特許第5972677号(P5972677)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972677
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】電子顕微鏡の調整方法及び電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20160804BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   H01J37/22 502G
   H01J37/22 501Z
   H01J37/244
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-132930(P2012-132930)
(22)【出願日】2012年6月12日
(65)【公開番号】特開2013-258031(P2013-258031A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】河野 祐二
【審査官】 植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−307942(JP,A)
【文献】 特開2001−084946(JP,A)
【文献】 特開平03−291839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
H01J 37/04
H01J 37/244
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を発生させる電子線源と、前記電子線の一部を検出する電子線検出部と、前記電子線が試料に入射して得られる信号を検出する像検出部と、前記像検出部の検出信号からオフセット信号を減算して前記電子線検出部の検出信号との除算を行うノイズキャンセル部とを含む電子顕微鏡の調整方法であって、
所与のタイミングで、前記電子線が試料に入射して得られる信号の前記像検出部への入射を遮蔽して、または試料に前記電子線を入射させないで、前記像検出部の検出信号を測定するステップと、
前記像検出部の検出信号の測定結果に基づいて前記オフセット信号を計算するステップと、
計算した当該オフセット信号を前記ノイズキャンセル部に設定するステップと、を含む、電子顕微鏡の調整方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記所与のタイミングは、前記像検出部の検出信号に基づく画像の取得タイミングと同期した所定のタイミングである、電子顕微鏡の調整方法。
【請求項3】
電子線を発生させる電子線源と、
前記電子線の一部を検出する電子線検出部と、
前記電子線が試料に入射して得られる信号を検出する像検出部と、
前記像検出部の検出信号からオフセット信号を減算して前記電子線検出部における検出信号との除算を行うノイズキャンセル部と、
所与のタイミングで、前記電子線が試料に入射して得られる信号の前記像検出部への信号の入射を遮蔽して、または試料に前記電子線を入射させないで、前記像検出部の検出信号を測定し、当該測定結果に基づいて前記オフセット信号を計算し、計算した当該オフセット信号を前記ノイズキャンセル部に設定する処理部と、を含む、電子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡の調整方法及び電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電界放射型電子銃から放出される電子には数パーセントの変動分が含まれている。これはエミッタ表面にガスが吸着したり、吸着したガスやイオンがマイグレーションするために金属表面の仕事関数が変化し、またイオン等の衝突により金属表面の形状が変化するためである。このため、電界放射型電子銃を走査型電子顕微鏡に使用する場合、鏡筒途中にノイズキャンセル用の検出器を設けてプローブを形成する近傍の電子を検出し、この検出信号で試料から放出される信号を除算することにより画像上でのエミッションノイズを消去することが行われている。このような電子顕微鏡は、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−307942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図7は、一般的なノイズキャンセル機能を有する走査透過型電子顕微鏡(STEM)の構成を示している。図7の例の電子顕微鏡100は、電子線源111、ノイズキャンセラ絞り(アパーチャー)112、レンズ113、検出器115、プリアンプ120、ノイズキャンセル回路130、処理部(CPU)140を含んで構成されている。電子線源111から放出された電子線はノイズキャンセラ絞り112により一部がカットされた後、レンズ113によって試料114上に収束される。試料114を透過した電子線の一部が検出器115により検出され、プリアンプ120により増幅された後、ノイズキャンセル回路130で信号中のエミッションノイズ成分が取り除かれる。処理部140は、ノイズキャンセル回路130の出力信号に対してA/D変換や平均化等の処理を行って画像データを生成し、パーソナルコンピューター(PC)200に送信する。PC200は、この画像データを受信し、試料114の画像を作成してディスプレイへの表示や保存等の処理を行う。試料114に照射される電流i(t)とノイズキャンセラ絞り112からの出力i(t)が比例し、かつノイズキャンセル回路130の初段で、プリアンプ120で加えられたオフセット分の引き算が正しく行われれば、STEM像中のエミッションノイズによるコントラストを減少させることができる。オフセットの引き算が正しくないと差分(定数)をi(t)で割ったものが検出信号に加えられるため、STEM像中のノイズを増大させることになる。ノイズキャンセル回路130に設定されるオフセット(G×O)は、プリアンプ120に設定されるオフセット信号(O)からアナログもしくはデジタル的に算出されていた。
【0005】
このように、従来、検出器に設定する信号などの情報を元にノイズキャンセル回路に設定するオフセット量を計算しているが、外部の検出器を使用する場合など、検出器のオフセットに関する十分な情報が得られず、ノイズキャンセル機能を有効に働かせることが困難な場合もあった。また、温度変化などの影響により検出器やプリアンプの出力信号が変動し、ノイズキャンセル回路に設定すべきオフセット量が変動する場合もあった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、検出器のオフセットに関する情報がない状態でもノイズキャンセル用のオフセ
ット調整を容易に行うことが可能な電子顕微鏡の調整方法及び電子顕微鏡を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る電子顕微鏡の調整方法は、
電子線を発生させる電子線源と、前記電子線の一部を検出する電子線検出部と、前記電子線が試料に入射して得られる信号を検出する像検出部と、前記像検出部の検出信号からオフセット信号を減算して前記電子線検出部の検出信号との除算を行うノイズキャンセル部とを含む電子顕微鏡の調整方法であって、
所与のタイミングで、前記電子線が試料に入射して得られる信号の前記像検出部への入射を遮蔽して、または試料に前記電子線を入射させないで、前記像検出部の検出信号を測定するステップと、
前記像検出部の検出信号の測定結果に基づいて前記オフセット信号を計算するステップと、
計算した当該オフセット信号を前記ノイズキャンセル部に設定するステップと、を含む。
【0008】
電子線が試料に入射して得られる信号は、例えば、試料を透過した電子線に基づく信号であってもよいし、試料に電子線が当たることで試料から放出される電子に基づく信号であってもよい。
【0009】
電子線が試料に入射して得られる信号の像検出部への入射を遮蔽する方法として、例えば、試料と像検出部の間にシャッター(遮蔽部)を設けて像検出部への信号の入射が遮蔽されるようにしてもよいし、電子線源と試料の間にシャッター(遮蔽部)を設けて電子線の試料への入射を遮蔽し、結果的に、像検出部への信号の入射が遮蔽されるようにしてもよい。
【0010】
本発明に係る電子顕微鏡の調整方法によれば、電子線が試料に入射して得られる信号の像検出部への入射を遮蔽して像検出部の検出信号を測定することにより、像検出部のオフセット情報を取得することができる。そして、本発明に係る電子顕微鏡の調整方法によれば、この像検出部のオフセット情報に基づいて、ノイズキャンセル部に設定すべきオフセット信号を計算し、設定することができるので、検出器のオフセットに関する情報がない状態でも、ノイズキャンセル用のオフセット調整を容易に行うことができる。
【0011】
また、本実施形態の電子顕微鏡の調整方法によれば、電子線が試料に入射して得られる信号の像検出部への入射を遮蔽して像検出部の検出信号を測定することにより、温度ドリフトの影響なども含まれた像検出部のオフセット情報が得られるので、この測定を繰り返し行うことでノイズキャンセル部に設定するオフセット信号を最適な状態に維持することができる。
【0012】
(2)本発明に係る電子顕微鏡の調整方法において、
前記所与のタイミングは、前記像検出部の検出信号に基づく画像の取得タイミングと同期した所定のタイミングであるようにしてもよい。
【0013】
所定のタイミングは、例えば、試料の画像を取得する前のタイミングであってもよいし、試料の画像を取得した後のタイミング(例えば、フライバックタイム)であってもよい。
【0014】
本発明に係る電子顕微鏡の調整方法によれば、試料の画像を取得タイミングと同期してノイズキャンセル用のオフセット調整を自動的に行うことができるので、ユーザーの手動操作が不要になる。また、試料の画像の取得タイミングに同期して、ノイズキャンセル用
のオフセット調整が繰り返し行われるので、ノイズキャンセル部に設定するオフセット信号を最適な状態に維持することができる。
【0015】
(3)本発明に係る電子顕微鏡は、
電子線を発生させる電子線源と、
前記電子線の一部を検出する電子線検出部と、
前記電子線が試料に入射して得られる信号を検出する像検出部と、
前記像検出部の検出信号からオフセット信号を減算して前記電子線検出部における検出信号との除算を行うノイズキャンセル部と、
所与のタイミングで、前記電子線が試料に入射して得られる信号の前記像検出部への信号の入射を遮蔽して、または試料に前記電子線を入射させないで、前記像検出部の検出信号を測定し、当該測定結果に基づいて前記オフセット信号を計算し、計算した当該オフセット信号を前記ノイズキャンセル部に設定する処理部と、を含む。
【0016】
本発明に係る電子顕微鏡によれば、電子線が試料に入射して得られる信号の像検出部への入射を遮蔽して像検出部の検出信号を測定することにより、像検出部のオフセット情報を取得することができる。そして、本発明に係る電子顕微鏡によれば、この像検出部のオフセット情報に基づいて、ノイズキャンセル部に設定すべきオフセット信号を計算し、設定することができるので、検出器のオフセットに関する情報がない状態でも、ノイズキャンセル用のオフセット調整を容易に行うことができる。
【0017】
また、本実施形態の電子顕微鏡によれば、電子線が試料に入射して得られる信号の像検出部への入射を遮蔽して像検出部の検出信号を測定することにより、温度ドリフトの影響なども含まれた像検出部のオフセット情報が得られるので、この測定を繰り返し行うことでノイズキャンセル部に設定するオフセット信号を最適な状態に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態の電子顕微鏡の構成例を示す図。
図2】第1実施形態における、ユーザーが試料の画像を取得するために行う操作手順の一例を示す図。
図3】第1実施形態における、電子顕微鏡の処理部による画像データ生成処理のフローチャートの一例を示す図。
図4】第2実施形態における、ユーザーが試料の画像を取得するために行う操作手順の一例を示す図。
図5】第2実施形態における、電子顕微鏡の処理部による画像データ生成処理のフローチャートの一例を示す図。
図6】変形例の電子顕微鏡の構成を示す図。
図7】一般的なノイズキャンセル機能を有する走査透過型電子顕微鏡(STEM)の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0020】
以下では、本発明に係る電子顕微鏡として、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を例に挙げて説明するが、本発明は、これ以外の電子顕微鏡、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)等にも適用することができる。
【0021】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態の電子顕微鏡の構成例を示す図である。図1に示すように、第1実施形態の電子顕微鏡1は、電子線源11、ノイズキャンセラ絞り(アパーチャー)12、レンズ13、検出器15、シャッター(ビームブランカ)16、プリアンプ20、ノイズキャンセル回路30、処理部(CPU)40等を含んで構成されている。電子顕微鏡1は、走査透過型電子顕微鏡(STEM)であり、この他にも各種のレンズや絞り等が設けられているが、図示を省略している。また、本実施形態の電子顕微鏡1は、図1に示した構成要素の一部を省略又は変更したり、新たな構成要素を付加した構成としてもよい。なお、電子線源11、ノイズキャンセラ絞り12、レンズ13、検出器15等は、不図示の鏡筒に収容されている。さらに、プリアンプ20も鏡筒に収容されていてもよい。
【0022】
電子線源11から放出された電子線はノイズキャンセラ絞り12によって一部がカットされた後、レンズ13によって試料14上に収束される。なお、電子線源11としては、例えば、陰極型電界放射型電子銃(CFEG:Cold field-emission electron gun)等の公知の電子銃を用いることができる。
【0023】
試料14と検出器15の間には、シャッター16が設けられており、シャッター16が閉じていれば試料14を透過した電子線は検出器15に入射しない。一方、シャッター16が開いていれば、試料14を透過した電子線は、シャッター16を通過し、その一部が検出器15により検出される。検出器15により検出される像信号は、試料14の輝度成分s(t)と試料14に照射されるエミッション電流i(t)の積(s(t)×i(t))となる。
【0024】
本実施形態では、プリアンプ20は、I/V変換器21、加算器22、増幅器23を含んで構成されている。検出器15の検出信号s(t)×i(t)は、I/V変換器21によって電圧に変換され、そのオフセット成分を打ち消すために加算器22によって処理部40が設定したオフセットOが加算された後、増幅器23によってG倍に増幅される。従って、増幅器23の出力信号(プリアンプ20の出力信号)Vは、次式(1)で表される。
【0025】
【数1】
【0026】
ノイズキャンセラ絞り12は、エミッション電流(ノイズ信号)を検出する。例えば、電子線源11と試料14の間に配置された照射系の絞りのいずれか(例えば、コンデンサーレンズ(CL:Condenser Lens)絞り)をノイズキャンセラ絞り12として兼用してもよいし、照射系の絞りとは別に、専用のノイズキャンセラ絞り12を設けてもよい。
【0027】
ノイズキャンセル回路30は、試料14に照射されるエミッション電流I(t)とノイズキャンセラ絞り12で検出されるエミッション電流I(t)がほぼ比例関係にある(I(t)≒C×I(t))ことを利用し、プリアンプ20の出力信号に重畳されているノイズ信号を除去する(正確には、ノイズ信号を低減させる)。
【0028】
本実施形態では、ノイズキャンセル回路30は、I/V変換器31、減算器32、除算回路33、加算器34、A/D変換器35、D/A変換器36を含んで構成されている。I/V変換器31は、ノイズキャンセラ絞り12で検出されたエミッション電流I(t)を電圧に変換する。減算器32は、プリアンプ20で加えられるオフセット量G×Oを差し引くために、プリアンプ20の出力信号VからD/A変換器36の出力信号を減算する。ここで、Oは設定値によって決まるので既知であるが、Gが未知の場合、減算器32で差し引くべきオフセット量がわからない。また、温度変化等の影響により、検出器1
5のオフセット量も変化するため、減算器32で差し引くべきオフセット量も変化する。
【0029】
そこで、本実施形態では、プリアンプ20の出力信号をA/D変換するためのA/D変換器35が設けられており、ユーザーの操作(PC2のディスプレイに表示されたGUIボタンの押下操作等)により、処理部40が、シャッター16が閉じた状態でのプリアンプ20の出力電圧を測定できるようになっている。なお、露光時間の調整等のために設けられている既存の検出系のシャッターをシャッター16として兼用してもよいし、既存のシャッターとは別に、専用のシャッター16を設けてもよい。
【0030】
シャッター16が閉じた状態でのプリアンプ20の出力電圧は、プリアンプ20で加えられるオフセット量(減算器32で差し引くべきオフセット量)G×Oに等しいので、処理部40は、A/D変換器35の出力値から、D/A変換器36がオフセット量G×Oに相当する電圧を出力するための入力デジタル値を計算し、D/A変換器36に設定する。
【0031】
従って、このノイズキャンセル回路30のオフセット調整が行われた後の減算器32の出力信号Vは、次式(2)で表される。
【0032】
【数2】
【0033】
この減算器32の出力信号Vは、除算回路33の分子側に入力される。除算回路33の分母側には、I/V変換器31の出力信号が入力される。
【0034】
従って、除算回路33の出力信号Vは、次式(3)で表される。
【0035】
【数3】
【0036】
ここで、I(t)≒C×I(t)であるから、式(3)にI(t)≒C×I(t)を代入し、除算回路33の出力信号Vは、次式(4)で近似される。
【0037】
【数4】
【0038】
加算器34は、除算回路33の出力信号VとD/A変換器36の出力電圧G×Oを加算する。従って、加算器33の出力信号Vは、次式(5)で近似される。
【0039】
【数5】
【0040】
また、加算器33の出力信号Vの式(5)は、プリアンプ20の出力信号Vの式(
1)のI(t)をCに置き換えた式になっており、エミッションノイズが除去されている(正確には、エミッションノイズが低減されている)。
【0041】
処理部40は、加算器33の出力信号をA/D変換した後、平均化等の演算処理を行って画像データを生成し、PC2に送信する。処理部40は、例えば、マイクロコンピューターにより実現することができる。
【0042】
PC2は、処理部40が生成した画像データを受信してフレームバッファに書き込み、エミッションノイズが除去(低減)された試料14の画像のディスプレイへの表示や保存等の処理を行う。
【0043】
なお、本実施形態において、電子線源11は、本発明の「電子線源」に相当する。また、ノイズキャンセラ絞り12は、本発明の「電子線検出部」に相当する。また、検出器15及びプリアンプ20は、本発明の「像検出部」に相当する。また、ノイズキャンセル回路30は、本発明の「ノイズキャンセル部」に相当する。また、処理部40は、本発明の「処理部」に相当する。
【0044】
図2は、ユーザーが試料の画像(STEM像)を取得するために行う操作手順の一例を示す図であり、図3は、電子顕微鏡1の処理部40による画像データ生成処理のフローチャートの一例を示す図である。
【0045】
本実施形態では、ユーザーは、まず、PC2のディスプレイに表示される試料14の画像を観察し、画像の調整(コントラストやブライトネス)が適切か否かを判定し(図2のS10)、適切でなければ(図2のS10のN)、PC2に対して、プリアンプ20のオフセットの設定を変更する操作を行う(図2のS20)。PC2は、この操作が行われると、電子顕微鏡1の処理部40に対して、プリアンプ20のオフセットの変更要求を行う。
【0046】
処理部40は、PC2からプリアンプ20のオフセットの変更要求があった場合(図3のS100のY)、この要求に応じて、プリアンプ20のオフセット電圧の設定を変更する(図3のS110)。
【0047】
ユーザーは、画像の調整が適切になるまでステップS20の操作を繰り返し行い、画像の調整が適切になると(図2のS10のY)、次に、PC2に対して、電子顕微鏡1のノイズキャンセル回路30のオフセット調整の開始操作を行う(図2のS30)。PC2は、この操作が行われると、電子顕微鏡1の処理部40に対して、ノイズキャンセル回路30のオフセットの調整要求を行う。
【0048】
処理部40は、PC2からノイズキャンセル回路30のオフセット調整要求があった場合(図3のS120のY)、この要求に応じて、ノイズキャンセル回路30のオフセット調整処理(図3のS130〜S170の処理)を行う。
【0049】
具体的には、処理部40は、まず、シャッター16を閉じ、検出器15への電子線の入射を遮蔽する(図3のS130)。
【0050】
次に、処理部40は、A/D変換器35の出力値(プリアンプ20の出力電圧のデジタル値)を測定する(図3のS140)。
【0051】
次に、処理部40は、図3のS140におけるA/D変換器35の出力値の測定結果から、ノイズキャンセル回路30で除算の前に減算すべきオフセット電圧を計算する(S1
50)。
【0052】
次に、処理部40は、図3のS150におけるオフセット電圧の計算結果に応じて、D/A変換器36の入力を設定する(図3のS160)。
【0053】
最後に、処理部40は、シャッター16を開き(図3のS170)、ノイズキャンセル回路30のオフセット調整処理を終了する。
【0054】
次に、ユーザーは、ノイズキャンセル回路30のオフセット調整が完了するまで待ち、完了すると(図2のS40のY)、PC2に対して、試料14の画像を取得する操作を行う(図2のS50)。PC2は、この操作が行われると、電子顕微鏡1の処理部40に対して、画像データの送信要求を行う。
【0055】
処理部40は、PC2から画像データの送信要求があった場合(図3のS180のY)、この要求に応じて、試料14に入射する電子線の位置を走査しながらノイズキャンセル回路30の出力信号を取得し、1枚分の画像データを生成してPC2に送信し(図3のS190)、画像データ生成処理を終了する。
【0056】
以上に説明したように、第1実施形態の電子顕微鏡によれば、シャッター16を閉じて電子線をカットした状態でプリアンプ20の出力電圧を直接測定することにより、検出器15及びプリアンプ20のオフセット電圧を取得することができる。そして、取得したオフセット電圧の情報に基づいて、ノイズキャンセル回路30に設定すべきオフセット電圧を計算することができるので、検出器15のオフセットに関する情報がない状態でも、ノイズキャンセル回路30のオフセット調整を容易に行うことができる。
【0057】
また、第1実施形態の電子顕微鏡によれば、シャッター16を閉じてプリアンプ20の出力電圧を測定することにより、温度ドリフトの影響なども含まれたオフセット情報が得られるので、この測定を繰り返し行うことでノイズキャンセル回路30に設定するオフセットを最適な状態に維持することができる。
【0058】
2.第2実施形態
第1実施形態の電子顕微鏡では、ユーザーによる手動操作により、ノイズキャンセル回路30のオフセット調整が開始される構成になっている。これに対して、第2実施形態の電子顕微鏡では、ノイズキャンセル回路30のオフセット調整を、STEM像を取得するタイミングと同期して自動的に行う。
【0059】
第2実施形態では、ユーザーが試料の画像(STEM像)を取得するために行う操作手順及び処理部40による処理が第1実施形態と異なる。なお、第2実施形態の電子顕微鏡の構成図は、図1と同様であるため、その図示を省略する。
【0060】
図4は、ユーザーが試料の画像(STEM像)を取得するために行う操作手順の一例を示す図であり、図5は、電子顕微鏡1の処理部40による画像データ生成処理のフローチャートの一例を示す図である。なお、図4及び図5において、ぞれぞれ、図2及び図3と同じ操作又は処理を行うステップには同じ符号を付している。
【0061】
本実施形態では、ユーザーは、まず、PC2のディスプレイに表示される試料14の画像を観察し、画像の調整(コントラストやブライトネス)が適切か否かを判定し(図4のS10)、適切でなければ(図4のS10のN)、PC2に対して、プリアンプ20のオフセットの設定を変更する操作を行う(図4のS20)。PC2は、この操作が行われると、電子顕微鏡1の処理部40に対して、プリアンプ20のオフセットの変更要求を行う
【0062】
処理部40は、PC2からプリアンプ20のオフセットの変更要求があった場合(図5のS100のY)、この要求に応じて、プリアンプ20のオフセット電圧の設定を変更する(図5のS110)。
【0063】
ユーザーは、画像の調整が適切になるまでステップS20の操作を繰り返し行い、画像の調整が適切になると(図4のS10のY)、次に、PC2に対して、試料14の画像を取得する操作を行う(図4のS50)。PC2は、この操作が行われると、電子顕微鏡1の処理部40に対して、画像データの送信要求を行う。
【0064】
処理部40は、PC2から画像データの送信要求があった場合(図5のS122のY)、まず、ノイズキャンセル回路30のオフセット調整処理(図5のS130〜S170の処理)を行う。このオフセット調整処理(図5のS130〜S170の処理)は、第1実施形態のオフセット調整処理(図3のS130〜S170の処理)と同じであるため、その説明を省略する。
【0065】
そして、処理部40は、オフセット調整処理の終了後、試料14に入射する電子線の位置を走査しながらノイズキャンセル回路30の出力信号を取得し、1枚分の画像データを生成してPC2に送信し(図5のS190)、画像データ生成処理を終了する。
【0066】
以上に説明した第2実施形態の電子顕微鏡によれば、STEM像を取得する前に、検出器15及びプリアンプ20のオフセット量の測定を自動的に行うことにより、STEM像観察に全く影響を与えずにノイズキャンセル回路30に設定するオフセットの調整を自動的に行うことができる。これにより、温度変化等の影響により検出器15やプリアンプ20のオフセットが変化した場合でも、ノイズキャンセル回路30に対して直ちに最適なオフセット量を設定することができる。
【0067】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0068】
例えば、第1実施形態及び第2実施形態では、シャッター16は、試料14と検出器15の間に設けられているが、電子線源11と検出器15の間であればいずれの位置にあってもよい。例えば、図6に示すように、シャッター16は、ノイズキャンセラ絞り12とレンズ13の間に設けられていてもよい。例えば、露光時間の調整等のために設けられている既存の照射系のシャッターをシャッター16として兼用してもよいし、既存のシャッターとは別に、専用のシャッター16を設けてもよい。
【0069】
また、例えば、第2実施形態では、STEM像を取得する前に、検出器15及びプリアンプ20のオフセット量の測定を自動的に行うが、STEM像を取得した後に、当該オフセット量の測定を自動的に行うようにしてもよい。この場合、例えば、シャッター16の開閉速度が速ければ、STEM像のフライバックタイムに合わせて、STEM像観察に全く影響を与えずにノイズキャンセル回路30のオフセット調整を自動的に行うことができる。
【0070】
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0071】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施
の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0072】
1 電子顕微鏡、2 パーソナルコンピューター(PC)、11 電子線源、12 ノイズキャンセラ絞り、13 レンズ、14 試料、15 検出器、16 シャッター、20
プリアンプ、21 I/V変換器、22 加算器、23 増幅器、30 ノイズキャンセル回路、31 I/V変換器、32 減算器、33 除算回路、34 加算器、35 A/D変換器、36 D/A変換器、40 処理部(CPU)、100 電子顕微鏡、111 電子線源、112 ノイズキャンセラ絞り、113 レンズ、114 試料、115 検出器、120 プリアンプ、130 ノイズキャンセル回路、140 処理部(CPU)、200 パーソナルコンピューター(PC)
図1
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図7