(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水溶性食物繊維を、飲食物に標準的に含まれるナトリウム量が低減された減塩飲食物に添加することを特徴とする、減塩飲食物の塩化ナトリウムの塩味増強又は減塩飲食物の塩化カリウムのエグ味マスキング方法であって、
塩化ナトリウムの量が飲食物に対して1〜3w/w%である減塩飲食物、あるいは塩化ナトリウムの量が飲食物に対して1〜3w/w%でありかつ塩化カリウムの塩化ナトリウムに対する代替率が50w/w%以下である減塩飲食物に対して、水溶性食物繊維を1〜5w/w%添加することを含み、
前記水溶性食物繊維が、85〜95質量%の難消化性成分を含み、1500〜2500の分子量を有する難消化性デキストリンである、
上記方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における「塩味」は、ナトリウム塩、特に塩化ナトリウムに依存するところであるが、その含ませる塩化ナトリウムは、塩化ナトリウムでありさえすればよく、その形状や存在形態は問わない。よって、食塩、精製塩、食卓塩をはじめとする高純度の塩化ナトリウム含有製品はもとより、にがり、海水、岩塩などのやや純度の低い塩化ナトリウム含有製品でもよいし、アミノ酸や有機酸、カツオ節、昆布、椎茸などから抽出した旨味成分や風味成分、香辛料などといった一般的に調味料の配合に用いられる複合調味料中に存する塩化ナトリウムであっても構わない。塩化ナトリウム以外の塩味に関するナトリウム塩としては、クエン酸3ナトリウムが例示される。
本発明における、食塩等のナトリウム塩の代替塩として用いられる代表的なカリウム塩は、塩化カリウムであるが、それ以外のカリウム塩としては、リン酸カリウムが例示される。
【0012】
食物繊維は、食品中の成分のうち、人間の消化酵素で消化されない成分の総称である。食物繊維は、水に溶ける水溶性食物繊維と、水に溶けない水不溶性食物繊維に大別される。本発明でいう「水溶性食物繊維」とは、AOAC2001.03による測定値で50質量%以上の食物繊維を含有し、20℃の水100mlに20g以上溶解し、20℃において5質量%水溶液の粘度が20mPa・s未満の粘度を示す難消化性糖類のことを指す。
水溶性食物繊維として、具体的に、難消化性デキストリン(例えば、市販品としては松谷化学工業株式会社製、商品名「パインファイバー」、「ファイバーソル2」)、ポリデキストロース(例えばダニスコ・カルター社製、商品名「ライテス」)、分岐マルトデキストリン(例えばロケット社製、商品名「ニュートリオース」)、イヌリンなどが挙げられる。これらの他にも、上記低粘性、水溶性の条件を満たす水溶性食物繊維(難消化性糖類)は何れも包含される。
本発明において好ましい水溶性食物繊維の分子量は1,000〜5,000、より好ましくは1,500〜2,500である。
本発明で使用する水溶性食物繊維として、難消化性デキストリンが最も効果的で好ましい。
【0013】
難消化性デキストリンは、澱粉に微量の塩酸を加えて加熱し、酵素処理したもので、好ましくは85〜95質量%の難消化性成分を含むデキストリンのことをいう。更に、水素添加により製造されるその還元物も含む。食新発0217001号及び0217002号に記載の食物繊維のエネルギー換算係数によれば、難消化性デキストリンのエネルギー値は1kcal/gである。
難消化性デキストリンの分子量は通常1,500〜2,500の範囲である。
【0014】
難消化性デキストリンは、前記の通り塩酸を加えて加熱し、酵素処理して製造するのが一般的ではあるが、本発明においては、どのような方法で調製して得た難消化性デキストリンであっても良い。
【0015】
本発明の飲食物の塩味増強方法は、有効成分である水溶性食物繊維を、対象とする飲食物に添加することを含み、それにより、所期の効果を発揮することができる。対象とする飲食物は、いずれの分野の飲食物であってもよいが、塩化ナトリウムをはじめとするナトリウム塩を少なくとも含み、更に塩化カリウム等のカリウム塩を含んでいてもよい。本発明の飲食物の塩味増強方法を実施するためには、有効成分である水溶性食物繊維を、対象とする飲食物の組成や使用目的を勘案して、原料の段階から製品が完成するまでの工程の間で添加すれば良い。添加方法としては、例えば、混和、混捏、溶解、融解、分散、懸濁、乳化、逆ミセル化、浸透、散布、塗布、付着、噴霧、被覆(コーティング)、注入、浸漬、担持などの公知の1種又は2種以上の方法が適宜に選ばれる。また、製品完成後や飲食の際に、水溶性食物繊維を振りかけるなどの方法によって添加しても良い。
【0016】
本発明において、飲食物の塩味を増強させるために必要な水溶性食物繊維の使用量は、所期の効果を得ることができるのであれば特に制限はいが、各水溶性食物繊維から選ばれる1種あるいは2種以上を合計で、飲食物に対して約0.5w/w%以上、好ましくは約1.0w/w%以上、さらに好ましくは、約1.0w/w%乃至10w/w%用いることにより効果的に塩味増強効果を得ることができる。水溶性食物繊維の添加量が、食塩を含む飲食物等に対して0.5w/w%未満の場合、塩味増強効果が不十分なため、水溶性食物繊維の添加量は、約1.0w/w%以上が好ましい。
但し、水溶性食物繊維の添加量が多くなり過ぎても、その塩味等増強効果がさらに劇的に強まるということはなく、経済的な観点からも、食塩を含む飲食物に対して10.0w/w%までで十分である。
【0017】
さらに、塩味増強効果の観点から言えば、飲食物等に含まれる塩化ナトリウム濃度が約0.5w/w%以上のとき、更に好ましくは1w/w%以上10w/w%以下の場合、より好ましくは1w/w%以上7w/w%以下の場合、本発明の効果は特に顕著になる。0.5w/w%以下では、食物繊維を用いても十分な塩味等増強効果は得られない。また逆に、塩化ナトリウム濃度が約10.0w/w%を超えた飲食品等では、そのままではもはや官能検査によって本発明の効果を顕著には感じ取ることができない。ただし、一般的に我々が口にする多くの飲食品中の塩分濃度は、せいぜい5%程度までであるので問題はないし、塩分濃度が高い飲食品等でも、これを薄めて使用等する場合には、本発明の効果は顕著に実感できるので、食物繊維を、上記量を参考に含有させれば良い。
【0018】
また、飲食物に含有させる塩化ナトリウムの一部を塩化カリウムで代替する場合は、飲食物中の塩化カリウムの塩化ナトリウムに対する代替率が、無水物換算で、塩化ナトリウムの全質量に対して50w/w%以下とし、塩化ナトリウムと塩化カリウムの合計が1.5質量部に対し、水溶性食物繊維を1質量部以上添加することにより、塩味や旨味を増強するだけでなく、塩化カリウム特有の異味(エグ味)をもマスキングすることができる。
【0019】
本発明の塩化ナトリウム等のナトリウム塩を低減させた減塩飲食物を製造するに際しては、食物繊維に加えて、比較的少量の塩化ナトリウムを共存させるとともに、塩化カリウムなどの公知の代替塩や、麹分解液、モノカルボン酸、α,α−トレハロース、マルトテトラオース、プルランなど、本発明以外の塩味増強作用を有する成分や、L−グルタミン酸モノナトリウム、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムなどの旨味成分や、当該旨味成分を含む昆布やカツオ節などの粉末やそのエキスなどを併用することも有利に実施できる。また、必要に応じて、適宜の添加物、例えば、着香料、着色料、酸味料、甘味料、矯味・矯臭剤、香辛料、ビタミン、ミネラルなどの1種又は2種以上を併用して、嗜好性や栄養価を向上させた減塩飲食物を製造することも有利に実施できる。
【0020】
本発明の飲食物の塩味増強等の方法は、有効成分である水溶性食物繊維を、対象とする飲食物に含有させることにより所期の効果を発揮することができるため、いずれの分野の飲食物においても、有効成分としての水溶性食物繊維をその飲食物に最終的に含有させれば良く、その含有させるタイミングは、前述したように、原料の段階から製品が完成するまでのいずれの工程においてでも良い。加えるなら、消費者が各自飲食の際に振りかける等のために供するような形態であっても構わない。
【0021】
本発明においては、減塩飲食物において失われた塩味やうま味を補足するために、食塩代替物(塩化カリウム等)やうま味成分(アミノ酸塩やそれを多く含む昆布や鰹節等の食品、甘味料、香辛料等)が添加された場合でも、水溶性食物繊維の添加量を好ましい範囲で適宜調整することで、問題なくその味質を改善できる。また、水溶性食物繊維、とりわけ難消化性デキストリンは前述したとおり、ごくわずかな味を有するのみであるので、ありとあらゆる飲食物に利用することができる。
【0022】
本発明が利用される「飲食物」の具体例としては、減塩調味料(味噌、醤油、食卓塩、調味塩、マヨネーズ、ドレッシング、焼肉のたれ、食酢、三杯酢、すし酢、だしの素、スープの素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、カレールウ、ホワイトルー、魚介エキス、野菜エキス、畜肉エキス、複合調味料など)、減塩飲料(野菜ジュース、スポーツ飲料、炭酸飲料等の清涼飲料水、味噌汁、中華スープ、ポタージュ、ミネストローネ等の汁物、しるこ、シェーク、ゲル状飲料等のデザート飲料など)、減塩保存食品(漬物類、ハム等の畜肉製品、蒲鉾等の水練製品、するめやみりん干し等の干物製品、即席麺、即席スープ、缶詰、瓶詰め、各種レトルト食品)、減塩小麦粉等焼成品(パン、クッキー、クラッカー、米菓、スナック菓子など)などが挙げられ、栄養補助食品、ペットフード、家畜飼料等においても利用できる。また、本発明において、「飲食物」には、飲食物を製造する途中段階の製品や原料も含まれる。例えば、パン、クッキー等の小麦粉等焼成品の生地、スープ製造におけるスープの素、即席麺における粉末又は液体スープ等である。
【0023】
本発明によれば、減塩により失われる塩味だけでなく、こく味や旨味を含めた呈味バランスをも良好なものへ改善することができ、さらには食塩代替品の塩化カリウム等の異味をもマスキングすることが可能となるので、食品全体として食味がぼやけて物足りなさや異味を感じることの多い減塩飲食物を、消費者にとって満足のいく製品として提供することができる。
本明細書において、「減塩飲食物」とは、塩化ナトリウムあるいは他のナトリウム塩由来のナトリウム量が、飲食物に標準的に含まれる塩化ナトリウムあるいは他のナトリウム塩由来のナトリウム量に比べて意図的に低減された飲食物のことであり、例えば、食塩摂取制限による健康維持の側面から減塩された飲食物が含まれる。
【0024】
また、本発明の水溶性食物繊維を含有してなる塩味改善剤は、塩味が薄く食味がぼけておいしさに物足りなさを感じる、例えば、漬物、カレーライス、天ぷら、発酵食品などの各種飲食物に対して使用され、その食味を満足のいくものに仕上げることができる。
つまり、先にも述べたように、本発明の塩味改善剤は、飲食物の製造工程において味付けをする態様、あるいは消費者が食する直前に好みに合わせて味を調整する態様のいずれにも用いることができるということであり、例えば、ポップコーン菓子の味付けのように、工場あるいは店舗で、本発明品をふりかける態様や油脂等に混入させた調味液の形態でからめて味付けする態様であっても、消費者が食する直前にふりかけて味付けする態様であっても構わない。
【0025】
本発明の塩味改善剤は、水溶性食物繊維自体であってもよいし、水溶性食物繊維を主成分とし、好ましくは、水溶性食物繊維を無水物換算で約20質量%以上、より好ましくは、約30質量%以上含み、かつ他の添加剤を含むものであってもよい。他の添加剤として、例えば、比較的少量の塩化ナトリウム、公知の塩化カリウムなどの代替塩、麹分解液、モノカルボン酸などの他の塩味増強剤、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸鉄、乳清ミネラル、苦汁などのミネラル強化剤、ルチン、ヘスペリジン、ナリンジンやこれらの誘導体などの矯味・矯臭剤、L−グルタミン酸モノナトリウム、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムなどの旨味成分を含む旨味料及び唐辛子、胡椒、山椒などの香辛料などの1種又は2種以上が挙げられる。これらの添加剤は、必要に応じて適量を併用することができる。
【0026】
このようにして本発明を利用して製造される製品は、食品の味を変えることなく、ナトリウム含量が低減された製品であるので、結果として、高血圧、腎疾患、心疾患など循環器系疾病の誘発を予防あるいは改善し、健康の維持増進に大きく貢献することができる。
以下、実験に基づいて、本発明をより詳細に説明する。実験例及び実施例中、%は質量%を示す。
【0027】
<実験例1>
<塩化ナトリウムの塩味に及ぼす各種水溶性食物繊維の影響>
塩化ナトリウムの塩味が、共存する水溶性食物繊維の違いによって、どのような影響を受けるかを調べた。塩化ナトリウムとしては、試薬級の塩化ナトリウムを使用し、水溶性食物繊維としては、難消化性デキストリン(松谷化学工業株式会社販売、商品名「ファイバーソル2」、分子量約1600)、分岐マルトデキストリン(ロケット社製商品名「ニュートリオースFB」、分子量約1600)、ポリデキストロース(ダニスコ・カルター社製、商品名「ライテスII」、分子量約2000)、イヌリン(大日本明治製糖株式会社製、商品名ラフティリンHP、分子量約1500)を用いた。比較として、一般的なデキストリン(松谷化学工業株式会社販売、商品名「パインデックス#2」、DE10、分子量約1700)を、また、参考として、塩味増強効果が知られているトレハロース(株式会社林原社製、商品名「トレハ」)を使用した。
【0028】
<実験方法>
無水物換算で、塩化ナトリウムが1.5%と、上記水溶性食物繊維の何れかが、無水物換算で1%となるように溶解共存させて試験水溶液を調製し、対照として、水溶性食物繊維無添加の1.5%塩化ナトリウム水溶液を調製し、試験水溶液の塩味が、対照(水溶性食物繊維無添加の1.5%塩化ナトリウム水溶液)と比較して、どう変化するかをパネルテストで判定した。パネラーは11名で、男性6名、女性5名の構成で、室温26℃にて行った。塩味に及ぼす影響の判定は、対照に比べて塩味が、低減する、変化なし、やや増強、著しく増強の4段階で判定し、各々の水溶性食物繊維について、各段階の判定をしたパネラーの人数を表1に示す。
【0030】
表1の結果から明らかなように、塩化ナトリウムの塩味は、一般的なデキストリンであるパインデックス#2や、塩味増強効果があるとされるトレハロースの共存によっては、大きな塩味増強効果は見られないが、水溶性食物繊維の範疇で括ることのできるファイバーソル2、ニュートリオースFB、ライテスII、ラフティリンHPでは、その効果に大小はあるものの、塩味増強効果がみられ、驚くべきことに、そのなかでも難消化性デキストリンであるファイバーソル2に特に著しい塩味増強効果が見られた。
また、備考欄に記載したが、ニュートリオースFBやライテスIIには収斂味かエグ味のような異味が感じられるというコメントが多く、トレハロースについては甘味が感じられるとのコメントが多かった。
【0031】
<実験例2>
<塩味増強に及ぼす塩化ナトリウム濃度と難消化性デキストリン濃度の影響>
実験例1で使用した食物繊維の中で、難消化性デキストリンが最も塩味増強効果があることが判明したので、塩味増強に与える塩化ナトリウム濃度と難消化性デキストリン濃度との関係を調べた。実験例1の方法に準じて、塩化ナトリウムと難消化性デキストリンとを、表2に示すように、それぞれ0.5乃至10%となるように溶解共存させて試験水溶液を調製した。対照として、難消化性デキストリン無添加で、0.5乃至10%の塩化ナトリウムを含有する水溶液を調製し、各試験水溶液との塩味の比較をパネルテストにより行った。パネラーは11名で、男性6名、女性5名の構成で、室温26℃にて行った。判定は、対照に比べて、低減する(−1)、変化なし(0)、やや増強(1)、著しく増強(2)の4段階で判定し、各段階の判定をしたパネラーの人数に点数を乗じた結果を表2に示す(判定結果の数字は、最低−11点、最高22点となる)。
【0033】
表2の結果から明らかなように、塩味の増強は、塩化ナトリウムを無水物換算で0.5%以上、望ましくは約1乃至5%、更に好ましくは約1乃至3%含有させるとともに、ファイバーソル2を無水物換算で0.5%以上、望ましくは、約1乃至7%、さらに好ましくは約1乃至5%を含有させた場合に、その増強効果が著しいことが判明した。
【0034】
<実験例3>
<塩化ナトリウムと塩化カリウムを併用した場合の各水溶性食物繊維の塩味に及ぼす影響と異味改善に及ぼす影響>
次に、塩化ナトリウムとともに、食塩代替物の代表ともいえる塩化カリウムが併存した場合の、水溶性食物繊維の、塩味増強効果と異味(エグ味)改善(マスキング)効果を調べた。無水物換算で、塩化ナトリウムを0.75%、塩化カリウム(試薬)を0.75%共存させた水溶液を調製した。実験例1にならい、各種水溶性食物繊維を1.0%含有させたときの塩味およびエグ味が、対照(水溶性食物繊維無添加の0.75%塩化ナトリウム+0.75%塩化カリウム水溶液)と比較して、どう変化するかをパネルテストで判定した。パネラーは11名で、男性6名、女性5名の構成で、室温26℃にて行った。
塩味およびエグ味に及ぼす影響の判定は、対照に比べて各味が、著しく低減する、やや低減する、変化なし、やや増強、著しく増強の5段階で判定した。各々の水溶性食物繊維について、各段階の判定をしたパネラーの人数を表3−1、および表3−2に示す。
【0036】
表3−1の結果から明らかなように、実験例1の結果同様、パインデックス#2やトレハロースの共存によっては、大きな塩味増強効果は見られないが、ファイバーソル2、ニュートリオースFB、ライテスII、ラフティリンHPでは、その効果に大小はあるものの、塩化カリウムを含む場合でも、塩味増強効果がみられた。そのなかでも、やはり難消化性デキストリンであるファイバーソル2に特に著しい塩味増強効果が見られた。すなわち、塩化カリウムの存在下でも、水溶性食物繊維、特に難消化性デキストリンの顕著な塩味増強効果が見られた。
【0037】
また、備考欄に記載したが、ニュートリオースFBやライテスIIには収斂味かエグ味のような異味が感じられるというコメントが多く、トレハロースについては甘味が感じられるとのコメントが多かった。
【0039】
表3−2の結果から明らかなように、ファイバーソル2には塩味増強効果だけでなく、著しいエグ味低減効果が見られた。すなわち、難消化性デキストリンには塩味増強効果だけでなく、塩化ナトリウムを減量し、塩化カリウムで塩味を補足するといった手法で塩味改善を図ろうとする場合に問題となる異味(エグ味)の改善(マスキング)効果をも有するという、驚くべき有用な結果が得られた。
【0040】
また、備考欄に記載したが、ニュートリオースFBやライテスIIには収斂味かエグ味のような異味が感じられるというコメントが多く、トレハロースについては甘味が感じられるとのコメントが多かった。
【0041】
<実験例4>
<塩化ナトリウムとグルタミン酸モノナトリウムを併用した場合の各水溶性食物繊維の塩味に及ぼす影響>
次に、塩化ナトリウムとともに、多くの飲食品物中で共存し得るグルタミン酸モノナトリウムが併存した場合の、各水溶性食物繊維の塩味増強効果を調べた。無水物換算で、塩化ナトリウムを1.5%、グルタミン酸モノナトリウムを0.2%共存させた水溶液を調製した。さらに実験例1にならい、各種水溶性食物繊維を1.0%含有させたときの塩味が、対照(水溶性食物繊維無添加の塩化ナトリウム1.5%+グルタミン酸モノナトリウム0.2%の溶液)と比較して、どう変化するかをパネルテストで判定した。パネラーは11名で、男性6名、女性5名の構成で、室温26℃にて行った。
塩味に及ぼす影響の判定は、対照に比べて塩味が、低減する、変化なし、やや増強、著しく増強の4段階で判定し、各々の水溶性食物繊維について、各段階の判定をしたパネラーの人数を表4に示す。
【0043】
表4の結果から明らかなように、実験例1の結果同様、パインデックス#2やトレハロースの共存によっては、大きな塩味増強効果は見られないが、ファイバーソル2、ニュートリオースFB、ライテスII、ラフティリンHPでは、その効果に大小はあるものの、グルタミン酸モノナトリウムを含む場合でも、塩味増強効果が見られた。
【0044】
難消化性デキストリンは、ほぼ味も臭いも有さない物質といえるが、あえていうなら、極々わずかな甘味を有し、口中におけるこの甘味の立ち上がりおよび立ち消えが全体的にやや緩慢であり、この特有の味質により塩味や旨味を口中で比較的長時間持続させる、すなわち塩味や旨味を増強することができ、さらに、この甘味の立ち消えがやや緩慢であるがゆえに、塩化カリウム等食塩代替物の有する、口中に残存する異味(エグ味)をマスキングできるものと考えられる。
【0045】
一方、分岐構造が発達していないデキストリンの場合、わずかな甘味は有するが、その全体的な味質に広がりがないことが、難消化性デキストリンの有する塩味増強効果および異味低減効果とは画される理由であると推測される。また、トレハロースにおいては、甘味が強いため、一瞬塩味が引き立つように感じられるものの、持続性がなく、甘味質のキレが良いことから、塩化カリウム等食塩代替物の有する、口中に残存する異味(エグ味)をマスキングする効果がないものと考えられる。
【実施例1】
【0046】
スープ
下記の配合および工程により、ポタージュスープを作製し、塩味について、パネルテストで判定した。パネラーは11名で、男性6名、女性5名の構成で、室温26℃、スープ温度は40℃で行った。塩味に及ぼす影響の判定は、対照の比較例1に比べて塩味が、低減する、変化なし、やや増強、著しく増強の4段階で判定した。各段階の判定をしたパネラーの人数を表6に示す。
【0047】
<配合>
*松谷化学工業(株)、加工でん粉
【0048】
<工程>
原料を混合して90℃に達するまで加熱攪拌し、減量した水分を補正後、レトルトパウチに封入して120℃、20分間の殺菌を行った。
【0049】
(表6)
【0050】
塩化ナトリウムを添加しない比較例2は、対照の比較例1と比べて、当然ながら、塩味および旨味がものたりない味となった。しかし、比較例2へファイバーソル2を添加した実施例1においては、パネラー全員が、対照の比較例1と同様、あるいはそれ以上の塩味が感じられると回答しており、上記ポタージュスープの系では、塩化ナトリウム0.5%量をファイバーソル2の1.0%で代替できると考えられた。
なお、比較例2及び実施例1には塩化ナトリウムを添加していないが、粉末コンソメ中には約34%の塩分(食塩換算)が含まれているので、塩味は保持されている。
また、比較例2及び実施例1の塩分を、それぞれ、(株)アタゴ製、デジタル塩分系ES-421を用いて測定したところ、両者とも0.5%となり、計測上の塩味は同等に保持されていることが確認された。
【実施例2】
【0051】
パン
以下の配合および工程により、ハンバーガーバンズを作成し、物性や食味を確認した。配合表中の数値は、すべてベーカーズ%(小麦粉の合計質量を100%として、各成分の質量を小麦粉の合計質量に対する比で表した質量%)である。
【0052】
<配合>
*1:新化食品(株)、「バーガードウ2」
*2:理研ビタミン(株)、「エマルジーMM100」
【0053】
<工程>
中種 ミキシング L3H1
捏上温度 24℃
発酵時間 3.5時間
本捏 ミキシング L3H2↓L3H1
捏上温度 25℃
フロアタイム 20分
分割重量 60g
ベンチタイム 20分
ホイロ 55分 (38℃ 80%RH)
焼成 上火200℃ 下火195℃ 9分
【0054】
<官能評価>
生地物性、味、しっとり感を、日頃より訓練されたパネラー5名により下記5段階評価で採点した。
生地物性評価
5:比較例2−1と同等
4:比較例2−1より分割・成形時に生地がややダレる。
3:比較例2−1より分割・成形時に生地がややダレて、べたつきを感じる。
2:比較例2−1より分割・成形時に生地がダレて、べたつきを感じ、ミキシング時間が延長する。
1:ミキシング時間が極端に延長して実生産に適さない。
味評価
5:比較例2−1と同等。
4:比較例2−1よりもやや風味が劣る。
3:比較例2−1よりも明確に風味が劣る。
2:苦味・エグ味等の異味が感じられる。
1:苦味・エグ味等の異味が強く感じられる。
しっとり感評価
5:非常にしっとりしており食べやすい。
4:しっとり感が感じられる。
3:しっとり感は低いが、パサつきを感じず、食べにくさもない。
2:ややパサついて、食べにくい。
1:かなりパサついており、なかなか飲み込めない。
【0055】
【0056】
塩化ナトリウムを50%減量すると、塩味がなくなりおいしさが感じられなくなった(比較例2−2)。そこで、塩化カリウムで塩味を補うと、エグ味が現れるうえにしっとり感がなくなった(比較例2−3)が、水溶性食物繊維であるファイバーソル2を添加することで、塩味が増強されるうえにエグ味もマスキングされ、しっとり感も得られた。
【実施例3】
【0057】
スープ2
下記の配合および工程により、ポタージュスープを作製し、エグ味について、パネルテストにより判定した。ポタージュスープは、グルタミン酸ナトリウム無添加の粉末コンソメを使用して作製し(比較例3−1、対照)、その中の塩化ナトリウムの一部を塩化カリウムで代替したもの(比較例3−2)、そこへ水溶性食物繊維(ファイバーソル2)を添加したもの(実施例3)を作製して、比較評価した。
パネラーは11名(男性6名、女性5名の構成)で、室温26℃、スープ温度は40℃で行った。
エグ味の判定は、対照の比較例3−1に比べて、エグ味がそれぞれ、効果的に低減する、やや低減する、変化なし、やや増強する、著しく増強する、の5段階で行った。各段階の判定をしたパネラーの人数を表7に示す。
【0058】
<配合>
*1:松谷化学工業(株)社製、加工でん粉
*2:ネスレ日本(株)社製、Maggi 化学調味料無添加コンソメ
【0059】
<工程>
原料を混合して90℃に達するまで加熱攪拌し、減量した水分を補正後、レトルトパウチに封入して120℃、20分間の殺菌を行った。
【0060】
(表7)
【0061】
比較例3−1(対照)の配合のうち、塩化ナトリウムの一部(0.2%量)を塩化カリウム(0.2%量)で代替した比較例3−2のエグ味を評価したところ、対照の比較例3−1と比べて、当然のことながらエグ味は増強していたが、そこへファイバーソル2(3.0%量)を添加した場合(実施例3)のエグ味を評価したところ、パネラー全員が、塩化カリウム無添加の比較例3−1(対照)と比べて同等(つまりエグ味がない)と回答した。
また、塩味については、表には示していないが、パネラー全員が、対照である比較例3−1と同等、あるいはやや増強すると回答した。
【0062】
以上より、水溶性食物繊維であるファイバーソル2は、飲食品中の塩化ナトリウムの一部を塩化カリウムに置き換えた場合に、図らずとも低減してしまう塩味を効果的に補うことができるだけでなく、塩化カリウム由来のエグ味をも効果的にマスキングできることがわかった。
【0063】
また、上記ポタージュスープにおいて、塩化カリウム特有のエグ味をマスキングするのに効果的なファイバーソル2の添加量についても検討したところ、1%添加では効果がやや弱く、上記配合の通り、3%程度添加するのがもっとも効率的であった。
【実施例4】
【0064】
プロセスチーズ
下記配合および工程により、プロセスチーズを作製した。プロセスチーズを製造する際、成形性を向上させる目的で、乳化剤表示されるポリリン酸ナトリウムやクエン酸3ナトリウムが一般的に使用されるが、これらに由来するナトリウム量を低減させる目的で、クエン酸3カリウム等のカリウム塩に代替される場合がある。本実施例においては、クエン酸3ナトリウムを使用したプロセスチーズを対照とし(比較例4−1)、その配合中のクエン酸3ナトリウムの全てをリン酸3カリウムに置き換えたもの(比較例4−2)、そこへさらにファイバーソル2を添加したもの(実施例4)の塩味とエグ味について、パネルテストで判定した。
パネラーは11名(男性6名、女性5名の構成)で行った。
塩味とエグ味の判定は、対照の比較例4−1に比べ、塩味あるいはエグ味がそれぞれ、著しく低減する、やや低減する、変化なし、やや増強する、著しく増強する、の5段階で行った。各段階の判定をしたパネラーの人数を、塩味については表8に、エグ味については表9に示す。
【0065】
<配合>
*1:雪印乳業株式会社 北海道100芳醇ゴーダチーズ(クラッシュ)
【0066】
<工程>
上記配合表に示される割合で、ゴーダチーズ以外の原料を混合し、その後、粉砕したゴーダチーズを投入し、90℃で5分間攪拌、混合した。攪拌後、約7gに分割し、キャンディー型に成型してチーズとした。
【0067】
(表8)
【0068】
比較例4−1(対照)と比べて、比較例4−2の塩味は明らかに低減していたが、そこへファイバーソル2(3.0%量)を添加した実施例4については、パネラーのほとんどが、比較例4−1(対照)と同等にまで塩味が回復する、または増強すると回答した。
【0069】
(表9)
【0070】
比較例4−1(対照)と比べて、比較例4−2のエグ味は明らかに増強していたが、そこへファイバーソル2(3.0%量)を添加した実施例4は、ほとんどのパネラーが、比較例4−1(対照)と同等(つまりエグ味が感じられない)であると回答した。
【実施例5】
【0071】
減塩醤油
市販の減塩醤油(キッコーマン株式会社、商品名「特撰丸大豆減塩醤油」、食塩約8%)に難消化性デキストリン(松谷化学工業株式会社、ファイバーソル2)を5%溶解させ、塩味を増強させた減塩醤油を調製した。本品は、ファイバーソル2無添加の減塩醤油と比較して、明らかに塩味かつ旨味が増強されており、減塩品でありながら、通常品と同様に煮物、惣菜、焼物、汁物などの調味に有利に利用でき、食品の風味を楽しむことができる。また、本品は循環器系疾病患者の治療促進、生活習慣病やメタボリックシンドロームの予防・改善、美容、健康の維持・増進などに有利に利用できる。
【実施例6】
【0072】
減塩味噌
市販の減塩味噌(マルコメ株式会社、商品名「おいしく塩分1/2」、食塩約6.5%)にファイバーソル2を5%練り込み溶解させて、塩味を増強させた減塩味噌を調製した。本品は、減塩味噌と比較して明らかに塩味と旨味を増強していただけでなく、市販減塩味噌に食塩代替として添加されている塩化カリウムに起因する異味をも低減しており、減塩品でありながら通常品と同様に、煮物、惣菜、焼物、汁物などの調味に有利に利用でき、食品の風味を楽しむことができる。また、本品は循環器系疾病患者の治療促進、生活習慣病やメタボリックシンドロームの予防・改善、美容、健康の維持・増進などに有利に利用できる。
【実施例7】
【0073】
減塩麺つゆ
昆布とかつお節を使って、常法により調製しただし汁40質量部に対し、減塩醤油7質量部、ファイバーソル2を2質量部及びみりん10質量部を配合溶解して減塩麺つゆを製造した。また、ファイバーソル2を使用しなかった点を除いて、同様にして対照の減塩麺つゆを製造した。
対照の減塩麺つゆが食味がぼけているのに対し、本発明の減塩麺つゆは、塩化ナトリウムと難消化性デキストリンファイバーソル2とを含有し、塩から味とともに旨味を増強しており、減塩品でありながら、通常品と同様に麺の風味を楽しむことができる。
【実施例8】
【0074】
塩味増強剤
ファイバーソル2を80質量部、塩化カリウム10質量部、塩化カルシウム7質量部及び硫酸マグネシウム3質量部からなる塩味増強剤を300ml容振り出し口付容器に充填して卓上用塩味増強剤を得た。本品は、塩味が薄く食品がぼけて物足りなさを感じる各種飲食物に振りかけて、その塩味とともに旨味を増強し、満足のいく食味に仕上げることができる。