特許第5972679号(P5972679)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5972679-炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972679
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20160804BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   H01L21/316 X
   C23C16/42
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-137322(P2012-137322)
(22)【出願日】2012年6月18日
(65)【公開番号】特開2014-3148(P2014-3148A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505193715
【氏名又は名称】鈴木 哲也
(73)【特許権者】
【識別番号】512160173
【氏名又は名称】登坂 万結
(74)【代理人】
【識別番号】100117961
【弁理士】
【氏名又は名称】白倉 昌
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】小峰 輝男
(72)【発明者】
【氏名】志知 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 基和
(72)【発明者】
【氏名】宮里 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲也
(72)【発明者】
【氏名】登坂 万結
【審査官】 小川 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−024641(JP,A)
【文献】 特開2005−302786(JP,A)
【文献】 特開2004−179346(JP,A)
【文献】 特開2007−281085(JP,A)
【文献】 特開2004−018924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
C23C 16/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスからなる希釈ガスと混合され蒸気化された前駆体化合物と、酸素ガスとを混合して原料ガスとし、当該原料ガスに高周波電圧を印加して放電プラズマ化し、当該放電プラズマ化された原料ガスを基材に接触させて、前記基材の表面に炭素含有酸化ケイ素膜を形成する炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法において、
前記前駆体化合物がケイ素原子、炭素原子及び酸素原子を含有し、
前記放電プラズマ化を常圧下で行い、
前記前駆体化合物におけるケイ素1原子に対する炭素原子の比率が、原子比で炭素/ケイ素=3/1〜8/1であり、
前記前駆体化合物に含まれるケイ素原子に対する前記酸素ガスの酸素原子の比率が、原子比で酸素/ケイ素=360/1〜800/1の範囲であり、
前記プラズマ化された原料ガスを基材に接触させるとき、前記基材の表面温度が80〜150℃の範囲であることを特徴とする炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体化合物は、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)及びヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)よりなる群のうち少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法。
【請求項3】
前記不活性ガスが窒素ガスであることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法と該炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法を用いて得られる炭素含有酸化ケイ素膜に関する。さらに詳しくは、高硬度かつ低誘電率の炭素を含有する酸化ケイ素膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の高集積度と動作の高速化に伴い、半導体素子の配線の微細化が進み、また、低消費電力化と相まって層間絶縁膜の低誘電率化が求められている。一方、配線の微細化は、多層配線間でコンデンサ容量を形成してしまい、かかるコンデンサ容量の増大による配線遅延が問題になっている。よって、コンデンサ容量を低減させるために、層間絶縁膜を低誘電率絶縁膜にする必要性が高まってきている。
【0003】
有望な低誘電率絶縁膜としてSiOF(酸化シリコンにフッ素を添加したもの)、SiOC(酸化シリコンに炭素を添加したもの)、有機ポリマー系の材料等があり、比誘電率も酸化ケイ素膜が4〜4.5であるのに対し、2〜3.5程度の低誘電率の絶縁膜が得られている。しかし、これらの材料で得られた低誘電率絶縁膜は硬度が低い点が課題となっており、例えば、LSI製造工程においてクラックなど損傷、剥離、摩耗などを生じやすいという問題が生じていた。
【0004】
低誘電率絶縁膜を硬くするためには、高硬度材料として知られる酸化ケイ素等を多孔質にして誘電率を下げる方法も提案されているが、配線に使用される銅が拡散してしまい、絶縁不良となる場合もあった(特許文献1、特許文献2及び特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−043190号公報
【特許文献2】特開2011−181672号公報
【特許文献3】特開2011−210881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、低誘電率の層間絶縁膜は、半導体の配線に損傷を与えないように150℃以下で形成することが好ましく、100℃以上の耐熱性を有する必要がある。また酸化ケイ素や窒化ケイ素をベースとする絶縁膜を低誘電率化するためには、多孔質や空隙の多い構造とする方法にもっぱら依存していたが、膜を多孔質した場合には膜の硬度やバリア性(拡散抑止性)が低下してしまうという問題があり、改善が求められていた。
【0007】
本発明では、十分な硬度を有し、低誘電率の絶縁膜の製造方法を提供することを目的とし、具体的には、比誘電率が4以下であり、かつナノインデンテーション法による硬度が3GPa以上である低誘電体薄膜を基材の表面に形成する炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法及び該炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法を用いて得られる炭素含有酸化ケイ素膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法は、不活性ガスからなる希釈ガスと混合され蒸気化された前駆体化合物と、酸素ガスを混合して原料ガスとし、当該原料ガスに高周波電圧を印加して放電プラズマ化し、当該放電プラズマ化された原料ガスを基材に接触させて、前記基材の表面に炭素含有酸化ケイ素膜を形成する炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法において、前記前駆体化合物がケイ素原子、炭素原子及び酸素原子を含有し、前記放電プラズマ化を常圧下で行い、前記前駆体化合物におけるケイ素1原子に対する炭素原子の比率が、原子比で炭素/ケイ素=3/1〜8/1であり、前記前駆体化合物に含まれるケイ素原子に対する前記酸素ガスの酸素原子の比率が、原子比で酸素/ケイ素=360/1〜800/1の範囲であり、前記プラズマ化された原料ガスを基材に接触させるとき、前記基材の表面温度が80〜150℃の範囲であることを特徴とする。
【0009】
前記高周波電圧は10〜20kVの範囲であり、当該高周波電圧の周波数は5〜20kHzの範囲であり、当該高周波電圧の波形は矩形波、三角波及び正弦波、あるいはそれらの組み合わせからなることが好ましい。
【0010】
前記前駆体化合物は、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)及びヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)よりなる群のうち少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
前記不活性ガスは、HeやArなどの希ガスや窒素ガスが挙げられるが、特に窒素ガスであることが好ましい。常圧下とは、2.0×10〜50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、5.0×10〜10.664×10Paが好ましく、9.331×10〜10.397×10Paがより好ましい。基材としては、シリコンウエハ、シリコンカーバイドウエハ、ゲルマニウムウエハ、ガラス基板、プラスチックフィルム等が挙げられる。
【0012】
本発明の炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法を用いて製造した炭素含有酸化ケイ素膜は、ナノインデンテーション法による硬度が3GPa以上であり、かつ比誘電率が4以下であるため、半導体素子の製造工程において損傷を受けにくく、かつ配線遅延の生じにくい層間絶縁膜として用いることができる。本発明の炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法を用いて製造した炭素含有酸化ケイ素膜もまた本発明の1つである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法は、蒸気化された前駆体化合物と、酸素ガスを混合した原料ガスに高周波電圧を印加して放電プラズマ化して基材の表面に炭素含有酸化ケイ素膜を形成するにあたり、高硬度で比誘電率が低い炭素含有酸化ケイ素膜を簡便かつ低コストで得ることができる。
【0014】
本発明に係る炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法によって製造された炭素含有酸化ケイ素膜は、半導体素子の基板に用いられるシリコンウエハ、シリコンカーバイドウエハ、ゲルマニウムウエハ、ガラス基板の層間絶縁膜として高硬度で比誘電率が低く、高周波帯での伝送損失を低くできる。また、ポリイミド、ポリエステル、ポリアミド、フッ素系樹脂、ポリオレフィン、ポリカーボネート、液晶樹脂などフレキシブルプリント配線基板に好適な絶縁フィルムの表面に、本発明の炭素含有酸化ケイ素膜を被覆すれば、低誘電率の絶縁ポリマーフィルムの機械的強度、耐久性を、低誘電率を損なうことなく高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法を実施するための製造装置の一態様を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法の一態様を、図面を用いて説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る炭素含有酸化ケイ素膜の製造方法を実施するための製造装置Xの一態様を示した概略図である。製造装置Xは、チャンバー7が配設されて外部と遮断され、チャンバー7の内部には、接地(アース)してある導電体からなる平板状の下部電極1が台座14の上に左右に移動可能に配設されている。平板状の下部電極1の上面には、誘電体プレート2が取り付けられており、誘電体プレート2の上方には間隙5を介して、下部電極1と対向するように2つの上部電極3が配設されている。上部電極3も下部電極1と同様に、上部電極3の下面に誘電体プレート4が、下部電極1に対向する面(下面)を覆うように取り付けられる。
【0018】
図1に示した製造装置Xにあっては、かかる下部電極1と上部電極3の間に形成される間隙5に放電プラズマを発生させることによって、基材13の表面に炭素含有酸化ケイ素膜を形成するものであり、かかる上部電極3及び下部電極1の構成材料としては、例えば、銅、アルミニウム、亜鉛、銀、金、タングステン、ステンレス等が挙げられる。
【0019】
炭素含有酸化ケイ素含有膜を形成する対象となる基材13は、例えば、シリコンウエハ、シリコンカーバイドウエハ、ゲルマニウムウエハ等の半導体素子等が挙げられ、炭素含有酸化ケイ素膜を効率よく形成させるために、プラズマ化された原料ガスを基材に接触させるときには、ヒーター等の加熱手段15により、基材が損傷しない程度に加熱され、基材13の表面温度が80〜150℃の範囲で加熱される。基材13の表面温度が80℃より低いと硬度が3GPaより低くなり、基材13の表面温度が150℃より高いと比誘電率が4より大きくなり、層間絶縁膜等としての機能が不十分となる。基材13の表面温度は80〜120℃とすることが特に好ましい。
【0020】
また、上部電極3は、加温した水等により一定温度に保ち、導入される原料ガス(後記)の凝縮を防止することが好ましい。図1では、2本の温水管16により上部電極及び誘電体プレートを保持固定する保持部材17を介して上部電極3の温度が一定温度に保持されている。なお、2本の温水管16は、温水槽18から送られる温水により、温度が一定とされている。上部電極3は40〜100℃に保持されることが好ましく、60〜80℃に保持されることが特に好ましい。
【0021】
誘電体プレート2,4は板状の固体誘電体であればよく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等のプラスチックや、ガラス、金属酸化物等を使用することができ、発生するプラズマの温度に耐えられる材料を選択することができる。
【0022】
放電プラズマを発生させるために配設される上部電極3には、交流電圧器19により高周波電圧が印加される。印加される高周波電圧は、印加する高周波電圧は、10〜20kVの範囲内であることが好ましく10〜15kVの範囲内、また周波数は5〜20kHzの範囲内であることが好ましく、10〜15kHzの範囲内であることが特に好ましい。
【0023】
高周波電圧の波形は特に制限はないが、例えば、矩形波、三角波、正弦波といった従来公知の波形とすることが好ましい。これらの波形はその1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
また、高周波電圧は、対向する誘電体プレート2,4の間のプラズマが発生する間隙5の距離によって最適に調節することが好ましい。間隙5の距離は1〜5mmが好ましく、1〜2mmが特に好ましい。前記基材に上部電極3が接触しないように間隙5の距離を設定すればよい
【0025】
上部電極3を保持する保持部材17の中央部には図の奥行き方向に向かってガス導入路6が広がったスリット状開口部6aを設けてあり、蒸気状の前駆体化合物と酸素ガスが混合された原料ガスがガス導入路6を経由してかかるスリット状開口部6aから、プラズマ放電化が実施される間隙5に導入されることになる。これらのガスのうち、基材13の表面に形成される炭素含有酸化ケイ素膜の前駆体化合物としては、有機ケイ素化合物は炭素原子、ケイ素原子のほか、酸素原子を含むものとなる。酸素原子を含む有機ケイ素化合物としては、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)等が挙げられる。これらの有機ケイ素化合物は、蒸気圧が高く、かつ大気圧下で放電プラズマ化しやすいため好ましい。
【0026】
本発明の製造方法にあっては、放電プラズマ化は常圧下で行われる。ここで、本発明において、「常圧(大気圧)」とは大気圧近傍の圧力を含み、具体的には絶対圧で例えば2.0×10〜50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、5.0×10〜10.664×10Paが好ましく、9.331×10〜10.397×10Paがより好ましい。基材としては、シリコンウエハ、シリコンカーバイドウエハ、ゲルマニウムウエハ、ガラス基板、プラスチックフィルム等が挙げられる。空気をロータリーポンプ20で数秒以内に吸引しながら、窒素等の不活性ガスに雰囲気を置換する場合に生じる一般的な圧力範囲を示すものである。
【0027】
なお、図1に示した製造装置におけるチャンバー7の内部には、雰囲気ガスを空気から常圧の不活性ガス、特に安価な窒素に置き換える窒素ガス導入部21と連結される導入管8と置換を迅速に行うためのロータリーポンプ20と連結されたロータリーポンプ排気口9が配設されており、チャンバーの内部ないしは放電プラズマ化が行われている間隙5の周辺を常圧に維持する。
【0028】
前駆体化合物は図示しない定量ポンプによって、所定の量が前駆体化合物導入部22から蒸気発生器(エバポレーター)10に送られ、蒸気発生器10に、希釈ガス導入部23から導入される希釈ガスによって希釈されながら加熱されて、希釈ガスと混合した蒸気状の前駆体化合物となる。かかる蒸気状の前駆体化合物が、酸素ガス導入部24から導入される酸素ガスと混合されて原料ガスとなって、前記したようにプラズマを発生する間隙5に導入されることになる。
【0029】
前駆体化合物の希釈及び蒸気発生に使用する希釈ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを使用することができ、安価であり、かつ大気圧下でのプラズマ放電が安定する効果を有している窒素ガスを使用することが好ましい。
【0030】
本発明の製造方法にあって、放電プラズマ化により炭素含有酸化ケイ膜を合成するために、必要な酸素ガスを原料ガスとして混合するための酸素の量としては、蒸気状の前駆体化合物の蒸気に含まれるケイ素原子に対して酸素原子を360〜800原子の比率で混合するようにする(原子比として、酸素/ケイ素=1/360〜1/800)。かかる範囲で混合することにより、二酸化ケイ素成分が多くなり、必要な硬度を得ることができる。ケイ素と酸素の比率は、原子比として、酸素/ケイ素=1/500〜1/800とすることが特に好ましい。
【0031】
また、前駆体化合物中のケイ素と炭素の比率は、原子比で炭素/ケイ素=3/1〜8/1とする。駆体化合物中のケイ素と炭素の比率をかかる範囲とすることにより、半導体の層間絶縁膜として十分に高い硬度と低い比誘電率を得ることができる。例えば、前記した前駆体化合物のうち、炭素/ケイ素の原子比率はTMOSでは4/1、TEOSでは8/1、HMDSOでは3/1となり、この範囲であれば、成膜した炭素含有酸化ケイ素中の炭素の比率が6〜20原子%の範囲となり、放電プラズマ化により得られる膜は十分に高い硬度と低い比誘電率となる。ケイ素と炭素の比率は、原子比として、炭素/ケイ素=3/1〜4/1とすることが特に好ましい。
【0032】
炭素含有酸化ケイ素は炭素成分の他の80〜93原子%が主にケイ素、酸素によって占められており、さらに水素が5〜20原子%、希釈ガスの窒素も1〜5原子%の範囲で含まれている。ケイ素と酸素の比率は、概ねケイ素/酸素=1/1〜1/2の範囲にある。
【0033】
なお、酸素とケイ素の原子の比率は、以下のように算出すればよい。まず、前駆体化合物のケイ素が1分子あたり1原子のときは、下記式(1)により、酸素原子のモル数(/分)を算出する。
【0034】
(数1)
酸素原子のモル数/分=(酸素ガスの流量(L/分)×2)/22.4(L) …(1)
【0035】
ケイ素原子のモル数(/L)は下記(2)により算出される。
【0036】
(数2)
ケイ素原子のモル数(/分)=前駆体の流量(g/分)/前駆体の分子量 …(2)
【0037】
そして、式(1)及び式(2)で算出された値を用いて、下記(3)により、酸素/ケイ素の原子の比率を算出する。
【0038】
(数3)
酸素/ケイ素(原子比)=酸素原子のモル数/ケイ素原子のモル数 …(3)
【0039】
なお、例えば、HMDSOのように、前駆体化合物のケイ素が1分子あたり2原子の場合は、前記した(2)に代えて、下記(2´)により酸素原子のモル数(/分)を算出し、前記した式(1)及び式(3)により
【0040】
(数4)
ケイ素原子のモル数(/分)=(前駆体の流量(g/分)×2)/前駆体の分子量 …(2´)
【0041】
間隙5に供給された原料ガスは、上部電極3に高周波電圧が印加されてプラズマ化され、下部電極1の上麺を覆う誘電体プレート2の上に載置した基材13の表面に炭素化酸化ケイ素膜を形成するとともに、余剰の原料ガスとともに上部電極3の両端に設けられたスリット11から、ブロアー12によって吸引されて、外部に除去されることになる。
【0042】
なお、間隙5においてプラズマ化した蒸気状の前駆体化合物と酸素の原料ガスにより形成される炭素含有酸化ケイ素膜は、上部電極3を保持する保持部材17に配設したガス導入路6のスリット状開口部6aの直下がもっとも成膜速度が速いため、基材は可動式の下部電極1とともにスリットに直交して前後に移動して基材13の表面に均一に膜が形成されるようにすることが好ましい。
【0043】
以上説明したように、本発明の製造方法によれば、蒸気化された前駆体化合物と、酸素ガスを混合した原料ガスに高周波電圧を印加して放電プラズマ化して基材13の表面に炭素含有酸化ケイ素膜を形成するにあたり、高硬度で比誘電率が低い炭素含有酸化ケイ素膜を簡便かつ低コストで得ることができる。特に、本発明で得られた炭素含有酸化ケイ素膜は、比誘電率が4以下であり、損失が低減できるとともに、硬度が3GPa以上であるため、半導体素子の製造、使用時に損傷しにくく、耐久性を十分に備えるものとなる。さらに膜は硬度があり緻密なため、配線の銅など金属が拡散する空隙が少なく絶縁不良が発生しにくく、半導体素子の層間絶縁膜等として最適である。
【0044】
また、大気圧で成膜するため、半導体素子の製造工程で真空チャンバーや大掛かり真空プロセスが必要なく、簡便で低コストな製膜処理が可能な方法となる。常圧でプラズマ化して成膜することによって半導体素子に層間絶縁膜を形成する場合に真空にして処理する必要がなく、ポンプ、設備の簡素化、処理時間の短縮が可能になるとともに、大気圧プラズマではプラズマ密度が高く、成膜速度が減圧プラズマより速くなるため、硬度を有しながら誘電率の低い膜構造を有する膜が形成できるというメリットがある。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
図1に示す製造装置Xを用いて、下記の方法により、基材13の表面に炭素含有酸化ケイ素膜を形成した。
【0047】
(基材13)
炭素含有酸化ケイ素膜の形成対象となる基材13としては、ケイ素の単結晶ウエハ(直径80mm、厚み0.5mm)を使用した。かかる基材13は、図1に示すように、下部電極1の上面の誘電体プレート2の上に載置し、基材13の表面は、加熱手段(ヒーター)15によって温度を60〜200℃の範囲で保持できるようにした。また、形成された膜の厚みは、200nmとなるようにした。
【0048】
(基本操作)
基材13をこのように載置した状態で、窒素ガスからなる希釈ガスと前駆体化合物を蒸気発生器(エバポレーター)10で混合して蒸気状の前駆体化合物とし、かかる蒸気状の前駆体化合物と酸素ガスを混合した原料ガスを、ガス導入部6を介して間隙5に導入して、上部電極3に高周波電圧を印加して放電プラズマ化し、かかる放電プラズマ化した原料ガスを基材13の表面に接触させて、基材13の表面に炭素含有酸化ケイ素膜を形成した。前駆体化合物としては、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)及びヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を用いた。製造条件のうち、前駆体化合物の種類、前駆体化合物の炭素/ケイ素比率(原子比)、前駆体化合物の流量(前駆体の流量)(L/分)、O流量(L/分)酸素/ケイ素比率(原子比)、基板温度(℃)を表1に示す。
【0049】
なお、プラズマ放電化は常圧下(大気圧下:9.5×10Pa)で実施し、チャンバー内部の圧力(間隙5における圧力を含む)は常圧(9.5×10Pa)を維持するようにした。なお、プラズマ放電化を1.0×10Pa(比較例25)及び0.1×10Pa(比較例26)としたものを比較例として実施した。
【0050】
(製造条件)
【表1】
【0051】
なお、高周波電圧の印加条件は、14kVの負ピーク電圧で、20kHzでピーク幅10マイクロ秒である。また製造装置Xのチャンバー7の内部は、95kPAの圧力の窒素ガスに置換した常圧条件とした。上部電極3は銅製、下部電極1はアルミニウム製であり、それぞれ対向する面は、厚さ1mmのアルミナ製誘電体プレート2,4によって覆うようにした。
【0052】
上部電極3のガス導入のためのスリット状のガス導入部6は長さ120mm、隙間1mm、対向している誘電体プレート2,4の間隔は1.5mmである。成膜中は下部電極1を上部電極3のスリットの幅方向と垂直に50mm/分の速度で前後に40mm往復移動させることにより基材13の表面に均一の厚みに成膜できるようにした、前駆体化合物を蒸気にするための希釈ガスは窒素8L/分を使用した。上部電極3は2本の温水管16によって80℃に加熱し、原料ガスの凝縮を防止した。
【0053】
(膜の評価方法)
形成された炭素含有酸化ケイ素膜については、下記の方法により化学組成、厚み、硬度及び比誘電率を測定して、それぞれ比較・評価した。硬度、比誘電率、膜中の炭素の含有量の結果を表2に示す。なお、膜の厚みは、全ての実施例及び比較例について、200nmであった。
【0054】
化学組成:
X線光電子分光法(XPS:JPS―9000MX、JEOL社、日本)によって炭素、ケイ素、酸素、窒素の量を測定した。膜中の水素含量はフーリエ円環赤外分光法(FTIR法、ALPHA−T、ブルカー社製、ドイツ)によってC−H、Si−H結合の量を測定した。
【0055】
厚み:
膜の厚みは、分光エリプソメータ(FE−5000S、大塚電子社製、日本)で測定した。
【0056】
硬度:
膜の硬度は、ナノインデンテーション法によって測定した。先端針をBerkovichダイヤモンドインデンターとして、装置はトライボインデンター(TI−900、Hysitron社製、米国)を使用し、圧入深さ20nmとし、荷重−変形曲線をOliver−Pharr法によって解析し、硬度(GPa)を求めた。
【0057】
比誘電率:
膜の誘電率はインピーダンスアナライザー(ヒューレット・パッカード社製、4191A)を使用し、1MHz、25℃の条件で比誘電率を測定した。
【0058】
(結果)
【表2】
【0059】
表2に示すように、X線光電子分光法による分析結果では、実施例で得られた膜は、炭素を6〜20原子%含有していた。またFT−IRによる分析では、水素を有する吸収はわずかに認められる程度であり、膜の水素含有量は数%以下であると推定された。
【0060】
表2に示すように実施例で得られた膜は、すべて硬度3GPa以上、比誘電率4以下であり、要求される性能を維持していた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、基材の表面に高硬度かつ低誘電率の炭素含有酸化ケイ素膜を簡便かつ低コストで形成する方法として、半導体分野等で実施することができ、産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0062】
1 下部電極
2 誘電体プレート
3 上部電極
4 誘電体プレート
5 間隙
6 ガス導入路
6a スリット状開口部
7 チャンバー
8 導入管
9 ロータリーポンプ排気口
10 蒸気発生器
11 スリット
12 ブロアー
13 基材
14 台座
15 加熱手段(ヒーター)
16 温水管
17 保持部材
18 温水槽
19 交流電圧器
20 ロータリーポンプ
21 窒素ガス導入部
22 前駆体化合物導入部
23 希釈ガス導入部
24 酸素ガス導入部
X 製造装置
図1