(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0022】
先ず、本発明の有機無機複合粒子について説明する。本発明の有機無機複合粒子は、
無機粒子及び有機ポリマーを含有する有機無機複合粒子であって、
前記無機粒子が表面に重合性反応基を導入する修飾処理を施されていないものであり、
前記有機ポリマーが、前記無機粒子の表面に配置された第1のポリマーからなる親水性ブロック(A)と、前記親水性ブロック(A)の外側に積層された第2のポリマーからなる疎水性ブロック(B)とからなり、
前記無機粒子、前記第1のポリマー及び前記第2のポリマーの表面自由エネルギーが、下記式(1):
E
NP>E
A>E
B ・・・(1)
[式(1)中、E
NPは無機粒子の表面自由エネルギーを示し、E
Aは第1のポリマーの表面自由エネルギーを示し、E
Bは第2のポリマーの表面自由エネルギーを示す。]
で表される条件を満たすものである。
【0023】
本発明に係る無機粒子としては、特に制限されず、例えば、金属酸化物、金属窒化物又は窒化物セラミックスからなるものが挙げられる。前記金属としては、粒子径が1〜10,000nm程度の粒子を製造可能なものであれば特に制限されず、具体的には、長周期型周期表で第IIIB族のホウ素(B)−第IVB族のケイ素(Si)−第VB族のヒ素(As)−第VIB 族のテルル(Te)の線を境界としてその線上にある元素並びにその境界より長周期型周期表において左側及び下側にあるものが挙げられ、さらに具体的には、B、Si、As、Te、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Po、Fr、Ra、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th、Pa、U、Np、Pu、Am、Cm、Bk、Cf、Es、Fm、Md、No、Lr等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
前記金属酸化物、前記金属窒化物及び前記窒化物セラミックスとしては、例えば、Al
2O
3、CeO
2、CoO、Co
3O
4、Co
3O
4、Eu
2O
3、Fe
2O
3、Fe
3O
4、Gd
2O
3、In
2O
3、NiO、TiO
2、Y
2O
3、ZnO、ZrO
2、BaTiO
3、AlN、TiN、BN、SiO
xが挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
これらの中でも、本発明に係る無機粒子としては、後述の第1のポリマーがポリエチルアクリレートであり、第2のポリマーがポリスチレンである場合に、より有機無機複合粒子の安定性が向上して溶媒に対する分散性が向上し、また、有機ポリマーの含有率を向上させることが容易となるという観点から、Al
2O
3及び/又はSiO
2からなるものであることが好ましく、Al
2O
3からなるものであることがより好ましい。また、後述の第1のポリマーがポリヒドロキシエチルアクリレートであり、第2のポリマーがポリスチレンである場合には、上記と同様の観点から、Al
2O
3及び/又はSiO
2からなるものであることが好ましく、SiO
2からなるものであることがより好ましい。
【0026】
本発明に係る無機粒子としては、粒子径が1〜10,000nmであることが好ましく、3〜10,000nmであることがより好ましく、5〜1,000nmであることがさらに好ましい。粒子径が前記下限未満ではポリマーの含有比率が多くなり過ぎる傾向にあり、他方、前記上限を超えると溶媒や樹脂に対する分散性が低下する傾向にある。なお、本発明において、前記粒子としては、最長径と最短径との比で表されるアスペクト比(最長径/最短径)が1〜3の粒状の形態が好ましい。また、前記粒子径は、粒子の断面の外接円の直径を指し、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察によって測定することができる。
【0027】
また、本発明に係る無機粒子としては、その表面自由エネルギー(E
NP)が前記第1のポリマーの表面自由エネルギー(E
A)よりも大きいことが必要である。無機粒子の表面自由エネルギーは、通常、ポリマーの表面自由エネルギーに比べて非常に大きいものであるが、E
NPがE
A以下である場合には、有機無機複合粒子の安定性が低下し、また、溶媒に対する分散性が低下する。
【0028】
なお、表面自由エネルギーとは、固体又は液体表面の分子(或いは原子)が物質内部の分子(或いは原子)と比べて余分に持つエネルギーのことであり、本発明においては、20℃における表面自由エネルギーを指す。本発明において、前記表面エネルギーは公知の方法により求めることができ、例えば、固体の表面自由エネルギーは、固体サンプルの表面における水の水滴接触角を測定し、この測定値と水の既知の表面自由エネルギーとから、ヤング(Young)の式を用いて求めることができる。また、液体の表面自由エネルギーは、円環法により、デュヌーイ式張力計を用いて測定することにより求めることができる。なお、本発明に係る無機粒子の表面自由エネルギーは、同種の無機物からなる基板を作製し、前記基板表面を清浄化したものを固体サンプルとして用い、上記固体の表面自由エネルギーの測定方法により求めることができる。
【0029】
さらに、本発明に係る無機粒子としては、表面に重合性反応基を導入する修飾処理が施されていないものであっても好適に用いることができる。前記重合性反応基としては、例えば、メタクリル基、アクリル基、ビニル基等が挙げられる。本発明においては、前記修飾処理による影響を受けないため、無機粒子及び/又は有機ポリマーが本来持つ物性や機能を十分に発揮させ、有機無機複合粒子の安定性を向上させ、かつ、容易に大量に得ることが可能となる。
【0030】
前記修飾処理としては、重合性反応基を有するカップリング剤を用いた方法;重合性反応基を有する界面活性剤を用いた方法等が挙げられる。前記カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等が挙げられ、前記界面活性剤としては、カルボン酸誘導体、ホスホン酸誘導体、リン酸誘導体、アミン誘導体、スルホン酸誘導体等が挙げられる。
【0031】
また、本発明に係る無機粒子としては、有機無機複合粒子の安定性をより向上させるという観点から、アルキレングリコール重合体や界面活性剤による表面処理も施されていないことが好ましく、製造原料として用いた際に容易に大量の有機無機複合粒子を得られるという観点からは、オゾン処理及びプラズマ処理のうちのいずれも施されていないことがより好ましく、より容易に製造することができるという観点から、前記重合性反応基以外の有機ポリマーとの結合のための反応基(カルボキシル基、アミノ基、イソシアネート基、酸無水基等)を導入する表面処理も施されていないことが好ましい。なお、これらの修飾処理及び表面処理が施されている無機粒子は、有機無機複合粒子の断面を走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡で観察する方法、赤外吸収スペクトルによる解析等により確認することができる。この際、本発明に係る無機粒子としては、前記重合性反応基を有するカップリング剤及び前記重合性反応基を有する界面活性剤の総含有量が無機粒子(前記カップリング剤及び前記界面活性剤を除く)に対して0.1質量%未満であることが好ましく、0.05質量%未満であることがより好ましい。
【0032】
本発明に係る有機ポリマーは、前記無機粒子の表面に配置(吸着)された第1のポリマーからなる親水性ブロック(A)と、前記親水性ブロック(A)の外側に積層された第2のポリマーからなる疎水性ブロック(B)とからなる。
【0033】
本発明の有機無機複合粒子においては、比較的親水性の高い親水性ブロック(A)の外側に比較的親水性の低い疎水性ブロック(B)が積層された構造となることにより、前記無機粒子の表面に重合性反応基を導入する修飾処理や前記表面処理が施されていなくとも、優れた安定性及び分散性が発揮される。また、本発明の有機無機複合粒子において、前記有機ポリマーは前記無機粒子表面に前述のようなカップリング剤等の修飾剤、より好ましくは界面活性剤等を介さずに配置されているため、無機粒子及び有機ポリマーが本来持つ物性や機能を十分に発揮することができる。
【0034】
本発明の有機無機複合粒子としては、より優れた安定性及び分散性が発揮されるという観点から、前記有機ポリマーと前記無機粒子との間は、前記無機粒子と前記第1のポリマーとの間の分子間力により物理吸着していることが好ましく、前記有機ポリマーが、前記第1のポリマーと前記第2のポリマーとが重合したブロックポリマーであることが好ましい。
【0035】
なお、本発明において、親水性ブロック(A)及び疎水性ブロック(B)における親水性、疎水性とは、親水性ブロック(A)における第1のポリマーと疎水性ブロック(B)における第2のポリマーとを比較した際の相対的な水への親和性により定義されるものであり、表面自由エネルギーがより大きいポリマー(すなわち第1のポリマー)からなるブロックを親水性ブロック、表面自由エネルギーがより小さいポリマー(すなわち第2のポリマー)からなるブロックを疎水性ブロックという。
【0036】
本発明において、前記第1のポリマー及び前記第2のポリマーとしては、前記無機粒子、前記第1のポリマー及び前記第2のポリマーの表面自由エネルギーが、下記式(1):
E
NP>E
A>E
B ・・・(1)
[式(1)中、E
NPは無機粒子の表面自由エネルギーを示し、E
Aは第1のポリマーの表面自由エネルギーを示し、E
Bは第2のポリマーの表面自由エネルギーを示す。]
で表される条件を満たすものであればよい。E
NPがE
A以下である場合及び/又はE
AがE
B以下である場合には、有機無機複合粒子の安定性が低下して複合粒子を得ることができず、また、溶媒に対する分散性が低下する。なお、本発明において、前記第1のポリマー及び前記第2のポリマーの表面自由エネルギーは、該当ポリマーからなるサンプルフィルムを作製し、前記フィルム表面を清浄化したものを固体サンプルとして用いて上記と同様の方法で測定することにより求めることができる。
【0037】
このような第1のポリマーとしては、前記無機粒子及び前記第2のポリマーの種類に依存するものであるが、表面自由エネルギーが上記式(1)で表される条件を満たしやすいという観点から、親水性のラジカル重合性モノマーを単独重合又は共重合せしめてなる直鎖状又は分岐鎖状のポリマーであることが好ましい。前記親水性のラジカル重合性モノマーとしては、親水性基及びビニル基を有するモノマーが挙げられ、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、アリルアクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライド、アリル酢酸、アリルアルコール、アリルクロライド、アリルアミド、アリルイソシアネート、メチルビニルメチルケトン、酢酸ビニル、ビニルクロライド、ビニルエチルエステル、ビニルエチルケトン、スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。本発明に係る第1のポリマーとしては、これらのうちの1種を単独で用いたものであっても2種以上を組み合わせて用いたものであってもよく、表面自由エネルギーが上記式(1)で表される条件を満たす限り、下記の疎水性のラジカル重合性モノマーを組み合わせて用いたものであってもよい。中でも、有機無機複合粒子の安定性がより向上し、製造過程において重合中の粒子の凝集を抑制できる傾向にあるという観点からは、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。
【0038】
また、前記第2のポリマーとしては、前記第1のポリマーの種類に依存するものであるが、表面自由エネルギーが上記式(1)で表される条件を満たしやすいという観点から、疎水性のラジカル重合性モノマーを単独重合又は共重合せしめてなる直鎖状又は分岐鎖状のポリマーであることが好ましい。前記疎水性のラジカル重合性モノマーとしては、親水性基を有さずかつビニル基を有するモノマーが挙げられ、例えば、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルスチレン、ブチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルアクリレート、ベヘニルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、トリフルオロプロピルアクリレート、トリフルオロプロピルメタクリレート、イソプレン、1,4−ブタジエン等が挙げられる。本発明に係る第2のポリマーとしては、これらのうちの1種を単独で用いたものであっても2種以上を組み合わせて用いたものであってもよく、表面自由エネルギーが上記式(1)で表される条件を満たす限り、上記の親水性のラジカル重合性モノマーを組み合わせて用いたものであってもよい。中でも、有機無機複合粒子の安定性がより向上し、樹脂中やトルエン等の有機溶媒中での分散性がより優れるという観点からは、ポリスチレンが好ましい。
【0039】
また、本発明に係る第1のポリマー及び第2のポリマーとしては、これらに限定されず、上記式(1)で表される条件を満たせばよく、例えば、前記第1のポリマーとしてポリヒドロキシエチルメタクリレートを用い、前記第2のポリマーとしてポリメチルメタクリレートを用いることもできる。
【0040】
本発明に係る有機ポリマーとしては、数平均分子量が3,000〜1,000,000g/molであることが好ましく、5,000〜500,000g/molであることがより好ましい。数平均分子量が前記下限未満では、高分子樹脂中における分散安定性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、液体溶媒中での分散安定性が低下する傾向にある。
【0041】
また、本発明に係る有機ポリマーとしては、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.05〜2.0であることが好ましく、1.05〜1.7であることがより好ましい。分子量分布が前記上限を超えると有機ポリマー同士が絡まりやすくなるために溶媒に対する分散性が低下する傾向にある。
【0042】
さらに、本発明の有機無機複合粒子において、前記第1のポリマーと前記第2のポリマーとの質量比(第1のポリマーの質量:第2のポリマーの質量)としては、1:1〜1:1,000であることが好ましく、1:1〜1:500であることがより好ましく、1:2〜1:500であることがさらに好ましい。前記第1のポリマーの割合が前記下限未満である場合には、無機粒子の表面が十分に疎水性とならない傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、有機ポリマーが無機粒子の表面から脱離しやすくなる傾向にある。
【0043】
また、本発明の有機無機複合粒子において、前記有機ポリマーの含有量としては、前記無機粒子の単位表面積あたりの分子数(鎖数)で0.0005〜1.0chains/nm
2であることが好ましく、0.001〜0.5chains/nm
2であることがより好ましい。前記単位表面積あたりにおける含有量が前記下限未満である場合には、溶媒に対する分散性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、充填化せしめる際に無機粒子の充填率が低下する傾向にある。
【0044】
さらに、本発明の有機無機複合粒子全体における前記有機ポリマーの含有率としては、前記無機粒子の表面積及び質量にも依存するが、1〜20質量%であることが好ましい。前記含有率が前記下限未満であると、溶媒又は樹脂に対する分散性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、溶媒又は樹脂中に分散せしめる際に無機粒子の含有比率が低下する傾向にある。
【0045】
本発明の有機無機複合粒子においては、より優れた安定性及び分散性が発揮される傾向にあるという観点から、前記無機粒子表面が前記有機ポリマーにより隙間なく覆われていることが好ましく、前記無機粒子の表面に配置(吸着)された前記第1のポリマーからなる親水性ポリマー層(A)、及び前記親水性ポリマー層(A)の表面に積層された前記第2のポリマーからなる疎水性ポリマー層(B)を備えていることがより好ましい。
【0046】
前記第1のポリマーが前記親水性ポリマー層(A)を形成する場合、その前記無機粒子の表面の被覆率としては、50面積%以上であることが好ましく、80面積%以上であることがより好ましい。また、前記第2のポリマーが前記疎水性ポリマー層(B)を形成する場合、その前記親水性ポリマー層(A)の表面の被覆率としては、30面積%以上であることが好ましく、50面積%以上であることがより好ましい。
【0047】
また、このとき、前記親水性ポリマー層(A)の厚みとしては0.1〜20nmであることが好ましく、前記疎水性ポリマー層(B)の厚みとしては0.2〜100nmであることが好ましい。さらに、本発明の有機無機複合粒子としては、粒子径が1.6〜10,000nmであることが好ましく3.3〜10,000nmであることがより好ましく、5.3〜1,100nmであることがさらに好ましい。粒子径が前記下限未満である場合には、有機無機複合粒子における有機ポリマーの含有比率が多くなり過ぎる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、溶媒又は樹脂に対する分散性が低下する傾向にある。なお、本発明において、前記親水性ポリマー層(A)及び前記疎水性ポリマー層(B)の厚み、並びに、前記有機無機複合粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察により測定することができ、また、前記親水性ポリマー層(A)及び前記疎水性ポリマー層(B)の厚みは、熱重量(TG)分析により得られる有機ポリマーの含有比率から算出することによっても求めることができる。
【0048】
また、本発明の有機無機複合粒子としては、本発明の効果を阻害しない範囲内において、金属ナノ粒子等の他の金属粒子、界面活性剤、界面活性能を有する高分子、リビングラジカル重合開始剤、リビングラジカル重合触媒等を更に含有していてもよい。
【0049】
次いで、本発明の分散液について説明する。本発明の分散液は、前記本発明の有機無機複合粒子と溶媒とを含有するものである。前記本発明の有機無機複合粒子を用いることにより、本発明の分散液は優れた分散性を有する。
【0050】
前記溶媒としては、前記第2のポリマーにより被覆されている粒子表面を膨潤させることで粒子間の距離を維持することができ、本発明の有機無機複合粒子を分散させやすい傾向にあるという観点から、前記第2のポリマーに対する良溶媒であることが好ましい。本発明において、良溶媒とは、溶解させるポリマーのシータ温度(Flory温度、第2ビリアル係数A2=0となる温度で、ポリマー鎖同士の重なり合いが見かけ上無視できる、すなわち、ポリマー鎖が理想的なガウス鎖としてふるまう温度)が室温(20℃)未満の溶媒を指す。このような溶媒としては、前記第2のポリマーの種類にも依存するが、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、前記良溶媒中において前記有機無機複合粒子の表面を膨潤させて分散させた後、溶媒を貧溶媒に置換することにより、前記溶媒としては、前記第2のポリマーに対する貧溶媒を用いることもできる。なお、本発明において、貧溶媒とは、前記シータ温度が室温(20℃)以上の溶媒を指す。
【0051】
また、前記溶媒に代えて、又は前記溶媒に加えて、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、オレフィン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の各種樹脂を用いることにより、本発明の分散液を樹脂組成物とすることもできる。
【0052】
このような分散液及び樹脂組成物としては、本発明の効果を阻害しない範囲内において、金属ナノ粒子等の他の金属粒子、界面活性剤、界面活性能を有する高分子、リビングラジカル重合開始剤、リビングラジカル重合触媒等を更に含有していてもよい。
【0053】
次いで、本発明の有機無機複合粒子の製造方法について説明する。本発明の有機無機複合粒子の製造方法は、
無機粒子及び有機ポリマーを含有する有機無機複合粒子の製造方法であって、
前記無機粒子、第1のモノマー及び溶媒を含有する反応溶液中において、前記無機粒子の表面に重合性反応基を導入する修飾処理を施すことなく、前記第1のモノマーをリビングラジカル重合せしめると共に得られた第1のポリマーを前記無機粒子の表面に吸着させ、前記第1のポリマーからなる前記親水性ブロック(A)を得る第1の重合工程と、
前記第1の重合工程の後に前記反応溶液に第2のモノマーを添加し、前記第2のモノマーをリビングラジカル重合せしめると共に得られた第2のポリマーを前記第1のポリマーの伸長末端に重合せしめて前記親水性ブロック(A)の外側に積層させ、前記第2のポリマーからなる疎水性ブロック(B)を得る第2の重合工程とを含み、
前記無機粒子、前記第1のポリマー、前記第2のポリマー及び前記溶媒の表面自由エネルギーが、下記式(2):
E
NP>E
A>E
B>E
S ・・・(2)
[式(2)中、E
NPは無機粒子の表面自由エネルギーを示し、E
Aは第1のポリマーの表面自由エネルギーを示し、E
Bは第2のポリマーの表面自由エネルギーを示し、E
Sは溶媒の表面自由エネルギーを示す。]
で表される条件を満たすものであり、これにより、上記本発明の有機無機複合粒子を容易に大量に得ることができる。
【0054】
本発明の有機無機複合粒子の製造方法においては、先ず、前記無機粒子、第1のモノマー及び溶媒を含有する反応溶液中において、前記無機粒子の表面に重合性反応基を導入する修飾処理を施すことなく、前記第1のモノマーをリビングラジカル重合せしめると共に得られた第1のポリマーを前記無機粒子の表面に吸着させて配置させ、前記第1のポリマーからなる親水性ブロック(A)を得る(第1の重合工程)。
【0055】
前記無機粒子としては、前記本発明の有機無機複合粒子において述べたとおりである。なお、無機粒子の粒子径としては、上記と同様の観点から、粒子径が1〜10,000nmであることが好ましく、3〜10,000nmであることがより好ましく、5〜1,000nmであることがさらに好ましく、このような粒子径は走査型電子顕微鏡(SEM)による観察により測定することができるが、本発明の製造方法に用いる無機粒子としては、ガス吸着法によって求められる体積平均粒子径(APS)が上記範囲内にある無機粒子を用いてもよい。また、本発明の製造方法に用いる無機粒子は、特に制限されず、粉砕法、気相法、液相法等の従来公知の方法を適宜選択することにより製造することができ、市販のものを適宜用いてもよい。
【0056】
前記第1のモノマーとしては、重合せしめて得られるポリマーが上記式(2)で表される条件を満たす前記第1のポリマーとなるものであればよく、特に制限されないが、前記本発明の有機無機複合粒子において親水性のラジカル重合性モノマーとして挙げたものを好適に用いることができる。これらの第1のモノマーとしては1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよく、得られるポリマーの表面自由エネルギーが上記式(2)で表される条件を満たす限り、前記疎水性のラジカル重合性モノマーを組み合わせて用いてもよい。中でも、より安定な有機無機複合粒子を得ることができ、重合中に粒子が凝集することを抑制できる傾向にあるという観点からは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。また、前記第1のポリマーとしては、前記本発明の有機無機複合粒子において述べたとおりである。
【0057】
前記溶媒としては、前記第1のモノマー及び下記の第2のモノマーを溶解又は混和することができるものであり、かつ、上記式(2)で表される条件を満たすものであることが必要である。なお、本発明に係る溶媒の表面自由エネルギーは、円環法により、デュヌーイ式張力計を用いて測定することにより求めることができる。このような溶媒としては、前記第1のモノマー、下記の第2のモノマー、前記第1のポリマー及び前記第2のポリマーの種類にも依存するが、例えば、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフランが挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
本発明の製造方法においては、前記反応溶液に含有せしめる前及び反応溶液中において、前記無機粒子の表面に対して重合性反応基を導入する修飾処理を施さない。前記修飾処理としては、前記本発明の有機無機複合粒子において述べたとおりである。
【0059】
本発明の製造方法に係る第1の重合工程においては、前記無機粒子、前記第1のモノマー及び前記溶媒を含有する反応溶液中において前記第1のモノマーをリビングラジカル重合せしめる。このようなリビングラジカル重合の方法としては、適宜公知の方法を採用することができ、例えば、ニトロキシドを介したラジカル重合(NMP)、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合、原子移動ラジカル重合(ATRP)が挙げられる。
【0060】
また、このようなリビングラジカル重合に用いる開始剤としては、特に制限されないが、azobisisobutyronitrile(AIBN)、Benzoyl Peroxide(BPO)、Di−tert−Butyl Peroxide(DBPO)、2,2’−Azobis(2,4−dimethylvaleronitrile)(V−65)、2,2’−Azobis(4−methoxy−2,4−dimethylvaleronitrile)(V−70)、2−bromoisobutyrate(EBIB)、methyl 2−chloropropionate(MCP)等が挙げられる。また、このようなリビングラジカル重合に用いる触媒としても、特に制限されないが、2,2,6,6−tetramethylpiperidine 1−oxyl (TEMPO);Cu(I)Cl(配位子によって安定化されたもの);Cu(I)Br(配位子によって安定化されたもの);cumyl dithiobenzoate(CDB)等のdithiobenzoates;benzylpropyl trithiocarbonate等のtrithiocarbonates;Benzyl octadecyl trithiocarbonate等が挙げられる。前記開始剤及び触媒の濃度としては、該開始剤及び触媒の種類にも依存するが、反応溶液中においてそれぞれ0.001〜100mMであることが好ましい。
【0061】
このようなリビングラジカル重合の条件としては、採用する反応方法、前記無機粒子及び前記第1のモノマーに依存するため一概にはいえないが、前記第1のモノマーの重合が完全に終了する条件であることが好ましく、反応温度としては、20〜150℃であることが好ましく、反応時間としては、2〜48時間であることが好ましい。また、このような条件を適宜調整することにより、前記本発明の有機無機複合粒子において述べた有機ポリマーの数平均分子量、分子量分布、含有量等の好ましい条件を満たす複合粒子を得ることができる。
【0062】
さらに、前記反応溶液中における前記無機粒子と前記第1のモノマーとの質量比(無機粒子質量:第1のモノマー質量)としては、1:100〜100:1であることが好ましく、1:10〜10:1であることがより好ましい。前記第1のモノマーの割合が前記下限未満である場合には、無機粒子表面における第1のポリマーの被覆率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、無機粒子の含有比率が低下する傾向にある。
【0063】
本発明の製造方法に係る第1の重合工程においては、前記反応溶液中において前記第1のモノマーをリビングラジカル重合せしめることにより、得られる第1のポリマーが前記溶媒に対して不溶、或いは混和することが困難となるために析出して前記無機粒子の表面に集積(吸着)され、前記無機粒子の表面に前記第1のポリマーが吸着され、配置されてなる親水性ブロック(A)を得ることができる。
【0064】
本発明の有機無機複合粒子の製造方法においては、次いで、前記第1の重合工程の後に前記反応溶液に第2のモノマーを添加し、前記第2のモノマーをリビングラジカル重合せしめると共に得られた第2のポリマーを前記第1のポリマーの伸長末端に重合せしめて前記親水性ブロック(A)の外側に積層させ、前記第2のポリマーからなる疎水性ブロック(B)を得る(第2の重合工程)。
【0065】
前記第2のモノマーとしては、重合せしめて得られるポリマーが上記式(2)で表される条件を満たす前記第2のポリマーとなるものであればよく、特に制限されないが、前記本発明の有機無機複合粒子において疎水性のラジカル重合性モノマーとして挙げたものを好適に用いることができる。これらの第2のモノマーとしては1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよく、得られるポリマーの表面自由エネルギーが上記式(2)で表される条件を満たす限り、前記親水性のラジカル重合性モノマーを組み合わせて用いてもよい。中でも、より安定な有機無機複合粒子を得ることができる傾向にあり、リビングラジカル重合させやすいという観点からは、スチレンが好ましい。なお、本発明に係る第1のモノマー及び第2のモノマーとしては、得られるポリマーが上記式(2)で表される条件を満たせばよく、例えば、前記第1のモノマーとしてヒドロキシエチルメタクリレートを用い、前記第2のモノマーとしてメチルメタクリレートを用いてもよい。また、前記第2のポリマーとしては、前記本発明の有機無機複合粒子において述べたとおりである。
【0066】
本発明の製造方法に係る第2の重合工程においては、前記第1の重合工程後の反応溶液中において前記第2のモノマーをリビングラジカル重合せしめる。このようなリビングラジカル重合としては、前記第1の重合工程において述べたとおりである。
【0067】
また、前記第1の重合工程に用いた第1のモノマーと第2のモノマーとの質量比(第1のモノマー質量:第2のモノマー質量)としては、1:1〜1:1,000であることが好ましく、1:2〜1:500であることがより好ましい。前記第2のモノマーの割合が前記下限未満である場合には、無機粒子の表面が十分に疎水性とならない傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、有機ポリマーが無機粒子の表面から脱離しやすくなる傾向にある。
【0068】
本発明の製造方法に係る第2の重合工程においては、前記反応溶液中において前記第2のモノマーをリビングラジカル重合せしめることにより、得られる第2のポリマーの表面自由エネルギーが前記溶媒の表面自由エネルギーよりも大きいために、前記第1のポリマーからなる親水性ブロック(A)の外側に前記第2のポリマーからなる疎水性ブロック(B)が積層された複合粒子を得ることができる。また、本発明においては、前記第1のポリマーと前記無機粒子との吸着力が十分に大きく、かつ、前記第1のポリマーと前記第2のポリマーとが結合しているため、前記溶媒が前記第2のポリマーの良溶媒である場合にもポリマーが溶媒層に溶け出さず、前記第2のポリマーからなる疎水性ブロック(B)が前記第1のポリマーからなる親水性ブロック(A)の外側に安定に積層されて配置される。
【0069】
本発明の製造方法においては、前記第1の重合工程及び/又は前記第2の重合工程の後に、遠心分離により、有機ポリマーで被覆された無機粒子と、モノマー及び無機粒子に吸着していない有機ポリマーとを分離する工程を更に含んでいることが好ましい。
【0070】
このようにして、前記無機粒子及び前記有機ポリマーを含有する本発明の有機無機複合粒子が前記溶媒中に分散された分散液を得ることができる。本発明においては、ろ過、遠心分離等の方法でこの分散液から前記有機無機複合粒子を回収することにより本発明の有機無機複合粒子を得ることができる。また、得られた分散液をそのまま本発明の分散液としてもよく、回収した有機無機複合粒子を適宜溶媒及び/又は樹脂中に再分散させて本発明の分散液又は樹脂組成物としてもよい。
【0071】
このように、本発明の製造方法によれば、前記無機粒子の表面に重合性反応基を導入する修飾処理を施すことなく、前記本発明の有機無機複合粒子を得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、前記無機粒子に対して前記有機ポリマーを十分に安定に多く吸着させることができ、また、前記無機粒子の粒子径、前記第1のポリマー及び第2のポリマーの重合度を調整することにより、得られる有機無機複合粒子の粒子径を容易に制御することもできる。また、本発明の製造方法によれば、前記無機粒子の種類に制限されず、本発明の有機無機複合粒子を量産(グラムオーダー以上、さらにはメートルトンオーダー以上)することができる。
【0072】
本発明の有機無機複合粒子は、無機粒子の種類によって幅広い用途に用いることができ、例えば、無機粒子がFe
2O
3である場合には顔料、磁性材料等;CeO
2である場合には研磨剤、触媒担体、イオン導電体、固体電解質等;TiO
2である場合には光触媒、高屈折率材料、顔料、化粧品等;Y
2O
3である場合には顔料、触媒担体等;Gd
2O
3である場合にはMRI、X線マルチイメージング材料等;In
2O
3である場合には透明導電体等;ZnOである場合には螢光体材料、導電性材料、顔料、電子材料等;SnO
2である場合には導電性材料、導電体、センサー等、Nb
2O
3である場合には磁性材料等、ZrO
2である場合には高屈折率材料、酸素貯蔵材料等、Cu、Ag、Alである場合には電極、触媒材料等;Niである場合には電極、磁性材料、触媒材料等;Co、Feである場合には磁性材料、触媒材料等;Ag/Cuである場合には電極、触媒材料等、AlN、TiB
2である場合には高温材料、高強度材料等、TiNである場合には高硬度、低腐食性コーティング材料、導電性材料等の用途に用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例における各測定及び評価はそれぞれ以下の方法により実施した。
【0074】
<表面観察>
各実施例及び比較例で得られた粒子をマイカ上にキャストしてPtコーティングした後、走査型電子顕微鏡(SEM、商品名:S−4800、製造社:日立ハイテクノロジー)を用いて粒子表面の状態を観察した。また、得られた粒子の直径を測定した。なお、前記直径は、各粒子の断面の最大直径とし、粒子の断面が円形ではない場合には、その断面の最大の外接円を直径とした。
【0075】
<GPC測定>
各実施例及び比較例における反応後の反応溶液から遠心分離により回収された無機粒子に吸着していないポリマーについて、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC、商品名:Alliance2695システム、製造社:WATERS)を用い、カラム:Shodex製、ガードカラムKF−G、KF−803L;排除限界:7×10
4D、KF−805L;排除限界:4×10
6D(D:ダルトン(g mol
−1と同じ次元を持つ単位));検出器:示差屈折率計(RI);移動層:テトラヒドロフラン(THF);溶出速度:1mL/min;カラム温度:35℃の条件で溶出を行なった。また、PS標準試料(Polymer Standard Service、PSS−Kit(PS)、M
p.(ピークトップ分子量):682−1.67×10
6D)、及び、PMMA標準試料(PSS−Kit(PMMA)、M
p.:102−9.81×10
5D)を用いてキャリブレーションを行い、各ポリマーの数平均分子量(Mn[g/mol])、重量平均分子量(Mw[g/mol])、及び分子量分布(Mw/Mn)を算出した。なお、得られたMn、Mw、及びMw/Mnは、それぞれ、無機粒子に吸着しているポリマーのMn、Mw、及びMw/Mnに相当するものと認められる。
【0076】
<熱重量測定>
各実施例及び比較例で得られた粒子について、熱重量(TG)測定装置(商品名:TG8120、製造社:リガク)を用い、アルゴンガスを30mL/minで供給しながら100〜750℃における粒子の質量(重量)変化を測定し、得られた粒子におけるポリマーの含有率(質量%)を測定した。
【0077】
また、各実施例及び比較例で用いた無機粒子の一次粒子径(体積平均粒子径)、上記GPC測定により得られたポリマーのMn、Mw、及び上記ポリマーの含有率から、無機粒子1粒あたりに吸着しているポリマーの分子数(鎖数)(chains/NP(ポリスチレン換算))、並びに、前記無機粒子の単位表面積あたりにおけるポリマーの分子数(鎖数)(chains/nm
2)を求めた。
【0078】
<分散性評価>
各実施例及び比較例で得られた粒子の20質量%トルエン分散液を調製し、これを20℃において1時間静置した後の分散性を目視により観察し、次の基準:
A:分散性が良好であり、沈殿はみられない
B:沈殿が確認され、ほぼ上清と沈殿とに分かれている
C:分散液を調製してすぐ(5分以内)に沈殿し、上清と沈殿とに分かれている
に従って評価を行った。
【0079】
<粒度分布測定>
各実施例及び比較例で得られた粒子の0.01質量%トルエン分散液を調製し、溶媒中における分散子の分散子直径を動的光散乱法(DLS)により、25℃において、Zetasizer Nano ZS(Malvern社製)を用いて測定し、3回の測定の平均値をプロットして粒度分布(体積分布)を得た。また、原料として用いた無機粒子についても同様に粒度分布を得た。なお、分散子直径が小さい程、分散性に優れていることを示す。
【0080】
(実施例1 NMP)
先ず、アルゴン置換されたグローブボックス内において、1mLトルエン(表面自由エネルギー(20℃における、以下同じ):28.5mN/m)中に25.6mMの2,2,6,6−tetramethylpiperidine 1−oxyl (TEMPO)、3.04mMのazobisisobutyronitrile(AIBN)及び1gのエチルアクリレート(EA、ポリエチルアクリレートの水滴接触角:62°、表面自由エネルギー:36.5mN/m)を添加したトルエン溶液を調製し、冷凍庫内(−35℃)に保存しておいた。次いで、同グローブボックス内において、ねじ口試験管に0.5gの無機粒子(α−Al
2O
3、一次粒子径:40〜80nm、体積平均粒子径(APS):60nm、水滴接触角:63°、表面自由エネルギー:45mN/m以上、NanoAmor社製)、及び2mLの前記トルエン溶液を入れて攪拌し、反応溶液を調製した後、これを120℃に加熱しておいたアルミブロックヒーターに設置して重合を開始させた。重合開始から12時間後に前記反応溶液に2gのスチレン(ST、ポリスチレンの水滴接触角:84°、表面自由エネルギー:34.5mN/m)を添加してさらに24時間反応させた後、反応溶液をヒーター並びにグローブボックスから取り出し、酸素リッチにしておいたクロロホルムを加えて重合を完全に停止させた。次いで、反応後の反応溶液を15,000rmpにおいて30分間遠心して上清を取り除く操作を3回繰り返し、取り除いた上清中に無機粒子に吸着していないポリマーを、沈殿物として無機粒子にポリマーが吸着された粒子をそれぞれ得た。
【0081】
(実施例2〜15)
無機粒子、エチルアクリレート、及びスチレンをそれぞれ表1に示す組成としたこと以外は実施例1と同様にして無機粒子に吸着していないポリマー及び無機粒子にポリマーが吸着された粒子をそれぞれ得た。
【0082】
(実施例16〜18 NMP)
エチルアクリレートに代えて2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA、ポリ2−ヒドロキシエチルアクリレートの水滴接触角:48°、表面自由エネルギー:37.8mN/m)を0.5g用い、無機粒子を表1に示す組成としたこと以外は実施例1と同様にして無機粒子に吸着していないポリマー及び無機粒子にポリマーが吸着された粒子をそれぞれ得た。
【0083】
(実施例19 ATRP)
先ず、アルゴン置換されたグローブボックス内において、2mLジクロロメタン(表面自由エネルギー:28.9mN/m)中に71mMの2−bromoisobutyrate(EBIB)、141mMのCu(I)Cl、290mMの4,4’−Dinonyl−2,2’−dipyridyl(dNbpy)及び0.5gの2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA、ポリ2−ヒドロキシエチルメタクリレートの表面自由エネルギー:37.1mN/m)を添加したジクロロメタン溶液を調製し、冷凍庫内(−35℃)に保存しておいた。次いで、同グローブボックス内において、ねじ口試験管に1gの無機粒子(α−Al
2O
3、一次粒子径:40〜80nm、体積平均粒子径(APS):60nm、水滴接触角:63°、表面自由エネルギー:45mN/m以上、NanoAmor社製)、及び2mLの前記ジクロロメタン溶液を入れて攪拌し、反応溶液を調製した後、これを50℃に加熱しておいたアルミブロックヒーターに設置して重合を開始させた。重合開始から12時間後に前記反応溶液に1.5gのメチルメタクリレート(MMA、ポリメチルメタクリレートの表面自由エネルギー:34.5mN/m)を添加してさらに24時間反応させた後、反応溶液をヒーター並びにグローブボックスから取り出し、酸素リッチにしておいたクロロホルムを加えて重合を完全に停止させた。次いで、反応後の反応溶液を15,000rmpにおいて30分間遠心して上清を取り除く操作を3回繰り返し、取り除いた上清中に無機粒子に吸着していないポリマーを、沈殿物として無機粒子にポリマーが吸着された粒子をそれぞれ得た。
【0084】
(実施例20〜21)
無機粒子、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、及びメチルメタクリレートをそれぞれ表1に示す組成としたこと以外は実施例19と同様にして無機粒子に吸着していないポリマー及び無機粒子にポリマーが吸着された粒子をそれぞれ得た。
【0085】
(実施例22 RAFT)
先ず、アルゴン置換されたグローブボックス内において、2mLのクロロホルム(表面自由エネルギー:27.1mN/m)中に7.8mMのBenzyl octadecyl trithiocarbonate、1.5mMの2,2’−Azobis(2,4−dimethylvaleronitrile)(V−65)、及び1gの2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA、ポリ2−ヒドロキシエチルアクリレートの表面自由エネルギー:37.8mN/m)を添加したクロロホルム溶液を調製し、冷凍庫内(−35℃)に保存しておいた。次いで、同グローブボックス内において、ねじ口試験管に1gの無機粒子(α−Al
2O
3、一次粒子径:40〜80nm、体積平均粒子径(APS):60nm、水滴接触角:63°、表面自由エネルギー:45mN/m以上、NanoAmor社製)、及び2mLの前記クロロホルム溶液を入れて攪拌し、反応溶液を調製した後、これを50℃に加熱しておいたアルミブロックヒーターに設置して重合を開始させた。重合開始から12時間後に前記反応溶液に3gのスチレン(ST、ポリスチレンの水滴接触角:84°、表面自由エネルギー:34.5mN/m)を添加してさらに24時間反応させた後、反応溶液をヒーター並びにグローブボックスから取り出し、酸素リッチにしておいたトルエンを加えて重合を完全に停止させた。次いで、反応後の反応溶液を15,000rmpにおいて30分間遠心して上清を取り除く操作を3回繰り返し、取り除いた上清中に無機粒子に吸着していないポリマーを、沈殿物として無機粒子にポリマーが吸着された粒子をそれぞれ得た。
【0086】
(比較例1)
実施例1で用いた無機粒子をそのまま各測定及び評価に用いた。
【0087】
(比較例2)
実施例3で用いた無機粒子をそのまま各測定及び評価に用いた。
【0088】
(比較例3)
先ず、無機粒子(α−Al
2O
3、一次粒子径:40〜80nm、体積平均粒子径(APS):60nm、NanoAmor社製)をガラス製シャーレの上に薄く広げ、プラズマエッチャー(商品名:SEDE、製造社:メイワフォーシス)内に設置して15分間プラズマ処理を行なった。次いで、アルゴン置換されたグローブボックス内において、9.6mMの2,2,6,6−tetramethylpiperidine 1−oxyl(TEMPO)のスチレン溶液を調製して冷凍庫(−35℃)に保存しておいた。次いで、同グローブボックス内において、ねじ口試験管に、0.5gの前記プラズマ処理後の無機粒子、及び3gの前記スチレン溶液を入れ、攪拌して反応溶液を調製し、これを125℃に加熱しておいたアルミブロックヒーターに設置して重合を開始させた。重合開始から12時間後に反応溶液をヒーター並びにグローブボックスから取り出し、酸素リッチにしておいたクロロホルムを加えて重合を完全に停止させた。次いで、反応後の反応溶液を15,000rmpにおいて30分間遠心して上清を取り除く操作を3回繰り返し、沈殿物として無機粒子にポリマーが吸着された粒子をそれぞれ得た。
【0089】
各実施例及び比較例において得られた粒子について表面観察を実施した。実施例1、3、比較例1〜2のSEM写真を
図2A〜
図5に示す。
図2A、
図2B及び
図4に示した結果から明らかなように、本発明の製造方法で得られた粒子はいずれも表面が滑らかであり、無機粒子の表面が有機ポリマーにより被覆されていることが確認された。また、実施例1で得られた粒子の粒子径は40〜80nmの範囲内にあり、実施例3で得られた粒子の粒子径は15〜35nmの範囲内にあった。
【0090】
また、各実施例及び比較例において得られた無機粒子に吸着していないポリマー及び粒子についてGPC測定及び熱重量測定を実施した。実施例1〜16において得られた粒子における無機粒子に吸着しているポリマーのMn(g/mol)及びMw/Mn、並びに、無機粒子1粒あたりに吸着している分子数(chains/NP(ポリスチレン換算))を、各粒子の組成と共に表1に示す。また、実施例1及び比較例3で得られた粒子の熱重量測定の結果を
図6に示す。なお、熱重量測定において、実施例1で得られた粒子については分級操作を行っていないが、比較例3で得られた粒子については、高分子のグラフト鎖が多いと思われる粒子(分散性の高い粒子)を分級して測定に用いた。
【0091】
また、表1において、無機粒子の粒子径はガス吸着法によって求められる粒子径の範囲及び体積平均粒子径(APS)を示す。また、各無機粒子の表面自由エネルギーはいずれも45mN/m以上であった。
【0092】
GPC測定及び熱重量測定より、実施例1及び3において、前記無機粒子の単位表面積あたりにおける前記有機ポリマーの含有量は、それぞれ分子数(鎖数)で、0.0066chains/nm
2及び0.0153chains/nm
2であった。また、熱重量測定より、得られた粒子における有機ポリマーの含有率は、比較例3においては2.5質量%であったのに対して、実施例1においては6質量%、実施例3においては17質量%であった。
【0093】
また、各実施例及び比較例において得られた粒子について分散性評価を実施した結果を表1にあわせて示す。さらに、実施例3、6、9〜10、13〜15、17で得られた粒子の分散液を1時間静置させた後の状態を示す写真を
図7〜8に示す。なお、
図8に示す実施例17で得られた粒子の分散液の濃度は50質量%である。各実施例で得られた分散液は十分に分散しており、特に、実施例6で無機粒子として用いたγ‐Fe
2O
3は磁性を帯びているにもかかわらず、有機ポリマーで被覆していない場合に比べて分散性が優れていた。
【0094】
また、実施例3で得られた粒子及び実施例3に用いた無機粒子(γ−Al
2O
3、一次粒子径(体積平均粒子径(APS)):25nm)の分散液について、分散子直径を測定して得られた粒度分布を
図9に示す。
図9に示した結果から明らかなとおり、有機ポリマーで被覆した後の無機粒子(アルミナ粒子)は良好な分散を示した。
【0095】
【表1】
【0096】
表1及び
図2A、
図2B及び
図4に示した結果から明らかなように、本発明の製造方法により、無機粒子の表面に重合性反応基を導入する修飾処理を施すことなく、多種類の無機粒子の表面を有機ポリマーで均一に覆うことが可能であり、有機ポリマーの含有率が十分に高い有機無機複合粒子を大量に得ることが可能であることが確認された。なお、本発明の製造方法により、例えば実施例1と同様の方法により、一度に5g以上の有機無機複合粒子が得られることが確認されている。また、表1及び
図7〜8に示した結果から明らかなように、本発明の有機無機複合粒子は十分に安定であり、分散性に優れることが確認された。