【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0012】
すなわち、本発明のタイヤ構成部材の貼着状態判定方法は、タイヤを構成するケース及びビードフィラを、与えられた成形条件に基づき貼着する場合に、両部材の貼着状態をコンピュータシミュレーションを用いてコンピュータが判定する方法であって、
前記ケース及びビードフィラを含むタイヤ構成部材をモデル化した、ケースモデル及びビードフィラモデルを含む各々の部材モデルを生成するステップと、
前記ビードフィラモデルのタイヤ幅方向外側面又は内側面のうち貼着状態の評価対象となる面に、タイヤ径方向に沿って並ぶ少なくとも2つの観測点を設定するステップと、
前記ケースモデルの端部を折り返して前記ビードフィラモデルに巻き上げ、前記ケースモデルを前記ビードフィラモデルに貼着する成形工程を、前記与えられた成形条件に基づきコンピュータシミュレーションにて再現するステップと、
前記シミュレーションによる再現結果に基づき巻き上げ前から巻き上げ後までの所定観測期間に、前記観測点に作用する接触圧力を有限要素法による数値解析を用いて算出するステップと、
前記所定の観測期間において、前記観測点の接触圧力が上昇する順序、各々の観測点の接触圧力の最大値及び各々の観測点の接触圧力の累積値のいずれもが予め定めた判定条件を満たす場合に、前記貼着状態が良好であると判定する一方で、前記順序、前記最大値及び前記累積値のいずれかが前記判定条件を満たさない場合に、前記貼着状態が不良であると判定するステップと、
を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明のタイヤ構成部材の貼着状態判定装置は、タイヤを構成するケース及びビードフィラを、与えられた成形条件に基づき貼着する場合に、両部材の貼着状態をコンピュータシミュレーションを用いて判定する装置であって、
前記ケース及びビードフィラを含むタイヤ構成部材をモデル化した、ケースモデル及びビードフィラモデルを含む各々の部材モデルを生成するモデル生成部と、
前記ビードフィラモデルのタイヤ幅方向外側面又は内側面のうち貼着状態の評価対象となる面に、タイヤ径方向に沿って並ぶ少なくとも2つの観測点を設定する観測点設定部と、
前記ケースモデルの端部を折り返して前記ビードフィラモデルに巻き上げ、前記ケースモデルを前記ビードフィラモデルに貼着する成形工程を、前記与えられた成形条件に基づきコンピュータシミュレーションにて再現するシミュレーション部と、
前記シミュレーションによる再現結果に基づき巻き上げ前から巻き上げ後までの所定観測期間に、前記観測点に作用する接触圧力を有限要素法による数値解析を用いて算出する物理量算出部と、
前記所定の観測期間において、前記観測点の接触圧力が上昇する順序、各々の観測点の接触圧力の最大値及び各々の観測点の接触圧力の累積値のいずれもが予め定めた判定条件を満たす場合に、前記貼着状態が良好であると判定する一方で、前記順序、前記最大値及び前記累積値のいずれかが前記判定条件を満たさない場合に、前記貼着状態が不良であると判定する判定部と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
このように、ビードフィラモデルのうち貼着状態の評価対象となる面に少なくとも2つの観測点を設け、所定観測期間に観測点に作用する接触圧力を算出し、観測点の接地圧力の上昇順序を判定条件の一つにしているので、例えばビードフィラのタイヤ径方向内側よりも先に外側にケースが接触してエアを抱き込んでしまう場合を貼着不良と適切に判定することが可能となる。さらに、各観測点における接触圧力の最大値を判定条件の一つとしているので、例えば両部材が十分に接触していない場合を貼着不良と適切に判定することが可能となる。さらに、各観測点における接触圧力の累積値を判定条件の一つにしているので、例えば両部材が一旦は接触したものの両部材に離れる方向の力が強く働いて離間してしまう場合などを貼着不良と判定することが可能となる。したがって、3つの指標により貼着状態を適切に判定することが可能となる。
【0015】
本発明のタイヤ成形条件の導出方法は、成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出する方法であって、
前記両動作に関する初期値を評価対象となる成形条件の一つとして設定するステップと、
評価対象となる成形条件に基づき請求項1に記載のタイヤ構成部材の貼着状態判定方法を実行して貼着状態を判定し、貼着状態が不良であると判定されるときは、評価対象となる成形条件を補正して、貼着状態が良好であると判定されるまで上記貼着状態の判定を繰り返すステップと、を含み、
前記観測点の接触圧力が上昇する順序または各々の観測点の接触圧力の最大値のいずれかが前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を遅らせるように前記成形条件を補正する一方、前記各々の観測点の接触圧力の累積値が前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を早めるように前記成形条件を補正することを特徴とする。
【0016】
また、本発明のタイヤ成形条件の導出装置は、成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出する装置であって、
評価対象となる成形条件の一つとして前記両動作の初期値を設定する設定部と、
評価対象となる成形条件に基づき上記貼着状態判定装置を用いて貼着状態を判定し、貼着状態が不良であると判定されるときは、評価対象となる成形条件を補正して、貼着状態が良好であると判定されるまで上記貼着状態の判定を繰り返す制御部と、を備え、
前記制御部は、前記観測点の接触圧力が上昇する順序または各々の観測点の接触圧力の最大値のいずれかが前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を遅らせるように前記成形条件を補正する一方、前記各々の観測点の接触圧力の累積値が前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を早めるように前記成形条件を補正することを特徴とする。
【0017】
上記貼着状態の判定方法を用いることで、接触順序および接触圧力の最大値が判定条件を満たさない場合は、ビードロック同士の近接動作に対してサイドブラダの膨張動作の開始が早すぎるのが原因と判明し、接触圧力の累積値が判定条件を満たさない場合には、ビードロック同士の近接動作に対してサイドブラダの膨張動作の開始が遅すぎるのが原因と判明した。このような新たな知見に基づき、評価対象となる成形条件を補正するので、闇雲に成形条件を設定する場合に比べて計算コストを低減して、良好な成形条件を早く得ることが可能となる。
【0018】
本発明のタイヤ成形条件の導出方法は、成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出する方法であって、
評価対象となる複数の成形条件に基づき請求項1に記載のタイヤ構成部材の貼着状態判定方法を実行して貼着状態を判定し、貼着状態が良好である成形条件を複数導出するステップと、
前記複数の成形条件のうち各々の観測点の接触圧力の累積値が最大となる成形条件を抽出するステップと、
を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明のタイヤ成形条件の導出装置は、成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出する装置であって、
評価対象となる複数の成形条件に基づき上記貼着状態判定装置を用いて貼着状態を判定し、貼着状態が良好である成形条件を複数導出し、前記複数の成形条件のうち各々の観測点の接触圧力の累積値が最大となる成形条件を抽出する制御部
を備えることを特徴とする。
【0020】
観測点の接触圧力の累積値が最大となることは、当該観測点が十分に押さえられていることを意味する。したがって、このような知見に基づき、複数の成形条件のうち各々の観測点の接触圧力の累積値が最大となる成形条件を抽出することで、その中で貼着状態が最良の成形条件を導出することが可能となる。
【0021】
本発明は、上記方法を構成するステップを、プログラムの観点から特定することも可能である。
【0022】
すなわち、本発明のタイヤ構成部材の貼着状態判定プログラムは、タイヤを構成するケース及びビードフィラを、与えられた成形条件に基づき貼着する場合に、両部材の貼着状態をコンピュータシミュレーションを用いて判定するプログラムであって、
前記ケース及びビードフィラを含むタイヤ構成部材をモデル化した、ケースモデル及びビードフィラモデルを含む各々の部材モデルを設定するステップと、
前記ビードフィラモデルのタイヤ幅方向外側面又は内側面のうち貼着状態の評価対象となる面に、タイヤ径方向に沿って並ぶ少なくとも2つの観測点を設定するステップと、
前記ケースモデルの端部を折り返して前記ビードフィラモデルに巻き上げ、前記ケースモデルを前記ビードフィラモデルに貼着する成形工程を、前記与えられた成形条件に基づきコンピュータシミュレーションにて再現するステップと、
前記シミュレーションによる再現結果に基づき巻き上げ前から巻き上げ後までの所定観測期間に、前記観測点に作用する接触圧力を有限要素法による数値解析を用いて算出するステップと、
前記所定の観測期間において、前記観測点の接触圧力が上昇する順序、各々の観測点の接触圧力の最大値及び各々の観測点の接触圧力の累積値のいずれもが予め定めた判定条件を満たす場合に、前記貼着状態が良好であると判定する一方で、前記順序、前記最大値及び前記累積値のいずれかが前記判定条件を満たさない場合に、前記貼着状態が不良であると判定するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする。このプログラムを実行することによっても、上記方法が奏する作用効果を得ることができる。
【0023】
本発明のタイヤ成形条件の導出プログラムは、成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出するプログラムであって、
前記開始タイミングの初期値を評価対象となる成形条件の一つとして設定するステップと、
評価対象となる成形条件に基づき上記貼着状態判定プログラムを実行して貼着状態を判定し、貼着状態が不良であると判定されるときは、評価対象となる成形条件を補正して、貼着状態が良好であると判定されるまで上記貼着状態の判定を繰り返すステップと、をコンピュータに実行させ、
前記観測点の接触圧力が上昇する順序または各々の観測点の接触圧力の最大値のいずれかが前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を遅らせるように前記成形条件を補正する一方、前記各々の観測点の接触圧力の累積値が前記判定条件を満たさずに貼着状態が不良と判定された場合には、前記近接動作に対して前記膨張動作の開始を早めるように前記成形条件を補正することを特徴とする。このプログラムを実行することによっても、上記方法が奏する作用効果を得ることができる。
【0024】
本発明のタイヤ成形条件の導出プログラムは、成形ドラムと、前記成形ドラムの側部に位置する一対のビードロック及びサイドブラダとを備える成形装置を用い前記ビードロック同士の近接動作及び前記サイドブラダの膨張動作を行うことで、タイヤを構成するケース及びビードフィラを貼着するにあたり、両部材の良好な貼着状態が得られる両動作を規定する成形条件を導出するプログラムであって、
評価対象となる複数の成形条件に基づき上記貼着状態判定プログラムを実行して貼着状態を判定し、貼着状態が良好である成形条件を複数導出するステップと、
前記複数の成形条件のうち各々の観測点の接触圧力の累積値が最大となる成形条件を抽出するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする。このプログラムを実行することによっても、上記方法が奏する作用効果を得ることができる。