(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、海洋資源として魚類を繁殖させるため、魚類の住み家となるように、コンクリート造り等の人工の重量構造物を海に沈め、人為的に海中に設置される人工礁がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の技術は、基台の中央部に複数の穴を並列して設け、かつ該基台の周りに所定の間隔を保って複数の穴を設け、前記基台の中央部の複数の穴に高さの大きい柱体を起立固定し、前記基台の周りの穴に高さの小さい柱体を起立固定して構成する。そして、前記基台を中心部に配置された偏平板の外周縁に前記偏平板と同平面で中心から外周に向かう方向に突設する複数の脚を構成したことを特徴とした海中林構造体である。
【0004】
ここで、人工礁は、海流によって流されないために、基本的に重量物であるコンクリートにて構成される。しかし、昨今では、森林の成長過程で密集化する立木を間引く間伐の過程で発生する木材の間伐材を用いることが考えられるようになってきた(例えば、特許文献2〜特許文献3参照)。
【0005】
特許文献2の技術は、複数の丸太をブロックの長尺の穴に差し込み、複数の丸太を魚類の食料供給源とする人工漁礁である。
【0006】
特許文献3の技術は、多数の横穴を空けた鋳鉄を組み合わせ、相当数の当該横穴に木材を配置して、多くの木材を横倒しの状態で配置する人工漁礁システムである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のように、木材を数個の長尺の穴が開いたコンクリートブロックに差し込む構成で、使い切りとする構成である。このように使い切りとすると、木材を多く用いることはできず、間伐材を有効利用するとは言い難い。
【0009】
一方、特許文献2のように、多数の木材を鋳鉄枠に形成された多くの横穴に差し込む構成では、間伐材も横に配置されることとなり、海中への光を遮断してしまう。すると、人工礁によって魚類の繁殖のために効果的な陰影を作ることができないといった問題がある。
【0010】
本発明の目的は、人工礁において、より多くの間伐材を有効利用し且つ魚類を繁殖しやすい構成とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の人工
礁は、海中に沈下させる人工礁であって、基台に固定された柱体と、前記柱体が貫通するための前記上端固定板及び前記下端固定板に空けられた貫通孔を有し、前記貫通孔に前記柱体を挿抜することで前記柱体に対して着脱可能に構成された前記人工礁ユニットと、前記柱体に嵌着し、前記上端固定板の前記貫通孔の上方を固定する固定具と、を有することを特徴とする人工礁である。
【0012】
上記人工礁に於ける人工礁ユニットは、複数の木材の長手方向上端を固定支持する上端固定板と、複数の前記木材の長手方向下端を固定支持する下端固定板と、複数の前記木材を長手方向中央で束ねる中間結束具と、を有し、前記上端固定板と下端固定板の中央には前記柱体が貫通するための貫通孔が形成され、複数の前記木材は該貫通孔の周囲に配置されて固定支持されており、前記貫通孔に前記柱体を挿抜することで前記柱体に対して着脱可能に構成されている。
【0013】
また、本発明の他の人工礁は、前記基台の周囲は、木枠にて形成されることを特徴とする前記人工礁である。
【0014】
また、本発明の他の人工礁は、前記柱体の上部には、前記固定具が嵌着するための嵌着溝が形成されることを特徴とする前記人工礁である。
【0015】
また、本発明の人工礁の製造方法は、海中に沈下させる人工礁の製造方法であって、複数の木材の長手方向上端を上端固定板で固定し、複数の前記木材の長手方向下端を下端固定板で固定し、複数の前記木材の長手方向中央を中間結束具で束ねて固定することで人工礁ユニットを製造するユニット製造工程と、木材により基台の外枠を形成する外枠形成工程と、前記人工礁ユニットを設置し且つ柱体を立設するための底部保持構造体を配置するように前記外枠内部に配筋を施す配筋工程と、前記立設穴にコンクリート製の柱体を立設し且つ前記外枠にコンクリートを打設することで基台を形成する基台形成工程と、前記下端固定板を前記底部保持構造体に固定することで前記人工礁ユニットを固定するユニット固定工程と、を有することを特徴とする人工礁の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
上述の構成及び製造方法によれば、人工礁の一部に木材を使用しており、且つユニットとなっているため、取り換え可能である。すると、木材として間伐材を用いることで、地上の間伐材を効率的に漁礁の一部として用いることができる。また、人工礁ユニットに用いられている木材は、上下の長さを揃えるだけで人工礁ユニットに組み込むことができる。すると、漁礁として用いるための特殊な加工を施す必要がないため、木材の加工を最低限にし、より効率的に間伐材を有効利用することができる。また、上述の人工礁ユニットは上下方向に延設されるため、海中に陰影を形成することができ、魚類を繁殖しやすい構成となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔第1実施形態〕
(人工礁ユニット1)
図を用いて、第1実施形態に係る木材を利用した人工礁ユニット1の構成を説明する。
図1は人工礁ユニット1の構成を示す斜視図である。
【0019】
図1に示すように、人工礁ユニット1は、複数の木材10をその長手方向の上下端において、金属製の固定板に対して固定支持することで構成される。具体的には、木材10の長手方向上端が上端固定板11にて固定され、木材10の長手方向下端が下端固定板12にて固定される。また、木材10の長手方向中央においては、木材10が束ねられるように中間結束具13にて固定される。また、木材10として間伐材を使用することで、間伐材を有効利用することができる。
【0021】
上端固定板11は、木材10の上端に当接して木材10上部を押さえるための平面部11aと平面部11aから図中下方に立ち上がる立設部11bとが一体となった構成である。平面部11aがあることで、木材10の長手方向の移動が規制される。また、立設部11bがあることで、木材10は外側への移動が規制される。
【0022】
立設部11bには木材10の本数と同数のボルトBを貫通させるための貫通孔が形成される。この構成により、ボルトBが立設部11bの貫通孔に嵌まり込んで、先端が内側に向かった状態で位置決めされる。そして、位置決めされたボルトBが木材10を貫通することで、木材10は立設部11bに対して固定される。
【0023】
同様に、下端固定板12は、木材10の下端に当接して木材10下部を押さえるための平面部12aと平面部12aから図中上方に立ち上がる立設部12bとが一体となり、立設部12bの貫通孔にて位置決めされたボルトBが木材10を貫通する。これにより、木材10は下端固定板12に固定される。
【0024】
中間結束具13はベルト状の金属製の部材であり、上端固定板11と下端固定板12との間において、複数の木材10を結束する。中間結束具13には、各木材10に対応する位置にボルトBが嵌合する貫通孔が形成される。そして、中間結束具13の貫通孔にて位置決めされたボルトBによって、木材10は中間結束具13に対して固定される。
【0025】
このように、上端固定板11、下端固定板12及び中間結束具13にて上下方向及び側方を固定することで、木材10の人工礁ユニット1からの流出を防止することができる。
【0026】
尚、本実施形態においては上端固定板11の平面部11a及び下端固定板12の平面部12aはいずれも円形である。平面部11a、12aを円形でとすることで、木材10を立設部11b、12bに等間隔に配置しやすくなるというメリットがある。しかしながら、平面部11a、12aの形状を必ずしも円形に限るものではなく、人工礁の用途に応じて変更することはできる。
【0027】
(人工礁2)
次に、人工礁ユニット1を用いた人工礁2の構成を説明する。
図2は、第1実施形態に係る人工礁の構成を示す斜視図である。
【0028】
図2に示すように、人工礁2は、海底に接地されることにより土台となる基台20と、人工礁ユニット1を立設するため基台20に固定された柱体21と、を有する。基台20及び柱体21はコンクリートによって構成される。基台20がコンクリートで構成されることにより、人工礁2下部の重量が確保され、海底に接地したとき人工礁2の姿勢が安定する。尚、
図2に示すように、基台20の周囲の外枠25を木材W(間伐材)で構成することで、より間伐材を有効利用することができる。
【0029】
また、基台20には、人工礁2をクレーン等で吊り上げて移動させるときに、クレーンにて吊り上げられるフックやワイヤを掛けるため、上部に固定穴22aが形成される枠体構成吊筋22と、中央部吊筋23が配設される。基台20の大きさは限定するものではないが、本実施形態の基台20は、幅が略4mの正方形の形状で高さが略1mであるため、コンクリートを打設すると相当の重量になる。このため、基台20側面に枠体構成吊筋22があり、中央部には中央部吊筋23が配設されることで、基台20の吊り上げ及び移動が容易になる。尚、枠体構成吊筋22及び中央部吊筋23は左右対称に配置されることが、人工礁2の安定した移動のために好ましい。
【0030】
一方、人工礁2に固定される人工礁ユニット1の上端固定板11及び下端固定板12には、柱体21が貫通する径の貫通孔H(
図1参照)が空けられる。貫通孔Hがあることにより、人工礁ユニット1は柱体21に対して挿抜可能な構成となる。このように、人工礁ユニット1が柱体21に対して着脱可能に構成される。
【0031】
図2に示すように、人工礁ユニット1の人工礁2に対する固定は、ベルト状の固定具24により行う。固定具24は、人工礁ユニット1の浮上による抜け止めを防止するため、柱体21上部周辺に嵌着する。固定具24は、柱体21に対して嵌着された状態で、貫通孔Hの外縁を押さえることで抜け止めを行う抜止部24aを有する又は貫通孔Hの径よりも大きい径となるように形成される。このため、上端固定板11の貫通孔Hの上方を位置決めして固定することができる。尚、柱体21の上部周辺には、固定具24を嵌着するための嵌着溝21aが形成される。このため、固定具24の柱体21からの抜けを防止している。
【0032】
一方、人工礁ユニット1の下部の人工礁2に対する固定は、後述のように、基台20から上方に突出した固定用ボルトを人工礁ユニット1の下端固定板12に貫通させて行う。
【0033】
このように、複数の人工礁ユニット1を基台20上に立設固定された人工礁2は、これを海中に沈下させることにより、海中に陰影を形成する。この陰影があることによって、魚が棲みやすい環境を作ることができ、魚類を繁殖させることができる。
【0034】
人工礁ユニット1は、複数の木材10を保持することができるので、間伐材を用いると、間伐材の有効利用を図ることができる。また、コンクリート製の柱体21のみならず、材質の異なる木材10を漁礁として用いることで、給餌効果が高まり、より多くの魚類が棲みつくことができる。
【0035】
人工礁ユニット1をユニット化し、且つ上方に抜けるように着脱可能に構成したことにより、容易に取り換えが可能となる。
【0036】
また、柱状の人工礁ユニット1を立設させることにより、海中の泥が積もらない。このため、堆積泥が多い場所においても、漁場や藻場を創出することができる。また、柱状の漁礁を好むコンブ科の海藻の着生に適している。
【0037】
また、海底が軟弱地盤である場合、基台20が隠れることがあるが、人工礁ユニット1は立設しているため、漁礁としての機能が維持される。
【0038】
(人工礁2の製造方法)
次に、上記構成の人工礁2の製造方法を図面を用いて説明する。
【0039】
〔ユニット製造工程〕
まず、人工礁2の基台20とは別に、
図1に示すような人工礁ユニット1を製造しておく。人工礁ユニット1は、複数の木材10の長手方向上端を上端固定板11の平面部11aに当接させ、複数の木材10の長手方向下端を下端固定板12の平面部12aに当接させる。そして、ボルトBによって、それぞれの木材10を上端固定板11の立設部11b及び下端固定板12の立設部12bに固定する。
【0040】
次に、複数の木材10の長手方向中央を中間結束具13で束ねて固定する。木材10と中間結束具13との固定はボルトBにより行う。これにより、人工礁ユニット1が製造される。
【0041】
〔外枠形成工程〕
次に、基台20の外枠25(木枠)を形成する。
図3は第1実施形態に係る人工礁の外枠形成工程を示す斜視図である。
【0042】
まず、
図3(a)に示すように、木材Wの中央の位置になるように固定穴22aが形成された枠体構成吊筋22に対して、縦に割った複数の木材WをボルトBにて固定する。これにより、複数の木材10が上下方向に並設され板状になる。
【0043】
そして
図3(b)に示すように、板状になった複数の木材Wを4つ組み合わせることで、基台20の外枠25を形成する。
【0044】
〔配筋工程〕
次に、基台20の外枠内部に配筋を行う。
図4は第1実施形態に係る人工礁の基台配筋工程を示す斜視図である。
【0045】
図4(a)に示すように、底部に配設される防水用のルーフィング26の上に、交差するように配筋を行う。配筋に係る鉄筋のうち一部の鉄筋は、外枠25の下端の木材Wと、その木材Wに対向する木材Wとをつなぎ合わせる。これにより、コンクリートの打設時に、外枠25の形状が保たれる。また、配筋を行うと同時に中央部吊筋23を配置する。また、本実施形態においては4つの柱体21の下部を固定するために、4箇所に柱体の下部保持用の鉄筋を配置する。
【0046】
図4(b)に示すように、配筋に係る鉄筋のうち一部の鉄筋は、外枠25の上端の木材Wと、その木材Wに対向する木材Wとをつなぎ合わせる。そして、その上に人工礁ユニット1の底部を設置するための底部保持構造体30を形成する。底部保持構造体30は、アンカー板31と、アンカー板31から上方に突出するユニット固定用ボルト32からなる。アンカー板31の中央には立設穴33が空けられている。
【0047】
〔基台形成工程〕
次に、基台20を形成する。
図5は第1実施形態に係る人工礁の基台形成工程を示す斜視図である。
【0048】
まず、上述のように底部保持構造体30に形成された立設穴33に、柱体21を貫通させる。すると、立設穴33に対して柱体21が当接することにより、柱体21の位置決めが行われる。また、外枠25内部の下端に配設された鉄筋によって、柱体21の下部を保持する。これによって、柱体21が立設する。
【0049】
その後、コンクリートCを外枠25の内部に流し込む。そして、コンクリートCが固化すると、
図5に示すように、重量のある基台20が完成する。この状態において、枠体構成吊筋22の上部、中央部吊筋23、及びユニット固定用ボルト32はコンクリートCの上方に突出している。
【0050】
〔ユニット固定工程〕
最後に、人工礁ユニット1を基台20に固定する。
図6は第1実施形態に係る人工礁のユニット固定工程を示す斜視図である。
【0051】
図6に示すように、基台20上に立設している柱体21を、人工礁ユニット1の下端固定板12に形成される貫通孔Hに挿入する。柱体21は人工礁ユニット1の上端固定板11の貫通孔Hをも貫通する。
【0052】
そして、下端固定板12は、基台20上方に突出しているユニット固定用ボルト32によって底部保持構造体30に対して位置決めされる。底部保持構造体30はコンクリートC内に配置されているので、人工礁ユニット1の下部は底部保持構造体30に対して固定される。一方、上端固定板11は、その上部が固定具24によって固定される。
【0053】
固定具24の柱体21に対する固定構成を詳細に説明する。
図7は第1実施形態に係る人工礁ユニットの上部固定部拡大斜視図である。
【0054】
図7に示すように、柱体21上部には嵌着溝21aが形成される。上述のように、嵌着溝21aには、固定具24が嵌まり込む。本実施形態の固定具24は、抜止部24aを除き、断面が半円型の2つの部材にて構成される。
【0055】
固定具24には、上端固定板11の貫通孔Hよりも外側に突出する抜止部24aとボルト固定部24bとが形成される。このため、2箇所のボルトBを締めると、固定具24の2箇所の抜止部24a及び2か所のボルト固定部24bが貫通孔Hより外側に突出し、その4箇所が上端固定板11に当接する。このように、抜止部24a及びボルト固定部24bが上端固定板11に当接して上方から押さえるため、柱体21から上端固定板11が抜けることはない。
【0056】
人工礁ユニット1を柱体21に固定する上述の作業を柱体21の数だけ行うことによって、人工礁2が完成する。
【0057】
〔交換時〕
人工礁ユニット1を交換する場合には、下端固定板12を固定するユニット固定用ボルト32を外し、且つ上端固定板11を固定する固定具24を外せば、人工礁ユニット1を持ち上げ、基台20から取り外せる状態になる。このため、古くなった人工礁ユニット1を取り外した後、新しい人工礁ユニット1を差し込めば、新しい状態の人工礁2となる。
【0058】
この際、
図7に示すように、柱体21の上端には、当該上端を切り欠くように頭部溝21bが形成される。このように頭部溝21bが形成されると、部分的に柱体21の上端の面積が小さくなるため、上端固定板11や下端固定板12の貫通孔Hに対して挿抜しやすい構成となり、交換作業がしやすくなる。
【0059】
上述の構成及び製造方法によれば、人工礁の一部に木材を使用しており、且つユニットとなっているため、取り換え可能である。すると、木材として間伐材を用いることで、地上の間伐材を効率的に漁礁の一部として用いることができる。また、人工礁ユニットに用いられている木材は、上下の長さを揃えるだけで人工礁ユニットに組み込むことができる。すると、漁礁として用いるための特殊な加工を施す必要がないため、木材の加工を最低限にし、より効率的に間伐材を有効利用することができる。また、上述の人工礁ユニットは上下方向に延設されるため、海中に陰影を形成することができ、魚類を繁殖しやすい構成となる。