(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ニッケル水素蓄電池は、一般に、負極の容量を正極の容量よりも大きくしているので、電池の放電容量は、正極の容量によって制限される(以下、これを正極規制とも言う)。このように正極規制とすることにより、過充電時及び過放電時における電池内圧の上昇を抑制できる。なお、負極を正極と対比して、充電可能な過剰な未充電部分を充電リザーブと呼び、放電可能な過剰な充電部分を放電リザーブと呼ぶ。
【0003】
ところで、近年の調査により、ニッケル水素蓄電池の中には、微量の水素ガスが電池ケースを透過して電池外部に漏れ続けるものがあることが判っている。このように水素ガスが電池外部に漏出すると、電池ケース内の水素分圧の平衡を保つべく、水素漏出量に応じて負極の水素吸蔵合金から水素が排出される。これにより、負極の放電リザーブ容量が減少する。この水素の漏出は、非常にゆっくりと進行するため、比較的短い使用期間では問題とならない。
【0004】
しかしながら、使用期間が長期にわたると、正極と負極の容量のバランスが悪くなると共に負極の容量が減少し、負極の放電リザーブ容量が消滅してしまうことがある。その結果、ニッケル水素蓄電池が負極規制(電池の放電容量が負極の容量によって制限されることを言う)となり、電池の放電容量が減少して電池特性が大きく低下してしまうことがあった。ニッケル水素蓄電池を、電気自動車やハイブリッド自動車などの電源として用いる場合には、長期間の寿命が要求されるため、このような電池特性の低下は問題となる。
【0005】
この課題を解決すべく、負極の放電容量の減少により電池容量が低下したニッケル水素蓄電池について、負極の放電容量を増加(回復)させて、電池を再生する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。ニッケル水素蓄電池を過充電すると、正極から電子が放出されると共に、電解液の分解により酸素ガスが発生する。一方、負極では、水の分解により発生した水素が水素吸蔵合金に吸蔵される。但し、正極から発生した酸素ガスは、通常、水素吸蔵合金に吸蔵された水素との反応により消費される(水が生成される)ため、結局、過充電するだけでは、負極の水素吸蔵合金に吸蔵される水素を増加させることはできない。
【0006】
これに対し、特許文献1では、ニッケル水素蓄電池を過充電して正極から発生させた酸素ガスの少なくとも一部を電池外部に排出する。これにより、電池内部では、過充電に伴って負極の水素吸蔵合金に吸蔵された水素が、酸素ガスに対し過剰となる。その結果、過充電により負極の水素吸蔵合金に吸蔵された水素の少なくとも一部を、発生した酸素ガスと反応させることなく水素吸蔵合金に吸蔵されたまま残存させる(負極の放電容量を増加させる)ことができる。かくして、負極の放電容量を回復させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法では、ニッケル水素蓄電池の過充電をどの程度行えば、負極の放電容量がどの程度増加するのかは不明である。このため、負極の放電容量を所望の容量増加させたい場合に、ニッケル水素蓄電池の過充電をどれだけ行えば良いのか判らない。ニッケル水素蓄電池は、過充電しすぎると電池の劣化を生じる。また、充電時間が長いと生産性が悪くなる。従って、必要以上に過充電を行うのは好ましくない。
そこで、本発明者が実験を重ねて調査した結果、充電(過充電に限られない)による負極の放電容量の容量増加量は、回復前後でのニッケル水素蓄電池の質量減少量との間に、高い相関があることが判明した。
【0009】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、ニッケル水素蓄電池について負極の放電容量を所望の容量増加させることができる負極放電容量回復方法、及び、負極放電容量回復装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、正極と負極と復帰型の安全弁装置とを備えるニッケル水素蓄電池について、前記負極の放電容量を増加させる負極放電容量回復方法であって、前記負極の前記放電容量について目標容量増加量を設定する増加量設定ステップと、回復前後の前記ニッケル水素蓄電池の質量減少量と前記負極の前記放電容量の容量増加量との相関に基づいて、設定された前記目標容量増加量に対応する目標質量減少量を設定する質量減少量設定ステップと、前記ニッケル水素蓄電池を充電して前記正極から酸素ガスを発生させ、当該酸素ガスの少なくとも一部を、開弁した前記安全弁装置を通じて電池外部に排出して、前記負極の前記放電容量を増加させる放電容量増加ステップと、を備え、前記放電容量増加ステップは、前記質量減少量が前記目標質量減少量に達するまで、前記ニッケル水素蓄電池の充電を行う負極放電容量回復方法である。
【0011】
負極の放電容量を増加(回復)させるにあたり、回復前後でのニッケル水素蓄電池の質量減少量と負極の放電容量の容量増加量との相関を、予め把握しておく。そして、この負極放電容量回復方法では、まず負極の放電容量について目標容量増加量を設定する(容量増加量設定ステップ)。更に、電池の質量減少量と負極の容量増加量との相関に基づいて、設定された目標容量増加量に対応する目標質量減少量を設定する(質量減少量設定ステップ)。その後、ニッケル水素蓄電池を充電して、負極の放電容量を増加させる(放電容量増加ステップ)。具体的には、電池の質量減少量が目標質量減少量に達するまで、ニッケル水素蓄電池の充電を行う。これにより、目標質量減少量に対応する目標容量増加量の分だけ、負極の放電容量を増加させることができる。このように上述の負極放電容量回復方法によれば、負極の放電容量を所望の容量増加させることができる。
【0012】
なお、負極の放電容量を増加させるための「充電」は、SOC0%〜SOC100%の間で行う通常の充電のほか、SOC100%を越えた状態で行う充電、即ち、いわゆる過充電も含む。
また、「放電容量増加ステップ」は、後述するように、ニッケル水素蓄電池の質量を継続的に測定し、質量減少量を継続的に算出しながら行ってもよいし、ニッケル水素蓄電池の質量を例えば所定時間毎に断続的に測定し、質量減少量を所定時間毎に断続的に算出しながら行ってもよい。
また、「放電容量増加ステップ」において、発生させた酸素ガスを安全弁装置を通じて電池外部に排出する方法としては、充電(過充電)により上昇した電池内圧が開弁圧に達することで、安全弁装置を自動的に開弁させて、酸素ガスの少なくとも一部を排出させる方法が挙げられる。また、電池内圧が開弁圧に達する前に安全弁装置を強制的に開弁させて、酸素ガスの少なくとも一部を排出させてもよい。
【0013】
更に、上記の負極放電容量回復方法であって、前記放電容量増加ステップは、前記ニッケル水素蓄電池の質量を継続的に測定し、前記質量減少量を継続的に算出しながら行う負極放電容量回復方法とすると良い。
【0014】
この負極放電容量回復方法では、ニッケル水素蓄電池の質量を継続的に測定し質量減少量を継続的に算出しながら、放電容量増加ステップを行う。これにより、ニッケル水素蓄電池の実際の質量減少量が目標質量減少量に到達したのと同時に、放電容量増加ステップを終了することができる。従って、負極の放電容量を、より正確に目標容量増加量だけ増加させることができる。
【0015】
更に、上記のいずれかに記載の負極放電容量回復方法であって、前記放電容量増加ステップは、前記安全弁装置の開弁を強制的に行って、発生させた前記酸素ガスの少なくとも一部を排出する負極放電容量回復方法とすると良い。
【0016】
この負極放電容量回復方法では、安全弁装置の開弁を強制的に行って、充電により発生させた酸素ガスの少なくとも一部を電池外部に排出する。これにより、発生した酸素ガスが水素吸蔵合金に吸蔵された水素と反応して消費される(水が生成される)のを抑制できる。従って、負極の放電容量の容量回復効率を向上させることができる。
【0017】
更に、上記のいずれかに記載の負極放電容量回復方法であって、前記放電容量増加ステップは、充電開始時の前記ニッケル水素蓄電池の温度を30℃以下にして行う負極放電容量回復方法とすると良い。
【0018】
このように充電開始時の前記ニッケル水素蓄電池の温度を30℃以下とすることで、負極の放電容量の容量回復効率を向上させることができる。
【0019】
更に、上記のいずれかに記載の負極放電容量回復方法であって、前記放電容量増加ステップは、充電電流値を6.0C以下にして行う負極放電容量回復方法とすると良い。
【0020】
このように充電電流値を6.0C以下とすることで、負極の放電容量の容量回復効率を向上させることができる。
【0021】
また、他の態様は、正極と負極と復帰型の安全弁装置とを備えるニッケル水素蓄電池について、前記負極の放電容量を増加させる負極放電容量回復装置であって、前記ニッケル水素蓄電池を充電する充電回路と、前記充電回路による前記ニッケル水素蓄電池の充電を制御する充電制御装置と、前記ニッケル水素蓄電池の質量を測定する質量測定装置と、を備え、前記充電制御装置は、前記負極の前記放電容量について目標容量増加量を設定する増加量設定手段と、回復前後の前記ニッケル水素蓄電池の質量減少量と前記負極の前記放電容量の容量増加量との相関に基づいて、設定された前記目標容量増加量に対応する目標質量減少量を設定する質量減少量設定手段と、前記充電回路で前記ニッケル水素蓄電池を充電して前記正極から酸素ガスを発生させ、当該酸素ガスの少なくとも一部を、開弁した前記安全弁装置を通じて電池外部に排出して、前記負極の前記放電容量を増加させる放電容量増加手段であって、前記質量測定装置による測定で得られる前記質量減少量が前記目標質量減少量に達するまで、前記ニッケル水素蓄電池の充電を行う放電容量増加手段と、を有する負極放電容量回復装置である。
【0022】
この負極放電容量回復装置では、充電制御装置のうち、増加量設定手段において、負極の放電容量について目標容量増加量を設定する。更に、質量減少量設定手段において、電池の質量減少量と負極の容量増加量との相関に基づいて、設定された目標容量増加量に対応する目標質量減少量を設定する。その後、放電容量増加手段により、充電回路でニッケル水素蓄電池を充電して、負極の放電容量を増加させる。具体的には、質量測定装置による測定から算出される質量減少量が目標質量減少量に達するまで、ニッケル水素蓄電池の充電を行う。これにより、目標質量減少量に対応する目標容量増加量の分だけ、負極の放電容量を増加させることができる。このように上述の負極放電容量回復装置によれば、負極の放電容量を所望の容量増加させることができる。
【0023】
更に、上記の負極放電容量回復装置であって、前記質量測定装置は、前記ニッケル水素蓄電池を充電しながら前記ニッケル水素蓄電池の質量を継続的に測定可能とされてなり、前記放電容量増加手段は、前記質量減少量を継続的に算出する負極放電容量回復装置とすると良い。
【0024】
この負極放電容量回復装置では、質量測定装置においてニッケル水素蓄電池の質量を継続的に測定し、放電容量増加手段において質量減少量を継続的に算出しながら、ニッケル水素蓄電池を充電して、負極の放電容量を増加させることができる。これにより、ニッケル水素蓄電池の実際の質量減少量が目標質量減少量に到達したのと同時に、ニッケル水素蓄電池の充電を終了することができる。従って、負極の放電容量を、より正確に目標容量増加量だけ増加させることができる。
【0025】
更に、上記のいずれかに記載の負極放電容量回復装置であって、前記安全弁装置を強制的に開弁させる強制開弁装置を備える負極放電容量回復装置とすると良い。
【0026】
この負極放電容量回復装置では、強制開弁装置により安全弁装置の開弁を強制的に行って、充電により発生させた酸素ガスの少なくとも一部を電池外部に排出する。これにより、発生した酸素ガスが水素吸蔵合金に吸蔵された水素と反応して消費される(水が生成される)のを抑制できる。従って、負極の放電容量の容量回復効率を向上させることができる。
【0027】
更に、上記のいずれかに記載の負極放電容量回復装置であって、前記充電回路は、6.0C以下の充電電流値で前記ニッケル水素蓄電池を充電する負極放電容量回復装置とすると良い。
【0028】
このように充電電流値を6.0C以下とすることで、負極の放電容量の容量回復効率を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1〜
図3に、本実施形態に係るニッケル水素蓄電池10(以下、単に電池10とも言う)を示す。また、
図4及び
図5に、この電池10の安全弁装置80を示す。
この電池10は、ハイブリッド自動車や電気自動車等の車両などに搭載される角型で密閉型のニッケル水素蓄電池である。この電池10は、直方体状の電池ケース20と、この電池ケース20内に収容された複数(6つ)の電極体30と、電池ケース20に支持された正極端子部材60及び負極端子部材70等から構成されている(
図1〜
図3参照)。
【0031】
このうち電池ケース20は、樹脂により形成されている。この電池ケース20は、上側のみ開口した有底角筒状のケース本体21と、このケース本体21の開口を封口する矩形板状の蓋部材23から構成されている。ケース本体21には、電池ケース20の内部から外部に延出する形態の正極端子部材60と負極端子部材70がそれぞれ固設されている。一方、蓋部材23には、復帰型の安全弁装置80が設けられている。
【0032】
この安全弁装置80は、ゴム製の安全弁81を有する(
図4及び
図3参照)。この安全弁81は、電池内圧が所定の開弁圧(具体的には0.6MPa)未満のときは、電池ケース20の内外を連通する通気孔83を気密に封止した状態を保っている。一方、
図5に示すように、電池内圧が開弁圧に達すると、自動的に開弁して、電池10(電池ケース20)内のガスGAを通気孔83を通じて電池外部に排出する。詳細には、電池内圧が開弁圧に達すると、その圧力で安全弁81の底部81cが電池外部側(
図5中、上方)に押し上げられて、通気孔83の封止が解除される。これにより、電池10内のガスGAが通気孔83を通じて電池外部に排出される。
【0033】
電池ケース20の内部は、5つの隔壁部25によって、6つのセル90に仕切られている(
図3参照)。各々のセル90内には、それぞれ電極体30が収容されると共に、電解液(図示しない)が保持されている。電極体30は、正極31と負極41と袋状のセパレータ51から構成されている。正極31は、袋状のセパレータ51内に挿入されており、セパレータ51内に挿入された正極31と負極41とが交互に積層されている。各セル90内に位置する正極31及び負極41は、それぞれ集電されて、これらが直列に接続されると共に、前述の正極端子部材60及び負極端子部材70に接続されている。正極31は、水酸化ニッケルを含む活物質と、発泡ニッケルからなる活物質支持体とを有する電極板である。また、負極41は、水素吸蔵合金を負極構成材として含む電極板である。また、セパレータ51は、親水化処理された合成繊維からなる不織布である。また、電解液は、KOHを含む比重1.2〜1.4のアルカリ水溶液である。
【0034】
この電池10は、各々のセル90の正極容量AEがAE=6.5Ah、負極容量BEがBE=11.0Ahである(
図6参照)。なお、
図6は、出荷時初期の電池10(各セル90)における正極容量AEと負極容量BEとの関係を模式的に示す。この図では、正極容量AE及び負極容量BEをそれぞれ縦長の帯の長さで表している。
【0035】
この電池10は、正極規制の状態であり、各々のセル90の電池容量(出荷時初期容量)が6.5Ahである。即ち、SOC(State Of Charge)100%=6.5Ahである。また、正極31の充電容量AC及び放電容量ADは、正極容量AEに等しく、AC=AD=AE=6.5Ahである。一方、負極41の充電容量BCはBC=8.5Ahであり、このうち充電リザーブ容量BCRはBCR=2.0Ahである。また、負極41の放電容量BDはBD=9.0Ahであり、このうち放電リザーブ容量BDRはBDR=2.5Ahである。
【0036】
ここで、負極41の放電リザーブ容量BDRの測定方法について説明する。まず出荷時初期の未使用の電池10を複数用意し、これらの電池10について、電池電圧が1.0Vになるまで放電した後、電池10内に電解液を補充して電解液が過剰に存在する状態とする。その後、各セル90内の電解液中にHg/HgO参照極(図示しない)を配設して、放電容量を測定しながら各電池10を過放電させた。そして、次式の基づいて負極41の放電リザーブ容量BDRを算出した。
放電リザーブ容量BDR=(参照極の電位に対する負極41の電位が−0.7Vになるまでの放電容量)−(参照極に対する正極31の電位が−0.5Vになるまでの放電容量)
【0037】
その結果、各セル90の負極41の放電リザーブ容量BDRの初期値は、前述のように、平均してBDR=2.5Ahであった。また、正極容量AE=6.5Ahであるので、負極41の放電容量BDは、BD=6.5+2.5=9.0Ahと求められる。また、負極41の充電容量BCは、BC=11.0−2.5=8.5Ah、充電リザーブ容量BCRは、BCR=8.5−6.5=2.0Ahとそれぞれ求められる。
【0038】
(劣化した状態の電池の作製)
次に、負極41の放電容量BDを強制的に減少させた電池10を作製する。具体的には、出荷時初期の未使用の電池10を複数用意し、これらの電池10について電池ケース20に穴をあけ、電池ケース20内に強制的に酸素を注入して、負極41の放電容量BDを減少させる。なお、電池ケース20にあけた穴は酸素注入後に閉塞する。
【0039】
その後、これらの電池10について、各セル90の負極41の放電容量BDを調査したところ、放電リザーブ容量BDRは無くなっており(BDR=零)、放電容量BDが平均して初期の9.0Ahから5.5Ah減ってBD=3.5Ahであった(
図7参照)。従って、この高温放置により劣化させた電池10は、負極規制の状態にあり、各々のセル90の電池容量が、初期の6.5Ahから3.0Ah減って3.5Ahであった。
【0040】
(負極放電容量回復試験1)
次に、上述の劣化させた(負極41の放電容量BDを減少させた)電池10を複数(14個)用意し、これらについて、負極41の放電容量BDを増加(回復)させる負極放電容量回復試験を行った。具体的には、各電池10を充電(本試験では過充電)して正極31から酸素ガスを発生させ、その少なくとも一部を、開弁した安全弁装置80を通じて電池外部に排出して、負極41の放電容量BDを増加させた。
【0041】
電池10は、SOCがある程度高い状態(概ね30%以上)では、充電すると、次の反応が生じる。なお、「M」は、水素吸蔵合金を示す。
(正極)OH
- → 1/4O
2+1/2H
2O+e
- …(1)
(負極)M+H
2O+e
- → MH+OH
- …(2)
MH+1/4O
2 → M+1/2H
2O …(3)
【0042】
式(1)の正極31から発生した酸素ガスO
2 の少なくとも一部を、開弁した安全弁装置80を通じて電池外部に排出すると、負極41では、式(2)の反応が進行して水素Hが吸蔵される一方、式(3)の反応が抑制されるので、水素Hの放出が抑制される。従って、電池10を充電すると、
図8に破線のハッチングで模式的に示すように、負極41の充電部分の容量が増加する。その結果、負極41の放電容量BDを増加させることができる(
図9参照)。
なお、これら
図8及び
図9に示した例では、負極41に充電リザーブ容量BCRが再び生じるまで、具体的には、放電リザーブ容量BDRが出荷時初期と同じBDR=2.5Ahに回復するまで、放電容量BDをBD=3.5Ahから5.5Ah増加させてBD=9.0Ahとした場合を示している。なお、
図8及び
図9では、正極31及び負極41の充電部分の容量をハッチングで示している。
【0043】
この負極放電容量回復試験は、
図10に示す負極放電容量回復装置100を用いて行った。この負極放電容量回復装置100は、充電回路120及び充電制御装置130を有する充電装置110と、質量測定装置140と、強制開弁装置150と、ガス流量計160とを備える。
このうち充電回路120は、接続ケーブル121,123を通じて、電池10の正極端子部材60及び負極端子部材70に接続されている。これにより、充電回路120によって電池10を充電できる。
【0044】
充電制御装置130は、充電回路120と接続されており、この充電制御装置130によって、充電回路120による電池10の充電を制御できる。この充電制御装置130は、CPU、ROM、RAM、入出力回路等から構成されるマイクロコンピュータであり、所定のプログラムにより駆動される。
質量測定装置140は、電子天秤であり、電池10の質量(回復前の初期の質量Wa及び現在の質量Wb)を測定できる。この質量測定装置140は、充電装置110の充電制御装置130に接続されており、電池10を充電している間も電池10の現在の質量Wbを継続的に測定して、その質量情報を充電制御装置130に送信できる。
【0045】
強制開弁装置150は、電池内圧が開弁圧(具体的には0.6MPa)に達するよりも前に安全弁装置80を強制的に開弁させることが可能な装置である。この強制開弁装置150は、真空ポンプ151とこれに接続された連結ホース153とを有する。連結ホース153は、他方で電池10の安全弁装置80に気密に装着されている。これにより、真空ポンプ151を作動させると、安全弁装置80の電池外部側に掛かる気圧を低くできるので、電池内圧が開弁圧に達するよりも前に、安全弁装置80を開弁させることができる。そして、充電により正極31から発生した酸素ガスの少なくとも一部を、安全弁装置80の通気孔83を通じて電池外部に排出する。この排出した酸素ガス等のガスGAは、次述するガス流量計160によって検知される。
【0046】
ガス流量計160は、真空ポンプ151と安全弁装置80との間に配置されている。これにより、ガス流量計160によって、開弁した安全弁装置80を通じて電池外部に排出されたガスGAを検知できる。このガス流量計160は、充電装置110の充電制御装置130に接続されており、その検知情報を充電制御装置130に送信できる。
【0047】
この負極放電容量回復試験では、上述の負極放電容量回復装置100を用いて、前述の強制劣化させた(負極41の放電容量BDを減少させた)14個の電池10について、様々な条件で、充電により負極41の放電容量BDを増加させた。即ち、充電開始時の電池温度を、0℃、25℃または30℃のいずれかとした。具体的には、3個の電池10については充電開始時の電池温度を0℃とし、8個の電池10については充電開始時の電池温度を25℃とし、3個の電池10については充電開始時の電池温度を30℃とした。なお、充電電流値は、いずれの電池10についても3.0Cの一定電流値とした。
【0048】
試験後の各電池10について、試験前後の電池10の質量減少量ΔW(g)、即ち、試験開始前の電池10の質量Wa(g)と試験後の電池10の質量Wb(g)との差分ΔW=Wa−Wbにより、質量減少量ΔWをそれぞれ算出した。また、試験後の各電池10について、負極41の放電容量BDを測定し、試験前後の放電容量BDの容量増加量ΔBD(Ah)をそれぞれ求めた。その結果を
図11に示す。
なお、
図11では、充電開始時の電池温度を0℃とした電池の結果を「○」、充電開始時の電池温度を25℃とした電池の結果を「△」、充電開始時の電池温度を30℃とした電池の結果を「□」で示してある。
【0049】
図11から明らかなように、負極放電容量回復試験において、電池10の質量減少量ΔWと負極41の放電容量BDの容量増加量ΔBDとの間には、高い相関、具体的には比例関係があることが判る。得られたデータを最小二乗法により一次近似したところ、ΔBD=0.68×ΔWという相関式が得られた。この相関により、電池10の質量減少量ΔWをどれだけにすれば、負極41の放電容量BDの容量増加量ΔBDがどれだけになるかが判る。換言すれば、容量増加量ΔBDの目標値(目標容量増加量BDt)を達成するためには、電池10の質量減少量ΔWをどれだけにすれば良いかが判る。例えば、容量増加量ΔBDの目標容量増加量BDtをBDt=5.5Ahに設定した場合、これを達成するためには、電池10の質量減少量ΔWがΔW=8.1gとなるまで充電を行えば良いことが判る。
【0050】
(負極放電容量回復試験2)
次に、前述の強制劣化させた(負極41の放電容量BDを減少させた)電池10を5個用意し、これらについて、充電開始時の電池温度を−30℃、0℃、25℃、30℃または35℃として、充電(本試験では過充電)により負極41の放電容量BDを増加させる負極放電容量回復試験を行った。なお、充電電流値は、いずれの電池10についても3.0Cの一定電流値とした。
また、試験後の各電池10について、負極41の放電容量BDの容量回復効率(Ah/g)をそれぞれ求めた。ここで言う容量回復効率(Ah/g)とは、質量減少量(g)と容量増加量(Ah)の割合である。
【0051】
図12から明らかなように、負極放電容量回復試験において、充電開始時の電池温度を30℃以下とすると、負極41の放電容量BDの容量回復効率を高くできることが判る。一方、充電開始時の電池温度が30℃を越えると、容量回復効率が低下することが判る。従って、負極放電容量回復試験は、充電開始時の電池温度を30℃以下にして行うのが好ましい。
【0052】
(負極放電容量回復試験3)
次に、前述の強制劣化させた(負極41の放電容量BDを減少させた)電池10を4個用意し、これらについて、充電電流値を1.5C、3.0C、5.4Cまたは7.7Cの一定電流値として、充電(本試験では過充電)により負極41の放電容量BDを増加させる負極放電容量回復試験を行った。なお、充電開始時の電池温度は、いずれの電池10についても25℃とした。
【0053】
また、試験後の各電池10について、前述のように、負極41の放電容量BDの容量回復効率(Ah/g)をそれぞれ求めた。その結果を
図13に示す。
図13から明らかなように、負極放電容量回復試験において、充電電流値を6.0C以下にすると、負極41の放電容量BDの容量回復効率を高くできることが判る。一方、充電電流値が6.0Cを越えると、容量回復効率が低下することが判る。従って、負極放電容量回復試験は、充電電流値を6.0C以下にして行うのが好ましい。
【0054】
以上の試験結果より、以下のようにすれば、負極41の放電容量BDを所望の容量(目標容量増加量BDt)だけ増加させることができる。具体的には、まず負極41の放電容量BDについて目標容量増加量BDtを設定する(例えば目標容量増加量BDt=5.5Ahに設定する)。
次に、回復前後の電池10の質量減少量ΔWと負極41の放電容量BDの容量増加量ΔBDとの相関(具体的には、ΔBD=0.68×ΔW)に基づいて、設定された目標容量増加量BDtに対応する目標質量減少量Wtを設定する(例えば目標容量増加量BDt=5.5Ahとした場合には、目標質量減少量WtをWt=8.1gに設定する)。
【0055】
次に、電池10を充電して正極31から酸素ガスを発生させ、その少なくとも一部を、開弁した安全弁装置80を通じて電池外部に排出して、負極41の放電容量BDを増加させる。具体的には、質量減少量ΔWが目標質量減少量Wt(例えばWt=8.1g)に達するまで、電池10を充電する。その際、充電開始時の電池温度を30℃以下にし、また、充電電流値を6.0C以下にするのが好ましい。これにより、設定した目標容量増加量BDt(例えばBDt=5.5Ah)の分だけ、負極41の放電容量BDを増加(回復)させることができる。以下に、具体例を説明する。
【0056】
(実施例)
次いで、本実施形態に係る負極放電容量回復装置100を用いた負極放電容量回復方法について、
図14及び
図15を参照しつつ説明する。この負極放電容量回復方法を行うにあたり、
図11に示した回復前後の電池10の質量減少量ΔWと負極41の放電容量BDの容量増加量ΔBDとの相関(具体的には、ΔBD=0.68×ΔW)を、予め把握しておく。
【0057】
次に、前述のように負極41の放電容量BDが減少した電池10を用意し、この電池10を前述の負極放電容量回復装置100にセットする。具体的には、電池10を質量測定装置140の上に載置する。また、接続ケーブル121,123により、電池10の正極端子部材60及び負極端子部材70を充電装置110の充電回路120に接続する。更に、強制開弁装置150の連結ホース153を電池10の安全弁装置80に接続する。
【0058】
そして、
図14に示すように、まずステップS1の増加量設定ステップにおいて、負極41の放電容量BDについて目標容量増加量BDtを設定する。例えば、目標容量増加量BDt=5.5Ahに設定する。なお、このステップS1を実行する充電制御装置130が前述の「増加量設定手段」に相当する。
【0059】
次に、ステップS2の質量減少量設定ステップにおいて、回復前後の電池10の質量減少量ΔWと負極41の放電容量BDの容量増加量ΔBDとの相関に基づいて、設定された目標容量増加量BDtに対応する目標質量減少量Wtを設定する。具体的には、質量減少量ΔWと容量増加量ΔBDは、ΔBD=0.68×ΔWの関係にあるので、目標容量増加量BDt=5.5Ahとすると、目標質量減少量WtはWt=8.1gと算出される。従って、この値を目標質量減少量Wtに設定する。なお、このステップS2を実行する充電制御装置130が前述の「質量減少量設定手段」に相当する。
【0060】
次に、ステップS3の放電容量増加ステップを行う。このステップS3では、電池10を充電(本実施例では過充電)して正極31から酸素ガスを発生させ、その少なくとも一部を、開弁した安全弁装置80を通じて電池外部に排出して、負極41の放電容量BDを増加させる。電池10の充電は、電池10の質量減少量ΔWが前述の目標質量減少量Wt(=8.1g)に達するまで行う。なお、このステップS3を実行する充電制御装置130が前述の「放電容量増加手段」に相当する。
【0061】
具体的には、
図15に示すサブルーチンに進み、ステップS31において、質量測定装置140により電池10の質量(回復前の質量)Wa(g)を測定する。
次に、ステップS32に進み、充電装置110により電池10の充電(過充電)を開始する。その際、本実施例では、充電開始時の電池10の温度を25℃とする。また、充電電流値を3.0Cの一定電流値とする。
次に、ステップS33において、再び質量測定装置140により電池10の現在の質量Wb(g)を測定する。次に、ステップS34に進み、現在の質量減少量ΔW(g)を算出する。具体的には、ΔW=Wa−Wbにより質量減少量ΔWを算出する。
【0062】
次に、ステップS35に進み、現在の質量減少量ΔWが目標質量減少量Wtに達したか否かを判断する。ここで、YES、即ち、質量減少量ΔWが目標質量減少量Wtに達したと判断された場合には、ステップS37に進み、充電(過充電)を終了する。一方、NO、即ち、質量減少量ΔWがまだ目標質量減少量Wtに達していないと判断された場合には、ステップS33に戻って、再び電池10の質量Wbを測定する。かくして、負極41の放電容量BDを、設定された目標容量増加量BDtだけ増加(回復)させることができる。
【0063】
以上で説明したように、負極41の放電容量BDを増加(回復)させるにあたり、回復前後の電池10の質量減少量ΔWと負極41の放電容量BDの容量増加量ΔBDとの相関を、予め把握しておく。そして、まず負極41の放電容量BDについて目標容量増加量BDtを設定する(容量増加量設定ステップS1)。更に、電池10の質量減少量ΔWと負極41の容量増加量ΔBDとの相関に基づいて、設定された目標容量増加量Bdtに対応する目標質量減少量Wtを設定する(質量減少量設定ステップS2)。
【0064】
その後、電池10を充電して、負極41の放電容量BDを増加させる(放電容量増加ステップS3)。具体的には、電池10の質量減少量ΔWが目標質量減少量Wtに達するまで、電池10の充電を行う。これにより、目標質量減少量Wtに対応する目標容量増加量BDtの分だけ、負極41の放電容量BDを増加させることができる。このように負極放電容量回復装置100を用いた負極放電容量回復方法によれば、負極41の放電容量BDを所望の容量増加させることができる。
【0065】
更に、前述の負極放電容量回復方法では、電池10の質量Wbを継続的に測定し質量減少量ΔWを継続的に算出しながら、放電容量増加ステップS3を行っている。これにより、電池10の実際の質量減少量ΔWが目標質量減少量Wtに到達したのと同時に、放電容量増加ステップS3を終了することができる。従って、負極41の放電容量BDを、より正確に目標容量増加量BDtだけ増加させることができる。
【0066】
また、前述の負極放電容量回復方法では、安全弁装置80の開弁を強制的に行って、充電により発生させた酸素ガスの少なくとも一部を電池外部に排出する。これにより、発生した酸素ガスが水素吸蔵合金に吸蔵された水素と反応して消費される(水が生成される)のを抑制できる。従って、負極41の放電容量BDの容量回復効率を向上させることができる。
また、放電容量増加ステップS3は、充電開始時の電池10の温度を30℃以下にして行っているので、負極41の放電容量BDの容量回復効率を向上させることができる。また、この放電容量増加ステップS3は、充電電流値を6.0C以下にして行っているので、負極41の放電容量BDの容量回復効率を向上させることができる。
【0067】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施形態では、樹脂製の電池ケース20を備える電池10を対象にして、負極41の放電容量BDを増加(回復)させたが、電池ケースが樹脂以外の材質からなるニッケル水素蓄電池についても同様に、負極の放電容量を増加させることができる。
【0068】
また、実施形態では、電池10を過充電することによって正極31から酸素ガスを発生させているが、充電により正極31から酸素ガスを発生させ、その少なくとも一部を安全弁装置80を通じて電池外部に排出できればよく、SOC100%以下(好ましくはSOC70%以上)の状態から電池10の充電を行ってもよい。この場合でも同様に、負極41の放電容量BDを回復させる効果を得ることができるからである。
【0069】
また、実施形態では、負極41に放電リザーブ容量BDRが再び生じるまで、具体的には、回復前は零であった放電リザーブ容量BDRが、出荷時初期と同じBDR=2.5Ahに回復するまで、放電容量BDを回復前のBD=3.5Ahから5.5Ah増加させてBD=9.0Ahとした場合を示したが、これに限られない。例えば、負極41に放電リザーブ容量BDRが再び生じない範囲内(負極41の放電容量BDが正極31の放電容量AD=6.5Ah以下の範囲内)で、負極41の放電容量BDを増加(回復)させてもよい。例えば、放電容量BDを回復前のBD=3.5Ahから3.0Ah増加させてBD=6.5Ahとしてもよい(放電リザーブ容量BDRは零のままである)。この例では、電池容量を出荷時初期の6.5Ahまで回復させることができる。また、放電容量BDを回復前のBD=3.5Ahから2.0Ah増加させて、出荷時初期の6.5Ahよりも少ないBD=5.5Ahまで回復させてもよい。
【0070】
また、実施形態では、劣化により負極41の放電容量BDが減って放電リザーブ容量BDRが無くなり、更には負極規制の状態となった電池10を対象にして、負極41の放電容量BDを増加(回復)させたが、これに限られない。例えば、出荷時初期よりは負極41の放電容量BDが減ったものの、放電リザーブ容量BDRがまだ残っている電池を対象にして、負極41の放電容量BDを増加(回復)させてもよい。
【0071】
また、実施形態では、安全弁装置80の開弁を強制開弁装置150を用いて強制的に行う場合を例示したが、これに限られない。例えば、充電(過充電)に伴って電池内圧が開弁圧に達することにより、安全弁装置80を自然に開弁させてもよい。
また、実施形態では、1つの電池10を対象として、負極41の放電容量BDを増加(回復)させたが、これに限られない。例えば、複数の電池10を内蔵する電池パックについて、負極41の放電容量BDを増加(回復)させることもできる。