、長尺状の積層体の長手方向に延伸する。この場合、代表的には、周速の異なるロール間に積層体を通して延伸する方法が採用される。別の実施形態においては、長尺状の積層体の幅方向に延伸する。この場合、代表的には、テンター延伸機を用いて延伸する方法が採用される。
【0032】
延伸方式は、特に限定されず、空中延伸方式でも、水中延伸方式でもよいが、水中延伸方式を採用することが好ましい。水中延伸方式によれば、上記樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を作製することができる。なお、水中延伸を良好に行うことが可能な場合、樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性に優れ得、後述の切断工程による樹脂基材の剥離性向上の効果が顕著となり得る。
【0033】
積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、例えば、上記自由端延伸と固定端延伸とを組み合わせてもよいし、上記水中延伸方式と空中延伸方式とを組み合わせてもよい。また、多段階で行う場合、後述の積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、各段階の延伸倍率の積である。
【0034】
積層体の延伸温度は、樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定され得る。空中延伸方式を採用する場合、延伸温度は、好ましくは樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、さらに好ましくは樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、特に好ましくはTg+15℃以上である。一方、積層体の延伸温度は、好ましくは170℃以下である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
【0035】
水中延伸方式を採用する場合、延伸浴の液温は、好ましくは40℃〜85℃、より好ましくは50℃〜85℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水による樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。延伸浴への積層体の浸漬時間は、好ましくは15秒〜5分である。
【0036】
水中延伸方式を採用する場合、積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することが好ましい(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性を有する偏光膜を作製することができる。
【0037】
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜10重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の偏光膜を作製することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
【0038】
後述の染色により、予め、PVA系樹脂層に二色性物質(代表的には、ヨウ素)が吸着されている場合、好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部〜15重量部、より好ましくは0.5重量部〜8重量部である。
【0039】
積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上である。このような高い延伸倍率は、例えば、水中延伸方式(ホウ酸水中延伸)を採用することにより、達成し得る。なお、本明細書において「最大延伸倍率」とは、積層体が破断する直前の延伸倍率をいい、別途、積層体が破断する延伸倍率を確認し、その値よりも0.2低い値をいう。
【0040】
好ましい実施形態においては、上記積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸した後、上記ホウ酸水中延伸および後述の染色を行う。このような空中延伸は、ホウ酸水中延伸に対する予備的または補助的な延伸として位置付けることができるため、以下「空中補助延伸」という。
【0041】
空中補助延伸を組み合わせることで、積層体をより高倍率に延伸することができる場合がある。その結果、より優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光膜を作製することができる。例えば、上記樹脂基材としてポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いた場合、ホウ酸水中延伸のみで延伸するよりも、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とを組み合せる方が、樹脂基材の配向を抑制しながら延伸することができる。当該樹脂基材は、その配向性が向上するにつれて延伸張力が大きくなり、安定的な延伸が困難となったり、破断したりする。そのため、樹脂基材の配向を抑制しながら延伸することで、積層体をより高倍率に延伸することができる。
【0042】
また、空中補助延伸を組み合わせることで、PVA系樹脂の配向性を向上させ、そのことにより、ホウ酸水中延伸後においてもPVA系樹脂の配向性を向上させ得る。具体的には、予め、空中補助延伸によりPVA系樹脂の配向性を向上させておくことで、ホウ酸水中延伸の際にPVA系樹脂がホウ酸と架橋し易くなり、ホウ酸が結節点となった状態で延伸されることで、ホウ酸水中延伸後もPVA系樹脂の配向性が高くなるものと推定される。その結果、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光膜を作製することができる。
【0043】
空中補助延伸における延伸倍率は、好ましくは3.5倍以下である。空中補助延伸の延伸温度は、PVA系樹脂のガラス転移温度以上であることが好ましい。延伸温度は、好ましくは95℃〜150℃である。なお、空中補助延伸と上記ホウ酸水中延伸とを組み合わせた場合の最大延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上、より好ましくは5.5倍以上、さらに好ましくは6.0倍以上である。
【0044】
A−3.染色
上記積層体の染色は、代表的には、PVA系樹脂層に二色性物質(好ましくは、ヨウ素)を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂層に噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、染色液に積層体を浸漬させる方法である。ヨウ素が良好に吸着し得るからである。
【0045】
上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜0.5重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.02重量部〜20重量部、より好ましくは0.1重量部〜10重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するため、好ましくは20℃〜50℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、PVA系樹脂層の透過率を確保するため、好ましくは5秒〜5分である。また、染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、最終的に得られる偏光膜の偏光度もしくは単体透過率が所定の範囲となるように、設定することができる。1つの実施形態においては、得られる偏光膜の偏光度が99.98%以上となるように、浸漬時間を設定する。別の実施形態においては、得られる偏光膜の単体透過率が40%〜44%となるように、浸漬時間を設定する。
【0046】
染色処理は、任意の適切なタイミングで行い得る。上記水中延伸を行う場合、好ましくは、水中延伸の前に行う。
【0047】
A−4.その他の処理
上記積層体は、延伸、染色以外に、そのPVA系樹脂層を偏光膜とするための処理が、適宜施され得る。偏光膜とするための処理としては、例えば、不溶化処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等が挙げられる。なお、これらの処理の回数、順序等は、特に限定されない。
【0048】
上記不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。不溶化処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜4重量部である。不溶化浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜50℃である。好ましくは、不溶化処理は、上記水中延伸や上記染色処理の前に行う。
【0049】
上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜5重量部である。また、上記染色処理後に架橋処理を行う場合、さらに、ヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜5重量部である。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。架橋浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜60℃である。好ましくは、架橋処理は上記水中延伸の前に行う。好ましい実施形態においては、染色処理、架橋処理および水中延伸をこの順で行う。
【0050】
上記洗浄処理は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。上記乾燥処理における乾燥温度は、好ましくは30℃〜100℃である。
【0051】
A−5.偏光膜
上記偏光膜は、実質的には、二色性物質が吸着配向されたPVA系樹脂膜である。偏光膜の厚みは、代表的には25μm以下であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは7μm以下、特に好ましくは5μm以下である。一方、偏光膜の厚みは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。偏光膜は、好ましくは、波長380nm〜780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率は、好ましくは40.0%以上、より好ましくは41.0%以上、さらに好ましくは42.0%以上、特に好ましくは43.0%以上である。偏光膜の偏光度は、好ましくは99.8%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.95%以上である。
【0052】
B.光学機能フィルム積層体の作製工程
上記積層体(PVA系樹脂層)に上記各処理を施した後、積層体の偏光膜(PVA系樹脂層)側に光学機能フィルムを積層する。具体的には、上記積層体に長尺状の光学機能フィルムを、互いの長手方向を揃えるようにして積層する。光学機能フィルムの幅は、例えば、積層体の偏光膜の幅に応じて設定され、偏光膜の幅よりも大きくてもよいし、小さくてもよいし、略同一であってもよい。好ましくは、偏光膜の幅よりも大きく設定される。この場合、偏光膜の両幅方向外方に光学機能フィルムが延出するように積層することが好ましい。積層体(偏光膜)、光学機能フィルムの幅は、任意の適切な値に設定され得る。代表的には500mm以上2000mm以下であり、好ましくは1000mm以上2000mm以下である。
【0053】
光学機能フィルムは、例えば、偏光膜の保護フィルム、位相差フィルム等として機能し得る。
【0054】
上記光学機能フィルムとしては、任意の適切な樹脂フィルムが採用され得る。光学機能フィルムの形成材料としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル系樹脂」とは、アクリル系樹脂および/またはメタクリル系樹脂をいう。
【0055】
光学機能フィルムの厚みは、代表的には10μm〜100μmである。なお、光学機能フィルムには、各種表面処理が施されていてもよい。
【0056】
光学機能フィルムの積層には、任意の適切な接着剤または粘着剤が用いられる。好ましい実施形態においては、偏光膜表面に接着剤を塗布して、光学機能フィルムを貼り合わせる。接着剤としては、水系接着剤であってもよいし溶剤系接着剤であってもよい。好ましくは、水系接着剤が用いられる。
【0057】
上記水系接着剤としては、任意の適切な水系接着剤が採用され得る。好ましくは、PVA系樹脂を含む水系接着剤が用いられる。水系接着剤に含まれるPVA系樹脂の平均重合度は、接着性の点から、好ましくは100〜5000程度、さらに好ましくは1000〜4000である。平均ケン化度は、接着性の点から、好ましくは85モル%〜100モル%程度、さらに好ましくは90モル%〜100モル%である。
【0058】
水系接着剤に含まれるPVA系樹脂は、好ましくは、アセトアセチル基を含有する。PVA系樹脂層と被覆フィルムとの密着性に優れ、耐久性に優れ得るからである。アセトアセチル基含有PVA系樹脂は、例えば、PVA系樹脂とジケテンとを任意の方法で反応させることにより得られる。アセトアセチル基含有PVA系樹脂のアセトアセチル基変性度は、代表的には0.1モル%以上であり、好ましくは0.1モル%〜40モル%程度、さらに好ましくは1モル%〜20モル%、特に好ましくは2モル%〜7モル%である。なお、アセトアセチル基変性度はNMRにより測定した値である。
【0059】
水系接着剤の樹脂濃度は、好ましくは0.1重量%〜15重量%、さらに好ましくは0.5重量%〜10重量%である。
【0060】
接着剤の塗布時の厚みは、任意の適切な値に設定され得る。例えば、加熱(乾燥)後に、所望の厚みを有する接着剤層が得られるように設定する。接着剤層の厚みは、好ましくは10nm〜300nm、さらに好ましくは10nm〜200nm、特に好ましくは20nm〜150nmである。
【0061】
光学機能フィルムを積層後、加熱することが好ましい。加熱温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上、さらに好ましくは60℃以上、特に好ましくは80℃以上である。なお、光学機能フィルムを積層した後に行う加熱は、上記積層体への乾燥処理と兼ねてもよい。また、後述の切断工程後に行ってもよいが、好ましくは、切断工程前に行う。より高い精度で切断することができるからである。
【0062】
C.切断工程
上記光学機能フィルム積層体は、その幅方向端部が切断(スリット)される。切断された切断片は、上記樹脂基材と偏光膜と光学機能フィルムとを含む。具体的には、偏光膜または光学機能フィルムの幅方向端部を基準に切断する。切断幅は、偏光膜または光学機能フィルムの端から3mm以上であることが好ましく、より好ましくは5mm以上である。このような切断幅であれば、例えば、後述のカールによる接合不良部を十分に切除することができる。その結果、極めて優れた樹脂基材の剥離性を達成することができる。一方、切断幅は、例えば、歩留りの観点から、偏光膜または光学機能フィルムの端から200mm以下であることが好ましい。
【0063】
光学機能フィルム積層体の切断(スリット加工)方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、長尺状の光学機能フィルム積層体を、その長手方向に巻回しながら切断してもよいし、巻回せずに切断してもよい。切断手段としては、例えば、丸刃や皿刃等の切断刃、レーザーが挙げられる。なお、上記切断片は、巻き取りまたは吸引により除去されることが好ましい。
【0064】
図2は、切断工程の一例を示す概略図であり、(a)は斜視図であり、(b)は断面図である。図2に示すように、光学機能フィルム積層体100は、長手方向20に延伸された積層体10と光学機能フィルム30とを有し、光学機能フィルム30の幅方向両端部は、それぞれ、偏光膜12の幅方向外方に延出する延出部とされている。光学機能フィルム積層体100は、積層体10の長手方向(延伸方向)20と略平行に幅方向両端部101,101が切断される。図示例では、光学機能フィルム30の幅は、偏光膜12の幅よりも大きく設定されているので、偏光膜12の端12aを基準に上記切断幅を設定することが好ましい。なお、図示例とは異なり、光学機能フィルムの幅が偏光膜の幅よりも小さく設定されている場合は、光学機能フィルムの端を基準に上記切断幅を設定することが好ましい。
【0065】
本発明の偏光板は、上記光学機能フィルム積層体の幅方向端部を切断(スリット)することにより得られる。
【0066】
D.剥離工程
上記切断後、光学機能フィルム積層体から樹脂基材を剥離する。本発明によれば、上述のような切断を行うことにより、優れた樹脂基材の剥離性を達成することができる。その結果、高い生産性を維持しながら、外観に優れた偏光板を製造することができる。具体的には、積層体の幅方向端部と光学機能フィルムとの接合部分では、接合不良(例えば、シワ)が発生しやすく、この接合不良部が起点となって、樹脂基材の剥離不良(例えば、破断)が発生する。接合不良の原因の1つとして、積層体のカールが考えられる。カールは、積層体の幅方向端部で発生しやすい。カールの発生原因の1つとして、例えば、延伸による収縮が考えられる。積層体を延伸する場合、PVA系樹脂層と樹脂基材とでは収縮力に差があり(通常、PVA系樹脂層の方が収縮力は大きい)、この収縮力の差によりカールが発生する。収縮方向は、通常、延伸方向と略垂直方向であり、積層体を長手方向に延伸(縦延伸)する場合、延伸方向と略平行に、樹脂基材側に凸のカールが発生し得る。一方、積層体を幅方向に延伸(横延伸)する場合、具体的には、テンター延伸機のクリップで積層体の端部を把持して延伸する場合には、延伸後、クリップ把持部近傍において、幅方向外方への張力付加によるカールが発生し得る。このように、縦延伸においても、横延伸においても、積層体の幅方向端部においてカールが発生する傾向にある。
【実施例】
【0067】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法は以下の通りである。
1.厚み
デジタルマイクロメーター(アンリツ社製、製品名「KC−351C」)を用いて測定した。
2.ガラス転移温度(Tg)
JIS K 7121に準じて測定した。
【0068】
[実施例1]
樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.60%、Tg80℃の非晶質ポリエチレンテレフタレート(A−PET)フィルム(三菱化学社製、商品名「ノバクリア」、厚み:100μm)を用いた。
樹脂基材の片面に、コロナ処理を施し、このコロナ処理面に、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)90重量部およびアセトアセチル変性PVA(重合度1200、アセトアセチル変性度4.6%、ケン化度99.0モル%以上、日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ200」)10重量部を含む水溶液を60℃で塗布および乾燥して、厚み10μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
【0069】
得られた積層体を、120℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に1.8倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸)。
次いで、積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液)に60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に一軸延伸を行った(水中延伸)。ここで、積層体が破断する直前まで延伸した(最大延伸倍率は6.0倍)。
その後、積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
【0070】
続いて、積層体のPVA系樹脂層表面に、PVA系樹脂水溶液(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー(登録商標)Z−200」、樹脂濃度:3重量%)を塗布し、長尺状でPVA系樹脂層よりも幅広のトリアセチルセルロースフィルム(コニカミノルタ社製、商品名「KC4UY」、厚み40μm)をその両端部がPVA系樹脂層の両幅方向外方に延出するように貼り合わせ、60℃に維持したオーブンで5分間加熱し、厚み5μmの偏光膜を有する光学機能フィルム積層体(偏光板)を作製した。
その後、光学機能フィルム積層体の幅方向両端部を偏光膜(PVA系樹脂層)の端辺から10mmずつスリットした。こうして偏光板を得た。
【0071】
[実施例2]
樹脂基材として、長尺状で、Tg130℃のノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「ARTON」、厚み150μm)を用いた。
樹脂基材の片面に、重合度2600、ケン化度99.0モル%のポリビニルアルコール(PVA)樹脂(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセノール(登録商標)NH−26」)の水溶液を80℃で塗布および乾燥して、厚み7μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
【0072】
得られた積層体を、140℃の加熱下で、テンター装置を用いて、自由端一軸延伸により、幅方向に、延伸倍率4.5倍まで延伸した。延伸処理後のPVA系樹脂層の厚みは3μmであった(空中延伸)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素を0.5重量部配合し、ヨウ化カリウムを3.5重量部配合して得られたヨウ素水溶液)に60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温60℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを5重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に60秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた後、60℃の温風で乾燥させた(洗浄・乾燥処理)。
【0073】
続いて、積層体のPVA系樹脂層表面に、PVA系樹脂水溶液(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー(登録商標)Z−200」、樹脂濃度:3重量%)を塗布し、長尺状でPVA系樹脂層よりも幅広のノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「ARTON」、厚み35μm)をその両端部がPVA系樹脂層の両幅方向外方に延出するように貼り合わせ、80℃に維持したオーブンで5分間加熱し、厚み3μmの偏光膜を有する光学機能フィルム積層体(偏光板)を作製した。
その後、光学機能フィルム積層体の幅方向両端部を偏光膜(PVA系樹脂層)の端辺から10mmずつスリットした。こうして偏光板を得た。
【0074】
[比較例1]
幅方向両端部をスリットしなかったこと以外は、実施例1と同様にして偏光板を作製した。
【0075】
[比較例2]
幅方向両端部をスリットしなかったこと以外は、実施例2と同様にして偏光板を作製した。
【0076】
各実施例および比較例で得られた偏光板から樹脂基材を長手方向に剥離し、その剥離性を評価した。評価結果を表1に示す。なお、剥離性の評価基準は以下のとおりである。
(剥離性)
○:破断することなく連続剥離することができた
×:剥離不良(破断など)が生じた
【0077】
【表1】
【0078】
各実施例では樹脂基材の剥離性が優れているのに対し、各比較例では、剥離不良が生じた。この剥離不良は、幅方向端部における貼り合わせ不良に起因していた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の偏光板は、液晶テレビ、液晶ディスプレイ、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、カーナビゲーション、コピー機、プリンター、ファックス、時計、電子レンジ等の液晶パネル、有機ELデバイスの反射防止膜として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0080】
10 積層体
11 樹脂基材
12 ポリビニルアルコール系樹脂層(偏光膜)
30 光学機能フィルム
100 光学機能フィルム積層体
図1
図2