特許第5972492号(P5972492)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5972492粘着剤組成物、粘着部材及びブレーキシム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5972492
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】粘着剤組成物、粘着部材及びブレーキシム
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/02 20060101AFI20160804BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20160804BHJP
   F16D 65/095 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   C09J133/02
   C09J11/06
   F16D65/095 H
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-29665(P2016-29665)
(22)【出願日】2016年2月19日
【審査請求日】2016年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-33921(P2015-33921)
(32)【優先日】2015年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】安田 琢美
(72)【発明者】
【氏名】狩野 肇
(72)【発明者】
【氏名】中野 宏人
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/029298(WO,A1)
【文献】 特開2004−155853(JP,A)
【文献】 特開2005−146151(JP,A)
【文献】 特開2007−051222(JP,A)
【文献】 特開2002−295548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
F16D49/00− 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含む(メタ)アクリル系重合体と、金属キレート系架橋剤と、を含み、下記式(1)及び(2)の条件を満たす、ブレーキシムを構成する粘着部材を形成するための粘着剤組成物。
X×Y≧2.0 ・・・(1)
(1−X)×Y≧1.2 ・・・(2)
式中、Xは前記(メタ)アクリル系重合体に含まれる前記カルボキシ基の数に対する前記粘着剤組成物に含まれる前記金属キレート系架橋剤の金属イオンの数に金属イオンの価数を乗じて得られる値の比率(当量)であり、Yは前記(メタ)アクリル系重合体に含まれる前記カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率(モル%)にカルボキシ基を有するモノマー1分子あたりのカルボキシ基の個数を乗じて得られる値である。
【請求項2】
さらに下記式(3)の条件を満たす、請求項1に記載の粘着剤組成物。
X×Y≦8.0 ・・・(3)
【請求項3】
さらに下記式(4)の条件を満たす、請求項1又は請求項2に記載の粘着剤組成物。
(1−X)×Y≧6.0 ・・・(4)
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系重合体は、重量平均分子量(Mw)が80万〜200万であり、且つ、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される分散度(Mw/Mn)が7.0以下である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度が−50℃〜10℃である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル系重合体はn−ブチルアクリレートに由来する構成単位を含み、前記n−ブチルアクリレートに由来する構成単位の含有率(質量%)が全構成単位中で最も多い、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
前記金属キレート系架橋剤はアルミニウムキレート化合物を含む、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項8】
架橋後のゲル分率が95質量%以上である、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項9】
架橋後のTピール密着強度試験により測定されるアルミニウム板に対する粘着力が10N/25mm以上である、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項10】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の粘着剤組成物に由来し、前記(メタ)アクリル系重合体と前記金属キレート系架橋剤とが架橋反応して形成された架橋構造を含む、ブレーキシムを構成する粘着部材。
【請求項11】
カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含む(メタ)アクリル系重合体と金属キレート系架橋剤とが架橋反応して形成された架橋構造を含み、ゲル分率が95質量%以上であり、Tピール密着強度試験により測定されるアルミニウム板に対する粘着力が10N/25mm以上である、ブレーキシムを構成する粘着部材。
【請求項12】
金属部材と、請求項10又は請求項11に記載の粘着部材と、を有するブレーキシム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物、粘着部材及びブレーキシムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の快適性や静粛性に対するユーザーのニーズが高まるにつれ、ブレーキ制動時に生じる音の発生(いわゆるブレーキ鳴き)の抑制が求められている。ブレーキ鳴きは、ブレーキパッドとローターが接触することによる振動がローターにより増幅されることで発生する。そこで、ブレーキ鳴きを抑えるために、ブレーキパッドのバックプレートにブレーキシムを装着することが行われている。さらに、ゴム、金属、粘着剤等からなる部材を組み合わせた多層構造のブレーキシムとすることで制振性を高め、ブレーキ鳴きを抑制することが行われている。
【0003】
近年、従来の油圧式のブレーキに代えて、油圧装置が不要で軽量化が可能な電動パーキングブレーキ(EPB)の普及が進んでいる。電動パーキングブレーキでは、油圧式に比べてブレーキシムにかかる面圧が高くなるため、ブレーキ制動時の高温高圧下でも高い弾性を保持できることが重要である。
【0004】
従来の油圧式のブレーキシム用の粘着剤として、特許文献1の[0022]段落には、アクリル系粘着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−295548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1等に記載の既存のアクリル系粘着剤では高温高圧下で高い弾性を保持できずに樹脂フローと呼ばれる粘着剤がブレーキシムから流れ出る現象が発生するため、電動パーキングブレーキへの適用は困難であった。
本発明は上記事情に鑑み、高温高圧下でも高い弾性が保持され、かつ金属被着体に対する粘着力に優れる粘着部材を製造可能な粘着剤組成物、この粘着部材及びこれを有するブレーキシムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための具体的手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含む(メタ)アクリル系重合体と、金属キレート系架橋剤と、を含み、下記式(1)及び(2)の条件を満たす粘着剤組成物。
X×Y≧2.0 ・・・(1)
(1−X)×Y≧1.2 ・・・(2)
式中、Xは前記(メタ)アクリル系重合体に含まれる前記カルボキシ基の数に対する前記粘着剤組成物に含まれる前記金属キレート系架橋剤の金属イオンの数に金属イオンの価数を乗じて得られる値の比率(当量)であり、Yは前記(メタ)アクリル系重合体に含まれる前記カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率(モル%)にカルボキシ基を有するモノマー1分子あたりのカルボキシ基の個数を乗じて得られる値である。
<2>さらに下記式(3)の条件を満たす、<1>に記載の粘着剤組成物。
X×Y≦8.0 ・・・(3)
<3>さらに下記式(4)の条件を満たす、<1>又は<2>に記載の粘着剤組成物。
(1−X)×Y≧6.0 ・・・(4)
<4>前記(メタ)アクリル系重合体は、重量平均分子量(Mw)が80万〜200万であり、且つ、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される分散度(Mw/Mn)が7.0以下である、<1>〜<3>のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
<5>前記(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度が−50℃〜10℃である、<1>〜<4>のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
<6>前記(メタ)アクリル系重合体はn−ブチルアクリレートに由来する構成単位を含み、前記n−ブチルアクリレートに由来する構成単位の含有率(質量%)が全構成単位中で最も多い、<1>〜<5>のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
<7>前記金属キレート系架橋剤はアルミニウムキレート化合物を含む、<1>〜<6>のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
<8>架橋後のゲル分率が95質量%以上である、<1>〜<7>のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
<9>架橋後のTピール密着強度試験により測定されるアルミニウム板に対する粘着力が10N/25mm以上である、<1>〜<8>のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
<10>ブレーキシムを構成する粘着部材を形成するための、<1>〜<9>のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
<11><1>〜<10>のいずれか1項に記載の粘着剤組成物に由来し、前記(メタ)アクリル系重合体と前記金属キレート系架橋剤とが架橋反応して形成された架橋構造を含む、粘着部材。
<12>カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含む(メタ)アクリル系重合体と金属キレート系架橋剤とが架橋反応して形成された架橋構造を含み、ゲル分率が95質量%以上であり、Tピール密着強度試験により測定されるアルミニウム板に対する粘着力が10N/25mm以上である、粘着部材。
<13>金属部材と、<11>又は<12>に記載の粘着部材と、を有するブレーキシム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温高圧下でも高い弾性が保持され、かつ金属被着体に対する粘着力に優れる粘着部材を製造可能な粘着剤組成物、この粘着部材及びこれを有するブレーキシムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において「工程」なる用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」の両者を意味し、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
本明細書において「粘着剤組成物」とは、(メタ)アクリル系重合体と金属キレート系架橋剤とを混合した直後から架橋反応が終了する前の物体であって、例えば、液状、ペースト状又は粉末状の物体を意味し、「粘着部材」と「架橋後の粘着剤組成物」とは、(メタ)アクリル系重合体と金属キレート系架橋剤との架橋反応が終了した後の物体であって、例えば、固形状又はゲル状の成形体を意味する。
【0010】
[粘着剤組成物]
本発明の粘着剤組成物は、カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含む(メタ)アクリル系重合体と、金属キレート系架橋剤と、を含み、下記式(1)及び(2)の条件を満たす。
X×Y≧2.0 ・・・(1)
(1−X)×Y≧1.2 ・・・(2)
【0011】
式中、Xは(メタ)アクリル系重合体に含まれるカルボキシ基の数に対する粘着剤組成物に含まれる金属キレート系架橋剤の金属イオンの数に金属イオンの価数を乗じて得られる値の比率(当量)であり、Yは(メタ)アクリル系重合体に含まれるカルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率(モル%)にカルボキシ基を有するモノマー1分子あたりのカルボキシ基の個数を乗じて得られる値である。
【0012】
本発明の粘着剤組成物は、(メタ)アクリル系重合体を含む。このため、粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合体のカルボキシ基と金属キレート系架橋剤とが架橋した後の粘着剤組成物は、適度な粘弾性を有する。従って、架橋後の粘着剤組成物をブレーキシムに使用した際に十分な制振性を発揮でき、ブレーキ鳴きを効果的に抑制できる。
【0013】
本発明の粘着剤組成物は、金属キレート系架橋剤を含む。金属キレート系架橋剤は、(メタ)アクリル系重合体に含まれるカルボキシ基と反応して架橋構造を形成する。金属キレート系架橋剤を使用することで、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤等を用いる場合に比べ、高温高圧下での弾性と粘着性とのバランスが良好となる。
【0014】
本発明の粘着剤組成物は、式(1)の条件を満たす。すなわち、架橋後の粘着剤組成物中に所定値以上の架橋構造が形成される。架橋構造が所定値以上形成されることにより、高温高圧下でも高い弾性を保持できる。このため、電動パーキングブレーキ用のブレーキシム等に適用した場合でも樹脂フローの発生を効果的に抑制できる。
【0015】
本発明の粘着剤組成物は、式(2)の条件を満たす。すなわち、(メタ)アクリル系重合体中に金属キレート系架橋剤との架橋に寄与しないカルボキシ基が所定値以上存在する。このため、架橋後の粘着剤組成物中にも架橋に寄与しないカルボキシ基が所定値以上存在する。これにより、架橋後の粘着剤組成物を金属被着体に貼り付けて使用する場合、カルボキシ基と金属被着体との間に相互作用が生じて高い粘着力を発揮する。
【0016】
本発明の粘着剤組成物は、下記式(3)の条件を満たすことが好ましい。
X×Y≦8.0 ・・・(3)
本発明の粘着剤組成物が式(3)の条件を満たす場合、粘着組成物中に形成される架橋構造の量が多すぎず、高温高圧下での弾性と粘着性とのバランスがより良好である。
【0017】
本発明の粘着剤組成物は、下記式(4)の条件を満たすことが好ましい。
(1−X)×Y≧6.0 ・・・(4)
本発明の粘着剤組成物が式(4)の条件を満たす場合、架橋に寄与しないカルボキシ基と金属被着体との間の相互作用が十分に生じて金属被着体に対する粘着力が十分に確保される。
【0018】
本発明の粘着剤組成物は、(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)が80万〜200万であり、且つ、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される分散度(Mw/Mn)が7.0以下であることが好ましい。(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)が80万〜200万であり、且つ、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される分散度(Mw/Mn)が7.0以下である場合、高温高圧下でも高い弾性をより保持できる。このため、電動パーキングブレーキ用のブレーキシム等に適用した場合でも樹脂フローの発生を効果的に抑制できる。
【0019】
本発明の粘着剤組成物は、(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)が−50℃〜10℃であることが好ましい。(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)が−50℃〜10℃である場合、架橋後の粘着剤組成物をブレーキシムに使用した際に低温環境下でも十分な制振性を発揮でき、十分にブレーキ鳴きを抑制することができる。
【0020】
本発明の粘着剤組成物は、架橋後のTピール密着強度試験により測定されるアルミニウム板に対する粘着力(以下、単に粘着力ともいう)が10N/25mm以上であることが好ましい。粘着力が10N/25mm以上であると、粘着剤組成物の金属被着体に対する粘着力が十分確保され、ブレーキシム等を構成する金属部材に粘着部材を設ける場合に好適である。
【0021】
架橋後の粘着剤組成物の粘着力は10N/25mm以上であることが好ましく、20N/25mm以上であることがより好ましい。架橋後の粘着剤組成物の粘着力は、粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合体のカルボキシ基の量、金属キレート系架橋剤の量、架橋の条件等を変更することにより所望の値とすることができる。
【0022】
架橋後の粘着剤組成物のTピール密着強度試験は、以下の方法によって行う。
まず、シリコーン系離型剤で表面処理された剥離フィルムの離型剤処理面に、乾燥後の厚みが100μmとなるように粘着剤組成物を塗布する。次に、これを熱風循環式乾燥機を用いて65℃で360秒、次いで120℃で600秒の条件で乾燥させ、剥離フィルム上に粘着部材を形成する。さらに、粘着部材の上にシリコーン系離型剤で表面処理された剥離フィルムの離型剤処理面を貼り合せて粘着剤シートを作製する。
【0023】
次いで、大きさが25mm×125mmで厚みが0.2mmのアルミニウム板を2枚準備し、一方のアルミニウム板に大きさが25mm×100mmの上記で得た粘着剤シートから剥離フィルムを剥がしてアルミニウム板の一方の端から25mm×25mmの部分が空くようにして貼り合せ、さらに粘着剤シートから剥離フィルムを剥がしてもう一方のアルミニウム板を載せて積層体を作製する。次いで、プレス機の基盤の上にSUS板を置き、積層体の粘着剤が挟まれていない25mm×25mmの部分以外の部分にもう一枚のSUS板を載せる。積層体の温度が200℃になったことを確認し、200℃×0.75トン×3秒の条件で貼り合せを行う。貼り合せた積層体を25℃、50%RH環境下で24時間放置する。積層体の粘着剤が挟まれていない25mm×25mmの部分のアルミニウム板をそれぞれ直角に曲げ、試験の際の持ち手にする。これを引張試験機(テンシロン万能試験機)にセットし、50mm/分の引張速度で試験する。試験結果の平均値をTピール密着強度として評価する。
【0024】
本発明の粘着剤組成物は、架橋後のゲル分率が95質量%以上であることが好ましい。架橋後のゲル分率が95質量%以上であると、高温高圧下でも十分に高い弾性が保持される。このため、電動パーキングブレーキ用のブレーキシム等に適用した場合でも樹脂フローの発生が効果的に抑制される。
【0025】
架橋後の粘着剤組成物のゲル分率は、粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合体のカルボキシ基の量、金属キレート系架橋剤の量、架橋の条件等を変更することにより所望の値とすることができる。
【0026】
架橋後の粘着剤組成物のゲル分率は、下記(1)から(3)の操作をおこない、下記式から算出する。
ゲル分率(質量%)=[(N−L)/(M−L)]×100
式中、Lは金網の質量(g)であり、Mは抽出用試料の質量(粘着部材及び金網の総質量)(g)であり、Nは浸漬後、乾燥させた抽出用試料の質量(金網及び粘着部材の不溶分の総質量)(g)である。
【0027】
(1)精秤した250メッシュの金網(100mm×100mm)に、Tピール密着強度試験のために作製した粘着剤シートと同様の方法で作製した粘着剤シート(約0.5g)の両面の剥離フィルムを剥がして貼り付け、金網で包み、抽出用試料とする。この抽出用試料の質量(粘着部材及び金網の総質量)を精密天秤にて測定する。
(2)抽出溶媒として酢酸エチル80gが入ったガラス瓶の中に、抽出用試料を入れて3日間浸漬する。
(3)浸漬終了後、抽出用試料を取り出して少量の酢酸エチルで洗浄し、120℃で24時間乾燥させる。乾燥後の抽出用試料の質量(金網及び粘着部材の不溶分の総質量)を精密天秤にて測定する。
【0028】
<(メタ)アクリル系重合体>
本発明の粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合体は、カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含む。
【0029】
(メタ)アクリル系重合体を構成するカルボキシ基を有するモノマーとして具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、桂皮酸、コハク酸モノヒドロキシエチルレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フマル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,2−ジカルボキシシクロヘキサンモノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。カルボキシ基を有するモノマーは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0030】
(メタ)アクリル系重合体を構成するカルボキシ基を有するモノマーは、高温高圧下での弾性及び粘性に優れる架橋構造を所定値以上形成する観点から、アクリル酸、メタクリル酸及びω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0031】
本明細書において(メタ)アクリル系重合体とは、これを構成するモノマーのうち少なくとも主成分であるモノマーが(メタ)アクリル酸エステルである重合体を意味する。主成分であるモノマーとは、重合体を構成するモノマーの中で最も含有率(質量%)が大きいモノマーを意味する。本発明の(メタ)アクリル系重合体のある実施態様では、主成分である(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の含有率が全構成単位の50質量%以上である。
【0032】
(メタ)アクリル系重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステルの種類は特に制限されず、1種でも2種以上でもよいが、(メタ)アクリル酸エステルの全部又は一部がアルキル(メタ)アクリレートであることが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートは置換基を有していても、置換基を有していなくてもよい。(メタ)アクリル系重合体がカルボキシ基を置換基として有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含む場合は、当該構成単位がカルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位の全部又は一部に該当する。
【0033】
アルキル(メタ)アクリレートの種類は特に制限されない。アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状又は脂環状のいずれであってもよい。アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数は、1〜18の範囲であることが好ましい。
【0034】
無置換のアルキル(メタ)アクリレートとして具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、i−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。置換基を有するアルキル(メタ)アクリレートとして具体的には、上述のアルキル(メタ)アクリレートが1個以上の置換基で置換されたアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。置換基としては、水酸基、カルボキシ基、グリシジル基、アミノ基等が挙げられる。
【0035】
(メタ)アクリル系重合体は、共重合性と重合体のTgの観点からは、無置換のアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むことが好ましく、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート及びオクチル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種に由来する構成単位を含むことがより好ましく、n−ブチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むことがさらに好ましく、n−ブチルアクリレートに由来する構成単位を含むことが特に好ましい。
【0036】
(メタ)アクリル系重合体は、カルボキシ基を有するモノマー又はアルキル(メタ)アクリレートのいずれにも該当しないモノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。このようなモノマーとして具体的には、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートモノマー、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、p−クロロスチレン、クロロメチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族モノビニルモノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニルモノマー、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステルモノマー、これらのモノマーの各種誘導体などが挙げられる。また、グリシジル基、アミド基又はN−置換アミド基、三級アミノ基等の官能基を有するモノマーが挙げられる。
【0037】
グリシジル基を有するモノマーとして具体的には、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アリルエーテル等が挙げられる。
【0038】
アミド基又はN−置換アミド基を有するモノマーとして具体的には、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等が挙げられる。
【0039】
三級アミノ基を有するモノマーとして具体的には、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0040】
架橋後の粘着剤組成物の金属被着体に対する粘着性の観点からは、(メタ)アクリル系重合体におけるカルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率(モル%)にカルボキシ基を有するモノマー1分子あたりのカルボキシ基の個数を乗じて得られる値(Y)は4.0以上であることが好ましく、8.0以上であることがより好ましく、12.0以上であることが更に好ましい。ポットライフの観点からは、Yは30.0以下であることが好ましく、28.0以下であることがより好ましく、26.0以下であることが更に好ましい。
【0041】
(メタ)アクリル系重合体を構成するカルボキシ基を有するモノマーが2種以上である場合は、Yは、それぞれのカルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率(モル%)にそれぞれのカルボキシ基を有するモノマー1分子あたりのカルボキシ基の個数を乗じて得られる値の合計である。
【0042】
(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)は−50℃〜10℃であることが好ましい。(メタ)アクリル系重合体のTgが−50℃以上であると架橋後の粘着剤組成物が高温高圧下での弾性に優れ、10℃以下であると低温下でも適度な粘弾性が得られる。(メタ)アクリル系重合体のTgは−30℃以上であることがより好ましく、−10℃以下であることがさらに好ましい。
【0043】
(メタ)アクリル系重合体のTgは、下記式から計算により求められる絶対温度(K)をセルシウス温度(℃)に換算した値である。
1/Tg=w1/Tg1+w2/Tg2+・・・+w(k−1)/Tg(k−1)+wk/Tgk
式中、Tg1、Tg2、・・・、Tg(k−1)、Tgkは、(メタ)アクリル系重合体を構成する各モノマーを重合して得られる単独重合体のガラス転移温度(K)をそれぞれ表す。w1、w2、・・・、w(k−1)、wkは、(メタ)アクリル系重合体を構成する各モノマーのモル分率をそれぞれ表し、w1+w2+・・・+w(k−1)+wk=1である。
なお、ここでいう単独重合体のガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置(DSC)(セイコーインスツルメンツ社製、EXSTAR6000)を用い、窒素気流中、測定試料10mmg、昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、得られたDSCカーブの変曲点を単独重合体のガラス転移温度(Tg)としたものである。
代表的なモノマーを使用した単独重合体のガラス転移温度(Tg)は、2−エチルヘキシルアクリレートが−76℃、2−エチルヘキシルメタクリレートが−10℃、n−ブチルアクリレートが−57℃、n−ブチルメタアクリレートが21℃、メチルアクリレートが5℃、エチルアクリレートが−27℃、メタクリル酸が185℃、アクリル酸が163℃である。
【0044】
(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は、高温高圧下で高い弾性率を保持する観点からは、80万以上であることが好ましく、100万以上であることがより好ましい。金属被着体に対する粘着性の観点からは、200万以下であることが好ましく、180万以下であることがより好ましい。
【0045】
(メタ)アクリル系重合体の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される分散度(Mw/Mn)は、高温高圧下で高い弾性率を保持する観点からは、1.0〜7.0の範囲であることが好ましい。
【0046】
(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、下記の方法により測定される値である。具体的には、下記(1)〜(3)に従って測定する。
(1)(メタ)アクリル系重合体の溶液を剥離紙に塗布し、100℃で2分間乾燥し、フィルム状の(メタ)アクリル系重合体を得る。
(2)上記(1)で得られたフィルム状の(メタ)アクリル系重合体とテトラヒドロフランとを用いて、固形分濃度が0.2質量%である試料溶液を得る。
(3)下記条件にて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、標準ポリスチレン換算値として、下記条件にて、(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定する。
【0047】
−条件−
・GPC :HLC−8220 GPC〔東ソー(株)製〕
・カラム :TSK−GEL GMHXL 4本使用
・移動相溶媒:テトラヒドロフラン
・流速 :0.6mL/分
・カラム温度:40℃
【0048】
<金属キレート系架橋剤>
本発明の粘着剤組成物に含まれる金属キレート系架橋剤は、(メタ)アクリル系重合体のカルボキシ基と反応して架橋構造を形成しうるものであれば特に制限されない。金属キレート系架橋剤を構成する金属イオンの価数は、2以上であれば特に制限されない。高温高圧下における高い弾性を保持する観点からは、前記金属イオンの価数は3以上であることが好ましい。
【0049】
金属キレート系架橋剤として具体的には、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート等のアルミニウムキレート化合物、チタンジブトキシビス(アセチルアセトネート)、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート等のチタンキレート化合物、オクチル酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトネート等の亜鉛キレート化合物、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)等のジルコニウムキレート化合物などが挙げられる。金属キレート系架橋剤は1種でも2種以上であってもよく、合成しても市販品を用いてもよい。
【0050】
高温高圧下での弾性及び粘性に優れる架橋構造を所定値以上形成する観点からは、金属キレート系架橋剤はアルミニウムキレート化合物、チタンキレート化合物及びジルコニウムキレート化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、粘着剤組成物のポットライフの観点からはアルミニウムキレート化合物であることがより好ましい。
【0051】
上述のように、本発明の粘着剤組成物は下記式(1)及び(2)の条件を満たす。
X×Y≧2.0 ・・・(1)
(1−X)×Y≧1.2 ・・・(2)
【0052】
式中、Xは(メタ)アクリル系重合体に含まれるカルボキシ基の数に対する粘着剤組成物に含まれる金属キレート系架橋剤の金属イオンの数に金属イオンの価数を乗じて得られる値の比率(当量)であり、Yは(メタ)アクリル系重合体に含まれるカルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率(モル%)にカルボキシ基を有するモノマー1分子あたりのカルボキシ基の個数を乗じて得られる値である。
高温高圧下における高い弾性を保持する観点からは、(メタ)アクリル系重合体に含まれるカルボキシ基の数に対する粘着剤組成物に含まれる金属キレート系架橋剤の金属イオンの数に金属イオンの価数を乗じて得られる値の比率(X)は、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.3以上であることが更に好ましい。金属被着体に対する粘着性の観点からは、Xは、0.8以下であることが好ましく、0.7以下であることが好ましく、0.5以下であることが更に好ましい。
【0053】
Xの計算方法について説明する。
(メタ)アクリル系重合体に含まれるカルボキシ基の数(A)は、下記式により表される値である。
A=B×C/D
式中、Bは(メタ)アクリル系重合体におけるカルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位の全構成単位中の含有率(質量%)であり、Cはカルボキシ基を有するモノマー1分子あたりのカルボキシ基の個数であり、Dはカルボキシ基を有するモノマーの分子量である。
(メタ)アクリル系重合体が2種以上のカルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含む場合は、それぞれのカルボキシ基を有するモノマーについて上記式により求めた値の合計値をAとして、Xの算出に用いる。
【0054】
また、粘着剤組成物に含まれる金属キレート系架橋剤の金属イオンの数に金属イオンの価数を乗じて得られる値(E)は、下記式により表される値である。
E=F×G/H
式中、Fは金属キレート系架橋剤を構成する金属イオンの価数であり、Gは(メタ)アクリル系重合体100質量部に対する金属キレート系架橋剤の含有量(質量部)であり、Hは金属キレート系架橋剤の分子量である。
粘着剤組成物が2種以上の金属キレート系架橋剤を含む場合は、それぞれの金属キレート系架橋剤について上記式により求めた値の合計値をEとして、Xの算出に用いる。
【0055】
XはAに対するEの比率(当量)なので、Xは下記式により得られる。
X=E/A=(F×G/H)/(B×C/D)=(F×G×D)/(H×B×C)
【0056】
例えば、(メタ)アクリル系重合体におけるカルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率が16質量%であり、カルボキシ基を有するモノマーがアクリル酸(1分子あたりのカルボキシ基:1個、分子量:72)であり、金属キレート系架橋剤がアルミニウムキレート化合物(分子量:324)であり、そのアルミニウムキレート化合物を構成するアルミニウムイオンの価数が3であり、(メタ)アクリル系重合体100質量部に対するアルミニウムキレート化合物の含有量が4.5質量部である場合、Xは(3×4.5×72)/(324×16×1)=0.19となる。
【0057】
<その他の成分>
本発明の粘着剤組成物は、必要に応じて(メタ)アクリル系重合体及び金属キレート系架橋剤以外のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、架橋触媒、キレート剤、溶剤、耐候性安定剤、タッキファイヤ−、可塑剤、軟化剤、染料、顔料、無機充填剤、(メタ)アクリル系重合体以外の重合体等が挙げられる。粘着剤組成物がこれらの成分を含む場合の含有量は、本発明の効果が発揮される範囲内において設定することができる。
【0058】
<粘着剤組成物の製造方法>
本発明の粘着剤組成物の製造方法は、特に制限されず、公知の方法を適用できる。例えば、まず(メタ)アクリル系重合体を作製し、得られた(メタ)アクリル系重合体と金属キレート系架橋剤及び必要に応じて含まれるその他の成分とを混合して製造することができる。(メタ)アクリル系重合体の重合方法は、特に制限されない。例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の公知の方法を適用できる。中でも、処理工程が比較的簡単であり、かつ短時間で行うことができる点で、溶液重合が好ましい。
【0059】
粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合体のカルボキシ基と、金属キレート系架橋剤とを反応させて架橋構造を形成する方法は特に制限されず、公知の方法により行うことができる。例えば、粘着剤組成物を厚み15μm〜30μmのシート状とした場合には、70℃〜120℃で1分間〜3分間加熱することにより、架橋構造を形成することができる。
【0060】
<粘着部材>
本発明の粘着部材の第一の実施形態は、本発明の粘着剤組成物に由来し、前記(メタ)アクリル系重合体と前記金属キレート系架橋剤とが架橋反応して形成された架橋構造を含む。本実施形態の粘着部材は、本発明の粘着剤組成物より得られるため、ゲル分率が高いにもかかわらず、金属被着体に対する粘着力に優れる。これは、樹脂材料中に十分な量の架橋構造が存在しているとともに、十分な量の架橋に寄与しないカルボキシ基が存在しているためと考えられる。
【0061】
粘着部材のゲル分率は、95質量%以上であることが好ましい。粘着部材のゲル分率は、粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合体のカルボキシ基の量、金属キレート系架橋剤の量、架橋の条件等を変更することにより所望の値とすることができる。粘着部材のゲル分率は、上述した架橋後の粘着剤組成物のゲル分率の測定方法と同様にして測定できる。
【0062】
粘着部材のTピール密着強度試験により測定されるアルミニウム板に対する粘着力は、10N/25mm以上であることが好ましく、20N/25mm以上であることがより好ましく、30N/25mm以上であることが更に好ましい。粘着部材の粘着力は、粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合体のカルボキシ基の量、金属キレート系架橋剤の量、架橋の条件等を変更することにより所望の値とすることができる。粘着力は、上述した架橋後の粘着剤組成物のTピール密着強度試験による粘着力の測定方法と同様にして測定できる。
【0063】
本発明の粘着部材の第二の実施形態は、カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含む(メタ)アクリル系重合体と金属キレート系架橋剤とが架橋反応して形成された架橋構造を含み、ゲル分率が95質量%以上であり、Tピール密着強度試験により測定されるアルミニウム板に対する粘着力が10N/25mm以上である。
【0064】
粘着部材の形状は特に制限されず、用途に応じて選択できる。例えばシート状、ブロック状等とすることができる。
【0065】
本発明の粘着部材は、種々の用途に適用することができ、特に制限されない。中でも高温高圧下での高弾性と金属被着体に対する粘着力の両方が求められる用途に好適に用いることができる。具体的な用途としては自動車用のブレーキシム等が挙げられ、中でも高温高圧下での耐樹脂フロー性が要求される電動パーキングブレーキ用のブレーキシムに好適に用いることができる。
【0066】
<ブレーキシム>
本発明のブレーキシムは、金属部材と、本発明の粘着部材と、を有する。金属部材の材質は特に制限されない。例えば、アルミニウム、ステンレス鋼(SUS)、冷間圧延鋼板(SPCC)等が挙げられる。本発明のブレーキシムは必要に応じてその他の部材を含んでいてもよい。その他の部材としては、ゴム部材、フェノール樹脂部材、エポキシ樹脂部材等が挙げられる。本発明のブレーキシムの一実施態様としては、第一の金属部材と、本発明の粘着部材と、第二の金属部材とがこの順に配置された積層構造を有するものが挙げられる。
【0067】
本発明のブレーキシムは、本発明の粘着部材を有するため、十分な制振性を発揮でき、ブレーキ鳴きを効果的に抑制できる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0069】
<実施例1>
((メタ)アクリル系重合体の作製)
温度計、撹拌機、窒素導入管、及び還流冷却管を備えた反応器内に、n−ブチルアクリレート(BA)56.0質量部、メチルアクリレート(MA)40.0質量部、アクリル酸(AA)4.0質量部、及び酢酸エチル(EAc)85.0質量部を入れて混合した後、反応器内を窒素置換した。その後、撹拌しながら反応器内の混合物を70℃に昇温した。さらにその後、EAc120.0質量部と2、2’−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)0.02質量部の混合液を4時間にわたって逐次滴下し、さらに1.5時間重合反応を行った。重合反応終了後、反応混合物を酢酸エチルとトルエンで希釈して固形分が20質量%となるように調整した。このようにして、(メタ)アクリル系重合体の溶液を得た。
【0070】
(粘着剤組成物の調製)
上記で得た(メタ)アクリル系重合体の溶液500質量部(固形分;100質量部)と、金属キレート系架橋剤としてアルミニウムキレート化合物(アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、商品名「アルミキレートA」、川研ファインケミカル株式会社製、分子式:Al(C、分子量:324.3、アルミニウムイオンの価数:3)4.5質量部と、アセチルアセトン4.5質量部とを充分に撹拌混合して粘着剤組成物を調製した。
【0071】
(粘着剤シートの作製)
シリコーン系離型剤で表面処理された剥離フィルムの離型剤処理面に、乾燥後の厚みが100μmとなるように粘着剤組成物を塗布した。次に、これを熱風循環式乾燥機を用いて65℃で360秒、次いで120℃で600秒の条件で乾燥させ、剥離フィルム上に粘着部材を形成した。さらに、粘着剤シートの上にシリコーン系離型剤で表面処理された剥離フィルムの離型剤処理面を貼り合わせた。
【0072】
(分子量の測定)
(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量及び数平均分子量(Mn)は、既述の方法に従って、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)により、TSK−GEL GMHXL(東ソー株式会社製のスチレン系ポリマー充填剤)をカラムとして測定し、ポリスチレン換算して求めた。
【0073】
(ゲル分率の測定)
粘着部材のゲル分率(質量%)を、上述した方法により測定した。結果を表1に示す。
【0074】
(耐樹脂フロー性評価試験)
寸法が30mm×30mmで厚みが0.3mmのアルミニウム板の中央に、寸法が20mm×20mmで厚みが0.1mm(100μm)の上記工程で作製した粘着剤シートから一方の剥離フィルムを剥がして粘着部材を貼り合せた。さらに、粘着部材上の他方の剥離フィルムを剥がして、上記と同じアルミニウム板を粘着部材の上に載せて積層体を作製した。得られた積層体の厚みを膜厚計を使用して計測した。次いで、積層体をプレス機の基盤の上に置き、積層体の温度が200℃になったことを確認した後、200℃×3トン×10分の条件でプレスした。プレス後の積層体の厚みを計測し、試験前後の粘着部材の厚みの変化量を下記の評価基準により評価した。結果を表1に示す。
【0075】
<評価基準>
◎:粘着部材の厚みの変化量が5μm未満
○:粘着部材の厚みの変化量が5μm以上11μm未満
△:粘着部材の厚みの変化量が11μm以上21μm未満
×:粘着部材の厚みの変化量が21μm以上
【0076】
(Tピール密着強度試験)
粘着剤シートのTピール密着強度試験を上述した方法により行い、下記の評価基準により評価した。結果を表1に示す。
【0077】
<評価基準>
◎:30N/25mm以上
○:20N/25mm以上30N/25mm未満
△:10N/25mm以上20N/25mm未満
×:10N/25mm未満
【0078】
(粘弾性率tanδのピーク温度)
シリコーン系離型剤で表面処理された剥離フィルムの離型剤処理面に粘着剤組成物を寸法が20mm×25mmとなるように塗工し、これを熱風循環式乾燥機を用いて65℃で360秒、次いで120℃で600秒の条件で乾燥させ、剥離フィルム上に粘着部材を形成した。次いで、剥離フィルムを剥がし、粘着部材を縦20mmの円柱状に丸めて成型した。成型したサンプルについて、粘弾性測定装置(Rhegel−E4000、株式会社ユービーエム製)を用いて−50℃〜100℃の温度範囲で昇温速度5℃/分、荷重25g、10Hzの条件で測定を行い、粘弾性率tanδのピーク温度を計測した。結果を表1に示す。粘弾性率tanδのピーク温度が低いほど、低温環境での制振性に優れ、ブレーキ鳴きの抑制効果に優れていると考えられる。
【0079】
<実施例2〜18、比較例1〜3>
(メタ)アクリル系重合体の組成、金属キレート系架橋剤の種類及び金属キレート系架橋剤の含有量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜18及び比較例1〜3の粘着剤組成物を作製した。
【0080】
実施例13では、金属キレート系架橋剤としてチタンキレート化合物((チタンジブトキシビス(アセチルアセトネート))、商品名「ナーセムチタン」、日本化学産業株式会社製、分子式:Ti(OC(C、分子量:392.3、チタンイオンの価数:4)を使用した。
【0081】
実施例14では、金属キレート系架橋剤として亜鉛キレート化合物(オクチル酸亜鉛)、商品名「ニッカオクチックス亜鉛」、日本化学産業株式会社製、分子式:Zn(C15、分子量:351.8、亜鉛イオンの価数:2)を使用した。
【0082】
比較例3では、金属キレート系架橋剤の代わりにTDI系イソシアネート化合物(商品名「コロネートL−45E」、日本ポリウレタン工業株式会社製)を使用した。
【0083】
作製した粘着剤組成物を用いて実施例1と同様にして粘着剤シートを作製し、ゲル分率、耐樹脂フロー性、Tピール密着強度試験及び粘弾性率tanδのピーク温度を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示すように、実施例1〜18で作製した粘着剤組成物より得られた粘着剤シートは耐樹脂フロー性と粘着力の評価がともに良好であった。
(1−X)×Y≧1.2の条件を満たさない比較例1は、粘着力の評価が低かった。これは、粘着剤シート中に存在する架橋に寄与しないカルボキシ基の量が十分でなかったためと考えられる。
X×Y≧2.0の条件を満たさない比較例2は、耐樹脂フロー性の評価が低かった。これは、粘着剤シート中に存在する架橋構造の量が十分でなかったためと考えられる。
金属キレート系架橋剤の代わりにイソシアネート系架橋剤を用いた比較例3は、耐樹脂フロー性の評価が低かった。
【要約】
【課題】高温高圧下でも高い弾性が保持され、かつ金属被着体に対する粘着力に優れる粘着部材を製造可能な粘着剤組成物、この粘着部材及びこれを有するブレーキシムの提供。
【解決手段】カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位を含む(メタ)アクリル系重合体と、金属キレート系架橋剤と、を含み、下記式(1)及び(2)の条件を満たす粘着剤組成物。
X×Y≧2.0 ・・・(1)
(1−X)×Y≧1.2 ・・・(2)
式中、Xは前記(メタ)アクリル系重合体に含まれる前記カルボキシ基の数に対する前記粘着剤組成物に含まれる前記金属キレート系架橋剤の金属イオンの数に金属イオンの価数を乗じて得られる値の比率(当量)であり、Yは前記(メタ)アクリル系重合体に含まれる前記カルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位の含有率(モル%)にカルボキシ基を有するモノマー1分子あたりのカルボキシ基の個数を乗じて得られる値である。
【選択図】なし