(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の好ましい実施形態に限定されず、本開示の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0011】
本開示のカゼイン分解物は、カゼインを加水分解したものが好適である。カゼインの分解処理としては、特に限定されないが、例えば、酵素処理、酸処理、アルカリ処理、熱処理等が挙げられ、適宜2種以上の処理を組み合わせてもよい。
【0012】
前記カゼイン分解物の非蛋白態窒素比率は、好ましくは5〜40%、より好ましは10〜30%である。
<非蛋白態窒素比率の算出方法>
ケルダール法日本食品工業学会編、「食品分析法」、第102ページ、株式会社光琳、昭和59年)により試料の全窒素量を測定した。また、ラッパポート(Rappaport)−梅田変法(臨床検査、第9巻、第534乃至537頁、1965年)に基づく測定キット(商品名:NPN−テストワコー;和光純薬工業社製)を使用し、該測定キットの説明書に従って試料の非蛋白態窒素量を測定し、得られた値に6.38を乗じて非蛋白態窒素化合物量を算出した。これらの測定値から非蛋白態窒素比率(%)を次式により算出する。
非蛋白態窒素比率(%)=(非蛋白態窒素化合物量/全窒素量)×100
【0013】
前記カゼイン分解物のアミノ酸遊離率は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。
【0014】
<アミノ酸遊離率の算定方法>
トリプトファン、システイン及びメチオニン以外のアミノ酸については、試料を6規定の塩酸で110℃、24時間加水分解し、トリプトファンについては、水酸化バリウムで110℃、22時間アルカリ分解し、システイン及びメチオニンについては、過ギ酸処理後、6規定の塩酸で110℃、18時間加水分解し、それぞれアミノ酸自動分析機(日立製作所製。835型)により分析し、アミノ酸の質量を測定した。
上記の方法により試料中の各アミノ酸の組成を測定し、これを合計して試料中の全アミノ酸の質量を算出する。次いで、スルホサリチル酸で試料を除蛋白し、残留する各遊離アミノ酸の質量を上記の方法により測定し、これを合計して試料中の全遊離アミノ酸の質量を算出する。これらの値から、試料中の遊離アミノ酸含有率を次式により算出した。
アミノ酸遊離率(%)=(全遊離アミノ酸の質量/全アミノ酸の質量)×100
【0015】
前記カゼイン分解物の分子量は、好ましくは2000ダルトン(以下、「Da」とする)以下又は未満、より好ましくは1000Da以下である。
【0016】
<分子量の算定方法>
本開示におけるカゼイン分解物の分子量は、以下の数平均分子量の概念により求めるものである。
数平均分子量(Number Average of Molecular Weight)は、例えば文献(社団法人高分子学会編、「高分子科学の基礎」、第116〜119頁、株式会社東京化学同人、1978年)に記載されているとおり、高分子化合物の分子量の平均値を次のとおり異なる指標に基づき示すものである。
すなわち、タンパク質加水分解物等の高分子化合物は不均一な物質であり、かつ分子量に分布があるため、タンパク質加水分解物の分子量は、物理化学的に取り扱うためには、平均分子量で示す必要があり、数平均分子量(以下、Mnと略記することがある。)は、分子の個数についての平均であり、ペプチド鎖iの分子量がMiであり、その分子数をNiとすると、次の式により定義される。
【0018】
前記カゼイン分解物における出発原料のカゼインは、例えば、市販品の各種カゼイン、乳酸カゼイン、塩酸カゼイン等の酸カゼイン;ナトリウムカゼイネイト、カリウムカゼイネイト、カルシウムカゼイネイト等のカゼイネイト等から選ばれる1種のもの又は2種以上の混合物が挙げられる。当該混合物は、任意の割合で混合すればよい。また、前記カゼインは、牛乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳等から公知の方法によって単離されたカゼインであることが好ましい。
すなわち、本発明に用いられるカゼイン分解物は、蛋白質であるカゼインを出発原料として加水分解された分解物であることが好適である。
【0019】
原料カゼインを水又は温湯に分散し、溶解してカゼイン水溶液を調製する。当該カゼイン水溶液の濃度は、特に限定されないが、通常、蛋白質濃度として2%以上、さらに5〜15質量%程度の濃度範囲に設定するのが好適である。
【0020】
さらに、前記カゼイン水溶液は、ナトリウム型又はカリウム型陽イオン交換樹脂(好適には強酸性陽イオン交換樹脂)を用いたイオン交換法、電気透析法、限界濾過膜法、ルーズ逆浸透膜法等で脱塩し、適宜pH調整やカルシウム濃度調整を行うのが好適である。脱塩の際には、カラム式やバッチ式の何れを採用してもよい。また、カゼイン水溶液を、脱塩前等に適宜、加熱殺菌をおこなってもよい。
【0021】
次いで、前記カゼイン水溶液を、加水分解処理する。当該加水分解処理として、例えば酸処理、アルカリ処理、熱処理及び酵素処理等が挙げられ、適宜2種以上の処理を組み合わせてもよい。
【0022】
本開示の蛋白質分解酵素は、例えば、植物由来、動物由来、微生物由来等が挙げられ、これらから1種又は2種以上組み合わせて使用できる。当該蛋白質分解酵素としては、エンドプロテアーゼが好適である。
【0023】
前記エンドプロテア−ゼとして、例えば、セリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテイナーゼが挙げられ、これらを1種又は2種以上選択して用いることができる。このうち、セリンプロテアーゼ及び/又はメタロプロテアーゼを用いるのが好適である。
また、プロテアーゼは、アルカリ性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ及び酸性プロテアーゼに分類される。このうち中性プロテアーゼを用いるのが好適である。
【0024】
前記蛋白質分解酵素は、市販品を用いることができる。前記蛋白質分解酵素の例示として、例えば、ビオプラーゼ(長瀬生化学工業社製)、プロレザー(天野エンザイム社製)、プロテアーゼS(天野エンザイム社製)、PTN6.0S(ノボザイムズ社製)、サビナーゼ(ノボザイムズ社製)、GODO B.A.P(合同酒精社製)、プロテアーゼN(天野エンザイム社製)、GODO B.N.P(合同酒精社製)、ニュートラーゼ(ノボザイムズ社製)、アルカラーゼ(ノボザイムズ社製)、トリプシン(ノボザイムズ社製)、キモトリプシン(ノボザイムズ社製)、ズブチリシン(ノボザイムズ社製)、パパイン(天野エンザイム社製)、ブロメライン(天野エンザイム社製)等が挙げられ、これらから1種又は2種以上の酵素を選択して用いてもよい。
このうち、スブチリシン(subtilisin:例えば、ビオプラーゼ)、トリプシン(trypsin:例えばPTN6.0S)、バシロシン(bachillolysin:例えばプロテアーゼN)から選ばれる1種又は2種以上のものが好適であり、これらは中性のプロテアーゼである。さらに、これら3種の組み合わせが好適である。
【0025】
前記カゼインに対するエンドプロテア−ゼの使用量は、特に限定されず、基質濃度、酵素力価、反応温度及び反応時間等により適宜調整すればよいが、一般的には、カゼイン中の蛋白質1g当り2000〜11000活性単位の割合で添加することが好ましい。
【0026】
前記蛋白質分解酵素による加水分解は、所望の条件(例えば、分子量の範囲内等)になるように行うのが望ましい。これにより、本開示で用いるカゼイン分解物を得ることができる。
【0027】
前記蛋白質分解酵素による加水分解前に前記原料乳蛋白質溶液のpHを、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の食品上使用可能な塩類で使用酵素の至適pHに調整することもできる。前記原料乳蛋白質溶液のpHは、好ましくは5〜10、より好ましくは7〜10に調整する。
【0028】
前記蛋白質分解酵素の反応温度は、使用酵素の最適温度の範囲で行うことが望ましく、好ましくは30〜60℃、より好ましくは40〜60℃で行う。
【0029】
前記蛋白質分解酵素の反応保持時間は、前記特定の非蛋白態窒素比率になるように適宜調整すればよく、例えば0.5〜24時間で行うことが可能であり、好ましくは1〜15時間、より好ましくは3〜10時間である。
【0030】
前記蛋白質分解酵素による加水分解は、当該酵素を加熱して失活させて終了させればよい。例えば、100℃以上(好適には110〜130℃)で失活させる場合には1〜3秒間、100℃未満60℃以上で失活させる場合には3〜40分間で行うことが好適である。
加水分解終了後、必要に応じて分解液のpHを、好ましくは6〜8、より好ましくは7.0±0.5、さらに好ましくは7.0±0.3とするのが好適である。
【0031】
なお、本開示のカゼイン分解物の製造において、カルシウム濃度未調整の溶液を加水分解した場合には、得られた分解液を、前記のような脱塩処理し、カルシウム濃度を調整してもよい。次いで、常法により加熱して酵素を失活させる。反応加熱温度と反応保持時間は使用した酵素の熱安定性を配慮し、十分に失活できる条件を適宜設定することができる。加熱失活後、常法により冷却し、そのまま利用することもでき、必要に応じて濃縮して濃縮液を得ることもでき、更に濃縮液を乾燥し、粉末製品を得ることも可能である。
【0032】
また、前記カゼイン水溶液を酸処理又はアルカリ処理にて加水分解する際には、カゼイン水溶液のpHを調整して処理すればよい。当該pH調整による処理の場合には、カゼイン水溶液のpHが、好ましくはpH5以下又はpH9以上であり、より好ましくはpH4以下又はpH10以上である。このようにpH処理された水溶液は、室温にて数分以上、好ましくは5分〜1時間、放置又は撹拌することによって、酸処理又はアルカリ処理の加水分解物を得ることができる。ここで、「室温」とは、4〜40℃程度であるが、10〜30℃が好適である。
また、前記カゼイン水溶液を、熱処理にて加水分解してもよい。このカゼイン水溶液は、pH未調整でもよく、またpH調整(具体的には、酸性(pH5以下)、中性(pH6〜8)、アルカリ性(pH8以上))してもよい。熱処理は、4〜100℃程度で、上記酸アルカリ処理のような条件にて行えばよい。
【0033】
得られたカゼイン加水分解物は、未精製のままの状態で使用しても効能を発揮することが可能である。さらに、効能を向上させるために適宜本開示の効能を有する成分又はこの成分を有する画分を公知の分離精製を行うことで得ることも可能である。
例えば、得られたカゼイン加水分解物に対して分子量分画を行い、本開示の効能を高めることも可能である。これにより、カゼイン加水分解物を分子量2000Da未満又は以下にすることが好ましく、さらに分子量1000Da以下にすることが好ましい。
【0034】
分子量分画として、例えば、限外濾過、ゲル濾過等の方法が採用でき、これにより不要な分子量のペプチドの除去率を高めることができる。
限外濾過の場合には、所望の限外濾過膜を使用すればよく、ゲル濾過の場合には、所望のサイズ排除クロマトグラフィーに用いるゲルろ過剤を使用すればよい。
さらに、脱塩や不純物を除去したり、純度を高めたりするために、公知の分離精製方法(例えば、イオン交換樹脂等)を用いてもよい。
【0035】
本開示のカゼイン分解物は、後記実施例に示すように、血中トリグリセライド濃度の低下作用、血中LDL/HDLコレステロール比低下作用を有する。従って、本開示のカゼイン分解物は、血中トリグリセライド低下剤、血中LDL/HDLコレステロール比低下剤として使用することができ、さらに、血中トリグリセライド濃度の上昇、血中のLDL濃度/HDLコレステロール濃度比の上昇に関わる様々な状態の制御、例えば、脂質代謝異常等の疾患、高脂血症、高トリグリセライド血症等の予防、改善及び/又は治療のために使用することができる。
従って、本開示の血中トリグリセライド低下剤、血中LDL/HDLコレステロール比低下剤、脂質代謝異常改善剤及び高トリグリセライド血症改善剤等は、本開示のカゼイン分解物を有効成分として含有する。
【0036】
上記使用とは、適用対象であるヒト若しくは非ヒト動物における使用であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。
本明細書において、「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体への処置行為を含まない概念である。
また、本明細書において、「改善」とは、疾患、症状又は状態の好転;疾患、症状又は状態の悪化の防止、遅延若しくは疾患又は症状の進行の逆転、防止又は遅延をいう。
また、本明細書において、「予防」とは、適用対象における疾患若しくは症状の発症の防止又は遅延、或いは適用対象の疾患若しくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。
【0037】
以上、従って、本開示のカゼイン分解物及びこれを有効成分として含有する上述の各種製剤(以下、「血中TG低下剤等」とする)は、ヒトを含む動物に摂取又は投与して、上述の、血中トリグリセライド上昇、血中LDL/HDLコレステロール比上昇、脂質代謝異常等が関与する疾病、疾患や症状の改善等を図るための方法、又は高脂血症、高トリグリセライド血症等の予防、改善及び/又は治療を図るための方法に使用することができる。
【0038】
また、本開示のカゼイン分解物及びこれを有効成分として含有する上述の各種製剤は、上述のような血中トリグリセライド上昇、血中LDL/HDLコレステロール比上昇、脂質代謝異常が関与する疾病、疾患や症状のための、又は高脂血症、高トリグリセライド血症等の予防、改善及び/又は治療のための、ヒト用若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、皮膚外用剤、化粧品及び食品等の有効成分としてこれらに配合して使用可能である。また、本開示のカゼイン分解物は、これら各種製剤の製造のために使用可能である。
【0039】
医薬品に配合する場合、経口投与剤や非経口投与剤等とすることができる。
また、食品に配合する場合には、上述の血中トリグリセライド上昇、血中LDL/HDLコレステロール比上昇、脂質代謝異常、高脂血症、高トリグリセライド血症によって引き起こされる各種疾患等の予防、改善又は治療をコンセプトとする機能性食品、病者用食品、特定保健用食品等に応用できる。また、本開示のカゼイン分解物は、これら食品等の製造のために使用可能である。
【0040】
本開示のカゼイン分解物及びこれを有効成分として含有する上述の各種製剤は、経口投与及び非経口投与の何れでもよいが、経口投与が望ましい。非経口投与として、静注、直腸投与、吸入等が挙げられる。経口投与の剤形として、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ剤、顆粒剤、散剤、軟膏等が挙げられる。
製剤化に際しては、本開示のカゼイン分解物の他に、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤等の成分を用いることができる。また、公知の又は将来的に見出される上述の血中トリグリセライド上昇抑制作用等を有する薬、脂質代謝異常改善薬、高脂血症治療薬などを併用することも可能である。
【0041】
また、本開示のカゼイン分解物を有効成分として食品中に含有させ、本開示のカゼイン分解物及びこれを有効成分として含有する上述の各種製剤の一態様として、上述の血中トリグリセライド上昇抑制作用等を有する食品として加工することも可能である。
このような食品として、液状、ペースト状、固体、粉末等の形態を問わず、錠菓、流動食、飼料(ペット用を含む)等のほか、例えば、小麦粉製品、即席食品、農産加工品、水産加工品、畜産加工品、乳・乳製品、油脂類、基礎調味料、複合調味料・食品類、冷凍食品、菓子類、飲料類、これら以外の市販食品等が挙げられる。
【0042】
例えば、前記小麦粉製品として、パン、マカロニ、スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉等が挙げられる。
前記即席食品類として、即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズ・ドライ食品、その他の即席食品等が挙げられる。
例えば、前記農産加工品として、 農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等が挙げられる。
前記水産加工品として、水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等が挙げられる。
前記畜産加工品として、畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等が挙げられる。
【0043】
例えば、前記乳・乳製品として、加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料類、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリーム、その他の乳製品等が挙げられる。
前記油脂類として、バター、マーガリン類、植物油等が挙げられる。
例えば、前記基礎調味料として、しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等が挙げられる。
前記複合調味料・食品類として、調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等が挙げられる。
例えば、前記冷凍食品として、素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等が挙げられる。
【0044】
例えば、前記菓子類として、キャラメル、キャンディー、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子、その他の菓子等が挙げられる。
例えば、前記飲料類として、炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、その他の嗜好飲料等が挙げられる。
例えば、上記以外の市販食品として、ベビーフード、ふりかけ、お茶潰けのり等が挙げられる。
【0045】
本開示の血中トリグリセライド低下剤及び脂質代謝改善剤等において、本開示のカゼイン分解物の含有量は、製剤の最終組成物に対し、少なくとも0.001質量%であることが好ましい。
本開示のカゼイン分解物の摂取量又は投与量は、年齢、症状等により異なるが、通常、0.001〜3000mg/kg体重/日、好ましくは0.01〜200mg/kg体重/日であり、1日1回から3回に分けて投与してもよい。ヒトに対する摂取量又は投与量は、好ましくは10mg/kg体重/日である。
【0046】
前記カゼイン分解物のヒトへの投与の際の用量は、『体表面積に基づく動物からのHED(Human Equivalent Dose)交換』(例えば、参考文献1を参照)による換算式から算出することができる。
HED=[動物への投与量(mg/kg体重)]×{[動物の体重(kg)]÷[ヒトの体重(kg)]}
0.33
ヒトの体重:60kg
マウスの体重:20g
参考文献1:Guidance for Industry, Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers, V. STEP 2: HUMAN EQUIVALENT DOSE CALCULATION, July 2005, Pharmacology and Toxicology, p.6-7 / U.S. Department of Health and Human Services, Food and Drug Administration, Center for Drug Evaluation and Research (CDER)
【0047】
本技術は、以下の構成を採用することも可能である。
〔1〕 カゼイン分解物を有効成分として含有する血中トリグリセライド低下剤、血中LDL/HDLコレステロール比低下剤又は脂質代謝改善剤。また、高脂血症治療剤又は高トリグリセライド血症治療剤としても使用することが可能である。
〔2〕 前記カゼイン分解物が蛋白質加水分解酵素による加水分解物である前記〔1〕記載の血中トリグリセライド低下剤、血中LDL/HDLコレステロール比低下剤又は脂質代謝改善剤。
〔3〕 前記カゼイン分解物の分子量が1000Da以下である前記〔1〕又は〔2〕記載の血中トリグリセライド低下剤、血中LDL/HDLコレステロール比低下剤又は脂質代謝改善剤。
〔4〕 前記蛋白質加水分解酵素が、エンドヌクレアーゼである前記〔2〕又は〔3〕記載の血中トリグリセライド低下剤、血中LDL/HDLコレステロール比低下剤又は脂質代謝改善剤。
【0048】
〔5〕 血中トリグリセライド低下剤、血中LDL/HDLコレステロール比低下剤又は脂質代謝改善剤の製造のための、カゼイン分解物の使用。
〔6〕 血中トリグリセライド低下用食品、血中LDL/HDLコレステロール比低下用食品又は脂質代謝改善剤用食品の製造のための、カゼイン分解物の使用。
〔7〕 カゼイン分解物の、血中トリグリセライド低下剤、血中LDL/HDLコレステロール比低下剤又は脂質代謝改善剤、又は血中トリグリセライド低下用食品、血中LDL/HDLコレステロール比低下用食品又は脂質代謝改善剤用食品への使用。
【0049】
〔8〕 血中トリグリセライド上昇、血中LDL/HDLコレステロール比上昇、脂質代謝異常等が関与する疾病、疾患や症状、又は高脂血症、高トリグリセライド血症等の予防、改善又治療のための、カゼイン分解物。
〔9〕 血中トリグリセライド上昇、血中LDL/HDLコレステロール比上昇、脂質代謝異常等が関与する疾病、疾患や症状、又は高脂血症、高トリグリセライド血症等の予防、改善又治療における使用のための、カゼイン分解物。
〔10〕 血中トリグリセライド上昇、血中LDL/HDLコレステロール比上昇、脂質代謝異常等が関与する疾病、疾患や症状、又は高脂血症、高トリグリセライド血症等の予防、改善又治療のための、カゼイン分解物の使用。
〔11〕 カゼイン分解物を有効成分として摂取又は投与する、血中トリグリセライド上昇、血中LDL/HDLコレステロール比上昇、脂質代謝異常等が関与する疾病、疾患や症状、又は高脂血症、高トリグリセライド血症等の予防、改善又治療方法。
【0050】
〔12〕 前記〔5〕〜〔11〕の何れかに記載のカゼイン分解物は、熱処理、酸処理、アルカリ処理、蛋白質分解酵素処理から選ばれる1種又は2種以上の処理による分解物であるのが好適である。
〔13〕 前記〔12〕に記載のカゼイン分解物は、カゼインの蛋白質加水分解酵素による加水分解物であるのが好適である。
〔14〕 前記〔5〕〜〔13〕の何れかに記載のカゼイン分解物の分子量が1000Da以下であるのが好適である。
【実施例】
【0051】
以下に、具体的な実施例等を説明するが、本発明(本開示)はこれに限定されるものではない。
【0052】
<実施例:カゼイン酵素分解物の脂質代謝関連試験>
〔製造例1:カゼインの酵素分解によるペプチドの製造〕
市販のカゼイン(ニュージーランドデーリーボード製)100 mgに水900 mgを加え、よく分散させ、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを7.0に調整し、カゼインを完全に溶解し、濃度約10%のカゼイン水溶液を調製した。
該カゼイン水溶液を85℃で10分間加熱殺菌し、50℃に温度調整し、水酸化ナトリウムを添加してpHを9.5に調整した後、ビオプラーゼsp-20(長瀬生化学工業社製)100活性単位(蛋白質1g当たり1200活性単位)、プロテアーゼN(天野エンザイム社製)170活性単位(蛋白質1g当たり2000活性単位)、及びPTN6.0S(ノボザイムズ・ジャパン社製)600活性単位(蛋白質1g当たり7000活性単位)を添加して、加水分解反応を開始した。8時間後に80℃で6分間加熱して酵素を失活させて酵素反応を停止し、10℃に冷却した。
この加水分解液を分画分子量1000の限外ろ過膜(日本ポール社製)で限外ろ過し、濃縮後凍結乾燥し、凍結乾燥品85mgを得た。
【0053】
製造例1のカゼイン加水分解物は、非蛋白態窒素比率25%、アミノ酸遊離率5%、分子量337Daであった。これらは上述の<非蛋白態窒素比率の算出方法>、<アミノ酸遊離率の算定方法>、<分子量の算定方法>にて算定した。
【0054】
〔実験方法〕
実験動物:B6.KOR/Stm Slc-Apoe
shl(アポE欠損マウス:アテローム型動脈硬化症モデル、日本SLC社)、非病態動物としてB6(C57BL/6J)マウス。
実験方法:実験動物を6週齢で入荷後直ちに1.25%コレステロール、10%ココナッツオイル添加MF飼料(オリエンタル酵母工業社製)を自由摂取させた。非病態群はMF飼料を自由摂取させた。
1週間の馴化後病態動物を、カゼイン100 mg/kg体重投与群(未分解カゼイン:casein 100 mg/kg)、カゼイン分解物25 mg/kg体重投与群(casein hydrolysate 25 mg/kg)、及びカゼイン分解物100 mg/kg体重投与群(casein hydrolysate 100 mg/kg)の3群に分け、それぞれを1日1回8週間、経口ゾンデを用いて経口投与した。
最終投与終了後に、実験動物を16時間絶食させ、その後、イソフルラン麻酔下で下大静脈より採血し、12000rpm、15分間遠心分離して血漿を採取した。スポットケムII及び検診-2(アークレイ社製)を使用して、血中の総トリグリセライド濃度、総コレステロール濃度、及びHDLコレステロール濃度を測定した。
LDLコレステロール濃度は[総コレステロール濃度]−[HDLコレステロール濃度]−[中性脂肪濃度]÷5の計算式から算出した。
【0055】
【表1】
【0056】
〔結果〕
動脈硬化症モデルを用いた動物実験において、カゼイン分解物の経口投与は、未分解のカゼインと比較して血中トリグリセライド濃度の上昇を抑制する効果を示し、100 mg/kg体重の投与量でその濃度差は有意であった。また血中LDL/HDLコレステロール濃度比も同様の傾向を示した(
図1及び2参照)。
カゼイン酵素加水分解物は、血中トリグリセライド濃度上昇抑制作用及び血中LDL/HDLコレステロール比低下作用を有するので、脂質代謝異常の予防、改善若しくは治療、又は脂質異常症の予防、改善若しくは治療に利用することができる。