(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年においては、超高層マンションなどの建設が盛んになってきている。超高層マンションは、狭い面積に多くの居住者を有する構造となっており、駐車場の確保が問題となることがある。そこで、近年の超高層マンションでは、建屋躯体の高さ方向に沿った立体駐車場を建屋躯体の内側に形成することで、駐車場を確保するようにしている。また、このような立体駐車場を施工する際には、上記特許文献1に開示された立体駐車場の施工法を用いることができる。
【0006】
しかし、上記特許文献1に開示された立体駐車場の施工法を用いて超高層マンションなどの構造体に立体駐車場を施工する際、構造体の躯体および立体駐車場の一方を先に施工し、その施工が完了した後に他方を施工することとなる。この場合、マンション躯体および立体駐車場を施工する分の工期がかかってしまい、工期の長期化を招くことがあるという問題があった。
【0007】
また、マンション躯体の施工にあたっては、せり上げ式等の足場を設置しているが、この足場自体が落下する可能性があり、その分安全性が低くなる可能性があった。さらに、安全性を確保するために、施工の進行に伴って足場や落下防止用の水平ネットを設置する必要がある。ところが、マンション躯体の施工に利用する資材を搬入する際には、これらの足場や水平ネットを一旦取り外さなければならず、その分作業性および安全性が低下する可能性があるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、構造体の高さ方向に沿って立体駐車場を施工する際に、その工期の長期化を防止するとともに、作業性および安全性の両立を図ることができる立体駐車場の施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決した本発明に係る立体駐車場の施工方法は、建屋躯体の高さ方向に沿って構築される立体駐車場の施工方法であって、立体駐車場における最上階部分を構築し、最上階部分に、建屋躯体を施工する建屋躯体施工用設備を搭載し、最上階部分をジャッキアップし、ジャッキアップした最上階部分の下方に立体駐車場における下層部分を構築するとともに、最上階部分に搭載した建屋躯体施工用設備によって、建屋躯体を構築し、続いて、構築された下層部分をジャッキアップし、ジャッキアップした下層部分の下方に下層部分を構築するとともに、建屋躯体施工用設備によって、建屋躯体を構築し、以後、下層部分の構築を繰り返すことにより、建屋躯体とともに立体駐車場を構築することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る立体駐車場の施工方法においては、立体駐車場における最上階部分を構築し、最上階部分に、建屋躯体を施工する建屋躯体施工用設備を搭載し、ジャッキアップを繰り返して、建屋躯体および立体駐車場を構築している。このため、立体駐車場の施工と建屋躯体の施工とを並行して行うことができる。したがって、構造体の高さ方向に沿って立体駐車場を施工する際に、その工期の長期化を防止することができる。また、構築中の立体駐車場を足場として利用することができる。立体駐車場を足場として利用することにより、建屋躯体の施工が容易となる上、水平ネットを立体駐車場に張った状態で建方を行うことができることから、その分安全性を確保することができる。さらに、足場を常に建屋躯体よりも上部に組み立てることができるため、足場の崩落を防止することができ、さらには、足場の設置作業に掛かる手間を軽減することができる。その結果、作業性および安全性の両立を図ることができる。
【0011】
ここで、建屋躯体にジャッキ受ブラケットを固定し、ジャッキ受ブラケットにジャッキアップを行うジャッキ設備を設けることができる。
【0012】
このように、建屋躯体にジャッキ受ブラケットを固定し、ジャッキ受ブラケットにジャッキアップを行うジャッキ設備を設けることにより、建屋躯体に反力をとって立体駐車場のジャッキアップを行うことができる。
【0013】
また、ジャッキ設備がセンターホールジャッキであるようにすることができる。ジャッキ設備は特に限定されないが、たとえばセンターホールジャッキを好適に用いることができる。
【0014】
さらに、ジャッキ設備によってジャッキアップされる被ジャッキアップ体を、ジャッキアップ時に支持するジャッキアップ支持部材が設けられており、被ジャッキアップ体のジャッキアップを複数回行った後、ジャッキアップ支持部材の盛り替えを行い、ジャッキアップ支持部材の盛り替えの際に、立体駐車場を支持する支持構造が設けられていることができる。
【0015】
ジャッキアップ支持部材の盛り替えを行う際には、ジャッキによる立体駐車場の拘束が解放されることから、立体駐車場の転倒等の対策が問題となる。この点、ジャッキアップ支持部材の盛り替えの際に、立体駐車場を支持する支持構造が設けられていることにより、ジャッキアップ支持部材の盛り替えの際の立体駐車場の転倒等を防止することができる。なお、本発明における「被ジャッキアップ体」とは、ジャッキ設備によってジャッキアップされる立体駐車場フレーム全体をいう。
【0016】
そして、建屋躯体が、高層建築物の建屋躯体であるようにできる。建屋躯体が高層建築物、たとえば超高層マンションである場合に、リフトアップが必要となる回数が多くなる。したがって、さらに効率的に工期の長期化を防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る立体駐車場の施工方法によれば、構造体の高さ方向に沿って立体駐車場を施工する際に、その工期の長期化を防止するとともに、作業性および安全性の両立を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各実施形態において、同一の機能を有する部分については同一の符号を付し、重複する説明は省略することがある。
図1は、本発明の実施形態によって施工される立体駐車場が設けられた超高層マンションの全景図である。
【0020】
図1に示すように、構造体である超高層マンションMには、建屋躯体Tの内側の立体駐車場Pが設けられている。立体駐車場Pは、超高層マンションMの高さ方向に沿って構築されている。立体駐車場Pは、
図2に示すように、柱部材1を備えている。また、柱部材1における高さ方向に適宜の間隔をおいて、立体駐車場Pにおける水平方向のフレーム材である横フレーム材2が設けられている。
【0021】
柱部材1は、鉄骨材によって構成されている。柱部材1は、平面視して立体駐車場構築領域の4隅にそれぞれ立設されており、これらの柱部材1の間に横フレーム材2が掛け渡されている。横フレーム材2は、立体駐車場の高さ方向に略等間隔をおいて離間して複数設けられている。高さ方向の横フレーム材2の離間距離は、立体駐車場に駐車される車両の車高の制限高さに基づいて設計されている。
【0022】
また、立体駐車場Pの最上階には、超高層マンションMの建屋躯体Tを施工する建屋躯体施工用設備が搭載されている。建屋躯体Tには、超高層マンションMの居住者が滞在する居住領域を形成するコア壁Wが設けられる。建屋躯体施工用設備として、クレーンCが搭載されている。建屋躯体施工用設備としては、クレーンCのほか、足場や型枠などがある。
【0023】
立体駐車場は、1階層分の駐車スペース部を形成したら、形成した駐車スペース部を1階層分リフトアップし、その下方に1階層分の駐車スペース部を形成する。以後、この作業を繰り返して立体駐車場を施工する。ここで、形成した駐車スペース部をリフトアップする際に、
図2および
図3に示すジャッキ11が用いられる。
【0024】
ジャッキ11は、立体駐車場構築領域の4隅に立設された4本の柱部材1に対してそれぞれ2つ設けられ、合計で8個のジャッキ11が設けられている。ジャッキ11は、いわゆるセンターホールジャッキからなるジャッキ設備であり、その中心部分にPC鋼より線12が貫通している。PC鋼より線12は、高さ方向に延在しており、駐車スペース部の3階層分の長さより長い長さを有している。ただし、PC鋼より線12の長さは、この長さに限定されず、種々の長さとすることができる。
【0025】
また、ジャッキ11は、
図2に示すように、建屋躯体Tのコア壁Wに固定されたジャッキ受ブラケット13にそれぞれ載置されている。建屋躯体Tのコア壁Wにおけるジャッキ受ブラケット13を設ける位置には、シース管14が事前に埋設されている。このシース管14にPC鋼棒15を接続し、PC鋼棒15をジャッキ受ブラケット13に固定する。シース管14によってPC鋼棒15を緊張させることにより、ジャッキ受ブラケット13をコア壁Wに固定する。
【0026】
PC鋼より線12の下端部には、吊ビーム16の一端部が固定されている。吊ビームの両端には、それぞれ吊ブラケット17が取り付けられており、吊ビーム16には、吊ブラケット17を介してPC鋼より線12が接続される。吊ブラケット17の側方には吊ピース18が配置されている。吊ビーム16は、4本設けられており、それぞれの吊ビーム16の両端部にPC鋼より線12が固定されていることとなる。4本の吊ビーム16は、互いに平行に配置されており、そのうちの2本ずつが近接して配置されている。吊ビーム16、吊ブラケット17、および吊ピース18等によって、ジャッキアップ時における横フレーム材2を支持する。これらの吊ビーム16、吊ブラケット17、および吊ピース18等が、本発明のジャッキアップ支持部材となる。また、柱部材1および横フレーム材2を含む立体駐車場フレーム全体が、本発明の被ジャッキアップ体となる。
【0027】
さらに、立体駐車場Pをリフトアップする際に、ジャッキ11が設けられている位置よりもさらに上方である
図1に示す適宜の高さ位置Xにおいて、立体駐車場の傾斜を防止する傾斜防止構造が設けられている。傾斜防止構造として、横フレーム材2の側方に、
図4に示すローラー21が設けられている。ローラー21は、柱部材1におけるコア壁Wと面する2つの位置にそれぞれ設けられている。
【0028】
ローラー21には、複数のローラが設けられており、ローラー21は、高さ方向に沿って走行可能とされている。また、ローラー21と柱部材1との間は、横フレーム材受金物22が介在されている。さらに、横フレーム材受金物22と柱部材1との間には仮設ブレース23が介在されており、横フレーム材受金物22とローラー21との間に横フレーム材受ゴム24が介在されている。
【0029】
また、立体駐車場の施工を行っている最中には、柱部材1および横フレーム材2を補強するためのブレースが設けられる。ブレースとしては、
図5(a)に示す水平ブレース31および
図5(b)に示す垂直ブレース32とがある。水平ブレース31は、横フレーム材2の四隅に設けられたガセットプレート33のうちの対角に配置されたガセットプレート33にそれぞれ固定される2本のブレース部材により構成される。また、垂直ブレース32は、高さ方向に離間する2本の横フレーム材2における右上端および左下端を結んだブレース部材および左上端および右下端を結んだブレース材によって構成されている。
【0030】
次に、本実施形態に係る立体駐車場Pの施工手順について説明する。本実施形態に係る立体駐車場Pは、超高層マンションMにおける建屋躯体Tのコア壁の施工と同時に行われる。以下、建屋躯体Tの施工手順と立体駐車場の施工手順とを合わせて説明する。
図6は、建屋躯体の施工手順の一部を示す工程図、
図7は、立体駐車場の施工手順の一部を示す工程図である。
【0031】
建屋躯体Tの施工を行うにあたり、最初に、超高層マンションMにおける1階の床躯体の施工が完了するときに、1〜数階分の立体駐車場の鉄骨フレームを先行して建方する。この鉄骨フレームの柱が、柱部材1となる。最初の段階では、3階分の鉄骨フレームを建方し、駐車スペース部を構築する。最初に構築される駐車スペース部が立体駐車場における最上階部分となる。また、この下方に設けられる駐車スペース部が下層部分となる。このときに、コア壁の施工を同時に進行するために、構築済の駐車スペース部の最上部にクレーンC等の建屋躯体施工用設備を搭載する。
【0032】
コア壁の施工を行う際、コア壁の3階部分にシース管14を埋め込む。ただし、3階部分以外の位置とすることもできる。そのまま駐車スペース部の施工が3階部分まで進んだら、シース管14にPC鋼棒15を緊張させて、ジャッキ受ブラケット13をコア壁に固定する。このジャッキ受ブラケット13は、同様の手順を経て立体駐車場の四隅における柱部材1とコア壁との間の空間に配置される。
【0033】
続いて、ジャッキ受ブラケット13に対してジャッキ11を載置し、ジャッキ11とジャッキ受ブラケット13とをボルト等によって接合する。それから、センターホールジャッキであるジャッキ11にPC鋼より線12を通し、ジャッキ11の上部と下部とに設けられた図示しないチャックでPC鋼より線12を挟むことにより、ジャッキ11とPC鋼より線12とを連結する。
【0034】
以後、立体駐車場の最上部に設けられたクレーン等の建屋躯体施工用設備によるコア壁の構築およびジャッキ11を用いた立体駐車場のリフトアップが行われる。コア壁の構築を行う際に足場が組まれるとともに水平ネットが張られる。以下、コア壁の構築および立体駐車場のリフトアップの手順について説明する。コア壁の構築にあたっては、
図6(a)に示すように、立体駐車場の最上部に設けられたクレーンC等を用いて、コア部のn階に相当するT(n)部分の施行を行う。
【0035】
次に、T(n)階部分の施行が済むとともに、立体駐車場の1階分の施工が済むと、立体駐車場Pがリフトアップされる。立体駐車場Pのリフトアップとともに、クレーンC等もリフトアップされ、
図6(b)に示すように、T(n)階の1階上のT(n+1)階の施工を行う。
【0036】
立体駐車場のリフトアップは、
図7に示す手順で行われる立体駐車場をリフトアップする際には、柱部材1となる鉄骨に吊ブラケット17をボルト等によって接合し、吊ブラケット17を受ける形で吊ビーム16を接合する。このとき、吊ビーム16および吊ブラケット17は、ボルトによって接合されていることにより、盛り替えが容易となっている。この手順で4本の吊ビーム16を取り付け、柱部材1を抱えるような形態に設置する。それから、ジャッキ11と吊ブラケット17との間にPC鋼より線12を懸架し、ジャッキ11によって吊ビーム16を吊り下げる。
【0037】
それから、
図7(b)に示すように、ジャッキ11によってPC鋼より線12を引き上げることにより、吊ビーム16をリフトアップする。このとき、ジャッキ11は、コア壁Wに固定されたジャッキ受ブラケット13に設けられているため、コア壁Wに反力をとってジャッキアップを行うことができる。吊ビーム16は、最下層に位置する第n横フレーム材P(n)が接続された柱部材1に固定されている。このため、吊ビーム16のリフトアップにより、吊ビーム16に固定されている立体駐車場の柱部材1もリフトアップされる。
【0038】
こうして、吊ビーム16を1階分リフトアップさせると、吊ビーム16の下方に空間が生じる。その後、
図7(c)に示すように、吊ビーム16の下方に形成された空間に、柱部材1となる鉄骨および第n+1横フレーム材P(n+1)を建方する。また、このときに、立体駐車場に用いられる梁、ガイド柱、パレット、カウンタウェイトレール等を建方し、駐車スペース部を形成する。
【0039】
以後、この吊ビーム16のリフトアップ工程を複数回、ここでは3回繰り返す。吊ビーム16のリフトアップを3回繰り返す間に、コア壁は、
図6(a)に示す状態から、
図6(b)に示すように、T(n+1)階部分が形成され
図6(c)に示すように、T(n+2)階部分が形成されるとともに、
図6(d)に示すように、T(n+3)階部分が形成される。
【0040】
このとき、立体駐車場Pが傾いた際に仮受しながら転がる機構として、立体駐車場Pの数フロアごとにローラー21が設けられている。ローラー21が設けられていることにより、立体駐車場Pの傾きなどが防止されている。また、立体駐車場Pのリフトアップを行う間、建入調整やボルト締めを行う。さらには、作業性および安全性を確保するためにパレット間渡り足場や親綱、さらには水平ネット等を設置する。
【0041】
吊ビーム16のリフトアップが3回となると、
図6(d)に示すように、吊ビーム16がジャッキ11の高さに近づき、これ以上はジャッキ11によって吊ビーム16をリフトアップさせることができない状態となる。このときには、ジャッキ11によるPC鋼より線12の挟み込みを解放し、吊ビーム16を下降させる。このとき、柱部材1をジャッキ11によって支持することができなくなるので、柱部材1の下端部を、本発明の支持構造である図示しない柱仮受仕口上に載置し、柱部材1の鉛直荷重を建屋躯体に移行する。
【0042】
その後、下降させた吊ビーム16を最下層に位置する柱部材1の下端部に接合する。以後、同様の工程を繰り返し、立体駐車場Pおよびコア壁の構築を継続する。そして、超高層マンションMの最上階に到達することにより、立体駐車場Pおよびコア壁の構築が完了する。
【0043】
このように、本実施形態に係る超高層マンションにおける立体駐車場の施工方法においては、立体駐車場Pにおける最上階部分を構築し、最上階部分に、建屋躯体を施工するクレーンC等を搭載し、ジャッキ11によってジャッキアップを繰り返して、建屋躯体のコア壁Wおよび立体駐車場Pを構築している。このため、立体駐車場Pの施工とコア壁Wの施工とを並行して行うことができる。したがって、超高層マンションの高さ方向に沿って立体駐車場Pを施工する際に、その工期の長期化を防止することができる。
【0044】
また、コア壁を施工する際に、構築中の立体駐車場を足場として利用することができるので、コア壁の施工が容易となる。さらには、水平ネットを立体駐車場に張った状態で建方を行うことができるので、その分安全性を確保することができる。さらに、足場を常にコア壁よりも上部に組み立てることができるため、足場の崩落を防止することができるとともに、足場の設置作業に掛かる手間を軽減することができる。その結果、作業性および安全性の両立を図ることができる。
【0045】
また、立体駐車場Pをリフトアップする際に、ローラー21などの立体駐車場Pの傾斜を防止する傾斜防止構造が設けられている。このため、リフトアップ時における立体駐車場Pの傾斜を好適に防止することができる。また、吊ビーム16、吊ブラケット17、吊ピース18等の盛り替え時には、柱部材を柱仮受仕口上に載置している。このため、盛り替え時における立体駐車場の転倒を防止することができる。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態では構造体が超高層マンションとされているが、ホテルや商業施設などの他の高層建築物やその他の構造体とすることもできる。また、上記実施形態では、ジャッキとしてセンターホールジャッキを用いているが、その他のジャッキを用いることもできる。