特許第5972309号(P5972309)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972309
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】免震装置、及び免震工法
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20160804BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20160804BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   E04H9/02 331E
   F16F15/04 E
   F16F15/02 L
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-98544(P2014-98544)
(22)【出願日】2014年5月12日
(65)【公開番号】特開2015-214845(P2015-214845A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2014年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】510314895
【氏名又は名称】町筋 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100117097
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 充浩
(72)【発明者】
【氏名】町筋 賢治
【審査官】 河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−032345(JP,A)
【文献】 特開2007−309077(JP,A)
【文献】 特開平10−159382(JP,A)
【文献】 特開平09−228386(JP,A)
【文献】 特開2010−270581(JP,A)
【文献】 特開2006−308068(JP,A)
【文献】 特開2000−046107(JP,A)
【文献】 特開2008−157357(JP,A)
【文献】 特公昭43−025114(JP,B1)
【文献】 特開平03−224293(JP,A)
【文献】 特開2005−226331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02
F16F 15/04
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
家屋を支持する支持脚と、前記支持脚を滑動自在に支承する滑動受皿と、前記家屋と地面の間に設けられて前記家屋を鉛直上向きに付勢する弾性部材とを備える免震装置であって、
前記滑動受皿は、上面に凹球面状の滑動受面を有し、
前記支持脚は、下端部に前記滑動受面上を滑動する滑動部材を有し、
前記滑動部材は、前記滑動受面に当接する半球状突起を有するとともに、前記支持脚により全方向に首振り可能に支持されており、
記半球状突起は、前記滑動部材の下面に分散配置されるようして前記滑動部材の下面に一体的に形成され、前記滑動受面に対し全数が同時に当接するよう構成されていることを特徴とする免震装置。
【請求項2】
家屋を支持する支持脚と、前記支持脚を滑動自在に支承する滑動受皿と、前記家屋と地面の間に設けられて前記家屋を鉛直上向きに付勢する弾性部材とを備える免震装置であって、
前記支持脚が前記滑動受皿から脱落することを防止する脱落防止手段を備え、
前記脱落防止手段は、
前記支持脚に設けられる複数の上側摺動係止部と、
前記滑動受皿に設けられる複数の下側摺動係止部と、
前記上側摺動係止部と前記下側摺動係止部とに摺動可能に架け渡されて前記支持脚と前記滑動受皿を連結する無端ワイヤ状部材と、を有し、
前記無端ワイヤ状部材は、前記支持脚を挟んで面対称に、又は前記支持脚の周りに回転対称に設けられていることを特徴とする免震装置。
【請求項3】
長尺状の剛部材からなり家屋の土台と長手方向を同じくして前記土台の側面に固定される土台補強梁と、
前記土台補強梁から前記土台補強梁の側方へ延出し、前記土台の下面を支持する土台支持部材と、を有し、
前記支持脚は、前記土台補強梁の下面に設けられる請求項1、又は請求項2に記載の免震装置。
【請求項4】
家屋を支持する支持脚と、前記支持脚を滑動自在に支承する滑動受皿と、前記家屋と地面の間に設けられて前記家屋を鉛直上向きに付勢する弾性部材と、長尺状の剛部材からなり家屋の土台と長手方向を同じくして前記土台の側面に固定される土台補強梁と、前記土台補強梁から前記土台補強梁の側方へ延出し、前記土台の下面を支持する土台支持部材と、を備え、前記支持脚が、前記土台補強梁の下面に設けられる免震装置を、既存の家屋に取り付ける方法であって、
基礎立ち上がりと土台を連結するアンカーボルトの有る位置で、基礎立ち上がりの上端部側面を円形に切削して貫通孔を設けることにより前記アンカーボルトを切断して家屋の土台と基礎立ち上がりとの連結を分断する土台分離工程と、
前記貫通孔の上面と前記基礎立ち上がりの上面との間の部分を切削して前記貫通孔と前記基礎立ち上がりの上面を連絡させて前記土台支持部材を挿入するための支持部材挿入用凹部を形成する支持部材挿入用凹部形成工程と、
前記支持部材を前記支持部材挿入用凹部に挿入するようにして、前記土台補強梁を前記土台の側面に固定する土台補強梁設置工程と、を有することを特徴とする免震工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建造物の地震による振動を緩和する免震装置、及び該免震装置を用いた免震工法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、在来工法の木造住宅においては、阪神・淡路大震災において基礎から分離して前面道路を塞いだ建物が消防活動を妨げて大火災の要因となった教訓から、建築基準法が改正されて、基礎と土台を連結するアンカーボルトに加え、計算で求めた建物の応力のかかり具合に応じて適宜の柱をホールダウン金物等でアンカーボルトに締結して一体化することが義務化されている。
【0003】
ところが、地震から受ける力は、建物の総重量に比例するため、基礎と建物を一体化して建物の総重量を増やすと却って増大するという問題がある。
【0004】
そこで、木造住宅等の一般家屋においても、滑り支承(例えば、特許文献1参照)や転がり支承(例えば、特許文献2参照)式の免震装置を設ける試みがなされている。かかる免震装置は、家屋を基礎から切り離すことで慣性により建物の静止状態を維持し、建物の振動を抑制しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−291677号公報
【特許文献2】特開平10−306617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1や特許文献2の免震装置は、家屋を支持する支持ピンやボールベアリングが基礎側の底板部や下側支持板から分離しているため、鉛直方向の振動が加わって家屋が浮き上がり底板部等に衝突する際に家屋が多大な衝撃を受ける可能性がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、家屋に加わる鉛直方向の振動を緩衝可能な免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る免震装置は、家屋を支持する支持脚と前記支持脚を滑動自在に支承する滑動受皿とを備える免震装置であって、前記家屋と地面(基礎)の間に設けられて前記家屋を鉛直上向きに付勢する弾性部材を備えることを特徴とする。
【0009】
このように、本発明に係る免震装置は、家屋を鉛直上向きに付勢する弾性部材を備えるため、家屋の上下方向の振動を緩衝することができる。
【0010】
加えて、本発明の免震装置は、前記滑動受皿が、上面に凹球面状の滑動受面を有し、前記支持脚が、下端部に前記滑動受面上を滑動する滑動部材を有し、前記滑動部材は、前記滑動受面に当接する半球状突起を有するとともに、前記支持脚により全方向に首振り可能に支持されており、前記半球状突起は、前記滑動部材の下面に分散配置されるようして前記滑動部材の下面に一体的に形成され、前記滑動受面に対し全数が同時に当接するよう構成されていることを特徴とする。
【0011】
特許文献1や特許文献2の免震装置では、支持ピンやボールベアリングが一点で、底板部や、下側支持板(共に滑動受皿に相当)に当接するため、支持ピンやボールベアリングが破損する虞がある。上述したように、滑動部材を支持脚により全方向に首振り可能に支持することで、地震により支持脚が滑動受皿に対し偏移しても滑動部材の半球状突起すべてを滑動受皿上面の凹球面に当接させることができるため、滑動部材が破損することを抑制できる。
【0012】
本発明の別の免震装置は、家屋を支持する支持脚と、前記支持脚を滑動自在に支承する滑動受皿と、前記家屋と地面の間に設けられて前記家屋を鉛直上向きに付勢する弾性部材とを備える免震装置であって、前記支持脚が前記滑動受皿から脱落することを防止する脱落防止手段を備え、前記脱落防止手段は、前記支持脚に設けられる複数の上側摺動係止部と、前記滑動受皿に設けられる複数の下側摺動係止部と、前記上側摺動係止部と前記下側摺動係止部とに摺動可能に架け渡されて前記支持脚と前記滑動受皿を連結する無端ワイヤ状部材と、を有し、前記無端ワイヤ状部材は、前記支持脚を挟んで面対称に、又は前記支持脚の周りに回転対称に設けられていることを特徴とする。
【0013】
特許文献1に係る発明では、一対のワイヤにより家屋側に設けられた支持ピン(支持脚に相当)が基礎側に設けられた底板部(滑動受皿に相当)から外れないようにしている。このワイヤは、への字に屈曲された状態で両端が底板部(滑動受皿)側に固定され中間の屈曲部が支持ピン(支持脚)側に設けられた滑車に引き掛けられて、支持ピンが底板部に連結されている。特許文献1の免震装置は、このように、ワイヤの中間部を滑車で支持することで、家屋が水平に揺動する際にワイヤの滑車に掛かる部分が摺動して滑車の両側のワイヤの長さが自動的に調節されてワイヤが弛まないように構成されている。しかし、特許文献1の免震装置では、一対のワイヤが対抗する方向に家屋(支持ピン)が移動すると支持ピンが寄った方のワイヤは弛み支持ピンから遠ざかった方のワイヤのみに地震からの力が加わって当該ワイヤが切れる虞がある。
【0014】
これに対し、上述したように、支持脚と滑動受皿とを連結する無端ワイヤ状部材を、支持脚を挟んで面対称に設けるか、又は支持脚の周りに回転対称に設け、かつ、上側(支持脚側)でも下側(滑動受皿側)でも無端ワイヤ状部材が摺動するように上下の摺動係止部間に架け渡すことで、地震により家屋が移動した際に近接した摺動係止部間のワイヤ状部材を短くし離間した摺動係止部間のワイヤ状部材を長くするよう無端ワイヤ状部材が摺動するため、無端ワイヤ状部材の各部に均等に力が加わるようにすることができる。
【0015】
本発明は、家屋を支持する支持脚と、前記支持脚を滑動自在に支承する滑動受皿と、前記家屋と地面の間に設けられて前記家屋を鉛直上向きに付勢する弾性部材と、長尺状の剛部材からなり家屋の土台と長手方向を同じくして前記土台の側面に固定される土台補強梁と、前記土台補強梁から前記土台補強梁の側方へ延出し、前記土台の下面を支持する土台支持部材と、を備え、前記支持脚が、前記土台補強梁の下面に設けられる免震装置を、既存の家屋に取り付ける方法を含む。
このように、土台補強梁を土台の側面に固定するよう構成することで、基礎立ち上がりの上に載置された土台であってもジャッキアップせずに土台補強梁を取り付けて補強することができる。また、土台補強梁の側方へ延出し、土台の下面を支持する土台支持部材を設け、支持脚及び滑動受皿を土台補強梁の下に設けることで、基礎立ち上がりをかわしながら支持脚及び滑動受皿で土台を支持することができるため、基礎立ち上がりの上に土台が載置された既存の家屋にも、当該免震装置を取る付けることができる。
【0016】
本発明の免震工法は、基礎立ち上がりと土台を連結するアンカーボルトの有る位置で、基礎立ち上がりの側方から上端部側面を円形に切削して貫通孔を設けることにより前記アンカーボルトを切断して家屋の土台と基礎立ち上がりとの連結を分断する土台分離工程と、前記貫通孔の上面と前記基礎立ち上がりの上面との間の部分を切削して前記貫通孔と前記基礎立ち上がりの上面を連絡させて前記土台支持部材を挿入するための支持部材挿入用凹部を形成する支持部材挿入用凹部形成工程と、前記支持部材を前記支持部材挿入用凹部に挿入するようにして、前記土台補強梁を前記土台の側面に固定する土台補強梁設置工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
このように、家屋の土台と基礎立ち上がりとの連結を分断することで、家屋を滑り支承により支持することが可能となる。また、基礎立ち上がりの側面から切削するようにして基礎立ち上がりの上端部に土台支持部材を挿入するための支持部材挿入用凹部を形成することにより、家屋をジャッキアップせずに土台支持部材を土台の下に挿入できる。支持部材を支持部材挿入用凹部に挿入するようにして、土台補強梁を土台の側面に固定することにより、家屋をジャッキアップすることなく免震装置を取り付けることができる。
【0018】
尚、ここで「無端ワイヤ状部材」とは、チェーン等の無端ワイヤと同様の効果を得られる部材を含むものとする。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の免震装置によれば、家屋に加わる鉛直方向の振動を緩衝することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態に係る免震装置の正面視縦断面図である。
図2図1におけるA−A線断面図である。
図3図1におけるB−B線断面図である。
図4図1の免震装置が、水平方向に偏移した状態の正面視縦断面図である。
図5図4におけるC−C断面図である。
図6】本発明の第1実施形態の免震装置が、水平方向に偏移するとともに上下方向に伸長した状態の(a)正面視縦断面図、及び(b)要部側面図である。
図7図1の免震装置の脱落防止手段の作用を説明する模式的斜視図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る免震装置を既存家屋の土台に取り付けた状態を示す正面図である。
図9図8の免震装置を取り付けた状態の右側面図である。
図10図8の免震装置を取り付けた状態の左側面図である。
図11】脱落防止手段の他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面を用いながら本発明の実施形態について詳述する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限られるものではない。
【0022】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る免震装置100を示している。免震装置100は柱P(図1の仮想線参照)の下端から垂下する支持脚1と、支持脚1を載置する滑動受皿2とを主に備える他、支持脚1が滑動受皿2から脱落することを抑制する脱落防止手段3と、基部5とを備えている。尚、免震装置100が設置される家屋の土台(不図示)は、剛に形成されている。
【0023】
支持脚1は、鉄やステンレス等の金属材料により形成され、図1に示すように、柱Pの下端に固設される支持脚本体11と、支持脚本体11に対し上下方向に相対的に摺動する摺動部材12と、摺動部材12の下端に設けられる滑動部材13と、支持脚本体13に対し摺動部材12を下方へ付勢するとともに、支持脚本体11を介して家屋を上方へ付勢するコイルばね14とを備えている。
【0024】
支持脚本体11は、柱Pの下端に嵌合される角枡状の基部5を介して柱Pに固設される。支持脚本体11は、基部5の底壁下面に設けられる矩形の補強版111と、補強版111の下面から下方へ延出し下端が開口した円筒状の内筒部112と、を有している。
【0025】
摺動部材12は、内筒部112に外環装される円筒状の外筒部121と、外筒部121の上端から側方へ延出するフランジ122と、外筒部121の下端を塞ぐとともに、滑動部材13を支承する玉座123とを有している。
【0026】
外筒部121は、対向する一対のスリット121aを有している。(図6(b)参照)支持脚本体11の内筒部112の外側面には、矩形の小片からなる一対のストッパー113,113が突設されており、支持脚本体11が摺動部材12に対し摺動すると、ストッパー113が外筒部121のスリット121aを摺動する。スリット121aの上端の出口部121bは、図6(b)に示すように、ストッパー113がフランジ122に当接して摺動部材12が支持脚本体11から抜け落ちないようにクランク状に形成されている。
【0027】
フランジ122は、外筒部121のスリット121aの出口部分121bで分割された2つの半円環状部材からなる。フランジ122は、支持脚本体11の補強板111に当接してコイルばね14の収縮量を制限するとともに、基部5を介して、柱Pを支持する。
【0028】
玉座123は、下面側に滑動部材13を球面摺動可能に支承する球面123aと、球面123aの頂部と玉座123の上面とを連絡する貫通孔123bとが設けられている。
【0029】
滑動部材13は、滑動部材本体131と、滑動部材本体131頂部から上方へ延出し、玉座123の貫通孔123bに挿通される棒片132と、棒片132の先端に設けられた抜け止め球133とを備えている。
【0030】
滑動部本体131は、玉座123に支承される半球部131aと、円盤状の滑動部131bと、滑動部131bの下面に多数が分散配置される半球状突起131cとを備えている。棒片132は、滑動部材13とともに揺動し、貫通孔123bの内面に当接して滑動部材12の揺動範囲を制限する。抜け止め球133は、滑動部材13が玉座123から脱落することを防止する。多数の半球状突起131cは、後述する滑動受皿22の滑動受面2aに同時に当接する。
【0031】
コイルばね(弾性部材)14は、伸縮方向を上下にして内筒部112の内部に配設され摺動部材12が支持脚本体11から最大限に延出した状態においても、上端が補強板111に、下端が玉座123の上面に当接するよう構成されている。コイルばね14は、支持脚本体11に対し摺動部材12を下方へ付勢するとともに、支持脚本体11を介して家屋を上方へ付勢している。尚、コイルばねの両端は、補強板111、及び玉座123に常時当接していれば、固定されていてもフリーでもよい。
【0032】
滑動受皿2は、基礎コンクリート4の上面に無収縮モルタルにより形成した平面視略正方形の盤状をなす基礎台41に上載され、上面に滑動部材13を滑動可能に支持する凹球面状の滑動受面2aと滑動受面2aを取り囲む周壁2bとを有している。滑動受皿2は、周壁2bの4隅において鉛直に埋設されるアンカーボルト24及びアイナット(下側摺動係止部)32にて基礎台41及び基礎コンクリート4に固定されている。
【0033】
脱落防止手段3は、支持脚本体11に固設される4個のアイナットからなる上側摺動係止部31(図2に示すように、底面視で反時計回り(平面視では時計回り)に31a,31b,31c,31dとする。)と、滑動受皿2に固設される4個のアイナットからなる下側摺動部32(図3に示すように、平面視で時計回りに32a,32b,32c,32dとする。)と、上側摺動係止部31及び下側摺動係止部32に架け渡されて支持脚1と滑動受皿2とを連結する無端ワイヤ(無端ワイヤ状部材)33とを備えている。
【0034】
上側摺動係止部31は、補強板111、及び基部5の底壁に螺設され、下側摺動係止部32は、滑動受皿2上面の4隅においてアンカーボルト24に螺設されている。無端ワイヤ33は、図7に示すように、31a,31b,32b,32c,31c,31d,32d,32a,31aの順に、上側摺動係止部31と下側摺動係止部32とに挿通されている。図7(a)に示すように、無端ワイヤ33は、支持脚1を挟んで面対称に、かつ支持脚1の周りに回転対称に設けられている。尚、図3、及び図5において、無端ワイヤ33を分断して表示したのは、無端ワイヤ33が緩んでいることを示す。また、図2、3、57、11では、無端ワイヤは太さを省略して単に線で表す。
【0035】
以上のような構成を有する免震装置100を設けた家屋に、地震により水平方向の振動が加わると、図4に示すように、滑動受皿2に対し支持脚1が偏移するのに伴って滑動部材13が滑動受皿2上を滑動し、滑動受面2aの偏心位置に移動する。このとき、滑動部材13は、玉座123により面摺動可能に支承され、水平方向の何れの方向にも首振り可能に構成されているため、偏心位置における滑動受面2aに半球状突起131cが当接するように傾動する。このように、本実施形態に係る免震装置100では、滑動受面2aと滑動部材13とが多数の半球状突起131cで当接することで各半球状突起131cに加わる力が小さくなるため、滑動部材13(半球状突起131c)の破損を抑制できる。
【0036】
また、地震の鉛直方向の振動により柱Pが上昇すると、図6(a)に示すように、家屋の重みにより収縮していたコイルばね14が弾性力により伸長し、摺動部材12が支持脚本体11から下方へ延出して支持脚1が伸長する。支持脚1の伸長範囲はストッパー113がフランジ122に当接することにより規制される。また、無端ワイヤ33は、緩んでいた部分を、上下方向に延びる上側摺動係止部31aと下側摺動係止部32aの間の部分33a(以下「33a部」といい、他の部分もこれに倣う。)、上側摺動係止部31bと下側摺動係止部32bの間の部分33b、上側摺動係止部31cと下側摺動係止部32cの間の部分33c、及び上側摺動係止部31dと下側摺動係止部32dの間の部分33dに移送して緊張し、支持脚1が滑動受皿2から離間することを防止する。
【0037】
コイルばね14の自然長は、図6(a)の状態よりやや長く設けられており、ストッパー113がフランジ122に当接するまで摺動部材が支持脚本体11に対し延出するよう構成されている。
【0038】
また、このように、家屋が斜めに上昇した場合、無端ワイヤ33は、図7(a)、(b)に示すように、33a部分、33b部分、33c部分、及び33d部分の間で相互に長さをやり取りして全体に均一に力が加わるよう変形する。これにより、無端ワイヤ33が切断することが抑制される。
【0039】
(第2実施形態)
図8は、本発明の第2実施形態に係る免震装置200を示している。免震装置200は、基礎立ち上がりBの上に土台FをアンカーボルトAで固定する在来工法による既存の木造住宅Hに付設され、支持脚201と、滑動受皿2とを主に備える他、土台補強梁205と、土台支持部材206とを備えている。尚、第2実施形態において、第1実施形態と共通する部材は同一符号を付して説明を省略する。
【0040】
支持脚201は、土台補強梁205の下面に固設される支持脚本体2011と、支持脚本体2011に対し上下方向に相対的に摺動する摺動部材2012と、摺動部材2012の下端に設けられる滑動部材2013と、支持脚本体2011に対し摺動部材2012を下方へ付勢するとともに支持脚本体11を介して家屋を上方へ付勢するコイルばね14(図においては不図示)とを備えている。
【0041】
摺動部材2012は、外筒部121と、フランジ122と、外筒部121との下端を塞ぐよう設けられる底壁2123とを有している。
【0042】
滑動部材2013は、扁平の柱状をなし、下面が、滑動受皿2の滑動受面2aの半径よりも小さい半径を有する凸球面に形成されている。
【0043】
滑動受皿2は、基礎台2041に上載される。基礎台2041は、既設の布基礎に接して増設された新設基礎部207の上面に設けられる。
【0044】
土台補強梁205は、チャンネル鋼により形成され、ウェブ外面を土台Fの側面にスペース部材Sを介して密着固定するよう構成され、下側となるフランジ外面に、支持脚201が固設される。
【0045】
土台支持部材206は、アングル鋼を切断して形成され、断面が倒L字となるようボルト・ナットにより土台補強梁205のウェブ外面に固設される。土台支持部材206の横辺上に土台Bが載置される。
【0046】
次に、第2実施形態に係る免震装置200を既存の住宅に取り付ける免震工法について説明する。当該免震工法は、新設基礎打設工程S1と、滑動受皿設置工程S2と、土台分離工程S3と、支持部材挿入用凹部形成工程S4と、土台補強梁設置工程S5と、を有している。
【0047】
まず、新設基礎打設工程S1において、基礎立ち上がりBに隣接して新設基礎207を打設する。次に、滑動受皿設置工程S2において、新設基礎207の上に無収縮モルタルにより基礎台2041を形成し、基礎台2041の上面に滑動受皿2を載置してアンカーボルト24で固定する。
【0048】
一方、新設基礎打設工程S1及び滑動受皿設置工程S2と並行、又は前後して、土台分離工程S3において、家屋の土台Fと基礎立ち上がりBとを連結するアンカーボルトAを切断する。アンカーボルトAの切断は、基礎立ち上がりBの上端部側面をホールソー等で側面から切削して、図10に仮想線で示したような貫通孔Hの開設と同時に行う。ここでは、ホールダウン金物に連結されているアンカーボルトAを含め土台Fと基礎立ち上がりBを連結するすべてのアンカーボルトAを切断する。
ただし、土台Fと基礎立ち上がりBの分離は、例えば、土台FをアンカーボルトAの両側の位置で切断することにより行ってもよい。
【0049】
続けて、支持部材挿入用凹部形成工程S4にて、支持部材206にて土台Fを支持する必要のある位置に設けられている貫通孔Hの上面と基礎立ち上がりBの上面との間の部分を切削して貫通孔Hと基礎立ち上がりBの上面を連絡させ、土台支持部材206を挿入するための側面視U字状の支持部材挿入用凹部Iを形成する。支持部材挿入用凹部は、支持部材206を、このように基礎立ち上がり部Bの側面を切削することにより、アンカーボルトAを切断し、支持部材挿入用凹部Iを設けることで、家屋をジャッキアップせずに免震装置200を取り付けることができる。
ただし、アンカーボルトAの両端で土台Fを切断することにより土台Fを基礎立ち上がりBから分離した場合は、残った土台のアンカーボルトAの無い位置において、支持部材挿入用凹部Iを形成する。
【0050】
そして、土台補強梁設置工程S5にて、予め支持脚201と土台支持部材206とを取り付けた土台補強梁205を、支持部材206を支持部材挿入用凹部Iに挿入し支持脚201を束石202の滑動受皿22に載置するようにして、土台Fの側面に密着固定する。
【0051】
第2実施形態に係る免震装置200は、土台Fの側面に土台補強梁205を固設するため、土台Fを基礎立ち上がりBからジャッキアップせずに補強することができる。また、免震装置200は、土台Fの側方に支持脚201、及び滑動受皿2を設けるため、土台Fの下に基礎立ち上がりBのある既設の家屋Hにも設置できる。そして、免震装置200を用いた本発明の免震工法では、基礎立ち上がり部Bの側面を切削することにより、支持部材挿入用凹部Iを設けるため、家屋Hをジャッキアップせずに免震装置200を取り付けることができる。
【0052】
本発明の免震装置は、上記の実施形態に限られるものではなく、例えば、弾性部材は、オイルダンパーや積層ゴムの他、免震に用いられる公知の弾性部材で代用することができる。支持脚は柱の下端に限らず、土台の下面など家屋を支持するに適した場所に適宜設けることができる。脱落防止手段は、図11に示したように、無端ワイヤを、支持脚を挟んで面対称に、又は支持脚の周りに回転対称に配設する各種の形態を採用できる。摺動用係止部は、支持脚や滑動受皿と一体的に設けることもでき、無端ワイヤが摺動しやすいよう滑車を設けることもできる。
本発明の免震装置及び免震工法は、在来の木造軸組工法に限らずツーバイフォー工法による木造家屋や、軽量鉄骨住宅にも採用できる。本発明の免震工法をべた基礎構造の家屋に適用することもでき、この場合、新設基礎は設けなくてよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る免震装置、及び免震候補によれば、新築家屋に設置可能だけでなく、既存の家屋に付設することもできる。
【符号の説明】
【0054】
100,200 免震装置
1,201 支持脚
11,2011 支持脚本体
12,2012 摺動部材
13,2013 滑動部材
131c 半球状突起
14 コイルばね(弾性部材)
2 滑動受皿
2a 滑動受面
3,303,403 脱落防止手段
31,3031,4031 上側摺動係止部
32,3032,4032 下側摺動係止部
33,3033,4033 無端ワイヤ(無端ワイヤ状部材)
205 土台補強梁
206 土台支持部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11