特許第5972213号(P5972213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジョンソンコントロールズ ヒタチ エア コンディショニング テクノロジー(ホンコン)リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許5972213-冷凍装置 図000002
  • 特許5972213-冷凍装置 図000003
  • 特許5972213-冷凍装置 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972213
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
   F25B1/00 351Z
   F25B1/00 311C
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-87038(P2013-87038)
(22)【出願日】2013年4月18日
(65)【公開番号】特開2014-211254(P2014-211254A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2015年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】515294031
【氏名又は名称】ジョンソンコントロールズ ヒタチ エア コンディショニング テクノロジー(ホンコン)リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮田 祐太郎
【審査官】 鈴木 充
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−118264(JP,A)
【文献】 特開2005−282972(JP,A)
【文献】 特開平09−159288(JP,A)
【文献】 特開2007−278686(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/160597(WO,A1)
【文献】 特開平09−229494(JP,A)
【文献】 特開昭57−202458(JP,A)
【文献】 特開2010−276239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を吸引して圧縮する容積形圧縮機と、
前記圧縮機から吐出される冷媒を凝縮する凝縮器と、
凝縮した冷媒を減圧する減圧手段と、
減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器と、
液インジェクション用電磁弁を有し、前記液インジェクション用電磁弁を開弁することにより、前記圧縮機の圧縮過程の途中である中間圧力部に前記凝縮器で熱交換された液冷媒の一部を注入する液インジェクション手段と、
前記電磁弁を開閉する制御装置と、
前記圧縮機に吸入される冷媒の吸入温度及び吸入圧力、並びに、外気温度をそれぞれ検知するセンサと、
を備え、
前記制御装置は、
前記センサにより検出された前記圧縮機に吸入される冷媒の吸入温度及び外気温度から、前記液インジェクション手段による液冷媒の注入がなくても前記圧縮機に対して過熱による問題が生じないと予め設定された吐出温度設定値に対応する吸入圧力設定値を算出し、
前記センサにより検出された吸入圧力検出値が前記吸入圧力設定値よりも高い場合は、前記液インジェクション用電磁弁を開弁せず、
前記センサにより検出された前記吸入圧力検出値が前記吸入圧力設定値よりも低い場合は、前記液インジェクション用電磁弁を開弁する冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷凍装置に係わり、特に圧縮機に液冷媒を注入し冷媒の吐出ガス温度を調節する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の冷凍装置としては、例えば、特許文献1に記載されているように、スクロール圧縮機を搭載した冷凍装置において、圧縮機の中間圧力部に液冷媒の一部を導入し、圧縮機の吐出ガス温度を制御するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−130850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧縮機から吐出された冷媒は高温・高圧のガスである。吐出ガス温度が高すぎると、圧縮機の軸受けや歯型が焼きつき、損傷する恐れがあるため、冷凍機では一般的に凝縮器での熱交換によって中温となった液冷媒の一部を圧縮機の中間圧部に戻すことで、圧縮機を冷却している。このような冷却方式を一般的に液インジェクションと呼称する。
【0005】
液インジェクションの目的は圧縮機の過熱防止であるため、吐出ガス温度が圧縮機に対して問題のない温度である場合、液インジェクションは不要である。
【0006】
本発明の課題は、液インジェクションのための電磁弁の開閉のタイミングを最適化し、不要な液インジェクションを回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の冷凍装置は、冷媒を吸引して圧縮する容積形圧縮機と、圧縮機から吐出される冷媒を凝縮する凝縮器と、凝縮した冷媒を減圧する減圧手段と、減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器と、液インジェクション用電磁弁を有し、液インジェクション用電磁弁を開弁することにより、圧縮機の圧縮過程の途中である中間圧力部に凝縮器で熱交換された液冷媒の一部を注入する液インジェクション手段と、電磁弁を開閉する制御装置と、圧縮機に吸入される冷媒の吸入温度及び吸入圧力、並びに、外気温度をそれぞれ検知するセンサと、を備え、制御装置は、センサにより検出された圧縮機に吸入される冷媒の吸入温度及び外気温度から、液インジェクション手段による液冷媒の注入がなくても圧縮機に対して過熱による問題が生じないと予め設定された吐出温度設定値に対応する吸入圧力設定値を算出し、センサにより検出された吸入圧力検出値よりも吸入圧力設定値が高い場合は、液インジェクション用電磁弁を開弁せず、センサにより検出された吸入圧力検出値よりも吸入圧力設定値が低い場合は、液インジェクション用電磁弁を開弁する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液インジェクションのための電磁弁の開閉のタイミングを最適化し、不要な液インジェクションを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】任意の冷媒に対するモリエル線図
図2】圧縮機起動時における液インジェクション電磁弁開弁制御のフローチャート
図3】冷凍装置の冷凍サイクル系統図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施例の冷凍装置は、冷媒を吸引して圧縮する容積形圧縮機と、圧縮機から吐出される冷媒を凝縮する凝縮器と、凝縮した冷媒を減圧する減圧手段と、減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器と、液インジェクション用電磁弁を有し、液インジェクション用電磁弁を開弁することにより、圧縮機の圧縮過程の途中である中間圧力部に凝縮器で熱交換された液冷媒の一部を注入する液インジェクション手段と、電磁弁を開閉する制御装置と、圧縮機に吸入される冷媒の吸入温度及び吸入圧力、並びに、外気温度をそれぞれ検知するセンサと、を備え、制御装置は、センサにより検出された圧縮機に吸入される冷媒の吸入温度及び外気温度から、液インジェクション手段による液冷媒の注入がなくても圧縮機に対して過熱による問題が生じないと予め設定された吐出温度設定値に対応する吸入圧力設定値を算出し、センサにより検出された吸入圧力検出値よりも吸入圧力設定値が高い場合は、液インジェクション用電磁弁を開弁せず、センサにより検出された吸入圧力検出値よりも吸入圧力設定値が低い場合は、液インジェクション用電磁弁を開弁する。本実施例の冷凍装置によれば、液インジェクションのための電磁弁の開閉のタイミングを最適化し、不要な液インジェクションを回避することができる。具体的には、例えば、圧縮機の起動時において、吐出ガス温度が低い場合における不要な液インジェクションを回避し、液インジェクションを必要とする吐出ガス温度範囲においてのみ液インジェクションを行うことができる。
【0011】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。まず、本発明を適用した冷凍装置について図3を用いて説明する。
【0012】
図3は冷凍装置の系統図である。なお、本実施形態では、本発明の冷凍装置を冷蔵庫に利用した例を説明するが、同様の冷凍サイクルを備えた冷凍庫やエアコン等にも適用することができる。
【0013】
図3に示すように、冷蔵庫に利用される冷凍装置は、冷媒を吸引して圧縮するスクロール圧縮機10(以下「圧縮機」という。)と、圧縮機10から吐出されるガス冷媒を凝縮して液化する凝縮器12と、凝縮器12により液化された冷媒を減圧する減圧手段である膨張弁14と、膨張弁14により減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器16等から構成される。
【0014】
また、凝縮器12と蒸発器16とを膨張弁14を介して接続する冷媒配管18が配設される。なお、圧縮機10は、例えばスクリュー圧縮機等の他の圧縮機を用いてもよい。圧縮機10の吸引側に、圧縮機10により吸引される冷媒の温度(以下「吸入温度」という。)を検出する吸入温度センサ24と、圧縮機10により吸引される冷媒の圧力(以下「吸入圧力」という。)を検出する吸入圧力センサ27が設けられる。外気温度を検出する外気温度センサ28が設けられる。
【0015】
圧縮機10に液冷媒を注入する液インジェクション手段として液インジェクション回路が設けられる。液インジェクション回路は、冷媒配管18から分岐し、圧縮機10の中間圧力部に接続するインジェクション配管20と、インジェクション配管20に配設された流量調整手段である流量調整弁22等から構成される。
【0016】
中間圧力部とは圧縮工程中の冷媒が存在する部分であり、その中間圧力部にインジェクション配管20を介して液冷媒が注入される。なお、流量調整手段として、複数の固定流量調整器(例えばmキャピラリーチューブ)の切り替えや、段階的に開度を調整可能な膨張弁等を用いてもよい。そして、吸入温度センサ24、吸入圧力センサ27、外気温度センサ28から出力される各検出値に応じ、流量調整弁22に指令を出力する制御手段としての制御装置26を備える。
【0017】
次に、このような冷凍サイクルを形成する冷凍装置の基本動作について説明する。圧縮機10に吸引された冷媒は圧縮され、圧縮されたガス冷媒は、凝縮器12で例えば大気と熱交換することにより凝縮される。凝縮した液冷媒は、冷媒配管18を介して膨張弁14に導かれて減圧される。減圧された冷媒は蒸発器16で2次冷媒(例えば空気)により蒸発される。この蒸発した冷媒は圧縮機10に戻される。一方、蒸発器16で冷媒により冷却された2次冷媒は、冷蔵庫内に供給されて、冷蔵庫内を冷却する。なお、本実施例においては、冷蔵庫内を冷却する動作について説明したが、四方切替弁を切り替えて冷媒の流れを逆向きにすることで、熱負荷を暖めることもできる。
【0018】
次に、本発明の特徴である液インジェクションの制御について、図1及び図2を用いて説明する。図1は任意の冷媒に対するモリエル線図の例である。
【0019】
まず、図1において、液インジェクションがなくとも圧縮機に過熱による問題がない吐出温度Td0(圧縮機が過熱によって問題を生じない場合の吐出ガス温度)を決定する。図1に示すモリエル線図において、吸入温度センサ24の検出値、及び、外気温度センサ28の検出値から、吐出温度Td0に対応する吸入圧力Ps0(吐出ガス温度Td=Td0の場合における吸入圧力)を算出する。
【0020】
ここで、実際にはより実機条件と適合するように、圧縮機10の断熱効率も考慮した数値とする。この断熱効率は各圧縮機10の仕様により定められる。
【0021】
算出した吸入圧力Ps0を起動時の液インジェクション制御タイミングの基準とする。
【0022】
ここで、圧縮機10の起動時に液冷媒を注入する制御について図2を用いて説明する。図2は圧縮機10に液冷媒を注入する制御を示すフローチャートである。なお、図2に示す制御プログラムは、制御装置26に実装される。
【0023】
図2に示すように、まず、圧縮機起動の直後、吸入圧力センサの検出値Psが取り込まれる。ここで、検出された吸入圧力Psが吸入圧力Ps0より高い場合(Ps=Ps1)、吐出ガス温度Td(=Td1)はTd0より低くなり、このため現段階では液インジェクション用電磁弁は開弁しない。
【0024】
一方、実際の吸入圧力PsがPs0より低い場合(Ps=Ps2)、吐出ガス温度Td(=Td2)はTd0より高くなるため、このとき液インジェクション用電磁弁を開弁し、圧縮機を冷却する。
【0025】
上記のように圧縮機10の起動時における液インジェクション用電磁弁の開弁タイミングを制御することで、液インジェクションを真に必要とする吐出ガス温度範囲のみにおいて、液インジェクションを行うことが可能となる。
【0026】
尚、上記本実施例とは異なり、圧縮機10の起動時における液インジェクション用電磁弁の開弁タイミングを、圧縮機10の起動からの経過時間により決定し、制御することも考えられる。しかしながら、この場合、圧縮機10の起動から規定時間が経過したときの吸入圧力がPs0より高い場合でも液インジェクション用電磁弁を開弁することとなる。このとき吸入圧力が高いため、圧縮機中間圧も高くなり、圧縮機中間圧力部と液インジェクション回路部の圧力差が小さく不安定な状態となる。この状態で液インジェクション用電磁弁が開弁されると、圧縮機中間圧部から液インジェクション回路部に逆流した冷媒と、通常の液インジェクション方向に流れる冷媒が衝突する。この衝突エネルギーは液インジェクション回路の配管を脈動させ、配管や接続部品損傷を引き起こす恐れがある。この点について、本実施例によれば、圧縮機起動時における液インジェクション用電磁弁を適切な吸入圧力条件で開弁することができるため、圧縮機起動時における脈動を回避することができる。
【0027】
また、上記本実施例とは異なり、圧縮機10の起動時における液インジェクション用電磁弁の開弁タイミングを、吐出ガス温度センサにより決定し制御することが考えられる。この場合、吐出冷媒ガスがセンサなどの計測部に到達するまでの過程で触れた部品や配管により熱を奪われて温度が低下し、実際の圧縮機内部温度と吐出ガス温度センサ部の温度に大きな温度ギャップが生じる可能性がある。この場合、圧縮機内部温度が液インジェクションを必要とする温度でも液インジェクションは行われず、このため冷媒ガスの過熱による冷媒や冷凍機油の劣化や圧縮機10本体の焼きつき等を引き起こす可能性がある。この点について、本実例によれば、圧縮機吸入前の圧力センサにより制御することでこのような問題を回避することができる。また、本実例では温度センサ自体の検出遅れによる影響も受けない。
【0028】
また、上記本実施例とは異なり、温度センサを圧縮機10内の圧縮工程直後に配設することで制御遅延を低減することが考えられる。しかしながら、この場合、耐圧容器内に温度センサを配設するには構造が煩雑となり、シール性が低下して圧縮機10の信頼性が悪化する恐れがある。この点について、本実施例によれば、温度センサを配設しなくても圧縮機10に対し、適切なタイミングで液インジェクションを行うことができる。
【符号の説明】
【0029】
10:圧縮機
12:凝縮器
14:膨張弁
16:蒸発器
18:冷媒配管
20:液インジェクション配管
22:流量制御弁
24:吸入温度センサ
26:制御装置
27:吸入圧力センサ
28:外気温度センサ
図1
図2
図3