特許第5972582号(P5972582)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5972582機能性ポリエステル布帛およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972582
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】機能性ポリエステル布帛およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/11 20060101AFI20160804BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20160804BHJP
【FI】
   D06M15/11
   D06M101:32
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-15062(P2012-15062)
(22)【出願日】2012年1月27日
(65)【公開番号】特開2013-155447(P2013-155447A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2014年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】512022963
【氏名又は名称】株式会社SKYWARD
(73)【特許権者】
【識別番号】000182247
【氏名又は名称】サカイオーベックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹中 克明
(72)【発明者】
【氏名】関 隆之
(72)【発明者】
【氏名】上村 佳枝
【審査官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−533190(JP,A)
【文献】 特開平08−067702(JP,A)
【文献】 米国特許第05728823(US,A)
【文献】 特開2002−065839(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0192435(US,A1)
【文献】 特表2007−527437(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0138380(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00−15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維の布帛と、
前記布帛表面の疎水性部分と反応性シクロデキストリンの疎水性部分とが固着され、かつ反応性シクロデキストリン同士も縮合した縮合物と、を含むことを特徴とする機能性ポリエステル布帛。
【請求項2】
反応性シクロデキストリンが、モノクロロトリアジニル−β−シクロデキストリンであることを特徴とする請求項1に記載の機能性ポリエステル布帛。
【請求項3】
消臭機能を有することを特徴とする請求項1または2に記載の機能性ポリエステル布帛。
【請求項4】
ポリエステル繊維の布帛に、塩基性物質と反応性シクロデキストリンを保持させる保持工程と、
反応性シクロデキストリンが保持された前記布帛を、130〜200℃で加熱処理することで、反応性シクロデキストリンを縮合させ、かつ反応性シクロデキストリンの縮合物を前記布帛に固着させる加熱処理工程と、を含むことを特徴とする機能性ポリエステル布帛の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理工程において、前記加熱処理は、0.5分間以上の条件下で行われることを特徴とする請求項4に記載の機能性ポリエステル布帛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性ポリエステル布帛に関し、さらに詳しくはポリエステル系繊維からなる布帛にα−またはβ−シクロデキストリンを固着させてなる機能性ポリエステル布帛とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロデキストリンはジャガイモデンプンやコーンスターチ由来の天然環状分子であり、たとえばグルコースが6個繋がったα−シクロデキストリン、グルコースが7個繋がったβ−シクロデキストリン、およびグルコースが8個繋がったγ−シクロデキストリンなどが知られている。これらのシクロデキストリンはグルコースの構成数によってそれぞれの性質も異なっている。たとえば水への溶解度はβ体がもっとも低く、γ体がもっとも高く、β体の25℃における水の溶解度は、γ体がβ体の約13倍(23.2g/1.8g)である。
【0003】
シクロデキストリンは、その水酸基が環状構造の外側にあるので、内部は疎水性となっており、疎水性物質を包接しやすいので、この点を利用して種々の用途に使用されている。
【0004】
また、熱や紫外線などの外部環境に不安定な物質でも、シクロデキストリンに包接させることによって安定化することができる。
【0005】
近年、シクロデキストリンの優れた包接作用を生かし、シクロデキストリンを布帛に固定して、消臭、抗菌、香り付けなどの機能を有する布帛とする試みがなされている。
【0006】
しかしながら、天然繊維からなる布帛には、該布帛を構成する天然繊維に水酸基やアミノ基などの官能基が存在するため、シクロデキストリンを布帛に固着させることは容易であるが、合成繊維の布帛にシクロデキストリンを固着させることは容易ではない。
【0007】
これは天然繊維の染色は容易であるが、ポリエステル系繊維の染色は容易でないことと同じ理由である。
【0008】
たとえば、特許文献1には、ナイロン糸をシクロデキストリンにアスコルビン酸誘導体を包接させて界面活性剤で乳化分散させた水溶液に浸漬し、乾燥してシクロデキストリン包接体をナイロン糸に固定する方法が記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、ポリエステル繊維の布帛表面で、水性ポリイソシアネート化合物とゲスト分子を包接するα−シクロデキストリンまたはγ−シクロデキストリンの包接体とを重合させた布帛にα−シクロデキストリンまたはγ−シクロデキストリンを固着させる方法が記載されている。
【0010】
さらに特許文献3には、モノクロロトリアジニル基で置換されたβ−シクロデキストリンと可溶化剤のε−カプロラクタムを含む水混和性有機溶媒に溶解した溶液を、綿、ビスコース、綿/ポリエステル(50/50)混紡の各布帛に含浸させ、乾燥したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−052138号公報
【特許文献2】特開2009−13547号公報
【特許文献3】特表2005−533190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1の方法では界面活性剤が必須であるが、布帛に用いた場合の残留性や環境への影響を考慮すると、その使用は好ましいとはいえず、また布帛へのシクロデキストリンの固着力はそれほど強いものとはいえないという問題がある。
【0013】
また、特許文献2の方法で得られるα−シクロデキストリンまたはγ−シクロデキストリンを固着させたポリエステル布帛は、イソシアネート化合物及びグリオキザール系樹脂を使用するため素材の風合いが変化するという問題がある。
【0014】
さらに特許文献3の方法で得られる布帛は、いずれも天然繊維または半天然繊維が有する水酸基または窒素などに反応性シクロデキストリンを共有結合させるというものであり、官能基を有しないポリエステル繊(以下、ポリエステル系繊維ということがある)の布帛にはシクロデキストリンが結合しないという問題があった。
【0015】
ポリエステル系繊維の布帛は、コットンに近い機能を持ちながら、耐摩耗性、耐久性にすぐれ、弾力性があるのでシワになりにくく、型崩れしにくい、耐熱性もあり非常に丈夫である上、速乾性が高く、衣類全般に汎用される。しかし、該布帛を構成するポリエステル系繊維には天然繊維のような官能基、特に水酸基が存在しないので、ポリエステル系繊維の布帛にはシクロデキストリンを固着させることができない。
【0016】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ポリエステル系繊維の布帛に反応性シクロデキストリンを保持させて、高い温度で加熱するという極めて簡便な方法で、当該反応性シクロデキストリンを前記布帛に固着させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明の目的は、優れた特性を有するポリエステル系繊維の布帛にシクロデキストリンを強固に固着させることによって、消臭、抗菌、香り付けなどの機能を有し、かつ耐久性にすぐれ、丈夫で軽く、速乾性のあるポリエステル系繊維の布帛で構成された衣類や介護用繊維製品などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、ポリエステル繊維の布帛と、
前記布帛表面の疎水性部分と反応性シクロデキストリンの疎水性部分とが固着され、かつ反応性シクロデキストリン同士も縮合した縮合物と、を含むことを特徴とする機能性ポリエステル布帛である。
【0019】
また本発明の機能性ポリエステル布帛において、反応性シクロデキストリンが、モノクロロトリアジニル−β−シクロデキストリンであることを特徴とする。
また本発明の機能性ポリエステル布帛は、消臭機能を有することを特徴とする。
【0020】
また本発明は、ポリエステル繊維の布帛に、塩基性物質と反応性シクロデキストリンを保持させる保持工程と、
反応性シクロデキストリンが保持された前記布帛を、130〜200℃で加熱処理することで、反応性シクロデキストリンを縮合させ、かつ反応性シクロデキストリンの縮合物を前記布帛に固着させる加熱処理工程と、を含むことを特徴とする機能性ポリエステル布帛の製造方法である。
【0021】
また本発明の機能性ポリエステル布帛の製造方法では、前記加熱処理工程において、前記加熱処理は、0.5分間以上の条件下で行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、機能性ポリエステル布帛は、ポリエステル繊(以下、ポリエステル系繊維ということがある)の布帛と、その布帛表面の疎水性部分と反応性シクロデキストリンの疎水性部分とが固着され、かつ反応性シクロデキストリン同士も縮合した縮合物とを含む。このような機能性ポリエステル布帛では、消臭作用、抗菌作用および徐放化作用など、シクロデキストリンの包接作用にもとづく種々の機能を有する反応性シクロデキストリンの縮合物が、ポリエステル系繊維の布帛に固着しているので、風合いにすぐれ、耐摩耗性、耐久性があり、シワになりにくく、型崩れしにくく、耐熱性もあり非常に丈夫であるという、ポリエステル布帛の長所を生かした機能性ポリエステル布帛が得られるという効果を奏する。
【0024】
また本発明によれば、機能性ポリエステル布帛の製造方法は、保持工程と加熱処理工程とを含む。保持工程において、ポリエステル繊維の布帛に、塩基性物質と反応性シクロデキストリンを保持させて、加熱処理工程において、130〜200℃で加熱処理することにより、反応性シクロデキストリンの縮合物の疎水性部分を、前記布帛表面の疎水性部分に固着させるので、簡便な処理で、優れた機能性ポリエステル布帛が得られ、かつ加熱処理のみで、バインダーや架橋剤などの成分を必要としないので、ポリエステル布帛の前記長所を損なうことなく製造できるという効果も奏する。
【0025】
本発明において、反応性シクロデキストリンの縮合物とポリエステル布帛とがどのような結合をして、該縮合物と布帛とが固着しているのかは、明確ではない。
【0026】
しかしながら、少なくとも反応性シクロデキストリンがポリエステル布帛に保持された状態で高温加熱処理されることによって、モノクロロトリアジノ基が他のシクロデキストリンの水酸基と反応して共有結合を形成し、ポリエステル布帛に強固に絡み付いて固着しているか、あるいは形成した縮合体の疎水性部分(シクロデキストリンは高い親水性を持つ為、反応性基が疎水性であると思われる)がポリエステルと親和性を示し、ポリエステル布帛に強固に固着して結合しているものと予測される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の機能性ポリエステル布帛の製造方法の1例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明の機能性ポリエステル布帛の製造方法の1例を示す工程図である。本発明に係る機能性ポリエステル布帛は、ポリエステル系繊維の布帛と、この布帛に固着された反応性シクロデキストリンの縮合物とを含む。このような機能性ポリエステル布帛は、本発明に係る機能性ポリエステル布帛の製造方法によって製造することができる。
【0029】
本発明の機能性ポリエステル布帛の製造方法は、保持工程S1と、絞り工程S2と、乾燥工程S3と、加熱処理工程S4と、ソーピング工程S5とを含む。
【0030】
保持工程S1では、反応性シクロデキストリンをポリエステル系繊維の布帛に保持させる。
【0031】
反応性シクロデキストリンとしては、当該反応性シクロデキストリンの反応性基同士が縮合し、あるいは反応性シクロデキストリンの反応性基と他のシクロデキストリンの水酸基が縮合することによって、縮合物を形成し、かつ当該縮合物の疎水性部分とポリエステル系繊維の疎水性部分とが、固着するものであれば、どのようなものであってもよい。
【0032】
かかる反応性シクロデキストリンとしては、たとえば反応性基として、ハロゲンで置換された含窒素複素環化合物が挙げられ、含窒素複素環化合物としてはトリアジン基が挙げられ、ハロゲンとしてはフッ素、塩素、ヨウ素および臭素が挙げられる。
【0033】
このうち、反応性基としては、ハロゲノトリアジル基が好ましく、とりわけモノクロロトリアジル基が好ましく、シクロデキストリンとしてはα―シクロデキストリン、β−シクロデキストリンが好ましい。
【0034】
かかる反応性基を有する反応性シクロデキストリンとしては、たとえばモノクロロトリアジニル−α―シクロデキストリン(以下、「MCТ−α−シクロデキストリン」ということがある)、モノクロロトリアジニル−β−シクロデキストリン(以下、「MCТ−β−シクロデキストリン」ということがある)が挙げられる。これらの反応性シクロデキストリンは、1種類を単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用することもできる。
【0035】
MCТ−α−シクロデキストリン、MCТ−β−シクロデキストリンは、α―シクロデキストリンまたはβ―シクロデキストリンにモノクロルトリアジンが結合した物質であり、既知物質であって、市販されている。
【0036】
MCТ−α−シクロデキストリンおよびMCТ−β−シクロデキストリンは、アミノ基、水酸基、メルカプト基などの反応基を有する有機材料との求核置換反応によって、共有結合で有機材料にシクロデキストリンを導入できることから、繊維やフィルムをはじめとする様々な分野で注目されている。
【0037】
本発明において、布帛とは繊維からなる織物、編物、不織布などの繊維構造物である。かかる布帛は、反応性シクロデキストリンの縮合物が布帛により強固に固着するよう、生機した布帛を、精練しておくことが望ましく、さらに精練後に染色する場合には、染色後に、布帛に付着している染料を、布帛から除去しておくことが望ましい。
【0038】
該布帛を構成するポリエステル系繊維としては、多価カルボン酸とポリアルコールを繊維材料としたものが挙げられる。ポリエステル繊維材料である多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸を挙げる事ができ、またポリアルコールとしてはエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。


【0039】
かかるポリエステル繊維材料には、各種の添加剤、たとえば、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤などを、必要に応じて、共重合または混合して含有されていてもよい。
【0040】
さらに、かかるポリエステル系繊維の布帛とは、ポリエステル繊維の含有率が布帛全体の100重量%のものだけでなく、好ましくは少なくとも30重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上のものであってもよく、その残りの他の繊維素材としては、ポリアミド、アクリル、ポリウレタンなどの合成繊維、綿、絹、ウール、レーヨンなどの天然繊維を混合、併用することができる。
【0041】
本発明において、ポリエステル系繊維の布帛に反応性シクロデキストリンを固着させるには、反応性シクロデキストリンをポリエステル系繊維の布帛に保持させて、加熱処理することによって、行うことができる。
【0042】
反応性シクロデキストリンの前記布帛への保持は、反応性シクロデキストリン含有液を
布帛と接触させればよく、接触方法としては、布帛に反応性シクロデキストリン含有液を塗布、噴霧、浸漬など、この技術分野において常用される方法が挙げられる。
【0043】
反応性シクロデキストリン含有液は、反応性シクロデキストリンを適当な溶媒に溶解、懸濁もしくは分散させたものであればよく、反応性シクロデキストリンを溶解もしくは懸濁させる溶媒としては、水のほかメタノール、エタノールなどの各種親水性有機溶媒など
が挙げられ、このうち水が好ましい。
【0044】
反応性シクロデキストリンの溶媒中の配合率は、反応性シクロデキストリン含有液全体に対して約0.5〜30重量%、とりわけ2〜20重量%となるのが好ましい。
【0045】
また、反応性シクロデキストリン含有液には、反応性シクロデキストリンの反応性を向上させるために、塩基性物質を加えることが好ましく、かかる塩基性物質としては、たとえば炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられ、炭酸ナトリウムが好ましい。
【0046】
かかる塩基性物質は、反応性シクロデキストリン含有液中の配合率が約0.5〜20重量%、とりわけ2〜20重量%となるのが好ましい。
【0047】
あるいは、塩基性物質は反応性シクロデキストリン含有液のpHを指標として配合することもでき、この場合には、反応性シクロデキストリン含有液のpHが9〜13、とりわけ10〜12となるよう塩基性物質を配合すればよい。
【0048】
ポリエステル系繊維の布帛に対する反応性シクロデキストリンの保持量は、その目的と使用する布帛の性状によって異なるものの、布帛に対して、約0.5〜20重量%、とりわけ2〜20重量%となるよう保持させることが好ましい。
【0049】
反応性シクロデキストリン含有液の保持量の調整は、反応性シクロデキストリン含有液を布帛に塗布や噴霧するときは、所定の保持量の反応性シクロデキストリン含有液を塗布もしくは噴霧すればよい。
【0050】
絞り工程S2では、布帛を反応性シクロデキストリン含有液に浸漬させたときは、浸漬後に、浸漬した布帛を絞り機や遠心分離器などを用いて絞り、布帛中の反応性シクロデキストリン含有液の保持量が布帛中に所定量残存するようにすればよい。また、反応性シクロデキストリン含有液を塗布または噴霧したのち、絞り工程S2で反応性シクロデキストリン含有液の保持量を調整することもできる。
【0051】
乾燥工程S3では、布帛に反応性シクロデキストリン含有液を保持させたのち、乾燥する。
【0052】
反応性シクロデキストリンがポリエステル系繊維の布帛に固着しないので、乾燥条件として制限はなく、反応性シクロデキストリン含有液の溶媒が除去される程度の温度および時間で実施することができる。かかる乾燥条件の1例を挙げるとすれば、たとえば100〜150℃で0.5〜5分間の乾燥条件が挙げられる。
【0053】
加熱処理工程S4では、布帛に保持させた反応性シクロデキストリンを縮合させて布帛に固着させる。
【0054】
反応性シクロデキストリンを保持した布帛の加熱処理は、反応性シクロデキストリンが布帛に固着し、かつ布帛およびシクロデキストリンが劣化しない温度であればよく、温度が高いほど、時間が長いほど強い固着力が得られる。具体的には130℃以上で加熱処理を行う。
【0055】
また、本実施形態において加熱処理は、前記温度において、0.5分間以上行う。好ましい処理時間の1例を挙げるとすれば加熱温度が130℃であれば1〜5分間、150℃であれば1〜4分間、加熱温度が170℃であれば1〜3分間、加熱温度が190℃であれば0.5〜3分間である。
【0056】
この加熱処理は、一挙に行ってもよく、あるいは複数回に分けて行ってもよく、前記加熱処理温度および時間の範囲内であれば、反応性シクロデキストリンを布帛に確実に固着させることができる。あるいは、まずある程度の加熱処理をし、ソーピングして布帛表面の付着物を除去したのち、乾燥し、再度加熱処理を行うこともできる。
【0057】
ソーピング工程S5では、布帛に付着した反応性シクロデキストリンの未反応物などの付着物を除去する。ソーピングはこの技術分野において常用される方法で実施すればよい。
【0058】
また、本実施形態では、ソーピング後の布帛を乾燥する。乾燥条件としては制限はなく、ソーピング工程S5で用いた溶媒が除去される程度の温度および時間で実施することができる。かかる乾燥条件の1例を挙げるとすれば、たとえば130〜170℃で0.5〜5分間の乾燥条件が挙げられる。
【0059】
かくして得られた本発明の機能性ポリエステル布帛は、その消臭機能や速乾性などから各種スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、傘地、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、防水シート、テント、カーシートなどに好適に使用することができる。またポリエステル系繊維の布帛にバインダーなどを使用せずに、反応性シクロデキストリンを固着させているので、風合いにすぐれ、耐摩耗性、耐久性があり、弾力性があるのでシワになりにくく、型崩れしにくい、耐熱性もあり非常に丈夫であるという、ポリエステル布帛が有する利点はいささかも損なわれない。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
(1)機能性ポリエステル布帛の製造
水200mL中に炭酸ナトリウム4g(水に対して2重量%)を加えて溶解し(pH11.1)、さらにMCT−β−シクロデキストリン20g(水に対して10重量%)を加えて溶解させた。
【0061】
この水溶液を約20℃に維持し、寸法が40cm×30cmのポリエステル繊維の編物(目付180g/m、ウエル48本/inch、コース51本/inch)を約5秒間浸漬した。
【0062】
ついで、浸漬した布帛を、マングル絞り機を用いて絞り率100%で絞ったのち、130℃で3分間乾燥した。
【0063】
乾燥後、MCТ−β−シクロデキストリンを保持する布帛を150℃で1分間加熱処理し、ついで、40℃の水を用いて、10分間ソーピングした。ソーピング後の布帛を60℃で30分間乾燥した。かくして本発明の機能性ポリエステル布帛を得た。
【0064】
(2)消臭効果の確認
前記(1)で得た機能性ポリエステル布帛の消臭機能について確認した。臭気成分としてイソ吉草酸、アンモニアおよび酢酸の三成分を用いて消臭試験を行い、下記の方法により消臭性能を評価した。消臭試験は、(社)繊維評価技術協議会の方法に基づいて、イソ吉草酸についてはガスクロマトグラフィー法により実施し、アンモニアおよび酢酸については検知管法により実施した。
【0065】
また、前記機能性ポリエステル布帛を、JlS L 0217−103法に準じた条件で10回洗濯し、洗濯後の消臭機能を確認した。その結果は表1および表2に示すとおりである。
【0066】
(実施例2)
加熱処理を130℃で行う他は、実施例1と同様にして実施することによって、実施例2の機能性ポリエステル布帛を得た。
【0067】
この機能性ポリエステル布帛について、実施例1と同様にしてその消臭機能を確認した。結果は表1に示すとおりである。
【0068】
(比較例1)
MCТ−β−シクロデキストリンに代えて、α−シクロデキストリンを用いる他は、実施例1と同様にして実施することによって、比較例1の機能性ポリエステル布帛を得た。
【0069】
この機能性ポリエステル布帛について、実施例1と同様にして消臭機能を確認した。結果は表1に示すとおりである。
【0070】
(比較例2)
MCТ−β−シクロデキストリンに代えて、γ−シクロデキストリンを用いる他は、実施例1と同様にして実施することによって、比較例2の機能性ポリエステル布帛を得た。
【0071】
(比較例3)
加熱処理を100℃で行う他は、実施例1と同様にして実施することによって、比較例3の機能性ポリエステル布帛を得た。
【0072】
(比較例4)
実施例1で使用したポリエステル繊維の編物(未処理品)を、比較例4とした。
【0073】
この機能性ポリエステル布帛について、実施例1と同様にして、消臭試験および洗濯後の消臭機能を確認した。結果は表1に示すとおりである。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
上記表1から明らかなように、反応性シクロデキストリンとしてMCТ−β−シクロデキストリンを用いて130℃で加熱処理した場合には、シクロデキストリンの縮合物が布帛に付着し、布帛重量が増加していることがわかる。
【0077】
さらに、表2から、実施例1の機能性ポリエステル布帛は、アンモニア、イソ吉草酸および酢酸に対して、高い消臭率を有しており、かつ洗濯を10回繰り返してもその消臭機能は充分実用性の高い数値を維持しており、反応性シクロデキストリンの縮合物が強固にポリエステル系繊維の布帛に固着していることがわかる。
【0078】
また、本発明の機能性布帛においては、アンモニア消臭能が高く、水道水を用いて洗濯を繰り返した場合には、洗濯回数に応じてよりアンモニア消臭率が高いという結果が得られている。たとえば、「実施例1」の機能性ポリエステル布帛を水道水を用いて50回洗濯した場合のアンモニア消臭率は86%、100回洗濯した場合のアンモニア消臭率は92%であった。
図1