(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)のセルロース繊維におけるアルデヒド基とケトン基の合計含量が、セミカルバジド法による測定において0.3mmol/g以下である請求項1記載の含水潤滑剤組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0014】
本発明の含水潤滑剤組成物は、下記の(A)を用いて得ることができる。
(A)数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中の各グルコースユニットのC6
位が選択的
にアルデヒド基,ケトン基およびカルボキシル基のいずれかとなったものであり、カルボキシル基の含量が1.2〜2.5mmol/gの範囲であるセルロース繊維。
【0015】
《セルロース繊維(A)》
上記セルロース繊維(A)としては、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化変性されてアルデヒド基,ケトン基およびカルボキシル基のいずれかとなったものであり、カルボキシル基の含量が1.2〜2.5mmol/gの範囲である、微細なセルロース繊維が用いられる。上記セルロース繊維は、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料を表面酸化し微細化した繊維である。すなわち、天然セルロースの生合成の過程においては、ほぼ例外なくミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーがまず形成され、これらが多束化して高次な固体構造を構成するが、上記ミクロフィブリル間の強い凝集力の原動となっている表面間の水素結合を弱めるために、その水酸基(セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基)の一部が酸化され、カルボキシル基やアルデヒド基やケトン基に変換されている。
【0016】
ここで、上記セルロース繊維(A)を構成するセルロースがI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0017】
上記セルロース繊維(A)の数平均繊維径は2〜150nmの範囲であることが必要であるが、分散安定性の点から、好ましくは2〜100nmであり、特に好ましくは3〜80nmである。上記数平均繊維径が小さすぎると、本質的に分散媒体に溶解してしまい、上記数平均繊維径が大きすぎると、セルロース繊維が沈降してしまい、セルロース繊維を配合することによる機能性を発現することができなくなる。
【0018】
上記セルロース繊維(A)の最大繊維径は、1000nm以下であることが好ましく、特に好ましくは500nm以下である。上記セルロース繊維(A)の最大繊維径が大きすぎると、セルロース繊維が沈降してしまい、セルロース繊維の機能性の発現が低下する傾向がみられる。
【0019】
上記セルロース繊維(A)の数平均繊維径および最大繊維径は、例えば、つぎのようにして測定することができる。すなわち、固形分率で0.05〜0.1重量%の微細セルロースの水分散体を調製し、その分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。なお、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径のデータにより、最大繊維径および数平均繊維径を算出する。
【0020】
上記セルロース繊維(A)は、セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化変性されてアルデヒド基,ケトン基およびカルボキシル基のいずれかとなったものであり、カルボキシル基の含量(カルボキシル基量)が1.2〜2.5mmol/gの範囲であり、好ましくは1.5〜2.0mmol/gの範囲である。上記カルボキシル基量が
少なすぎると、セルロース繊維の沈降や凝集を生じる場合があり、上記カルボキシル基量が
多すぎると、水溶性が強くなり過ぎるおそれがある。
【0021】
上記セルロース繊維(A)のカルボキシル基量の測定は、例えば、乾燥重量を精秤したセルロース試料から0.5〜1重量%スラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記の式(1)に従いカルボキシル基量を求めることができる。
カルボキシル基量(mmol/g)=V(ml)×〔0.05/セルロース重量〕……(1)
【0022】
なお、カルボキシル基量の調整は、後述するように、セルロース繊維の酸化工程で用いる共酸化剤の添加量や反応時間を制御することにより行うことができる。
【0023】
上記セルロース繊維(A)は、上記酸化変性後、還元剤により還元させることが好ましい。これにより、アルデヒド基およびケトン基の一部ないし全部が還元され、水酸基に戻る。なお、カルボキシル基は還元されない。そして、上記還元により、上記セルロース繊維(A)の、セミカルバジド法による測定でのアルデヒド基とケトン基の合計含量を、0.3mmol/g以下とすることが好ましく、特に好ましくは0〜0.1mmol/gの範囲、最も好ましくは実質的に0mmol/gである。これにより、単に酸化変性させたものよりも、分散安定性が増し、特に気温等に左右されず長期にわたり分散安定性に優れるようになる。また、上記のように、セミカルバジド法による測定でのアルデヒド基とケトン基の合計含量が0.3mmol/g以下であるセルロース繊維を、上記(A)のセルロース繊維として本発明の含水潤滑剤組成物に用いると、長期保存による凝集物の発生をより抑えることができる。
【0024】
上記セルロース繊維(A)が、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMPO)等のN−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化されたものであり、上記酸化反応により生じたアルデヒド基およびケトン基が、還元剤により還元されたものであると、上記セルロース繊維(A)を容易に得ることができるようになり、含水潤滑剤組成物として、より良好な結果を得ることができるようになるため好ましい。また、上記還元剤による還元が、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)によるものであると、上記観点からより好ましい。
【0025】
セミカルバジド法による、アルデヒド基とケトン基との合計含量の測定は、例えば、つぎのようにして行われる。すなわち、乾燥させた試料に、リン酸緩衝液によりpH=5に調整したセミカルバジド塩酸塩3g/l水溶液を正確に50ml加え、密栓し、二日間振とうする。つぎに、この溶液10mlを正確に100mlビーカーに採取し、5N硫酸を25ml、0.05Nヨウ素酸カリウム水溶液5mlを加え、10分間撹拌する。その後、5%ヨウ化カリウム水溶液10mlを加えて、直ちに自動滴定装置を用いて、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定し、その滴定量等から、下記の式(2)に従い、試料中のカルボニル基量(アルデヒド基とケトン基との合計含量)を求めることができる。なお、セミカルバジドは、アルデヒド基やケトン基と反応しシッフ塩基(イミン)を形成するが、カルボキシル基とは反応しないことから、上記測定により、アルデヒド基とケトン基のみを定量できると考えられる。
【0026】
カルボニル基量(mmol/g)=(D−B)×f×〔0.125/w〕……(2)
D:サンプルの滴定量(ml)
B:空試験の滴定量(ml)
f:0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液のファクター(−)
w:試料量(g)
【0027】
本発明における上記セルロース繊維(A)は、繊維表面上のセルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的に酸化変性されてアルデヒド基,ケトン基およびカルボキシル基のいずれかとなっている。このセルロース繊維表面上のグルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的に酸化されているかどうかは、例えば、
13C−NMRチャートにより確認することができる。すなわち、酸化前のセルロースの
13C−NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりにカルボキシル基等に由来するピーク(178ppmのピークはカルボキシル基に由来するピーク)が現れる。このようにして、グルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基等に酸化されていることを確認することができる。
【0028】
また、上記セルロース繊維(A)におけるアルデヒド基の検出は、例えば、フェーリング試薬により行うこともできる。すなわち、例えば、乾燥させた試料に、フェーリング試薬(酒石酸ナトリウムカリウムと水酸化ナトリウムとの混合溶液と、硫酸銅五水和物水溶液)を加えた後、80℃で1時間加熱したとき、上澄みが青色、セルロース繊維部分が紺色を呈するものは、アルデヒド基は検出されなかったと判断することができ、上澄みが黄色、セルロース繊維部分が赤色を呈するものは、アルデヒド基は検出されたと判断することができる。
【0029】
上記セルロース繊維(A)は、例えば、(1)酸化反応工程、(2)還元工程、(3)精製工程、(4)分散工程(微細化処理工程)等により製造することができる。以下、各工程を順に説明する。
【0030】
(1)酸化反応工程
天然セルロースとN−オキシル化合物とを水(分散媒体)に分散させた後、共酸化剤を添加して、反応を開始する。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10〜11に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なす。ここで、共酸化剤とは、直接的にセルロース水酸基を酸化する物質ではなく、酸化触媒として用いられるN−オキシル化合物を酸化する物質のことである。
【0031】
上記天然セルロースは、植物,動物,バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースを意味する。より具体的には、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンター,コットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプ,バガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース(BC)、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロース等をあげることができる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンター、コットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプ,バガスパルプ等の非木材系パルプが好ましい。上記天然セルロースは、叩解等の表面積を高める処理を施すと、反応効率を高めることができ、生産性を高めることができるため好ましい。また、上記天然セルロースとして、単離、精製の後、乾燥させない(ネバードライ)で保存していたものを使用すると、ミクロフィブリルの集束体が膨潤しやすい状態であるため、反応効率を高め、微細化処理後の数平均繊維径を小さくすることができるため好ましい。
【0032】
上記反応における天然セルロースの分散媒体は水であり、反応水溶液中の天然セルロース濃度は、試薬(天然セルロース)の充分な拡散が可能な濃度であれば任意である。通常は、反応水溶液の重量に対して約5%以下であるが、機械的撹拌力の強い装置を使用することにより反応濃度を上げることができる。
【0033】
また、上記N−オキシル化合物としては、例えば、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物があげられる。上記N−オキシル化合物は、水溶性の化合物が好ましく、なかでもピペリジンニトロキシオキシラジカルが好ましく、特に2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4−アセトアミド−TEMPOが好ましい。上記N−オキシル化合物の添加は、触媒量で充分であり、好ましくは0.1〜4mmol/l、さらに好ましくは0.2〜2mmol/lの範囲で反応水溶液に添加する。
【0034】
上記共酸化剤としては、例えば、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、過有機酸等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。そして、上記次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、反応速度の点から、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが好ましい。上記臭化アルカリ金属の添加量は、上記N−オキシル化合物に対して約1〜40倍モル量、好ましくは約10〜20倍モル量である。
【0035】
上記反応水溶液のpHは約8〜11の範囲で維持されることが好ましい。水溶液の温度は約4〜40℃において任意であるが、反応は室温(25℃)で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。所望のカルボキシル基量等を得るためには、共酸化剤の添加量と反応時間により、酸化の程度を制御する。通常、反応時間は約5〜120分、長くとも240分以内に完了する。
【0036】
(2)還元工程
上記セルロース繊維(A)は、上記酸化反応後に、さらに還元反応を行うことが好ましい。具体的には、酸化反応後の微細酸化セルロースを精製水に分散し、水分散体のpHを約10に調整し、各種還元剤により還元反応を行う。本発明に使用する還元剤としては、一般的なものを使用することが可能であるが、好ましくは、LiBH
4、NaBH
3CN、NaBH
4等があげられる。なかでも、コストや利用可能性の点から、NaBH
4が好ましい。
【0037】
還元剤の量は、微細酸化セルロースを基準として、0.1〜4重量%の範囲が好ましく、特に好ましくは1〜3重量%の範囲である。反応は、室温または室温より若干高い温度で、通常、10分〜10時間、好ましくは30分〜2時間行う。
【0038】
上記の反応終了後、各種の酸により反応混合物のpHを約2に調整し、精製水をふりかけながら遠心分離機で固液分離を行い、ケーキ状の微細酸化セルロースを得る。固液分離は濾液の電気伝導度が5mS/m以下となるまで行う。
【0039】
(3)精製工程
つぎに、未反応の共酸化剤(次亜塩素酸等)や、各種副生成物等を除く目的で精製を行う。反応物繊維は通常、この段階ではナノファイバー単位までばらばらに分散しているわけではないため、通常の精製法、すなわち水洗とろ過を繰り返すことで高純度(99重量%以上)の反応物繊維と水の分散体とする。
【0040】
上記精製工程における精製方法は、遠心脱水を利用する方法(例えば、連続式デカンダー)のように、上述した目的を達成できる装置であればどのような装置を利用しても差し支えない。このようにして得られる反応物繊維の水分散体は、絞った状態で固形分(セルロース)濃度としておよそ10重量%〜50重量%の範囲にある。この後の分散工程を考慮すると、50重量%よりも高い固形分濃度とすると、分散に極めて高いエネルギーが必要となることから好ましくない。
【0041】
(4)分散工程(微細化処理工程)
上記精製工程にて得られる水を含浸した反応物繊維(水分散体)を、分散媒体中に分散させ分散処理を行う。処理に伴って粘度が上昇し、微細化処理されたセルロース繊維の分散体を得ることができる。その後、上記セルロース繊維の分散体を乾燥することによって、セルロース繊維(A)を得ることできる。なお、上記セルロース繊維の分散体を乾燥することなく、分散体の状態で含水潤滑剤組成物に用いても差し支えない。
【0042】
本発明の含水潤滑剤組成物においては、上記セルロース繊維(A)の分散媒体として、水や、水と有機溶媒の混合溶液等が用いられる。
【0043】
上記分散工程で使用する分散機としては、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等の強力で叩解能力のある装置を使用することにより、より効率的かつ高度なダウンサイジングが可能となり、経済的に有利に含水潤滑剤組成物を得ることができる点で好ましい。なお、上記分散機としては、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー、ディスパー、プロペラミキサー、ニーダー、ブレンダー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ペブルミル、ビーズミル粉砕機等を用いても差し支えない。また、2種類以上の分散機を組み合わせて用いても差し支えない。
【0044】
必要に応じて上記セルロース繊維(A)を乾燥してもよく、上記セルロース繊維(A)の分散体の乾燥法としては、例えば、分散媒体が水である場合は、スプレードライ、凍結乾燥法、真空乾燥法等が用いられ、分散媒体が水と有機溶媒の混合溶液である場合は、ドラムドライヤーによる乾燥法、スプレードライヤーによる噴霧乾燥法等が用いられる。
【0045】
本発明の含水潤滑剤組成物における上記セルロース繊維(A)の固形分の含有量は、保存安定性に必要な粘度を発現させるため、組成物全体の0.01〜10重量%の範囲が好ましく、より好ましくは組成物全体の0.1〜1.0重量%の範囲である。
【0046】
本発明の含水潤滑剤組成物は、例えば、水−グリコール系潤滑剤組成物や、O/Wエマルション系潤滑剤組成物として使用することができる。本発明の含水潤滑剤組成物には、セルロース繊維(A)とともに、本発明の効果を損なわない範囲内で、水、有機溶媒、乳化剤(アルキレングリコール等)、金属不活性剤(メチルベンゾトリアゾールアルカノールアミン塩等)、防錆剤(トリエタノールアミン等)、防腐剤(2−ピリジルチオ−1−オキシドナトリウム等)、防食剤(イミダゾリン等)、界面活性剤、消泡剤、基油(鉱物油、動植物油、合成潤滑油等)、極圧添加剤(金属石鹸類等)、酸化防止剤等を必要に応じて適宜に配合することができる。
【0047】
本発明の水−グリコール系潤滑剤組成物は、例えば、セルロース繊維(A)に、ポリアルキレングリコール、プロピレングリコール、モルホリン、ラウリン酸、金属不活性剤等の添加剤を配合し、さらに精製水を加えて所定濃度に調製した後、ホモミキサー等の混合処理装置を用いて撹拌することにより得ることができる。
【0048】
また、本発明のO/Wエマルション系潤滑剤組成物は、例えば、セルロース繊維(A)に、防錆剤、防腐剤、基油等の添加剤を配合し、さらに精製水を加えて所定濃度に調製した後、ホモミキサー等の混合処理装置を用いて撹拌することにより得ることができる。
【0049】
なお、上記混合処理装置は、上記ホモミキサーに限定されるものではなく、例えば、ディスパー、プロペラミキサー、ニーダー等の各種混練器、ブレンダー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ペブルミル、ビーズミル粉砕機、高圧ホモジナイザー(超高圧ホモジナイザー等)等を使用することも可能である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」とあるのは、特に限定のない限り重量基準を意味する。
【0051】
まず、実施例および比較例に先立ち、実施例用および比較例用のセルロース繊維をそれぞれ製造した。そして、各セルロース繊維の結晶構造の有無等の評価を、後述の基準に従って行い、その結果を後記の表1に併せて示した。
【0052】
〔セルロース繊維A1(実施例用)の製造〕
針葉樹パルプ2gに、水150ml、臭化ナトリウム0.25g、TEMPOを0.025gを加え、充分撹拌して分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が5.2mmol/gとなるように加え、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10〜11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応させた(反応時間:120分)。反応終了後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化されたセルロース繊維を得た。つぎに、上記セルロース繊維に純水を加えて1%に希釈し、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング社製、H11)を用いて圧力100MPaで1回処理することにより、セルロース繊維A1を製造した。
【0053】
〔セルロース繊維A2(実施例用)の製造〕
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、上記パルプ1.0gに対して6.5mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の製造に準じて、セルロース繊維A2を製造した。
【0054】
〔セルロース繊維A3(実施例用)の製造〕
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、上記パルプ1.0gに対して12.0mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の製造に準じて、セルロース繊維A3を製造した。
【0055】
〔セルロース繊維A4(実施例用)の製造〕
セルロース繊維A1の製造と同様の手法で針葉樹パルプを酸化した後、遠心分離機で固液分離し、純水を加えて固形分濃度4%に調整した。その後、24%NaOH水溶液にてスラリーのpHを10に調整した。スラリーの温度を30℃として水素化ホウ素ナトリウムをセルロース繊維に対して0.2mmol/g加え、2時間反応させることで還元処理した。反応後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、セルロース繊維を得た。つぎに、上記セルロース繊維に純水を加えて1%に希釈し、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング社製、H11)を用いて圧力100MPaで1回処理することにより、セルロース繊維A4を製造した。
【0056】
〔セルロース繊維A5(実施例用)の製造〕
セルロース繊維A2の製造と同様の手法で針葉樹パルプを酸化した後、セルロース繊維A4の製造と同様の手法で還元、精製した。つぎに、上記セルロース繊維に純水を加えて1%に希釈し、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング社製、H11)を用いて圧力100MPaで1回処理することにより、セルロース繊維A5を製造した。
【0057】
〔セルロース繊維A6(実施例用)の製造〕
セルロース繊維A3の製造と同様の手法で針葉樹パルプを酸化した後、セルロース繊維A4の製造と同様の手法で還元、精製した。つぎに、上記セルロース繊維に純水を加えて1%に希釈し、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング社製、H11)を用いて圧力100MPaで1回処理することにより、セルロース繊維A6を製造した。
【0058】
〔セルロース繊維A′1(比較例用)の製造〕
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、上記パルプ1.0gに対して4.1mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の製造に準じて、セルロース繊維A′1を製造した。
【0059】
〔セルロース繊維A′2(比較例用)の製造〕
原料の針葉樹パルプに替えて再生セルロースを使用するとともに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、再生セルロース1.0gに対して27.0mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の製造に準じて、セルロース繊維A′2を製造した。
【0060】
【表1】
【0061】
上記のようにして得られた各セルロース繊維について、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、上記表1に併せて示した。
【0062】
〔結晶構造〕
X線回折装置(リガク社製、RINT−Ultima3)を用いて、各セルロース繊維の回折プロファイルを測定し、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークが見られる場合は結晶構造(I型結晶構造)が「あり」と評価し、ピークが見られない場合は「なし」と評価した。
【0063】
〔数平均繊維径〕
セルロース繊維の数平均繊維径を、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製、JEM−1400)を用いて観察した。すなわち、各セルロース繊維を親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、先に述べた方法に従い、数平均繊維径を算出した。
【0064】
〔カルボキシル基量の測定〕
セルロース繊維0.25gを水に分散させたセルロース水分散体60mlを調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行った。測定はpHが約11になるまで続けた。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下の式(1)に従いカルボキシル基量を求めた。
カルボキシル基量 (mmol/g)=V(ml)×〔0.05/セルロース重量〕……(1)
【0065】
〔カルボニル基量の測定(セミカルバジド法)〕
セルロース繊維を約0.2g精秤し、これに、リン酸緩衝液によりpH=5に調整したセミカルバジド塩酸塩3g/l水溶液を正確に50ml加え、密栓し、二日間振とうした。つぎに、この溶液10mlを正確に100mlビーカーに採取し、5N硫酸25ml、0.05Nヨウ素酸カリウム水溶液5mlを加え、10分間撹拌した。その後、5%ヨウ化カリウム水溶液10mlを加え、直ちに自動滴定装置を用いて、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定し、その滴定量等から、下記の式(2)に従い、試料中のカルボニル基量(アルデヒド基とケトン基との合計含量)を求めた。
カルボニル基量(mmol/g)=(D−B)×f×〔0.125/w〕……(2)
D:サンプルの滴定量(ml)
B:空試験の滴定量(ml)
f:0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液のファクター(−)
w:試料量(g)
【0066】
〔アルデヒド基の検出〕
セルロース繊維を0.4g精秤し、日本薬局方に従って調製したフェーリング試薬(酒石酸ナトリウムカリウムと水酸化ナトリウムとの混合溶液5mlと、硫酸銅五水和物水溶液5ml)を加えた後、80℃で1時間加熱した。そして、上澄みが青色、セルロース繊維部分が紺色を呈するものは、アルデヒド基は検出されなかったと判断し、「なし」と評価した。また、上澄みが黄色、セルロース繊維部分が赤色を呈するものは、アルデヒド基は検出されたと判断し、「あり」と評価した。
【0067】
前記表1の結果から、実施例用のセルロース繊維A1〜A6は、いずれも数平均繊維径が2〜150nmの範囲内で、セルロースI型結晶構造を有すると共に、カルボキシル基の含量が1.2〜2.5mmol/gの範囲内であった。これに対して、比較例用のセルロース繊維A′1は、数平均繊維径が上限を超え、カルボキシル基量は下限未満であった。セルロース繊維A′2は、数平均繊維径が小さすぎて測定不可(1nm以下)であり、カルボキシル基量は上限を超えていた。
【0068】
また、セルロース繊維A1〜A6に関し、セルロース繊維表面上のグルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的にカルボキシル基等に酸化されているかどうかについて、
13C−NMRチャートで確認した結果、酸化前のセルロースの
13C−NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに178ppmにカルボキシル基に由来するピークが現れていた。このことから、セルロース繊維A1〜A6は、いずれもグルコース単位のC6位水酸基のみがアルデヒド基等に酸化されていることが確認された。
【0069】
つぎに、上記で得た各セルロース繊維を用い、実施例および比較例の潤滑剤組成物を調製した。そして、この含水潤滑剤組成物を用いて、後記の基準に従って、各特性の評価を行い、その結果を、後記の表2〜5に併せて示した。
【0070】
〔実施例1(水−グリコール系潤滑剤組成物)〕
セルロース繊維A1 0.2%(固形分量)、ポリアルキレングリコール12.5%、プロピレングリコール45.0%、モルホリン1.0%、ラウリン酸1.5%、金属不活性剤(メチルベンゾトリアゾールアルカノールアミン塩)0.001%となるように精製水を加えて調製した後、ホモミキサーを用いて8000rpmで10分間撹拌し、水−グリコール系潤滑剤組成物を調製した。
【0071】
〔実施例2〜12、比較例1〜7(水−グリコール系潤滑剤組成物)〕
セルロース繊維の種類,配合量、もしくは他の添加剤の配合量を、下記の表2および表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、水−グリコール系潤滑剤組成物を調製した。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
〔実施例13(O/Wエマルション系潤滑剤組成物)〕
セルロース繊維A1 0.2%(固形分量)、防錆剤(トリエタノールアミン)2.0%、防腐剤(2−ピリジルチオ−1−オキシドナトリウム)0.5%、基油(マシンオイル22)10.0%となるように精製水を加えて調製した後、ホモミキサーを用いて8000rpmで10分間撹拌し、O/Wエマルション系潤滑剤組成物を調製した。
【0075】
〔実施例14〜24、比較例8〜14(O/Wエマルション系潤滑剤組成物)〕
セルロース繊維の種類,配合量、もしくは他の添加剤の配合量を、下記の表4および表5に示すように変更した以外は、実施例13と同様にして、O/Wエマルション系潤滑剤組成物を調製した。
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
このようにして得られた各潤滑剤組成物について、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、上記表2〜5に併せて示した。
【0079】
〔潤滑性〕
各潤滑剤組成物中に、ステンレス(SUS304)の試験片(厚さ5mm)を浸漬し、試験片表面をステンレス(SUS304)の試験棒(直径10mm)で1kgの荷重を加えながら100回擦った。試験片の摩耗状態により、以下のように潤滑性を評価した。
◎:摩耗による傷がほとんど見られなかった。
○:摩耗による傷が一部確認できた。
△:摩耗による傷が試験片の50%以内の範囲で確認できた。
×:摩耗による傷が試験片全体に確認できた。
【0080】
〔せん断安定性〕
超音波ホモジナイザーを用いて、各潤滑剤組成物を10KHz、40℃の条件下で60分処理した。処理後、動粘度(40℃)を測定し、処理前後における動粘度の低下率を算出し、以下の基準で評価した。
動粘度低下率(%)=(処理後の動粘度/処理前の動粘度)×100
◎:動粘度低下率が5%未満。
○:5%以上10%未満。
△:10%以上25%未満。
×:25%以上。
【0081】
〔保存安定性〕
潤滑剤組成物10mlと精製水90mlを1500rpmで5分間混合し、これを100ml容メスシリンダーに移した。室温で24時間静置した後、乳化相の残存量を目視で計測し、以下の基準で評価した。
◎:残存量が95ml以上。
○:80ml以上95ml未満。
△:70ml以上80ml未満。
×:70ml未満。
【0082】
上記表2〜5の結果より、実施例品はいずれも、比較例品に比べて、潤滑性、せん断安定性に優れていた。また、O/Wエマルション系潤滑剤組成物においては、実施例品の方が比較例品に比べて、保存安定性についても優れていた。特に、カルボニル基量が0.3mmol/g以下で、アルデヒド基が検出されなかったセルロース繊維A4〜A6を使用した実施例7〜12品は、潤滑性、せん断安定性に優れていた。同様に、セルロース繊維A4〜A6を使用した実施例19〜24品は、潤滑性、せん断安定性に加えて、保存安定性についても優れていた。