特許第5972147号(P5972147)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5972147タイヤ構成部材の貼着状態判定方法、判定装置、判定プログラム、タイヤ成形条件の導出方法、導出装置、及び導出プログラム。
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972147
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】タイヤ構成部材の貼着状態判定方法、判定装置、判定プログラム、タイヤ成形条件の導出方法、導出装置、及び導出プログラム。
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20160804BHJP
   B29D 30/00 20060101ALI20160804BHJP
   G06F 17/50 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   B60C19/00 Z
   B29D30/00
   G06F17/50 612H
   G06F17/50 680Z
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-246402(P2012-246402)
(22)【出願日】2012年11月8日
(65)【公開番号】特開2014-94479(P2014-94479A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 寿
【審査官】 馳平 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−320287(JP,A)
【文献】 特開平04−019130(JP,A)
【文献】 特開2008−302828(JP,A)
【文献】 特開2011−230424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00〜99/00
B29D 30/00〜30/72
G06F 17/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを構成するケース及びビードフィラを、与えられた成形条件に基づき貼着する場合に、両部材の貼着状態をコンピュータシミュレーションを用いてコンピュータが判定する方法であって、
前記ケース及びビードフィラを含むタイヤ構成部材をモデル化した、ケースモデル及びビードフィラモデルを含む各々の部材モデルを生成するステップと、
前記ビードフィラモデルのタイヤ幅方向外側面又は内側面のうち貼着状態の評価対象となる面に、タイヤ径方向に沿って並ぶ少なくとも2つの観測点を設定するステップと、
前記ケースモデルの端部を折り返して前記ビードフィラモデルに巻き上げ、前記ケースモデルを前記ビードフィラモデルに貼着する成形工程を、前記与えられた成形条件に基づきコンピュータシミュレーションにて再現するステップと、
前記シミュレーションによる再現結果に基づき巻き上げ前から巻き上げ後までの所定観測期間に、前記観測点に作用する接触圧力を有限要素法による数値解析を用いて算出するステップと、
前記所定の観測期間において、前記観測点の接触圧力が上昇する順序、各々の観測点の接触圧力の最大値及び各々の観測点の接触圧力の累積値のいずれもが予め定めた判定条件を満たす場合に、前記貼着状態が良好であると判定する一方で、前記順序、前記最大値及び前記累積値のいずれかが前記判定条件を満たさない場合に、前記貼着状態が不良であると判定するステップと、
を含むことを特徴とするタイヤ構成部材の貼着状態判定方法。
【請求項2】
成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出する方法であって、
前記両動作に関する初期値を評価対象となる成形条件の一つとして設定するステップと、
評価対象となる成形条件に基づき請求項1に記載のタイヤ構成部材の貼着状態判定方法を実行して貼着状態を判定し、貼着状態が不良であると判定されるときは、評価対象となる成形条件を補正して、貼着状態が良好であると判定されるまで上記貼着状態の判定を繰り返すステップと、を含み、
前記観測点の接触圧力が上昇する順序または各々の観測点の接触圧力の最大値のいずれかが前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を遅らせるように前記成形条件を補正する一方、前記各々の観測点の接触圧力の累積値が前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を早めるように前記成形条件を補正することを特徴とするタイヤ成形条件の導出方法。
【請求項3】
成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出する方法であって、
評価対象となる複数の成形条件に基づき請求項1に記載のタイヤ構成部材の貼着状態判定方法を実行して貼着状態を判定し、貼着状態が良好である成形条件を複数導出するステップと、
前記複数の成形条件のうち各々の観測点の接触圧力の累積値が最大となる成形条件を抽出するステップと、
を含むことを特徴とするタイヤ成形条件の導出方法。
【請求項4】
タイヤを構成するケース及びビードフィラを、与えられた成形条件に基づき貼着する場合に、両部材の貼着状態をコンピュータシミュレーションを用いて判定する装置であって、
前記ケース及びビードフィラを含むタイヤ構成部材をモデル化した、ケースモデル及びビードフィラモデルを含む各々の部材モデルを生成するモデル生成部と、
前記ビードフィラモデルのタイヤ幅方向外側面又は内側面のうち貼着状態の評価対象となる面に、タイヤ径方向に沿って並ぶ少なくとも2つの観測点を設定する観測点設定部と、
前記ケースモデルの端部を折り返して前記ビードフィラモデルに巻き上げ、前記ケースモデルを前記ビードフィラモデルに貼着する成形工程を、前記与えられた成形条件に基づきコンピュータシミュレーションにて再現するシミュレーション部と、
前記シミュレーションによる再現結果に基づき巻き上げ前から巻き上げ後までの所定観測期間に、前記観測点に作用する接触圧力を有限要素法による数値解析を用いて算出する物理量算出部と、
前記所定の観測期間において、前記観測点の接触圧力が上昇する順序、各々の観測点の接触圧力の最大値及び各々の観測点の接触圧力の累積値のいずれもが予め定めた判定条件を満たす場合に、前記貼着状態が良好であると判定する一方で、前記順序、前記最大値及び前記累積値のいずれかが前記判定条件を満たさない場合に、前記貼着状態が不良であると判定する判定部と、
を備えることを特徴とするタイヤ構成部材の貼着状態判定装置。
【請求項5】
成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出する装置であって、
評価対象となる成形条件の一つとして前記両動作の初期値を設定する設定部と、
評価対象となる成形条件に基づき請求項4に記載のタイヤ構成部材の貼着状態判定装置を用いて貼着状態を判定し、貼着状態が不良であると判定されるときは、評価対象となる成形条件を補正して、貼着状態が良好であると判定されるまで上記貼着状態の判定を繰り返す制御部と、を備え、
前記制御部は、前記観測点の接触圧力が上昇する順序または各々の観測点の接触圧力の最大値のいずれかが前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を遅らせるように前記成形条件を補正する一方、前記各々の観測点の接触圧力の累積値が前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を早めるように前記成形条件を補正することを特徴とするタイヤ成形条件の導出装置。
【請求項6】
成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出する装置であって、
評価対象となる複数の成形条件に基づき請求項4に記載のタイヤ構成部材の貼着状態判定装置を用いて貼着状態を判定し、貼着状態が良好である成形条件を複数導出し、前記複数の成形条件のうち各々の観測点の接触圧力の累積値が最大となる成形条件を抽出する制御部
を備えることを特徴とするタイヤ成形条件の導出装置。
【請求項7】
タイヤを構成するケース及びビードフィラを、与えられた成形条件に基づき貼着する場合に、両部材の貼着状態をコンピュータシミュレーションを用いて判定するプログラムであって、
前記ケース及びビードフィラを含むタイヤ構成部材をモデル化した、ケースモデル及びビードフィラモデルを含む各々の部材モデルを設定するステップと、
前記ビードフィラモデルのタイヤ幅方向外側面又は内側面のうち貼着状態の評価対象となる面に、タイヤ径方向に沿って並ぶ少なくとも2つの観測点を設定するステップと、
前記ケースモデルの端部を折り返して前記ビードフィラモデルに巻き上げ、前記ケースモデルを前記ビードフィラモデルに貼着する成形工程を、前記与えられた成形条件に基づきコンピュータシミュレーションにて再現するステップと、
前記シミュレーションによる再現結果に基づき巻き上げ前から巻き上げ後までの所定観測期間に、前記観測点に作用する接触圧力を有限要素法による数値解析を用いて算出するステップと、
前記所定の観測期間において、前記観測点の接触圧力が上昇する順序、各々の観測点の接触圧力の最大値及び各々の観測点の接触圧力の累積値のいずれもが予め定めた判定条件を満たす場合に、前記貼着状態が良好であると判定する一方で、前記順序、前記最大値及び前記累積値のいずれかが前記判定条件を満たさない場合に、前記貼着状態が不良であると判定するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とするタイヤ構成部材の貼着状態判定プログラム。
【請求項8】
成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出するプログラムであって、
前記開始タイミングの初期値を評価対象となる成形条件の一つとして設定するステップと、
評価対象となる成形条件に基づき請求項7に記載のタイヤ構成部材の貼着状態判定プログラムを実行して貼着状態を判定し、貼着状態が不良であると判定されるときは、評価対象となる成形条件を補正して、貼着状態が良好であると判定されるまで上記貼着状態の判定を繰り返すステップと、をコンピュータに実行させ、
前記観測点の接触圧力が上昇する順序または各々の観測点の接触圧力の最大値のいずれかが前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を遅らせるように前記成形条件を補正する一方、前記各々の観測点の接触圧力の累積値が前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を早めるように前記成形条件を補正することを特徴とするタイヤ成形条件の導出プログラム。
【請求項9】
成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出するプログラムであって、
評価対象となる複数の成形条件に基づき請求項7に記載のタイヤ構成部材の貼着状態判定プログラムを実行して貼着状態を判定し、貼着状態が良好である成形条件を複数導出するステップと、
前記複数の成形条件のうち各々の観測点の接触圧力の累積値が最大となる成形条件を抽出するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とするタイヤ成形条件の導出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ構成部材の貼着状態を判定する方法、判定装置、判定プログラム、タイヤ成形条件の導出方法、導出装置、及び導出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、図1にて子午線断面図を示すように、一対のビード部1と、ビード部1同士を接続するトロイド状のカーカス4とを有する。ビード部1は、円環状をなす断面三角状のビードフィラ11と、ビードフィラ11に接合されたビードコア10とを有する。カーカス4の端部は、ビードフィラ11及びビードコア10を挟み込むように折り返され、巻き上げられている。
【0003】
空気入りタイヤの製造工程の一工程として、カーカスを含む円筒状のケースの外周側にビードコア及びビードフィラを配置しておき、ケースの端部を折り返してビードフィラに巻き上げ、ケースをビードフィラに貼着するターンナップとも呼ばれる貼着工程がある。
【0004】
この貼着工程では、特許文献1に例示されるように、成形ドラムと、この成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びバルーンとしてのサイドブラダと、を備えるタイヤ成形装置が用いられる。この成形装置は、成形ドラム回りに配置した円筒状のケースの外周側にビードコア及びビードフィラを配置した状態で、ケースを介してビードコアを保持するビードロック同士の近接動作と、サイドブラダの膨張動作とを行うことにより、ケースの端部を折り返してビードフィラに貼着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−230424号公報
【特許文献2】特開2003−225952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ビードロック同士の近接動作およびサイドブラダの膨張動作の動作タイミング等で規定される成形条件によっては、ケースとビードフィラとの間にエアを巻き込み、タイヤが不良品となる事態を招来してしまう場合がある。そのために、ビードフィラとケースとの適切な貼着を実現する成形条件を導出する必要がある。
【0007】
適切な貼着を実現する成形条件は、実物を製造する試作の繰り返しで導出することも可能であるが、コストを要するため、タイヤを構成する各部材をモデル化して、コンピュータを用いたシミュレーションにより導出することが好ましいと考えられる。
【0008】
しかしながら、与えられた成形条件に基づきコンピュータシミュレーション上で貼着したケースとビードフィラの貼着状態の良否を判定する技術、及び、良好な貼着状態を得られる成形条件を導出する技術に関し、従来技術として文献に開示も示唆もされていないようである。
【0009】
なお、上記貼着工程と直接の関係がないが、参考となるものとして、特許文献2には、タイヤの製造工程の一工程である加硫工程を、有限要素法解析(FEM)によるシミュレーションを用いて解析することが記載されている。
【0010】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、与えられた成形条件に基づきケースとビードフィラとを貼着する場合に、両部材の貼着状態をコンピュータシミュレーションを用いて判定するタイヤ構成部材の貼着状態判定方法、判定装置及び判定プログラムを提供すること、及び、良好な貼着状態を得られる成形条件をコンピュータシミュレーションにより導出する方法、導出装置及び導出プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0012】
すなわち、本発明のタイヤ構成部材の貼着状態判定方法は、タイヤを構成するケース及びビードフィラを、与えられた成形条件に基づき貼着する場合に、両部材の貼着状態をコンピュータシミュレーションを用いてコンピュータが判定する方法であって、
前記ケース及びビードフィラを含むタイヤ構成部材をモデル化した、ケースモデル及びビードフィラモデルを含む各々の部材モデルを生成するステップと、
前記ビードフィラモデルのタイヤ幅方向外側面又は内側面のうち貼着状態の評価対象となる面に、タイヤ径方向に沿って並ぶ少なくとも2つの観測点を設定するステップと、
前記ケースモデルの端部を折り返して前記ビードフィラモデルに巻き上げ、前記ケースモデルを前記ビードフィラモデルに貼着する成形工程を、前記与えられた成形条件に基づきコンピュータシミュレーションにて再現するステップと、
前記シミュレーションによる再現結果に基づき巻き上げ前から巻き上げ後までの所定観測期間に、前記観測点に作用する接触圧力を有限要素法による数値解析を用いて算出するステップと、
前記所定の観測期間において、前記観測点の接触圧力が上昇する順序、各々の観測点の接触圧力の最大値及び各々の観測点の接触圧力の累積値のいずれもが予め定めた判定条件を満たす場合に、前記貼着状態が良好であると判定する一方で、前記順序、前記最大値及び前記累積値のいずれかが前記判定条件を満たさない場合に、前記貼着状態が不良であると判定するステップと、
を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明のタイヤ構成部材の貼着状態判定装置は、タイヤを構成するケース及びビードフィラを、与えられた成形条件に基づき貼着する場合に、両部材の貼着状態をコンピュータシミュレーションを用いて判定する装置であって、
前記ケース及びビードフィラを含むタイヤ構成部材をモデル化した、ケースモデル及びビードフィラモデルを含む各々の部材モデルを生成するモデル生成部と、
前記ビードフィラモデルのタイヤ幅方向外側面又は内側面のうち貼着状態の評価対象となる面に、タイヤ径方向に沿って並ぶ少なくとも2つの観測点を設定する観測点設定部と、
前記ケースモデルの端部を折り返して前記ビードフィラモデルに巻き上げ、前記ケースモデルを前記ビードフィラモデルに貼着する成形工程を、前記与えられた成形条件に基づきコンピュータシミュレーションにて再現するシミュレーション部と、
前記シミュレーションによる再現結果に基づき巻き上げ前から巻き上げ後までの所定観測期間に、前記観測点に作用する接触圧力を有限要素法による数値解析を用いて算出する物理量算出部と、
前記所定の観測期間において、前記観測点の接触圧力が上昇する順序、各々の観測点の接触圧力の最大値及び各々の観測点の接触圧力の累積値のいずれもが予め定めた判定条件を満たす場合に、前記貼着状態が良好であると判定する一方で、前記順序、前記最大値及び前記累積値のいずれかが前記判定条件を満たさない場合に、前記貼着状態が不良であると判定する判定部と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
このように、ビードフィラモデルのうち貼着状態の評価対象となる面に少なくとも2つの観測点を設け、所定観測期間に観測点に作用する接触圧力を算出し、観測点の接地圧力の上昇順序を判定条件の一つにしているので、例えばビードフィラのタイヤ径方向内側よりも先に外側にケースが接触してエアを抱き込んでしまう場合を貼着不良と適切に判定することが可能となる。さらに、各観測点における接触圧力の最大値を判定条件の一つとしているので、例えば両部材が十分に接触していない場合を貼着不良と適切に判定することが可能となる。さらに、各観測点における接触圧力の累積値を判定条件の一つにしているので、例えば両部材が一旦は接触したものの両部材に離れる方向の力が強く働いて離間してしまう場合などを貼着不良と判定することが可能となる。したがって、3つの指標により貼着状態を適切に判定することが可能となる。
【0015】
本発明のタイヤ成形条件の導出方法は、成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出する方法であって、
前記両動作に関する初期値を評価対象となる成形条件の一つとして設定するステップと、
評価対象となる成形条件に基づき請求項1に記載のタイヤ構成部材の貼着状態判定方法を実行して貼着状態を判定し、貼着状態が不良であると判定されるときは、評価対象となる成形条件を補正して、貼着状態が良好であると判定されるまで上記貼着状態の判定を繰り返すステップと、を含み、
前記観測点の接触圧力が上昇する順序または各々の観測点の接触圧力の最大値のいずれかが前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を遅らせるように前記成形条件を補正する一方、前記各々の観測点の接触圧力の累積値が前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を早めるように前記成形条件を補正することを特徴とする。
【0016】
また、本発明のタイヤ成形条件の導出装置は、成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出する装置であって、
評価対象となる成形条件の一つとして前記両動作の初期値を設定する設定部と、
評価対象となる成形条件に基づき上記貼着状態判定装置を用いて貼着状態を判定し、貼着状態が不良であると判定されるときは、評価対象となる成形条件を補正して、貼着状態が良好であると判定されるまで上記貼着状態の判定を繰り返す制御部と、を備え、
前記制御部は、前記観測点の接触圧力が上昇する順序または各々の観測点の接触圧力の最大値のいずれかが前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を遅らせるように前記成形条件を補正する一方、前記各々の観測点の接触圧力の累積値が前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を早めるように前記成形条件を補正することを特徴とする。
【0017】
上記貼着状態の判定方法を用いることで、接触順序および接触圧力の最大値が判定条件を満たさない場合は、ビードロック同士の近接動作に対してサイドブラダの膨張動作の開始が早すぎるのが原因と判明し、接触圧力の累積値が判定条件を満たさない場合には、ビードロック同士の近接動作に対してサイドブラダの膨張動作の開始が遅すぎるのが原因と判明した。このような新たな知見に基づき、評価対象となる成形条件を補正するので、闇雲に成形条件を設定する場合に比べて計算コストを低減して、良好な成形条件を早く得ることが可能となる。
【0018】
本発明のタイヤ成形条件の導出方法は、成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出する方法であって、
評価対象となる複数の成形条件に基づき請求項1に記載のタイヤ構成部材の貼着状態判定方法を実行して貼着状態を判定し、貼着状態が良好である成形条件を複数導出するステップと、
前記複数の成形条件のうち各々の観測点の接触圧力の累積値が最大となる成形条件を抽出するステップと、
を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明のタイヤ成形条件の導出装置は、成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出する装置であって、
評価対象となる複数の成形条件に基づき上記貼着状態判定装置を用いて貼着状態を判定し、貼着状態が良好である成形条件を複数導出し、前記複数の成形条件のうち各々の観測点の接触圧力の累積値が最大となる成形条件を抽出する制御部
を備えることを特徴とする。
【0020】
観測点の接触圧力の累積値が最大となることは、当該観測点が十分に押さえられていることを意味する。したがって、このような知見に基づき、複数の成形条件のうち各々の観測点の接触圧力の累積値が最大となる成形条件を抽出することで、その中で貼着状態が最良の成形条件を導出することが可能となる。
【0021】
本発明は、上記方法を構成するステップを、プログラムの観点から特定することも可能である。
【0022】
すなわち、本発明のタイヤ構成部材の貼着状態判定プログラムは、タイヤを構成するケース及びビードフィラを、与えられた成形条件に基づき貼着する場合に、両部材の貼着状態をコンピュータシミュレーションを用いて判定するプログラムであって、
前記ケース及びビードフィラを含むタイヤ構成部材をモデル化した、ケースモデル及びビードフィラモデルを含む各々の部材モデルを設定するステップと、
前記ビードフィラモデルのタイヤ幅方向外側面又は内側面のうち貼着状態の評価対象となる面に、タイヤ径方向に沿って並ぶ少なくとも2つの観測点を設定するステップと、
前記ケースモデルの端部を折り返して前記ビードフィラモデルに巻き上げ、前記ケースモデルを前記ビードフィラモデルに貼着する成形工程を、前記与えられた成形条件に基づきコンピュータシミュレーションにて再現するステップと、
前記シミュレーションによる再現結果に基づき巻き上げ前から巻き上げ後までの所定観測期間に、前記観測点に作用する接触圧力を有限要素法による数値解析を用いて算出するステップと、
前記所定の観測期間において、前記観測点の接触圧力が上昇する順序、各々の観測点の接触圧力の最大値及び各々の観測点の接触圧力の累積値のいずれもが予め定めた判定条件を満たす場合に、前記貼着状態が良好であると判定する一方で、前記順序、前記最大値及び前記累積値のいずれかが前記判定条件を満たさない場合に、前記貼着状態が不良であると判定するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする。このプログラムを実行することによっても、上記方法が奏する作用効果を得ることができる。
【0023】
本発明のタイヤ成形条件の導出プログラムは、成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出するプログラムであって、
前記開始タイミングの初期値を評価対象となる成形条件の一つとして設定するステップと、
評価対象となる成形条件に基づき上記貼着状態判定プログラムを実行して貼着状態を判定し、貼着状態が不良であると判定されるときは、評価対象となる成形条件を補正して、貼着状態が良好であると判定されるまで上記貼着状態の判定を繰り返すステップと、をコンピュータに実行させ、
前記観測点の接触圧力が上昇する順序または各々の観測点の接触圧力の最大値のいずれかが前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を遅らせるように前記成形条件を補正する一方、前記各々の観測点の接触圧力の累積値が前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を早めるように前記成形条件を補正することを特徴とする。このプログラムを実行することによっても、上記方法が奏する作用効果を得ることができる。
【0024】
本発明のタイヤ成形条件の導出プログラムは、成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出するプログラムであって、
評価対象となる複数の成形条件に基づき上記貼着状態判定プログラムを実行して貼着状態を判定し、貼着状態が良好である成形条件を複数導出するステップと、
前記複数の成形条件のうち各々の観測点の接触圧力の累積値が最大となる成形条件を抽出するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする。このプログラムを実行することによっても、上記方法が奏する作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明において成形対象となる空気入りタイヤの基本構造を模式的に示す図。
図2A】成形装置及び成形工程を模式的に示す断面図。
図2B】成形装置及び成形工程を模式的に示す断面図。
図2C】成形装置及び成形工程を模式的に示す断面図。
図2D】成形装置及び成形工程を模式的に示す断面図。
図3】本発明に係るタイヤ構成部材の貼着状態判定装置及びタイヤ成形条件の導出装置を示すブロック図。
図4】ビードフィラモデル及びこれに設定される観測点に関する説明図。
図5】本発明の装置が実行する処理を表すフローチャート。
図6A】或る成形条件を示す図。
図6B】上記成形条件による各観測点の接触圧力を示す図。
図7A】他の成形条件を示す図。
図7B】上記成形条件による各観測点の接触圧力を示す図。
図8A】上記以外の成形条件を示す図。
図8B】上記成形条件による各観測点の接触圧力を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0027】
[空気入りタイヤの基本構造]
成形対象となる空気入りタイヤの基本構造は、図1に示すように、一対の環状のビード部1と、ビード部1からタイヤ径方向外側RD2へ延びるサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の外周側端に連なるトレッド部3と、その一対のビード部1の間に設けられるカーカス4とを備えたラジアルタイヤである。ビード部1は、ビードフィラ11と当該ビードフィラ11のタイヤ径方向内側RD1に設けられるビードコア10とを有する。カーカス4は、トロイド状をなし、その端部はビードコア10とビードフィラ11を挟み込むようにして折り返されている。
【0028】
[タイヤ成形装置]
上記空気入りタイヤを加硫する前のグリーンタイヤは、図2Aに示す成形装置5を用い、タイヤを構成する各部材を組み付けて成形される。図2Aに示すように、成形装置5は、成形ドラム50と、成形ドラム50の側部に位置する一対のビードロック51及びバルーンとしてのサイドブラダ52とを有する。成形装置5は、図2A〜Dに示すように、成形ドラム50回りに配置した円筒状のケース40の外周面にビードコア10及びビードフィラ11を配置した状態で、図示しないブラダによりケース40をカーカス状に保持しつつ、ケース40を介してビードコア10を保持するビードロック51・51同士の近接動作と、サイドブラダ52の膨張動作とを行うことにより、ケース40の端部40aを折り返してビードフィラ11に接着剤を用いて貼着する貼着工程を実行する。
【0029】
[タイヤ構成部材の貼着状態判定装置、タイヤ成形条件の導出装置]
図3に示すタイヤ成形条件の導出装置6は、後述するタイヤ構造部材の貼着状態判定装置7を用いて、ケース40及びビードフィラ11の良好な貼着状態が得られる成形条件を導出する装置である。成形条件には、例えば、上記成形装置5のビードロック51・51同士の近接動作、及びサイドブラダ52の膨張動作が挙げられる。
【0030】
タイヤ構成部材の貼着状態判定装置7は、上記タイヤを構成するケース40及びビードフィラ11を、導出装置6によって与えられた成形条件に基づき成形する場合に、両部材の貼着状態をコンピュータシミュレーションを用いて判定するための装置である。
【0031】
具体的に、タイヤ構成部材の貼着状態判定装置7は、図3に示すように、モデル生成部70と、観測点設定部71と、シミュレーション部72と、物理量算出部73と、判定部74とを有する。タイヤ成形条件の導出装置6は、同図に示すように、上記貼着状態判定装置7と、貼着状態判定装置7に対し評価対象となる成形条件の一つとして両動作の初期値を与える設定部60と、成形条件を導出するために各部の動作を制御する制御部61とを有する。これら各部60,61、70〜74は、CPU、メモリ、各種インターフェイス等を備えたパソコン等の情報処理装置においてCPUが予め記憶されている図示しない処理ルーチンを実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。なお、本実施形態では、貼着状態判定装置7及び導出装置6を共にコンピュータ上に実現しているが、例えば貼着状態判定装置7を単独で実現してもよい。
【0032】
モデル生成部70は、例えば図2Aの断面図で示すように、ケース40及びビードフィラ11を含むタイヤ構成部材をモデル化した、ケースモデル及びビードフィラモデルを含む各々の部材モデルを生成する。これに併せて成形装置5のモデルも生成する。ここでは、有限要素法(FEM)によるシミュレートを実施するために、各部材の断面形状を有限個の要素でモデル化したFEMモデルを生成する。各部材には、形状の数値データや材料定数の数値データが設定されている。各モデルは、ユーザ等により予め設定されている。
【0033】
観測点設定部71は、図4に示すように、ビードフィラモデル11のタイヤ幅方向外側WD2の面又はタイヤ幅方向内側WD1の面のうち貼着状態の評価対象となる面に、タイヤ径方向に沿って並ぶ少なくとも2つの観測点を設定する。本実施形態では、ビードフィラモデル11のタイヤ幅方向外側面を評価対象の面とし、この面に3つの観測点(m1、m2、m3)を設定している。3つの観測点(m1、m2、m3)は、互いにタイヤ径方向RDに離間した状態で、ビードフィラモデル11の下部、中部、上部にそれぞれ配置されている。ビードフィラモデル11のタイヤ径方向RDの高さに対し、上部の観測点m3はフィラ11の上端から10%の部位に配置され、中部の観測点m2はフィラ11の中間(上端から50%の部位)に配置され、下部の観測点m1はフィラ11の下端から10%の部位に配置されているが、これに限定されず、配置部位も適宜変更可能である。また、本実施形態では、観測点を3つ配置しているが、少なくとも2点あればよく、適宜変更可能である。例えば、2つ、4つ以上が挙げられる。さらに、本実施形態では、ビードフィラモデル11のタイヤ幅方向外側WD2の面にのみ観測点を設定しているが、タイヤ幅方向内側WD1の面に設定してもよく、両方の面にそれぞれ設定してもよい。ビードフィラモデル11とケース40の貼着工程では、ビードフィラモデル11のタイヤ幅方向外側WD2にエアを抱き込みやすいので、タイヤ幅方向外側WD2の面に観測点を設定するのが好ましい。なお、観測点の設定位置は、ユーザ等により予め設定されている。
【0034】
シミュレーション部72は、図2A〜Dに示すように、成形条件に基づいて成形装置5を構成するビードロック51やサイドブラダ52の駆動をシミュレートし、成形装置5の駆動によりケースモデル40の端部を折り返してビードフィラモデル11に巻き上げ、ケースモデル40をビードフィラモデル11に貼着する成形工程をコンピュータシミュレーションにより再現する。ここでは、部材同士が一度接触すると、その接触圧力が所定閾値th1以上で固着するとし、閾値th2以上のせん断応力が作用することで滑りが発生する摩擦条件に設定されている。これら閾値th1,th2は、予め設定されている。
【0035】
物理量算出部73は、シミュレーション部72による再現結果に基づいて巻き上げ前から巻き上げ後までの所定観測期間に、観測点(m1、m2、m3)に作用する接触圧力(P1、P2、P3)を有限要素法による数値解析を用いて算出する。所定観測期間は、シミュレーションにて複数の時点に分けて再現されているため、複数の時点毎に接触圧力が算出される。本実施形態では、所定観測期間は、ビードロック51の近接動作を開始した時点から、サイドブラダ52の内圧が所定圧力に達した時点までに設定されている。
【0036】
判定部74は、物理量算出部73の算出結果に基づいて貼着状態の良否を判定する。具体的には、判定部74は、所定の観測期間において、観測点(m1〜m3)の接触圧力が上昇する順序、各々の観測点(m1〜m3)の接触圧力の最大値及び各々の観測点(m1〜m3)の接触圧力の累積値のいずれもが予め定めた判定条件を満たす場合に、貼着状態が良好であると判定する。一方、上記順序、最大値又は累積値のいずれかが上記判定条件を満たさない場合に、貼着状態が不良であると判定する。
【0037】
具体的に、接触圧力の上昇順序に関する判定条件は、ビードフィラモデル11の下部から上部に向けて、観測点の圧力値が順に上昇することである。すなわち、まず観測点m1の圧力が上昇し、その後、観測点m2の圧力が上昇し、その後、観測点m3の圧力が上昇した場合のみ、判定条件を満たす。
【0038】
接触圧力の最大値に関する判定条件は、最大圧力が予め定めた閾値th1以上となることである。すなわち、全ての観測点について、各観測点の接触圧力の最大値Pmax≧閾値th1を満たす場合のみ、判定条件を満たす。
【0039】
接触圧力の累積値に関する判定条件は、接触圧力の累積値が予め定めた閾値th3以上になることである。すなわち、全ての観測点について、各観測点の接触圧力の累積値Psum≧閾値th3を満たす場合のみ、判定条件を満たす。
【0040】
設定部60は、キーボードやマウス等の既知の操作部を介してユーザからの操作を受け付け、ビードロック51及びサイドブラダ52の動作の初期値を成形条件の一つとして設定する。初期値としては、例えばサイドブラダ52の膨張動作の開始タイミングが、ビードロック51の近接動作の開始タイミングと同時に設定されているパターン、サイドブラダ52の膨張動作の開始タイミングが、ビードロック51の近接動作が終了した時点に設定されているパターンなど、種々のパターンが挙げられる。
【0041】
制御部61は、貼着状態判定装置7により貼着状態が不良であると判定される場合に、良好な成形条件が得られるように、貼着状態判定装置7に与える成形条件を補正する等、成形条件を導出するために各部を制御する。成形条件の補正について主に説明する。制御部61は、観測点の接触圧力が上昇する順序または各々の観測点の接触圧力の最大値のいずれかが判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、ビードロック51の近接動作に対してサイドブラダ52の膨張動作の開始を遅らせるように成形条件を補正する。一方、制御部61は、各々の観測点の接触圧力の累積値が判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、ビードロック51の近接動作に対してサイドブラダ52の膨張動作の開始を早めるように成形条件を補正する。
【0042】
[タイヤ構成部材の貼着状態判定方法、タイヤ成形条件の導出方法]
上記導出装置6及び貼着状態判定装置7を用いて、ビードフィラ11とケース40の貼着状態を判定する方法、及び、当該貼着状態が良好となるタイヤ成形条件を導出する方法を説明する。
【0043】
まず、ステップST1(図5参照)において、図3に示す設定部60は、操作部(図示せず)を介してユーザの操作を受け付け、評価対象となる成形条件の一つとして、ビードロック51の近接動作及びサイドブラダ52の膨張動作の初期値を設定する。本実施形態では、サイドブラダ52の膨張動作の開始タイミングが、ビードロック51の近接動作の開始タイミングと同時に設定されているパターンを初期値とした場合を例に挙げて説明する。
【0044】
次のステップST2(図5参照)において、図3に示すモデル生成部70は、ケース40及びビードフィラ11を含むタイヤ構成部材をモデル化した、ケースモデル及びビードフィラモデルを含む各々の部材モデルを生成する。具体的には、自然平衡状態の部材断面を標準形状とし、この標準形状を有限要素法によりモデル化して、内部構造を含む形状を表すと共にメッシュ分割によって複数の要素に分割されたFEMモデルを作成又は用意する。
【0045】
次のステップST3(図5参照)において、図3に示す観測点設定部71は、ユーザによる設定に従い、ビードフィラモデルのタイヤ幅方向外側面又は内側面のうち貼着状態の評価対象となる面に、タイヤ径方向に沿って並ぶ少なくとも2つの観測点を設定する。本実施形態では、図4に示すように、ビードフィラモデル11のタイヤ幅方向外側WD2の面が貼着状態の評価対象に設定されているので、当該面に、タイヤ径方向RDに沿って並ぶ3つの観測点m1〜m3が設定される。
【0046】
次のステップST4(図5参照)において、図3に示すシミュレーション部72は、ケースモデル40をビードフィラモデル11に貼着する成形工程(図2A〜D参照)を、設定部60により与えられた成形条件に基づきコンピュータシミュレーションにて再現する。
【0047】
次のステップST5(図5参照)において、図3に示す物理量算出部73は、シミュレーション部72の再現結果に基づき巻き上げ前から巻き上げ後までの所定観測期間に、観測点に作用する接触圧力を有限要素法による数値解析を用いて算出する。
【0048】
ステップST6(図5参照)において、判定部74は、観測点の接触圧力が上昇する順序が判定条件を満たすか否かを判定する。具体的には、まず観測点m1の圧力が上昇し、その後、観測点m2の圧力が上昇し、その後、観測点m3の圧力が上昇する場合に判定条件を満たすと判定する。また、ステップST7(図5参照)において、判定部74は、各々の観測点の接触圧力の最大値が判定条件(予め定めた閾値th1以上になる)を満たすか否かを判定する。また、ステップST8(図5参照)において、判定部74は、各々の観測点の接触圧力の累積値が判定条件(予め定めた閾値th3以上になる)を満たすか否かを判定する。
【0049】
図5に示すステップST6、ST7、ST8において、接触圧力の上昇順序、最大値及び累積値のいずれもが判定条件を満たすと判定部74が判定した場合(図5のステップST8:YES参照)には、次のステップST11において判定部74は、貼着状態が良好であると判定し、図3に示す制御部61は、当該成形条件が解であると導出する。
【0050】
図5に示すステップST6、ST7において、接触圧力の上昇順序及び最大値のいずれかが判定条件を満たさず、貼着状態が不良であると判定部74が判定した場合には、制御部61は、ステップST9において、ビードロック51の近接動作に対してサイドブラダ52の膨張動作の開始を遅らせるように、成形条件を補正し、ステップST4の実行に戻る。
【0051】
図5に示すステップST8において、接触圧力の累積値が判定条件を満たさず、貼着状態が不良であると判定部74が判定した場合には、制御部61は、ステップST10において、ビードロック51の近接動作に対してサイドブラダ52の膨張動作の開始を早めるように成形条件を補正し、ステップST4の実行に戻る。
【0052】
上記各々のステップの動作を例示して説明する。
物理量算出部73による算出結果を時間と関連づけてプロットすれば、図6Bに示すようになる。図6Bは、サイドブラダ52の膨張動作の開始タイミングが、ビードロック51の近接動作の開始タイミングと同時に設定されている場合(図6A参照)における各々の観測点に作用する接触圧力を示す図である。図6Bの例では、まず、観測点m2の接触圧力が上昇しているので、図5のステップST6又はST7にて貼着状態が不良と判定される。また、観測点m1の接触圧力の最大値が低く、閾値th1以上を満たさないため、貼着状態が不良と判定される。制御部61によって、サイドブラダ52の膨張動作の開始が遅れるように成形条件が補正される。
【0053】
図7Bは、図6Bの例よりもサイドブラダ52の膨張動作の開始タイミングを遅らせた例である(図7A参照)。図7Bの例では、観測点m1〜m3の上昇順序が適正であり、各々の観測点の接触圧力の最大値も予め定めた閾値th1以上であり、接触圧力の負値も抑制されて累積値も予め定めた閾値th3以上ある。これにより、図5のステップST6〜8にて貼着状態が良好であると判定される。
【0054】
図8Bは、サイドブラダ52の膨張動作の開始タイミングが、ビードロック51の近接動作が終了した時点に設定されている例である(図8A参照)。図8Bの例では、観測点m1〜m3の上昇順序が適正であり、各々の観測点の接触圧力の最大値も予め定めた閾値th1以上であるが、観測点m1の負値が大きいため、観測点m1の累積値が閾値th3未満となる。これにより、図5のステップST8にて貼着状態が不良であると判定される。
【0055】
図6〜8に示す3つの例を見れば、接触順序および接触圧力の最大値が判定条件を満たさない場合は、ビードロック51・51同士の近接動作に対してサイドブラダ52の膨張動作の開始が早すぎるのが原因であると分かる。接触圧力の累積値が判定条件を満たさない場合には、ビードロック51・51同士の近接動作に対してサイドブラダ52の膨張動作の開始が遅すぎるのが原因であると分かる。この知見を用いれば、最適な成形条件を導出することが可能となる。
【0056】
以上のように、本実施形態のタイヤ構成部材の貼着状態判定方法は、タイヤを構成するケース40及びビードフィラ11を、与えられた成形条件に基づき貼着する場合に、両部材の貼着状態をコンピュータシミュレーションを用いてコンピュータが判定する方法であって、
ケース40及びビードフィラ11を含むタイヤ構成部材をモデル化した、ケースモデル40及びビードフィラモデル11を含む各々の部材モデルを生成するステップ(ST2)と、
ビードフィラモデル11のタイヤ幅方向外側面又は内側面のうち貼着状態の評価対象となる面に、タイヤ径方向に沿って並ぶ3つの観測点(m1、m2、m3)を設定するステップ(ST3)と、
ケースモデル40の端部40aを折り返してビードフィラモデル11に巻き上げ、ケースモデル40をビードフィラモデル11に貼着する成形工程を、与えられた成形条件に基づきコンピュータシミュレーションにて再現するステップ(ST4)と、
シミュレーションによる再現結果に基づき巻き上げ前から巻き上げ後までの所定観測期間に、観測点m1〜m3に作用する接触圧力を有限要素法による数値解析を用いて算出するステップ(ST5)と、
所定の観測期間において、観測点の接触圧力が上昇する順序、各々の観測点の接触圧力の最大値及び各々の観測点の接触圧力の累積値のいずれもが予め定めた判定条件を満たす場合に、貼着状態が良好であると判定する一方で、順序、最大値及び累積値のいずれかが判定条件を満たさない場合に、貼着状態が不良であると判定するステップ(ST6〜8)と、を含む。
【0057】
また、本実施形態は装置発明としても特定可能である。すなわち、本実施形態のタイヤ構成部材の貼着状態判定装置7は、タイヤを構成するケース40及びビードフィラ11を、与えられた成形条件に基づき貼着する場合に、両部材の貼着状態をコンピュータシミュレーションを用いて判定する方法であって、
ケース40及びビードフィラ11を含むタイヤ構成部材をモデル化した、ケースモデル40及びビードフィラモデル11を含む各々の部材モデルを生成するモデル生成部70と、
ビードフィラモデル11のタイヤ幅方向外側面又は内側面のうち貼着状態の評価対象となる面に、タイヤ径方向RDに沿って並ぶ3つの観測点(m1、m2、m3)を設定する観測点設定部71と、
ケースモデル40の端部40aを折り返してビードフィラモデル11に巻き上げ、ケースモデル40をビードフィラモデル11に貼着する成形工程を、与えられた成形条件に基づきコンピュータシミュレーションにて再現するシミュレーション部72と、
シミュレーションによる再現結果に基づき巻き上げ前から巻き上げ後までの所定観測期間に、観測点m1〜m3に作用する接触圧力を有限要素法による数値解析を用いて算出する物理量算出部73と、
所定の観測期間において、観測点の接触圧力が上昇する順序、各々の観測点の接触圧力の最大値及び各々の観測点の接触圧力の累積値のいずれもが予め定めた判定条件を満たす場合に、貼着状態が良好であると判定する一方で、順序、前記最大値及び前記累積値のいずれかが判定条件を満たさない場合に、貼着状態が不良であると判定する判定部74と、
を備える。
【0058】
このように、ビードフィラモデル11のうち貼着状態の評価対象となる面に少なくとも2つの観測点を設け、所定観測期間に観測点に作用する接触圧力を算出し、観測点の接地圧力の上昇順序を判定条件の一つにしているので、例えばビードフィラ11のタイヤ径方向内側RD1よりも先に外側RD2にケース40が接触してエアを抱き込んでしまう場合を貼着不良と適切に判定することが可能となる。さらに、各観測点m1〜m3における接触圧力の最大値を判定条件の一つとしているので、例えば両部材が十分に接触していない場合を貼着不良と適切に判定することが可能となる。さらに、各観測点m1〜m3における接触圧力の累積値を判定条件の一つにしているので、例えば両部材が一旦は接触したものの両部材に離れる方向の力が強く働いて離間してしまう場合などを貼着不良と判定することが可能となる。したがって、3つの指標により貼着状態を適切に判定することが可能となる。
【0059】
本実施形態のタイヤ成形条件の導出方法は、成形ドラム50と、成形ドラム50の側部に位置する一対のビードロック51及びサイドブラダ52とを備える成形装置5を用いビードロック51・51同士の近接動作及びサイドブラダ52の膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース40及びビードフィラ11を貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出する方法であって、
両動作に関する初期値を評価対象となる成形条件の一つとして設定するステップ(ST2)と、
評価対象となる成形条件に基づき上記貼着状態判定方法を実行して貼着状態を判定し、貼着状態が不良であると判定されるときは、評価対象となる成形条件を補正して、貼着状態が良好であると判定されるまで貼着状態の判定を繰り返すステップ(ST2〜ST8)と、を含み、
観測点の接触圧力が上昇する順序または各々の観測点の接触圧力の最大値のいずれかが判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合(ST6:NO、ST7:NO)には、近接動作に対して膨張動作の開始を遅らせるように成形条件を補正する(ST9)一方、各々の観測点の接触圧力の累積値が判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合(ST8:NO)には、近接動作に対して膨張動作の開始を早めるように成形条件を補正する(ST10)。
【0060】
また、本実施形態は装置発明としても特定可能である。すなわち、本実施形態のタイヤ成形条件の導出装置6は、成形ドラム50と、成形ドラム50の側部に位置する一対のビードロック51及びサイドブラダ52とを備える成形装置5を用いビードロック51・51同士の近接動作及びサイドブラダ52の膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース40及びビードフィラ11を貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出する装置であって、
評価対象となる成形条件の一つとして両動作の初期値を設定する設定部60と、
評価対象となる成形条件に基づき上記貼着状態判定装置7を用いて貼着状態を判定し、貼着状態が不良であると判定されるときは、評価対象となる成形条件を補正して、貼着状態が良好であると判定されるまで上記貼着状態の判定を繰り返す制御部61と、を備え、
制御部61は、観測点の接触圧力が上昇する順序または各々の観測点の接触圧力の最大値のいずれかが判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合(ST6:NO、ST7:NO)には、近接動作に対して膨張動作の開始を遅らせるように成形条件を補正する(ST9)一方、各々の観測点の接触圧力の累積値が判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合(ST8:NO)には、近接動作に対して膨張動作の開始を早めるように成形条件を補正する(ST10)。
【0061】
上記貼着状態の判定方法又は装置を用いることで、接触順序および接触圧力の最大値が判定条件を満たさない場合は、ビードロック51・51同士の近接動作に対してサイドブラダ52の膨張動作の開始が早すぎるのが原因と判明し、接触圧力の累積値が判定条件を満たさない場合には、ビードロック51・51同士の近接動作に対してサイドブラダ52の膨張動作の開始が遅すぎるのが原因と判明した。このような新たな知見に基づき、評価対象となる成形条件を補正するので、闇雲に成形条件を設定する場合に比べて計算コストを低減して、良好な成形条件を早く得ることが可能となる。
【0062】
本実施形態に係るタイヤ構成部材の貼着状態判定プログラムは、上記タイヤ構成部材の貼着状態判定方法を構成する各ステップをコンピュータに実行させるプログラムである。また、本実施形態に係るタイヤ成形条件の導出プログラムは、上記タイヤ成形条件の導出方法を構成する各ステップをコンピュータに実行させるプログラムである。
これらプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。言い換えると、上記方法を使用しているとも言える。
【0063】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0064】
例えば、図3に示す各部60、61、70〜74は、所定プログラムをコンピュータのCPUで実行することで実現しているが、各部を専用メモリや専用回路で構成してもよい。
【0065】
本実施形態では、貼着状態の評価対象となる面を、ビードフィラ11のタイヤ径方向外側RD2の面にしているが、ビードフィラ11のタイヤ径方向内側RD1の面にしてもよく、双方の面に設定してもよい。
【0066】
[他の実施形態]
本実施形態では、成形条件の初期値として一つのパラメータを与え、初期パラメータに基づき良好な成形条件を導出しているが、成形条件の初期値として複数のパラメータを与えて、良好な成形条件を複数導出し、これらの中から最良の成形条件を導出するように構成してもよい。具体的な方法は、評価対象となる複数の成形条件に基づき上記貼着状態判定方法を用いて貼着状態を判定し、貼着状態が良好である成形条件を複数導出し、複数の成形条件のうち各々の観測点の接触圧力の累積値が最大となる成形条件を抽出することが挙げられる。同様に、具体的な装置は、評価対象となる複数の成形条件に基づき上記貼着状態判定装置を用いて貼着状態を判定し、貼着状態が良好である成形条件を複数導出し、複数の成形条件のうち各々の観測点の接触圧力の累積値が最大となる成形条件を抽出するように、制御部61を構成することが好ましい。
観測点の接触圧力の累積値が最大となることは、当該観測点が十分に押さえられていることを意味する。したがって、このような知見に基づき、複数の成形条件のうち各々の観測点の接触圧力の累積値が最大となる成形条件を抽出することで、その中で貼着状態が最良の成形条件を導出することが可能となる。
【0067】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0068】
11…ビードフィラモデル(ビードフィラ)
40…ケースモデル(ケース)
60…設定部
61…制御部
70…モデル生成部
71…観測点設定部
72…シミュレーション部
73…物理量算出部
74…判定部
m1、m2、m3…観測点
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B