特許第5972146号(P5972146)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972146
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】車高調整装置
(51)【国際特許分類】
   B62K 25/08 20060101AFI20160804BHJP
   B62K 25/10 20060101ALI20160804BHJP
   B60G 17/015 20060101ALI20160804BHJP
   B60G 17/027 20060101ALN20160804BHJP
【FI】
   B62K25/08 Z
   B62K25/10
   B60G17/015 B
   !B60G17/027
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-245761(P2012-245761)
(22)【出願日】2012年11月7日
(65)【公開番号】特開2014-94604(P2014-94604A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118201
【弁理士】
【氏名又は名称】千田 武
(72)【発明者】
【氏名】春日 高寛
(72)【発明者】
【氏名】石川 文明
(72)【発明者】
【氏名】千田 俊也
【審査官】 鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−224311(JP,A)
【文献】 特開平04−011513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 25/08
B60G 17/015
B62K 25/10
B60G 17/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車両本体と前輪との相対的な位置である前輪側相対位置を変更可能な前輪側変更手段と、
前記車両本体と後輪との相対的な位置である後輪側相対位置を変更可能な後輪側変更手段と、
前記前輪側変更手段および前記後輪側変更手段を制御して前記前輪側相対位置および前記後輪側相対位置を変更することで前記車両本体の高さを調整する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記前輪側相対位置の変化速度と前記後輪側相対位置の変化速度とが予め定められた関係となるように前記前輪側変更手段および前記後輪側変更手段を制御し、
前記制御手段は、予め定められた条件が成立した場合に前記前輪側相対位置および前記後輪側相対位置の変更を開始し、変更開始後所定期間の当該前輪側相対位置の変化量と当該後輪側相対位置の変化量との比が所定値となるように前記前輪側変更手段および前記後輪側変更手段を制御し、
前記制御手段は、前記変更開始後所定期間の前記前輪側相対位置の変化量と前記後輪側相対位置の変化量との比が所定値ではない場合には、当該前輪側相対位置と当該後輪側相対位置のうち、変化速度が大きい方の相対位置の変化量を小さくするように前記前輪側変更手段および前記後輪側変更手段を制御することを特徴とする車高調整装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記車両の車速が予め定められた速度以上となった場合に前記前輪側相対位置および前記後輪側相対位置の変更を開始することを特徴とする請求項1に記載の車高調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車高調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動二輪車の走行中は車高を高くし、停車中は乗り降りを楽にするために車高を低くする装置が提案されている。
そして、例えば、特許文献1に記載の車高調整装置は、自動二輪車の車速に応答して自動的に車高を変え、車速が設定速度になったら自動的に車高を高くし、車速が設定速度以下になると自動的に車高を低くする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平8−22680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の車両本体と前輪との相対的な位置を変更可能な前輪側相対位置変更手段と、車両本体と後輪との相対的な位置を変更可能な後輪側相対位置変更手段との両方を用いて車高を調整する機構が考えられる。この機構の場合、走行安定性を保つためには、車高の調整過程においても、車両本体の姿勢、特にシートの姿勢が変化しないことが望ましい。
本発明は、車高の調整過程においても車両本体の姿勢を維持することができる車高調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと、本発明は、車両の車両本体と前輪との相対的な位置である前輪側相対位置を変更可能な前輪側変更手段と、前記車両本体と後輪との相対的な位置である後輪側相対位置を変更可能な後輪側変更手段と、前記前輪側変更手段および前記後輪側変更手段を制御して前記前輪側相対位置および前記後輪側相対位置を変更することで前記車両本体の高さを調整する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記前輪側相対位置の変化速度と前記後輪側相対位置の変化速度とが予め定められた関係となるように前記前輪側変更手段および前記後輪側変更手段を制御し、前記制御手段は、予め定められた条件が成立した場合に前記前輪側相対位置および前記後輪側相対位置の変更を開始し、変更開始後所定期間の当該前輪側相対位置の変化量と当該後輪側相対位置の変化量との比が所定値となるように前記前輪側変更手段および前記後輪側変更手段を制御し、前記制御手段は、前記変更開始後所定期間の前記前輪側相対位置の変化量と前記後輪側相対位置の変化量との比が所定値ではない場合には、当該前輪側相対位置と当該後輪側相対位置のうち、変化速度が大きい方の相対位置の変化量を小さくするように前記前輪側変更手段および前記後輪側変更手段を制御することを特徴とする車高調整装置である。
【0007】
また、前記制御手段は、前記車両の車速が予め定められた速度以上となった場合に前記前輪側相対位置および前記後輪側相対位置の変更を開始するとよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車高の調整過程においても車両本体の姿勢を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る自動二輪車の概略構成を示す図である。
図2】リヤサスペンションの断面図である。
図3】後輪側液体供給装置の作用を説明するための図である。
図4】後輪側相対位置変更装置による車高調整を説明するための図である。
図5】車高が維持されるメカニズムを示す図である。
図6】フロントフォークの断面図である。
図7】前輪側液体供給装置の作用を説明するための図である。
図8】前輪側相対位置変更装置による車高調整を説明するための図である。
図9】車高が維持されるメカニズムを示す図である。
図10】制御装置のブロック図である。
図11】前輪側移動速度と後輪側移動速度との理想関係を示す図である。
図12】本実施の形態に係る切換弁制御部の制御態様を示す図である。
図13】切換弁制御部が行う開閉制御処理の手順を示すフローチャートである。
図14】切換弁制御部が行う前後調整処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、実施の形態に係る自動二輪車1の概略構成を示す図である。
自動二輪車1は、図1に示すように、車体フレーム11と、この車体フレーム11の前端部に取り付けられているヘッドパイプ12と、このヘッドパイプ12に設けられたフロントフォーク13と、このフロントフォーク13の下端に取り付けられた前輪14と、を有している。フロントフォーク13については後で詳述する。
また、自動二輪車1は、フロントフォーク13の上部に取り付けられたハンドル15と、車体フレーム11の前上部に取り付けられた燃料タンク16と、この燃料タンク16の下方に配置されたエンジン17および変速機18と、を有している。
【0011】
また、自動二輪車1は、車体フレーム11の後上部に取り付けられたシート19と、車体フレーム11の下部にスイング自在に取り付けられたスイングアーム20と、このスイングアーム20の後端に取り付けられた後輪21と、スイングアーム20の後部(後輪21)と車体フレーム11の後部との間に取り付けられたリヤサスペンション22と、を有している。リヤサスペンション22については後で詳述する。
また、自動二輪車1は、ヘッドパイプ12の前方に配置されたヘッドランプ23と、前輪14の上部を覆うようにフロントフォーク13に取り付けられたフロントフェンダ24と、シート19の後方に配置されたテールランプ25と、このテールランプ25の下方に後輪21の上部を覆うように取り付けられたリヤフェンダ26と、を有している。
【0012】
また、自動二輪車1は、前輪14の回転角度を検出する前輪回転検出センサ31と、後輪21の回転角度を検出する後輪回転検出センサ32と、を有している。
また、自動二輪車1は、フロントフォーク13の後述する前輪側切換弁270およびリヤサスペンション22の後述する後輪側切換弁170の開閉を制御することで自動二輪車1の車高を制御する制御手段の一例としての制御装置50を備えている。制御装置50には、上述した前輪回転検出センサ31、後輪回転検出センサ32などからの出力信号が入力される。
【0013】
次に、リヤサスペンション22について詳述する。
図2は、リヤサスペンション22の断面図である。
リヤサスペンション22は、自動二輪車1の車両本体の一例としての車体フレーム11と後輪21との間に取り付けられている。そして、リヤサスペンション22は、自動二輪車1の車重を支えて衝撃を吸収する後輪側懸架スプリング110と、後輪側懸架スプリング110の振動を減衰する後輪側ダンパ120と、を備えている。また、リヤサスペンション22は、後輪側懸架スプリング110のバネ力を調整することで車体フレーム11と後輪21との相対的な位置である後輪側相対位置を変更可能な後輪側変更手段の一例としての後輪側相対位置変更装置140と、この後輪側相対位置変更装置140に液体を供給する後輪側液体供給装置160と、を備えている。また、リヤサスペンション22は、このリヤサスペンション22を車体フレーム11に取り付けるための車体側取付部材180と、リヤサスペンション22を後輪21に取り付けるための車軸側取付部材185と、車軸側取付部材185に取り付けられて後輪側懸架スプリング110における中心線方向の一方の端部(図2においては下部)を支持するばね受け190と、を備えている。
【0014】
後輪側ダンパ120は、図2に示すように、薄肉円筒状の外シリンダ121と、外シリンダ121内に収容される薄肉円筒状の内シリンダ122と、円筒状の外シリンダ121の円筒の中心線方向(図2では上下方向)の一方の端部(図2では下部)を塞ぐ底蓋123と、内シリンダ122の中心線方向の他方の端部(図2では上部)を塞ぐ上蓋124と、を有するシリンダ125を備えている。以下では、外シリンダ121の円筒の中心線方向を、単に「中心線方向」と称す。
【0015】
また、後輪側ダンパ120は、中心線方向に移動可能に内シリンダ122内に挿入されたピストン126と、中心線方向に延びるとともに中心線方向の他方の端部(図2では上端部)でピストン126を支持するピストンロッド127と、を備えている。ピストン126は、内シリンダ122の内周面に接触し、シリンダ125内の液体(本実施の形態においてはオイル)が封入された空間を、ピストン126よりも中心線方向の一方の端部側の第1油室Y1と、ピストン126よりも中心線方向の他方の端部側の第2油室Y2とに区分する。ピストンロッド127は、円筒状の部材であり、その内部に後述するパイプ161が挿入されている。
【0016】
また、後輪側ダンパ120は、ピストンロッド127における中心線方向の他方の端部側に配置された第1減衰力発生装置128と、内シリンダ122における中心線方向の他方の端部側に配置された第2減衰力発生装置129とを備えている。第1減衰力発生装置128および第2減衰力発生装置129は、後輪側懸架スプリング110による路面からの衝撃力の吸収に伴うシリンダ125とピストンロッド127との伸縮振動を減衰する。第1減衰力発生装置128は、第1油室Y1と第2油室Y2との間の連絡路として機能するように配置されており、第2減衰力発生装置129は、第2油室Y2と後輪側相対位置変更装置140の後述するジャッキ室142との間の連絡路として機能するように配置されている。
【0017】
後輪側液体供給装置160は、シリンダ125に対するピストンロッド127の伸縮動によりポンピング動作して後輪側相対位置変更装置140の後述するジャッキ室142内に液体を供給する装置である。
後輪側液体供給装置160は、後輪側ダンパ120の上蓋124に中心線方向に延びるように固定された円筒状のパイプ161を有している。パイプ161は、円筒状のピストンロッド127の内部であるポンプ室162内に同軸的に挿入されている。
【0018】
また、後輪側液体供給装置160は、シリンダ125およびパイプ161に進入する方向のピストンロッド127の移動により加圧されたポンプ室162内の液体を後述するジャッキ室142側へ吐出させる吐出用チェック弁163と、シリンダ125およびパイプ161から退出する方向のピストンロッド127の移動により負圧になるポンプ室162にシリンダ125内の液体を吸い込む吸込用チェック弁164とを有する。
【0019】
図3は、後輪側液体供給装置160の作用を説明するための図である。
以上のように構成された後輪側液体供給装置160は、自動二輪車1が走行してリヤサスペンション22が路面の凹凸により力を受けると、ピストンロッド127がシリンダ125およびパイプ161に進退する伸縮動によりポンピング動作する。このポンピング動作により、ポンプ室162が加圧されると、ポンプ室162内の液体が吐出用チェック弁163を開いて後輪側相対位置変更装置140のジャッキ室142側へ吐出され(図3(a)参照)、ポンプ室162が負圧になると、シリンダ125の第2油室Y2内の液体が吸込用チェック弁164を開いてポンプ室162に吸い込まれる(図3(b)参照)。
【0020】
後輪側相対位置変更装置140は、後輪側ダンパ120のシリンダ125の外周を覆うように配置されて後輪側懸架スプリング110における中心線方向の他方の端部(図2では上部)を支持する支持部材141と、シリンダ125における中心線方向の他方の端部側(図2では上側)の外周を覆うように配置されて支持部材141とともにジャッキ室142を形成する油圧ジャッキ143とを有している。ジャッキ室142内にシリンダ125内の液体が充填されたり、ジャッキ室142内から液体が排出されたりすることで、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向に移動する。そして、油圧ジャッキ143には、上部に車体側取付部材180が取り付けられており、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向に移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ力が変わり、その結果、後輪21に対するシート19の相対的な位置が変わる。
【0021】
また、後輪側相対位置変更装置140は、ジャッキ室142に供給された液体をジャッキ室142に溜めるように閉弁するとともに、ジャッキ室142に供給された液体を、油圧ジャッキ143に形成された液体溜室143aに排出するように開弁する後輪側切換弁170を有している。後輪側切換弁170は、周知のソレノイドアクチュエータであることを例示することができる。
【0022】
図4は、後輪側相対位置変更装置140による車高調整を説明するための図である。
後輪側切換弁170が閉弁しているときに後輪側液体供給装置160によりジャッキ室142内に液体が供給されるとジャッキ室142内に液体が充填され、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の一方の端部側(図4では下側)に移動し、後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなる(図4(a)参照)。他方、後輪側切換弁170が開弁するとジャッキ室142内の液体は液体溜室143aに排出され、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の他方の端部側(図4では上側)に移動し、後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなる(図4(b)参照)。
【0023】
支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて後輪側懸架スプリング110が支持部材141を押すバネ力が大きくなる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(図4では下側)に同じ力が作用した場合には、リヤサスペンション22の沈み込み量(車体側取付部材180と車軸側取付部材185との間の距離の変化)が小さくなる。それゆえ、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて、シート19の高さが上昇する(車高が高くなる)。つまり、後輪側切換弁170が閉弁されることで車高が高くなる。
【0024】
他方、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて後輪側懸架スプリング110が支持部材141を押すバネ力が小さくなる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(図4では下側)に同じ力が作用した場合には、リヤサスペンション22の沈み込み量(車体側取付部材180と車軸側取付部材185との間の距離の変化)が大きくなる。それゆえ、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて、シート19の高さが下降する(車高が低くなる)。つまり、後輪側切換弁170が開弁されることで、後輪側切換弁170が閉弁される場合よりも車高が低くなる。
なお、後輪側切換弁170は、制御装置50によりその開閉が制御される。
また、後輪側切換弁170が開いたときに、ジャッキ室142に供給された液体を排出する先は、シリンダ125内の第1油室Y1および/または第2油室Y2であってもよい。
【0025】
また、図2に示すように、シリンダ125の外シリンダ121には、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の一方の端部側(図2では下側)に予め定められた限界位置まで移動したときに、ジャッキ室142内の液体をシリンダ125内まで戻す戻し路121aが形成されている。
図5は、車高が維持されるメカニズムを示す図である。
戻し路121aにより、後輪側切換弁170が閉弁しているときにジャッキ室142内に液体が供給され続けても、供給された液体がシリンダ125内に戻されるので油圧ジャッキ143に対する支持部材141の位置、ひいてはシート19の高さ(車高)が維持される。
【0026】
また、リヤサスペンション22は、車体フレーム11と後輪21との相対位置を検出する後輪側相対位置検出部195(図10参照)を有している。後輪側相対位置検出部195としては、油圧ジャッキ143に対する支持部材141の中心線方向への移動量、言い換えれば車体側取付部材180に対する支持部材141の中心線方向への移動量を検出する物であることを例示することができる。具体的には、支持部材141の外周面にコイルを巻くとともに、油圧ジャッキ143を磁性体とし、油圧ジャッキ143に対する支持部材141の中心線方向への移動に応じて変化するコイルのインピーダンスに基づいて支持部材141の移動量を検出する物であることを例示することができる。
【0027】
次に、フロントフォーク13について詳述する。
図6は、フロントフォーク13の断面図である。
フロントフォーク13は、車体フレーム11と前輪14との間に取り付かれている。そして、フロントフォーク13は、自動二輪車1の車重を支えて衝撃を吸収する前輪側懸架スプリング210と、前輪側懸架スプリング210の振動を減衰する前輪側ダンパ220と、を備えている。また、フロントフォーク13は、前輪側懸架スプリング210のバネ力を調整することで車体フレーム11と前輪14との相対的な位置である前輪側相対位置を変更可能な前輪側変更手段の一例としての前輪側相対位置変更装置240と、この前輪側相対位置変更装置240に液体を供給する前輪側液体供給装置260と、を備えている。また、フロントフォーク13は、このフロントフォーク13を前輪14に取り付けるための車軸側取付部285と、フロントフォーク13をヘッドパイプ12に取り付けるためのヘッドパイプ側取付部(不図示)と、を備えている。
【0028】
前輪側ダンパ220は、図6に示すように、薄肉円筒状の外シリンダ221と、円筒状の外シリンダ221の中心線方向(図6では上下方向)の他方の端部(図6では上部)から一方の端部が挿入された薄肉円筒状の内シリンダ222と、外シリンダ221の中心線方向の一方の端部(図6では下部)を塞ぐ底蓋223と、内シリンダ222の中心線方向の他方の端部(図6では上部)を塞ぐ上蓋224と、を有するシリンダ225を備えている。内シリンダ222は、外シリンダ221に対して摺動可能に挿入されている。
【0029】
また、前輪側ダンパ220は、中心線方向に延びるように底蓋223に取り付けられたピストンロッド227を備えている。ピストンロッド227は、中心線方向に延びる円筒状の円筒状部227aと、円筒状部227aにおける中心線方向の他方の端部(図6では上部)に設けられた円板状のブランジ部227bとを有する。
また、前輪側ダンパ220は、内シリンダ222における中心線方向の一方の端部側(図6では下部側)に固定されるとともに、ピストンロッド227の円筒状部227aの外周に対して摺動可能なピストン226を備えている。ピストン226は、ピストンロッド227の円筒状部227aの外周面に接触し、シリンダ225内の液体(本実施の形態においてはオイル)が封入された空間を、ピストン226よりも中心線方向の一方の端部側の第1油室R1と、ピストン226よりも中心線方向の他方の端部側の第2油室R2とに区分する。
【0030】
また、前輪側ダンパ220は、ピストンロッド227の上方に設けられてピストンロッド227の円筒状部227aの開口を覆う覆い部材230を備えている。覆い部材230は、前輪側懸架スプリング210における中心線方向の一方の端部(図6では下端部)を支持する。そして、前輪側ダンパ220は、内シリンダ222内における覆い部材230よりも中心線方向の他方の端部側の空間およびピストンロッド227の円筒状部227aの内部の空間に形成された油溜室R3を有している。油溜室R3は、常に第1油室R1および第2油室R2と連通している。
【0031】
また、前輪側ダンパ220は、ピストン226に設けられた第1減衰力発生部228と、ピストンロッド227に形成された第2減衰力発生部229とを備えている。第1減衰力発生部228および第2減衰力発生部229は、前輪側懸架スプリング210による路面からの衝撃力の吸収に伴う内シリンダ222とピストンロッド227との伸縮振動を減衰する。第1減衰力発生部228は、第1油室R1と第2油室R2との間の連絡路として機能するように配置されており、第2減衰力発生部229は、第1油室R1、第2油室R2と油溜室R3との間の連絡路として機能するように形成されている。
【0032】
前輪側液体供給装置260は、内シリンダ222に対するピストンロッド227の伸縮動によりポンピング動作して前輪側相対位置変更装置240の後述するジャッキ室242内に液体を供給する装置である。
前輪側液体供給装置260は、前輪側ダンパ220の覆い部材230に中心線方向に延びるように固定された円筒状のパイプ261を有している。パイプ261は、後述する前輪側相対位置変更装置240の支持部材241の下側円筒状部241aの内部であるポンプ室262内に同軸的に挿入されている。
【0033】
また、前輪側液体供給装置260は、内シリンダ222に進入する方向のピストンロッド227の移動により加圧されたポンプ室262内の液体を後述するジャッキ室242側へ吐出させる吐出用チェック弁263と、内シリンダ222から退出する方向のピストンロッド227の移動により負圧になるポンプ室262に油溜室R3内の液体を吸い込む吸込用チェック弁264とを有する。
【0034】
図7は、前輪側液体供給装置260の作用を説明するための図である。
以上のように構成された前輪側液体供給装置260は、自動二輪車1が走行してフロントフォーク13が路面の凹凸により力を受けて、ピストンロッド227が内シリンダ222に進退すると、パイプ261が前輪側相対位置変更装置240の支持部材241に進退することによりポンピング動作する。このポンピング動作により、ポンプ室262が加圧されると、ポンプ室262内の液体が吐出用チェック弁263を開いて前輪側相対位置変更装置240のジャッキ室242側へ吐出され(図7(a)参照)、ポンプ室262が負圧になると、油溜室R3内の液体が吸込用チェック弁264を開いてポンプ室262に吸い込まれる(図7(b)参照)。
【0035】
前輪側相対位置変更装置240は、前輪側ダンパ220の内シリンダ222内に配置されるとともに、円板状のスプリング受け244を介して前輪側懸架スプリング210における中心線方向の他方の端部(図6では上部)を支持する支持部材241を備えている。支持部材241は、中心線方向の一方の端部側(図6では下側)において円筒状に形成された下側円筒状部241aと、中心線方向の他方の端部側(図6では上側)において円筒状に形成された上側円筒状部241bとを有している。下側円筒状部241aには、パイプ261が挿入される。
【0036】
また、前輪側相対位置変更装置240は、支持部材241の上側円筒状部241b内に嵌め込まれて支持部材241とともにジャッキ室242を形成する油圧ジャッキ243を有している。ジャッキ室242内にシリンダ225内の液体が充填されたり、ジャッキ室242内から液体が排出されたりすることで、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向に移動する。そして、油圧ジャッキ243には、上部にヘッドパイプ側取付部(不図示)が取り付けられており、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向に移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ力が変わり、その結果、前輪14に対するシート19の相対的な位置が変わる。
【0037】
また、前輪側相対位置変更装置240は、ジャッキ室242に供給された液体をジャッキ室242に溜めるように閉弁するとともに、ジャッキ室242に供給された液体を油溜室R3に排出するように開弁する前輪側切換弁270を有している。前輪側切換弁270は、周知のソレノイドアクチュエータであることを例示することができる。
【0038】
図8は、前輪側相対位置変更装置240による車高調整を説明するための図である。
前輪側切換弁270が閉弁しているときに前輪側液体供給装置260によりジャッキ室242内に液体が供給されるとジャッキ室242内に液体が充填され、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の一方の端部側(図8では下側)に移動し、前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなる(図8(a)参照)。他方、前輪側切換弁270が開弁するとジャッキ室242内の液体は油溜室R3に排出され、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の他方の端部側(図8では上側)に移動し、前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなる(図8(b)参照)。
【0039】
支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて前輪側懸架スプリング210が支持部材241を押すバネ力が大きくなる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(図8では下側)に同じ力が作用した場合には、フロントフォーク13の沈み込み量(ヘッドパイプ側取付部(不図示)と車軸側取付部285との間の距離の変化)が小さくなる。それゆえ、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて、シート19の高さが上昇する(車高が高くなる)。つまり、前輪側切換弁270が閉弁されることで車高が高くなる。
【0040】
他方、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて前輪側懸架スプリング210が支持部材241を押すバネ力が小さくなる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(図8では下側)に同じ力が作用した場合には、フロントフォーク13の沈み込み量(ヘッドパイプ側取付部(不図示)と車軸側取付部285との間の距離の変化)が大きくなる。それゆえ、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて、シート19の高さが下降する(車高が低くなる)。つまり、前輪側切換弁270が開弁されることで、前輪側切換弁270が閉弁される場合よりも車高が低くなる。
なお、前輪側切換弁270は、制御装置50によりその開閉が制御される。
また、前輪側切換弁270が開いたときに、ジャッキ室242に供給された液体を排出する先は、第1油室R1および/または第2油室R2であってもよい。
【0041】
図9は、車高が維持されるメカニズムを示す図である。
油圧ジャッキ243の外周面には、図9に示すように、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の一方の端部側(図8では下側)に予め定められた限界位置まで移動したときに、ジャッキ室242内の液体を油溜室R3内まで戻す戻し路(不図示)が形成されている。
戻し路により、前輪側切換弁270が閉弁しているときにジャッキ室242内に液体が供給され続けても、供給された液体が油溜室R3内に戻されるので油圧ジャッキ243に対する支持部材241の位置、ひいてはシート19の高さ(車高)が維持される。
【0042】
また、フロントフォーク13は、車体フレーム11と前輪14との相対位置を検出する前輪側相対位置検出部295(図10参照)を有している。前輪側相対位置検出部295としては、油圧ジャッキ243に対する支持部材241の中心線方向への移動量、言い換えればヘッドパイプ側取付部に対する支持部材241の中心線方向への移動量を検出する物であることを例示することができる。具体的には、半径方向の位置では内シリンダ222の外周面であって、中心線方向の位置では支持部材241に対応する位置にコイルを巻くとともに、支持部材241を磁性体とし、油圧ジャッキ243に対する支持部材241の中心線方向への移動に応じて変化するコイルのインピーダンスに基づいて支持部材241の移動量を検出する物であることを例示することができる。
【0043】
次に、制御装置50について説明する。
図10は、制御装置50のブロック図である。
制御装置50は、CPUと、CPUにて実行されるプログラムや各種データ等が記憶されたROMと、CPUの作業用メモリ等として用いられるRAMと、EEPROM(Electrically Erasable & Programmable Read Only Memory)と、を備えている。制御装置50には、上述した前輪回転検出センサ31、後輪回転検出センサ32、前輪側相対位置検出部295および後輪側相対位置検出部195などからの出力信号が入力される。
【0044】
制御装置50は、前輪回転検出センサ31からの出力信号を基に前輪14の回転速度を演算する前輪回転速度演算部51と、後輪回転検出センサ32からの出力信号を基に後輪21の回転速度を演算する後輪回転速度演算部52と、を備えている。これら前輪回転速度演算部51、後輪回転速度演算部52は、それぞれ、センサからの出力信号であるパルス信号を基に回転角度を把握し、それを経過時間で微分することで回転速度を演算する。
【0045】
制御装置50は、前輪側相対位置検出部295からの出力信号を基に前輪側相対位置変更装置240(図8参照)の支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動量(以下では、「前輪側移動量Lf」と称す。)を把握する前輪側移動量把握部53を備えている。また、制御装置50は、後輪側相対位置検出部195からの出力信号を基に後輪側相対位置変更装置140の支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量(以下では、「後輪側移動量Lr」と称す。)を把握する後輪側移動量把握部54を備えている。前輪側移動量把握部53および後輪側移動量把握部54は、予めROMに記憶された、コイルのインピーダンスと、前輪側移動量Lfまたは後輪側移動量Lrとの相関関係に基づいて、それぞれ前輪側移動量Lf、後輪側移動量Lrを把握する。
【0046】
また、制御装置50は、前輪回転速度演算部51が演算した前輪14の回転速度および/または後輪回転速度演算部52が演算した後輪21の回転速度を基に自動二輪車1の移動速度である車速Vcを把握する車速把握部56を備えている。車速把握部56は、前輪回転速度Rfまたは後輪回転速度Rrを用いて前輪14または後輪21の移動速度を演算することにより車速Vcを把握する。前輪14の移動速度は、前輪回転速度Rfと前輪14のタイヤの外径とを用いて演算することができ、後輪21の移動速度は、後輪回転速度Rrと後輪21のタイヤの外径とを用いて演算することができる。そして、自動二輪車1が通常の状態で走行している場合には、車速Vcは、前輪14の移動速度および/または後輪21の移動速度と等しいと解することができる。また、車速把握部56は、前輪回転速度Rfと後輪回転速度Rrとの平均値を用いて前輪14と後輪21の平均の移動速度を演算することにより車速Vcを把握してもよい。
【0047】
また、制御装置50は、車速把握部56が把握した車速Vcに基づいて、前輪側相対位置変更装置240の前輪側切換弁270の開閉および後輪側相対位置変更装置140の後輪側切換弁170の開閉を制御する切換弁制御部57を有している。切換弁制御部57は、自動二輪車1が本格的に(基準車速Vt以上の速さで(基準車速Vtは自動二輪車1の仕様に依る))走行している間は車高を高くして操舵性を向上させ、乗員が乗り降りすると考えられるときには乗り降りを楽にするために車高を低くするように前輪側切換弁270の開閉および後輪側切換弁170の開閉を制御する。
【0048】
また、切換弁制御部57は、走行安定性が損なわれることを抑制するべく、前輪側相対位置変更装置240による車高の上昇速度と、後輪側相対位置変更装置140による車高の上昇速度とが予め定めた関係となるように前輪側切換弁270の開閉および後輪側切換弁170の開閉を制御する。予め定めた関係とは、自動二輪車1が平らな路面を走行している場合に、シート19の路面に対する角度を、車高が変化する前の状態を保たせながら変化させる理想関係であることを例示することができる。例えば、予め定めた関係(理想関係)とは、シート19の一部の面が路面に平行である場合には、そのシート19の一部の面が路面に平行な状態となるようにシート19の姿勢を保たせながら変化させる関係であることを例示することができる。なお、前輪側相対位置変更装置240による車高の上昇速度は、前輪側相対位置変更装置240の支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動速度と、後輪側相対位置変更装置140による車高の上昇速度は、後輪側相対位置変更装置140の支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動速度と、それぞれみなすことができる。本実施の形態に係る切換弁制御部57は、前輪側相対位置変更装置240の支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動速度である前輪側移動速度と、後輪側相対位置変更装置140の支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動速度である後輪側移動速度とが理想関係となるように、前輪側切換弁270の開閉および後輪側切換弁170の開閉を制御する。
【0049】
以下に、制御装置50の切換弁制御部57が行う後輪側切換弁170および前輪側切換弁270の開閉制御処理について詳しく説明する。
図11は、前輪側移動速度と後輪側移動速度との理想関係を示す図である。図11において、横軸は、自動二輪車1が所定の速度となり、車高を変更するべく前輪側切換弁270および後輪側切換弁170を閉じた後の経過時間であり、縦軸は、前輪側移動量Lfおよび後輪側移動量Lrである。
【0050】
図11に示した理想関係は、自動二輪車1が所定の速度となり、前輪側切換弁270および後輪側切換弁170を閉じた後(車高上昇開始後)、車高が最低位置から最高位置となるまでの間の前輪側移動速度と後輪側移動速度との比、言い換えればこの期間における任意の時間の前輪側移動量と後輪側移動量との比が所定値となるように定められている。なお、以下では、図11に示した前輪側移動速度、後輪側移動速度を、それぞれ前輪側理想速度、後輪側理想速度と称す。
【0051】
切換弁制御部57が、前輪側移動速度と後輪側移動速度とが理想関係となるように、前輪側切換弁270の開閉および後輪側切換弁170の開閉を制御したとしても、自動二輪車1の走行状況や路面状態などにより、前輪側移動速度と後輪側移動速度とが常に理想関係になるとは限らない。かかる場合、本実施の形態に係る切換弁制御部57は、任意の時間経過後の前輪側移動量Lfと後輪側移動量Lrとの比(Lf/Lr)が所定値(所定値を中心とした所定範囲でもよい)であるか否かを判断し、その比が所定値(所定値を中心とした所定範囲でもよい)ではない場合には、移動速度が遅い方に、速い方の移動速度を合わせるように制御する。
【0052】
図12は、本実施の形態に係る切換弁制御部57の制御態様を示す図である。図12において、車高が最高位置となるときの前輪側移動量をLft、後輪側移動量をLrtとする。これらの比(前輪側移動量Lft/後輪側移動量Lrt)が所定値となる。
本実施の形態に係る切換弁制御部57は、例えば、車高上昇開始後t1時間経過したときの前輪側移動量をLf1、後輪側移動量をLr1とした場合の、前輪側移動量Lf1と後輪側移動量Lr1との比(Lf1/Lr1)が所定値(所定値を中心とした所定範囲でもよい)よりも大きい場合には、前輪側移動速度の方が後輪側移動速度よりも速いと判断する。かかる場合、切換弁制御部57は、前輪側移動速度を後輪側移動速度に合わせるべく、前輪側移動量Lfを補正するために前輪側切換弁270を開く。そして、前輪側移動量Lfと後輪側移動量Lrとの比が所定値となったら前輪側切換弁270を閉じる。
【0053】
また、本実施の形態に係る切換弁制御部57は、例えば、車高上昇開始後t2時間経過したときの前輪側移動量をLf2、後輪側移動量をLr2とした場合の、前輪側移動量Lf2と後輪側移動量Lr2との比(Lf2/Lr2)が所定値(所定値を中心とした所定範囲でもよい)よりも小さい場合には、後輪側移動速度の方が前輪側移動速度よりも速いと判断する。かかる場合、切換弁制御部57は、後輪側移動速度を前輪側移動速度に合わせるべく、後輪側移動量を補正するために後輪側切換弁170を開く。そして、前輪側移動量と後輪側移動量との比が所定値(所定値を中心とした所定範囲でもよい)となったら後輪側切換弁170を閉じる。
【0054】
また、本実施の形態に係る切換弁制御部57は、例えば、車高上昇開始後t3時間経過したときの前輪側移動量をLf3、後輪側移動量をLr3とした場合の、前輪側移動量Lf3と後輪側移動量Lr3との比(Lf3/Lr3)が所定値(所定値を中心とした所定範囲でもよい)である場合には、前輪側移動速度と後輪側移動速度とが同じであると判断する。かかる場合、切換弁制御部57は、前輪側移動速度、後輪側移動速度が、それぞれ前輪側理想速度、後輪側理想速度と異なっているとしても、前輪側切換弁270、後輪側切換弁170を閉じたままとする。
【0055】
次に、フローチャートを用いて、切換弁制御部57が行う開閉制御処理の手順について説明する。
図13は、切換弁制御部57が行う開閉制御処理の手順を示すフローチャートである。切換弁制御部57は、この開閉制御処理を予め定めた期間毎に繰り返し実行する。
【0056】
先ず、切換弁制御部57は、RAMに記憶された、自動二輪車1の車速Vcを読み込むことにより取得する(S1301)。その後、S1301にて取得した車速Vcが基準車速Vt以上であるか否かを判別する(S1302)。そして、車速Vcが基準車速Vt以上である場合(S1302でYES)、前輪側切換弁270および後輪側切換弁170を閉じ(S1303)、RAMに、後述する前後調整処理を行う必要がある旨を示す前後調整フラグをONに設定する(S1304)。他方、車速Vcが基準車速Vt以上ではない場合(S1302でNO)、前輪側切換弁270および後輪側切換弁170を開き(S1305)、RAMに、前後調整フラグをOFFに設定する(S1306)。
【0057】
なお、前輪回転速度演算部51、後輪回転速度演算部52および車速把握部56は、それぞれ切換弁制御部57がこの開閉制御処理を実行する周期以下の周期で前輪回転速度Rf、後輪回転速度Rrおよび車速Vcを演算し、RAMに記憶する。また、上記基準車速Vtは、ROMに予め記憶されている。
【0058】
次に、フローチャートを用いて、切換弁制御部57が行う前後調整処理の手順について説明する。
図14は、切換弁制御部57が行う前後調整処理の手順を示すフローチャートである。切換弁制御部57は、この前後調整処理を予め定めた期間毎に繰り返し実行する。
【0059】
先ず、切換弁制御部57は、RAMにおいてセットされる前後調整フラグがONになっているか否かを調べる(S1401)。そして、前後調整フラグがONになっている場合(S1401でYES)、RAMに記憶された、前輪側移動量Lfおよび後輪側移動量Lrを読み込むことにより取得する(S1402)。そして、前輪側移動量Lfと後輪側移動量Lrとの比(Lf/Lr)が所定値を中心とした所定範囲であるか否かを判断する(S1403)。つまり、前輪側移動量Lfと後輪側移動量Lrとの比(Lf/Lr)が所定範囲における下限値以上でありかつ所定範囲における上限値以下であるか否かを判断する。そして、前輪側移動量Lfと後輪側移動量Lrとの比(Lf/Lr)が所定範囲である場合(S1403でYES)、前輪側移動量Lfが最大値Lftおよび後輪側移動量Lrが最大値Lrtであるか否かを判断する(S1404)。そして、前輪側移動量Lfが最大値Lftおよび後輪側移動量Lrが最大値Lrtである場合(S1404でYES)、車高が最高位置であるので本処理の実行を終了する。
【0060】
他方、前輪側移動量Lfと後輪側移動量Lrとの比(Lf/Lr)が所定値ではない場合(S1403でNO)、前輪側移動量Lfと後輪側移動量Lrとの比(Lf/Lr)が所定範囲における上限値よりも大きいか否かを判断する(S1405)。そして、前輪側移動量Lfと後輪側移動量Lrとの比(Lf/Lr)が上限値よりも大きい場合(S1405でYES)、前輪側切換弁270を開く(S1406)。一方、前輪側移動量Lfと後輪側移動量Lrとの比(Lf/Lr)が上限値よりも大きくない場合(S1405でNO)、前輪側移動量Lfと後輪側移動量Lrとの比(Lf/Lr)が所定値よりも小さいので、後輪側切換弁170を開く(S1407)。S1406にて前輪側切換弁270を開いた後、およびS1407にて後輪側切換弁170を開いた後は、S1401以降の処理を実行する。
【0061】
なお、前輪側移動量把握部53および後輪側移動量把握部54は、それぞれ切換弁制御部57がこの前後調整処理を実行する周期以下の周期で前輪側移動量Lfおよび後輪側移動量Lrを演算し、RAMに記憶する。また、上記所定値を中心とした所定範囲、最大値Lrt、最大値Lftは、ROMに予め記憶されている。
【0062】
このように、制御装置50の切換弁制御部57がこの前後調整処理を行うことにより、制御装置50は、前輪側相対位置変更装置240による車高の上昇速度と、後輪側相対位置変更装置140による車高の上昇速度とが予め定めた関係となるように精度高く車高を上昇することができる。これにより、車高の調整過程においても車体フレーム11(シート19)の姿勢を維持することができる。その結果、車高を調整したとしても走行安定性が損なわれることを抑制することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…自動二輪車、11…車体フレーム、13…フロントフォーク、14…前輪、21…後輪、22…リヤサスペンション、50…制御装置、56…車速把握部、57…切換弁制御部、110…後輪側懸架スプリング、120…後輪側ダンパ、140…後輪側相対位置変更装置、160…後輪側液体供給装置、170…後輪側切換弁、210…前輪側懸架スプリング、220…前輪側ダンパ、240…前輪側相対位置変更装置、260…前輪側液体供給装置、270…前輪側切換弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14