特許第5972237号(P5972237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5972237-静電潜像現像用トナー 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972237
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】静電潜像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20160804BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   G03G9/08 311
   G03G9/08 331
   G03G9/08 365
【請求項の数】6
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-178920(P2013-178920)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-49267(P2015-49267A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2015年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】大喜多 正希
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸則
(72)【発明者】
【氏名】竹森 資記
(72)【発明者】
【氏名】上村 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】山下 雅史
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−138985(JP,A)
【文献】 特開2004−294468(JP,A)
【文献】 特開2004−294469(JP,A)
【文献】 特開昭62−262056(JP,A)
【文献】 特開2008−261948(JP,A)
【文献】 特開平7−199522(JP,A)
【文献】 特開2013−120370(JP,A)
【文献】 特開2012−155121(JP,A)
【文献】 特許第5858954(JP,B2)
【文献】 特許第5800864(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00 − 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂を含むトナーコアと、
前記トナーコアの表面を被覆するシェル層とからなるトナー粒子を含む、静電潜像現像用トナーであって、
前記結着樹脂が結晶性ポリエステル樹脂と、非結晶性ポリエステル樹脂とを含み、
示差走査熱量計を用いて測定される、前記結晶性ポリエステル樹脂の融点Mpが30℃以上100℃以下であり、
前記Mpと、前記非結晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点Tgncとの差(Mp−Tgnc)が、10℃以上80℃以下であり、
前記シェル層が、熱硬化性樹脂のモノマーに由来する単位を含む樹脂からなり、
前記熱硬化性樹脂が、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びグリオキザール樹脂からなるアミノ樹脂群より選択される1種以上の樹脂である、静電潜像現像用トナー。
【請求項2】
前記結着樹脂中の前記結晶性ポリエステル樹脂の含有量(P)と、前記非結晶性ポリエステル樹脂の含有量(Q)との質量比(P/Q)が、0.01以上1以下である、請求項1に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項3】
前記非結晶性ポリエステル樹脂の質量平均分子量(Mw)が10,000以上50,000以下であり、
前記質量平均分子量(Mw)と前記トナーコアの数平均分子量(Mn)との比で表される、前記非結晶性ポリエステル樹脂の分子量分布(Mw/Mn)が8以上50以下である、請求項1又は2に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項4】
高架式フローテスターを用いて測定される、前記トナーコアの軟化点Tmが70℃以上100℃以下である、請求項1〜3の何れか1項に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項5】
前記非結晶性ポリエステル樹脂の酸価が、5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であり、
前記非結晶性ポリエステル樹脂の水酸基価が、15mgKOH/g以上80mgKOH/g以下である、請求項1〜4の何れか1項に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項6】
前記トナーコアが離型剤を含み、
前記離型剤がエステルワックスであり、
示差走査熱量計を用いて測定される、前記離型剤の融点Mpが50℃以上100℃以下である、請求項1〜5の何れか1項に記載の静電潜像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電潜像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
トナーに関して、省エネルギー化、及び装置の小型化のような観点から、定着ローラーを極力加熱することなく良好に定着可能な、低温定着性に優れるトナーが望まれている。しかし、低温定着性に優れるトナーの調製には、融点やガラス転移点の低い結着樹脂や、低融点の離型剤が使用されることが多い。そのため、このようなトナーを高温で保存する場合にトナーに含まれるトナー粒子が凝集しやすいという問題がある。トナー粒子が凝集した場合、凝集しているトナー粒子の帯電量が、他の凝集していないトナー粒子と比較して低下しやすい。
【0003】
そこで、従来より低い温度域においても定着性に優れるトナーを得る目的、高温でのトナーの保存安定性の向上の目的、及びトナーの耐ブロッキング性の向上の目的で、低融点の結着樹脂を含むトナーコアが、トナーコアに含まれる結着樹脂のガラス転移点(Tg)よりも高いTgを有する樹脂からなるシェル層により被覆されているコア−シェル構造のトナー粒子を含むトナーが使用されている。
【0004】
このようなコア−シェル構造のトナー粒子を含むトナーとして、熱硬化性樹脂を含む薄膜により、トナーコアの表面が被覆されたトナーであって、被覆前のトナーコアの軟化温度が40℃以上150℃以下であるトナーが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−138985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のトナーは、トナーコアが低温で軟化可能であるように設計されているものの、必ずしも、低温で良好に定着されるわけではない。また、特許文献1に記載のトナーを用いて画像を形成する場合、定着温度が高いと、溶融したトナー粒子の加熱された定着ローラーへの融着に起因するオフセットが生じやすい問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、耐熱保存性及び低温定着性に優れ、高温でのオフセットの発生を抑制できる、静電潜像現像用トナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の静電潜像現像用トナーは、結着樹脂を含むトナーコアと、前記トナーコアの表面を被覆するシェル層とからなるトナー粒子を含む。前記結着樹脂は結晶性ポリエステル樹脂と、非結晶性ポリエステル樹脂とを含む。前記結晶性ポリエステル樹脂の融点Mpが30℃以上100℃以下であり、前記Mpと、前記非結晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点Tgncとの差(Mp−Tgnc)が、10℃以上80℃以下である。前記シェル層が、熱硬化性樹脂のモノマーに由来する単位を含む樹脂からなる。前記熱硬化性樹脂が、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びグリオキザール樹脂からなるアミノ樹脂群より選択される1種以上の樹脂である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱保存性、低温定着性及び耐高温オフセット性に優れる、静電潜像現像用トナーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】高架式フローテスターを用いる軟化点の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0012】
本発明の静電潜像現像用トナー(以下、単にトナーともいう)に含まれるトナー粒子は、少なくとも結着樹脂を含むトナーコアと、トナーコアを被覆するシェル層と、からなる。結着樹脂は結晶性ポリエステル樹脂と、非結晶性ポリエステル樹脂とを含む。トナーコアは、結着樹脂中に、必要に応じて着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉のような成分を含んでいてもよい。シェル層は、熱硬化性樹脂のモノマーに由来する単位を含む樹脂からなる。本発明のトナーはトナー粒子からなるが、他の成分を含んでいてもよい。
【0013】
トナーは、必要に応じて、トナー粒子(トナー母粒子)の表面が外添剤を用いて処理されたものであってもよい。トナーは、所望のキャリアと混合して2成分現像剤として使用することもできる。以下、トナーコアを構成する必須、又は任意の成分である、結着樹脂、着色剤、離型剤、電荷制御剤、磁性粉、シェル層を構成する樹脂、外添剤、トナーを2成分現像剤として使用する場合に用いるキャリア、及びトナーの製造方法について順に説明する。
【0014】
[結着樹脂]
トナー粒子を構成するトナーコアは、結着樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂と、非結晶性ポリエステル樹脂とを必須に含む。このため、トナーコアの表面には、水酸基やカルボキシル基が露出する。他方、シェル層は、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びグリオキザール樹脂からなるアミノ樹脂群より選択される1種以上の樹脂のモノマーに由来する単位を含む樹脂からなる。このような熱硬化性樹脂のモノマーとホルムアルデヒドとを反応させるか、ホルムアルデヒドを用いて熱硬化性樹脂のモノマーをメチロール化した前駆体を用いてシェル層が形成される。
【0015】
トナーコア及びシェル層がこのような材料からなり、例えば、後述する、好適な方法によりトナーコアを被覆するシェル層を形成する場合、トナーコアの表面に露出する水酸基やカルボキシル基と、シェル層の材料の中間体が有するメチロール基との反応によって、トナーコアを構成する水酸基を有するポリエステル樹脂と、シェル層を構成するメラミン樹脂、尿素樹脂、及びグリオキザール樹脂から選択される樹脂との間に共有結合が形成される。このため、本発明のトナーは、シェル層がトナーコアに対して強固に結合している。
【0016】
さらに、トナーに含まれるトナー粒子が熱硬化性樹脂からなる固いシェル層により保護されているため、現像器内で長期間ストレスを受けても破砕されにくい。このように、本発明のトナーに含まれるトナー粒子が備えるシェル層は、固く、トナーコアに対して強固に結合し、トナーコアからの剥離が生じにくいため、当該トナー粒子を含む本発明のトナーは、耐熱保存性に優れる。
【0017】
本発明のトナーに含まれる結着樹脂は結晶性ポリエステル樹脂と、非結晶性ポリエステル樹脂とを含む。結着樹脂として結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、低温定着性に優れる。以下、結晶性ポリエステル樹脂と、非結晶性ポリエステル樹脂とについて順に説明する。
【0018】
〔結晶性ポリエステル樹脂〕
結晶性ポリエステル樹脂は、アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合や共縮重合によって得られるものを使用できる。結晶性ポリエステル樹脂を合成する際に用いられる成分としては、以下のアルコール成分やカルボン酸成分が挙げられる。
【0019】
アルコール成分としては2価又は3価以上のアルコールを使用できる。2価又は3価以上のアルコール成分の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコールのようなジオール類;ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、及びポリオキシプロピレン化ビスフェノールAのようなビスフェノール類;ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、及び1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンのような3価以上のアルコール類が挙げられる。
【0020】
これらのアルコール成分のなかでは、ポリエステルの結晶化を促進しやすいことから、炭素原子数2〜8の脂肪族ジオールが好ましい。脂肪族ジオールの中では、ポリエステルの結晶化をより促進しやすいことから炭素原子数2〜8のα,ω−アルカンジオールがより好ましい。
【0021】
結晶性ポリエステルを得るためには、アルコール成分中の炭素原子数2〜10の脂肪族ジオールが80モル%以上であるのが好ましく、90モル%以上であるのがより好ましい。また、結晶性ポリエステルを得るためには、アルコール成分に最も多量に含まれる成分(単一の化合物)の含有量が70モル%以上であるのが好ましく、90モル%以上であるのがより好ましく、100モル%であるのが最も好ましい。
【0022】
カルボン酸成分としては2価又は3価以上のカルボン酸を使用できる。2価又は3価以上のカルボン酸成分の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、マロン酸、あるいはn−ブチルコハク酸、n−ブテニルコハク酸、イソブチルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデシルコハク酸、及びイソドデセニルコハク酸のようなアルキル又はアルケニルコハク酸のような2価カルボン酸;1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、及びエンポール三量体酸のような3価以上のカルボン酸が挙げられる。これらの2価又は3価以上のカルボン酸成分は、酸ハライド、酸無水物、及び低級アルキルエステルのようなエステル形成性の誘導体として用いてもよい。ここで、「低級アルキル」とは、炭素原子数1から6のアルキル基を意味する。
【0023】
これらのカルボン酸成分の中では、ポリエステルの結晶化を促進しやすいことから、炭素原子数2〜16の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、炭素原子数2〜16のα,ω−アルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0024】
結晶性ポリエステルを得るためには、カルボン酸成分中の炭素原子数2〜16の脂肪族ジカルボン酸が70モル%以上であるのが好ましく、90モル%以上であるのがより好ましい。また、結晶性ポリエステルを得るためには、カルボン成分に最も多量に含まれる成分(単一の化合物)の含有量が70モル%以上であるのが好ましく、90モル%以上であるのがより好ましく、100モル%であるのが最も好ましい。
【0025】
本出願の明細書、及び特許請求の範囲において、結晶性ポリエステル樹脂は結晶性指数が0.90以上1.10未満、好ましくは0.98以上1.05以下であるポリエステルである。ポリエステルの結晶性指数は、単量体であるアルコール成分やカルボン酸成分の、種類、及び使用量を適宜調整することで、調整できる。結晶性ポリエステルは、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
結晶性ポリエステル樹脂の結晶性指数は、結晶性ポリエステル樹脂の軟化点(Tm)と結晶性ポリエステル樹脂の融点(DSC曲線中の最大吸熱ピークの温度、Mp)との比(Tm/Mp)から求めることができる。Tmは以下の方法に従って測定できる。
【0027】
<軟化点測定方法>
高架式フローテスター(例えば、CFT−500D(株式会社島津製作所製))を用いて結晶性ポリエステル樹脂の軟化点(Tm)の測定を行う。測定試料を高化式フローテスターにセットし、ダイス細孔経1mm、プランジャー荷重20kg/cm、昇温速度6℃/分の条件で、1cmの試料を溶融流出させてTmを測定する。高架式フローテスターの測定により得られる、温度(℃)/ストローク(mm)に関するS字カーブから、Tmを読み取る。
【0028】
Tmの読み取り方を、図1を用いて説明する。ストロークの最大値をSとし、低温側のベースラインのストローク値をSとする。S字カーブ中の、ストロークの値が(S+S)/2となる温度を、測定試料の軟化点(Tm)とする。
【0029】
結晶性ポリエステル樹脂の融点(Mp)は、30℃以上100℃以下である。融点(Mp)がこのような範囲である結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、耐熱保存性及び低温定着性に優れ、高温でのオフセットの発生を抑制できる。
【0030】
Mpが低すぎる結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、高温環境下で容易に変形しやすく、高温で定着を行う際に、定着ローラーに結着樹脂が付着しやすい。このため、Mpが低すぎる結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、耐熱保存性に劣り、高温でのオフセットの発生を抑制できない。Mpが高すぎる結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、トナーを被記録媒体へ定着させる際に容易にトナーコアが溶融しないため、低温定着性に劣る。Mpの示差走査熱量計を用いる測定は、以下の方法に従って行う。
【0031】
<融点測定方法>
示差走査熱量計(DSC)として、DSC6220(セイコーインスツル株式会社製)を用いる。アルミ皿に10〜20mgの結晶性ポリエステル樹脂の試料を入れた後、DSCの測定部にアルミ皿をセットする。リファレンスには空のアルミ皿を用いた。30℃を測定開始温度とし、10℃/分の速度で170℃まで昇温を行う。昇温の際に観測される融解熱の最大ピーク温度を、結晶性ポリエステル樹脂の融点(Mp)とする。
【0032】
〔非結晶性ポリエステル樹脂〕
非結晶性ポリエステル樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂と、同様の単量体、及び方法を用いて製造することができる。本出願の明細書、及び特許請求の範囲において、非結晶性ポリエステル樹脂は結晶性指数が1.10以上4.00以下、好ましくは1.50以上3.00以下であるポリエステル樹脂である。非結晶性ポリエステル樹脂の結晶性指数は、結晶性ポリエステル樹脂と同様に測定できる。非結晶性ポリエステル樹脂を調製する場合、得られるポリエステル樹脂の結晶化を抑制する必要がある。ポリエステル樹脂の結晶化の抑制方法は特に限定されないが、好適な結晶化抑制方法として、例えば、以下の1)〜3)の方法が挙げられる。
1)結晶性ポリエステル樹脂について説明した結晶化を促進するアルコール成分、及びカルボン酸成分を少量しか使用しないか、使用しない方法。
2)アルコール成分、及びカルボン酸成分として、それぞれ2種以上の化合物を使用する方法。
3)ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のようなアルコール成分や、アルキル置換コハク酸のようなカルボン酸成分を使用して結晶化を抑制する方法。
【0033】
これらの結晶化抑制方法の中では、単量体の種類が少なく非結晶性ポリエステル樹脂の調製が容易であることから、3)の方法がより好ましい。3)の方法では、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のようなアルコール成分、及びアルキル置換コハク酸のようなカルボン酸成分の使用量を増やすほど結晶化を抑制しやすい。しかし、これらの単量体の使用量は、得られるポリエステルの結晶化度と、他の物性とを考慮して、適宜調整されるのが好ましい。
【0034】
非結晶性ポリエステル樹脂は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
非結晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tgnc)は、結晶性ポリエステル樹脂の融点(Mp)と、Tgncとの差(Mp−Tgnc)が、10℃以上80℃以下である限り特に限定されない。Tgncは、50℃以上70℃以下が好ましく、60℃以上*65℃以下がより好ましい。複数種類の非結晶性ポリエステル樹脂を使用する場合、Tgncは、複数の非結晶性ポリエステル樹脂を均一に溶融混練した場合のガラス転移点である。Tgncは、Mpの測定方法と同様の方法に従い、示差走査熱量計を用いて測定できる。
【0036】
結晶性ポリエステル樹脂の融点(Mp)と、非結晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tgnc)との差(Mp−Tgnc)は、10℃以上80℃以下である。(Mp−Tgnc)がこのような範囲内である結晶性ポリエステル樹脂、及び非結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、耐熱保存性及び低温定着性に優れ、高温でのオフセットの発生を抑制できる。
【0037】
(Mp−Tgnc)の値が10℃以上80℃以下であるような、結晶性ポリエステル樹脂と非結晶性ポリエステル樹脂とを組み合わせて含むトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーを用いて画像を形成する場合、定着時にトナー粒子が加熱された際に、結晶性ポリエステルと、非結晶性ポリエステルとが相互に軟化・溶融を促進させ、トナー粒子が速やかに溶融する。このため、(Mp−Tgnc)の値が大きすぎる、結晶性ポリエステル樹脂及び非結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、低温定着性に劣る。
【0038】
非結晶性ポリエステル樹脂の質量平均分子量(Mw)は、10,000以上50,000以下が好ましい。Mwと、非結晶性ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)との比で表される、非結晶性ポリエステル樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、8以上50以下が好ましい。非結晶性ポリエステル樹脂の質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定できる。
【0039】
非結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下が好ましい。非結晶性ポリエステル樹脂の水酸基価は、15mgKOH/g以上80mgKOH/g以下が好ましい。
【0040】
非結晶性ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価は、非結晶性ポリエステル樹脂を製造する際の、2価又は3価以上のアルコール成分の使用量と、2価又は3価以上のカルボン酸成分の使用量とを、それぞれ適宜変更することで調整できる。また、非結晶性ポリエステル樹脂の分子量を上げると、非結晶性ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価は低下する傾向がある。
【0041】
結着樹脂中の、結晶性ポリエステル樹脂の含有量(P)と、非結晶性ポリエステル樹脂の含有量(Q)とは、PとQとの比(P/Q)が、0.01以上1以下であるのが好ましい。
【0042】
結着樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂及び非結晶性ポリエステル樹脂の他の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。結着樹脂が、結晶性ポリエステル樹脂及び非結晶性ポリエステル樹脂と、結晶性ポリエステル樹脂及び非結晶性ポリエステル樹脂の他の熱可塑性樹脂を組み合わせて含む場合、結晶性ポリエステル樹脂及び非結晶性ポリエステル樹脂の他の熱可塑性樹脂は、従来からトナー用の結着樹脂として使用される熱可塑性樹脂から適宜選択される。
【0043】
結着樹脂中の結晶性ポリエステル樹脂の含有量と、非結晶性ポリエステル樹脂の含有量との合計は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100%が最も好ましい。
【0044】
[着色剤]
トナーコアは必要に応じて、着色剤を含んでいてもよい。着色剤としては、トナー粒子の色に合わせて、公知の顔料や染料を用いることができる。好適な着色剤の具体例としては以下の着色剤が挙げられる。
【0045】
黒色着色剤としては、カーボンブラックが挙げられる。黒色着色剤としては後述するイエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤のような着色剤を用いて黒色に調色された着色剤も利用できる。
【0046】
トナーがカラートナーである場合に、トナーコアに配合される着色剤としては、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤のような着色剤が挙げられる。
【0047】
イエロー着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリルアミド化合物のような着色剤が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントイエロー3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、194;ネフトールイエローS、ハンザイエローG、及びC.I.バットイエローが挙げられる。
【0048】
マゼンタ着色剤としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物のような着色剤が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、及び254が挙げられる。
【0049】
シアン着色剤としては、銅フタロシアニン化合物、銅フタロシアニン誘導体、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物のような着色剤が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、66;フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、及びC.I.アシッドブルーが挙げられる。
【0050】
着色剤の使用量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下が好ましい。
【0051】
[離型剤]
トナーコアは必要に応じて、離型剤を含んでいてもよい。離型剤は、通常、トナーの定着性や耐オフセット性を向上させる目的で使用される。
【0052】
離型剤としてはワックスが好ましく、ワックスの例としては、エステルワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フッ素樹脂系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス、及びモンタンワックスが挙げられる。エステルワックスとしては、合成エステルワックスや、カルナウバワックス及びライスワックスのような天然エステルワックスが挙げられる。これらの離形剤は2種以上を組み合わせて使用できる。これらの離型剤の中では、エステルワックスがより好ましい。
【0053】
エステルワックスの中では、合成原料を適宜選択することで、示差走査熱量計を用いて測定される離型剤の融点(DSC曲線中の最大吸熱ピークの温度、Mp)を、後述する好適な範囲に調整しやすいことから、合成エステルワックスが好ましい。
【0054】
合成エステルワックスを製造する方法は、化学合成法であれば特に限定されない。例えば、合成エステルワックスは、酸触媒の存在下でのアルコールとカルボン酸との反応や、カルボン酸ハライドとアルコールとの反応のような周知の方法を用いて合成することができる。なお、合成エステルワックスの原料は、例えば、天然油脂から製造される長鎖脂肪酸のように天然物に由来するものでもよい。また、合成エステルワックスとしては、合成品として市販されているものを用いてもよい。
【0055】
示差走査熱量計を用いて測定される前記離型剤の融点(DSC曲線中の最大吸熱ピークの温度、Mp)は、50℃以上100℃以下が好ましい。Mpがこのような範囲の離型剤を含むトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、低温定着性に優れ、高温でのオフセットの発生を抑制できる。
【0056】
離型剤の使用量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下が好ましく、5質量部以上20質量部以下がより好ましい。
【0057】
[電荷制御剤]
電荷制御剤は、トナーコアに含まれる樹脂の酸価を調整する目的や、シェル層の帯電性を調整する目的で使用される。
【0058】
[磁性粉]
トナーコアには、必要に応じて、結着樹脂中に磁性粉を配合してもよい。このようにして製造される磁性粉を含むトナーコアを用いて製造されたトナー粒子を含むトナーは、磁性1成分現像剤として使用される。好適な磁性粉としては、フェライト、及びマグネタイトのような鉄;コバルト、及びニッケルのような強磁性金属;鉄、及び/又は強磁性金属を含む合金;鉄、及び/又は強磁性金属を含む化合物;熱処理のような強磁性化処理を施された強磁性合金;二酸化クロムが挙げられる。
【0059】
磁性粉の粒子径は、0.1μm以上1.0μm以下が好ましく、0.1μm以上0.5μm以下がより好ましい。このような範囲の粒子径の磁性粉を用いる場合、結着樹脂中に磁性粉を均一に分散させやすい。
【0060】
磁性粉の使用量は、トナーを1成分現像剤として使用する場合、トナー全量を100質量部とする場合に、35質量部以上60質量部以下が好ましく、40質量部以上60質量部以下がより好ましい。また、トナーを2成分現像剤として使用する場合、磁性粉の使用量は、トナー全量を100質量部とする場合に、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0061】
[シェル層を構成する樹脂]
シェル層を構成する樹脂は、熱硬化性樹脂のモノマーに由来する単位を含む。なお、本出願の明細書及び特許請求の範囲において、熱硬化性樹脂のモノマーに由来する単位とは、メラミンのようなモノマーにホルムアルデヒドに由来するメチレン基(−CH−)が導入された単位を意味する。シェル層は、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びグリオキザール樹脂からなるアミノ樹脂群より選択される1種以上の樹脂の、モノマーに由来する単位を含む樹脂からなる。以下、シェル層を構成する樹脂を形成する際に、好適に使用できる、熱硬化性樹脂のモノマーについて説明する。
【0062】
〔熱硬化性樹脂のモノマー〕
熱硬化性樹脂のモノマーに由来する単位を樹脂に導入するために用いられるモノマーは、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びグリオキザール樹脂からなるアミノ樹脂群より選択される1種以上の熱硬化性樹脂の形成に使用されるモノマー及び初期縮合物である。
【0063】
メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとの重縮合物である。メラミン樹脂の形成に使用されるモノマーはメラミンである。尿素樹脂は、尿素とホルムアルデヒドとの重縮合物である。尿素樹脂の形成に使用されるモノマーは尿素である。グリオキザール樹脂は、グリオキザールと尿素との反応物と、ホルムアルデヒドとの重縮合物である。グリオキザール樹脂の形成に使用されるモノマーは、グリオキザールと尿素との反応物である。メラミン、尿素及びグリオキザールと反応させる尿素は、周知の変性を受けていてもよい。熱硬化性樹脂のモノマーは、シェル層の形成前にホルムアルデヒドによりメチロール化された誘導体として使用できる。
【0064】
シェル層を構成する樹脂には、メチロール基やアミノ基のような上述の熱硬化性樹脂のモノマーが有する官能基との反応性を有する官能基を持つ熱可塑性樹脂に由来する単位を導入してもよい。このように、シェル層を構成する樹脂に、熱硬化性樹脂のモノマーに由来する単位と、熱可塑性樹脂に由来する単位とを含有させることで、熱可塑性樹脂に由来する単位に起因する適度な柔軟性を有すると共に、熱硬化性樹脂のモノマーが形成する三次元の架橋構造に起因する適度な機械的強度を有するシェル層を備えるトナー粒子を得ることができる。
【0065】
メチロール基やアミノ基のような上述の熱硬化性樹脂のモノマーが有する官能基との反応性を有する官能基としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基のような活性水素原子を含む官能基が挙げられる。アミノ基は、カルバモイル基(−CONH)として熱可塑性樹脂中に含まれてもよい。シェル層の形成が容易であることから、熱可塑性樹脂としては、(メタ)アクリルアミドに由来する単位を含む樹脂や、カルボジイミド基、オキサゾリン基、及びグリシジル基のような官能基を有するモノマーに由来する単位を含む樹脂が好ましい。
【0066】
シェル層を構成する樹脂中の、熱硬化性樹脂のモノマーに由来する単位の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100%が最も好ましい。
【0067】
シェル層の厚さは、1nm以上20nm以下が好ましく、1nm以上10nm以下がより好ましい。厚過ぎるシェル層を備えるトナー粒子を含むトナーを用いて画像を形成する場合、トナーを被記録媒体へ定着させる際にトナー粒子に圧力が印加されても、シェル層が破壊されにくい。この場合、トナーコアに含まれる結着樹脂や離型剤の軟化又は溶融が速やかに進行せず、低温域でトナーを被記録媒体上に定着させにくい。一方、薄過ぎるシェル層は、強度が低い。シェル層の強度が低いと、輸送時のような状況での衝撃によってシェル層が破壊される場合がある。高温でトナーを保存する場合、シェル層の少なくとも一部が破壊されたトナー粒子は凝集することがある。高温条件下では、シェル層が破壊された箇所を通じて離型剤のような成分がトナー粒子の表面に染み出することがあるためである。
【0068】
シェル層の厚さは、トナー粒子の断面のTEM撮影像を市販の画像解析ソフトウェアを用いて解析することによって、計測できる。市販の画像解析ソフトウェアとしては、WinROOF(三谷商事株式会社製)のようなソフトウェアを用いることができる。具体的には、トナーの断面の略中心で直交する2本の直線を引き、当該2本の直線上の、シェル層と交差する4箇所の長さを測定する。このようにして測定される4箇所の長さの平均値を、測定対象の1個のトナー粒子が備えるシェル層の厚さとする。このようなシェル層の厚さの測定を、10個以上のトナー粒子に対して行い、測定対象の複数のトナー粒子それぞれが備えるシェル層の膜厚の平均値を求める。求められる平均値を、トナー粒子が備えるシェル層の膜厚とする。
【0069】
シェル層が薄すぎる場合、TEM画像上でシェル層とトナーコアとの界面が不明瞭であるため、シェル層の厚さの測定が困難である場合がある。このような場合、TEM撮影と、エネルギー分散X線分光分析(EDX)とを組み合わせて、TEM画像中で、窒素のようなシェル層の材質に特徴的な元素のマッピングを行い、シェル層とトナーコアとの界面を明確化して、シェル層の厚さを計測すればよい。
【0070】
シェル層の厚さは、シェル層を形成するために使用される、熱硬化性樹脂のモノマーのような材料の使用量を調整することで、調整できる。シェル層の厚さは、トナーコアの比表面積に対する、熱硬化性樹脂のモノマーの量から、下記式を用いて求めることもできる。
シェル層の厚さ=熱硬化性樹脂のモノマーの量/トナーコアの比表面積
【0071】
[外添剤]
本発明のトナーに含まれるトナー粒子の表面には、必要に応じて外添剤を付着させてもよい。なお、本出願の明細書、及び特許請求の範囲では、外添剤により処理される前の粒子を、トナー母粒子と記載する場合がある。
【0072】
外添剤としては、シリカや、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、及びチタン酸バリウムのような金属酸化物が挙げられる。
【0073】
外添剤の粒子径は、0.01μm以上1.0μm以下が好ましい。
【0074】
外添剤の使用量は、トナー母粒子100質量部に対して1質量部以上10質量部以下が好ましく、2質量部以上5質量部以下がより好ましい。
【0075】
[キャリア]
トナーは、所望のキャリアと混合して2成分現像剤として使用できる。2成分現像剤を調製する場合、磁性キャリアを用いるのが好ましい。
【0076】
好適なキャリアとしては、キャリア芯材が樹脂で被覆されたものが挙げられる。キャリア芯材の具体例としては、鉄、酸化処理鉄、還元鉄、マグネタイト、銅、ケイ素鋼、フェライト、ニッケル、及びコバルトのような粒子や、これらの材料とマンガン、亜鉛、及びアルミニウムのような金属との合金の粒子、鉄−ニッケル合金、及び鉄−コバルト合金のような粒子、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、チタン酸リチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、及びニオブ酸リチウムのようなセラミックスの粒子、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、及びロッシェル塩のような高誘電率物質の粒子、並びに樹脂中に上記磁性粒子を分散させた樹脂キャリアが挙げられる。
【0077】
キャリア芯材を被覆する樹脂としては、具体的に、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体、オレフィン系重合体(ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、及びポリプロピレン)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、及びポリフッ化ビニリデン)、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、及びアミノ樹脂が挙げられる。これらの樹脂は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0078】
キャリアの粒子径は、電子顕微鏡により測定される粒子径で、20μm以上120μm以下が好ましく、25μm以上80μm以下がより好ましい。
【0079】
トナーを2成分現像剤として用いる場合、トナーの含有量は、2成分現像剤の質量に対して、3質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上15質量%以下が好ましい。
【0080】
[トナーの製造方法]
トナーの製造方法は、トナーコアを前述の所定の材質からなるシェル層で被覆できる方法であれば特に限定されない。
【0081】
高架式フローテスターを用いて測定される、トナーコアの軟化点Tmは、70℃以上100℃以下であるのが好ましい。Tmは、トナーコア中の結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂、及び離型剤の組成を調整することにより調整できる。
【0082】
以下、本発明の静電潜像現像用トナーの好適な製造方法に関して、トナーコアの製造方法と、シェル層の形成方法とについて順に説明する。
【0083】
〔トナーコアの製造方法〕
トナーコアの製造方法としては、結着樹脂中に、着色剤、電荷制御剤、離型剤、及び磁性粉のような成分を良好に分散させることができれば特に限定されず、公知の方法から適宜選択できる。トナーコアの製造方法としては、凝集法と、粉砕法とが挙げられる。凝集法では、結着樹脂、離型剤、及び着色剤のようなトナーに含まれる成分を含む微粒子を水性媒体中で凝集させて凝集粒子を得た後、凝集粒子を加熱して、凝集粒子に含まれる成分を合一化させてトナーコアを含む水性分散液を得る。水性分散液から分散剤のような成分を除去し、洗浄したトナーコアを用いて、後述の方法でトナーコアにシェル層を形成する。このような手順により、粉砕法でトナーコアを製造した場合と同様のトナー粒子(トナー母粒子)を得られる。
【0084】
粉砕法は、結着樹脂と、着色剤、離型剤、電荷制御剤、磁性粉のような任意成分とを混合した後、混合物を溶融混練して得られる溶融混練物を、粉砕、分級して、所望の粒子径のトナーコアを得る方法である。粉砕法は、前述の凝集法と比較して、トナーコアの調製が容易である利点を有する。一方で、粉砕法は、粉砕工程を経てトナーコアを得るがゆえに、球形度の高いトナーコアを得にくい点で、凝集法よりも不利である。しかし、本発明のトナーを製造する際、後述するシェル層の形成工程ではシェル層の硬化反応が進行する前に、トナーコアが表面張力によって収縮することややや軟化することでトナーコアが球形化される。従って、本発明のトナーを製造する場合、トナーコアの球形度が幾分低くても大きなデメリットとはならない。以上より、本発明のトナーの製造に用いるトナーコアの製造方法としては、粉砕法が特に好ましい。
【0085】
トナーコアは、標準キャリアと、標準キャリアに対して7質量%のトナーコアとを、ターブラミキサーを用いて30分間混合する場合の、トナーコアの摩擦帯電量が、負極性であるのが好ましく、以上−10μC/g以下であるのがより好ましい。以下、摩擦帯電量の具体的な測定方法を説明する。
【0086】
<摩擦帯電量の測定方法>
日本画像学会から提供される標準キャリアN−01(負帯電極性トナー用標準キャリア)と、トナーコアとを、ターブラミキサーを用いて30分間混合する。この時、トナーコアの使用量は、標準キャリアの質量に対して7質量%である。混合後、トナーコアの摩擦帯電量を、QMメーター(MODEL 210HS−2A(TREK社製))を用いて測定する。このようにして測定されるトナーコアの摩擦帯電量は、トナーコアが正負何れの極性に帯電されやすいかと、トナーコアの帯電されやすさの指標となる。
【0087】
トナーコアは、pH4に調整された水性媒体中で測定されるゼータ電位が、負極性であるのが好ましく、−10mV以下であるのがより好ましい。以下、pH4の分散液中のゼータ電位の具体的な測定方法を説明する。
【0088】
<pH4の分散液中のゼータ電位の測定方法>
トナーコア0.2gと、イオン交換水80g(mL)及び1%濃度のノニオン系界面活性剤(ポリビニルピロリドン、K−85(日本触媒株式会社製)20gとを、マグネットスターラーを用いて混合し、トナーコアを均一に溶媒に分散させて分散液を得る。その後、分散液に希塩酸を加えて、分散液のpHを4に調整し、pH4のトナーコアの分散液を得る。pH4のトナーコアの分散液を測定試料として用い、分散液中のトナーコアのゼータ電位を、ゼータ電位・粒度分布測定装置(Delsa Nano HC(ベックマン・コールター社製))を用いて測定する。
【0089】
通常、トナーコアの表面に均一なシェル層を形成する場合、トナーコアを、分散剤を含む水性媒体中で高度に分散させておく必要がある。しかし、トナーコアについて、上記の特定の条件で測定される標準キャリアとの摩擦帯電量が所定の範囲内の負の値である場合、水性媒体中で、トナーコアと、含窒素化合物であって水性媒体中で正に帯電する熱硬化性樹脂のモノマーとが、相互に電気的に引き寄せられる。そして、トナーコアの表面では、トナーコアに吸着された熱硬化性樹脂のモノマーと、熱可塑性樹脂との反応が良好に進行する。このため、水性媒体中で負帯電するトナーコアを用いてトナーコアの表面にシェル層を形成する場合、分散剤を用いてトナーコアを水性媒体中に高度に分散させずとも、トナーコアの表面に均一にシェル層を形成できる。
【0090】
上記の所定の方法で測定される、トナーコアのpH4の水性媒体中でのゼータ電位が、所定の範囲内である場合にも、水性媒体中でトナーコアの表面にシェル層を形成する際に、同様の効果が得られる。
【0091】
上記の標準キャリアとの摩擦帯電量、及びpH4の水性媒体中でのゼータ電位の少なくとも一方が、上記の所定の範囲内の負の値であるトナーコアを用いてトナー粒子を製造する場合、上記のように、分散剤を用いることなく、均一なシェル層でトナーコアが被覆されたトナー粒子を得ることができる。このようにして、トナー粒子を製造する場合、排水負荷の非常に高い分散剤を用いないことによって、トナー粒子を製造する際に排出される排水の全有機炭素濃度を、排水を希釈することなく、15mg/L以下の低いレベルとすることが可能となる。
【0092】
以下、粉砕法を用いてトナーコアを製造する方法と、凝集法を用いてトナーコアを製造する方法とについて説明する。
【0093】
通常、トナーコアの表面に均一なシェル層を形成する場合、トナーコアを、分散剤を含む水性媒体中で高度に分散させておく必要がある。しかし、トナーコアについて、上記の標準キャリアとの摩擦帯電量、及びpH4の水性媒体中でのゼータ電位の少なくとも一方が、上記の所定の範囲内の負の値である場合、水性媒体中で、トナーコアと、含窒素化合物であって水性媒体中で正に帯電する熱硬化性樹脂のモノマーとが、相互に電気的に引き寄せられる。そして、トナーコアの表面では、トナーコアに吸着された熱硬化性樹脂のモノマーの反応が良好に進行する。このため、水性媒体中で負帯電するトナーコアを用いてトナーコアの表面にシェル層を形成する場合、分散剤を用いてトナーコアを水性媒体中に高度に分散させずとも、トナーコアの表面に均一にシェル層を形成できる。
【0094】
上記の標準キャリアとの摩擦帯電量、及びpH4の水性媒体中でのゼータ電位の少なくとも一方が、上記の所定の範囲内の負の値であるトナーコアを用いてトナー粒子を製造する場合、上記のように、分散剤を用いることなく、均一なシェル層でトナーコアが被覆されたトナー粒子を得ることができる。このようにして、トナー粒子を製造する場合、排水負荷の非常に高い分散剤を用いないことによって、トナー粒子を製造する際に排出される排水の全有機炭素濃度を、排水を希釈することなく、15mg/L以下の低いレベルとすることが可能となる。
【0095】
〔シェル層の形成方法〕
トナーコアを被覆するシェル層は、メラミン、尿素、及びグリオキザールと尿素との反応物や、これらとホルムアルデヒドとの付加反応によって生成される前駆体(メチロール化物)と、必要に応じて、熱可塑性樹脂とを用いて形成される。また、シェル層を形成する際には、シェル層の形成に用いる溶媒に対する、結着樹脂の溶解や、トナーコアに含まれる離型剤のような成分の溶出を防ぐ必要がある。このため、シェル層の形成は、水のような溶媒中で行われるのが好ましい。
【0096】
シェル層の形成は、シェル層を形成するための材料の水溶液にトナーコアを添加して行われるのが好ましい。水性媒体中にトナーコアを添加した後、水性媒体中にトナーコアを良好に分散させる方法としては、分散液を強力に撹拌できる装置を用いてトナーコアを水性媒体中に機械的に分散させる方法が挙げられる。
【0097】
分散液を強力に撹拌できる装置を用いてトナーコアを水性媒体中に機械的に分散させる方法では、ハイビスミックス(プライミックス株式会社製)のような装置を用いるのが好ましい。
【0098】
シェル層を形成するための材料の水溶液のpHは、トナーコアを水溶液に添加前に酸性物質を用いて4程度に調整されるのが好ましい。分散液のpHを酸性側に調整することで、後述するシェル層を形成させるために用いられる材料の重縮合反応が促進される。
【0099】
必要に応じてシェル層を形成するための材料の水溶液のpHを調整した後、水性媒体中で、シェル層を形成するための材料とトナーコアとを混合する。その後、水性分散液中で、トナーコアの表面でのシェル層を形成させるための材料間の反応を進行させて、トナーコアの表面を被覆するシェル層を形成する。
【0100】
トナーコアの表面でシェル層を形成する際の温度は、40℃以上95℃以下が好ましく、50℃以上80℃以下がより好ましい。このような範囲内の温度下でシェル層を形成することで、シェル層の形成が良好に進行する。
【0101】
上記のようにしてシェル層を形成した後、シェル層で被覆されたトナーコアを含む水性分散液を常温まで冷却して、トナー粒子(トナー母粒子)の分散液を得ることができる。その後、必要に応じて、トナー粒子(トナー母粒子)を洗浄する洗浄工程、トナー粒子(トナー母粒子)を乾燥する乾燥工程、及び、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させる外添工程から選択される1以上の工程を経て、トナー粒子(トナー母粒子)の分散液からトナーが回収される。以下、洗浄工程、乾燥工程、及び外添工程について説明する。
【0102】
(洗浄工程)
トナー粒子(トナー母粒子)は、必要に応じて、水を用いて洗浄される。好適な洗浄方法としては、トナー粒子(トナー母粒子)を含む水性分散液から、固液分離によりトナー粒子(トナー母粒子)をウエットケーキとして回収し、得られるウエットケーキを、水を用いて洗浄する方法や、トナー粒子(トナー母粒子)を含む分散液中のトナー粒子(トナー母粒子)を沈降させ、上澄み液を水と置換し、置換後にトナー粒子(トナー母粒子)を水に再分散させる方法が挙げられる。
【0103】
(乾燥工程)
トナー粒子(トナー母粒子)は、必要に応じて乾燥されてもよい。トナー粒子(トナー母粒子)を乾燥させる好適な方法としては、スプレードライヤー、流動層乾燥機、真空凍結乾燥器、及び減圧乾燥機のような乾燥機を用いる方法が挙げられる。これらの方法の中では、乾燥中のトナー粒子(トナー母粒子)の凝集を抑制することがあることからスプレードライヤーを用いる方法がより好ましい。スプレードライヤーを用いる場合、トナー母粒子の分散液と共に、シリカのような外添剤の分散液を噴霧することによって、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させることができる。
【0104】
(外添工程)
トナー粒子(トナー母粒子)は、必要に応じてその表面に外添剤が付着したものであってもよい。上記方法により得られるトナー母粒子の表面に外添剤を付着させる好適な方法としては、外添剤がトナー母粒子表面に埋没しないように条件を調整して、ヘンシェルミキサーやナウターミキサーのような混合機を用いて、トナー母粒子と外添剤とを混合する方法が挙げられる。
【0105】
以上説明した本発明の静電潜像現像用トナーは、耐熱保存性、及び低温定着性に優れ、高温でのオフセットの発生を抑制できる。このため、本発明の静電潜像現像用トナーは、種々の画像形成装置で好適に使用できる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例の範囲に何ら限定されるものではない。
【0107】
[製造例1]
〔結晶性ポリエステル樹脂A〜Eの調製〕
1,6−ヘキサンジオール132g、1,10−デカンジカルボン酸230g、触媒(酸化ジブチル錫)1g、及びハイドロキノン0.3gを反応容器に仕込んだ。次に、反応容器内を窒素雰囲気とし、反応容器の内容物を撹拌しながら反応容器内部の温度を200℃まで上昇させた。同温度で副生水を留去しながら、5時間重合反応を行った。次いで、反応容器内を5〜20mmHgに減圧して、重合反応を継続し、同温度で、反応混合物が表1に記載の物性になるまで反応を行った。反応終了後、反応容器の内容物を取り出して冷却し、結晶性ポリエステル樹脂A〜Eを得た。なお、表1に記載のMpとTgとは、それぞれDSCを用いて測定される、結晶性ポリエステルの融点とガラス転移点である。
【0108】
【表1】
【0109】
[製造例2]
〔非結晶性ポリエステル樹脂A〜Gの調製〕
ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物1575g、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物163g、フマル酸377g、及び触媒(酸化ジブチル錫)4gを反応容器に仕込んだ。次に、反応容器内を窒素雰囲気とし、反応容器の内容物を撹拌しながら反応容器内部の温度を220℃まで上昇させた。次いで、同温度で8時間反応を行った後、反応容器内を60mmHgに減圧して1時間反応を行った。その後、反応混合物を210℃に冷却し、無水トリメリット酸無水物336gを反応容器に添加した。トリメリット酸無水物の添加後、反応混合物が表2に記載の物性になるまで、同温度で反応を行った。反応終了後、反応容器の内容物を取り出して冷却し、非結晶性ポリエステル樹脂A〜Gを得た。
【0110】
【表2】
【0111】
[実施例1〜16、及び比較例1〜3]
以下、実施例及び比較例では、シェル層の形成に以下の離型剤を用いた。
離型剤A:エステルワックス(WEP−3(日油株式会社製)融点(Mp):75℃)
離型剤B:エステルワックス(WEP−2(日油株式会社製)融点(Mp):50℃)
離型剤C:エステルワックス(WEP−8(日油株式会社製)融点(Mp):100℃)
【0112】
〔トナーコアの調製〕
結着樹脂として、表3〜6に記載の種類及び量の結晶性ポリエステル樹脂、及び表3〜6に記載の種類及び量の非結晶性ポリエステル樹脂と、着色剤(C.I.ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン))5質量部と、表3〜6に記載の種類の離型剤5質量部とを、混合機(ヘンシェルミキサー)を用いて混合し、混合物を得た。表3〜6に記載のP/Qは、結晶性ポリエステルの使用量P(質量部)の、非結晶性ポリエステルの使用量Qに対する比率である。
【0113】
次いで、混合物を、2軸押出機(PCM−30(株式会社池貝製))を用いて溶融混練して混練物を得た。混練物を、機械式粉砕機(ターボミル(ターボ工業株式会社製))を用いて粉砕し、粉砕物を得た。粉砕物を、分級機(エルボージェット(日鉄鉱業株式会社製))を用いて分級し、体積平均粒子径(D50)が6.0μmのトナーコアを得た。トナーコアの体積平均粒子径は、コールターカウンターマルチサイザー3(ベックマンコールター社製)を用いて測定した。実施例1のトナーの調製に用いるトナーコアについて、その一部を取り出し、それを、標準キャリアとの摩擦帯電量の測定と、pH4の分散液中のゼータ電位の測定とに用いた。
【0114】
下記方法に従って、得られたトナーコアについて、標準キャリアとの摩擦帯電量と、pH4の分散液中のゼータ電位とを測定した。実施例1のトナーの調製に用いるトナーコアの、標準キャリアとの摩擦帯電量は−20μC/gであり、pH4の分散液中のゼータ電位は−30mVであった。
【0115】
<標準キャリアとの摩擦帯電量の測定方法>
日本画像学会から提供される標準キャリアN−01(負帯電極性トナー用標準キャリア)と、標準キャリアの質量に対して7質量%のトナーコアとを、ターブラミキサーを用いて30分間混合した。得られた混合物を測定試料として、標準キャリアと摩擦させた場合のトナーコアの摩擦帯電量を、QMメーター(MODEL 210HS−2A(TREK社製))を用いて測定した。このようにして測定される摩擦帯電量は、トナーコアが正負何れの極性に帯電されやすいかと、トナーコアの帯電されやすさの指標となる。
【0116】
<pH4の分散液中のゼータ電位の測定方法>
トナーコア0.2gと、イオン交換水80g(mL)及び1%濃度のノニオン系界面活性剤(ポリビニルピロリドン、K−85(日本触媒株式会社製)20gとを、マグネットスターラーを用いて混合し、トナーコアを均一に溶媒に分散させて分散液を得た。その後、分散液に希塩酸を加えて、分散液のpHを4に調整し、pH4のトナーコアの分散液を得た。pH4のトナーコアの分散液を測定試料として用い、分散液中のトナーコアのゼータ電位を、ゼータ電位・粒度分布測定装置(Delsa Nano HC(ベックマン・コールター社製))を用いて測定した。
【0117】
〔シェル層形成工程〕
温度計、及び撹拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコに、イオン交換水300mLを入れた後、ウォーターバスを用いてフラスコ内温を30℃に保持した。次いで、フラスコ内に希塩酸を加えて、フラスコ内の水性媒体のpHを4に調整した。pH調整後、フラスコ内に、シェル層の原料として、表3〜6に記載の量のメチロールメラミン水溶液(ミルベン607(昭和電工株式会社製)、固形分濃度80質量%)を添加した。次いで、フラスコの内容物を撹拌し、シェル層の原料を水性媒体に溶解させ、シェル層の原料の水溶液(A)を得た。
【0118】
水溶液(A)に、トナーコア300gを添加し、フラスコの内容物を200rpmの速度で1時間撹拌した。次いで、フラスコ内に、イオン交換水300mLを追加した。その後、フラスコの内容物を100rpmで撹拌しながら、1℃/分の速度で、フラスコ内温を70℃まで上げた。昇温後、同温度、100rpmの条件でフラスコの内容物を2時間撹拌し続けた。その後、フラスコ内に、水酸化ナトリウムを加えて、フラスコの内容物のpHを7に調整した。次いで、フラスコの内容物を、常温まで冷却してトナー母粒子を含む分散液を得た。
【0119】
〔洗浄工程〕
ブフナーロートを用いて、トナー母粒子を含む分散液からトナー母粒子のウエットケーキをろ取した。トナー母粒子のウエットケーキを再度イオン交換水に分散させてトナー母粒子を洗浄した。トナー母粒子のイオン交換水による同様の洗浄を5回繰り返した。
【0120】
〔乾燥工程〕
トナー母粒子のウエットケーキを、濃度50質量%のエタノール水溶液に分散させてスラリーを調製した。得られたスラリーを連続式表面改質装置(コートマイザー(フロイント産業株式会社製))に供給することにより、スラリー中のトナー母粒子を乾燥させて、トナー母粒子を得た。コートマイザーを用いる乾燥条件は、熱風温度45℃、ブロアー風量2m/分であった。
【0121】
〔外添工程〕
乾燥工程で得られたトナー母粒子100質量部と、シリカ(REA90(日本アエロジル株式会社製))0.5質量部とを、10Lヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて、5分間混合して外添剤を付着させた。その後、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いてトナーを篩別した。
【0122】
[比較例4]
シェル層の形成工程を行わず、トナーコアをトナー母粒子として用いた。トナー母粒子を実施例1と同様に外添処理して、比較例4のトナーを得た。
【0123】
[比較例5]
結着樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂を用いない他は、実施例1と同様にして、比較例5のトナーを得た。
【0124】
≪トナーの軟化点Tm
実施例1〜16、及び比較例1〜5のトナーの軟化点Tmを、高架式フローテスターを用いて測定した。実施例1〜16、及び比較例1〜5のトナーのTmを、表3〜6に記す。
【0125】
≪シェル層の厚さ≫
実施例1〜16、比較例1〜3、及び比較例5のトナーに含まれるトナー粒子の断面のTEM写真を、以下の方法に従って撮影した。なお、比較例4のトナーは、シェル層の形成工程を行っていないため、シェル層の厚さを測定しなかった。トナー粒子の断面のTEM写真から、以下の方法に従って、シェル層の厚さを測定した。実施例1〜16、比較例1〜3、及び比較例5のトナーに含まれるトナー粒子が備えるシェル層の厚さを、表3〜6に記す。
【0126】
<トナー粒子の断面のTEM写真の撮影方法>
まず、トナーを常温硬化性のエポキシ樹脂中に分散させ、40℃の雰囲気に2日間静置し、硬化物を得た。得られた硬化物を、四酸化オスミウムを用いて染色した。その後、得られた硬化物から、ミクロトーム(EM UC6(ライカ株式会社製))を用いて、厚さ200nmのトナー粒子の断面観察用の薄片試料を切り出した。得られた薄片試料を、透過型電子顕微鏡(TEM、JSM−6700F(日本電子株式会社製))を用いて倍率3000倍及び10000倍で観察し、トナー粒子の断面のTEM写真を撮影した。
【0127】
<シェル層の厚さの測定方法>
シェル層の厚さは、トナー粒子の断面のTEM撮影像を画像解析ソフトウェア(WinROOF(三谷商事株式会社製))を用いて解析することで計測した。具体的には、トナーの断面の略中心点で直交する2本の直線を引き、当該2本の直線上の、シェル層と交差する4箇所の長さを測定した。このようにして測定される4箇所の長さの平均値を、測定対象の1個のトナー粒子が備えるシェル層の厚さとした。このようなシェル層の厚さの測定を、10個のトナーに対して行い、測定対象の複数のトナーそれぞれが備えるシェル層の膜厚の平均値を求めた。求められた平均値を、トナーが備えるシェル層の膜厚とした。
【0128】
≪評価1≫
実施例1〜16、及び比較例1〜5のトナーについて、以下の方法に従って、耐熱保存性を評価した。実施例1〜16、及び比較例1〜5のトナーの耐熱保存性の評価結果を、表3〜6に記す。
【0129】
<耐熱保存性評価>
トナー2gを、容量20mLのポリ容器に秤量し、60℃に設定された恒温器内に3時間静置することで、耐熱保存性評価用のトナーを得た。その後、耐熱保存性評価用のトナーを、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)のマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5、時間30秒の条件で、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別した。篩別後に、篩上に残留したトナーの質量を測定した。篩別前のトナーの質量と、篩別後に篩上に残留したトナーの質量とから、下式に従って凝集度(%)を求めた。算出された凝集度から、下記基準に従って耐熱保存性を評価した。○評価を合格とした。
(凝集度算出式)
凝集度(%)=篩上に残留したトナー質量/篩別前のトナーの質量×100
○:凝集度が30%以下。
×:凝集度が30%超。
【0130】
≪評価2≫
実施例1〜16、及び比較例1〜5のトナーを用いて、以下の方法に従って、低温定着性、及び耐高温オフセット性を評価した。低温定着性、及び耐高温オフセット性の評価は、以下の方法に従って調製した2成分現像剤を用いて行った。実施例1〜16、及び比較例1〜5のトナーの低温定着性、及び耐高温オフセット性の評価結果を、表3〜6に記す。
【0131】
[製造例3]
〔2成分現像剤の調製〕
現像剤用キャリア(TASKalfa5550用キャリア)と、キャリアの質量に対して10質量%のトナーとを、ボールミルにて30分間混合して2成分現像剤を調製した。
【0132】
<低温定着性評価>
評価機として、定着温度を調節できるように改造したプリンター(FSC−5250DN(京セラドキュメントショリューションズ株式会社製))を用いた。製造例3で調製した2成分現像剤を評価機の現像部に投入し、トナーを評価機のトナーコンテナに投入した。評価機は、線速を200mm/秒、及びトナー載り量を1.0mg/cmに設定して、被記録媒体に未定着のベタ画像を形成した。定着温度を100℃以上200℃以下の範囲で、評価機の定着装置の定着温度を100℃から5℃ずつ上昇させて、未定着のベタ画像を定着させた。ベタ画像を定着させた被記録媒体を、画像を形成した面が内側となるように半分に折り曲げ、布帛で覆った1kgの分銅を用いて、折り目上を5往復摩擦した。次いで、被記録媒体を広げ、折り曲げ部のトナーの剥がれが1mm以下の場合を合格と判定し、1mm超の場合を不合格と判定した。トナーの剥がれが合格と判定される最低の定着温度を、最低定着温度とした。低温定着性を、下記基準に従って評価した。
○:最低定着温度が150℃以下。
×:最低定着温度が150℃超。
【0133】
<耐高温オフセット性評価>
低温定着性の評価と同様の評価機、及び被記録媒体を用い、同様の条件で、被記録媒体に未定着のベタ画像を形成した。定着温度を100℃以上230℃以下の範囲で、まずは、評価機の定着装置の定着温度を170℃から10℃ずつ上昇させて、10℃毎にオフセットが発生する最低温度(第一オフセット発生温度)を確認した。次いで、評価機の定着装置の定着温度を、第一オフセット発生温度より10℃低い温度から1℃ずつ上昇させて、1℃毎にオフセットが発生する最低温度を確認した。評価機の定着装置の定着温度を1℃ずつ上昇させた際に、オフセットが発生した最低温度をオフセット発生温度とした。耐高温オフセット性を、下記基準に従って評価した。
○:オフセット発生温度が200℃以上。
×:オフセット発生温度が200℃未満。
【0134】
【表3】
【0135】
【表4】
【0136】
【表5】
【0137】
【表6】
【0138】
実施例1〜16から、
・結着樹脂を含むトナーコアと、トナーコアの表面を被覆するシェル層とからなるトナー粒子を、含むトナーであって、
・結着樹脂が結晶性ポリエステル樹脂と、非結晶性ポリエステル樹脂とを含み、
・示差走査熱量計を用いて測定される、結晶性ポリエステル樹脂の融点Mpが30℃以上100℃以下であり、
・Mpと、非結晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点Tgncとの差(Mp−Tgnc)が、10℃以上80℃以下であり、
・シェル層が、熱硬化性樹脂のモノマーに由来する単位を含む樹脂からなり、
・熱硬化性樹脂が、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びグリオキザール樹脂からなるアミノ樹脂群より選択される1種以上の樹脂である、
トナーは、耐熱保存性及び低温定着性に優れ、高温でのオフセットの発生を抑制できることが分かる。
【0139】
比較例1から、結着樹脂として、(Mp−Tgnc)の値が大きすぎる、結晶性ポリエステル樹脂及び非結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、低温定着性に劣ることが分かる。
【0140】
比較例2から、結着樹脂として融点Mpが低すぎる結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、耐熱保存性に劣り、高温でのオフセットを抑制しにくいことが分かる。比較例2のトナーに含まれるトナー粒子は、高温環境下で容易に変形しやすい。このため、比較例2のトナーは、耐熱保存性に劣ると思われる。
【0141】
比較例3から、結着樹脂として融点Mpが高すぎる結晶性ポリエステル樹脂を含むトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、低温定着性に劣ることが分かる。
【0142】
比較例4から、シェル層が形成されていないトナー粒子を含むトナーは、耐熱保存性に劣ることがあることが分かる。比較例4のトナーに含まれるトナー粒子では、トナーコアに含まれる離型剤のような成分のトナー粒子表面への染み出しが容易に生じる。このため、比較例4のトナーは、耐熱保存性に劣ると思われる。
【0143】
比較例5から、結着樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂を含まないトナーコアを用いて調製されたトナー粒子を含むトナーは、低温定着性に劣ることが分かる。
図1