【実施例1】
【0016】
本実施例では、機構部として圧縮機構部を用いた場合の電動機制御装置1の例を説明する。
【0017】
図1は、本実施例における電動機制御装置の構成図の例である。電動機制御装置1は、大きく分け、交流電力を出力する電力変換回路5と、その電力変換回路5によって駆動される電動機(電動機)6と、電動機6に接続部502を介して機械的あるいは磁気的に接続されている機構部500と、電動機6に流れる電流または電動機6の位置あるいは速度を直接的あるいは間接的に検出し電動機6へ印加する電圧指令値を演算する制御部2、等から構成される。
【0018】
図4は、電力変換回路の構成図の例である。電力変換回路5は、インバータ21、直流電圧源20、ゲートドライバ回路23によって構成される。インバータ21は、スイッチング素子22(例えば、IGBT、MOS−FETなどの半導体スイッチング素子)によって構成される。これらのスイッチング素子22は直列に接続され、U相、V相、W相の上下アームを構成している。各相の上下アームの接続点は、電動機6へ配線されている。スイッチング素子22は、制御部2で生成されるドライブ信号を基にゲートドライバ回路23が出力するパルス状のゲート信号(24a〜24f)に応じてスイッチング動作をする。直流電圧源20をスイッチングして電圧を出力することで、任意の周波数の3相交流電圧を電動機6に印加することができ、これによって電動機を可変速駆動する。
【0019】
なお、制御部2で生成されるドライブ信号と、ゲートドライバ回路23によって生成(増幅)されるゲート信号は、信号の電圧レベル(例えば、5Vと15V)等が異なるため、両者は異なる信号である。しかし、本発明においてはゲートドライバ回路23を理想回路として扱ったとしても、本願の目的や効果には全く影響が無いため、以降に出てくるドライブ信号とゲート信号は、特に断りが無い限り本明細書では同じ意味として扱う。
【0020】
電力変換回路5の直流側にシャント抵抗25を付加した場合、過大な電流が流れた際にスイッチング素子22を保護するための過電流保護回路や、後述するシングルシャント電流検出方式などに利用できる。これにより、安全性向上や部品点数削減といった効果が得られる。
【0021】
電力変換回路5をスイッチング動作させるためのドライブ信号の生成方法について、通電方式と共に説明する。
【0022】
図1に示すPWM信号作成器33は、通電方式切替指令に応じて、120度通電方式あるいは180度通電方式を選択すると共に、入力された電圧指令値に応じたドライブ信号を生成する。なお、電圧指令値の作成については、後述する。
【0023】
120度通電方式は、電力変換回路5の3相の上下アームの内、2相に対してスイッチング動作をさせる。電気角で180度の位相中120度の期間スイッチングをするため、120度通電方式と呼ぶ。電動機に印加される電圧の波形から、方形波駆動とも呼ぶ。
【0024】
スイッチングさせる方法にはいくつか方式があり、例えば、
図7に示した方式の内、いずれかを用いればよい。
図7は電気角1周期における上下アームのドライブ信号を概念的に示している。図中のGpは上アームのドライブ信号、Gnは下アームのドライブ信号を意味している。このような駆動方法は良く知られたものである。
【0025】
電動機6に印加する電圧を決定するためには、電圧の大きさ、電圧の波形、電動機6の回転子位置に対する電圧の位相、の3点を考慮する必要がある。決定法については、後述する。
【0026】
180度通電方式は、基本的に電力変換回路5の3相の上下アームを全てスイッチング動作させる。
図21に標準的な三角波比較方式によるドライブ信号の生成方法を示している。。
図21は、電気角360度における電圧指令値と、ドライブ信号を生成するための三角波キャリア信号を示している。両者を比較し、大小関係により図中のように上アームのドライブ信号Gp及び下アームのドライブ信号Gnを生成する。
【0027】
180度通電方式は、電気角一周期にわたり上下アーム共スイッチングを行うため、180度通電と呼ぶ。この方式は、電動機に正弦波上の電圧が印加されることから、正弦波駆動とも呼ぶ。
【0028】
ゲートドライバ回路23やスイッチング素子自体の遅れに起因して、上下アームのスイッチング素子が短絡する恐れがあるため、実際には上下アームの両方がスイッチングオフとなるデッドタイム(数マイクロ秒〜十数マイクロ秒程度)を付加して最終的なドライブ信号とする。しかしながら、デッドタイムに関しては本願の目的や効果には全く影響が無いため、本明細書においては理想的なドライブ信号を示している。もちろん、デッドタイムを付加した構成としても問題は無い。
【0029】
電力変換回路5の直流電圧源20を最大限に利用するため、電気角60度の区間、片方のアームのスイッチング素子をオン状態で維持するドライブ信号生成方法もある。
図22は、この方式による電圧指令値とドライブ信号の関係の例である。この方法では、一定区間ドライブ信号の変化が無いため、一見すると、120度通電のドライブ信号に似ているが、実質的に電動機に印加される電圧は正弦波状に近いため、この方式も180度通電と呼ぶ。
【0030】
本実施例は、電動機6として、回転子に永久磁石を有する永久磁石同期電動機を用いた例である。そのため、制御軸の位置と回転子の位置は、基本的に同期しているとして説明する。なお、実際は加減速時や負荷変動時の過渡状態において、制御軸の位置と回転子の位置にズレ(軸誤差)が生じる場合がある。軸誤差が生じた場合、電動機が実際に発生するトルクが減少したり、電流歪みや跳ね上がりが生じたりすることもある。
【0031】
回転子の回転角度位置情報は、電動機に流れる電流及び電動機印加電圧から電動機の推定位置を出力する位置センサレス制御によって得るものとしている。その際、
図2にあるように回転子の主磁束方向の位置をd軸とし、d軸から回転方向に電気的に90度(電気角90度)進んだq軸とからなるd−q軸(回転座標系)を定義する。回転子の回転角度位置θdは、d軸の位相を示している。。これに対し、制御上の仮想回転子位置をdc軸とし、そこから回転方向に電気的に90度進んだqc軸とからなるdc−qc軸(回転座標系)も定義する。本実施例では、この回転座標系である制御軸上で電圧や電流を制御することを基本としているが、単に電圧の振幅と位相を調整して電動機を制御することも可能である。これらの座標軸の関係を
図2に示している。尚、これ以降の説明において、d−q軸を実軸、dc−qc軸を制御軸、実軸と制御軸のズレである誤差角を軸誤差Δθcと呼ぶ。
【0032】
固定座標系である3相軸と制御軸との関係を
図3に示している。U相を基準に、dc軸の回転角度位置(推定磁極位置)θdcと定義する。dc軸は図中の円弧状の矢印の方向(反時計方向)に回転している。そのため、回転周波数(後に示す、インバータ周波数指令値ω1)を積分することで、推定磁極位置θdcを得られる。
【0033】
本実施例では、機構部500として、圧縮機構を用いた場合について、説明する。
図5に示すように、機構部(圧縮機構部)500は、電動機6を動力源としてピストン501を駆動している。これにより、圧縮動作を行う。電動機6のシャフト502に、クランクシャフト503が接続され、電動機6の回転運動を直線運動に変換している。電動機6の回転に応じて、ピストン501も動作し、吸込み、圧縮、吐出、といった一連の工程を行う。電動機6とピストン501の間の動力伝達は、
図5の様に機械的に接続するのが多いが,潤滑油の給油の構成や、圧縮あるいは搬送対象(例えば有害ガス)によっては、磁気的に接続された機構を含むことで、安全性やメンテナンス性を上げられるという効果がある。
【0034】
圧縮機構の工程は、まずシリンダ504に設けられた吸込み口505から冷媒を吸い込む。その後、弁506を閉じて圧縮を行い、吐出口507から圧縮した冷媒を吐出する。
【0035】
一連の工程において、ピストン501にかかる圧力が変化する。これは、ピストンを駆動する電動機6から見ると、周期的に負荷トルクが変化していることを意味する。
図6は、機械角1回転における、回転子の回転角度位置θdに対する負荷トルクの変化の例を示している。
図6では、電動機6として4極電動機の例を示しているため、電気角2周期が機械角1周期に相当する。例えば、電動機6が6極の場合は、電気角3周期が機械角1周期に相当する。回転子の位置とピストンとの位置関係は組み付けによって決まるが、
図6ではピストンの下死点が機械角の0°として、ピストン位置に対する負荷トルクの変化を示している。圧縮工程が進むにつれ負荷トルクが大きくなり、吐出工程では、急激に負荷トルクが小さくなるのが特徴的である。
図6から、1回転中において負荷トルクが変動している事が分かる。回転する度に負荷トルクが変動するため、電動機6から見ると周期的に負荷トルクが変動していることになる。
【0036】
たとえ同じ圧縮機構部500を用いても、電動機6の回転数、吸込み口505や吐出口507の圧力、吸込み口505と吐出口507の圧力差などによって、負荷トルクの変動は変化する。弁506の開閉タイミングとピストンの位置の関係は、弁506の構成によって変わる。例えば、吸い込み口505と施リンダ504内の圧力差で作動する簡易的な弁を使用した場合には、圧力条件によって弁の開閉タイミングが変わる。すなわち、負荷トルクが一回転中で最大となるピストン位置も変化する。
【0037】
電力変換回路の通電方式の切替えを考えた場合、前述のように負荷トルクの変動が大きい場合には、通電方式の切替えを起因の1つとして、電動機6に流れる電流に跳ね上りが生じたり、電動機6の回転速度変動が生じたりする恐れがある。この結果、振動や騒音が発生する場合もある。したがって、本願の目的の一つは、負荷トルクの変動が大きい場合に、電力変換回路の通電方式を切り替える際においても、電流跳ね上りや速度変動が生じないショックレス切替えを実現する電動機制御装置を提供することである。
【0038】
本実施例では、圧縮機構部500のピストン501は、直線的に動くレシプロ式を例に説明しているが、圧縮機構の別な方式として、ピストンが回転することで圧縮するロータリー式や、渦巻状の旋回翼からなるスクロール式などがある。それぞれの圧縮方式によって周期的な負荷変動の特性は異なるものの、いずれの圧縮方式においても圧縮工程に起因する負荷変動がある。これらの負荷トルク変動特性はそれぞれ異なるが、後述する手段を備える電動機制御装置は圧縮機構が異なる場合にも同様に適用でき、いずれにおいても本願の目的を達成可能である。
【0039】
図1に戻って、制御部2は、電圧を印加しない非通電相(開放相)の起電圧(端子電圧)を入力し、回転子の推定回転角度位置及び推定回転速度を出力する120度用位置推定手段40と、電動機6に流れる交流電流または電力変換回路の直流側に流れる電流を入力し、回転子の推定回転角度位置及び推定回転速度を出力する180度用位置推定手段41と、通電方式切替指令信号と、120度用位置推定手段40及び180度用位置推定手段41の推定回転角度位置及び推定回転速度を入力し、通電方式切替指令信号に応じた推定回転角度位置及び推定回転速度を出力する通電方式切替器31と、2つの位置推定手段(40及び41)で推定した回転子の回転角度位置または回転速度を用いて2つの通電方式(120度通電、180度通電)を切替える切替タイミングトリガを生成する切替待ち時間算出手段30と、通電方式を切替える通電方式切替指令信号を出力する通電方式切替手段32と、通電方式切替指令信号と電圧指令値を入力しドライブ信号を出力するPWM信号作成器33等から構成される。
【0040】
ここで、PWM信号作成器33は駆動方式切替器45とPWMタイマ46を有している。駆動方式切替器45には電圧指令値と、通電方式切替指令信号と、通電モード指令とが入力される。そして、120度通電方式で駆動している場合は、通電モードに応じて非通電相のドライブ信号は上下アームとも非アクティブとして出力する。また、180度通電方式で駆動している際は、駆動方式切替器45は、入力された電圧指令値をそのまま出力する。駆動方式切替起5の出力はPWMタイマ46に送られ、PWMタイマ46は
図4に示すドライブ信号に変換して電力変換回路5におくる。
【0041】
制御部2の多くは、マイコン(マイクロコンピュータ)やDSPなどの半導体集積回路(演算制御手段)によって構成され、ソフトウェアなどで実現している。
【0042】
180度用位置推定手段41で電動機6に流れる電流を使用する場合、電流検出手段7を用いて、電動機6または電力変換回路5に流れる3相の交流電流の内、U相とW相に流れる電流を検出する。電流検出手段の構成例を
図4に示している。。例えば、CT(Current Transformer)等で構成できる。この構成を採用した場合、電力変換回路5のスイッチング状態を気にせず、任意のタイミングで電流検出できるという利点がある。
【0043】
なお、全相の交流電流を検出しても構わないが、キルヒホッフの法則から、3相のうち2相が検出できれば、他の1相は検出した2相から算出できる。
【0044】
電動機6または電力変換回路5に流れる交流電流を検出する別方式として、例えば、電力変換回路5の直流側に付加されたシャント抵抗25に流れる直流電流から、電力変換回路5の交流側の電流を検出するシングルシャント電流検出方式がある。この方式は、電力変換回路5を構成するスイッチング素子の通電状態によって、電力変換回路5の各相の交流電流と同等の電流がシャント抵抗25に流れることを利用している。シャント抵抗25に流れる電流は時間的に変化するため、ドライブ信号が変化するタイミングを基準に適切なタイミングで電流検出する必要がある。図示はしていないが、電流検出手段12に、シングルシャント電流検出方式を用いても問題ない。
【0045】
開放相電圧検出手段の構成図の例を
図8に示している。電動機6の端子電圧を検出する場合、例えば、開放相電圧検出手段60を用いる。多くの場合、電動機6の端子電圧が制御部の電源電圧(例えば、5Vや3.3V)を超えるため、分圧抵抗61及び62を用いる。その後、オペアンプで増幅したり、制御部の保護を目的として、バッファ回路63を入れたりする。もちろん、電動機6の端子電圧を直接制御部2に入力しても構わない。
【0046】
以下、各構成要素の詳細を説明する。まず、電動機6を120度用位置推定手段40及び120度通電駆動手段42で駆動する際の動作と、180度用位置推定手段41及び180度通電駆動手段43で駆動する際の動作についてそれぞれ説明し、その後、2つの駆動状態を切替える際の、言い換えると、2つの通電方式(120度通電、180度通電)を切替える際の課題について説明する。
【0047】
以下の説明を実現する120度用位置推定手段40及び120度通電駆動手段42の構成例を
図23に示している。
【0048】
電動機6を120度通電で駆動する際は、電動機6の3相巻線の内、通電する2相を選択してパルス電圧を印加してトルクを発生させる。通電する2つの相の組み合わせは6通り考えられ、それぞれを通電モード1〜通電モード6と定義する。
【0049】
図9に電動機の2相に電圧を印加する場合の模式図を示している。
図9の(a)はV相からW相へ通電している状態の通電モード(後述の通電モード3に対応)を示し、
図9の(b)は反対にW相からV相へ通電している状態の通電モードを示している図である。
【0050】
これらに対し、回転子の回転角度位置を電気角1周期分変化させた場合の非通電相(
図10ではU相)に現れる起電圧は、
図10の様になる。
図10は、非通電相の起電圧特性図の例である。回転角度位置によって、U相の起電圧(U相の端子電圧)が変化することがわかる。
【0051】
この起電圧はV相とW相に生じる磁束の変化率の差異が、非通電相であるU相にて電圧として観測されたものであり、速度誘起電圧と異なる。速度起電圧と区別して開放相起電圧と呼ぶ。
【0052】
図10において、実線で示す正パルス印加時の開放相起電圧、及び破線で示す負パルス印加時の開放相起電圧は、いずれも速度誘起電圧Emuに比べて大きい。速度起電圧は、その名の通り回転子の回転速度に比例して変化する起電圧である。したがって、低速域における速度起電圧と非通電相の起電圧の大小関係は、
図10に示す関係になる。
【0053】
したがって、この開放相起電圧を検出すれば、電動機6の回転速度が零速度近傍から低速度域に亘って、比較的大きな回転子の位置信号が得られる。
【0054】
図11は、U相、V相、及びW相を非通電相とした場合の回転子の回転角度位置θdに対する開放相起電圧特性、電力変換器2を構成するスイッチング素子のゲート信号、電動機6の回転子の回転角度位置θd、通電モード、及びスイッチング相関係を示している。
【0055】
図11に、回転角度位置に対する開放相起電圧特性の例を示している。
図11から分かるように、
図9の(a)及び(b)に示した電圧パルスは120度通電方式の通常の動作中に印加される。通電モード3において、
図9の状態となる。モード回転角度位置θdに応じて電気角60度毎に通電する2相が切り替えられている。つまり、非通電相も順次切り替えられる。
【0056】
図11において、
図9の(a)及び(b)の状態は、通電モードが通電モード3もしくは通電モード6に対応する。通電モード3もしくは通電モード6においては、U相が非通電相であるため、開放相起電圧はU相の起電圧波形に示した太線のように検出できる。すなわち、回転角度位置θdが増えるにつれ、通電モード3ではマイナス方向に減少し、通電モード6ではプラス方向に増加する開放相起電圧が検出できる。
【0057】
同様に、通電モード2及び通電モード5では、V相の起電圧波形が検出でき、通電モード1及び通電モード4では、W相の起電圧波形が検出できる。
【0058】
図12は、回転角度位置に対する開放相起電圧と基準電圧の関係図の例である。
図12に、回転角度位置θdに対する、通電モード、非通電相、通電モードに対応した非通電相の開放相起電圧、及び基準電圧の関係を示している。通電モードが切り替わる毎に非通電相の開放相起電圧が、正と負でそれぞれに上昇と減少を繰り返す波形となる。そこで、正側及び負側それぞれに、閾値となる基準電圧(Vhp、Vhn)を設定し、この基準電圧と非通電相の開放相起電圧の大小関係から回転角度位置θdを推定でき、これによって通電モード切替のトリガ信号を発生させる。
【0059】
つまり、基準電圧が通電モードを切り替える所定の位相を表す値として見做され、これを検出した非通電相の開放相起電圧が超えると、その時点でモード切替トリガ信号を発生させ通電モードを順に切り替える。
【0060】
通電モードを切り替える動作は
図23に示されているモード切替トリガ発生器51にて実現しており、非通電相電位選択器52にて通電モードに応じた非通電相を選択し、選択した相の開放相起電圧を検出している。
【0061】
図13に示す基準レベル切替器53にて、通電モード指令に従って正側基準電圧Vhpと負側基準電圧Vhnを切替スイッチ113によって選択して出力する。つまり、通電モード2、4、6では正側基準電圧Vhp111を出力し、通電モード1、3、5では負側基準電圧Vhn112を出力する。
【0062】
通電モードに応じた開放相起電圧と、選択した基準正側基準電圧Vhpまたは負側基準電圧Vhnを閾値として
図23にある比較器54に入力してその値の比較を行い、非通電相の起電圧が閾値に到達した時点でモード切替トリガ信号を発生する。
図23にある通電モード切替器55は、モード切替トリガ信号を入力し、モード切替トリガ信号に応じて通電モードを正回転方向に進め、通電モードを出力する。
【0063】
図23にある位相変換器56は、通電モードの情報(通電モード1〜通電モード6)を入力し、で電気角位相(回転角度位置θd)を出力する。120度通電では電気角60度毎の回転角度位置を検出すれば良いが、例えば、通電モードから、
図24に示す関係の位相を出力する。
図24の関係の位相を採用する際の効果については後述するが、通電方式切替に好適な方式である。
【0064】
図23にある速度変換器57は、1つの通電モードに居た時間を例えば三角波キャリア信号の山または谷の割込みタイミングでカウントをし、そのカウント値から次式で速度ω1_120を算出する。
【0065】
【数1】
【0066】
ここで、N_pwmは三角波キャリア信号の山または谷の割込みタイミングでカウントしたカウント数、T_count_smplはカウントする周期である。6倍しているのは、電気角1周期相当の速度を求めるためである。
【0067】
前述の通り、開放相起電圧は速度起電圧と異なり、電動機が停止または極低速で回転している際にも検出可能である。したがって、電動機6の回転速度が零速度近傍から低速度域に亘って、位置センサレス駆動が可能である。このように、非通電相の開放相起電圧を検出することで、電動機6が停止した状態や極低速時においても回転子位置を精度良く検出することができる。また、これに基づいて回転速度も求められる。
【0068】
以上が、120度用位置推定手段40の基本的な動作である。
【0069】
ところが、電動機6の回転速度が大きくなるにつれて、非通電相の開放相起電圧よりも速度起電圧の方が支配的となる。つまり、速度起電圧に基づいて回転子位置情報や回転速度を検出する方が精度良くなる。そのため、中高速域においては、180度通電で電動機6を駆動するのが良い。
【0070】
電動機6を180度通電で駆動するためには、前述の通りdc−qc軸(回転座標系)で制御するのが好適である。回転座標上で制御するために3相交流軸から座標変換する必要があるが、回転座標上では電圧や電流を直流量として扱えるという利点がある。
【0071】
そのため、推定磁極位置θdcを用いて、電流検出手段7で検出した3相交流軸の電動機電流検出値122をdc−qc軸に座標変換し、d軸及びq軸の電流検出値(Idc及びIqc)を得える。同様に、推定磁極位置θdcを用いて、後述する電圧指令値作成器3で生成したdc−qc軸上の電圧指令値を3相交流電圧指令値に座標変換する。
【0072】
次に、180度用位置推定手段41の動作について説明する。
図15は、180度用位置推定手段41の構成図の例である。180度用位置推定手段41は、主に軸誤差演算器10と、PLL制御器13と、積分器15等から構成されている。
【0073】
本実施例の180度用位置推定手段41は、軸誤差Δθcの演算値を基にしている。軸誤差演算器10は、制御軸上の電流検出値(Idc及びIqc)と、後述する電圧指令値(Vd*及びVq*)を入力して、次式により実軸と制御軸との軸誤差Δθcを出力する。
【0074】
【数2】
【0075】
PLL制御器13は、軸誤差Δθcが軸誤差指令値Δθ*(通常はゼロ)になるようにインバータ周波数指令値ω1を出力する。軸誤差指令値Δθ*と軸誤差Δθcの差を減算器17aで求め、これに乗算器18aで比例ゲインKp_pllを乗じ比例制御した演算結果と、乗算器18bで積分ゲインKi_pllを乗じそれを積分器15bで積分し積分制御した演算結果とを加算器16aで加算し、インバータ周波数指令値ω1_180を出力する。
【0076】
定常状態においては、軸誤差Δθcはゼロとなる点、永久磁石同期電動機では制御軸の位置と回転子の位置は基本的に同期している点から、インバータ周波数指令値ω1_180が電動機の速度に相当する。
【0077】
回転子の回転角度位置θd(電気角位相)は速度を積分することで得られる。そのため、積分器15aの出力が回転角度位置θd_180となる。
【0078】
次に電圧指令値演算手段34の動作について説明する。
図14は、電圧指令値演算手段34の構成図の例である。電圧指令値演算手段34は、例えば、速度制御器14と、電流制御器12と、通電方式切替スイッチ59と、電圧指令値作成器3と、dq/3φ変換器4等から構成されている。
【0079】
通電方式の切り替えは通電方式切替スイッチ59で行う。
図14中に複数通電方式切替スイッチ59があるが、全て同じタイミングにおいて同じ接点に切り替わる。
【0080】
説明の便宜上、180度通電駆動時の動作について先に説明する。180度通電駆動時においては、
図14中の複数通電方式切替スイッチ59を下側接点にする。
【0081】
電圧指令値作成器3は、後述する速度制御器14や電流制御器12から得られるd軸及びq軸電流指令値(Id*及びIq*)と、回転角速度指令値ω*または後述するインバータ周波数指令値ω1とを電圧指令値作成器3に入力し、次式の様にベクトル演算を行い、d軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*を得る。
【0082】
【数3】
【0083】
ここで、Rは電動機6の巻線抵抗値、Ldはd軸のインダクタンス、Lqはq軸のインダクタンス、Keは誘起電圧定数である。
【0084】
上述のように電動機を駆動する制御は一般的にベクトル制御と呼ばれ、電動機に流れる電流を界磁成分とトルク成分に分離して演算し、電動機電流位相が所定の位相になるように、電圧の位相と大きさを制御する。ベクトル制御の構成にはいくつか方式があり、例えば、特開2005−39912号公報に記載の構成がある。これを用いて例えば
図14のような構成とすることができる。
【0085】
本実施例の電動機6は、非突極型の永久磁石電動機としている。すなわち、d軸とq軸のインダクタンス値は同じである。つまり、d軸とq軸のインダクタンスの差によって発生するリラクタンストルクは考慮していない。したがって、電動機6の発生トルクはq軸を流れる電流に比例する。そのため、本実施例においては、d軸電流指令値Id*はゼロを設定している。なお、突極型電動機(d軸とq軸のインダクタンス値が異なる電動機)の場合は、q軸電流によるトルクの他に、d軸とq軸のインダクタンスの差に起因するリラクタンストルクが発生する。そのため、リラクタンストルクを考慮してd軸電流指令値Id*を設定することで、同じトルクをより小さいq軸電流で発生できる。この場合、効率向上の効果が得られる。
【0086】
q軸電流指令値は、上位制御系などから得てもよいが、速度指令値への追従性を良くするため、
図14は速度制御器を用いてq軸電流指令値を得る構成として示した。
【0087】
速度制御器14の構成例を
図16に示している。周波数指令値ω*とインバータ周波数指令値ω1の差を減算器17bで求め、これに乗算器18cで比例ゲインKp_asrを乗じて比例制御した演算結果と、乗算器18dで積分ゲインKi_asrを乗じ積分器15cで積分し積分制御した演算結果とを加算器16bで加算し、q軸電流指令値Iq*を出力する。
【0088】
図17は電流制御器12の構成図の例である。d軸及びq軸電流指令値への追従性を上げるため、電流制御を行う。d軸及びq軸電流値(Id*及びIq*)とd軸及びq軸電流検出値との差をそれぞれ減算器(17c及び17d)で求め、これらに乗算器(18e及び18f)で比例ゲイン(Kp_dacr及びKp_qdacr)を乗じて比例制御した演算結果と、乗算器(18g及び18h)で積分ゲイン(Ki_dacr及びKi_qacr)を乗じ積分器(15d及び15e)で積分し積分制御した演算結果とを加算器(16c及び16d)で加算し、第2のd軸及びq軸電流指令値(Id**及びIq**)を出力する。
【0089】
次に、120度通電駆動時の動作について説明する。120度通電駆動時においては、
図14中の複数通電方式切替スイッチ59を上側接点にする。
【0090】
本実施例では、120度通電駆動時と180度通電駆動時において、動作を変更する例を示している。もちろん、120度通電駆動においても、180度通電駆動と同様に、速度制御器14と電流制御器12を付加した構成としても何ら問題は無い。
【0091】
本実施例では、120度通電駆動時の電流指令値(Id**及びIq**)は、図示していない上位制御等から入力された電流指令値(Id*_120及びIq*_120*)を用いる。上位制御等から入力された電流指令値を使う際、乗算器及び積分器の数が減るため、制御部2の演算負荷を低減できる効果がある。
【0092】
最も簡素な方法としては、d軸及びq軸電流指令値をゼロとし、所定の速度指令値のみを与え、次式のように電圧指令値は固定として駆動しても良い。
【0093】
【数4】
【0094】
dq/3φ変換器4は、上述の電圧指令値作成器3が出力するd軸及びq軸電圧指令値(Vd*及びVq*)と回転角度位置を入力し、3相電圧指令値(Vu*、Vv*、Vw*)出力する。
【0095】
通常、上位制御系等から与えられる周波数指令値ω*は、インバータ周波数指令値ω1に比べると変化の周期は非常に長いため、電動機が1回転する間においては一定値と見ても良い。そのため、速度制御器によって、電動機はほぼ一定周波数で回転する。この時、インバータ周波数指令値ω1を積分することで得られる推定磁極位置θdcは、ほぼ一様に増加する。
【0096】
以上が、電圧指令値演算手段34の基本動作である。
【0097】
電動機6の状態量(位置、速度、トルクなど)を制御する場合、状態量の変化に対して感度が高い情報もしくは線形に変化する情報を用いることが適している。
【0098】
前述の通り、非通電相の開放相起電圧は、電動機が停止または極低速で回転している際にも検出可能である。一方、速度起電圧は、電動機の回転速度に比例する起電圧であるため、回転速度が大きくなるにつれて速度起電圧は大きくなり、中高速域では非通電相の開放相起電圧よりも速度起電圧の方が支配的となる。
【0099】
このことから、電動機が停止時から高速域において、電動機の位置検出を行って電動機の状態量(位置、速度、トルクなど)を制御する場合には、開放相起電圧に基づいて制御する120度通電方式と、速度起電圧に基づいて制御する180度通電方式とを組み合わせることで、高精度な制御を実現できる。
【0100】
通電方式切替を判断する値の例として、ここでは上位制御系等から与えられる周波数指令値ω*(電動機の回転数指令に相当)を使用する。例えば、予め速度起電圧が十分に大きくなり、速度起電圧を精度良く検出できる周波数指令値に達したら(定格速度の10〜20%程度が目安)、開放相起電圧に基づいて制御する120度通電方式から速度起電圧に基づいて制御する180度通電方式へ切り替える。
【0101】
通電方式を切り替える際、
図18のように電流跳ね上りや速度変動などが生じた。電流の跳ね上がりが大きい場合、過電流保護回路によって電動機が停止したり、最悪の場合はスイッチング素子22やその他の電気品を損傷したりする恐れがある。電動機停止や破損に至らなくとも、通電方式切り替え時に電動機の発生トルクが急に変わることで、急加減速したり、それによる振動や不快な音が発生したりする原因となる。
【0102】
このような課題を解決するため、通電方式を120度通電方式から180度通電方式に切り換える際に、電流跳ね上り、電動機発生トルクの不連続によるトルクショック、速度変動、などが生じないショックレス切替えを実現する電動機制御装置を提供することが、本発明の目的の1つである。
【0103】
尚、説明の都合上、電動機の位置検出を行う手段は、120度通電方式として上述の開放相起電圧に基づいた構成として説明し、180度通電方式では上述の速度起電圧に基づいた構成として説明する。しかしながら、後述する本発明の構成から分かるように、各通電方式における電動機6の回転角度位置の検出(あるいは推定)手段や方法は本実施例に記載の方式に限らず、例えば高調波を重畳して回転角度位置を検出する方式など、電動機の位置検出を行う手段は他の方式を用いても適用可能である。
【0104】
上述した通電方式を切り替えた際に生じる電流跳ね上がり等の原因の1つは、インバータから電動機に印加される電圧の不連続性である。120度通電方式は3相のうち2相のみ通電させるのに対し、180度通電方式は3相全てを通電させる。例えば、120度通電方式で駆動していた際にスイッチングしていなかった相を180度通電方式での駆動に切り替えて急にスイッチングすると、電動機に印加される線間電圧が大きく変わって不連続となり、その結果、電流跳ね上がりや電動機発生トルクの不連続になる。
【0105】
したがって、通電方式の切替前後において、電動機に印加される線間電圧の関係を連続に保てば、切り替えショック無く切り替えられる。電動機6に印加する電圧を決定するためには、電圧の大きさ、電圧の波形、電動機6の回転子位置に対する電圧の位相、の3点を考慮する必要がある。これらを考慮して、電動機6に印加する電圧の連続性を保つようにする。
【0106】
更に、本願の目的(通電方式をショックレスに切り替える)を考えると、ドライブ信号の生成方法は同じとするのが良い。以下、具体的な実現方法について説明する。
【0107】
図19に通電方式切替前後のドライブ信号を示している。簡略化のため、通電方式切替前後で速度変動及び負荷トルク変動は無いと仮定して、つまり一定の電圧指令を出力する状況と仮定して、ドライブ信号の変化を示している。
図19は、120度通電方式から180度通電方式へ通電方式を切替える際の例を図示しているが、逆に180度通電方式から120度通電方式へ切り替える際も、以下と同様に実現でき、本願の目的を達成できる。
【0108】
まず、120度通電方式で駆動している際の本願のドライブ信号について説明する。
【0109】
120度通電方式で駆動している際は、電気角60度毎の回転角度位置を検出しており、
図25に示した様に、電気角が30度、90度、150度、210度、270度の6つのタイミングで通電パターン(ドライブ信号のパターン)が変わる。
【0110】
すなわち、120度通電方式においては、通電パターンは6種しかない。そのため、実際の回転子の回転角度位置は連続的に変化するが、通電パターンの決定に使用する電気角は必ずしも連続的に変える必要は無い。通電モードを変更する条件(条件は位置推定方式に依存する。例えば、開放相起電圧に基づいた位置推定の構成では、開放相電圧が閾値を越えたか否かが判定条件になる。)が成立したら、電気角をあらかじめ決めた60度毎の通電モードとなる値に変更すれば良い。
【0111】
そこで、出力電圧位相に関係する各通電モードにおける位相θdは、
図24に示した様に決定する。例えば、通電モード3において、開放相起電圧(通電モード3ではU相が開放相)が閾値を超え時点(通電モード3では閾値となる基準電圧(Vhn)を下回った時点)は、回転子の回転角度位置は、電気角で30度の位置を超えたことになる。それ以前においては、通電モード3における回転子の回転角度位置は、電気角で−30度(330度)から30度のいずれかであるが、通電モード3の期間は0度とする。
【0112】
位相θdを
図24のように決定することの効果を説明する。
図26は、3相電圧指令値と出力電圧の関係を示している。
図26中の一点鎖線は、信号の基となる3相正弦波電圧指令値である。この3相正弦波状の電圧指令値を考えると、電気角が0度、60度、120度、180度、240度の位置は、中間相の電圧がゼロで、最大相と最小相の絶対値は同じとなる位置である。
【0113】
したがって、位相θdを
図24のように決定することで、各相の電圧指令値は、
図26中のように、階段状の電圧指令値となる。これらの電圧指令値を、
図21で示したPWMキャリア信号生成方法(つまり180度通電方式と同じドライブ信号生成方法)を用いると、120度通電方式時のドライブ信号を得られる。
【0114】
ここで、
図26の最大相と最小相のドライブ信号に注目すると、
図7の相補スイッチング方式のドライブ信号を同様の電圧が電動機に印加されることになる。通電モードによって、非通電相は一義的に決定する。
【0115】
そのため、駆動方式切替器45に、電圧指令値と、通電方式切替指令信号と、通電モード指令と、を入力する。120度通電方式で駆動している場合は、通電モードに応じて非通電相のドライブ信号(
図26では中間相のドライブ信号)は上下アームとも非アクティブ(図中では点線で示した)として出力する。
【0116】
なお、180度通電方式で駆動している際は、駆動方式切替器45は、入力された電圧指令値をそのまま出力すればよい。
【0117】
このように、各通電モードにおける位相を
図24に示した様に決定することで、180度通電方式と同じドライブ信号生成方法を用いて、120度通電方式でのドライブ信号を生成することができる。同じドライブ信号生成方法を用いるため、ドライブ信号生成方法に起因する切替時のショックを無くすことができる。
【0118】
上記の本願におけるドライブ信号生成方法を踏まえ、
図19の通電方式切替前後のドライブ信号について詳しく説明する。
【0119】
ドライブ信号の基となっている電圧指令値、もしくは、ドライブ信号を積分して得られる等価的な印加電圧値を見ると、120度通電時の通電モード(通電相)が変わるタイミングで、電圧の最大相または最小相が入れ替わる。
【0120】
仮に、120度通電時の通電モード(通電相)が変わるタイミング(30度、90度、150度、210度、270度)で、120度通電方式から180度通電方式に切り替えた場合、120度通電時はOFFだった中間相が最大相と同じスイッチングデューティでスイッチングを開始する。
【0121】
電動機6が
図9のようなY結線である場合で、例えば、電気角270度(
図11では−90度と表記)の時点で120度通電から180度通電に切り替えることを考える。120度通電時は、モード2ではU相からW相に電圧を印加するが、180度通電に切り替えるとすると、U相とV相の並列回路からW相に印加されることになる。
【0122】
すなわち、通電方式切替前後で電動機に印加される電圧が不連続になる。別な言い方をすると、固定子巻線で発生する磁束の大きさや位相が急に変化し、電動機の発生トルクが不連続になり、速度変動やそれに起因する振動や騒音などが生じる原因となる。
【0123】
そこで、本発明の方式は、180度通電に切り替えるタイミングを中間相の電圧指令値がゼロになるタイミングとする。言い換えると、120度通電から180度通電に切り替える際、その前の通電モードにおいて上下アーム共スイッチングをしていなかった相のドライブ信号が、上アームと下アームとの比率が略同じ(50%程度)であるようにする。こうすることで、通電方式切替前後で電動機に印加される電圧を連続にできる。すなわち、切り替えショック無く切り替えられる。
【0124】
次に中間相の電圧指令値がゼロになるタイミングを決定する方法について説明する。
【0125】
前述の通り、120度通電方式においては、回転角度位置を電気角60度毎に検出する、あるいは60度毎の位置を推定しており、電気角が30度、90度、150度、210度、270度、330度の6つのタイミングで通電パターン(ドライブ信号のパターン)が変わる。
【0126】
一方、中間相がゼロになるタイミングは、
図26に示した様に、電気角が0度、60度、120度、180度、240度、300度の6つのタイミングである。すなわち、通電モードを変更する条件が成立した後、電気角で30度の期間待ってから通電方式切替を行うようにすれば、中間相がゼロになるタイミングでの通電方式切替を実現でき、本願の目的を達成できる。
【0127】
切替え待ち時間算出手段30は、2つの位置推定手段(40及び41)で推定した回転子の回転角度位置または回転速度を用いて2つの通電方式(120度通電、180度通電)を切替える切替タイミングトリガを出力する。通電方式切替え手段32は、切替タイミングトリガを入力し、通電方式切替指令信号を出力する。
【0128】
切替え待ち時間算出手段30の動作について、120度通電方式から180度通電方式に切り替える際の動作を例に説明する。
【0129】
まず、通電方式の切替え要求は、例えば、図示していない上位系からの指令や、速度指令値が、所定値を越えたか否かで、通電方式の切替要求を判断する。
【0130】
図19中の上部に矢印で示したタイミングで、通電方式の切替要求があったとする。その後、通電モードが変わった時点から、切替え待ち時間算出手段30は、経過時間を測定し、電気角で30度の期間が経過したら、切替タイミングトリガを出力し、通電方式切替え手段32が通電方式切替指令信号を出力する。
【0131】
経過時間測定は、例えば、通電方式の切替要求があった通電モード中の、三角波キャリア信号の山または谷の割込みタイミングでカウントしたカウント数(N_pwm)を用いる。N_pwmは、電気角60度に相当する期間のため、切替え待ち時間算出手段30で同様に三角波キャリア信号の山または谷の割込みタイミングでカウントアップし、カウント値がN_pwmの半分に達した時点で、切替タイミングトリガを出力すれば、電気角で30度の期間が経過したことが分かる。
【0132】
カウント値で判断することにより、通電方式を切替える速度が変化した場合においても、電気角で30度の期間を正確に測定することができる。
【0133】
切替え待ち時間算出手段30の動作について、180度通電方式から120度通電方式に切り替える際の動作を例に説明する。
【0134】
切替え待ち時間算出手段30に、180度用位置推定手段41で推定した回転子の回転角度位置を入力する。通電方式の切替要求があった後に、電気角が0度、60度、120度、180度、240度、300度に達した際に、切替タイミングトリガを出力し、通電方式切替え手段32が通電方式切替指令信号を出力する。
【0135】
180度通電方式では、位相θdが連続的に変化するため、位相で判断してもよい。尚、120度通電方式においても、位相で判断することも可能である。上述した120度通電方式の位置推定においては、開放相電圧が閾値となる基準電圧を越えたか否かで電気角60度毎の位置を検出しているが、
図10に示した、非通電相の起電圧特性図の例から分かるように、位相に応じて連続的に変化している。例えば、非通電相の起電圧特性を線形近似する、あるいは位相に対する関数として表すことで、120度通電方式においても、位相を連続的に変化する様にしても良い。その際は、上記のように位相で判断する方式の方が適している。例えば、制御部2のタイマの数が限られている場合、位相で判断することにより、タイマの数を節約でき、他の機能にタイマを割り当てることができる。