特許第5972199号(P5972199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972199
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】波力発電装置
(51)【国際特許分類】
   F03B 13/22 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
   F03B13/22
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-55584(P2013-55584)
(22)【出願日】2013年3月18日
(65)【公開番号】特開2014-181588(P2014-181588A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2014年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】513066166
【氏名又は名称】猪坂 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100121692
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 勝美
(74)【代理人】
【識別番号】100125221
【弁理士】
【氏名又は名称】水田 愼一
(72)【発明者】
【氏名】猪坂 英一
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−63177(JP,A)
【文献】 特開昭58−220972(JP,A)
【文献】 特許第4808799(JP,B2)
【文献】 特開2003−307172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沖方向から陸地に向けて海面から海底までの深さが漸次浅くなる傾斜した海岸の海底に設置され、海岸に打ち寄せる寄せ波及び打ち寄せた波が沖へ引いてゆく引き波の力を用いて発電を行う波力発電装置において、
寄せ波の進行方向に交差する水平向きに回転軸を有した水車と、
前記水車の回転に連動して回転して発電を行うように水車の回転軸に連結されている発電用モータと、
寄せ波を通す吸い込み口と、
引き波を通す引き波用の口と、
前記吸い込み口の反対側にあって、前記水車の回転軸直上を通過する寄せ波を前記水車の回転方向に沿って流すように前記水車の外周を覆うガイド板と、
前記回転軸、発電用モータ吸い込み口、引き波用の口、及びガイド板を保持し、かつ、波力発電装置を海底に設置するためのフレームと、を備え
前記フレームは、潮の満ち引きにより変化する海面の高さの範囲の内、任意の或る時間において、引き波から寄せ波に変わる際の波高の谷高さが前記吸い込み口の下端位置となる設置条件を満たすように海底に設置固定され、
前記水車は、前記回転軸の上側を通る寄せ波、及び、前記回転軸の下側を通る引き波を受けて回転し、
前記吸い込み口は、当該開口下端が前記水車の回転軸より下側に位置し、かつ当該開口上端が前記水車の上端より上側に位置し、当該開口下端と開口上端の高さ範囲にある寄せ波を集めて前記水車の回転軸より上側と前記水車の上端との間に導き、
前記引き波用の口は、前記吸い込み口の下側に設けられており、前記水車の回転軸より下側を通る引き波を通し、
前記水車は、前記回転軸に放射状に複数設けられた水受けを有し、各水受けは前記回転軸方向に伸びる樋形状であって、波の進行方向から見て表面が凹状で、裏側が凸状とされている、ことを特徴とする波力発電装置。
【請求項2】
前記水受けは中空の円柱を当該円柱の軸に沿って半分に切断した形状を有していることを特徴とする、請求項に記載の波力発電装置。
【請求項3】
前記水車の回転軸の両端側に、回転軸の回転を増速する歯車変速機が配置され、2つの発電用モータが前記両側の歯車変速機の上方に配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の波力発電装置。
【請求項4】
前記吸い込み口は、中空の四角錐台形状を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の波力発電装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の波力発電装置が複数、潮の満ち引きにより変化する海面の高さの範囲の内、予め定めた複数の海面高さにおいて前記設置条件を満たすように海岸からの距離を変えて設けられており、
前記複数の波力発電装置により発電された電力を1つにまとめて出力する制御部を備えている、ことを特徴とする波力発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波の力(波力という)を用いて発電する波力発電装置、特に、波打ち際に打ち寄せては引いてゆく波の往復動を用いて発電する波力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、波上の位置に設けた台上に枢動可能に支持され、海岸へ打ち寄せる寄せ波と該寄せ波が沖へと戻る引き波により得られる力により往復動する波受け板を備え、該波受け板の動きにより発電する発電システムが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−25096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている発電システムは、コイルに挿入した永久磁石を波受け板により往復動させて発電する。
【0005】
しかし、前記発電システムでは、波の1往復によって永久磁石も1往復するのみで、電磁誘導作用により発生する発電量は極めて少ない。このように、従来の発電システムでは、波力を有効に使えていない。
【0006】
本発明は、上記従来例の問題を解決するためになされたものであり、海岸に打ち寄せる寄せ波及び引き波を用いてより効率良く発電を行う発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、沖方向から陸地に向けて海面から海底までの深さが漸次浅くなる傾斜した海岸の海底に設置され、海岸に打ち寄せる寄せ波及び打ち寄せた波が沖へ引いてゆく引き波の力を用いて発電を行う波力発電装置において、寄せ波の進行方向に交差する水平向きに回転軸を有した水車と、前記水車の回転に連動して回転して発電を行うように水車の回転軸に連結されている発電用モータと、寄せ波を通す吸い込み口と、引き波を通す引き波用の口と、前記吸い込み口の反対側にあって、前記水車の回転軸直上を通過する寄せ波を前記水車の回転方向に沿って流すように前記水車の外周を覆うガイド板と、前記回転軸、発電用モータ吸い込み口、引き波用の口、及びガイド板を保持し、かつ、波力発電装置を海底に設置するためのフレームと、を備え、前記フレームは、潮の満ち引きにより変化する海面の高さの範囲の内、任意の或る時間において、引き波から寄せ波に変わる際の波高の谷高さが前記吸い込み口の下端位置となる設置条件を満たすように海底に設置固定され、前記水車は、前記回転軸の上側を通る寄せ波、及び、前記回転軸の下側を通る引き波を受けて回転し、前記吸い込み口は、当該開口下端が前記水車の回転軸より下側に位置し、かつ当該開口上端が前記水車の上端より上側に位置し、当該開口下端と開口上端の高さ範囲にある寄せ波を集めて前記水車の回転軸より上側と前記水車の上端との間に導き、前記引き波用の口は、前記吸い込み口の下側に設けられており、前記水車の回転軸より下側を通る引き波を通し、前記水車は、前記回転軸に放射状に複数設けられた水受けを有し、各水受けは前記回転軸方向に伸びる樋形状であって、波の進行方向から見て表面が凹状で、裏側が凸状とされている、ことを特徴とする。
【0009】
好ましくは、前記水受けは中空の円柱を当該円柱の軸に沿って半分に切断した形状を有している。
【0010】
好ましくは、前記水車の回転軸の両端側に、回転軸の回転を増速する歯車変速機が配置され、2つの発電用モータが前記両側の歯車変速機の上方に配置されている。
【0011】
好ましくは、前記吸い込み口は、中空の四角錐台形状を有している。
【0012】
本発明の波力発電システムでは、前記いずれかに記載の発電装置が複数、潮の満ち引きにより変化する海面の高さの範囲の内、予め定めた複数の海面高さにおいて前記接地条件を満たすように海岸からの距離を変えて設けられており、前記複数の波力発電装置により発電された電力を1つにまとめて出力する制御部を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る波力発電装置では、潮の満ち引きにより変化する海面の高さの範囲の内、任意の或る時間において、引き波から寄せ波に変わる際の波高の谷高さが吸い込み口の下端位置となる設置条件を満たすようにフレームが海底に設置固定されているので、水車は、回転軸の上側を通る寄せ波、及び、回転軸の下側を通る引き波の両方の力を受けて回転し、連結されている発電用モータを回転させて極めて効率良く発電を行う。
【0014】
また、本発明に係る発電システムでは、潮の満ち引きを考慮して海岸からの距離を変えて複数の波力発電装置を設置し、各波力発電装置からの出力を1つにまとめて出力することにより、潮の満ち引きによる影響をあまり受けずに発電することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態に係る波力発電装置を前方から見た斜視図。
図2】同波力発電装置を後方から見た斜視図。
図3】同波力発電装置の図1に示す斜視図のA−A'矢視図。
図4】同波力発電装置の右側面図。
図5】同波力発電装置の正面図。
図6】同波力発電装置の背面図。
図7】同波力発電装置の図1に示す斜視図のB−B’断面図。
図8】同波力発電装置の水車、歯車減速機、発電用モータの連結状態を示す斜視図。
図9】(a)は海岸近くの海底に設置した同波力発電装置が寄せ波を受ける場合の様子を示す断面図、(b)は引き波を受ける場合の様子を示す断面図。
図10】全面に均一な波力を受ける場合の水車の様子を示す側面図。
図11】海岸からの距離を変えて海底に配置した2つの波力発電装置を用いる波力発電システムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る波力発電装置は、桶形状の水受けを有し、回転軸よりも上側に寄せ波を受け、下側に引き波を受けて回転する水車と、水車の回転により発電する発電部と、回転軸下側を含む周りの寄せ波を集め回転軸上側へと導く吸い込み口と、引き波を回転軸下側に通す引き波用の口と、前記水車、発電部、吸い込み口及び引き波用の口が設けられており、海岸の海底に設置されるフレームと、を備える。引き波用の口は、吸い込み口の下側に設けられている。波力発電装置は、引き波から寄せ波に変わる際の波高の谷が吸い込み口下端の位置となる設置条件で海底に設置する。前記構成の波力発電装置において、寄せ波により水位が上昇し、引き波により水位が減少する間、水車は同一方向に回転し、極めて効率良く発電モータによる発電を行うことができる。
【0017】
なお、水車の回転軸直上を通過した寄せ波を水車の回転方向に沿って流すように、水車の外周を覆うガイド板を設けることが好ましい。ガイド板は、寄せ波によって水車を回転させる力を増やし、かつ、引き波の内、水車の回転を妨げる引き波をガイド板の外側に導くことにより、波力を有効に使って効率良く水車を回転させる。
【0018】
図1図2は、本発明の一実施の形態に係る波力発電装置1が海岸の海底20に設置されている状態を示す。波力発電装置1は、海底20に下側の一部が埋設され、固定されているメインフレーム2を有している。メインフレーム2には、水車3と、寄せ波又は海水を集めて水車3に当てる吸い込み口4と、歯車変速機5a、5bと、歯車変速機5a、5bに連結されている発電部6とを有している。
【0019】
メインフレーム2は、四隅に設けられている4本の支柱2a〜2dと、該4本の支柱間を繋ぐ横梁2e〜2hを含む複数の横梁等で構成されるテーブル状のフレーム構造を有している。水車3は、メインフレーム2の中位の高さに取り付けられている。歯車変速機5a、5bは、水車3及び発電部6に連結されており、水車3の回転を増速して発電部6に伝える。
【0020】
波力発電装置1の一実施例では、メインフレーム2の天地方向の全長及び波の進行方向に直交する向きの幅は約2m、波の進行方向に沿う奥行きは約1mである。図1図2は、海面が、吸い込み口4が寄せ波を水車3側に吐出する開口部分の高さにある状態を示している。
【0021】
メインフレーム2には、吸い込み口4の反対側に、装置1を海底に固定するための2本の補助支え2i、2jと、水車3の回転軸直上を通過した寄せ波を水車3の回転方向に沿って流すように、水車3の外周を覆うガイド板7とが取り付けられている。発電部6からは、発電した電気を出力する電線6aが陸地へとのびている。
【0022】
波力発電装置1は、海岸の海底20にメインフレーム2及び補助支え2i、2jを埋設して固定されている。海底の状態によっては、波力発電装置1をより確実に固定するため、フレーム2及び補助支え2i、2jの海岸に埋設される部分の長さを、例えば1m〜3m延長してもよい。または、波力発電装置は、フレーム2及び補助支え2i、2jの下端をコンクリート製の台座に取り付けた後に、該台座を海底に埋設することによって、海底に固定してもよい。なお、補助支え2i、2jが無くても確実に固定できる場合には、補助支え2i、2jは無くても良い。
【0023】
図3乃至図7は、波力発電装置1の各構成要素を示す。なお、各構成要素をより明確に示す目的で、図3乃至図7では、海面の描写は省略する。
【0024】
図3に示すように、水車3は、回転軸3aと、回転軸3aに放射状に取り付けられている6個の水受け3bと、で構成されている。水受け3bは、表側が凹状で、裏側の凸状となっている樋形状を有している(図8を参照))。水受け3bの裏面の凸状部分は、波から受ける力が表側に比べて少なくなるように、表面抵抗の少ない滑らかな面を有しており、当たった海水を受け止めずに周りに流す。当該構成を採用することにより、水車3は、回転軸3aよりも上側に寄せ波を受け、そして、下側に引き波を受けることによって時計回りに回転する。吸い込み口4と水車3との距離は、吸い込み口4が集めて吐出する寄せ波が水車3の回転軸3aの上側に効率良く当たる値に設定する。
【0025】
ガイド板7の上端は、発電部6の底面に接続されている。ガイド板7は、歯車5cの回転軸5fを中心とする場合において、約2時の方向の、回転軸5fからガイド板7の上端までと同程度の距離の位置に、下端が設けられている。なお、ガイド板7の下端は、水車3の回転軸3a近くまで伸びていてもよいし、ガイド板7の形状は、水車3の外周に沿って湾曲していてもよい。ガイド板7は、寄せ波が水車3を時計回りに回転させるように水受け3bに作用する行程を伸ばす。また、ガイド板7は、引き波をガイド板7の外側、即ち水車3の上側に導いて水車3を反時計回りに回転させようとする引き波が当たる量を減らし、より効率良く水車3を回転させる。
【0026】
図4に示すように、歯車変速機5aは、3つの歯車5c、5d、5eで構成されている。歯車5cの回転軸5fは、水車3の回転軸3a(図3を参照)に繋がっている。なお、歯車変速機5b(図2を参照)は、歯車変速機5aと同じ構成を有している。
【0027】
図3及び図5に示すように、吸い込み口4は、メインフレーム2の前面に取り付けた直方体のフレーム4a(図1を参照)に、台形状の板4b〜4eを張り付けて内面が中空の四角錐台形状を有するように構成した構造物である。吸い込み口4は、更に、フレーム4aとメインフレーム2との間に取り付けた矩形の板4fを含む。吸い込み口4の下端、即ち台形状の板4cの下端は、引き波から寄せ波に変わった直後から、寄せ波が回転軸3aより上側の水受け3bを押す力が、回転軸3aより下側の水受け3bを押す力よりも勝り、水車3が回転するように、回転軸3aよりも下側に位置する。吸い込み口4の上端、即ち台形状の板4eの上端は、水車3の水受け3bの上端よりも上側、例えば発電部6の高さに位置する。該構成を採用することで、吸い込み口4は、水車3の周りの寄せ波を集めて回転軸3a上側へと導く。吸い込み口4の下側には、回転軸3aよりも下側を通る引き波を通す引き波用の口8が設けられている。引き波用の口8は、メインフレーム2の前側の2本の支柱2a、2dの間、吸い込み口4の台形状の板4cの下側及び海底20との間に区画される部分を指す。
【0028】
図6に示すように、発電部6は、防水処理の施された容器内に、該容器から反対向きに連結用の回転子のシャフト6d、6eを突出している2つの発電用モータ(永久磁石型同期電動機)6b、6cを備えている。図3及び図6に示すように、各発電用モータ6b、6cは、発電した電力を外部に出力する電線6aを有している。
【0029】
図7は、波力発電装置1の断面を示す。メインフレーム2は、左右対称の構成を有している。水車3の回転軸3aの両端には、2つの同一構成の歯車変速機5a、5bが連結されている。2つの歯車変速機5a、5bは、上方に配置されている発電部6の2つの発電用モータ6b、6cの回転子のシャフト6d、6eに連結されている。
【0030】
図8は、波力発電装置1の水車3、歯車変速機5a、発電用モータ6bの連結状態を示す。水車3の水受け3bは、中空の円柱を当該円柱の軸に沿って半分に切断した樋形状を有している。該形状を採用することにより、水受け3bの裏面の凸状部分は、表面抵抗が少なく、当たった海水を効率良く周りに流すことができる。
【0031】
歯車変速機5aは、水車3と発電用モータ6cのシャフト6dとを、3つの歯車5c、5d、5eにより連結する。歯車5cの回転軸5gは、同軸上にある水車3の回転軸3aに接続されている。歯車5cの歯5hは、歯車5dの回転軸5iに設けてある歯に噛合している。歯車5dの歯5jは、歯車5eの回転軸5kに設けてある歯に噛合している。歯車5eの歯5lは、発電用モータ6bのシャフト6dに設けた歯に噛合している。当該構成により、歯車変速機5aは、水車3の回転を増速してシャフト6dに伝える。なお、歯車変速機5a、5bに使用する歯車の数、及び、各歯車のギヤ比については、波力発電装置1の設置場所で得られる寄せ波及び引き波の力及びシャフト6dを回転するのに要する力等に基づいて、シャフト6dを安定して回転可能な値に設定する。
【0032】
図9は、全面に均一に波を受けた場合の水車3の回転原理を示す。回転軸3aを挟んで位置している2つの水受け3bに、回転軸3aに交差する向き、図面左側から右側へと均一な力の波を受けた場合について考える。矢印9a〜9fに示すように、上側にある水受け3bの表側の凹状部分は、波からの力を受け止めるのに対し、下側にある水受け3bの裏面の凸状部分は、波からの力を受け止めずに周りに流すため、波から受ける力は弱い。この結果、水車3は、矢印9gで示す時計回りの方向に回転し、上下の2つの水受け3bが波から受ける力が平衡するところで止まる。実際の水車3は、水受け3bが60度間隔で放射状に設けられており、水車3を回転させようとする力が上側に位置する各水受け3bに次々と作用する結果、水車3は回転する。
【0033】
図10は、一実施例として、引き波から寄せ波に変わる際の波高の谷高さが吸い込み口4下端の位置となる設置条件で海底に設置された波力発電装置1を示す。図10(a)に示すように、寄せ波の間、水位はPaからPbへと上昇する。吸い込み口4により水車3の回転軸3aよりも上側にある水受け3bに当たるように集められた寄せ波は、矢印10a乃至矢印10cで示すように水車3の回転軸3aより上側を通り、水車3を時計回りに回転させる。水車3の回転軸3a直上を通過した寄せ波は、ガイド板7の作用により、水車3の回転方向に沿って流れ、より強力に水車3を回転させる。なお、寄せ波の内、矢印10dで示すように、波力発電装置1の底及び引き波用の口8を通る波もある。しかし、吸い込み口4の作用により、回転軸3aよりも下側の位置する寄せ波は持ち上げられて水車3の上部の水受け3bに当てられるため、下側の水受け3bの裏面に当たる寄せ波の量は少ない。そして、寄せ波の水位の上昇に伴い、より多くの寄せ波又は海水が水受け3bに当たるため、水車3を時計回りに回転させる力が勝り、水車3は回転する。
【0034】
図10(b)に示すように、寄せ波が沖へ戻る引き波に変わった場合、水位はPbからPaへと下がる。引き波の場合、最初、水車3は海面下にあり、矢印11a〜11cで示すように、水車3の略全面に引き波又は海水からの力が作用し、図9で説明した原理に基づいて、水車3は時計回りに回転する。また、ガイド板7は、水車3の上部へと向かい反時計回りに回転させようとする引き波を矢印11eで示すように波力発電装置1の発電部6上側へと導くため、引き波が水車3の回転を邪魔するがなくなり、矢印11b,11aに示すように引き波によっても水車3を時計回りに回転させる力が多く作用する。また、水位の低下に伴い、矢印11dに示すように、水車3の上側の水受け3bの裏側凸状部分に当たる引き波は、少なくなる。この結果、引き波の間、水車3は時計回りに効率良く回転する。
【0035】
(応用例)
図11は、本発明の実施形態の波力発電装置を複数用いて構成される発電システム50を示す。発電システム50は、複数(例えば2つ)の波力発電装置1、31と、複数の波力発電装置1、31により発電された電力を1つにまとめて出力する制御部40と、を備えている。波力発電装置31の構成は、波力発電装置1と同じである。
【0036】
波力発電装置1、31は、潮の満ち引きにより変化する海面の高さの範囲(水位Pc〜水位Pe)の内、引き波から寄せ波に変わる際の波高の谷高さが吸い込み口4下端の位置となる設置条件を満たすように、海岸からの距離を変えて設けられている。
【0037】
海水は時間の経過に伴う潮の満ち引きにより水位が上下する。一日を通じて効率良く発電を行えるように、2つの波力発電装置1、31は、潮の満ち引きにより変化する海面の高さの範囲の内、予め定めた複数の海面高さに設置される。より詳しくは、1つ目の波力発電装置1は、ある時間において、引き波から寄せ波に変わる際の波高の谷高さが吸い込み口4下端の位置となる設置条件を満たす海底に設置される。2つ目の波力発電装置31は、前記時間において、引き波から寄せ波に変わる際の海面高さが、例えば吸い込み口上側の位置以下の高さとなるように海底に設置される。
【0038】
各波力発電装置1、31の発電した電力を外部に出力する電線6a、36aは、例えば、陸地に設けてある制御部40に接続される。制御部40は、複数の波力発電装置1、31の電線6a、36aに接続されている蓄電池41と、蓄電池41に蓄えられた電気を定電圧変換して外部に出力する定電圧回路42と、を備えている。定電圧回路42は、電力変換回路及び蓄電池の充放電制御回路を内蔵しており、所定のタイミング、例えば定刻又は蓄電池41への蓄電量が所定値以上ある場合に、蓄電池41に蓄えられた電力を所望の電圧に変換して出力する。
【0039】
波力発電装置1、31を用いる発電システム50を用いることにより、潮の満ち引きによる影響を軽減して、より安定した発電を行うことができる。
【0040】
なお、本発明は、上記各種実施形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、歯車変速機5a、5bは、ベルト又はチェーンを用いて複数の歯車を連結するものでも良い。また、水車3を中間位置で左右独立して回転できるように構成し、2つの歯車変速機のギア比を、軽い負荷で回転し発電するが低出力の発電用モータと、比較的重い負荷で回転し発電するが高出力の発電用モータとを駆動するように設定しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、寄せ波及び引き波の波力を用いて水車を回転させて発電を行う波力発電装置であり、海岸の他、寄せ波及び引き波のある場所、例えば人工海岸等でも使用できる。本明細書において、海岸、海底の語は、これに類する場所を含む。波力発電装置は、寄せ波に相当する水流のある川岸、例えば浅瀬又は段差のある個所にも使用することができる。この場合、引き波が実質無いが、波力発電装置は、引き波から寄せ波に変わる際の波高の谷高さとして、例えば、乾季の川面の波の高さが吸い込み口の下端位置以上となる位置に配置することにより、効率良く発電を行うことができる。
【符号の説明】
【0042】
1、31 波力発電装置
2 メインフレーム
3 水車
3a 回転軸
3b 水受け
4 吸い込み口
5a、5b 歯車変速機
6 発電部
6b、6c 発電用モータ
7 ガイド板
8 引き波用の口
40 制御部
50 発電システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11