特許第5972179号(P5972179)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5972179被覆酸化マグネシウム粉末及びその製造方法
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  • 特許5972179-被覆酸化マグネシウム粉末及びその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972179
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】被覆酸化マグネシウム粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 5/08 20060101AFI20160804BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20160804BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   C01F5/08
   C08L101/00
   C08K9/02
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-4311(P2013-4311)
(22)【出願日】2013年1月15日
(65)【公開番号】特開2014-136654(P2014-136654A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108764
【氏名又は名称】タテホ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 明
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−151778(JP,A)
【文献】 特開2008−074683(JP,A)
【文献】 特開2009−215134(JP,A)
【文献】 特開2011−020870(JP,A)
【文献】 特開2007−217201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 5/00 − 5/42
C08K 9/02
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀圧入式細孔分布において、粒子内空隙量が0.3〜0.8cm/g、モード径が0.2〜1.0μm、及び変曲点径が0.9μm以上を示す酸化マグネシウム粉末と、
前記酸化マグネシウム粉末の表面の少なくとも一部に、組成式:Mg(x=1〜3、y=2、z=6〜8)で示されるリン酸マグネシウム系化合物を含む被覆層と、を有し、
被覆酸化マグネシウム粉末中のリンの含有量が0.1〜10質量%であることを特徴とする、被覆酸化マグネシウム粉末。
【請求項2】
請求項に記載の被覆酸化マグネシウム粉末からなる充填材。
【請求項3】
樹脂と、請求項記載の充填材と、を含有する、樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂が熱硬化性樹脂である、請求項記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、又はシリコーン樹脂である、請求項記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素樹脂、又は液晶ポリマーである、請求項記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる放熱性部材。
【請求項9】
Bを100〜1000ppm、Naを300ppm以下、Kを300ppm以下、Clを0.02〜0.5質量%含み、かつ、SiをSiOに換算して0.02〜0.5質量%、CaをCaOに換算して0.1〜0.8質量%含む、純度98%以上の水酸化マグネシウムを、1000℃〜1200℃で焼成することにより、酸化マグネシウム粉末を得た後、
前記酸化マグネシウム粉末を、リン化合物と混合して、300℃以上で焼成することにより、前記酸化マグネシウム粉末の表面の少なくとも一部に、組成式:Mg(x=1〜3、y=2、z=6〜8)で示されるリン酸マグネシウム系化合物を含む被覆層を形成することを特徴とする、被覆酸化マグネシウム粉末の製造方法。
【請求項10】
前記リン化合物が、リン酸、リン酸塩、及び酸性リン酸エステルからなる群から選択される1種以上の化合物である、請求項記載の製造方法。
【請求項11】
前記リン化合物が、イソプロピルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、及びステアリルアシッドホスフェートからなる群から選択される1種以上の酸性リン酸エステルである、請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
前記リン化合物を、被覆酸化マグネシウム粉末中のリンの含有量が0.1〜10質量%となるように用いる、請求項9〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂に対する充填材として使用可能な被覆酸化マグネシウム粉末、及びその製造方法に関する。また、本発明は、前記被覆酸化マグネシウム粉末を含む樹脂組成物、及び当該樹脂組成物からなる放熱性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスは、積層体、プリント配線板、多層配線板等の電子部品により構成されている。電子部品には、通常、樹脂組成物がプリプレグ、スペーサー、封止剤、接着性シート等に用いられており、当該樹脂組成物には、様々な性能又は特性が要求されている。例えば、最近の傾向として、電子デバイスにおける大容量パワー素子の搭載、高密度な実装が見られ、それに伴い樹脂組成物及びその応用品に対し従来よりも更に優れた放熱性、耐湿性が要求されている。
【0003】
半導体封止用の樹脂組成物に用いる充填材(フィラー)は、従来、二酸化ケイ素(以下、シリカという)、酸化アルミニウム(以下、アルミナという)が用いられてきた。しかし、シリカの熱伝導性は低く、高集積化、高電力化、高速化等による発熱量の増大に対応する放熱が充分ではないため、半導体の安定動作等に問題が生じていた。一方、シリカより熱伝導性が高いアルミナを使用すると、放熱性は改善されるが、アルミナは硬度が高いために、混練機や成型機及び金型の摩耗が激しくなるという問題点があった。
【0004】
そこで、シリカに比べて熱伝導率が1桁高く、アルミナの約2倍の熱伝導率を有する酸化マグネシウムが半導体封止用樹脂充填材の材料として検討されている。しかし、酸化マグネシウム粉末は、シリカ粉末に比べ、吸湿性が大きい。そのため、半導体封止用樹脂充填材として酸化マグネシウム粉末を用いた場合、吸湿した水と酸化マグネシウムが水和して、充填材の体積が膨張し、これによるクラックの発生、熱伝導性の低下等の問題が発生していた。このため、半導体封止用樹脂充填材として用いる酸化マグネシウム粉末に耐湿性を付与することが、半導体の長期的な安定動作を保証する上で大きな課題となっていた。
【0005】
酸化マグネシウム粉末の耐湿性を改善させる方法として、特許文献1及び特許文献2にはアルミニウム塩又はケイ素化合物と酸化マグネシウム粉末を混合し、固体分をろ別し、乾燥させて、焼成することにより、該酸化マグネシウム粉末の表面を、アルミニウム又はケイ素とマグネシウムの複酸化物を含む被覆層で被覆することを特徴とする被覆酸化マグネシウム粉末の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−34522号公報
【特許文献2】特開2003−34523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した方法により得られた被覆酸化マグネシウム粉末は耐湿性が改善されたものの、粉末粒子は角張った形状をしているため、樹脂への充填性が低く、さらに得られた樹脂組成物の流動性が低いという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、上記の課題を解消し、熱伝導性に加えて耐湿性に優れると共に、さらに、樹脂への充填材として用いる際、充填後の樹脂組成物の流動性が高く、その結果、成形性に優れた被覆酸化マグネシウム粉末、及びその製造方法を提供することである。本発明の他の目的は、当該被覆酸化マグネシウム粉末を含む樹脂組成物、及び当該樹脂組成物からなる放熱性部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水銀圧入式細孔分布において、粒子内空隙量が0.3〜0.8cm/g、モード径が0.2〜1.0μm、及び変曲点径が0.9μm以上を示す酸化マグネシウム粉末と、前記酸化マグネシウム粉末の表面の少なくとも一部に、リン酸マグネシウム系化合物よりなる被覆層と、を有し、被覆酸化マグネシウム粉末内のリンの含有量が0.1〜10質量%であることを特徴とする、被覆酸化マグネシウム粉末に関する。
【0010】
また本発明は、当該被覆酸化マグネシウム粉末からなる充填材にも関する。
【0011】
さらに本発明は、樹脂と、当該充填材とを含有する樹脂組成物にも関する。当該樹脂組成物は、接着剤または半導体封止剤等の放熱性部材として使用することができる。
【0012】
さらにまた、本発明は、Bを100〜1000ppm、Naを300ppm以下、Kを300ppm以下、Clを0.02〜0.5質量%含み、かつ、SiをSiOに換算して0.02〜0.5質量%、CaをCaOに換算して0.1〜0.8質量%含む、純度98%以上の水酸化マグネシウムを、1000℃〜1200℃で焼成することにより、酸化マグネシウム粉末を得た後、前記酸化マグネシウム粉末を、リン化合物と混合して、300℃以上で焼成することにより、前記酸化マグネシウム粉末の表面の少なくとも一部にリン酸マグネシウム系化合物よりなる被覆層を形成することを特徴とする、被覆酸化マグネシウム粉末の製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱伝導性に加えて耐湿性に優れると共に、さらに、樹脂への充填材として用いる際の充填性に優れ、かつ、充填後の樹脂組成物の流動性が高く、その結果、成形性に優れた被覆酸化マグネシウム粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で製造した被覆酸化マグネシウム粉末を撮影した電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0016】
本発明の被覆酸化マグネシウム粉末は、特定の物性を示す酸化マグネシウム粉末と、その表面に形成された、リン酸マグネシウム系化合物よりなる被覆層と、を有するものである。リン酸マグネシウム系化合物からなる被覆層は、酸化マグネシウム粉末の全表面に形成されていてもよいし、酸化マグネシウム粉末の表面の一部のみに形成されていてもよい。リン酸マグネシウム系化合物からなる被覆層によって被覆されていない酸化マグネシウム粉末表面は露出していてよい。
【0017】
本発明において、酸化マグネシウム粉末は、粒子内空隙量が0.3〜0.8cm/g、モード径が0.2〜1.0μm、及び変曲点径が0.9μm以上を満足する。このような酸化マグネシウム粉末の表面にリン酸マグネシウム系化合物よりなる被覆層を形成することによって、本発明の被覆酸化マグネシウム粉末を熱伝導性の充填材として好適に利用することが可能となる。
【0018】
なお、各測定値は、水銀圧入式細孔分布測定装置において測定された数値である。
【0019】
変曲点径、及び粒子内空隙量は、累積細孔容積曲線から求めることができ、累積細孔容積曲線において、縦軸は、試料単位重量当たりの、大きな細孔から順に求めた粒子の細孔容積の累積値である累積細孔容積を表し、横軸は、細孔直径を表す。
【0020】
変曲点とは、累積細孔容積曲線が急激に立ち上る点である。測定試料に応じて、変曲点の数は1個に限られず、複数個存在する場合があるが、細孔直径が最も大きい変曲点を、本発明の変曲点とした。変曲点径は、変曲点における細孔直径である。
【0021】
変曲点径が0.9μm未満であると、細かい粒子の量が増加するため、樹脂に充填する際に急激な粘度の上昇が発生する。好ましくは、変曲点径は0.9〜1.5μmである。
【0022】
粒子内空隙量は、粒子内に存在する凝集粒子径よりも小さな空隙の量であり、粒子内空隙量は、細孔直径0.003×10−6〜100×10−6mにおける累積細孔容積で表される全細孔容積から、前記変曲点における累積細孔容積を減じた容積で表される。
【0023】
酸化マグネシウム粉末の粒子内空隙量が0.3cm/g未満であると、粒子中の空隙が少なく、粒子中に十分な量の樹脂が浸透せず、樹脂組成物の機械的強度が悪化する。また、熱伝導性についても低下する。一方、粒子内空隙量が0.8cm/gを超えると、粒子内空隙が粒子奥深くまで存在するため、空隙内部まで樹脂が十分に行き渡らず、粒子と樹脂の間に気泡が発生し熱伝導性が低下する。好ましくは、粒子内空隙量は0.3〜0.7cm/gである。
【0024】
モード径は、水銀圧入式細孔分布測定から求めることができ、log微分細孔容積分布曲線の最大値に対応する細孔直径である。本発明の酸化マグネシウム粒子の細孔分布を、水銀圧入測定装置によって測定した場合、モード径は、酸化マグネシウム粒子同士の間の空隙の直径に対応する。酸化マグネシウム粉末のモード径が0.2μm未満であると、細かい粒子の量が増加するため、樹脂に充填する際に急激な粘度の上昇が発生する。一方、モード径が1.0μmを超えると、大きな粒子の量が増加するため、樹脂組成物の機械的強度が悪化する。また、熱伝導性についても低下する。好ましくは、モード径は0.3〜1.0μmである。
【0025】
このような酸化マグネシウム粉末に、リン酸マグネシウム系化合物よりなる被覆層を形成する。この被覆層により、酸化マグネシウム粉末の耐湿性を改善することができる。リン酸マグネシウム系化合物とは、例えば、組成式:Mg(x=1〜3、y=2、z=6〜8)で示される化合物である。
【0026】
本発明の被覆酸化マグネシウム粉末は、リン酸マグネシウム系化合物よりなる被覆層を有するので、リンを構成元素として含有する。リンの含有量は、本発明の被覆酸化マグネシウム粉末に対して0.1〜10質量%である。リンがこのような範囲内において含まれることで、本発明の被覆酸化マグネシウム粉末を耐湿性に優れたものとすることができる。リンの含有量が0.1質量%未満であると、充分な耐湿性を発揮することができない。逆にリンの含有量が10質量%を超えると、リン酸マグネシウム系化合物が酸化マグネシウム粉末の表面を被覆するだけではなく、当該リン酸マグネシウム系化合物が単独で粒子を形成したり、または、被覆層が厚すぎたりするため、熱伝導性が低下する欠点がある。
【0027】
本発明の被覆酸化マグネシウム粉末は、樹脂に充填する際の充填性に優れており、かつ、充填後の樹脂組成物の流動性が高いという利点があるため、好適に、充填材として樹脂に配合することができる。本発明で使用可能な樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂、又は、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては特に限定されないが、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、又はシリコーン樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素樹脂、又は液晶ポリマーが挙げられる。
【0028】
本発明の樹脂組成物における被覆酸化マグネシウム粉末の配合量は、樹脂組成物に求められる特定に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。しかし、一例として樹脂100質量部に対し、被覆酸化マグネシウム粉末0.1〜100質量部の範囲で使用すればよい。
【0029】
本発明の被覆酸化マグネシウム粉末を含む樹脂組成物は、その樹脂の特性に応じて種々の分野で利用することができる。しかし、本発明の被覆酸化マグネシウム粉末は熱伝動性に優れているので、特に放熱性が要求される用途で好適に使用することができる。また、本発明の樹脂組成物は、熱伝導性及び耐湿性に優れた半導体封止材料として利用することができる。
【0030】
次に、本発明の被覆酸化マグネシウム粉末を製造する方法について説明する。
【0031】
まず、水酸化マグネシウムを焼成することにより、所定の物性を示す酸化マグネシウムを得る。焼成する水酸化マグネシウムに含まれる各不純物元素の濃度をあらかじめ所定の濃度に調節しておき、焼成時の温度を1000〜1200℃の範囲に設定することによって、所定の物性を示す酸化マグネシウムを得ることが可能になる。
【0032】
水酸化マグネシウム中の異種元素は次のとおりである。B(ホウ素):100〜1000ppm(好ましくは300〜800ppm)、Na(ナトリウム):300ppm以下(好ましくは200ppm以下)、K(カリウム):300ppm以下(好ましくは200ppm以下)、Cl(塩素):0.02〜0.5質量%(好ましくは0.15〜0.3質量%)、Si(ケイ素):SiO換算で0.02〜0.5質量%(0.05〜0.15質量%)、Ca:CaO換算で0.1〜0.8質量%(好ましくは0.2〜0.5質量%)。なお、これら異種元素の濃度調整は従来法により行うことができる。例えば、Bが不足している場合はホウ酸、又はホウ酸マグネシウムを添加して調整できる。Clが不足している場合は、塩酸、又は塩化マグネシウム等を添加して調整できる。Siが不足している場合は珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、又は珪酸カルシウム等を添加して調整できる。カルシウムが不足している場合は水酸化カルシウム、酸化カルシウム、又は炭酸カルシウム等を添加して調整できる。
【0033】
水酸化マグネシウム中のBが1000ppmを超えたり、NaもしくはKが300ppmを超えたりすると、得られる酸化マグネシウムが上述した粒子内空隙量及び/又は変曲点径の条件を満足しない。また、水酸化マグネシウム中のCaがCaO換算で0.1〜0.8質量%の範囲外の場合、または、SiがSiO換算で0.02〜0.5質量%の範囲外の場合は、得られる酸化マグネシウムが上述したモード径及び/又は変曲点径の条件を満足せず、形状も丸みを帯びた形状にならない。水酸化マグネシウムとしては、純度が98%以上のものを用いることが好ましい。
【0034】
さらに、水酸化マグネシウムを焼成する時の温度は1000〜1200℃の範囲であることが好ましい。焼成温度が1000℃未満であると、得られる酸化マグネシウムが上述した粒子内空隙量、モード径及び/又は変曲点径の条件を満足しない。また、焼成温度が1200℃を超えると、得られる酸化マグネシウムが上述したモード径及び/又は変曲点径の条件を満足しない。焼成炉、及び焼成時間は特に限定されず、前述した温度で水酸化マグネシウムが酸化マグネシウムに変換できる焼成炉、及び焼成時間であればよい。
【0035】
以上のように水酸化マグネシウムを焼成して得られた酸化マグネシウムを、必要に応じて粉砕機を使用して粗粉砕する。これにより酸化マグネシウム粉末が得られる。この酸化マグネシウム粉末をリン化合物と混合し、必要に応じ120℃〜200℃程度の温度で乾燥処理を行った後、ボールミル等を利用して粉砕して粉末を得る。この粉末を300℃以上で焼成することで、表面の少なくとも一部にリン酸マグネシウム系化合物よりなる被覆層が形成された酸化マグネシウム粉末を得ることができる。
【0036】
前記リン化合物としては、酸化マグネシウムと反応してリン酸マグネシウム系化合物を形成し得る化合物であれば特に限定されないが、例えば、リン酸、リン酸塩、酸性リン酸エステルが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。好ましくは酸性リン酸エステルである。酸性リン酸エステルとしては、イソプロピルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェートが挙げられる。
【0037】
リン化合物の使用量は、最終産物たる被覆酸化マグネシウム粉末全体に対するリンの含有量が0.1〜10質量%となるように調節すればよい。例えば、リン化合物は酸化マグネシウム粉末に対して5〜10質量%程度の量を使用することができる。
【0038】
焼成時の温度は300℃以上であり、好ましくは300〜700℃程度である。一例として、500℃で1時間の焼成が挙げられる。この焼成により、リン化合物がリン酸マグネシウム系化合物に変換されることで、リン酸マグネシウム系化合物よりなる被覆層を酸化マグネシウム粉末表面に形成することができる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
(不純物元素の濃度測定法)
Ba及びPについては、試料を酸に溶解した後、ICP発光分析装置(商品名:SPS−5100、セイコーインスツルメンツ製)を使用して質量を測定することで、試料中の濃度を算出した。
【0041】
Clについては、試料を酸に溶解した後、分光光度計(商品名:UV−2550、島津製作所製)を使用して質量を測定することで、試料中の濃度を算出した。
【0042】
Si及びCaについては、蛍光X線装置(商品名:SPS−5100、セイコーインスツルメンツ製)を使用して試料中の濃度を測定した。ただし、それぞれSiO換算及びCaO換算の濃度として示した。
【0043】
Na及びKについては、原子吸光光度計(商品名:Z−2300、日立ハイテクノロジーズ製)を使用して試料中の濃度を測定した。
【0044】
(BET比表面積測定法)
比表面積測定装置(商品名:Macsorb1210、マウンテック社製)を使用して、ガス吸着法により比表面積を測定した。
【0045】
(細孔分布の測定)
細孔分布(変曲点径、粒子内空隙量、及びモード径)の測定
水銀圧入式細孔分布測定により得られる、変曲点径、粒子内空隙量、log微分細孔容積分布曲線の最大値に対応する細孔直径(モード径)は、以下の条件で求めた。水銀圧入式細孔分布測定装置は、マイクロメリティックス社製オートポア9410を使用し測定した。なお、水銀は、純度99.5mass%以上、密度13.5335×10kg/mである特級の水銀試薬を用いた。測定セルは、セル内容積5×10−6、ステム容積0.38×10−6の粉体試料用セルを用いた。測定試料は、あらかじめ330メッシュ標準篩(JIS−R8801−87)で粒径を揃えた試料を、質量0.10×10−3〜0.13×10−3kgの範囲で精密に秤量し、測定セルに充填した。測定セルを装置に装着した後、セル内部を圧力50μHg(6.67Pa)以下で20分間、減圧状態に保持した。次に、測定セル内に、圧力が1.5psia(10342Pa)になるまで水銀を充填した。その後、圧力が2psia(13790Pa)から60000psia(413.7MPa)の範囲で水銀を圧入して、細孔分布を測定した。
【0046】
水銀の圧入圧力を細孔直径に換算するには、下記(I)式(Washburnの式)を用いた。
D=−(1/P)・4γ・cosΨ(I)
ここで、D:細孔直径(m)、
P:水銀の圧入圧力(Pa)、
γ:水銀の表面張力(485dyne・cm−1(0.485Pa・m))、
Ψ:水銀の接触角(130°=2.26893rad)である。
【0047】
(耐湿性の測定方法)
試料10gをシャーレに秤量し、恒温恒湿機(85℃・85Rh%)内にセットした。その状態で1週間保持した後、120℃の乾燥機で一晩乾燥した。乾燥後、重量を量り、重量増加率を算出した。
【0048】
(熱伝導率の測定方法)
本発明品を添加した樹脂を完全に硬化させたサイズが直径13mm、厚さ2mmである高熱伝導率樹脂組成物のサンプルを作製し、熱拡散率をレーザーフラッシュ法で30〜100℃の範囲で測定した。装置にはNETZSCH製LFA−457を用いた。比熱と、アルキメデス法により、比重を測定し、熱拡散率と比熱と密度の積としての熱伝導率を算出した。
【0049】
(メルトフローレートの測定方法)
樹脂組成物について、JIS−K7210に準拠し、測定温度230℃、荷重2.16Kgで測定した。
【0050】
(樹脂組成物の製造方法)
メルトフローレートの測定で使用した樹脂組成物は以下の手順で調製した。
EEA(エチレン・エチルアクリレート・コポリマー)100gを溶融後、フィラー333gを少量ずつ、混練状態を見ながら約10分かけて添加し、さらに10分間仕上げ混練を行った。この時のロール間隔0.5mmであった。
【0051】
混練終了後、コンパウンドを引き剥がし、回収したコンパウンドを5mm角程度に裁断、真空乾燥機で90℃×1時間乾燥し、メルトフローレート測定用試料とした。
【0052】
(リン酸マグネシウム系化合物の組成の測定方法)
X線回折装置(商品名:RINT−Ultima III、リガク製)を使用して、Cu−Kα線を用いたX線回折法によりリン酸マグネシウム系化合物被覆層の組成を測定した。
【0053】
(実施例1)
CaをCaOに換算して0.23質量%,SiをSiOに換算して0.07質量%,Clを0.16質量%,Bを402ppm,Naが11ppm,Kが9ppm,になるように調整した純度99.2%の水酸化マグネシウムを電気炉にて1100℃で1時間、焼成することにより酸化マグネシウムを作成した。
【0054】
この酸化マグネシウムをパワーミルで解砕した後、酸性リン酸エステルであるイソプロピル酸性リン酸エステルを酸化マグネシウムに対し5重量%添加した。その後、120℃で2時間乾燥した後、ボールミルで粉砕し、500℃で1時間焼成を行い、目的の被覆酸化マグネシウム粉末を得た。
【0055】
得られた被覆酸化マグネシウム粉末について、上述した方法に基づき不純物元素の濃度、BET比表面積、細孔分布、耐湿性、熱伝導率、及びメルトフローレートを測定し、結果を表1に示した。
【0056】
また、上述した方法に基づき、得られた被覆酸化マグネシウム粉末表面の被覆層の組成を測定したところ、Mgであることが判明した。
【0057】
図1は、得られた被覆酸化マグネシウム粉末の電子顕微鏡写真である。被覆酸化マグネシウム粉末の粒子形状は球状であった。ここで、球状の粉末とは、角のない丸みを帯びた形状の粒子からなる粉末を指し、これに対し、不定形の粉末とは、結晶粒子が複数結合した角の有る粒子からなる粉末を指す。
【0058】
(実施例2)
水酸化マグネシウムの焼成温度を1175℃に変更した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表1に示した。
【0059】
(実施例3)
CaをCaOに換算して0.48質量%になるように調整した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表1に示した。
【0060】
(実施例4)
SiをSiOに換算して0.12質量%になるように調整した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表1に示した。
【0061】
(実施例5)
水酸化マグネシウムのB濃度を700ppmになるように調整した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表1に示した。
【0062】
(実施例6)
水酸化マグネシウムのNa濃度を200ppmになるように調整した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表1に示した。
【0063】
(実施例7)
水酸化マグネシウムのK濃度を200ppmになるように調整した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表1に示した。
【0064】
(実施例8)
被覆酸化マグネシウム粉末中のリンの含有量が0.18質量%になるように酸性リン酸エステルの使用量を変更した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表1に示した。
【0065】
(実施例9)
被覆酸化マグネシウム粉末中のリンの含有量が4.6質量%になるように酸性リン酸エステルの使用量を変更した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表1に示した。
【0066】
(比較例1)
水酸化マグネシウムの焼成温度を950℃に変更した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表2に示した。
【0067】
(比較例2)
水酸化マグネシウムの焼成温度を1400℃に変更した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表2に示した。
【0068】
(比較例3)
水酸化マグネシウムのCaO濃度を1質量%に変更した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表2に示した。
【0069】
(比較例4)
水酸化マグネシウムのSiO濃度を4質量%に変更した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表2に示した。
【0070】
(比較例5)
水酸化マグネシウムのB濃度を1200ppmに変更した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表2に示した。
【0071】
(比較例6)
水酸化マグネシウムのNa濃度を400ppmに変更した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表2に示した。
【0072】
(比較例7)
水酸化マグネシウムのK濃度を400ppmに変更した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表2に示した。
【0073】
(比較例8)
被覆酸化マグネシウム粉末全体に対するリンの含有量が0.058質量%になるように酸性リン酸エステルの使用量を変更した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表2に示した。
【0074】
(比較例9)
被覆酸化マグネシウム粉末全体に対するリンの含有量が12.1質量%になるように酸性リン酸エステルの使用量を変更した以外は実施例1と同じ条件で被覆酸化マグネシウム粉末を得た。実施例1と同様に各物性の測定を行い、結果を表2に示した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
図1