特許第5972617号(P5972617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972617
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】多孔質成形部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/04 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
   C04B38/04 B
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-59867(P2012-59867)
(22)【出願日】2012年3月16日
(65)【公開番号】特開2013-193895(P2013-193895A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】村田 一男
(72)【発明者】
【氏名】鳥海 和宏
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−103877(JP,A)
【文献】 特開2005−336539(JP,A)
【文献】 特開2000−319075(JP,A)
【文献】 特開平06−183780(JP,A)
【文献】 特開2002−243684(JP,A)
【文献】 特開2007−292736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00−38/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部の領域に多孔質領域を有する多孔質成形部材を製造する多孔質成形部材の製造方法であって、セラミックス粉末原料に対して一又は二以上の添加剤を配合して所定の造粒体材料を造粒する造粒処理工程,この造粒処理工程で得られた造粒体材料を所定の加圧力により成形する成形体成形工程,この成形体成形工程で得られた成形体を所定の加熱温度により焼成する成形体焼成工程及びこの成形体焼成工程で得られた成形圧粉体を粉砕して粒子の大きさが0.1〜1.0〔mm〕の範囲となる粒体材料を得る粉砕処理工程を備えることにより、セラミックス素材を用いた所定の粒度を有する粒体材料を生成する粒材生成工程と、前記粒体材料に、少なくとも当該粒体材料同士を結合し、かつ所定のエッチャントにより溶出可能な成分を主成分とする特定バインダを配合することにより、所定の成形材料を生成する成形材料生成工程と、この成形材料を用いて成形した後、焼成することにより、所定の基礎成形部材を得る部材成形工程と、前記基礎成形部材の一部又は全部を前記エッチャントによりエッチング処理することにより、前記基礎成形部材から前記特定バインダの一部を溶出させ、少なくとも前記基礎成形部材におけるエッチング処理をしない未処理領域よりも通気率が高くなる多孔質領域を設けるエッチング処理工程と、を備えてなることを特徴とする多孔質成形部材の製造方法。
【請求項2】
前記粉砕処理工程は、前記成形体焼成工程で得られた成形圧粉体を粉砕する粉砕工程と、この粉砕工程で得られた粒子を分級することにより、粒子の大きさが0.1〜1.0〔mm〕の範囲となる前記粒体材料を得る分級工程とを備えてなることを特徴とする請求項1記載の多孔質成形部材の製造方法。
【請求項3】
前記造粒体材料における粒子の大きさは、60〜120〔μm〕の範囲に選定することを特徴とする請求項1又は2記載の多孔質成形部材の製造方法。
【請求項4】
前記エッチング処理工程は、前記成形部材における一部の領域のみをエッチング可能となるように所定のマスク手段により前記成形部材をマスキングするマスキング工程と、マスキングされた前記成形部材をエッチング処理するエッチング工程とを備えることを特徴とする請求項1,2又は3記載の多孔質成形部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス素材を用いることにより少なくとも一部の領域に多孔質領域を設けた多孔質成形部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス漏れ等を感知するガスセンサとしては特許文献1で開示される多孔質セラミックスガスセンサが知られており、通常、この種のガスセンサは、ガスの存在に反応するセンサ素子と、このセンサ素子を機械的に保護するとともにガス以外の無用な異物侵入を阻止する脱塵機能を有する多孔質カバーを備えている。この場合、多孔質カバーは、所要の脱塵機能を確保しつつ、必要なガス透過率、例えば、50〔%〕以上のガス透過率の確保が要求される。したがって、通常、この種の多孔質カバーには、ガス透過率及び脱塵機能の双方の要請に応えることができる多孔質セラミックスが使用されており、上記特許文献1にも、ガス検知能を有し、1300〔℃〕までの高温下でも構造が安定で、かつ電極を取付けることにより高温脱塵とガス検知を同時に機能させるようにしたバルク状の多孔質セラミックスが開示されている。
【0003】
ところで、多孔質カバーに使用する多孔質セラミックスの製造方法としては、一般に、造孔剤材料を利用する造孔剤法及び造粒体材料を利用する焼結法が知られている。造孔剤法の場合、十分なガス透過率を確保するには、造孔剤の配合比率を高くする必要があるため、機械的強度(特に曲げ強さ)の低下を招いてしまう。したがって、機械的強度の要求される多孔質カバーには適用できない。また、焼結法の場合、所要の機械的強度は確保できるものの、連続した気孔を十分に形成できないため、必要なガス透過率を確保できない。結局、多孔質セラミックスを得る従来の製造方法では一長一短があり、ガス透過率及び機械的強度(曲げ強さ)の双方を十分に満足し得る多孔質セラミックスを得ることができない問題がある。
【0004】
一方、この問題を解決するため、多孔質カバーにおける必要とする一部領域(例えば、前端面)のみに対して規定のガス透過率を確保し、それ以外の領域についてはガスが透過しないようにした多孔質カバーの製造方法も知られており、特許文献2には、所定のガス透過率を有し、かつ多孔質セラミックスによりカップ状に形成した多孔質カバーの製造方法であって、セラミックス粉末原料と添加剤を調合し、所定の粒度を有する造粒体材料を造粒する第一材料製造工程と、造粒体材料を所定の一次加圧力により一次成形し、かつ異なる加熱温度により加熱して複数種類の圧粉体材料を得る第二材料製造工程と、複数種類の圧粉体材料を成形型に順番に充填し、所定の二次加圧力により二次成形した後、所定の加熱温度により焼成し、少なくとも一部領域が正規のガス透過率となり、かつ未処理領域が正規のガス透過率よりも小さいガス透過率となる多孔質カバーを得る主成形工程を備える多孔質カバーの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−243684号公報
【特許文献2】特開2007−292736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来における多孔質カバー(多孔質成形部材)の製造方法は、次のような解決すべき課題が存在した。
【0007】
第一に、多孔質カバーの一部領域のみのガス透過率を高くするに際し、基本的には、予め、異なる複数種類の圧粉体材料を用意するとともに、製造時に、成形型内における一部領域に対応する位置と他の領域に対応する位置にそれぞれ異なる圧粉体材料を充填して成形を行うため、複数種類の圧粉体材料の用意(製造)、更には煩雑な成形工程が必要となる。結局、製造工数の増加及びこれに伴う製造性(製造容易性)の低下、更には、材料コスト及び製造コストの上昇を招くとともに、周辺構造を含む専用の成形型(成形システム)も必要になるため、成形型の大型化及びコストアップが無視できない。
【0008】
第二に、複数種類の圧粉体材料を専用の成形型により成形する必要があるため、必ずしも全ての形態(形状)に適用できるとは限らない。即ち、複雑な形態における複数の異なる領域に複雑な形状を有する多孔質部位を設けるような場合、成形型の設計は容易でないとともに、形態によっては成形できない場合も想定される。結局、製造できる形態には限界があり、汎用性,適用性及び発展性に難がある。しかも、異なる種類の圧粉体材料を用いるため、一体性(連続性)を確保しにくく、機械的強度を損なう虞れもある。
【0009】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した多孔質成形部材の製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る多孔質成形部材の製造方法は、上述した課題を解決するため、少なくとも一部の領域に多孔質領域1pを有する多孔質成形部材1(1c,1x,1y)を製造するに際し、セラミックス粉末原料に対して一又は二以上の添加剤を配合して所定の造粒体材料Ms…を造粒する造粒処理工程(Sax),この造粒処理工程(Sax)で得られた造粒体材料Ms…を所定の加圧力Ffにより成形する成形体成形工程(S4),この成形体成形工程(S4)で得られた成形体Dsを所定の加熱温度Tfにより焼成する成形体焼成工程(S5)及びこの成形体焼成工程(S5)で得られた成形圧粉体Dmを粉砕して粒子の大きさが0.1〜1.0〔mm〕の範囲となる粒体材料Mo…を得る粉砕処理工程(Say)を備えることにより、セラミックス素材Cを用いた所定の粒度を有する粒体材料Mo…を生成する粒材生成工程(Sa)と、粒体材料Mo…に、少なくとも当該粒体材料Mo…同士を結合し、かつ所定のエッチャントEにより溶出可能な成分を主成分とする特定バインダBを配合することにより、所定の成形材料Mm…を生成する成形材料生成工程(Sb)と、この成形材料Mm…を用いて成形した後、焼成することにより、所定の基礎成形部材1mを得る部材成形工程(Sc)と、基礎成形部材1mの一部又は全部をエッチャントEによりエッチング処理することにより、基礎成形部材1mから特定バインダBの一部を溶出させ、少なくとも基礎成形部材1mにおけるエッチング処理をしない未処理領域1eよりも通気率が高くなる多孔質領域1pを設けるエッチング処理工程(Sd)と、を備えてなることを特徴とする。
【0011】
本発明は、好適な態様により、粉砕処理工程(Say)には、成形体焼成工程(S5)で得られた成形圧粉体Dmを粉砕する粉砕工程(S6)と、この粉砕工程(S6)で得られた粒子を分級し、粒子の大きさが0.1〜1.0〔mm〕の範囲となる粒体材料Mo…を得る分級工程(S7)とを設けることができる。この際、造粒体材料Ms…における粒子の大きさは、60〜120〔μm〕の範囲に選定することが望ましい。また、エッチング処理工程(Sd)には、基礎成形部材1mにおける一部の領域のみをエッチング可能となるように所定のマスク手段30により基礎成形部材1mをマスキングするマスキング工程(S13)と、マスキングされた基礎成形部材1mをエッチング処理するエッチング工程(S14)とを設けることができる。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明に係る多孔質成形部材の製造方法によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) 本発明に係る多孔質成形部材の製造方法により得る多孔質成形部材1(1c,1x,1y)は、セラミックス素材Cにより形成した所定の粒度を有する粒体材料Mo…に、少なくとも当該粒体材料Mo…同士を結合し、かつ所定のエッチャントEにより溶出可能な成分を主成分とする特定バインダBを配合してなる所定の成形材料Mm…を用いて成形し、焼成して得た所定の基礎成形部材1mの一部又は全部を、エッチャントEによりエッチング処理することにより、基礎成形部材1mから特定バインダBの一部を溶出させ、少なくとも基礎成形部材1mにおけるエッチング処理をしない未処理領域1eよりも通気率が高くなる多孔質領域1pを設けてなるため、様々な形態の様々な位置に様々な形状及び大きさの多孔質領域1pを容易かつ確実に設けることができる。したがって、形態に制限されることなく一部領域を多孔質化することができ、汎用性,適用性及び発展性を高めることができるとともに、加えて、基礎成形部材1mは、基本的に一般的な成形工程で一体成形できるため、全体の一体性、更には機械的強度の向上に寄与できる。
【0014】
(2) 基礎成形部材1mは、単一(一種類)の粒体材料Mo…により成形できるため、製造工程の簡易化及び製造工数の低減により、製造容易化、更には材料コスト及び製造コストの削減を図ることができる。しかも、多孔質部位を成形するための専用の成形型(成形システム)を不要にできるため、周辺構造を含む成形型の簡略化,小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0015】
(3) 多孔質成形部材1(1c,1x,1y)を製造するに際し、セラミックス素材Cにより形成した所定の粒度を有する粒体材料Mo…を生成する粒材生成工程(Sa)と、粒体材料Mo…に、少なくとも当該粒体材料Mo…同士を結合し、かつ所定のエッチャントEにより溶出可能な成分を主成分とする特定バインダBを配合することにより、所定の成形材料Mm…を生成する成形材料生成工程(Sb)と、この成形材料Mm…を用いて成形した後、焼成することにより、所定の基礎成形部材1mを得る部材成形工程(Sc)と、基礎成形部材1mの一部又は全部をエッチャントEによりエッチング処理することにより、基礎成形部材1mから特定バインダBの一部を溶出させ、少なくとも基礎成形部材1mにおけるエッチング処理をしない未処理領域1eよりも通気率が高くなる多孔質領域1pを設けるエッチング処理工程(Sd)と、を設けたため、目的の多孔質成形部材1(1c,1x,1y)を容易かつ低コストに製造することができる。
【0016】
(4) 粒材生成工程(a)には、セラミックス粉末原料に対して一又は二以上の添加剤を配合することにより、所定の造粒体材料Ms…を造粒する造粒処理工程(Sax),この造粒処理工程(Sax)で得られた造粒体材料Ms…を所定の加圧力Ffにより成形する成形体成形工程(S4),この成形体成形工程(S4)で得られた成形体Dsを所定の加熱温度Tfにより焼成する成形体焼成工程(S5)及びこの成形体焼成工程(S5)で得られた成形圧粉体Dmを粉砕して粒子の大きさが0.1〜1.0〔mm〕の範囲となる粒体材料Mo…を得る粉砕処理工程(Say)を設けたため、成形時における粒体材料Mo…同士の接触面積を小さくできるため、加圧力設定等により、多孔質領域1pに要求される通気率と多孔質領域1pを含む多孔質成形部材1全体に要求される機械的強度の双方を容易に満たすことができる。
【0017】
(5) 好適な態様により、粉砕処理工程(Sax)に、成形体焼成工程(S5)で得られた成形圧粉体Dmを粉砕する粉砕工程(S6)と、この粉砕工程(S6)で得られた粒子を分級することにより、粒子の大きさが0.1〜1.0〔mm〕の範囲となる粒体材料Mo…を得る分級工程(S7)とを設ければ、均質性の高い、より望ましい粒体材料Mo…を得ることができる。
【0018】
(6) 好適な態様により、造粒体材料Ms…における粒子の大きさを、60〜120〔μm〕の範囲に選定すれば、多孔質領域1pの通気率と多孔質成形部材1全体における機械的強度の双方を確保するための良質な成形圧粉体Dmを得ることができる。
【0019】
(7) 好適な態様により、エッチング処理工程(Sd)に、基礎成形部材1mにおける一部の領域のみをエッチング可能となるように所定のマスク手段30により基礎成形部材1mをマスキングするマスキング工程(S13)と、マスキングされた基礎成形部材1mをエッチング処理するエッチング工程(S14)とを設ければ、目的の多孔質領域1pを形成するための確実なエッチング処理を容易かつ効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の好適実施形態に係る多孔質成形部材の製造方法を説明するための製造工程を順を追って示すフローチャート、
図2】同製造方法により製造された多孔質成形部材の一部抽出拡大図を含む一部断面構成図、
図3】同製造方法により製造された多孔質成形部材の模式的平面図、
図4】同製造方法により製造された多孔質成形部材をセンサカバーとして利用した場合のガスセンサの一部断面斜視構造図、
図5】同製造方法に用いる押出成形機構の模式的構成図、
図6】同製造方法に用いる加圧成形機構の模式的構成図、
図7】同製造方法のエッチング処理工程の工程概要図、
図8】同製造方法のエッチング処理工程の変更例を示すフローチャート、
図9】本発明の変更実施形態に係る多孔質成形部材の製造方法を説明するための一部工程の説明図、
図10】本発明の他の変更実施形態に係る多孔質成形部材の製造方法を説明するための一部工程の説明図、
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係る多孔質成形部材1の製造方法を説明するための製造工程を順を追って示すフローチャートである。以下、図2図8を参照しつつ同フローチャートに従って本実施形態に係る製造方法について説明する。
【0023】
例示の多孔質成形部材1は、図4に示すガスセンサ10に用いる多孔質カバー1cである。この多孔質カバー1cは、円筒部1cfとこの円筒部1cfの上端側(一端側)を閉塞する天面部1cuからなる形態を有し、全体形状が逆カップ状となる。
【0024】
多孔質成形部材1(多孔質カバー1c)を製造するに際しては、最初に、粒材生成工程により、粒体材料Mo…を生成する(ステップSa(S1〜S7))。この粒体材料Mo…は、後述する基礎成形部材1mを成形するための材料として用いられる。この粒材生成工程では、まず、造粒処理工程により造粒材料Ms…を生成する(ステップSax)。造粒処理工程では、原料調合工程により、セラミックス素材Cによるセラミックス粉末原料と所要の添加剤を調合する(ステップS1)。セラミックス粉末原料には、粉末粒径が概ね0.3〔μm〕程度のアルミナ粉末(Al2O3)を用いる。セラミックス粉末原料(
セラミックス素材C)に、アルミナ粉末を用いれば、セラミックス素材として一般的なアルミナを利用できるため、特に、多孔質成形部材1を製造する際の量産性及び廉価性の向上に寄与できる。添加剤には、助剤,バインダ及び純水を適量用いる。なお、助剤には、ポリアクリル酸塩等を利用できるとともに、このときのバインダには、アクリル,PVA(ポリビニルアルコール),PEO(ポリエチレンオキサイド)等を利用できる。
【0025】
また、原料調合工程で得られたセラミックス粉末原料と所要の添加剤は、原料混合工程により全体を均一に混合する(ステップS2)。この際、ボールミル装置等を使用し、所定時間にわたり機械的に撹拌することにより十分に混合することが望ましい。原料混合工程が終了したなら造粒工程に移行する。造粒工程では、所定の粒度を有する造粒材料Ms…を造粒する(ステップS3)。具体的には、噴霧乾燥装置(スプレードドライヤ装置)等を使用し、造粒材料Ms…における粒子(顆粒)の平均径が60〜120〔μm〕の範囲、望ましくは80〔μm〕程度となるように製造する。なお、粒子の平均径が60〔μm〕未満では、成形体寸法のバラツキが大きくなるとともに、120〔μm〕を超える場合は、成形時における材料の流れが悪くなり成形が困難になる。したがって、粒子の平均径は、少なくとも60〜120〔μm〕の範囲に選定することが望ましく、これにより、後述する多孔質領域1pの通気率と多孔質成形部材1全体における機械的強度の双方を確保するための良質な成形圧粉体Dmを得ることができる。
【0026】
造粒処理工程が終了したなら、成形体成形工程に移行する。成形体成形工程では、造粒処理工程で得られた造粒材料Ms…を加圧して押出成形を行う(ステップS4)。図5は、成形体成形工程で用いる押出成形機構20を示す。成形体成形工程では、押出成形機構20に備えるシリンダ21の内部21iに造粒処理工程で得られた造粒材料Ms…を収容し、ラム22を第一加圧力Ffにより加圧して押出成形を行う。これにより、型盤23から矢印Ho方向に成形体Dsが押し出され、この成形体Dsは丸パイプ形状に成形される。例示する成形体Dsは、外径が1.9〔mm〕、内径が1.3〔mm〕である。また、第一加圧力Ffは、70〜130〔MPa〕の範囲、望ましくは100〔MPa〕程度に選定する。成形体Dsをこのような丸パイプ形状に成形すれば、成形体Dsを平面形状に成形する場合に比べ、後述する主成形時における粒体材料Mo…同士の接触面積を小さくできるため、通気率をより高めることに寄与できる。なお、押出成形により成形体Dsを成形する場合を例示したが、プレス成形により同様の形状を成形してもよい。
【0027】
そして、成形体Dsが得られたなら、成形体焼成工程により、成形体Dsを所定の第一加熱温度Tfにより焼成(仮焼成)して成形圧粉体Dmを得る(ステップS5)。この場合、第一加熱温度Tfは、900〜1200〔℃〕の範囲、望ましくは1000〜1100〔℃〕程度に選定する。なお、成形体焼成工程は、後述する主成形工程における粒体材料Mo…の潰れを防止するために行うものであり、成形体焼成工程を行わない場合には、主成形工程における第二加圧力Fsを十分に高くすることができなくなり、良好な主成形を行うことができない。
【0028】
成形体焼成工程により成形圧粉体Dmが得られたなら、粉砕処理工程により粒体材料Mo…を生成する(ステップSay)。粉砕処理工程では、まず、粉砕工程により成形圧粉体Dmを細かく粉砕する(ステップS6)。次いで、分級工程により、粉砕により得られた粒子の大きさを0.1〜1.0〔mm〕の範囲、望ましくは0.35〜0.70〔mm〕の範囲に分級する(ステップS7)。分級工程は、後述するキャビティ26への充填を可能にするためであり、充填可能なサイズを取り出すとともに、微粉末は除去する。この結果、均質性の高い、より望ましい粒体材料Mo…を得ることができるとともに、製造する多孔質領域1pにおける通気路R…(図2参照)の閉塞を回避することができる。これにより、目的の粒体材料Mo…を得ることができる。
【0029】
この粒体材料Mo…は、丸パイプ形状を有する成形圧粉体Dmの粉砕により得られるため、粒体材料Mo…における粒子同士の接触面積は小さくなり、実質的な通気路R…の幅(開口面積)を大きくすることが可能となる。即ち、成形時における粒体材料Mo…同士の接触面積を小さくできるため、加圧力設定等により、多孔質領域1pに要求される通気率とこの多孔質領域1pを含む多孔質成形部材1全体に要求される機械的強度の双方を容易に満たすことができる。以上がセラミックス素材Cにより形成した所定の粒度を有する粒体材料Mo…を生成する粒材生成工程(Sa(S1〜S7))となる。なお、例示の粒材生成工程は、ランダム形状の粒子を有する粒体材料Mo…を生成する場合を示したが、粒子の形状は、必ずしもランダム形状であることを要せず、形の揃った球形状の粒体材料Po…などを用いてもよく、粒子の形状は任意である。また、生成方法も任意であり、例えば、予め、市販されているセラミックス粒体をそのまま粒体材料Mo…として使用する場合を排除するものではない。
【0030】
他方、粒材生成工程(Sa)が終了したなら、所定の成形材料Mm…を生成する成形材料生成工程に移行する(ステップSb(S8,S9))。成形材料生成工程(Sb)では、まず、材料調合工程により、粒材生成工程で得られた所定量の粒体材料Mo…に対して、少なくとも当該粒体材料Mo…同士を結合し、かつ後述する所定のエッチャントEにより溶出可能な成分を主成分とする特定バインダBを所定量だけ調合する(ステップS8)。例示の場合、特定バインダBとして、二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とするバインダを用いた。このような二酸化ケイ素を主成分とする特定バインダBを用いれば、特に、アルミナ粉末等のセラミックス粉末原料に対してマッチング性の高い最適なバインダとして用いることができる。この際、必要により、助剤,純水,他のバインダ等の一又は二以上の添加剤を配合することができる。
【0031】
次いで、材料混合工程により、材料調合工程において調合した粒体材料Mo…,特定バインダB及び必要により配合した一又は二以上の添加剤の全体を均一に混合する(ステップS9)。この際、ボールミル装置等を使用し、所定時間にわたり機械的に撹拌することにより十分に混合することが望ましい。これにより、粒体材料Mo…に対して、少なくとも当該粒体材料Mo…同士を結合し、かつ所定のエッチャントEにより溶出可能な成分を主成分とする特定バインダBを配合してなる成形材料Mm…を得ることができる。以上が粒体材料Mo…に、少なくとも当該粒体材料Mo…同士を結合し、かつ所定のエッチャントEにより溶出可能な成分を主成分とする特定バインダBを配合することにより、所定の成形材料Mm…を生成する成形材料生成工程(Sb)となる。
【0032】
そして、成形材料生成工程(Sb)が終了したなら所定の基礎成形部材1mを得る部材成形工程に移行する(ステップSc(S10〜S12))。部材成形工程(Sc)では、まず、主成形工程により、得られた成形材料Mm…を用いて基礎成形部材1mを成形する(ステップS10)。図6は、主成形工程で用いる加圧成形機構25を示す。主成形工程では、加圧成形機構25のキャビティ26に成形材料Mm…を充填するとともに、可動型27を所定の第二加圧力Fsにより加圧することによりプレス成形を行う。これにより、所要の形状を有する基礎成形部材1mが得られる。この場合、第二加圧力Fsは、8〜30〔MPa〕の範囲に選定することが望ましい。このように、基礎成形部材1mの成形に際して、成形条件を設定した一般的なセラミックス成形法をそのまま利用できる。したがって、基礎成形部材1mを成形するに際しての製造コストの低減及び量産性の向上に寄与できる。
【0033】
また、基礎成形部材1mが得られたなら、主焼成工程により、当該基礎成形部材1mを所定の第二加熱温度Tsにより焼成する(ステップS11)。この場合、第二加熱温度Tsは、1200〜1600〔℃〕の範囲に選定することが望ましい。第二加熱温度Tsは、使用するセラミックス粉末原料に対応した温度を適宜設定することができる。これにより、焼成した基礎成形部材1mを得ることができる(ステップ12)。例示の基礎成形部材1mは、前述したように、ガスセンサ10に用いる多孔質カバー1cとなるため、焼成した基礎成形部材1mの実質的な外観形状は多孔質カバー1cと同じになる。なお、例示する多孔質カバー1c(基礎成形部材1m)のディメンションは、直径(外径)12〔mm〕,高さ6〔mm〕,筒部厚さ1〔mm〕である。そして、得られた基礎成形部材1mに対しては、外径寸法,厚み寸法,高さ寸法,外観等の必要な中間検査を行う。以上が成形材料Mm…を用いて成形した後、焼成することにより、所定の基礎成形部材1mを得る部材成形工程(Sc)となる。
【0034】
部材成形工程(Sc)が終了したなら、次いで、基礎成形部材1mの一部又は全部をエッチング処理するエッチング処理工程に移行する(ステップSd(S13〜S17))。図7(a)〜(c)に、エッチング処理工程の工程概要を示す。まず、マスキング工程により、基礎成形部材1mに対して、当該基礎成形部材1mにおける、多孔質領域1pに対応する一部の領域のみをエッチング可能にする所定のマスク手段30を付設し、多孔質領域1pに対応する領域を除く未処理領域1eをマスキングする(ステップS13)。図7(a)に、マスク手段30の一例を示す。例示のマスク手段30には、基礎成形部材1mのほぼ全体を覆うカップ状に形成するとともに、一部の領域、即ち、多孔質領域1pに対応する位置に開口部30shを形成したマスキングカバー30sを用いた。これにより、図7(a)に示すように、マスキングカバー30sを基礎成形部材1mに装着するのみで容易にマスキングできる。したがって、このようなマスキングカバー30sを用いれば、基礎成形部材1mに装着するのみでマスキングすることができるとともに、基礎成形部材1mに対する正確な位置決めも同時に行うことができる。なお、必要により、マスキングカバー30sの内面に、基礎成形部材1mに対する密着性を高めるための処理又は塗布を行うことによりシーリング性を高めることが望ましい。
【0035】
マスキング工程が終了したなら、エッチング工程により、マスキングされた基礎成形部材1mに対するエッチング処理を行う(ステップS14)。図7(b)に、エッチング処理の一例を示す。実施形態では、噴霧ノズル31からエッチャント(エッチング液)Eをマスキングカバー30sの開口部30shに対して下方からシャワー状に吹き付ける手法を例示した。また、使用するエッチャントEには、特定バインダBの少なくとも一部を溶出可能な成分を主成分とするエッチャントを選定する。実施形態における特定バインダBには、二酸化ケイ素を主成分とするバインダを用いたため、エッチャントEには、少なくともフッ化水素酸(HF)を主成分とするエッチャントが望ましい。このようなフッ化水素酸を主成分とするエッチャントを用いれば、特に、二酸化ケイ素を主成分とする特定バインダBに対してマッチング性の高い最適なエッチャントとして用いることができる。
【0036】
そして、このようなエッチング処理では、基礎成形部材1mの表面における多孔質領域1pに対応する部位に、エッチャントEが吹き付けられるため、基礎成形部材1mからは特定バインダBの一部が溶出し、少なくとも基礎成形部材1mにおけるエッチング処理をしない未処理領域1eよりも通気率が高くなる多孔質領域1pを設けることができる。この結果、多孔質領域1pは、図2に示すように、エッチャントEにより特定バインダBの一部が除去され、通気率が高められた多数の通気路R…が形成される。したがって、エッチャントEにおけるフッ化水素酸の濃度、吹付ける速度及び吹付け時間等のエッチング処理条件を設定すれば、エッチング処理による処理度合を変えることができる。特に、本実施形態に係る多孔質成形部材1は、ガスセンサ10に用いる多孔質カバー1cとなるため、多孔質領域1pにおける目標とする通気率、即ち、ガス透過率を50〜80〔%〕に設定することが望ましく、これらのエッチング処理条件は予め設定することができる。
【0037】
このように、エッチング処理工程(Sd)に、基礎成形部材1mにおける一部の領域のみをエッチング可能となるように所定のマスク手段30により基礎成形部材1mをマスキングするマスキング工程と、マスキングされた基礎成形部材1mをエッチング処理するエッチング工程とを設ければ、目的の多孔質領域1pを形成するための確実なエッチング処理を容易かつ効果的に行うことができる。
【0038】
そして、エッチング工程が終了したならマスキングカバー30sを基礎成形部材1mから取り外す(ステップS15)。これにより、図7(c)及び図3に示すような、基礎成形部材1mの一部に、エッチング処理をしない未処理領域1eよりも通気率が高くなる多孔質領域1pを設けることができるため、この後、仕上げとなる洗浄及び乾燥を行うとともに、必要な最終検査を行う(ステップS16)。以上により、目的の多孔質部位1(多孔質カバー1c)を製造することができる(ステップS17)。
【0039】
ところで、上述した例では、主焼成工程(S11)が終了した後にエッチング処理工程(Sd)を行う場合を示したが、必ずしもこのような明確な工程で行う必要はなく、例えば、主焼成工程(S11)を、前段の仮焼成工程と後段の本焼成工程に分け、最初に仮焼成工程により基礎成形部材1mに対して仮焼成し、この後、上述したエッチング処理工程を行い、この後、本焼成工程を行ってもよい。これにより、バインダBが完全に固化する前に、効果的なエッチング処理を行うことができる。
【0040】
以上が基礎成形部材1mから特定バインダBの一部を溶出させ、少なくとも基礎成形部材1mにおけるエッチング処理をしない未処理領域1eよりも通気率が高くなる多孔質領域1pを設けるエッチング処理工程(Sd)となる。
【0041】
他方、図8にはエッチング処理工程(Sd)の変更例をフローチャートで示す。同図に示すエッチング処理工程(Sd)は、主に、図1のステップS13におけるマスキング工程をフォトレジスト方式により行う場合を示す。したがって、図8のステップS13a〜S13eが、図1のステップS13に対応する。
【0042】
以下、図8に示すフォトレジスト方式を用いてエッチング処理工程(Sd)を行う場合について順を追って説明する。まず、フォトレジストスプレー工程により、ステップS12で得られた基礎成形部材1mに対してフォトレジストをスプレーにより被着させ、基礎成形部材1mの表面にフォトレジスト層(スプレーコート)を形成する(ステップS13a)。なお、例示の場合、フォトレジストにはネガタイプを用いた。そして、フォトレジスト層を形成した基礎成形部材1mを、フォトレジストプリベーク工程により熱処理し、溶剤を蒸発させる処理を行う(ステップS13b)。次いで、図7(a)に示したマスキングカバー30s等を利用して基礎成形部材1mをマスキングし、開口部30shの位置に対応する部位のみを露光する開口部露光工程を行う(ステップS13c)。また、開口部露光工程が終了したなら開口部現像工程を行い、現像液により感光部(露光部分)を除去する(ステップS13d)。開口部現像工程が終了したならフォトレジストポストベーク工程により更に熱処理(ポストベーク)を行い、フォトレジストの密着性を高める(ステップS13e)。
【0043】
これにより、多孔質領域1pとなるエリアを除いた未処理領域1eのエリアがフォトレジストにより被覆された基礎成形部材1mが得られるため、前述したエッチング工程を行えばよい(ステップS14)。この後、図1のステップS15〜S17と同様の処理を行うことができる。このようなフォトレジスト方式を用いたエッチング処理工程(Sd)を行うことにより、基礎成形部材1mに対するフォトレジストの密着性、即ち、マスキング性(被覆性)をより高めることができる。また、未処理領域1eを除いた基礎成形部材1mの表面全体にフォトレジストを形成しておけば、エッチャントEを収容したエッチング槽に基礎成形部材1mを浸漬する等の他の方法によりエッチング工程を効果的に行うこともできる。
【0044】
次に、本実施形態に係る製造方法により製造された多孔質成形部材1の利用方法及び作用について、図2図4を参照して説明する。
【0045】
例示の多孔質成形部材1は、前述したように、多孔質カバー1cとなるため、図4に示すように、ガスセンサ10におけるガスを感知するセンサ素子11…を保護する機能を有する。このガスセンサ10は、ベース12に貫通した四本のリード13…を備えるとともに、ベース12の上面側に突出したリード13…に接続した二つのセンサ素子11,11を備えるため、多孔質カバー1cは、センサ素子11,11を覆うように組付ける。
【0046】
例示の多孔質カバー1c(多孔質成形部材1)は、図3に示すように、天面部1cuの中央に所定面積を有する多孔質領域1pが設けられ、この多孔質領域1pによりガスの通気性が確保される。この多孔質領域1pは、少なくともエッチング処理をしない未処理領域1eよりも通気率が高くなるように設定され、多孔質カバー1cの場合、前述のように、50〜80〔%〕のガス透過率を確保する。これにより、使用時には、ガスセンサ10としての十分なガス感知能力を発揮する。他方、多孔質カバー1cにおける多孔質領域1p以外の未処理領域1eは、50〔%〕よりも低いガス透過率、望ましくは、10〔%〕以下に設定する。これにより、埃や塵等の有効な侵入防止を図ることができる。
【0047】
一方、多孔質領域1pの内部は、特定バインダBの少なくとも一部が除去され、図2に示すように、所定の通気路R…が形成される。この結果、使用時には、外部の環境下に存在するガスG…が図2に示す点線矢印A…のように、通気路R…を通って外面側から内面側に進入するため、ガスG…はセンサ素子11…により感知される。例示の場合、通気路R…の幅は500〔μm〕未満である。他方、多孔質領域1p以外の未処理領域1eにおいては、水分や埃等の異物進入が有効に阻止される。このように、多孔質領域1pのガス透過率を所定の大きさに設定した多孔質カバー1cに適用すれば、検出精度の維持及び信頼性の確保された様々な形態の多孔質カバー1cを容易かつ低コストに製造することができる。
【0048】
次に、本発明の変更実施形態に係る多孔質成形部材1(1x,1y)の製造方法について、図9及び図10を参照して説明する。
【0049】
図9は、多孔質成形部材1として多孔質プレート1xに適用した場合を示す。1mは前述した多孔質領域1pを設ける前の基礎成形部材を示す。また、マスク手段30として、複数の開口部30eh…を形成したマスクプレート30eを用いた。したがって、本発明に係る製造方法によれば、セラミック素材Cを用いた一枚の一般的なプレート部材(基礎成形部材1m)に対しても容易に多孔質領域1p…を設けることができる。即ち、図9に示すように、基礎成形部材1mの上面にマスクプレート30eを重ね合わせてマスキングするとともに、上方からシャワー状のエッチャントEを吹き付けることができる。これにより、複数の開口部30eh…に対応した位置にそれぞれ多孔質領域1p…を設けた多孔質プレート1xを得ることができる。
【0050】
図10は、多孔質成形部材1として多孔質リッド1yに適用した場合を示す。1mは前述した多孔質領域1pを設ける前の基礎成形部材を示す。また、この例はマスク手段30を使用せず、基礎成形部材1mの全体を多孔質化する例を示す。したがって、この場合、エッチャントEを収容したエッチャント収容槽41を用意し、このエッチャント収容槽41に基礎成形部材1mを収容し、全体をエッチャントEにそのまま浸漬すればよい。これにより、基礎成形部材1mの全体からバインダBが溶出可能となり、全部に多孔質領域1pを設けた多孔質リッド1yを得ることができる。
【0051】
よって、このような本実施形態に係る製造方法により得られる多孔質成形部材1(1c,1x,1y)によれば、セラミックス素材Cにより形成した所定の粒度を有する粒体材料Mo…に、少なくとも当該粒体材料Mo…同士を結合し、かつ所定のエッチャントEにより溶出可能な成分を主成分とする特定バインダBを配合してなる所定の成形材料Mm…を用いて成形し、焼成して得た所定の基礎成形部材1mの一部又は全部を、エッチャントEによりエッチング処理することにより、基礎成形部材1mから特定バインダBの一部を溶出させ、少なくとも基礎成形部材1mにおけるエッチング処理をしない未処理領域1eよりも通気率が高くなる多孔質領域1pを設けてなるため、様々な形態の様々な位置に様々な形状及び大きさの多孔質領域1pを容易かつ確実に設けることができる。したがって、形態に制限されることなく一部領域を多孔質化することができ、汎用性,適用性及び発展性を高めることができるとともに、加えて、基礎成形部材1mは、基本的に一般的な成形工程で一体成形できるため、全体の一体性、更には機械的強度の向上に寄与できる。さらに、基礎成形部材1mは、単一(一種類)の粒体材料Mo…により成形できるため、製造工程の簡易化及び製造工数の低減により、製造容易化、更には材料コスト及び製造コストの削減を図ることができる。しかも、多孔質部位を成形するための専用の成形型(成形システム)を不要にできるため、周辺構造を含む成形型の簡略化,小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0052】
また、本実施形態に係る製造方法によれば、セラミックス素材Cにより形成した所定の粒度を有する粒体材料Mo…を生成する粒材生成工程(Sa)と、粒体材料Mo…に、少なくとも当該粒体材料Mo…同士を結合し、かつ所定のエッチャントEにより溶出可能な成分を主成分とする特定バインダBを配合することにより、所定の成形材料Mm…を生成する成形材料生成工程(Sb)と、この成形材料Mm…を用いて成形した後、焼成することにより、所定の基礎成形部材1mを得る部材成形工程(Sc)と、基礎成形部材1mの一部又は全部をエッチャントEによりエッチング処理することにより、基礎成形部材1mから特定バインダBの一部を溶出させ、少なくとも基礎成形部材1mにおけるエッチング処理をしない未処理領域1eよりも通気率が高くなる多孔質領域1pを設けるエッチング処理工程(Sd)と、を備えるため、目的の多孔質成形部材1(1c,1x,1y)を容易かつ低コストに製造することができる。
【0053】
以上、好適実施形態及び変更実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。例えば、セラミックス粉末原料としてアルミナ粉末を例示したが、ジルコニア粉末等の一般的なセラミックス材料を含む他の各種セラミックス材料(粉末原料)を利用することができる。同様に、特定バインダBも二酸化ケイ素を主成分とするバインダに限定されるものではなく、セラミックス材料の種類に対応した各種バインダを利用できるとともに、エッチャントEも、フッ化水素酸を主成分とするエッチャントに限定されるものではなく、特定バインダBの種類に対応した各種エッチャントを利用できる。一方、前述したように、エッチング処理工程におけるマスク手段30の使用は任意である。したがって、マスク手段30は、例示の手法に限定されるものではなく、その他、開口を有するメタルマスクを基礎成形部材上に配置し、スパッタや蒸着で金属膜(一般的には素材を問わない被覆膜)を形成する方法等、公知の各種手段を利用可能である。
【0054】
さらに、前述したように、粒材生成工程として、セラミックス粉末原料に対して、一又は二以上の添加剤を調合する調合工程と、調合したセラミックス粉末原料と当該添加剤を混合する混合工程と、この混合工程で得られた材料から造粒体材料Ms…を造粒する造粒工程と、この造粒工程で得られた造粒体材料Ms…を所定の第一加圧力Ffにより成形する成形体成形工程と、この成形体成形工程で得られた成形体を所定の第一加熱温度Tfにより焼成する成形体焼成工程と、この成形体焼成工程で得られた成形圧粉体Dmを粉砕して粒子の大きさが0.1〜1.0〔mm〕の範囲となる粒体材料Mo…を得る粉砕処理工程とを設けた場合を示したが、このような粒材生成工程には、市販されているセラミックス粒体をそのまま粒体材料Mo…として利用する場合も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る多孔質成形部材の製造方法は、セラミックス素材を用いることにより少なくとも一部に多孔質領域を有する例示した多孔質カバー,多孔質リッド等の各種多孔質成形部材、及び各種多孔質成形部材を製造する際に利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1:多孔質成形部材,1x:多孔質成形部材,1y:多孔質成形部材,1p:多孔質領域,1e:未処理領域,1m:基礎成形部材,1c:多孔質カバー,30:マスク手段,C:セラミックス素材,Mo…:粒体材料,Ms…:造粒体材料,Mm…:成形材料,E:エッチャント,B:特定バインダ,Ff:加圧力,Ds:成形体,Dm:成形圧粉体,(Sa):粒材生成工程,(Sax):造粒処理工程,(Say):粉砕処理工程,(Sb):成形材料生成工程,(Sc):部材成形工程,(Sd):エッチング処理工程,(S4):成形体成形工程,(S5):成形体焼成工程,(S6):粉砕工程,(S7):分級工程,(S13):マスキング工程,(S14):エッチング工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10