【文献】
Dev. Cell, (2006), 11, [6], p.791-801
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0037】
(配列識別子の簡単な説明)
配列番号1は、ヒトWnt7aのcDNA配列を示す。
配列番号2は、配列番号1によってコードされるヒトWnt7aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号3は、アミノ酸73位においてアラニン変異を有する、配列番号2のヒトWnt7aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号4は、アミノ酸206位においてアラニン変異を有する、配列番号2のヒトWnt7aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号5は、アミノ酸73位および206位においてアラニン変異を有する、配列番号2のヒトWnt7aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号6は、マウスWnt7aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号7は、ラットWnt7aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号8は、ニワトリWnt7aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号9は、ゼブラフィッシュWnt7aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号10は、ブタWnt7aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号11は、ウシWnt7aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号12は、天然の分泌シグナルペプチドをヒト免疫グロブリンκ鎖のシグナルペプチドで置換した、ヒトWnt7aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号13は、天然の分泌シグナルペプチドをヒト免疫グロブリンκ鎖のシグナルペプチドで置換した、アミノ酸73位および206位においてアラニン変異を有するヒトWnt7aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号14は、ヒトWnt5aのcDNA配列を示す。
配列番号15は、配列番号14によってコードされるヒトWnt5aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号16は、アミノ酸104位においてアラニン変異を有する、配列番号15のヒトWnt5aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号17は、アミノ酸244位においてアラニン変異を有する、配列番号15のヒトWnt5aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号18は、アミノ酸104位および244位においてアラニン変異を有する、配列番号15のヒトWnt5aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号19は、マウスWnt5aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号20は、ラットWnt5aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号21は、ニワトリWnt5aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号22は、ゼブラフィッシュWnt5aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号23は、ウシWnt5aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号24は、ヒトWnt1ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号25は、ヒトWnt2ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号26は、ヒトWnt2bポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号27は、ヒトWnt3ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号28は、ヒトWnt3aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号29は、ヒトWnt4ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号30は、ヒトWnt5bポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号31は、ヒトWnt6ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号32は、ヒトWnt7bポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号33は、ヒトWnt8aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号34は、ヒトWnt8bポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号35は、ヒトWnt9aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号36は、ヒトWnt9bポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号37は、ヒトWnt10aポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号38は、ヒトWnt10bポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号39は、ヒトWnt11ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号40は、ヒトWnt16ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号41〜46は、オリゴヌクレオチド配列を示す。
【0038】
(詳細な説明)
(概説)
Wntの翻訳後脂質付加は、生物学的活性およびタンパク質分泌に必要とされると考えられているが、本発明は、翻訳後脂質付加が起こらないように変化させられた、脂質付加のアミノ酸部位を有する新規なWntポリペプチドを提供する。本発明のタンパク質は、Wnt生物学的活性を保持するので、本発明は、増強された溶解度、生成、および処方のような改善された生物製剤様特性を有する改変Wnt組成物、ならびにこのようなWnt組成物の治療的使用を提供する。本発明は、Wntポリペプチドの不溶性によって提起された問題に対する新規な解決策を提供し、さらに、臨床スケール生成および治療的使用に適した本発明のWntポリペプチド(融合ポリペプチドが挙げられる)を提供する。本発明のWnt組成物の治療的使用としては、例えば、組織形成、再生、修復もしくは維持の促進が挙げられる。
【0039】
本発明の実施は、具体的にそうでないと示されなければ、当該分野の技術範囲内の化学、生化学、有機化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA技術、遺伝学、免疫学、および細胞生物学の従来法を使用する。これらのうちの多くは、例示目的で以下に記載される。このような技術は、文献中に十分に説明されている。例えば、以下を参照のこと:Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3
rd Edition, 2001); Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2
nd Edition, 1989); Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (1982); Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (John Wiley and Sons, updated July 2008); Short
Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley−interscience; Glover, DNA
Cloning: A Practical Approach, vol. I &
II (IRL Press, Oxford, 1985); Anand, Techniques for the Analysis of Complex Genomes, (Academic Press, New York, 1992); Transcription and Translation (B. Hames & S. Higgins, Eds., 1984); Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning (1984);およびHarlow and Lane, Antibodies, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1998)。
【0040】
本明細書で引用される全ての刊行物、特許および特許出願は、それらの全体において本明細書に参考として援用される。
【0041】
(定義)
別段定義されなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で記載されるものに類似もしくは等価な任意の方法および材料が本発明の実施もしくは試験において使用され得るものの、方法および材料の好ましい実施形態が、本明細書に記載される。本発明の目的に関して、以下の用語が、以下に定義される。
【0042】
冠詞「1つの、ある(a)」、「1つの、ある(an)」および「上記、この、その(the)」は、上記冠詞の文法的対象物の1つ以上(すなわち、少なくとも1つ)に言及するために本明細書で使用される。例として、「1つの要素(an element)」とは、1つ以上の要素を意味する。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「約」もしくは「およそ」は、参照となる分量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量もしくは長さに対して30%、25%、20%、25%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%もしくは1%程度変動する分量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量もしくは長さに言及する。特定の実施形態において、用語「約」もしくは「およそ」は、数値の前につく場合、上記値±15%、10%、5%、もしくは1%の範囲を示す。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「実質的に」とは、参照となる値の95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%である分量、レベル、濃度、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量もしくは長さに言及する。例えば、ある物質(例えば、界面活性剤)を実質的に含まない組成物は、上記特定された物質を95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%含まないか、または上記物質は、従来の手段によって測定される場合に検出不能である。類似の意味は、用語「〜の非存在」に適用され得、これは、組成物の特定の物質もしくは成分の非存在に言及する。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「幹細胞」とは、(1)長期の自己再生、もしくは元の細胞の少なくとも1つの同一のコピーを生成する能力、(2)単一の細胞レベルでの、複数の、およびいくつかの場合には、ただ1つの専門化した細胞(specialized cell)タイプへの分化、および(3)組織のインビボ機能再生、の能力がある未分化の細胞である細胞に言及する。幹細胞は、全能性、多能性(pluripotent)、多分化能性(multipotent)および少能性(oligopotent)/単能性(unipotent)として、それらの発生能に従って下位分類される。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「成体幹細胞」とは、発達した生物において見いだされる幹細胞に言及する。成体幹細胞としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:外胚葉幹細胞、内胚葉幹細胞、中胚葉幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、筋幹細胞など。筋幹細胞は、伝統的には、単能性であると考えられ、筋細胞のみを生じる幹細胞の例である。
【0047】
本明細書で使用される場合、用語「サテライト幹細胞」とは、筋性系統の細胞(例えば、筋芽細胞および筋細胞)を生じる成体幹細胞のタイプに言及する。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「前駆細胞」とは、自己再生し、より成熟した細胞へと分化する能力を有するが、ある系統へとコミットした細胞に言及する(例えば、造血前駆細胞は、血液系統へとコミットしている)のに対して、幹細胞は、必ずしもそのように限定されているわけではない。筋芽細胞は、前駆細胞の一例であり、これは、ただ1つの細胞タイプへと分化する能力があるが、それ自体は、完全に成熟してもいないし、完全に分化してもいない。筋芽細胞は、筋細胞へと分化し得る。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「筋細胞」もしくは「筋線維」とは、筋肉において見いだされる分化した細胞のタイプに言及する。各筋細胞は、筋原線維を含み、これは、筋細胞の収縮単位である長いサルコメアの鎖である。筋細胞には、種々の特定された形態がある:当該分野で公知の種々の特性を有する、心筋細胞、骨格筋細胞および平滑筋細胞。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「自己再生」とは、変化していない娘細胞を生成し、専門化した細胞のタイプを生成する特有の能力(潜在能(potency))を有する細胞に言及する。自己再生は、2つの方法において達成され得る。非対称性細胞分裂は、親細胞に対して同一である1つの娘細胞、および親細胞とは異なり、前駆細胞もしくは分化した細胞である1つの娘細胞を生成する。非対称性細胞分裂は、従って、上記親細胞に対して同一の娘細胞の数を増大させないが、上記親細胞タイプの細胞数を維持する。対称性細胞分裂は、対照的に、上記親細胞に対して各々同一である2つの娘細胞を生成する。対称性細胞分裂は、従って、上記親細胞に対して同一の細胞の数を増大させ、親細胞の集団を増殖させる。特定の実施形態において、対称性細胞分裂は、「細胞増殖」と交換可能に使用される。
【0051】
本明細書で使用される場合、用語「分化」とは、細胞が、特定の機能のために専門化される発生プロセスに言及し、例えば、ここで細胞は、1つ以上の、最初の細胞タイプのものとは異なる形態的特徴および/もしくは機能を獲得する。用語「分化」は、系統コミットメント(lineage commitment)および最終分化プロセスの両方を含む。未分化もしくは分化の状態は、例えば、免疫組織化学もしくは当業者に公知の他の手順を使用して、生体マーカーの存在もしくは非存在を評価もしくはモニターすることによって、評価され得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、用語「系統コミットメント」とは、幹細胞が分化した細胞タイプの特定の限定された範囲を形成するようにコミットするプロセスに言及する。系統コミットメントは、例えば、幹細胞が非対称性細胞分裂の間に前駆細胞を生じる場合に、生じる。コミットした前駆細胞は、しばしば、自己再生もしくは細胞分裂の能力がある。
【0053】
本明細書で使用される場合、用語「最終分化」とは、細胞が、成熟した完全に分化した細胞へと最終分化することに言及する。通常、最終分化は、細胞周期からの離脱および増殖の停止と関連する。
【0054】
本明細書で使用される場合、用語「筋肥大」とは、筋肉のサイズにおける増大に言及し、個々の線維体積における増大および/もしくは筋線維の断面積における増大を含み得、また、筋線維あたりの核の数における増大を含み得る。筋肥大はまた、筋肉全体の体積および質量における増大を含み得る;しかし、筋肥大は、筋過形成(これは、筋線維の増大した数である)とは異なり得る。一実施形態において、筋肥大は、アクチンおよびミオシン収縮タンパク質の数における増大に言及する。
【0055】
本明細書で使用される場合、用語「促進する」、「増強する」、「刺激する」、もしくは「増大する」とは、一般に、本発明のWnt組成物が、ビヒクルもしくはコントロール分子/組成物のいずれかによって引き起こされる生理学的応答と比較して、より大きな応答(すなわち、測定可能な下流効果)を生じるかもしくは引き起こす能力に言及する。1つのこのような測定可能な生理学的応答としては、非対称性細胞分裂と比較して、対称性幹細胞分裂における増大(例えば、サテライト幹細胞における増大)、および/または正常な、未処理、もしくはコントロール処理した筋細胞と比較して、筋肥大の増大が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、上記生理学的応答は、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、175%、200%以上増大し得る。別の非限定的例において、本発明のWnt組成物の投与に応じた筋肥大は、正常な、未処理の、もしくはコントロール処理の筋肉と比較して、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、175%、200%以上増大し得る。「増大した」もしくは「増強した」応答は、代表的には、「統計的に有意」な応答であり、ビヒクル(因子の非存在)もしくはコントロール組成物によって生成される応答の1.1倍、1.2倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、30倍以上(例えば、500倍、1000倍)(その間、および1を超える全ての整数および小数を含む(例えば、1.5、1.6、1.7、1.8など))である増大を含み得る。
【0056】
本明細書で使用される場合、用語「保持」もしくは「維持」、または「保持する」もしくは「維持する」とは、一般に、本発明のWnt組成物(すなわち、改変Wntの組成物)が、天然に存在するWntアミノ酸もしくは核酸配列のWnt組成物によって引き起こされる応答に類似の性質である生理学的応答(すなわち、測定可能な下流効果)を生成するかもしくは引き起こす能力に言及する。例えば、本発明のWnt組成物は、Wnt生物学的活性を示し、従って、Wnt活性を保持する。本発明の組成物はまた、天然に存在するWntポリペプチドによって引き起こされる応答に類似の性質のものである生理学的応答(例えば、筋肥大)を生じる。類似の生理学的応答を誘発する本発明のWnt組成物は、天然に存在するWntアミノ酸もしくは核酸配列を含む組成物によって誘発される生理学的応答のレベルの少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%もしくは約100%である生理学的応答を誘発し得る。
【0057】
「天然に存在するWnt7a活性」を保持する、本発明の改変もしくは操作されたWnt7aポリペプチドは、上記タンパク質の脂質付加を低下させる1
個もしくはそれより多いアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を有する改変Wnt7aポリペプチドに言及し、ここで上記ポリペプチドは、その対応する天然に存在するWnt7aポリペプチドによって生成される生理学的応答の少なくとも100%、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、もしくは少なくとも5%である生理学的応答を生じる。
【0058】
「天然に存在するWnt5a活性」を保持する本発明の改変もしくは操作されたWnt5aポリペプチドとは、上記タンパク質の脂質付加を低下させる1
個もしくはそれより多いアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を有する改変Wnt5aポリペプチドに言及し、ここで上記ポリペプチドは、その対応する天然に存在するWnt5aポリペプチドによって生成される生理学的応答の少なくとも100%、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、もしくは少なくとも5%である生理学的応答を生じる。
【0059】
本明細書で使用される場合、用語「低下する」もしくは「低くする」、または「少なくする」、もしくは「低下させる」、または「弱める」とは、一般に、ビヒクルもしくはコントロール分子/組成物のいずれかによって引き起こされる応答と比較して、本発明のWnt組成物がより低い生理学的応答(すなわち、下流効果)(例えば、低下したアポトーシス)を生じるかもしくは引き起こす能力に言及する。一実施形態において、上記低下は、遺伝子発現における低下、または通常は細胞生存性の低下と関連する細胞シグナル伝達の低下であり得る。「低下」もしくは「低下した」応答は、代表的には、「統計的に有意」な応答であり、ビヒクル(因子の非存在)もしくはコントロール組成物によって生成される応答の1/1.1、1/1.2、1/1.5、1/2、1/3、1/4、1/5、1/6、1/7、1/8、1/9、1/10、1/15、1/20、1/30以上(例えば、1/500、1/1000)(その間、および1を超える全ての整数および小数を含む(例えば、1/1.5、1/1.6、1/1.7、1/1.8など))である低下を含み得る。
【0060】
(Wntシグナル伝達経路)
上記Wntシグナル伝達経路は、発生の間および成体の生命全体を通じて、細胞運命決定、細胞移動、細胞極性、神経パターン形成および器官形成の重要な局面を調節する古代からの進化的に保存された経路である。上記Fzレセプターの下流にあるWntシグナル伝達経路は、同定されており、これは、標準のもしくはWnt/β−カテニン依存性経路および非標準のもしくはβ−カテニン非依存性経路を含み、これらは、平面内細胞極性、Wnt/Ca
2+経路などにさらに分けられ得る。
【0061】
Wntタンパク質は、Frizzled(Fz)レセプターファミリー(その中には、ヒトにおいて10個のFzがある)のN末端細胞外システインリッチドメインに結合する。上記Fzタンパク質は、Gプロテイン共役レセプターに対してトポロジー的に相同性を有する7回膜貫通タンパク質である。さらに、WntとFzとの間の相互作用に対して、さらに、共レセプターが、Wntシグナル伝達を媒介するために必要とされる。例えば、低密度リポプロテイン関連タンパク質5/6(LRP5/6)は、上記標準のWntシグナルを媒介するために必要とされるのに対して、レセプターチロシンキナーゼRYKは、非標準の機能のために必要とされ得る。Wntシグナル伝達の調節の別のレベルは、多様な数の分泌型Wntアンタゴニストの存在によって、細胞外環境において起こる。Wntがレセプター複合体に結合した後、上記シグナルは、細胞質ホスホプロテインDishevelled(Dsh/Dvl)に伝達される。Dshは、Fzと直接相互作用し得る。Dshのレベルにおいて、上記Wntシグナルは、少なくとも3種の主要なカスケード(標準(β−カテニン)、平面内細胞極性およびWnt/Ca
2+)に枝分かれする。さらに、Gプロテイン共役レセプターシグナル伝達はまた、PI3Kのような増殖および生存経路を刺激し得る。
【0062】
(標準のWntシグナル伝達経路)
上記標準のWntシグナル伝達経路は、Drosophilaにおける遺伝的スクリーニングから初めて同定され、詳細に示された。そしてハエ、蠕虫、カエル、魚類およびマウスにおける集中的な研究から、基本的な分子シグナル伝達フレームワークの同定がもたらされた。上記標準のWnt経路の顕著な特徴は、核へのアドへレンジャンクション関連タンパク質(adherens junction associated−protein)β−カテニンの蓄積および移動である。Wntシグナル伝達の非存在下では、細胞質β−カテニンは、β−カテニン破壊複合体(これは、Axin、adenomatosis polyposis coli(APC)、プロテインホスファターゼ2A(PP2A)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)およびカゼインキナーゼ1α(CK1α)を含む)によって分解される。CK1αおよびGSK3βによるこの複合体内でのβ−カテニンのリン酸化は、β−カテニンを、ユビキチン化およびその後のプロテオソーム機構によるタンパク質分解的破壊のための標的とする。Wntの、上記Fzおよび上記LRP5/6から構成されるそのレセプター複合体への結合は、CK1およびGSK3−βによるLRP6の二重リン酸化を誘導し、このことは、Axinを含むタンパク質複合体が、サイトゾルから形質膜へ移動することを可能にする。Dshはまた、上記膜へとリクルートされ、Fzへ結合し、Axinは、リン酸化LRP5/6へ結合する。Fz/LRP5/6において上記膜に形成されるこの複合体は、Axinの隔離および/もしくはAxinの分解のいずれかを介して、β−カテニンの安定化を誘導する。β−カテニンは、核へと移動し、ここでβ−カテニンは、Lef/Tcfファミリーメンバーと複合体形成して、標的遺伝子の転写誘導を媒介する。
【0063】
標準のWntシグナル伝達は、前方頭部構造の形成および神経外胚葉パターン形成、後部パターン形成および尾部形成に影響を及ぼし、ならびに心臓、肺、腎臓、皮膚および骨を含む種々の器官系の形成に影響を及ぼす。
【0064】
上記標準のWntシグナル伝達経路を介してシグナル伝達し得るWntとしては、Wnt1、Wnt2、Wnt2b/13、Wnt3、Wnt3a、Wnt8、Wnt8a、Wnt8b、Wnt10a、Wnt10b、およびWnt16が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
(非標準のWntシグナル伝達経路)
上記非標準の経路は、しばしば、β−カテニン非依存性経路といわれる。この経路は、少なくとも2つの異なる枝(平面内細胞極性経路(もしくはPCP経路)およびWnt/Ca2+経路)へとさらに別れ得る。そのうち、上記PCPのみが、本明細書においてさらに詳細に考察される。上記PCP経路は、Drosophilaにおける遺伝的研究から浮かび上がってきた。この研究において、Wntシグナル伝達成分(FrizzledおよびDishevelledを含む)における変異は、毛小皮(cuticle hairs)および感覚剛毛を含む上皮構造の配向を無作為化することが見いだされた。上皮における細胞は、規定された先端−基底側極性を有することが公知であるが、さらに、上記細胞はまた、上記上皮層の平面に沿って極性化される。この固定した組織化は、毛包、感覚剛毛および眼における単眼の六角配列の配向を含む構造の配向を左右する。脊椎動物において、この組織化は、筋細胞の組織化および配向、内耳の感覚上皮における不動毛、毛包の組織化、および原腸形成を受けている背側の中胚葉細胞の形態および移動性の挙動の根底にあることが示された。
【0066】
Wntシグナル伝達は、Dshの活性化をもたらすLRP5/6とは無関係に、Fzを介して伝達される。Dshは、Daam1を介して、Rhoの活性化を媒介し、このことは、続いて、Rhoキナーゼ(ROCK)を活性化する。Daam1はまた、アクチン結合タンパク質であるプロフィリンを介して、アクチン重合を媒介する。Dshはまた、Racの活性化を媒介し、このことは、続いて、JNKを活性化する。Rock、JNKおよびプロフィリンからのシグナル伝達は、細胞極性化および原腸形成の間の運動性のための細胞骨格変化のために統合される。
【0067】
上記非標準Wntシグナル伝達経路を介してシグナル伝達し得るWntとしては、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、およびWnt11が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
(筋細胞発生におけるWntシグナル伝達)
サテライト幹細胞は、筋細胞を生じる成体幹細胞である。成体の骨格筋におけるサテライト細胞は、それらのホスト筋線維の筋細胞膜と基底板との間の小さなくぼみに位置する。損傷(例えば、物理的外傷、反復運動、もしくは疾患における)の際に、サテライト細胞は活性化され、増殖し、筋原性調節因子(MRF)であるMyoDおよびMyf5を発現する筋原性前駆細胞(筋芽細胞)の集団を生じる。上記再生プロセスの過程において、筋芽細胞は、数回の分裂を経て最終分化へとコミットし、ホスト線維と融合するかまたは新たな筋線維を生成して、損傷した組織を再構築する(Charge and Rudnicki, 2004)。骨格筋再生の間に、上記サテライト細胞集団は、幹細胞亜集団によって維持され、従って、組織ホメオスタシスおよび個体の寿命の間の複数回の再生が可能になる(Kuang et al., 2008)。サテライト幹細胞(Pax7+/Myf5−)は、上記成体サテライト細胞プールのうちの約10%を示し、非対称性の先端−基底細胞分裂を介して娘サテライト筋原性細胞(Pax7+/Myf5+)を生じる。
【0069】
Wntシグナル伝達は、胚発生を介する発生プログラムを調節すること、および成体組織において幹細胞機能を調節することにおいて重要な役割を果たす(Clevers, 2006)。Wntは、沿軸中胚葉における胚性筋原性誘導に必須であり(Borello et al., 2006; Chen et al., 2005; Tajbakhsh et al., 1998)、同様に、筋線維発生の間の分化の制御において必須である(Anakwe et al., 2003)。近年では、上記Wnt平面内細胞極性(PCP)経路は、発生中の筋節における筋細胞増殖の配向を調節することに関わっていた(Gros et al., 2009)。成体において、Wntシグナル伝達は、急性の損傷後の筋組織における成体幹細胞の筋原性へのコミットメントに必須であると考えられる(Polesskaya et al., 2003; Torrente et al., 2004)。他の研究から、Wnt/β−カテニンシグナル伝達は、予備の筋芽細胞の活性化およびリクルートを介して筋原性分化を調節することが示唆されている(Rochat et al., 2004)。さらに、成体の筋肉内のサテライト細胞における上記Wnt/β−カテニンシグナル伝達は、Notchシグナル伝達を制限し、従って分化を促進することによって筋原性系統の進行を制御するようである(Brack et al., 2008)。
【0070】
近年になって、上記WntレセプターFzd7は、静止サテライト幹細胞において顕著にアップレギュレートされることが決定された。さらに、さらなる研究から、Wnt7aは、筋再生の間に発現され、そのレセプターFzd7およびVangl2(上記平面内細胞極性(PCP)経路の成分)を介して作用して、対称性のサテライト幹細胞増殖を誘導し、筋再生を劇的に増強することが明らかになった。
【0071】
上記PCP経路におけるレセプターもしくはエフェクター分子(例えば、Fzd7もしくはVangl2)の阻害は、サテライト幹細胞に対するWnt7aの効果を排除すると考えられる(Le Grand et al., 2009)。脂質付加されたWnt7aポリペプチドの投与、脂質付加によって後で翻訳後修飾されるWnt7aポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの投与は、インビトロおよびインビボでサテライト幹細胞数を有意に増大させ、インビボで組織形成を促進し、損傷および罹患した筋組織において増強された修復および再生をもたらすことがさらに実証された(Le Grand et
al., 2009)。
【0072】
いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、損傷および罹患した筋組織において増強された修復および再生をもたらすWnt7aの作用機構は、2つの経路を有すると予期される:Wnt7aは、PCP経路を介して筋サテライト(幹)細胞の対称性の増殖を刺激し得、その後に筋芽細胞へと分化し得る、より大きな細胞のプールを生じる;そして第2に、Gプロテイン共役レセプター(Frizzled)を介するWnt7aシグナル伝達は、筋芽細胞および筋線維においてシグナル伝達するホスファチジルイノシトール3−キナーゼ/Akt(プロテインキナーゼB)/ラパマイシン哺乳動物標的(PI3K/Akt/mTOR)経路を刺激し得る。この経路は、肥大を刺激することが示された(Bodine et al., Nature Cell Biology. 2001; vol. 3; pp. 1014−1017; Glass et al., Nature Cell Biology. 2003; vol. 5; pp. 87−90; Ciciliot and Schiaffino, Current Pharmaceutical Design. 2010; 16(8); pp. 906−914)。Wnt7aは、上記Gプロテイン共役レセプターFrizzled 7を介してシグナル伝達し得、このWnt/Frz相互作用は、両方の生物学的効果に寄与し得る。
【0073】
種々の実施形態において、本発明は、一部、上記非標準Wntシグナル伝達経路を介してシグナル伝達して、損傷した筋組織を修復および再生する1種以上の改変Wntを含むWnt組成物を使用することを企図する。特定の実施形態において、本発明の組成物は、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、およびWnt11からなる群より選択される改変非標準Wntを含む。好ましい実施形態において、本発明の組成物は、改変Wnt5aもしくはWnt7aポリペプチドを含む。別の好ましい実施形態において、本発明の組成物は、1つ以上の脂質付加部位を欠いている改変Wnt5aもしくはWnt7aポリペプチドを含む。
【0074】
特定の実施形態において、本発明の組成物は、天然の、異種の、もしくはハイブリッドのシグナルペプチド、および非標準のWntポリペプチド(必要に応じて、1つ以上の脂質付加部位を欠いている)を含む融合ポリペプチドを含む。
【0075】
筋細胞肥大にとっての上記PI3K/Akt/mTOR経路の重要性は、記載されてきたものの、筋細胞においてこの経路を特異的に刺激することの治療的な困難性は、損傷および罹患した筋組織において修復および再生を増強することへのかなりの障害を提起している。強力なPI3−キナーゼアクチベーター(例えば、IGF−1)での初期の研究は、インビトロで肥大を生じたが、「オフターゲット(off−target)」代謝効果の可能性が存在する(すなわち、IGF−1およびPI3Kは、ハウスキーピング代謝プロセス、生存プロセスおよび代謝プロセスの重要なレギュレーターである)。従って、非標準Wnt経路の筋特異的刺激(例えば、PI3K/Akt/mTOR経路のWnt7a−Fzd7刺激)の可能性は、重要かつ独特な治療的なブレイクスルーを表す。
【0076】
以下にさらに詳細に記載されるように、本発明は、一部、この技術的ハードルおよびWnt組成物の治療的使用への他の障害に対する予測外の解決策を提供して、損傷および罹患した筋組織において修復および再生を増強する本発明のWnt組成物を企図する。
【0077】
(ポリペプチド)
Wntシグナル伝達経路は、細胞シグナル伝達ネットワークの重要な成分である。上記ヒトWnt遺伝子ファミリーは、19のメンバーからなり、22個もしくは24個のCys残基およびいくつかの保存されたAsnおよびSer残基を有する、進化的に保存された糖タンパク質をコードする。例示的なヒトWntタンパク質としては、以下が挙げられる:Wnt1、Wnt2、Wnt2b/13、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、およびWnt16。
【0078】
上記Wntは、分泌型糖タンパク質であり、細胞外環境への輸送および放出前に、大いに改変されている。シグナル配列切断および小胞体(ER)への移動の後に、Wntは、細胞内膜系を介して細胞表面へと輸送され、いくつかの改変を受ける。Wntは、N結合型グリコシル化を受ける(Burrus and McMahon 1995; Kadowaki et al., 1996; Komekado et al., 2007; Kurayoshi et al., 2007; Mason et al.,
1992; Smolich et al., 1993; Tanaka et al. 2002)。多くのWntはまた、最初の保存されたシステイン(例えば、Wnt1においてはC93、Wnt3aにおいてはC77、およびWnt5aにおいてはC104(Galli et al., 2007; Kadowaki et al., 1996; Komekado et al., 2007; Willert et al. 2003))においてパルミトイル化される。さらに、Wnt3aは、保存されたセリンであるS209(これはまた、Wnt1(S224)およびWnt5aにおいても保存されている)においてパルミトレイン酸で改変される(Takada et al., 2006)。さらに、これら保存されたシステインおよびセリン残基は、多くのWnt(例えば、とりわけ、Wnt1、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt6、Wnt7a、Wnt9a、wnt10a、およびWnt11)において存在する(Takada et al., 2006;
図1もまた参照のこと)。
【0079】
Wntアシル化は、分泌型Wntのよく知られた疎水性の性質の原因であることは広く受け入れられている(Willert et al., 2003)。さらに、哺乳動物Wntの翻訳後脂質付加は、機能にとって重要であると考えられている。Wnt1、Wnt3a、もしくはWnt5aの保存されたN末端システインを変異させると、細胞培養物においてパルミトイル化が妨げられた。これら変異型Wntは分泌されたが、ほとんどもしくは全くシグナル伝達活性を有しないことが示された(Galli et al., 2007; Komekado et al., 2007; Kurayoshi et al., 2007; Willert et al., 2003)。そして非パルミトイル化Wntは、Fzレセプターを結合できないと考えられている(Komekado et al., 2007; Kurayoshi et al. 2007)。Wnt3aの中心部分における保存されたセリンを変異させると、パルミトレイン酸付加が妨げられ、分泌がブロックされ、従って、活性がブロックされた(Takada et
al., 2006)。Drosophila Wgに対する研究から、アシル化の重要性が確認された(Franch−Marro et al., 2008a; Nusse 2003; van den Heuvel et al., 1993)。
【0080】
さらに、これらデータは、Drosophilaにおいてporcupine(porc)表現型によって裏付けられ、これは、Wgシグナル伝達の強力な喪失を示す(van
den Heuvel et al., 1993)。Porcは、Wgパルミトイル化(Zhai et al., 2004)およびWgがERを出て行く(Tanaka
et al., 2002)のに必要とされるER局在膜内在型O−アシルトランスフェラーゼである(Kadowaki et al., 1996)。脊椎動物Porcはまた、Wnt脂質付加を促進し、Wntシグナル伝達およびWnt生物学的活性に必要とされる(Galli et al., 2007)。
【0081】
これら研究は、パルミトレイン酸改変が、分泌に必要とされ、Fz結合のためにパルミチン化するというモデルを確立する。従って、これら脂質改変のいずれかもしくは両方を欠いているWntポリペプチドは、生物学的活性を欠くと予測される。
【0082】
種々の実施形態において、本発明は、一部、標準の脂質付加部位を減少させるかもしくは除去するように改変もしくは操作されたが、Wnt生物学的活性を予測外に保持するWntポリペプチドを企図する。特定の実施形態において、本発明のWntポリペプチドは、細胞増殖および筋肥大を促進し、組織形成、再生、維持および修復を促進する。本明細書で使用される場合、用語「標準の」とは、アミノ酸配列を参照して使用される場合、天然に存在するポリペプチドに存在するアミノ酸もしくはアミノ酸の群に言及する。いくつかの状況において、「標準の」とは、上記天然に存在するポリペプチドに存在するアミノ酸に言及する場合、「天然の」と交換可能に使用される。
【0083】
特定の実施形態において、Wntポリペプチドは、上記Wntポリペプチドの脂質付加のための天然のアミノ酸のうちの1
個もしくはそれより多くを欠くように改変もしくは操作された。ある特定の実施形態において、Wntポリペプチドは、上記Wntポリペプチドの脂質付加のための天然のアミノ酸の全てを欠くように改変もしくは操作された。いくつかの実施形態において、上記Wntポリペプチドは、非標準Wntポリペプチド(非標準Wntシグナル伝達経路を介してシグナル伝達するWntポリペプチド)である。特定の実施形態において、上記非標準Wntは、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、およびWnt11からなる群より選択される。好ましい実施形態において、上記Wntポリペプチドは、本明細書で考察されるとおり、標準のもしくは天然の脂質付加部位を欠くように改変もしくは操作されているが、標準のおよび/もしくは非標準のWntシグナル伝達活性を保持するかもしくは増大させた、Wnt5aもしくはWnt7aポリペプチドである。
【0084】
上記のように、本発明は、実施形態において、当該分野で公知および利用可能な技術を使用して、操作されたWntポリペプチドもしくはそのように操作されたWntポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組成物を提供する。特定の実施形態において、上記Wntポリペプチドは、1つ以上もしくは全ての脂質付加部位を除去するように操作されている。
【0085】
本明細書で使用される場合、用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、そうではないと特定されなければ、従来の意味に従って、すなわち、ペプチド結合もしくは改変ペプチド結合によって連結されるアミノ酸の配列として交換可能に使用される。特定の実施形態において、用語「ポリペプチド」は、融合ポリペプチドを含む。ポリペプチドは、特定の長さに限定されない。例えば、上記ポリペプチドは、全長のタンパク質配列もしくは全長タンパク質のフラグメントを含んでいてもよいし、上記ポリペプチドの翻訳後修飾を含んでいてもよい(例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化など、ならびに当該分野で公知の他の改変(天然に存在する、および天然に存在しないの両方))。本発明のポリペプチドは、種々の周知の組換えおよび/もしくは合成技術のうちのいずれかを使用して調製され得る。そのうちの例は、以下でさらに考察される。しかし、特定の実施形態において、本発明のWntポリペプチドは、それらが、上記Wntポリペプチド上の1個、2個、もしくはこれ以上の、または全ての脂質付加部位を除去もしくは排除する、1
個もしくはそれより多いアミノ酸置換、欠失、挿入、もしくは変異を有するように操作された。特定の実施形態において、上記Wntポリペプチドは、非標準のWntポリペプチド(すなわち、非標準のWntシグナル伝達経路を介してシグナル伝達するWntポリペプチド)である。
【0086】
種々の実施形態において、上記Wntポリペプチドは、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、およびWnt11からなる群より選択され、ここで上記Wntポリペプチドは、1個以上のまたは全ての脂質付加部位を、例えば、アミノ酸置換、欠失、もしくは変異によって欠いている。好ましい実施形態において、上記Wntポリペプチドは、1個以上のまたは全ての脂質付加部位を、例えば、アミノ酸置換、欠失、もしくは変異によって欠いているWnt5aもしくはWnt7aポリペプチドである。
【0087】
本明細書で使用される場合、用語「非標準のWntポリペプチド」とは、非標準のWntシグナル伝達経路を介して、一般にもしくは主にシグナル伝達するWntポリペプチドに言及する。例示的な非標準のWntポリペプチドとしては、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、およびWnt11が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、用語「非標準のWntポリペプチド」とは、天然に存在する非標準のWntポリペプチド配列に対して少なくとも約70%、より好ましくは、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは約100%同一である配列を有する、改変もしくは操作された非標準のWntポリペプチドに言及する。同一性は、少なくとも約10個、25個、50個、100個、200個、300個、もしくはこれ以上の連続するアミノ酸にわたって評価されてもよいし、配列の全長にわたって評価されてもよい。%同一性もしくは%相同性を決定するための方法は、当該分野で公知であり、任意の適切な方法が、この目的のために使用され得る。非標準のWntポリペプチドの例は、配列番号2〜13および15〜23、29〜32、ならびに39に示される。
【0088】
本明細書で使用される場合、用語「Wnt7aポリペプチド」とは、野生型Wnt7a配列に対応するポリペプチド配列を有するWnt7aタンパク質に言及する。いくつかの実施形態において、用語「Wnt7aポリペプチド」とは、天然に存在するWnt7a配列に対して、少なくとも約70%、より好ましくは、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは約100%同一である配列を有する、改変もしくは操作されたWnt7aポリペプチドに言及する。同一性は、少なくとも約10個、25個、50個、100個、200個、300個、もしくはこれ以上の連続するアミノ酸にわたって評価されてもよいし、配列の全長にわたって評価されてもよい。Wnt7aポリペプチドの例は、配列番号2〜13に示される。
【0089】
本明細書で使用される場合、用語「Wnt5aポリペプチド」とは、野生型Wnt5a配列に対応するポリペプチド配列を有するWnt5aタンパク質に言及する。いくつかの実施形態において、用語「Wnt5aポリペプチド」とは、天然に存在するWnt5a配列に対して、少なくとも約70%、より好ましくは、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは約100%同一である配列を有する、改変もしくは操作されたWnt5aポリペプチドに言及する。同一性は、少なくとも約10個、25個、50個、100個、200個、300個、もしくはこれ以上の連続するアミノ酸にわたって評価されてもよいし、配列の全長にわたって評価されてもよい。Wnt5aポリペプチドの例は、配列番号15〜23に示される。
【0090】
本明細書で使用される場合、用語「改変Wntポリペプチド」、「改変もしくは操作されたWntポリペプチド」、および「操作されたWntポリペプチド」は、交換可能に使用され、Wntポリペプチド、その生物学的に活性なフラグメントもしくは改変体、または1
個もしくはそれより多いアミノ酸変異、付加、欠失、もしくは置換を含むそのホモログ、パラログ、もしくはオルソログに言及する。本発明の特定の実施形態において、改変Wntポリペプチドは、上記Wntポリペプチドの脂質付加を妨げるために、保存された脂質付加部位の1
個もしくはそれより多いアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を含むが、それはまた、Wnt生物学的活性を保持するWntポリペプチドを生じる。特定の実施形態において、上記改変Wntポリペプチドは、1個以上のまたは全ての脂質付加部位を欠いているが、Wnt活性を保持する。好ましくは、本発明の改変Wntポリペプチドは、上記天然に存在するWnt活性のうちの少なくとも100%、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、もしくは少なくとも5%を保持する。
【0091】
本明細書で使用される場合、用語「改変された非標準のWntポリペプチド」、「改変もしくは操作された非標準のWntポリペプチド」および「操作された非標準のWntポリペプチド」は、交換可能に使用され、非標準のWntポリペプチド、その生物学的に活性なフラグメントもしくは改変体、または1
個もしくはそれより多いアミノ酸変異、付加、欠失、もしくは置換を含むそのホモログ、パラログ、もしくはオルソログに言及する。本発明の特定の実施形態において、改変された非標準のWntポリペプチドは、上記非標準のWntポリペプチドの脂質付加を妨げるために、保存された脂質付加部位の1
個もしくはそれより多いアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を含むが、それはまた、非標準のWnt生物学的活性を保持する(例えば、上記非標準のWnt経路を介してシグナル伝達する)非標準のWntポリペプチドを生じる。特定の実施形態において、上記改変された非標準のWntポリペプチドは、1個以上のもしくは全ての脂質付加部位を欠いているが、非標準のWnt活性を保持する。好ましくは、本発明の改変された非標準のWntポリペプチドは、上記天然に存在する非標準のWnt活性のうちの少なくとも100%、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、もしくは少なくとも5%を保持する。
【0092】
本明細書で使用される場合、用語「改変されたWnt7aポリペプチド」、「改変もしくは操作されたWnt7aポリペプチド」、および「操作されたWnt7aポリペプチド」は、交換可能に使用され、Wnt7aポリペプチド、その生物学的に活性なフラグメントもしくは改変体、または1
個もしくはそれより多いアミノ酸変異、付加、欠失、もしくは置換を含むそのホモログ、パラログ、もしくはオルソログに言及する。特定の実施形態において、本発明の改変Wnt7aポリペプチドは、上記Wnt7aポリペプチドの脂質付加を妨げるために、保存された脂質付加部位の1
個もしくはそれより多いアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を含むが、それはまた、Wnt7a生物学的活性を保持するかもしくは増大したWnt7aポリペプチドを生じる。特定の実施形態において、上記改変Wnt7aポリペプチドは、1個以上のもしくは全ての脂質付加部位を欠いているが、Wnt生物学的活性を保持する。好ましくは、本発明のWnt7aポリペプチド改変体は、上記天然に存在するWnt7a活性のうちの少なくとも100%、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、もしくは少なくとも5%を保持する。改変Wnt7aポリペプチドの例は、配列番号3〜5および12〜13に示される。
【0093】
本明細書で使用される場合、用語「改変Wnt5aポリペプチド」、「改変もしくは操作されたWnt5aポリペプチド」、および「操作されたWnt5aポリペプチド」は、交換可能に使用され、Wnt5aポリペプチド、その生物学的に活性なフラグメントもしくは改変体、または1
個もしくはそれより多いアミノ酸変異、付加、欠失、もしくは置換を含むそのホモログ、パラログ、もしくはオルソログに言及する。特定の実施形態において、本発明の改変Wnt5aポリペプチドは、上記Wnt5aポリペプチドの脂質付加を妨げるために、保存された脂質付加部位の1
個もしくはそれより多いアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を含むが、それはまた、Wnt5a生物学的活性を保持するかもしくは増大したWnt5aポリペプチドを生じる。特定の実施形態において、上記改変Wnt5aポリペプチドは、1個以上のもしくは全ての脂質付加部位を欠いているが、Wnt生物学的活性を保持する。好ましくは、本発明のWnt5aポリペプチド改変体は、上記天然に存在するWnt5a活性のうちの少なくとも100%、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、もしくは少なくとも5%を保持する。改変Wnt5aポリペプチドの例は、配列番号16〜18に示される。
【0094】
特定の実施形態において、本発明の改変Wntポリペプチドは、上記ポリペプチドの脂質付加を低下もしくは妨げるアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を含み、そのようなポリペプチドは、なおWnt生物学的活性を有する。特定の実施形態において、上記Wntポリペプチドは、表1に同定されるアミノ酸位置のうちの1もしくは
それより多い位置においてアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を含む標準のWntポリペプチドであり、ここで上記アミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換は、上記同定された位置での脂質付加を妨げ、そして上記標準のWntポリペプチドは、標準のWnt生物学的活性を保持するかもしくはそのレベルを増大させる。
【0095】
【表1】
特定の実施形態において、上記Wntポリペプチドは、表2に同定されるアミノ酸位置のうちの1
個もしくはそれより多い位置においてアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を含む非標準のWntポリペプチドであり、ここで上記アミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換は、上記同定された位置での脂質付加を妨げ、そして上記非標準のWntポリペプチドは、非標準のWnt生物学的活性を保持するかもしくはそのレベルを増大させる。
【0096】
【表2】
特定の実施形態において、上記Wntポリペプチドは、アミノ酸73および/もしくは206においてアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を含み、そのような位置において脂質付加が妨げられているWnt7aポリペプチドであり、ここで上記Wnt7aポリペプチドは、Wnt7a生物学的活性を保持するかもしくは該活性の増大したレベルを有する。一実施形態において、上記ポリペプチドは、アミノ酸73位においてアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を含み、この位置での脂質付加が妨げられているWnt7aポリペプチドであり、ここで上記Wnt7aポリペプチドは、Wnt7a生物学的活性を保持するかもしくは該活性の増大したレベルを有する。いくつかの実施形態において、本発明のWntポリペプチドは、アミノ酸206位においてアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を含み、この位置においてWnt7aの脂質付加が妨げられているWnt7aポリペプチドであり、ここで上記Wnt7aポリペプチドは、Wnt7a生物学的活性を保持するかもしくは該活性の増大したレベルを有する。いくつかの実施形態において、上記ポリペプチドは、アミノ酸73位および206位においてアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を含むWnt7aポリペプチドであり、ここで上記Wnt7aポリペプチドは、翻訳後脂質付加を欠いており、Wnt生物学的活性を有する。
【0097】
特定の実施形態において、Wnt7aポリペプチドのC73および/もしくはS206は、これら残基の脂質付加を妨げるように、Alaもしくは別のアミノ酸で置換される。他の実施形態において、C73および/もしくはS206は、これら残基の脂質付加を妨げるように変異もしくは欠失される(例えば、配列番号3〜5)。いくつかの実施形態において、C73およびS206は、Alaで置換され、そして本発明のWnt7aポリペプチドは、脂質付加部位を欠いており、Wnt生物学的活性のあるレベルを保持する(例えば、配列番号5)。
【0098】
特定の実施形態において、上記Wntポリペプチドは、アミノ酸104および/もしくは244においてアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を含み、このような位置での脂質付加が妨げられているWnt5aポリペプチドであり、ここで上記Wnt5aポリペプチドは、Wnt5a生物学的活性を保持するかもしくは該活性の増大したレベルを有する。一実施形態において、上記ポリペプチドは、アミノ酸104位においてアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を含み、この位置での脂質付加が妨げられているWnt5aポリペプチドであり、ここで上記Wnt5aポリペプチドは、Wnt5a生物学的活性を保持するかもしくは該活性の増大したレベルを有する。いくつかの実施形態において、本発明のWntポリペプチドは、アミノ酸244位においてアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を含み、この位置においてWnt5aの脂質付加が妨げられているWnt5aポリペプチドであり、ここで上記Wnt5aポリペプチドは、Wnt5a生物学的活性を保持するかもしくは該活性の増大したレベルを有する。いくつかの実施形態において、上記ポリペプチドは、アミノ酸104位および244位においてアミノ酸変異、付加、欠失、および/もしくは置換を含むWnt5aポリペプチドであり、ここで上記Wnt5aポリペプチドは、翻訳後脂質付加を欠いており、Wnt生物学的活性を有する。
【0099】
特定の実施形態において、Wnt5aポリペプチドのC104および/もしくはS244は、これら残基の脂質付加を妨げるように、Alaもしくは別のアミノ酸で置換される。他の実施形態において、C104および/もしくはS244は、これら残基の脂質付加を妨げるように変異もしくは欠失される(例えば、配列番号16〜18)。いくつかの実施形態において、C104およびS244は、Alaで置換され、本発明のWnt5aポリペプチドは、脂質付加部位を欠いており、Wnt生物学的活性のあるレベルを保持する(例えば、配列番号18)。
【0100】
本明細書で使用される場合、用語「天然に存在する」とは、天然において見いだされ得るポリペプチドもしくはポリヌクレオチド配列に言及する。例えば、天然に存在するポリペプチドもしくはポリヌクレオチド配列は、ある生物に存在するものであり、その生物から単離され得、それは、実験室において人間によって意図的に改変されていない。用語「野生型」は、しばしば、用語「天然に存在する」と交換可能に使用される。
【0101】
本発明の状況において、ポリペプチド、その生物学的に活性なフラグメントもしくは改変体、またはそのホモログ、パラログ、もしくはオルソログは、これが、野生型タンパク質の活性のうちの約10%、20%、30%、40%もしくは50%、好ましくは、上記野生型タンパク質の活性のうちの少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、もしくは少なくとも80%を示す場合に、上記野生型タンパク質と少なくとも実質的に同じ活性を有するとみなされる。特定の実施形態において、上記ポリペプチド、その生物学的に活性なフラグメントもしくは改変体、またはそのホモログ、パラログ、もしくはオルソログは、野生型タンパク質の活性のうちの少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%もしくは約100%を示す。特定の実施形態において、野生型活性より大きな活性が達成され得る。非標準のWntポリペプチド、例えば、Wnt5aもしくはWnt7aポリペプチド、またはその生物学的に活性なフラグメントもしくは改変体、またはそのホモログ、パラログ、もしくはオルソログの活性は、例えば、野生型Wnt生物学的活性を摸倣するその能力を測定し(例えば、Wntシグナル伝達経路を刺激することによって(例えば、対称性の幹細胞増殖もしくは細胞成長を促進することによって))、その能力と、野生型タンパク質の活性とを比較することによって、決定され得る。幹細胞分裂(例えば、サテライト幹細胞分裂)、および細胞増殖(例えば、筋肥大)を測定し特徴付けるための方法は、当該分野で公知である。
【0102】
本明細書で使用される場合、用語「生物学的に活性なフラグメント」は、参照ポリヌクレオチドもしくはポリペプチド配列のフラグメントに適用される場合、Wnt参照配列の生物学的活性(例えば、上記Wntシグナル伝達経路を刺激するためのその生物学的活性)のうちの少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、100%、110%、120%、150%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、もしくは1000%以上を有する改変Wntポリペプチドのフラグメントに言及する。本発明の特定の実施形態は、一部、長さが少なくとも約20個、50個、100個、150個、200個、250個、もしくは300個の連続するアミノ酸残基の改変Wntポリペプチドの生物学的に活性なフラグメント、または上記をコードするポリヌクレオチド配列(間にある全ての整数を含む)(これは、参照Wntポリペプチド(例えば、天然に存在するWntポリペプチド)の生物学的活性を有するポリペプチドを含むかもしくはコードする)を企図する。
【0103】
改変ポリペプチドは、ポリペプチド改変体を含む。用語「改変体」とは、本明細書で使用される場合、本明細書中の他の箇所で考察され、当該分野で公知であるように、少なくとも1個のアミノ酸残基の改変、付加、欠失、もしくは置換によって参照ポリペプチドから区別されるポリペプチドに言及する。特定の実施形態において、ポリペプチド改変体は、1
個もしくはそれより多いアミノ酸置換(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、もしくはこれ以上の置換)によって参照ポリペプチドから区別され、それは、保存的であっても非保存的であってもよい。例えば、種々の実施形態において、1
個もしくはそれより多い保存的もしくは非保存的な置換は、上記天然に存在するWntポリペプチドにおいて脂質付加のために標的とされる任意のアミノ酸残基において行われ得る。
【0104】
他の特定の実施形態において、Wntポリペプチド改変体は、上記天然に存在するWntポリペプチドと比較して、脂質付加を妨げるために、Wnt経路シグナル伝達活性を増大させるために、および/または上記改変Wntポリペプチドの安定性を増大させるために、1
個もしくはそれより多いアミノ酸付加、欠失、もしくは置換を含む。
【0105】
他の特定の実施形態において、非標準のWntポリペプチド改変体は、上記天然に存在する非標準のポリペプチドと比較して、脂質付加を妨げるために、Wnt経路シグナル伝達活性を増大させるために、および/または上記改変Wntポリペプチドの安定性を増大させるために、1
個もしくはそれより多いアミノ酸付加、欠失、もしくは置換を含む。
【0106】
他の特定の実施形態において、Wnt7aポリペプチド改変体は、上記天然に存在するWnt7aポリペプチドと比較して、脂質付加を妨げるために、Wnt経路シグナル伝達活性を増大させるために、および/または上記改変Wntポリペプチドの安定性を増大させるために、1
個もしくはそれより多いアミノ酸付加、欠失、もしくは置換を含む。
【0107】
他の特定の実施形態において、Wnt5aポリペプチド改変体は、上記天然に存在するWnt5aポリペプチドと比較して、脂質付加を妨げるために、Wnt経路シグナル伝達活性を増大させるために、および/または上記改変Wntポリペプチドの安定性を増大させるために、1
個もしくはそれより多いアミノ酸付加、欠失、もしくは置換を含む。
【0108】
このような改変体を生成するために、当業者は、例えば、表3に従って、例えば、コードするDNA配列のコドンのうちの1
個もしくはそれより多くを変化させ得る。
【0109】
【表3】
どのアミノ酸残基が,生物学的活性も免疫学的活性も破壊することなく、置換、挿入、もしくは欠失され得るかを決定することにおけるガイダンスは、当該分野で周知のコンピュータープログラム(例えば、DNASTAR
TMソフトウェア)を使用して見いだされ得る。所望される場合、アミノ酸置換は、ポリペプチドから官能基を変化させ、そして/もしくは除去するように行われ得る。あるいは、本明細書で開示されるタンパク質改変体におけるアミノ酸変化は、保存的アミノ酸変化であり得る(すなわち、同様に荷電したかもしくは荷電していないアミノ酸の置換)。保存的アミノ酸変化は、それらの側鎖において関連するアミノ酸のファミリーのうちの1つの置換を含む。天然に存在するアミノ酸は、一般に、4つのファミリーに分けられる:酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、ヒスチジン)、非極性アミノ酸(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、および荷電していない極性アミノ酸(グリシン、アスパラギン、グルタミン、シスチン、セリン、スレオニン、チロシン)。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは、ときおり、まとめて芳香族アミノ酸として分類される。表4を参照のこと。
【0110】
【表4】
他の置換も許容され、経験的に、または他の公知の保存的(もしくは非保存的)置換に従って決定され得る。
【0111】
このような変化を行うにあたって、アミノ酸のヒドロパシーインデックスが考慮され得る。タンパク質に対して相互作用的生物学的機能を付与することにおける上記アミノ酸のヒドロパシーインデックスの重要性は、一般に、当該分野で理解されている(Kyte and Doolittle, 1982(本明細書に参考として援用される))。特定のアミノ酸が、類似のヒドロパシーインデックスもしくはスコアを有する他のアミノ酸によって置換され得、類似の生物学的活性を有するタンパク質をなお生じる(すなわち、生物機能的に等価なタンパク質をなお得る)ことは、当該分野で公知である。このような変化を行うにあたって、ヒドロパシーインデックスが±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内であるものは特に好ましく、±0.5以内であるものは、さらになお、特に好ましい。類似のアミノ酸の置換は、親水性に基づいて、効率的に行われ得ることもまた、当該分野で理解される。
【0112】
本発明のポリペプチドの改変体としては、グリコシル化形態、他の分子との集合性結合体、および関連しない化学部分との共有結合的結合体(例えば、peg化分子)が挙げられる。共有結合的改変体は、当該分野で公知であるように、官能基を、アミノ酸鎖において、またはN末端もしくはC末端の残基において見いだされる基に連結することによって、調製され得る。改変体としてはまた、対立遺伝子改変体、種改変体、およびムテインが挙げられる。上記タンパク質の機能的活性に影響を及ぼさない領域の短縮もしくは欠失もまた、改変である。
【0113】
機能に必須の、本発明のポリペプチドにおけるアミノ酸は、当該分野で公知の方法(例えば、部位指向性変異誘発もしくはアラニンスキャニング変異誘発(Cunningham and Wells, Science 244:1081−1085, 1989))によって同定され得る。リガンド−レセプター結合に重要な部位はまた、構造分析(例えば、結晶化、核磁気共鳴もしくは光親和性標識(Smith et al., J.
Mol. Biol. 224:899−904, 1992およびde Vos et al. Science 255:306−312, 1992)によって決定され得る。
【0114】
特定の変化は、上記タンパク質の折りたたみにも活性にも大きく影響を及ぼさない。当業者が行うアミノ酸置換の数は、多くの要因(上記に記載されるものが挙げられる)に依存する。概して、任意の所定のポリペプチドあたりの置換の数は、50個以下、40個以下、30個以下、25個以下、20個以下、15個以下、10個以下、5個以下もしくは3個以下である。
【0115】
さらに、ポリペプチドのpeg化および/もしくはムテインは、改善された特性(例えば、増大した半減期、溶解度、およびプロテアーゼ耐性)を提供すると予測される。Peg化は、当該分野で周知である。
【0116】
(融合ポリペプチド)
種々の実施形態において、本発明は、一部、融合ポリペプチド、および融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを企図する。一実施形態において、上記融合ポリペプチドは、改変Wntポリペプチド、生物学的に活性なWntポリペプチドフラグメント、および/もしくは本明細書中の他の箇所に記載されるように、1
個もしくはそれより多いアミノ酸変異、置換、および/もしくは付加をさらに含むこのようなポリペプチドを含む。特定の実施形態において、上記融合ポリペプチドは、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、およびWnt11からなる群より選択される非標準のWntポリペプチドを含む。好ましい実施形態において、上記Wntポリペプチドは、標準のもしくは天然の脂質付加部位を欠くように、本明細書で記載されるとおりに改変もしくは操作されているが、Wntシグナル伝達活性を保持するかもしくは該活性の増大を有するWnt5aもしくはWnt7aポリペプチドである。
【0117】
融合ポリペプチドは、上記タンパク質のN末端においてシグナルペプチド(これは、翻訳と同時にもしくは翻訳後に上記Wntポリペプチドの移動を指示する)を含み得る。融合ポリペプチドはまた、リンカーもしくはスペーサー、1個以上のプロテアーゼ切断部位、1個以上のエピトープタグまたは上記ポリペプチドの合成、精製もしくは生成を容易にするための他の配列を含み得る。
【0118】
融合ポリペプチドおよび融合タンパク質は、直接的にもしくはアミノ酸リンカーを介してのいずれかで、1個以上の異種ポリペプチド配列(融合パートナー)に共有結合的に連結された本発明のポリペプチドに言及する。上記融合タンパク質を形成するポリペプチドは、代表的には、C末端をN末端に連結されるが、それらはまた、C末端をC末端に、N末端をN末端に、またはN末端をC末端に連結され得る。上記融合タンパク質のポリペプチドは、任意の順序にあり得る。
【0119】
上記融合パートナーは、本質的に任意の望ましい目的のために設計され含まれ得るが、ただし、それらは、上記ポリペプチドの所望の活性に有害な影響を及ぼさない。例えば、一実施形態において、融合パートナーは、上記タンパク質の溶解度もしくは安定性を増大させ、Wntポリペプチドの生成および/もしくは精製を促進し、そして/またはWntの全身送達および/もしくは組織取り込みを促進するように、選択され得る。融合ポリペプチドは、化学合成法によって、または上記2つの部分の間の化学的連結によって生成されてもよいし、一般に、他の標準的技術を使用して調製されてもよい。一実施形態において、Wnt融合ポリペプチドは、以下のうちの1種以上もしくは全てを含む:シグナルペプチド、Wntポリペプチド、例えば、非標準のWnt(例えば、Wnt5aもしくはWnt7a)、またはその生物学的に活性なフラグメント、プロテアーゼ切断部位、およびエピトープタグ。
【0120】
本明細書で使用される場合、用語「シグナルペプチド」とは、分泌経路への進入を確実にするリーダー配列に言及する。分泌型タンパク質の産業的生成のために、上記生成されるべきタンパク質は、宿主細胞もしくは宿主生物から効率的に分泌される必要がある。上記シグナルペプチドは、例えば、上記生成されるべきタンパク質の天然シグナルペプチド、異種シグナルペプチド、もしくは天然シグナルペプチドと異種シグナルペプチドとのハイブリッドであり得る。多くのシグナルペプチドは、分泌型タンパク質の生成のために使用される。
【0121】
従って、種々の実施形態において、本発明は、Wntポリペプチド(非標準のWntポリペプチド(例えば、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、およびWnt11)が挙げられる)の生成および分泌を改善するための方法を企図し、上記方法は、細胞(例えば、哺乳動物、昆虫、もしくは細菌の)において、シグナルペプチド、および標準のもしくは天然の脂質付加部位を欠くように本明細書で考察されるとおりに改変もしくは操作された非標準のWntポリペプチドを有する融合ポリペプチドを発現する工程であって、ここで上記ポリペプチドは、標準のおよび/もしくは非標準のWntシグナル伝達活性を保持するかもしくは該活性の増大を有する、工程を包含する。好ましい実施形態において、Wnt5aもしくはWnt7aの生成および分泌を改善するための方法は、シグナルペプチド、および標準のもしくは天然の脂質付加部位を欠くように本明細書で考察されるとおりに改変もしくは操作されているが、標準のおよび/もしくは非標準のWntシグナル伝達活性を保持するかもしくは該活性の増大を有するWnt5aもしくはWnt7aポリペプチドを有する融合ポリペプチドを細胞において発現する工程を包含する。
【0122】
本発明の融合ポリペプチドにおいて使用するためのシグナルペプチドの例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:CD33シグナルペプチド;免疫グロブリンシグナルペプチド(例えば、IgGκシグナルペプチドもしくはIgGμシグナルペプチド);成長ホルモンシグナルペプチド;エリスロポエチンシグナルペプチド;アルブミンシグナルペプチド;分泌型アルカリホスファターゼシグナルペプチド、およびウイルスシグナルペプチド(例えば、ロタウイルス(rotovirus)VP7糖タンパク質シグナルペプチド)。
【0123】
特定の実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、非標準のWntポリペプチド(例えば、Wnt5aおよびWnt7a)の精製および生成を促進するために、プロテアーゼ切断部位およびエピトープタグを含む。上記プロテアーゼ切断部位の位置は、代表的には、上記Wntを細胞もしくは組織へ送達する前の、異種配列の除去を促進するために、上記WntポリペプチドのC末端と上記エピトープタグとの間にある。
【0124】
本発明の融合タンパク質において使用され得る異種プロテアーゼ切断部位の例としては、タバコエッチ病ウイルス(TEV)プロテアーゼ切断部位、ヘパリン切断部位、トロンビン切断部位、エンテロキナーゼ切断部位および第Xa因子切断部位が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
本発明の融合タンパク質において使用され得るエピトープタグの例としては、HIS6エピトープ、MYCエピトープ、FLAGエピトープ、V5エピトープ、VSV−Gエピトープ、およびHAエピトープが挙げられるが、これらに限定されない。
【0126】
ペプチドリンカー配列はまた、融合ポリペプチド成分を、所望であれば、その二次構造および三次構造へと各ポリペプチドが折りたたまれることを確実にするために十分な距離だけ、分離するために使用され得る。このようなペプチドリンカー配列は、当該分野で周知の標準的技術を使用して、上記融合タンパク質へ組み込まれる。特定のペプチドリンカー配列は、以下の要因に基づいて選択され得る:(1)それらが可撓性の伸長したコンホメーションを採用できること;(2)それらが、上記第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチド上の機能的エピトープと相互作用し得る二次構造を採用できないこと;ならびに(3)上記ポリペプチド機能的エピトープと反応し得る疎水性残基もしくは荷電した残基がないこと。好ましいペプチドリンカー配列は、Gly残基、Asn残基およびSer残基を含む。他の中性に近いアミノ酸(例えば、ThrおよびAla)はまた、上記リンカー配列において使用され得る。通常リンカーとして使用され得るアミノ酸配列は、Maratea et al., Gene 40:39 46 (1985); Murphy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:8258 8262 (1986);米国特許第4,935,233号および同第4,751,180号に開示されるものを含む。上記リンカー配列は、一般に、長さが1〜約50個のアミノ酸であり得る。リンカー配列は、上記第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドが、上記機能的ドメインを分離し、立体障害を妨げるために使用され得る非必須N末端アミノ酸領域を有する場合には、必要とされない。上記2つのコード配列は、いかなるリンカーもなしで直接、または1〜3回反復されるペンタマーGly−Gly−Gly−Gly−Serから構成される可撓性ポリリンカーを使用することによって、融合され得る。このようなリンカーは、VHとVLとの間に挿入されることによって一本鎖抗体(scFv)を構築するにあたって使用されてきた(Bird et al., 1988, Science 242:423−426; Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5979−5883)。上記リンカーは、上記一本鎖抗体の可変領域を形成する2つのβ−シートの間での正しい相互作用を可能にするように設計される。使用され得る他のリンカーとしては、Glu−Gly−Lys−Ser−Ser−Gly−Ser−Gly−Ser−Glu−Ser−Lys−Val−Asp(Chaudhary et al., 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 87:1066−1070)およびLys−Glu−Ser−Gly−Ser−Val−Ser−Ser−Glu−Gln−Leu−Ala−Gln−Phe−Arg−Ser−Leu−Asp(Bird et al., 1988, Science 242:423−426)が挙げられる。
【0127】
一実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、抗体の一部(例えば、免疫グロブリン「Fc領域」)、ならびに標準のもしくは天然の脂質付加部位を欠くように本明細書中で考察されるとおりに改変もしくは操作されているが、標準のおよび/もしくは非標準のWntシグナル伝達活性を保持するかもしくは該活性の増大を有する改変Wntポリペプチド(例えば、Wnt5aもしくはWnt7aポリペプチド)を含む。上記抗体のFc領域は、上記抗体のクラスに依存して、2つもしくは3つの定常ドメインを与える2つの重鎖から構成される。上記Fc領域は、免疫グロブリンのクラスのうちのいずれか(IgG、IgA、IgM、IgDおよびIgE)から得られ得る。いくつかの実施形態において、上記Fc領域は、野生型Fc領域である。いくつかの実施形態において、上記Fc領域は、変異したFc領域である。いくつかの実施形態において、上記Fc領域は、N末端において1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、もしくは10個のアミノ酸だけ短縮される(例えば、ヒンジドメインにおいて)。Fc領域を含む本発明のWnt融合ポリペプチドは、改善された生成および/もしくは精製効率を有し得る。
【0128】
一実施形態において、本発明のWnt融合ポリペプチドは、天然の脂質付加部位を欠くように改変されているが、非標準のWntシグナル伝達活性を保持するWnt7aポリペプチド、およびヒトIgG Fc領域を含む。具体的実施形態において、上記Wnt7aポリペプチドは、配列番号2の73位もしくは206位に対応するアミノ酸位置においてアミノ酸欠失、挿入、もしくは置換、およびヒトIgG Fc領域を含む。具体的実施形態において、上記Wnt7aポリペプチドは、配列番号2の73位および206位に対応するアミノ酸位置においてアミノ酸欠失、挿入、もしくは置換、およびヒトIgG Fc領域を含む。具体的実施形態において、上記Wnt7aポリペプチドは、配列番号2の73位もしくは206位に対応するアミノ酸位置においてアラニン、およびヒトIgG Fc領域を含む。一実施形態において、上記Wnt7aポリペプチドは、配列番号2の73位および206位に対応するアミノ酸位置においてアラニン、およびヒトIgG Fc領域を含む。
【0129】
Fc領域および改変された非標準のWntポリペプチド(例えば、Wnt5aもしくはWnt7a)を含む融合ポリペプチドは、天然もしくは異種シグナルペプチド、プロテアーゼ切断部位およびエピトープタグのうちの1つ以上もしくは全てをさらに含み得る。
【0130】
好ましい実施形態において、改変Wnt5aもしくはWnt7aポリペプチドの半減期、薬物動態特性、溶解度、および生成効率を改善するための方法は、Fc領域および/もしくはシグナルペプチド、ならびに標準のもしくは天然の脂質付加部位を欠くように本明細書で考察されるとおりに改変もしくは操作されているが、標準のおよび/もしくは非標準のWntシグナル伝達活性を保持するかもしくは該活性の増大を有するWnt5aもしくはWnt7aポリペプチドを有する融合ポリペプチドを、細胞において発現する工程を包含する。
【0131】
例えば、免疫グロブリンFc領域に融合された改変Wnt5aもしくはWnt7aポリペプチドは、増大した全身半減期、改善された薬物動態特性、溶解度および生成効率を有する。一実施形態において、Wntポリペプチドを抗体のFc部分に融合することは、上記融合ポリペプチドの薬物動態および薬力学特性を最適化する。例えば、上記ポリペプチドのFc部分は、上記ポリペプチドを分解から保護し得、上記ポリペプチドを循環中により長く保持する。一般に、ポリペプチド、融合ポリペプチド(ならびにそれらをコードするポリヌクレオチド)、および細胞は、単離される。「単離された」ポリペプチドもしくはポリヌクレオチドは、その本来の環境から取り出されているものである。例えば、「単離されたペプチド」もしくは「単離されたポリペプチド」などは、本明細書で使用される場合、ペプチドもしくはポリペプチド分子の、細胞環境からの、および細胞の他の成分との会合からの、インビトロでの単離および/もしくは精製に言及する(すなわち、それは、インビボでの物質と顕著に会合していない)。同様に、「単離されたポリヌクレオチド」とは、本明細書で使用される場合、天然に存在する状態において上記ポリヌクレオチドと隣接している配列から精製されたポリヌクレオチドに言及する(例えば、DNAフラグメントに通常隣接して存在する配列から取り出された上記フラグメント)。ポリヌクレオチドは、例えば、これが天然の環境の一部ではないベクターにクローニングされている場合に、単離されているとみなされる。「単離された細胞」とは、インビボの組織もしくは器官から得られていて、細胞外マトリクスを実質的に含まない細胞に言及する。好ましくは、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、もしくは細胞は、これらが少なくとも約60%純粋、少なくとも約70%純粋、少なくとも約80%純粋、少なくとも約90%純粋、より好ましくは、少なくとも約95%純粋、および最も好ましくは、少なくとも約99%純粋である場合に単離されている。
【0132】
本明細書で使用される場合、用語「〜から得られる」とは、サンプル(例えば、ポリヌクレオチドもしくはポリペプチド)が、特定の供給源(例えば、組換え宿主細胞)から単離されているかもしくはこれに由来することを意味する。別の実施形態において、用語「〜から得られる」とは、インビボでの組織もしくは器官のような供給源から単離されているかもしくはこれに由来する細胞に言及する。
【0133】
(ポリヌクレオチド)
本発明はまた、本発明のWntポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。種々の実施形態において、本発明は、一部、標準の脂質付加部位を欠いているが、Wnt生物学的活性を保持する、およびいくつかの実施形態においては、増大したWntシグナル伝達活性を有するポリペプチドをコードするWntポリヌクレオチドを企図する。特定の実施形態において、本発明のWntポリヌクレオチドは、幹細胞増殖を促進し、組織形成、再生、維持および修復を促進するWntポリペプチドをコードする。
【0134】
本発明のWntポリヌクレオチドは、Wntポリペプチドの臨床スケール生成のために、ならびにヒトにおける損傷および罹患した筋組織において修復および再生を増強するための方法において使用するために、適している。特定の実施形態において、Wntポリヌクレオチドは、上記Wntポリペプチドの脂質付加のための天然のアミノ酸のうちの1
個もしくはそれより多くを欠いているWntポリペプチドをコードする。ある特定の実施形態において、Wntポリヌクレオチドは、上記Wntポリペプチドの脂質付加のための天然のアミノ酸のうちの全てを欠いているWntポリペプチドをコードする。好ましい実施形態において、上記Wntポリヌクレオチドは、標準の脂質付加部位を欠いているが、Wnt生物学的活性を保持するかもしくは該活性の増大を有する非標準のWntポリペプチドをコードする。他の好ましい実施形態において、上記Wntポリヌクレオチドは、標準の脂質付加部位を欠いているが、Wnt生物学的活性(例えば、非標準のWntシグナル伝達活性)を保持するかもしくは該活性の増大を有するWnt5aもしくはWnt7aポリペプチドをコードする。
【0135】
核酸は、Caruthers et al., 1992, Methods in Enzymology 211, 3−19; Thompson et al.,国際PCT公開番号WO 99/54459; Wincott et al., 1995, Nucleic Acids Res. 23, 2677−2684; Wincott et al., 1997, Methods Mol. Bio., 74,
59−68; Brennan et al., 1998, Biotechnol
Bioeng., 61, 33−45;およびBrennan, 米国特許第6,001,311号に記載されるように、当該分野で公知のプロトコルを使用して合成され得る。
【0136】
「ヌクレオチド」とは、リン酸化糖とN−グリコシド結合した複素環式窒素塩基を意味する。ヌクレオチドは、天然の塩基(標準)、および当該分野で周知の改変塩基を含むことが、当該分野で認識されている。このような塩基は、一般に、ヌクレオチド糖部分の1’位に位置する。ヌクレオチドは、一般に、塩基、糖およびリン酸基を含む。上記ヌクレオチドは、上記糖、リン酸および/もしくは塩基部分において改変されていなくてもよいし、改変されていてもよい(また、ヌクレオチドアナログ、改変ヌクレオチド、非天然ヌクレオチド、非標準ヌクレオチドなどと交換可能に言及される(例えば、Usman and McSwiggen,前出; Eckstein et al.,国際PCT公開番号WO 92/07065; Usman et al., 国際PCT公開番号WO
93/15187; Uhlman & Peyman,前出を参照のこと))。当該分野で公知の改変核酸塩基のいくつかの例は、以下によってまとめられる:Limbach et al., (1994, Nucleic Acids Res. 22, 2183−2196)。
【0137】
本明細書で使用される場合、用語「DNA」および「ポリヌクレオチド」および「核酸」は、特定の種の総ゲノムDNAを含まずに単離されたDNA分子に言及する。従って、ポリペプチドをコードするDNAセグメントは、1種以上のコード配列を含み、上記DNAセグメントが得られる種の総ゲノムDNAからなお実質的に単離されているか、または総ゲノムDNAを含まずに精製されているDNAセグメントに言及する。用語「DNAセグメント」および「ポリヌクレオチド」内に含まれるのは、DNAセグメントおよびこのようなセグメントのより小さなフラグメント、さらに、組換えベクター(例えば、プラスミド、コスミド、ファージミド、ファージ、ウイルスなどが挙げられる)である。
【0138】
当業者に理解されるように、本発明のポリヌクレオチド配列は、ゲノム配列、ゲノム外配列、およびプラスミドコード配列、ならびにタンパク質、ポリペプチド、ペプチドなどを発現するか、または発現するように適合され得るより小さな操作された遺伝子セグメントを含み得る。このようなセグメントは、天然に単離されていてもよいし、組換えであってもよいし、人の手によって合成して改変されていてもよい。
【0139】
当業者に認識されるように、ポリヌクレオチドは、一本鎖(コードもしくはアンチセンス)であっても二本鎖であってもよく、DNA(ゲノム、cDNAもしくは合成)分子であっても、RNA分子であってもよい。さらなるコード配列もしくは非コード配列は、本発明のポリヌクレオチド内に存在していてもよいが、存在している必要はなく、ポリヌクレオチドは、他の分子および/もしくは支持物質に連結されていてもよいが、連結されている必要はない。
【0140】
ポリヌクレオチドは、天然の配列(すなわち、本発明のポリペプチドもしくはその一部をコードする内因性の配列)を含んでいてもよいし、改変体、またはこのような配列の生物学的機能の等価物を含んでいてもよい。ポリヌクレオチド改変体は、本明細書中他の箇所で記載されるように、1
個もしくはそれより多い置換、付加、欠失および/もしくは挿入を含んでいてもよく、好ましくは、その結果として上記改変体は、標準の脂質付加部位を欠いているが、生物学的活性(例えば、経路シグナル伝達活性)を保持し、いくつかの実施形態において、該活性の増大を有するポリペプチドをコードする。
【0141】
本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドもまた、含まれる。「ストリンジェントな条件」下でハイブリダイズするとは、互いに対して少なくとも60%同一なヌクレオチド配列がハイブリダイズを保つハイブリダイゼーションプロトコルを記載する。高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は、プローブ、プライマーもしくはオリゴヌクレオチドをその標的配列にのみハイブリダイズさせ得る条件である。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、異なる。中程度にストリンジェントな条件は、ポリヌクレオチドが、本発明の核酸の全体、フラグメント、誘導体もしくはアナログにハイブリダイズするように、高ストリンジェンシーのためのものよりはストリンジェントでない洗浄溶液およびハイブリダイゼーション条件を使用する条件である(Sambrook, 1989)。中程度にストリンジェントな条件は、以下に記載される(Ausubel et al., 1987; Kriegler, 1990)。低ストリンジェントな条件は、ポリヌクレオチドが、本発明の核酸の全体、フラグメント、誘導体もしくはアナログにハイブリダイズするように、中程度のストリンジェンシーのためのものよりはストリンジェントでない洗浄溶液およびハイブリダイゼーション条件を使用する条件である(Sambrook, 1989)。低ストリンジェンシーの条件(例えば、種交叉ハイブリダイゼーションのための条件)は、以下に記載される(Ausubel et al., 1987; Kriegler, 1990; Shilo and Weinberg, 1981)。
【0142】
さらなる実施形態において、本発明は、本明細書に記載されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに同一もしくは相補的な配列の連続する範囲の種々の長さを含む単離されたポリヌクレオチドを提供する。例えば、本発明によって提供されるポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドの少なくとも約50個、100個、150個、200個、250個、300個、もしくは約350個もしくはこれ以上の連続するアミノ酸残基、ならびに全ての中間の長さをコードする。「中間の長さ」とは、この状況において、引用された値の間の任意の長さ(例えば、56個、57個、58個、59個など、101個、102個、103個など;151個、152個、153個など;201個、202個、203個など)を意味することは、容易に理解される。
【0143】
遺伝コードの縮重の結果として、本明細書に記載されるポリペプチドをコードする多くのヌクレオチド配列が存在する(ヒトおよび/もしくは霊長類のコドン選択のために最適化されているポリヌクレオチドが挙げられる)ことは、当業者によって認識される。さらに、本明細書に提供されるポリヌクレオチド配列を含む遺伝子の対立遺伝子もまた、使用され得る。
【0144】
本発明のポリヌクレオチド組成物は、種々の十分に確立された技術のうちのいずれかを使用して、同定、調製および/もしくは操作され得る(一般に、Sambrook et
al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories, Cold Spring Harbor, NY, 1989,および他の類似の参考文献を参照のこと)。
【0145】
種々の発現ベクター/宿主系が公知であり、ポリヌクレオチド配列を含み、発現するために利用され得る。これらとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:微生物(例えば、組換えバクテリオファージ、プラスミドもしくはコスミドDNA発現ベクターで形質転換される細菌);酵母発現ベクターで形質転換される酵母;ウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)に感染させられる昆虫細胞系;ウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイク・ウイルス、CaMV;タバコ・モザイクウイルス、TMV)もしくは細菌発現ベクター(例えば、TiもしくはpBR322プラスミド)で形質転換される植物細胞系;または動物細胞系。
【0146】
本明細書で使用される場合、用語「制御エレメント」もしくは「調節配列」とは、ベクターの非翻訳領域であり(例えば、エンハンサー、プロモーター、5’非翻訳領域および3’非翻訳領域)、転写および翻訳を行うために宿主細胞タンパク質と相互作用する、発現ベクターに存在する配列に言及する。このようなエレメントは、それらの強度および特異性が様々であり得る。利用されるベクター系および宿主に依存して、適切な転写および翻訳エレメント(構成性および誘導性のプロモーターを含む)の任意の数が、使用され得る。例えば、細菌系にクローニングする場合、誘導性プロモーター(例えば、PBLUESCRIPTファージミド(Stratagene, La Jolla, Calif.)もしくはPSPORT1プラスミド(Gibco BRL, Gaithersburg, Md.)、pETプラスミド(Novagen)などのハイブリッドlacZプロモーター)が使用され得る。ベクター成分としては、一般に、以下のうちの1種以上が挙げられるが、これらに限定されない:シグナル配列、複製起点、1種以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、宿主生物によって認識されるプロモーター、および転写終結配列。特異的な開始シグナルもまた、目的のポリペプチドをコードする配列のより効率的な翻訳を達成するために使用され得る。
【0147】
酵母であるSaccharomyces cerevisiaeにおいては、多くのベクター(構成性プロモーターもしくは誘導性プロモーターを含む(例えば、α因子、アルコールオキシダーゼ、およびPGH))が、使用され得る。Pichia pandoris発現系もまた含まれる(例えば、Li et al., Nature Biotechnology. 24, 210 − 215, 2006;およびHamilton et al., Science, 301:1244, 2003を参照のこと)。
【0148】
植物発現ベクターが使用される場合において、ウイルスプロモーター(例えば、CaMVの35Sプロモーターおよび19Sプロモーター)は、単独で、もしくはTMVに由来するωリーダー配列と組み合わせて使用され得る(Takamatsu, EMBO J. 6:307−311 (1987))。これら構築物は、直接的DNA形質転換もしくは病原体媒介性トランスフェクションによって、植物細胞へと導入され得る。
【0149】
昆虫系はまた、目的のポリペプチドを発現するために使用され得る。例示的バキュロウイルス発現系としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:SF9、SF21、およびTni細胞を利用するもの(例えば、Murphy and Piwnica−Worms, Curr Protoc Protein Sci. Chapter 5:Unit5.4, 2001を参照のこと)。
【0150】
哺乳動物宿主細胞において、多くのウイルスベースの発現系が、一般に、利用可能である。さらに、転写エンハンサー(例えば、ラウス肉腫ウイルス(RSV)エンハンサー)は、哺乳動物宿主細胞において発現を増大させるために使用され得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の例としては、以下が挙げられる:COS−7細胞、293もしくは293T細胞、BHK細胞、VERO−76細胞、HELA細胞、およびCHO細胞(DHFR−CHO細胞を含む)。哺乳動物発現系は、接着細胞株(例えば、Tフラスコ、ローラーボトル、もしくは細胞工場において)または懸濁培養物(例えば、当該分野で公知のものの中で、1Lおよび5Lのスピナー、5L、14L、40L、100Lおよび200Lの撹拌タンクバイオリアクター、または20/50Lおよび100/200L WAVEバイオリアクター)を利用し得る。
【0151】
タンパク質の無細胞発現もまた、含まれる。これらおよび関連の実施形態は、代表的には、精製RNAポリメラーゼ、リボソーム、tRNAおよびリボヌクレオチドを利用し;これら試薬は、細胞からもしくは細胞ベースの発現系からの抽出によって生成され得る。
【0152】
特定の実施形態において、本発明のポリペプチドは、細菌から発現および精製される。例示的な細菌発現ベクターとしては、以下が挙げられる:BLUESCRIPT(Stratagene);pINベクター(Van Heeke & Schuster, J.Biol. Chem. 264:5503 5509 (1989));およびp
GEXベクター(Promega, Madison, Wis.)(これらは、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として外来ポリペプチドを発現するために使用され得る)。特定の実施形態は、E.coliベースの発現系を使用し得る。
【0153】
具体的実施形態において、タンパク質発現は、T7 RNAポリメラーゼ(例えば、pETベクターシリーズ)によって制御され得る。これらおよび関連の実施形態は、発現宿主株BL21(DE3)(BL21のλDE3溶原)(これは、T7媒介性発現を支持し、改善された標的タンパク質安定性のためにlonおよびompTプロテアーゼが欠損している)を利用し得る。E.coliにおいて希に使用されるtRNAをコードするプラスミドを有する発現宿主株(例えば、Rosetta
TM(DE3)およびRosetta 2(DE3)株)もまた、含まれる。細胞溶解およびサンプル取り扱いはまた、Benzonase(登録商標)ヌクレアーゼおよびBugBuster(登録商標)タンパク質抽出試薬のような試薬を使用して、改善され得る。細胞培養について、自己誘導培地(auto−inducing media)は、多くの発現系(ハイスループット発現系を含む)の効率を改善し得る。このタイプの培地(例えば、Overnight Express
TM Autoinduction System)は、人工的誘導因子(例えば、IPTG)の添加なしに、代謝シフトを介してタンパク質発現を徐々に誘発する。特定の実施形態は、寒冷ショック誘導性E.coli高収量生成系を使用し得る。なぜなら、低温でのEscherichia coliにおけるタンパク質の過剰発現は、それらの溶解度および安定性を改善するからである(例えば、Qing et al., Nature Biotechnology. 22:877−882, 2004を参照のこと)。
【0154】
組換え細胞によって生成されるタンパク質は、種々の技術に従って精製および特徴付けされ得る。タンパク質精製を行い、タンパク質純度を分析するための例示的システムとしては、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)(例えば、AKTAおよびBio−Rad FPLCシステム)、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)(例えば、BeckmanおよびWaters HPLC)が挙げられる。精製の例示的な化学としては、以下が挙げられる:当該分野で公知のものの中で、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、Q、S)、サイズ排除クロマトグラフィー、塩勾配、アフィニティー精製(例えば、Ni、Co、FLAG、マルトース、グルタチオン、プロテインA/G)、ゲル濾過、逆相、セラミックHyperD(登録商標)イオン交換クロマトグラフィー、および疎水性相互作用カラム(HIC)。SDS−PAGE(例えば、クーマシー、銀染色)、イムノブロット、Bradford、およびELISA(これらは、代表的には、上記タンパク質組成物の純度を測定するために、上記生成もしくは精製プロセスの任意の工程の間に利用され得る)のような分析法もまた、含まれる。
【0155】
特定の実施形態において、臨床グレードのタンパク質は、E.coli封入体から単離され得る。特定の実施形態において、本発明は、本明細書中他の箇所で記載されるように、治療的使用に適している組換えWntポリペプチドを生成するための方法を企図する。
【0156】
一実施形態において、組換えWntポリペプチドを生成するための方法は、以下の工程のうちの1つ以上を包含する:i)宿主におけるWntポリヌクレオチドの発現;ii)上記宿主細胞を培養して、上記Wntポリペプチドを封入体として発現する工程;iii)上記封入体を洗浄する1回以上の工程;iv)上記ポリペプチドを可溶化する工程;v)上記ポリペプチドを再度折りたたむ(refolding)工程;vi)上記ポリペプチドを精製する工程;およびvii)上記ポリペプチドを所望の緩衝液中で透析する工程。
【0157】
特定の実施形態において、Wntポリヌクレオチド配列は、細菌宿主における発現のためにコドン最適化される。
【0158】
組換え生成法に加えて、本発明のポリペプチド、およびそのフラグメントは、固相技術を使用する直接ペプチド合成によって生成され得る(Merrifield, J. Am. Chem. Soc. 85:2149−2154 (1963))。タンパク質合成は、手動の技術を使用して、もしくは自動化技術によって、行われ得る。自動化合成は、例えば、Applied Biosystems 431A Peptide Synthesizer(Perkin Elmer)を使用して達成され得る。あるいは、種々のフラグメントは、別個に化学合成され、全長分子を生成するために化学的方法を使用して組み合わされてもよい。
【0159】
(組成物)
種々の実施形態において、本発明は、一部、Wntポリペプチドおよびこれをコードするポリヌクレオチドの新規な組成物を企図する。本明細書中他の箇所で考察されるように、Wntの治療的使用への大きな制限もしくは障害のうちの1つは、それらの低い溶解度であり、このことは、臨床スケールで生成することを実行不能にする。本発明者らは、増大した溶解度、安定性を有し、天然に存在するWntと比較して、Wnt生物学的活性を保持するかもしくは該活性の増大を有する新規なWntポリペプチドを操作して作った。特定の実施形態において、本発明は、幹細胞増殖および筋肥大を促進し、組織形成、再生、維持および修復を促進するために、可溶性Wntポリペプチドの水性処方物を提供する。特定の実施形態において、本発明は、幹細胞増殖および筋肥大を促進し、組織形成、再生、維持および修復を促進するために、可溶性Wntポリペプチドの水性処方物を提供し、ここで界面活性剤は、上記処方物に実質的に存在しない。
【0160】
本発明の組成物は、本明細書に記載されるように、1種以上のポリペプチド、ポリヌクレオチド、上記を含むベクターなど、ならびに1種以上の薬学的に受容可能な塩もしくはキャリアおよび/または細胞もしくは動物への生理学的に受容可能な投与用の溶液を、単独で、または1種以上の他の治療の様式と組み合わせてのいずれかで、含み得る。所望であれば、本発明の組成物は、他の薬剤との組み合わせにおいて(例えば、他のタンパク質、ポリペプチド、低分子もしくは種々の薬学的に活性な因子)投与され得ることもまた、理解される。また、上記組成物に含まれ得る他の成分には実質的に限定はないが、ただし、上記さらなる因子は、上記Wnt組成物の治療能力(例えば、上記組成物が筋肥大を促進し、組織形成、再生、維持および修復を促進する能力)に有害な影響を及ぼさない。
【0161】
薬学的に受容可能な塩としては、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基とともに形成される)および無機酸(例えば、塩酸もしくはリン酸)または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸とともに形成されるものが挙げられる。遊離カルボキシル基とともに形成される塩はまた、無機塩基(例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、もしくは鉄の水酸化物)、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基から得られ得る。
【0162】
特定の状況において、例えば、米国特許第5,543,158号;同第5,641,515号および同第5,399,363号(各々、その全体において本明細書に参考として具体的に援用される)に記載されるように、本明細書で開示される組成物を、非経口的に、脈管内に(例えば、静脈内もしくは動脈内に)、筋肉内に、またはさらに腹腔内に送達することは望ましいことであり得る。
【0163】
本明細書で使用される場合、「キャリア」とは、任意のおよび全ての溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング、希釈剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤、緩衝化剤、キャリア溶液、懸濁物、コロイドなどを含む。このような媒体および薬学的に活性な物質のための因子の使用は、当該分野で周知である。任意の従来の媒体もしくは因子が上記活性成分と不適合である範囲を除いて、上記治療的組成物におけるその使用が予期される。補助的な活性成分はまた、上記組成物に組み込まれ得る。
【0164】
語句「薬学的に受容可能な」とは、ヒトに投与される場合、アレルギー性反応も類似の都合の悪い反応も生じない、分子実体および組成物に言及する。活性成分としてタンパク質を含む水性組成物の調製は、当該分野で十分に理解されている。代表的には、このような組成物は、注射物(液体溶液もしくは懸濁物としてのいずれか)として調製される;注射の前に液体に溶解するか、もしくは懸濁物にするために適した固体形態もまた、調製され得る。
【0165】
特定の実施形態において、上記組成物は、鼻内スプレー、吸入、および/もしくは他のエアロゾル送達ビヒクルによって送達され得る。遺伝子、ポリヌクレオチド、およびペプチド組成物を、鼻のエアロゾルスプレーを介して肺に直接送達するための方法は、例えば、米国特許第5,756,353号および同第5,804,212号(各々、その全体において本明細書に参考として具体的に援用される)に記載されている。同様に、鼻内微粒子樹脂(Takenaga et al., 1998)およびリゾホスファチジル−グリセロール化合物(米国特許第5,725,871号(その全体において本明細書に参考として具体的に援用される))を使用する薬物の送達もまた、薬学分野において周知である。同様に、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroetheylene)支持マトリクスの形態における経粘膜薬物送達は、米国特許第5,780,045号(その全体において本明細書に参考として具体的に援用される)に記載されている。本発明の特定の実施形態は、他の処方物(例えば、薬学分野において周知であるもの)を含み得、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition. Baltimore, MD: Lippincott Williams & Wilkins, 2000において記載されている。
【0166】
(送達方法)
一実施形態において、細胞(例えば、サテライト幹細胞のような幹細胞)は、1種以上の本発明のWntポリペプチドおよび/もしくはポリヌクレオチドを含む組成物と接触させられる。本発明の細胞は、インビトロ、エキソビボ、もしくはインビボで接触させられ得ることが企図される。他の実施形態において、本発明のWnt組成物は、被験体に投与される。
【0167】
本発明の組成物は、上記被験体に直接投与され得るか(タンパク質/ポリペプチドとして、もしくは遺伝子治療のための発現ベクターの状況において)、またはエキソビボで、上記被験体に由来する細胞に送達され得る(例えば、エキソビボ遺伝子治療におけるように)。上記組成物の直接的なインビボ送達は、一般に、非経口注射によって(例えば、皮下に、腹腔内に、静脈内に、心筋に、腫瘍内に、腫瘍周囲に、もしくは組織の間質空間に)達成される。他の投与様式としては、経口投与および肺投与、坐剤、ならびに経皮適用、ニードル、および遺伝子銃もしくはハイポスプレーが挙げられる。
【0168】
本発明の組成物はまた、組織(例えば、筋)への直接注射によって投与され得る。本発明のいくつかの実施形態において、本発明の組成物は、上記組成物を、注射した筋における筋喪失を防止するか、または上記注射した筋の再生もしくは修復を促進するために(例えば、上記注射した筋の筋細胞の増殖もしくは肥大を促進することによって)、筋組織へ直接注射することによって、投与され得る。
【0169】
一般に、エキソビボおよびインビトロ適用の両方のための核酸の送達は、例えば、デキストラン媒介性トランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ポリブレン媒介性トランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、リポソーム中の上記ポリヌクレオチドの被包、上記DNAの、核への直接マイクロインジェクション、およびウイルス媒介性(例えば、アデノウイルス(およびアデノ随伴ウイルス)もしくはアルファウイルス)によって達成され得、全て当該分野で周知である。
【0170】
特定の実施形態において、1種以上の改変Wntを、ウイルスベクターもしくは他のインビボポリヌクレオチド送達技術を使用して送達することは、好ましい。好ましい実施形態において、上記ウイルスベクターは、非組み込みベクターもしくはトランスポゾンベースのベクターである。これは、種々の周知のアプローチのうちのいずれか(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を含むベクター)を使用して、または発現構築物として他のウイルスベクター(ワクシニア・ウイルス、ポリオウイルスおよびヘルペスウイルスが挙げられるが、これらに限定されない)を使用して、達成され得る。
【0171】
非ウイルス法もまた、本発明のポリヌクレオチドを投与するために使用され得る。一実施形態において、ポリヌクレオチドは、マイクロインジェクションを介して細胞に、もしくは注射を介して組織に(例えば、Dubensky et al., (1984) もしくはBenvenisty & Reshef (1986)に記載される技術を使用することによって)、直接投与され得る。目的の遺伝子をコードするDNAはまた、インビボで類似の様式において移入され得、上記遺伝子生成物を発現し得ることは、想定される。
【0172】
裸のDNA発現構築物を細胞へ移入するための本発明の別の実施形態は、粒子ボンバードメントを伴い得る。この方法は、DNAコート微粒子を高速へと加速して、細胞膜を貫通し、細胞を死滅させることなく細胞に入れることを可能にする能力に依存する(Klein et al., 1987)。別の実施形態において、ポリヌクレオチドは、エレクトロポレーションを介して細胞へ投与される。
【0173】
(処置方法)
本発明の改変Wntポリペプチドおよび組成物は、種々の治療適用に有用である。例えば、本明細書に記載される組成物および方法は、必要な被験体における組織形成、再生、修復もしくは維持を促進するために有用である。
【0174】
本発明のWnt組成物に関していくつかの関連する治療適用としては、筋肉喪失を防止するか、または失われたもしくは損傷した筋組織を、筋肉のサイズ、体積もしくは強度を増大させることによって再生する必要がある状況が挙げられる。このような状況は、例えば、化学療法もしくは放射線療法の後、筋肉損傷の後、または筋肉に影響を及ぼす疾患および状態の処置もしくは管理において、が挙げられ得る。特定の実施形態において、上記筋肉に影響を及ぼす疾患もしくは状態としては、消耗性疾患、例えば、悪液質(これは、がんもしくはAIDSのような病気と関連し得る)、筋減衰もしくは萎縮症、または筋変性疾患が挙げられ得る。筋減衰および萎縮症は、例えば、サルコペニア(加齢性サルコペニアが挙げられる)、ICU誘導性虚弱、筋肉の不使用(例えば、昏睡、麻痺、傷害、もしくは固定に起因する筋肉の不使用)、手術誘導性虚弱(例えば、股関節置換もしくは膝関節置換の後)、または筋変性疾患(例えば、筋ジストロフィー)と関連し得る。この列挙は、網羅的ではない。
【0175】
特定の実施形態において、本発明のポリペプチドおよび組成物は、筋肉サテライト細胞の対称性の増殖を刺激し、それによって、筋組織における常在のサテライト細胞、もしくはコミットメントされた前駆細胞の割合を増大させるために、使用され得る。上記ポリペプチドおよび組成物はまた、筋肥大を(例えば、個々の筋線維のサイズを増大させることによって)促進するために使用され得る。本発明のポリペプチドおよび組成物は、従って、筋細胞の数および筋細胞のサイズの両方を増大させ得、結果として、例えば、損傷したもしくは欠損した組織を置換するか、または筋萎縮症もしくは筋質量の喪失を防止するために、特に、筋肉に影響を及ぼす疾患および障害(例えば、筋ジストロフィー、神経筋疾患および神経変性疾患、筋消耗性疾患および状態、萎縮症、心血管疾患、脳卒中、心不全、心筋梗塞、がん、HIV感染、AIDSなど)に関連して、有用であり得る。
【0176】
さらなる実施形態において、上記組成物および方法は、機能不全の骨格筋(例えば、筋変性疾患を有する被験体において)を修復もしくは再生するために有用である。上記被験体は、骨格筋損傷、変性もしくは萎縮症を有すると疑われる得か、これらを有するリスクがあり得る。上記骨格筋損傷は、疾患に関連してもよいし、疾患に関連していなくてもよい。上記ヒト被験体は、筋変性もしくは筋消耗を有し得るか、またはこれらを有するリスクがあり得る。上記筋変性もしくは筋消耗は、全体として、もしくは一部は、疾患(例えば、aids、がん、筋変性疾患、もしくはこれらの組み合わせ)によって引き起こされ得る。
【0177】
筋ジストロフィーの例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、筋強直性ジストロフィー(スタイナート病としても公知)、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSH)、先天性筋ジストロフィー、眼咽頭型筋ジストロフィー(OPMD)、遠位型筋ジストロフィーおよびエメリー・ドレフュス型筋ジストロフィー。例えば、Hoffman et al., N. Engl. J. Med., 318.1363−1368 (1988); Bonnemann, C. G. et al., Curr. Opin. Ped., 8: 569−582 (1996); Worton, R., Science, 270: 755−756 (1995); Funakoshi, M. et al., Neuromuscul.
Discord., 9 (2): 108−114 (1999); Lim, L. E. and Campbell, K. P., Cure. Opin. Neurol., 11 (5): 443−452 (1998); Voit, T.,
Brain Dev., 20 (2): 65−74 (1998); Brown, R. H., Annu. Rev. Med., 48: 457−466 (1997); Fisher, J. and Upadhyaya, M., Neuromuscul. Disord., 7 (1): 55−62 (1997)を参照のこと。
【0178】
特定の実施形態において、必要な被験体における筋肉の筋形成、維持、修復、もしくは再生を促進するための医薬の製造のための、本明細書に記載される組成物の使用が、提供される。特定の実施形態において、本明細書に記載される組成物は、必要な被験体における筋肉の筋形成、維持、修復、もしくは再生を促進するための医薬の製造における使用のために提供される。上記Wntポリペプチドは、筋萎縮症を(例えば、筋線維のサイズもしくは数を増大させることによって)予防もしくは処置するために使用され得る。
【0179】
上記組成物は、有効量(例えば、治療上有効な量)において投与され得る。ヒトおよび非ヒト被験体のインビボ処置のために、上記被験体は、本発明の1種以上の改変Wntポリペプチドの有効量を含む組成物を通常投与される。「有効量」とは、所望の治療効果もしくは予防結果を達成するために有効な量(必要な投薬においておよび期間にわたって)に言及する。
【0180】
本発明のWntポリペプチド、もしくは上記を含む組成物の「治療上有効な量」は、上記個体の疾患状態、年齢、性別、および体重、ならびにWntポリペプチドが上記個体において所望の応答を誘発する能力のような要因に従って変動し得る。治療上有効な量はまた、Wntポリペプチドの任意の毒性効果、有害効果に、治療上有益な効果が勝っている量である。用語「治療上有効な量」とは、哺乳動物(例えば、患者)における疾患もしくは傷害を「処置する」ために有効であるWntポリペプチドもしくはこれを含む組成物の量に言及する。
【0181】
「予防上有効な量」とは、所望の予防結果を達成するために有効な量(必要な投薬においておよび期間にわたって)に言及する。代表的には(しかし必ずしもそうとは限らない)、予防的用量は、疾患の前もしくは疾患の初期段階において被験体において使用されるので、上記予防上有効な量は、上記治療上有効な量より少ない。
【0182】
種々の実施形態において、本発明は、未処理の幹細胞集団と比較して、成体幹細胞(例えば、サテライト幹細胞)の分裂対称性を増大させるための方法を提供する。本明細書で開示される方法は、さらに、幹細胞分裂の速度を変化させることなく、対称性の幹細胞分裂を促進し得、幹細胞の集団の生存を促進し得る。上記方法は、インビトロ、エキソビボ、もしくはインビボで行われ得る。
【0183】
特定の実施形態において、1種以上の改変Wntポリペプチドおよび/もしくはポリヌクレオチドを含む組成物は、必要な被験体にインビボで投与される。本明細書で使用される場合、用語「被験体」としては、哺乳動物(例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、ヒヒ、オランウータン、サル)、マウス、ブタ、ウシ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター、ウマ、サル、ヒツジ、もしくは他の非ヒト哺乳動物が挙げられる);非哺乳動物(例えば、非哺乳動物である脊椎動物、例えば、トリ(例えば、ニワトリもしくはアヒル)もしくは魚類、および非哺乳動物である非脊椎動物が挙げられる)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、上記被験体は、ヒトである。疾患もしくは状態の処置が必要な被験体としては、このような疾患もしくは状態の症状を示す被験体(例えば、疾患もしくは状態を有するもの)、ならびに疾患もしくは状態を有するリスクのあるものが挙げられる。
【0184】
特定の実施形態において、サテライト幹細胞の集団をインビボ、エキソビボ、もしくはインビトロで増殖させるための方法は、上記幹細胞と、改変された非標準のWntポリペプチドもしくはこのような改変された非標準のWntポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組成物の有効量とを接触させる工程を包含する。特定の実施形態において、上記非標準のWntは、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、およびWnt11からなる群より選択される。好ましい実施形態において、上記Wntポリペプチドは、Wntレセプターに結合し活性化する、Wnt5aもしくはWnt7aポリペプチド、またはその活性なフラグメントもしくは改変体、またはそのオルソログ、パラログ、もしくはホモログである。
【0185】
いかなる特定の理論にも拘束されないが、組織中のサテライト細胞の数を増大させることは、上記組織の増強された再生能力を提供することであると考えられる。
【0186】
特定の実施形態において、幹細胞は、単離されるかもしくは維持され、エキソビボもしくはインビトロで増殖させられ、その後、必要な被験体に投与される。例えば、幹細胞は、エキソビボもしくはインビトロで培養および増殖させられ得、有効量の本発明のWnt組成物と接触させられ得、次いで、治療的幹細胞組成物として、当業者に公知の方法に従って、患者に投与され得る。特定の実施形態において、上記増殖させられた幹細胞集団は、治療的Wnt組成物と組み合わせて、上記患者に投与される。
【0187】
上記幹細胞増殖を促進するための方法は、幹細胞のエキソビボもしくはインビトロでの増殖を刺激し、それによって、必要な被験体への移植もしくは投与に適した細胞集団を提供するために使用され得る。
【0188】
尿自制のいくつかの形態において、機能不全の筋肉は、例えば、上記筋への直接タンパク質注射によって、本発明の組成物もしくは方法で処置され得る。従って、一実施形態において、上記方法は、尿失禁を処置するために有用である。
【0189】
さらなる実施形態において、損傷したかもしくは機能不全の筋組織は、心筋であり得る。例えば、上記損傷した筋組織は、心血管事象(例えば、心筋梗塞、もしくは心不全)によって損傷を受けた心筋であり得る。ここで上記標的幹細胞は、心臓幹細胞である。本発明の別の局面によれば、哺乳動物において心臓幹細胞増殖もしくは心筋肥大を促進するための方法が提供され、上記方法は、本明細書に記載される組成物の有効量を、上記哺乳動物に投与する工程を包含する。
【0190】
さらに、移植物中で幹細胞を使用することに加えて、幹細胞、もしくは幹細胞を含む組成物は、研究ツールとして、および/または診断アッセイもしくはキットの一部として使用され得る。限定されることは望まないが、キットは、筋幹細胞、1種以上の改変Wntポリペプチド、細胞培養もしくは増殖培地、細胞低温保存培地、1種以上の薬学的に受容可能な送達媒体、1種以上の改変Wntポリヌクレオチド配列もしくは遺伝子構築物、細胞を必要な被験体に移植もしくは送達するための1種以上のデバイス、本明細書に記載されるように、上記細胞を使用、送達、移植、培養、低温保存する、またはこれらの任意の組み合わせのための説明書を含み得る。
【0191】
細胞増殖および/もしくは筋肥大のインジケーターは、定性的にもしくは定量的にモニターされ得、上記インジケーターとしては、以下が挙げられる:例えば、肉眼による形態、総細胞数、組織学、組織化学もしくは免疫組織化学、または特定の細胞マーカーの存在、非存在もしくは相対的レベルの変化。細胞マーカーの存在、非存在もしくは相対的レベルは、例えば、組織化学的技術、免疫学的技術、電気泳動、ウェスタンブロット分析、FACS分析、フローサイトメトリーなどによって分析され得る。あるいは、上記細胞マーカータンパク質をコードする遺伝子から発現されるmRNAの存在が、例えば、PCR技術、ノーザンブロット分析、適切なオリゴヌクレオチドプローブの使用などを使用して、検出され得る。
【0192】
本明細書に引用される全ての刊行物、特許出願、および発行された特許は、各個々の刊行物、特許出願もしくは発行された特許が、参考として援用されることが具体的にかつ個々に示されているかのように、本明細書に参考として援用される。
【0193】
前述の発明は、理解の明瞭さを目的として図示および例示によって、いくぶん詳細に記載されてきたものの、本発明の教示に鑑みれば、特定の変化および改変が、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく本発明に対して行われ得ることは、当業者に容易に明らかである。以下の実施例は、例示としてのみ提供されるのであり、限定として提供されるのではない。当業者は、本質的に類似の結果を得るために、変更もしくは改変され得る種々の重要でないパラメーターを容易に認識する。
【実施例】
【0194】
(実施例1:WNTポリペプチドは、翻訳後修飾のための保存された部位を有する)
Wntタンパク質は、細胞生存、増殖、分裂および移動に関与する分泌型シグナル伝達タンパク質である。Wntは、胚発生および成体にける組織再生の間の効率的な組織パターン形成のために必要とされる。特定のWntタンパク質は、サテライト幹細胞の対称性増殖および筋線維肥大の刺激を介して骨格筋再生を駆動する。
【0195】
19種のヒトWntが既に同定されており、相同性の不連続な領域に基づいてグループ分けされている。上記Wntタンパク質は、グリコシル化および脂質付加の両方を含む、複雑な翻訳後修飾を有する。タンパク質グリコシル化は、効率的なタンパク質折りたたみおよび分泌に必要とされる。
図1は、19種全てのヒトWntポリペプチドのアラインメントである。グリコシル化もしくは脂質付加のいずれかによって修飾されるアミノ酸残基は、十分に保存されている(陰影を付けた残基を参照のこと)。さらに、これら同じ残基が、
図2および
図11におけるWnt7aポリペプチドのアラインメントから認められ得るように、種にわたって保存されている。脂質付加は、成熟した分泌型タンパク質を形質膜に固定する;上記Wntをそのfrizzledレセプターへと効率的に局在化させることによって、効率的な活性に必要とされると歴史的に考えられてきた。これが理由で、Wntは、完全に全身的な増殖因子/サイトカインではなく、オートクリンもしくは局所的パラクリンシグナル伝達分子であると考えられている。
【0196】
本明細書中他の箇所で記載されるように、タンパク質脂質付加は、全てのWntポリペプチドの活性についての必要条件ではない。野生型Wnt(wtWnt)配列(例えば、Wnt7a、配列番号2)における脂質付加されるシステインもしくはセリン残基の選択的変異を、非脂質付加アラニン残基で置換した。Wnt7aの具体例において、73位にあるシステイン残基および/もしくは206位にあるセリン残基を、アラニン残基へと変異させた。このことは、配列番号3〜5に列挙した配列を含むタンパク質を生じ、これらは、上記変異した残基において翻訳後脂質付加を欠いていた。
【0197】
(実施例2:非標準のWntは、筋芽細胞肥大を誘導する)
Wntポリペプチドは、frizzledレセプターおよび共レセプターを介してシグナル伝達して、いくつかの細胞内経路を刺激する。Wntは、一般に、「標準の」もしくは「非標準の」シグナル伝達分子のいずれかとして分類され、ここで標準のシグナル伝達は、タンパク質β−カテニンの核局在化およびその後の標的遺伝子の発現を生じる。非標準のシグナル伝達は、一般に、β−カテニンの核局在化を直接的に伴わないWntの細胞機能(例えば、平面内細胞極性(PCP)もしくはカルシウム/PLC/PKC経路の活性化)を含む。標準のおよび非標準の経路活性化のためのレセプターおよび共レセプターは、異なっている;上記標準のシグナル伝達経路は、上記共レセプターLRPに対して依存性を示す。Wnt7aは、非標準のシグナル伝達分子であり、上記PCP経路の活性化を介して筋肉サテライト幹細胞の対称性増殖を駆動することが示されてきた(Le Grand et al., Wnt7a activates the planar cell polarity pathway to drive the symmetric expansion of satellite Stem Cells. Cell Stem Cell 4, 535−547, 2009)。より最近になって、Wnt7aは、潜在的に、上記PI3−Kinase/mTOR経路のGプロテイン依存性活性化を介して、培養物中において筋芽細胞の肥大を駆動することが示された(Julia von Maltzahn, C. Florian BentzingerおよびMichael A. Rudnicki, Nature Cell Biology, Dec. 11, 2011; epub)。
【0198】
いくつかのWntポリペプチドが筋芽細胞の肥大を誘導する能力を試験した。最初に試験した上記Wntポリペプチドを、R&D systemsから得、標準の(Wnt3a)および非標準の(Wnt5aおよびWnt7a)シグナル伝達ポリペプチドの代表とした。
図3に示されるように、緩衝液コントロールもしくは標準のWntポリペプチドWnt3aは、筋芽細胞肥大効果を有しなかった一方で、非標準のWntポリペプチド(Wnt7aおよびWnt5a)はともに、インビトロで有意な筋芽細胞肥大効果を生じた。
【0199】
(方法)
C2C12マウス筋芽細胞をATCC(#CRL−1772)から得、ゼラチンコートした組織培養プレート上で、DMEM(MediaTech #10−017−CV)培地(10% 50 FBSを補充)中で増殖させた。上記細胞は、上記実験の間中、20%コンフルエントに満たないままであった。96ウェル組織培養プレートを、0.1% ゼラチンで少なくとも15分間にわたって室温(RT)においてコートし、2,000細胞(0.2mLの増殖培地中)を、上記96ウェルプレートの各ウェルに入れた。次いで、上記プレートを、24時間にわたって37℃でインキュベートした。翌日、上記培地を吸引し、DMEM(MediaTech #10−017−CV)(2% ウマ血清(Fisher, Hyclone SH30074)を補充)を有する0.2mLの分化培地と交換した。分化の3日後、Wntポリペプチド(rhWnt7a #3008−WN/CF、rhWnt3a #5036−WN/CFもしくはrhWnt5a #645−WN/CF(R&D systemsから))を、上記細胞培養物に添加し、さらに2日間にわたってインキュベートした。
【0200】
上記細胞を固定し、洗浄し、透過化し、ミオシンスロウおよびファストミオシン抗体(Sigma # M4276−.2ML、Sigma # M8421−.2ML)で染色した。細胞を可視化した;筋線維直径を、1回の実験あたり100線維について計算した;3回の独立した生物学的複製物からのデータを、1処置群あたり合計300のデータ点について集めた。各生物学的複製群のメジアン線維直径を、
図3に示す。各群について上記3つの生物学的複製物にわたるメジアンの平均は、17.5μm(培地単独に関して)、18.8μm(Wnt3a)、27μm(Wnt7a)、24.6μm(Wnt5a)、および25.8μm(インスリン増殖因子(IGF))であった。Wnt7a、Wnt5aおよびIGFで処置した細胞の肥大が増大したことは、培地コントロールもしくはWnt3a処置のいずれと比較しても、統計的に有意であった。
【0201】
(実施例3:改変Wnt7aポリペプチドの構築および発現)
非標準のWntは、筋肉サテライト幹細胞増殖および筋肥大を誘導する。両プロセスの誘導は、治療として大いに有益である(悪液質、筋萎縮症、および筋ジストロフィーの処置に関して)。治療剤としてのWntの使用は、特異的Wnt活性およびレセプター特異性を維持することと同時に、効率的なスケールでの生成、治療的使用に適用可能な精製および処方を必要とする。Wntポリペプチドの翻訳後脂質付加は、これら製造要件に対する潜在的な複雑さを表す。Wntは、一般に、有効な活性に脂質を必要とすると考えられていた。脂質付加タンパク質は、高濃度での精製にとって難題となり、溶解度および安定性のために界面活性剤の処方の使用を必要とする。
【0202】
これら難題に対処するために、Wnt7aのいくつかの改変体を構築した。具体的には、翻訳後脂質付加の標的であるアミノ酸残基(Wnt7aにおけるCys73およびSer206)を、以下の分子生物学技術を使用して、アラニン残基へと変異させた。上記野生型ヒトWnt7aを、順方向プライマー 5’−GCATGGATCCACCATGAACCGGAAAGCGCGG−3’(配列番号41)および逆方向プライマー 5’−GCATGCGGCCGCTCACTTGCACGTGTACATCTCC−3’(配列番号42)を使用して、PCR増幅した。上記PCR生成物を、pcDNA3.1(+)ベクターの中の、BamHI部位とNot I部位との間に挿入した。改変Wnt7a構築物を、QuikChange(登録商標)部位指向性変異誘発法を使用して調製した。ヒトWnt7a C73A構築物(アミノ酸73にあるシステインをアラニンで置換)を、ヒト野生型Wnt7aをテンプレートとして使用して、順方向プライマー 5’−ATGGGCCTGGACGAGGCCCAGTTTCAGTTCCGC−3’(配列番号43)および逆方向プライマー 5’−GCGGAACTGAAACTGGGCCTCGTCCAGGCCCAT−3’(配列番号44)を用いて作製した。ヒトWnt7a S206A構築物(アミノ酸206にあるセリンをアラニンで置換)を、ヒト野生型Wnt7aをテンプレートとして使用して、順方向プライマー 5’−GTGCCACGGCGTGGCAGGCTCGTGCACC−3’(配列番号45)および逆方向プライマー 5’−GGTGCACGAGCCTGCCACGCCGTGGCAC−3’(配列番号46)を使用して作製した。ヒトWnt7a C73A/S206A構築物を、個々のC73A構築物およびS206A構築物についての試薬を使用して作製した。最終ベクターDNAを、Qiagen Endo−free精製キットを使用して調製した。上記pcDNA3ベクター中のWnt cDNAを、HEK293細胞において48〜72時間にわたって発現させた。Wntポリペプチドを、その後、生成したWnt7aの全ての改変体に対して特異的な抗体(抗体: Santa Cruz K15 #26361)を使用して、アフィニティークロマトグラフィーによって、HEK293培養培地から精製した。精製した改変Wntポリペプチドの活性を、その後の実施例において認められるように、インビトロ肥大アッセイを使用して試験した。作った全てのWnt7a構築物の模式図を、
図4に示す(配列番号1、2、3、4、5、12および13もまた参照のこと)。
【0203】
(実施例4:異種シグナルペプチドは、WNT分泌および生成を改善する)
HEK293細胞における哺乳動物培養系からの不十分な分泌を示す(発現されるタンパク質の大部分は、細胞内に保持される)Wntタンパク質の生成、分泌および溶解度を改善するために、Wnt融合ポリペプチドを構築した(ここで、内因性Wnt分泌シグナルペプチドを、ヒト免疫グロブリンGκ鎖(IgGK)のシグナルペプチドもしくはヒトタンパク質CD33のシグナルペプチドで置換した)。異種シグナルペプチドを含むWnt7a融合ポリペプチドの模式図を、
図4に示す(配列番号12および13もまた参照のこと)。
【0204】
図5に示されるように、異種シグナルペプチドを有する上記Wnt融合ポリペプチドは、HEK293培養系における発現および分泌について比較した場合、天然シグナルペプチドを含むWntポリペプチドより有意に良好であった。
【0205】
(実施例5:改変Wntポリペプチドは、界面活性剤の非存在下で処方され得、安定性および活性を保持する)
Wntタンパク質の生成および処方は、伝統的には、これら脂質付加されたタンパク質の溶解度を保持するために、界面活性剤中での処方に依存してきた。Wntポリペプチドの効率的な治療送達は、界面活性剤の非存在下での処方を必要とする。脂質付加部位なしのWntポリペプチドを、実施例3に記載されるように構築し、哺乳動物培養系において発現させ、上記培養培地から精製し、1% CHAPS界面活性剤中に処方した。HPLCベースのアッセイを、上記Wntポリペプチド処方物中のCHAPS界面活性剤の効率的な測定を可能にするために構成した。
【0206】
図6aに示されるように、溶液中のCHAPS界面活性剤の力価測定は、上記アッセイの効率的な較正を可能にした。純粋なWntポリペプチドの種々の調製物を試験したところ、最終処方物は、PBS中約1% CHAPS溶液であることが示された(
図6b)。PBS単独に対する上記Wntポリペプチド溶液のその後の透析は、上記界面活性剤を検出レベルより下に効率的に除去した(
図6c)。次いで、上記透析したポリペプチドを、上記CHAPS界面活性剤の存在下もしくは非存在下のいずれかで、安定性および活性の両方について試験した。
【0207】
4℃もしくは37℃のいずれかにおける上記タンパク質処方物の7日間にわたるインキュベーションから、天然の脂質付加部位を有するWntは、界面活性剤中で処方された場合に比較的安定であるが、界面活性剤の非存在下で処方された場合には不安定であることが示された。逆に、脂質付加部位を除去し、アラニンで置換した改変Wnt(C73A、S206A)は、天然の脂質付加タンパク質と比較した場合、界面活性剤の非存在下で改善された安定性を有することが認められた。
【0208】
界面活性剤ありもしくは界面活性剤なしで処方されたWnt改変体を、次いで、実施例2に記載されるように、C2C12肥大アッセイにおいて活性について試験した。Wntポリペプチドを、HEK293哺乳動物培養系において生成し、アフィニティー精製した。上記Wntポリペプチドを、1% CHAPS界面活性剤とともにPBS中に処方した。各Wntポリペプチド改変体のアリコートを、透析を使用して界面活性剤を除去することによって再処方した。Wntタンパク質は、等モル濃度を有し、上記C2C12肥大アッセイに適用した。
【0209】
異種シグナルペプチドを使用して上記HEK293培養系において生成したWntポリペプチドは、陽性コントロールである天然のWnt配列と比較した場合、それらの活性を保持した(
図7)。さらに、Wnt7a C73AおよびS206A変異体は、特異的肥大活性を保持した(
図7)。全ての改変Wntは、界面活性剤中で処方した場合、活性を保持した。
【0210】
Wntを、界面活性剤の非存在下で再処方した場合、上記アラニン置換された脂質付加部位を含む改変Wntのみが活性を保持したのに対して、天然のWntは、筋芽細胞肥大活性を喪失した(
図7)。従って、Wntは、保存された脂質付加部位において特異的に変化し、生物学的活性を保持した。上記改変Wntはまた、界面活性剤の非存在下で処方した場合に、活性を保持した。よって、本発明の改変Wntポリペプチドは、上記天然のタンパク質の有用な治療バージョンの代表となる。
【0211】
(実施例6:改変Wnt7aは、筋肥大およびサテライト幹細胞増殖を増大させる)
脂質除去したWnt(例えば、1個以上の脂質付加部位を除去したWnt)がインビボで筋再生を刺激する能力を実証するために、上記改変Wnt7aを、CMV−Wnt7a発現プラスミドを3ヶ月齢のマウスのTA筋へとエレクトロポレーションすることによって過剰発現させた。
【0212】
(インビボエレクトロポレーション)
LacZ、野生型Wnt7a、Wnt7a C73A、Wnt7a S206A、およびWnt7a C73A/S206Aをコードするプラスミド構築物を、インビボでマウスへとエレクトロポレーションした。0.9% NaCl中の40μgの各プラスミドDNA、もしくは0.9% NaCl(食塩水)を、麻酔したマウスの皮膚を介する切開によって露出した左TA筋へと直接注射した。注射の直後、電気刺激を、5mm針電極(BTX)を使用して、固定持続時間20msおよび間隔200msで、6パルスにつき100〜150ボルトのパルス発生器(ECM 830, BTX)によってTAへと直接印加した。実験側および対側のTA筋を単離し、OCT−15% スクロース(Tissue−Tek)中に包埋し、冷窒素によって冷却したイソペンタンで凍結させた。
【0213】
(組織学および定量)
実験側および対側の筋肉の横断切片(8μm)を、クライオスタット(Leica CM1850)で切り出した。実験側の筋と対側の筋とを連続切片上で同レベルで比較するために、TA筋全体を切片化した(約400枚の切片を、各TA筋から得た)。LacZ反応に関しては、低温切片を、0.1% グルタルアルデヒドで固定し、X−gal溶液に曝した。H&Eおよび免疫染色については、切片を4% パラホルムアルデヒドで固定した。線維の計数に関しては、ラミニン染色した低温切片の写真を集めて、Adobe Photoshop CS2で計数した。筋線維直径の定量は、ImageJで行った。上記サテライト細胞計数を、再生領域(線維の全てが中央に局在した核を有した)において撮影したPax7およびラミニンの同時免疫染色した低温切片の写真上で、Photoshopで行った。「% Pax−7+細胞」は、線維数あたりで、および対側の脚に対して正規化したラミナ下(sub−laminar)Pax7+ve サテライト細胞の数を表す。
【0214】
(統計分析)
最小で2つおよび最大で5つの複製を、提示した実験に関して行った。データを、平均の標準誤差として表す。結果を、スチューデントT検定(Microsoft Excel)を使用して統計的有意差について評価し、差異は、p<0.05レベルにおいて統計的有意とみなした。
【0215】
(結果)
WT Wnt7a、Wnt7a C73A、Wnt7a S206A、およびWnt7a C73A/S206A構築物のエレクトロポレーションは、LacZコントロールプラスミドと比較して、マウスTA筋の平均線維直径の統計的に有意な増大を生じた。さらに、上記Wnt7a C73A、Wnt7a S206A、およびWnt7a C73A/S206A構築物は、上記野生型Wnt構築物のWnt生物学的活性を保持した。これは、上記Wnt7a C73A、Wnt7a S206A、およびWnt7a C73A/S206A構築物によって生じた上記TA筋の平均線維直径の増大が、上記野生型Wnt構築物によって生じたものに匹敵したからである。これら結果を
図1に示す。
【0216】
顕著なことに、
図2は、Wnt7a S206AおよびWnt7a C73A/S206A構築物でエレクトロポレーションしたTA筋が、さらに、上記野生型Wnt構築物でエレクトロポレーションしたTA筋に対して、TA筋質量における匹敵する増大を示したことを示した。
【0217】
Wnt7a C73A、Wnt7a S206A、およびWnt7a C73A/S206Aが、サテライト幹細胞の増殖をインビボで同様に刺激したか否かを評価するために、再生した筋の中のサテライト細胞およびサテライト幹細胞の数を、上記改変Wnt7a発現プラスミドのエレクトロポレーションの後に評価した。Wnt7a C73A、Wnt7a S206A、およびWnt7a C73A/S206Aの過剰発現は、エレクトロポレーションの3週間後において、切片上の筋線維あたりのPax7+ サテライト細胞の数における統計的に有意な増大を生じた(Wnt7a C73A、p=0.001、n=4;Wnt7a S206A、p=0.01、n=2;Wnt7a C73A/S206A、p=0.05、n=2)。Wnt7a C73A、Wnt7a S206A、およびWnt7a C73A/S206Aの過剰発現によって誘導されたPax7 サテライト細胞の数における増大は、野生型Wnt7aによって誘導された増大に匹敵した。これらの結果を
図3に示す。
【0218】
まとめると、
図1〜3に示されたこれら結果は、より大きな線維の増大した数および筋肉の増大した質量の存在によって実証されるように、Wnt7a C73A、Wnt7a
S206A、およびWnt7a C73A/S206Aの過剰発現が、筋肉再生を顕著に増強し、さらに、インビボでのサテライト幹細胞の数を増大させることを示す。さらに、これら結果は、Wnt7a C73A、Wnt7a S206A、およびWnt7a C73A/S206Aによって生じた効果が、野生型Wnt7aによって生じた効果に匹敵したことを示す。
【0219】
一般に、以下の特許請求の範囲において、使用される用語は、本明細書および特許請求の範囲において開示される具体的実施形態に特許請求の範囲を限定するとは解釈されるべきではなく、このような権利が与えられる特許請求の範囲の等価物の全範囲とともに全ての考えられる実施形態を含むと解釈されるべきである。よって、特許請求の範囲は、開示によって限定されない。
【0220】
(実施例7:Wntタンパク質は、免疫グロブリンFC融合物として発現され得る)
免疫グロブリン融合タンパク質および/もしくはポリペプチドを使用して、上記Wntポリペプチドの薬学的特性(例えば、それらのインビボでの循環半減期)を改善した。本発明のWntタンパク質を、
図4に模式的に表されるように、アミノ末端のFc融合ドメインもしくはカルボキシ末端のFc融合ドメインのいずれかとともに哺乳動物発現ベクター(pcDNA3+)中に構築した。天然のヒトWnt7aのアミノ酸残基31〜349、またはC73Aおよび/もしくはS206A変異を有する同じものを、N末端融合物もしくはC末端融合物のいずれかとして、IgGκ分泌シグナルペプチドおよびヒトIgG1e3−Fc1ドメインとインフレームでサブクローニングした。このFcドメインは、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)および補体依存性細胞傷害性(CDC)の効果を低下させるために、天然のIgG1配列とは異なるアミノ酸変化を含んだ(E233P/L234V/L235A/deltaG236+A327G/A330S/P331S)。17アミノ酸リンカー(GT(GGGGS)3)を、上記Wntタンパク質配列と上記Fc融合配列との間に付加して、立体障害を低下させ、Wnt比活性の低下を防止した。これらベクターをHEK293細胞へとトランスフェクトし、タンパク質発現を48時間にわたって継続した。タンパク質発現および分泌を、ウェスタンブロットによってモニターした。これは、
図11aおよび
図11bに認められ得る。予測分子量のインタクトな融合タンパク質は、抗Wnt7a抗体もしくは抗Fc検出のいずれかで免疫検出した場合に認められた。効率的な分泌は、上記融合タンパク質について観察された。分泌型タンパク質を、その後、プロテインAもしくはプロテインGのアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。