(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、図中の矢印で示した方向を上下方向、前後方向、左右方向とそれぞれ定義して説明を行う。
なお、説明の便宜上、
図1から
図6までにおいては鉛直方向を上下方向と定義しているのに対し、
図8から
図12までにおいては後述するシャフト91の長手方向を上下方向と定義している。厳密には、当該シャフト91は鉛直方向に対して若干傾斜している。
【0020】
また以下では、特に言及しない場合、部材同士の固定はボルト等の締結具を適宜用いて行われるものとする。また、特に必要な場合を除いて、当該締結具の図示は省略する。
【0021】
まず、
図1を用いて、本発明に係る作業車両のフロントアクスル機構の実施の一形態に係るフロントアクスル機構3を具備するトラクタ1の全体構成について説明する。
【0022】
なお、本実施形態においては、フロントアクスル機構3を具備する作業車両としてトラクタ1を例示するが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、フロントアクスル機構3を具備する作業車両は、その他の農業車両、建設車両、産業車両等であっても良い。
【0023】
トラクタ1は、主として機体フレーム2、フロントアクスル機構3、前輪4・4、後輪5・5、エンジン6、ボンネット7、変速装置8、ステアリングホイール9、座席10及びキャビン11を具備する。
【0024】
機体フレーム2は、その長手方向を前後方向として配置される。機体フレーム2の前部はフロントアクスル機構3を介して左右一対の前輪4・4に支持される。機体フレーム2の後部はリアアクスル機構(不図示)を介して左右一対の後輪5・5に支持される。
機体フレーム2の前部にはエンジン6が設けられる。エンジン6はボンネット7に覆われる。機体フレーム2の後部には変速装置8が設けられる。
【0025】
エンジン6の動力は、変速装置8で変速された後、フロントアクスル機構3を経て前輪4・4に伝達可能とされると共に、前記リアアクスル機構を経て後輪5・5に伝達可能とされる。エンジン6の動力によって前輪4・4及び後輪5・5が回転駆動され、トラクタ1の走行が行われる。
【0026】
機体フレーム2の前後中途部から後部にかけては、ステアリングホイール9、変速操作具(不図示)、座席10等を有する運転操作部が設けられ、キャビン11によって覆われる。ステアリングホイール9は、その回動操作量に応じて左右一対の前輪4・4の切れ角を調節(変更)し、トラクタ1を操舵することができる。
【0027】
次に、フロントアクスル機構3の構成について説明する。なお、フロントアクスル機構3は左右で略対称の構成であるため、以下では当該フロントアクスル機構3の左右略中央部から左側の構成について説明し、当該左側の構成のうち、右側の構成と異なる部分については都度言及する。
【0028】
図2から
図4までに示すフロントアクスル機構3は、エンジン6からの動力を前輪4・4に伝達すると共に、当該前輪4・4の切れ角を調節することで作業車両を操舵するものである。フロントアクスル機構3は、主としてデフケース20、ベベルギヤケース30、リテーナ40、前輪ケース50、前車軸60、サポート部材70、押しボルト80、前輪切れ角検出機構90及びステアリングシリンダ100を具備する。
【0029】
デフケース20は、フロントアクスル機構3の主たる構造体となる箱状の部材である。デフケース20は、長手方向を左右方向に向けて配置される。デフケース20は、その左右両端部を連通するような中空状に形成される。デフケース20の中央部は、機体フレーム2に対して揺動可能となるように連結される。
【0030】
ベベルギヤケース30は、中空状に形成された箱状の部材である。ベベルギヤケース30は、デフケース20の左端部に固定される。ベベルギヤケース30の下端部には、長手方向を略上下方向に向けた略円筒形状の軸状部30aが形成される。
【0031】
図4、
図5及び
図7に示すリテーナ40は、前輪4の回動軸となるものである。リテーナ40は、板状部40a及び軸状部40bを具備する。
【0032】
板状部40aは、略円形板状の部分である。板状部40aは、その板面を略上下方向に向けた状態で、ベベルギヤケース30の上部に固定される。
【0033】
軸状部40bは、その上部が閉塞された略円筒状の部分である。軸状部40bは、板状部40aの上面中央部から略上方に向けて突出するように形成される。この際、軸状部40bは、ベベルギヤケース30の軸状部30aと同一軸線X(
図8参照)上に配置されるように形成される。軸状部40bには、凹部(円形凹部40c及び矩形凹部40d)が形成される。
【0034】
図7に示す円形凹部40cは、軸状部40bの上面の中央に形成される。円形凹部40cは円形断面を有し、下方に向かって所定の深さまで形成される。
【0035】
矩形凹部40dは、軸状部40bの上面の中央に、円形凹部40cと重複して形成される。矩形凹部40dは平面視略矩形状となるように形成される。矩形凹部40dの長手方向長さは、円形凹部40cの径よりも大きくなるように形成される。矩形凹部40dは、平面視において円形凹部40cの中心を通って当該円形凹部40cを二分割するように形成される。矩形凹部40dは、下方に向かって所定の(円形凹部40cの深さより浅い)深さまで形成される。
【0036】
本実施形態においては、本発明に係る主ケースとして、デフケース20、ベベルギヤケース30及びリテーナ40を用いている。
【0037】
図2から
図4までに示す前輪ケース50は、中空状に形成された箱状の部材である。前輪ケース50の右端部には軸支部50aが形成される。
【0038】
軸支部50aは円形断面を有し、長手方向を略上下方向に向けて形成される孔である。軸支部50aは、その内径がベベルギヤケース30の軸状部30aの外径と略同一となるように形成される。
【0039】
軸支部50aの上方からベベルギヤケース30の軸状部30aが挿通されることで、当該ベベルギヤケース30に対して前輪ケース50が回動可能に連結される。軸支部50aの下端部にはキャップが取り付けられ、当該下端部は閉塞される。
【0040】
前車軸60は、前輪4が固定されるものである。前車軸60は、前輪ケース50の左端部から左方へと突出するように設けられる。前車軸60は、前輪ケース50に回動可能に支持される。前車軸60の左端部には前輪4が固定される。
【0041】
本実施形態においては図示していないが、上記デフケース20、ベベルギヤケース30、前輪ケース50内には動力を伝達するための種々の部材(差動装置、ギヤ、軸等)が配置される。エンジン6の動力は、変速装置8で変速された後、当該種々の部材を介して前車軸60に伝達され、前輪4が回転駆動される。
【0042】
図4、
図5及び
図8に示すサポート部材70は、前輪ケース50がベベルギヤケース30から抜け落ちないように、当該前輪ケース50を支持するものである。
図8に示すように、サポート部材70には軸支部70aが形成される。
【0043】
軸支部70aは、サポート部材70の右上部に形成される。軸支部70aは、円形断面を有し、長手方向を上下方向に向けて形成される凹部である。軸支部70aは、その内径が、リテーナ40の軸状部40bの外径と略同一となるように形成される。軸支部70aの底部(上部)の中央には、サポート部材70を上下方向に貫通するようにねじ孔70bが形成される。
【0044】
サポート部材70の軸支部70aの下方から、中央部が開口された円板状のスラスト座金41、ブッシュ42及びオイルシール43を介してリテーナ40の軸状部40bを挿通すると共に、サポート部材70の左下部を前輪ケース50の上部に固定する。これによって、サポート部材70がリテーナ40に対して回動可能に連結される。また、当該サポート部材70を前輪ケース50に固定することによって、ベベルギヤケース30から下方へと抜け落ちるのを防止することができる。
【0045】
また前述の如く、
図4に示すベベルギヤケース30の軸状部30a及びリテーナ40の軸状部40bは同一軸線X(
図8参照)上に配置されている。従って、当該ベベルギヤケース30に回動可能に連結された前輪ケース50及びリテーナ40に回動可能に連結されたサポート部材70は、当該軸線Xを中心として一体的に回動可能となる。当該前輪ケース50及びサポート部材70が一体的に回動することで、前輪4の切れ角が調節される。
【0046】
本実施形態においては、本発明に係る回動ケースとして、前輪ケース50及びサポート部材70を用いている。
【0047】
図4から
図6まで、並びに
図8に示す押しボルト80は、リテーナ40及びベベルギヤケース30を下方に向かって押圧することで、当該ベベルギヤケース30と前輪ケース50との連結部分のガタつきを防止するものである。
図6及び
図8に示すように、押しボルト80には、円形凹部80a、平面部80b及び中空部80cが形成される。
【0048】
円形凹部80aは、押しボルト80の頭部に形成される凹部である。円形凹部80aのは円形断面を有し、押しボルト80の上端部(頭部)から下方(ねじ部側)に向かって所定の深さまで形成される。
【0049】
本実施形態においては、本発明に係る位置決め部として、円形凹部80aを用いている。
【0050】
図6に示す平面部80bは、押しボルト80の頭部の側面下部に形成される平面状の部分である。平面部80bは、互いに対向するように一対形成される。当該平面部80bにスパナ(工具)を係合させて押しボルト80を回転させることで、当該押しボルト80を締めたり緩めたりすることができる。
【0051】
図6及び
図8に示す中空部80cは、押しボルト80を長手方向(上下方向)に貫通する孔である。中空部80cは円形断面を有し、押しボルト80の上端部(頭部に形成された円形凹部80aの底部)から下端部(ねじ部側の端部)までを貫通するように形成される。
【0052】
図5及び
図8に示すように、押しボルト80は、ナット81及び座金82に順に挿通され、サポート部材70の上方(より詳細には、後述する支持プレート94の上方)から当該サポート部材70のねじ孔70bに締結される。これによって、当該押しボルト80はリテーナ40の軸状部40bと同一軸線X上に配置される。
【0053】
さらに押しボルト80は下方へとねじ込まれ、ねじ部の下端部でリテーナ40(より詳細には、当該リテーナ40の上部に配置されたスラスト座金41)を下方に押圧する。リテーナ40が下方に押圧されると、当該リテーナ40に固定されたベベルギヤケース30も下方に押圧される。これによって、ベベルギヤケース30が前輪ケース50(
図4等参照)に近接するように押圧されることになり、当該ベベルギヤケース30と前輪ケース50との連結部(軸状部30aと軸支部50a)のガタつきを防止することができる。
【0054】
さらに、押しボルト80を下方へとねじ込んだ状態で、ナット81を締め付けることで、当該押しボルト80が緩むのを防止することができる。
【0055】
なお、押しボルト80はフロントアクスル機構3の右側(不図示)にも同様に設けられるが、その形状は通常のボルト(六角ボルト等)と同じもの(円形凹部80a、平面部80b及び中空部80cがないもの)で良い。
【0056】
図2から
図4までに示す前輪切れ角検出機構90は、ベベルギヤケース30に対する前輪ケース50の回動角度を検出することにより前輪4の切れ角を検出するものである。
【0057】
なお、前輪切れ角検出機構90は、左右一対の前輪4・4のうち、いずれか一方の切れ角を検出できれば足りる。このため、本実施形態において前輪切れ角検出機構90は、フロントアクスル機構3の左側にのみ設けられるものとする。
【0058】
図4から
図6まで、並びに
図8に示すように、前輪切れ角検出機構90は、主としてシャフト91、支持プレート94、ポテンショメータ95及びカバー部材96を具備する。
【0059】
図6、
図8、
図9及び
図10に示すシャフト91は、リテーナ40と後述するポテンショメータ95とを連結する略円柱状の部材である。シャフト91は、その長手方向を上下方向に向けて配置される。シャフト91には、縮径部91a、上切欠部91b及び下切欠部91cが形成される。
【0060】
縮径部91aは、シャフト91における他の部分よりも径が小さくなるように形成された部分である。縮径部91aは、シャフト91の長手方向(上下方向)中央部に形成される。シャフト91における縮径部91a以外の部分(上端部近傍及び下端部近傍)の径は、リテーナ40の円形凹部40cの径と略同一となるように形成される。
【0061】
上切欠部91bは、シャフト91の上端部に形成される。上切欠部91bは、シャフト91の一側部から他側部までを径方向に切り欠いて形成される。上切欠部91bは、下方に向けて所定の深さとなるように形成される。
【0062】
下切欠部91cは、シャフト91の下端部に形成される。下切欠部91cは、上切欠部91bと上下対称な形状となるように形成される。
【0063】
このようにして、シャフト91は上下対称な形状となるように形成される。これによって、シャフト91を上下逆さまにして用いることも可能となり、当該シャフト91の組み付け作業を容易に行うことができる。
【0064】
図6及び
図8に示すように、シャフト91は押しボルト80の中空部80cに挿通される。
【0065】
図6、
図8、
図9及び
図10に示すように、シャフト91の下切欠部91bには、その長手方向をシャフト91の径方向に向けられた円柱状のピン92が挿入される。この状態で、シャフト91の下端部がリテーナ40の円形凹部40cに挿入される。これによって、シャフト91がリテーナ40の軸状部40bと同一軸線X上に配置される。さらに、ピン92がリテーナ40の矩形凹部40dに挿入される。これによって、シャフト91とリテーナ40とが相対回転不能となるように連結される。
【0066】
図6及び
図8に示すように、シャフト91の上端部近傍はブッシュ93に挿入された状態で押しボルト80の中空部80cに回動可能に支持される。これによって、当該シャフト91の押しボルト80に対するガタつきを防止することができる。
【0067】
本実施形態においては、本発明に係る回動角伝達軸として、シャフト91を用いている。
【0068】
図4、
図5及び
図8に示す支持プレート94は、平板状に形成される部材である。支持プレート94には孔94aが形成される。当該孔94aに、前述の押しボルト80のねじ部が挿通される。支持プレート94は、孔94aの軸線とサポート部材70のねじ孔70bの軸線とが一致するようにして、当該サポート部材70に固定される。
【0069】
図6、
図8、
図9及び
図10に示すポテンショメータ95は、当該ポテンショメータ95に対するシャフト91の相対的な回動角度を検出するものである。ポテンショメータ95は検出軸95aを具備する。また、ポテンショメータ95には係合部95cが形成される。
【0070】
図9及び
図10に示す検出軸95aは、シャフト91がポテンショメータ95に対して相対的に回動したことを検出する部分である。検出軸95aは、下方に向けて突出するように設けられる。検出軸95aは、本体部分に対して回動可能に設けられる。検出軸95aには板状部95bが形成される。
【0071】
板状部95bは、検出軸95aの先端(下端)に形成される平板状の部分である。板状部95bの厚さは、シャフト91の上切欠部91bの幅と略同一となるように形成される。
【0072】
図8、
図9及び
図10に示す係合部95cは、検出軸95aを囲むように形成される部分である。係合部95cは、検出軸95aの軸線を中心とする円形状に、下方に向けて立設される。当該係合部95cの外径は、押しボルト80の円形凹部80aの内径と略同一となるように形成される。
【0073】
本実施形態においては、本発明に係る回動角検出手段として、ポテンショメータ95を用いている。
【0074】
図5、
図8及び
図11に示すカバー部材96は、ポテンショメータ95を覆うものである。カバー部材96は、下面が開放された略箱状に形成される。カバー部材96の側面には、その内部と外部とを連通する開口部96aが形成される。カバー部材96は、ポテンショメータ95及び押しボルト80の上部を覆うようにして、支持プレート94の上面に固定される。
【0075】
図11に示すように、カバー部材96を支持プレート94に固定する場合、まずポテンショメータ95がカバー部材96の内部(上面)に固定される。次に、当該ポテンショメータ95をカバー部材96ごと押しボルト80の上方から当該押しボルト80に近接させ、係合部95cを押しボルト80の円形凹部80aに挿入する。このように、押しボルト80の円形凹部80aによってポテンショメータ95が案内されるため、当該押しボルト80とポテンショメータ95との相対的な位置を決定(位置決め)することができる。
【0076】
またこの際、検出軸95aの板状部95bがシャフト91の上切欠部91bに挿入される。これによって、検出軸95aとシャフト91とが相対回転不能となるように連結される。
【0077】
最後に、上述の如く位置決めされた位置で、カバー部材96が支持プレート94に固定される。ポテンショメータ95に接続されるワイヤーハーネス(不図示)は、カバー部材96の開口部96aを介して当該カバー部材96の外部へと案内される。
【0078】
図2及び
図3に示すステアリングシリンダ100は、前輪4の切れ角を調節するアクチュエータである。ステアリングシリンダ10は、ステアリングホイール9(
図1参照)の回動操作量に応じて伸縮する。ステアリングシリンダ10は、その長手方向(伸縮方向)を左右方向に向けて、その一端をデフケース20の後部に固定される。ステアリングシリンダ10の他端は、タイロッド101及びナックルアーム102を介して前輪ケース50の後部に連結される。
【0079】
次に、上述の如く構成されたフロントアクスル機構3の動作について説明する。より具体的には、前輪4の切れ角を調節する様子、及び当該前輪4の切れ角を検出する様子について説明する。
【0080】
ステアリングホイール9(
図1参照)が回動操作されると、当該回動操作量に応じてステアリングシリンダ10が伸縮する(
図3参照)。ステアリングシリンダ100が伸縮すると、当該伸縮動作がタイロッド101及びナックルアーム102を介して前輪ケース50に伝達される。これによって、前輪ケース50及び当該前輪ケース50に固定されたサポート部材70(
図4参照)は、ベベルギヤケース30の軸状部30a及びリテーナ40の軸状部40bの軸線X(
図8参照)を中心として回動する。
【0081】
前輪ケース50が回動すると、当該前輪ケース50に支持される前車軸60を介して前輪4が回動する。このように、ステアリングホイール9を回動操作してステアリングシリンダ100を伸縮させることで、前輪4の切れ角を調節することができる。
【0082】
また、サポート部材70に固定された支持プレート94、カバー部材96、ポテンショメータ95及び押しボルト80も、当該サポート部材70と一体的に回動する(
図4及び
図8参照)。
【0083】
一方、機体フレーム2に連結されたデフケース20、ベベルギヤケース30及びリテーナ40は、ステアリングシリンダ100の伸縮にかかわらず回動することはない(
図4及び
図8参照)。すなわち、上記前輪ケース50、サポート部材70及びポテンショメータ95等は、ベベルギヤケース30及びリテーナ40等に対して相対的に回動する。
【0084】
この場合、ポテンショメータ95が回動するのに対し、リテーナ40に相対回転不能となるように連結されているシャフト91は回動しない。また、当該シャフト91の上切欠部91bにはポテンショメータ95の検出軸95a(板状部95b)が挿入されている(
図8参照)。従って、ポテンショメータ95が回動すると、当該検出軸95aはシャフト91によって回動させられることになる。これによって当該ポテンショメータ95は、シャフト91に対するポテンショメータ95の相対的な回動角度を検出することができる。すなわち、当該ポテンショメータ95は、ベベルギヤケース30及びリテーナ40等に対する前輪ケース50及びサポート部材70等の相対的な回動角度を検出することができ、ひいては前輪4の切れ角を検出することができる。
【0085】
また、リテーナ40の軸状部40bとサポート部材70の軸支部70aとの間には、径方向にクリアランス(隙間)が設けられている。このため、リテーナ40がサポート部材70に対して径方向にガタつく場合がある(
図12の下側の矢印参照)。
【0086】
この場合、リテーナ40がガタついた分だけ、当該リテーナ40の軸状部40bの軸線とサポート部材70に締結された押しボルト80(ひいては、当該押しボルト80に固定されたポテンショメータ95の検出軸95a)の軸線とがずれてしまう。
【0087】
しかし、当該リテーナ40とポテンショメータ95とを連結するシャフト91には、その長手方向中央部に縮径部91aが形成されている。このため、当該シャフト91の縮径部91aにおいて適宜にたわみ(
図12の上側の矢印参照)が生じ、当該シャフト91によってリテーナ40とポテンショメータ95との連結が維持される。従って、リテーナ40がサポート部材70に対して径方向にガタついた場合であっても、ポテンショメータ95は前輪4の切れ角を検出することができる。
【0088】
特に本実施形態の如く、シャフト91の上端部を、ブッシュ93を介して押しボルト80の中空部80cに確実に保持させると共に、シャフト91の下端部を、ピン92を用いてリテーナ40の円形凹部40c及び矩形凹部40dに確実に保持させることで、当該シャフト91がたわんだ場合であっても、ポテンショメータ95による前輪4の切れ角の検出精度が低下するのを防止することができる。
【0089】
以上の如く、本実施形態に係るトラクタ1のフロントアクスル機構3は、
機体フレーム2に連結される主ケース(デフケース20、ベベルギヤケース30及びリテーナ40)と、
前記主ケースに対して回動可能に連結されると共に、前輪4を回動可能に支持する回動ケース(前輪ケース50及びサポート部材70)と、
前記主ケースに対する前記回動ケースの回動角度を検出することにより前輪4の切れ角を検出する前輪切れ角検出機構90と、
を具備するトラクタ1(作業車両)のフロントアクスル機構3であって、
前輪切れ角検出機構90は、
前記回動ケースの前記主ケースに対する回動軸線(軸線X)と同一軸線上に配置され、一端を前記主ケースに相対回転不能となるように連結されるシャフト91(回動角伝達軸)と、
前記回動ケースに固定されると共に、シャフト91の他端に連結され、当該シャフト91の回動角度を検出するポテンショメータ95(回動角検出手段)と、
を具備するものである。
【0090】
このように構成することにより、主ケースと回動ケースとの相対的な回動角度を、簡易な機構を用いて検出することができ、前輪4の切れ角の検出精度の低下を防止することができる。
すなわち、主ケースと回動ケースとの相対的な回動角度を検出するために、複雑なリンク機構等を用いる必要がないため、部材の寸法誤差や部材間の組み付け誤差、並びに部材間のガタつき等を低減し、前輪4の切れ角の検出精度の低下を防止することができる。
【0091】
また、フロントアクスル機構3は、
前記回動ケースの回動軸線と同一軸線上に配置され、前記主ケースと前記回動ケースとを互いに近接する方向に押圧することで前記主ケースと前記回動ケースとのガタつきを防止する押しボルト80(締結具)をさらに具備し、
押しボルト80は、その軸線方向に中空状となるように形成され、
シャフト91は、押しボルト80の中空部80cに挿通されるものである。
【0092】
このように構成することにより、主ケースと回動ケースとのガタつきを防止する押しボルト80を有する場合であっても、前輪4の切れ角を検出することができる。
すなわち、前輪4の切れ角を検出するために、押しボルト80を削減したり、複雑な機構(リンク機構等)で押しボルト80を回避したりする必要がない。これによって、コストの削減を図ることができる。また、構造を簡素化することができ、各部品の耐久性や検出精度の向上を図ることができる。
【0093】
また、ポテンショメータ95は、
前記主ケース及び前記回動ケースの外部に配置されると共に、カバー部材96で覆われるものである。
【0094】
このように構成することにより、ポテンショメータ95の変形や破損を防止することができる。
すなわち、ポテンショメータ95を前記主ケース及び前記回動ケースの外部に配置することで、当該各ケース内の潤滑油等が当該ポテンショメータ95に付着して破損するのを防止することができる。また、ポテンショメータ95をカバー部材96で覆うことで、圃場の泥や埃等の付着や、作物や障害物等との接触を防止し、当該ポテンショメータ95の変形や破損を防止することができる。
【0095】
また、押しボルト80には、
ポテンショメータ95との相対位置を決定するための円形凹部80a(位置決め部)が形成される。
【0096】
このように構成することにより、押しボルト80を利用してポテンショメータ95の位置決めをすることができ、部品点数の削減及び前輪4の切れ角の検出精度の向上を図ることができる。
すなわち、ポテンショメータ95の位置決めのために、別途部品を用いる必要がない。
【0097】
また、シャフト91の中途部には、当該シャフト91における他の部分よりも径が小さい縮径部91aが形成される。
【0098】
このように構成することにより、シャフト91が当該縮径部91aにおいてたわみ易くなる。これによって、シャフト91の一端側(前記主ケース側)と他端側(前記回動ケース側)とで軸線のずれが生じた場合であっても、当該シャフト91が適宜にたわんで前記主ケースと回動ケースとの連結が維持される。従って、前記前記主ケースと回動ケースとの間でガタつきが生じた場合であっても、前輪4の切れ角を検出することができる。この場合、特に複雑な構造も必要ないため、安価かつ省スペースに構成することができる。
また、シャフト91の両端にクリアランスを設け、前記軸線のずれが生じた分を当該クリアランスで吸収する構成とすることも可能であるが、この場合前輪4の切れ角の検出に誤差が生じる可能性がある。このため、シャフト91の両端を確実に保持しつつ縮径部91aを適宜にたわませる本実施形態の構成が好ましい。
【0099】
なお、本実施形態においては、前輪切れ角検出機構90はフロントアクスル機構3の左側にのみ設けられるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、前輪切れ角検出機構90をフロントアクスル機構3の右側に設けることや、左右両側に設けることも可能である。
【0100】
また、本実施形態においては、前輪切れ角検出機構90は押しボルト80を具備するフロントアクスル機構3に設けられるものとして説明したが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、前輪切れ角検出機構90は、押しボルト80を具備しないフロントアクスル機構3に設けることも可能である。
【0101】
また、本実施形態においては、主ケースとしてデフケース20、ベベルギヤケース30及びリテーナ40を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、主ケースは、トラクタ1の機体フレーム2に連結されるものであって、前輪4・4の切れ角を調節(操舵)する際に当該前輪4・4と共に回動することのないものであれば良い。
【0102】
また、本実施形態においては、主ケースを主として3つの部材(デフケース20、ベベルギヤケース30及びリテーナ40)で構成するものとしたが、本発明はこれに限るものではない。例えば、一体的に形成された1つの部材で構成することや、2つ、又は4つ以上の部材を組み合わせて構成することも可能である。
【0103】
また、本実施形態においては、回動ケースとして前輪ケース50及びサポート部材70を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、回動ケースは、主ケースに対して回動可能に連結されるものであって、当該主ケースに対して回動することによって前輪4・4の切れ角を調節するものであれば良い。
【0104】
また、本実施形態においては、回動ケースを主として2つの部材(前輪ケース50及びサポート部材70)で構成するものとしたが、本発明はこれに限るものではない。例えば、一体的に形成された1つの部材で構成することや、3つ以上の部材を組み合わせて構成することも可能である。
【0105】
また、本実施形態においては、回動角伝達軸としてシャフト91を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、回動角伝達軸は、主ケースとポテンショメータ95とを連結することができるものであれば、その形状や材質等を限定するものではない。
【0106】
また、本実施形態においては、回動角検出手段としてポテンショメータ95を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、回動角検出手段は、シャフト91の回動角度を検出することができるものであれば、各種のセンサを用いることが可能である。
【0107】
また、本実施形態においては、シャフト91を主ケース側に連結し、ポテンショメータ95を回動ケース側に固定するものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、シャフト91を回動ケース側に連結し、ポテンショメータ95を主ケース側に固定する構成とすることも可能である。
【0108】
また、本実施形態においては、締結具として押しボルト80を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、締結具は、主ケースと回動ケースとを互いに近接する方向に押圧することができるものであれば、その形状や材質等を限定するものではない。
【0109】
また、本実施形態においては、ポテンショメータ95を主ケース及び回動ケースの外部に配置するものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、ポテンショメータ95を主ケース又は回動ケースの内部に配置する構成とすることも可能である。
【0110】
また、本実施形態においては、ポテンショメータ95をカバー部材96で覆うものとしたが、当該カバー部材96の形状や材質等は限定するものではない。すなわち、当該ポテンショメータ95を、泥や埃等の付着、並びに作物や障害物との接触から守ることができるものであれば良い。
【0111】
また、本実施形態においては、位置決め部として押しボルト80に円形凹部80aを形成するものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、位置決め部は、押しボルト80とポテンショメータ95との相対位置を決定することができるものであれば、その形状を限定するものではない。
【0112】
また、本実施形態においては、シャフト91に縮径部91aを形成するものとしたが、当該縮径部91aの径は限定するものではない。すなわち、リテーナ40とポテンショメータ95との相対的な回動を伝達することが可能な程度の強度があり、かつ当該リテーナ40とポテンショメータ95との間で軸線のずれが生じた場合に適宜にたわむことが可能な径であれば良い。