(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
上記免震装置の一例として、
図9に示す免震装置61は、上部構造物に取り付けられる上部取付部材62と、下部構造物に取り付けられ、円弧状摺動面63aを備えた下部取付部材63と、上部取付部材62に固定され、下部取付部材63の円弧状摺動面63aを摺動する摺動部材64とを備える。
【0003】
上記構成を有する免震装置61は、地震等が発生した際には、
図9(a)の状態から、摺動部材64が上部取付部材62を介して上部構造物の荷重を支持しながら、
図9(b)に示すように、円弧状摺動面63a上を摺動して斜め上方向に移動して減衰機能を発揮する。地震等が終息すると、摺動部材64は
図9(a)の状態に戻る。また、この免震装置61の固有周期は、下部取付部材63の円弧状摺動面63aの直径で決まる。
【0004】
免震装置61は、摺動部材64が摺動する下部取付部材63の摺動面63aが円弧状であるため、
図10に示すように、上部取付部材62の変位(摺動部材64の原点Oからの変位と同じ)xと摩擦力F及び復元力Rは比例関係にある。尚、同図中の点(a)、(b)は、上記
図9の(a)、(b)の状態に対応している。そのため、滑り始めの抵抗力は小さくて好ましいが、円弧状摺動面63aの最下点である原点O付近では、摺動部材64に復元力がほとんど働かず、摩擦力以上の力が働かないと摺動部材64は摺動しない。従って、摺動部材64の復元力が摩擦力を下回るような場合には、摺動部材64が原点Oに復帰し難い面もあり、原点Oから離れた位置に留まることもあり得る。
【0005】
上記免震装置の他の例として、
図11に示す免震装置71は、上部構造物に取り付けられる上部取付部材72と、下部構造物に取り付けられ、最下点を挟んで相対向する一対の平面状傾斜面73a、73bを備えた下部取付部材73と、上部取付部材72に固定され、下部取付部材73の平面状傾斜面73a、73bを摺動する摺動部材74とを備える。摺動部材74は、底面に摩擦係数の大きい摩擦板74a、74bを備え、摩擦板74a、74bが下部取付部材73の平面状傾斜面73a、73bに当接する。
【0006】
上記構成を有する免震装置71は、地震等が発生した際には、
図11(a)の状態から、摺動部材74が上部取付部材72を介して上部構造物の荷重を支持しながら、
図11(b)に示すように、平面状傾斜面73b上を摺動して減衰機能を発揮する。地震等が終息すると、摺動部材74は
図11(a)の状態に戻る。また、この免震装置71の固有周期は、上部取付部材72の変位xによって変化するため、共振点を持たない。
【0007】
上記免震装置71は、摺動部材74が摺動する下部取付部材73の摺動面73a、73bが傾斜した平面状であるため、
図12に示すように、上部取付部材72の変位xに関わらず摩擦力F及び復元力Rは一定である。尚、同図中の点(a)、(b)は、上記
図11の(a)、(b)の状態に対応している。そのため、摩擦力を超える復元力を設定することができ、残留変位が残ることがなく、地震等が終息した際には最下点である原点Oに容易に復帰する。しかし、摺動部材74の位置に関わらず一定の復元力が働いているため、摩擦力に復元力を加えた力以上の力が摺動部材74に働かないと摺動部材74が平面状傾斜面73a上を摺動せず、滑り始めの抵抗力が大きくなるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、
図9に示す免震装置61は、滑り始めの抵抗力は小さいが、残留変位が残る虞があり、
図11に示す免震装置71は、残留変位が残ることは少ないが、滑り始めの抵抗力が大きくなるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記従来の免震装置における問題点に鑑みてなされたものであって、残留変位の抑制と、滑り始めの抵抗力の低減とを両立させた免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、免震装置であって、下部構造物に取り付けられ、
上方に開口するすり鉢状の凹円錐面を有する下部取付部材と、上部構造物に取り付けられる上部取付部材と、下部に円錐状又は円錐台状の摺動部を有し、前記下部取付部材の前記凹円錐面を摺動する摺動部材と、該摺動部材と前記上部取付部材との間に介在し、前記上部構造物の荷重を前記上部取付部材を介して前記摺動部材に伝達しながら、
前記摺動部材が前記下部取付部材と共に前記上部取付部材に対して所定の距離水平方向に相対移動した後、前記下部取付部材の前記凹円錐面の斜め上方への前記摺動部材の摺動を助長する振り子機構とを備えることを特徴とする。
【0011】
そして、本発明によれば、振り子機構によって、摺動部材が下部取付部材の凹円錐面の斜め上方へ移動し易くなるため、滑り始めの抵抗力を小さくすることができる。これに加え、摺動部材が摺動する下部取付部材の摺動面が凹円錐面であるため、摺動部材に摩擦力を超える復元力を設定することができ、地震等が終息した際には速やかに凹円錐面の最下点である原点に復帰することができる。
【0012】
上記免震装置において、前記振り子機構を、前記上部取付部材から垂下する一対のリンクプレートと、該一対のリンクプレートの間に、該一対のリンクプレートに回転可能に設けられる支持部材と、該支持部材を、該支持部材の回転軸と直角方向でかつ水平方向に貫通し、該支持部材と一体に設けられる支持棒と、前記摺動部材の天井面に立設される一対の支持板と、相対向して2組存在し、隣接するもの同士が接続部材によって接続される第1リンクアームであって、一方の組の第1リンクアームが各々前記一対の支持板の各々に回転可能に装着される第1リンクアームと、相対向して1組存在し、各々の上部が、前記支持板の各々に回転可能に装着されていない他方の組の第1リンクアームに回転可能に装着され、各々の下部が前記支持棒の両端部の各々に固定される第2リンクアームとを備えるように構成することができる。
【0013】
また、本発明は、免震装置であって、下部構造物に取り付けられ、
上方に開口すると共に、最下点を挟んで相対向する一対の平面状傾斜面を有する下部取付部材と、上部構造物に取り付けられる上部取付部材と、下部に一対の傾斜面からなる摺動部を有し、前記下部取付部材の前記一対の平面状傾斜面を摺動する摺動部材と、該摺動部材と前記上部取付部材との間に介在し、前記上部構造物の荷重を前記上部取付部材を介して前記摺動部材に伝達しながら、
前記摺動部材が前記下部取付部材と共に前記上部取付部材に対して所定の距離水平方向に相対移動した後、前記下部取付部材の前記平面状傾斜面の斜め上方への前記摺動部材の摺動を助長する振り子機構とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、振り子機構によって、摺動部材が下部取付部材の平面状傾斜面を斜め上方へ移動し易くなるため、滑り始めの抵抗力を小さくすることができる。これに加え、摺動部材が摺動する下部取付部材の摺動面が傾斜した平面状であるため、摺動部材に摩擦力を超える復元力を設定することができ、地震等が終息した際には速やかに最下点である原点に復帰することができる。
【0015】
上記免震装置において、前記振り子機構を、前記上部取付部材から垂下する第1リンクアームと、一端が前記摺動部材に回動可能に連結され、他端が前記第1リンクアームの下端部に回動可能に連結される第2リンクアームとを備えるように構成することができる。
【0016】
上記免震装置において、前記振り子機構を、前記上部取付部材から垂下するアームと、該アームの下端部に回転可能に設けられると共に、最下点を挟んで相対向する一対の曲面状傾斜面を有する、前記摺動部材に形成されたスリット内を案内されながら回転移動するローラとを備えるように構成することができる。
【0017】
上記免震装置において、前記振り子機構を、前記上部取付部材から垂下するアームと、該アームの下端部に設けられ、前記摺動部材に形成された凹状天井面を摺動する摺動部とを備えるように構成することができる。
【0018】
上記免震装置において、前記振り子機構を、前記上部取付部材から垂下するアームと、一端が前記摺動部材に接続され、他端が前記アームの下端部に接続されるワイヤとを備えるように構成することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、残留変位の抑制と、滑り始めの抵抗力の低減とを両立させた免震装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明に係る免震装置の一実施の形態を示し、この免震装置1は、上部構造物に取り付けられる上部取付部材2と、下部構造物に取り付けられ、最下点を挟んで相対向する一対の平面状傾斜面3a、3bを備えた下部取付部材3と、上部取付部材2に固定され、下部取付部材3の平面状傾斜面3a、3bを摺動する摺動部材4と、振り子機構を構成する第1リンクアーム6及び第2リンクアーム7とを備える。
【0023】
上部取付部材2は、上部構造物の下面に取り付けられ、上部取付部材2の下面には、第1リンクアーム6が鉛直下向きに垂下するように固着される。
【0024】
下部取付部材3は、最下点(原点O)を挟んで、各々斜め上方向に傾斜する一対の平面状傾斜面3a、3bを備える。
【0025】
摺動部材4は、底面に摩擦係数の大きい摩擦板4a、4bを備え、摩擦板4a、4bが下部取付部材3の平面状傾斜面3a、3bに当接する。
【0026】
第1リンクアーム6は、上部取付部材2から垂下し、下端部に第2リンクアーム7が回動可能に連結される。
【0027】
第2リンクアーム7は、一端が摺動部材4に回動可能に連結され、他端が第1リンクアーム6の下端部に回動可能に連結される。
【0028】
次に、上記構成を有する免震装置1の動作について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
【0029】
通常の状態では、
図1(a)に示すように、摺動部材4は、下部取付部材3の上面の最下点、すなわち原点Oに位置し、上部取付部材2、第1リンクアーム6及び第2リンクアーム7を介して上部構造物の荷重を支持している。この状態は、
図2では、点(a)で示す状態である。
【0030】
地震等が発生し、
図1(a)の状態から、上部取付部材2が例えば右方へ移動すると、これに対応して第1リンクアーム6も右方へ移動し、
図1(b)に示すように、第1リンクアーム6の移動に伴い第2リンクアーム7が反時計回りに回転するが、摺動部材4は原点Oに位置したままである。すなわち、上部取付部材2の初期移動に対して摺動部材4が即座に追従するのではなく、摺動部材4はある程度原点Oに留まった状態を維持する。この状態は、
図2では、点(b)で示される。
【0031】
図1(b)の状態から、上部取付部材2がさらに右方へ移動すると、これに伴い第1リンクアーム6も右方へ移動し、
図1(c)に示すように、摺動部材4は、上部取付部材2、第1リンクアーム6及び第2リンクアーム7を介して上部構造物の荷重を支持しながら、下部取付部材3の平面状傾斜面3bを斜め上方に摺動して減衰機能を発揮する。この状態は、
図2では、点(c)で示される。地震等が終息すると、摺動部材4は
図1(a)の状態に戻る。また、この免震装置1の固有周期は、上部取付部材2の変位xによって変化するため、共振点を持たない。
【0032】
上記免震装置1は、摺動部材4が摺動する下部取付部材3の摺動面3a、3bが傾斜した平面状であるため、
図2に示すように、摺動部材4が移動を開始した後、上部取付部材2の変位xに関わらず摩擦力F及び復元力Rは一定である。そのため、摩擦力を超える復元力を設定することができ、残留変位が残ることがなく、地震等が終息した際には最下点である原点Oに容易に復帰する。
【0033】
一方、上記免震装置1は、第1リンクアーム6及び第2リンクアーム7によって構成される振り子機構を備えるため、地震等が発生した際に上部取付部材2が移動を開始しても、摺動部材4が即座に追従せず、摺動部材4の摩擦力が徐々に増加し、上部取付部材2がある程度の距離を移動した後、摺動部材4が摺動を開始するように振り子機構によって摺動が助長されるため、滑り始めの抵抗力を小さく抑えることができる。
【0034】
尚、上記実施の形態における第2リンクアーム7に代えて、ワイヤを用いて振り子機構を構成することもできる。
【0035】
次に、本発明に係る免震装置の第2の実施形態について、
図3を中心に参照しながら説明する。
【0036】
この免震装置11は、上部構造物に取り付けられる上部取付部材12と、下部構造物に取り付けられ、最下点を挟んで相対向する一対の平面状傾斜面13a、13bを備えた下部取付部材13と、上部取付部材12に固定され、下部取付部材13の平面状傾斜面13a、13bを摺動する摺動部材14と、振り子機構を構成するアーム16等を備える。
【0037】
上部取付部材12は、上部構造物の下面に取り付けられ、上部取付部材12の下面には、アーム16が鉛直下向きに垂下するように固着される。
【0038】
下部取付部材13は、最下点(原点O)を挟んで、各々斜め上方向に傾斜する一対の平面状傾斜面13a、13bを備える。
【0039】
摺動部材14は、底面に摩擦係数の大きい摩擦板14a、14bを備え、摩擦板14a、14bが下部取付部材13の平面状傾斜面13a、13bに当接する。この摺動部材14は、最下点を挟んで相対向する一対の曲面状傾斜面を有する半円弧状のスリット14cを備え、スリット14cは、図示の開口形状で水平方向に延設される。
【0040】
アーム16は、上部取付部材12から垂下し、下端部にローラ17を備え、ローラ17は、摺動部材14のスリット14cの底面14dを回転しながら移動する。
【0041】
次に、上記構成を有する免震装置11の動作について、
図2及び
図3を参照しながら説明する。
【0042】
通常の状態では、
図3(a)に示すように、摺動部材14は、下部取付部材13の上面の最下点、すなわち原点Oに位置し、上部取付部材12、アーム16を介して上部構造物の荷重を支持している。この状態は、
図2では、点(a)で示す状態である。
【0043】
地震等が発生し、
図3(a)の状態から、上部取付部材12が例えば右方へ移動すると、上部取付部材12の右方への移動に対応してアーム16も右方へ移動するが、
図3(b)に示すように、摺動部材14は原点Oに位置したままである。すなわち、上部取付部材12の初期移動に対して摺動部材14が即座に追従するのではなく、摺動部材14はある程度原点Oに留まった状態を維持する。この状態は、
図2では、点(b)で示される。
【0044】
図3(b)の状態から、上部取付部材12がさらに右方へ移動すると、これに伴いアーム16も右方へ移動し、ローラ17が摺動部材14のスリット14cの右側最上部に達し、その後、
図3(c)に示すように、摺動部材14は、上部取付部材12、アーム16を介して上部構造物の荷重を支持しながら、下部取付部材13の平面状傾斜面13bを斜め上方に摺動して減衰機能を発揮する。この状態は、
図2では、点(c)で示される。地震等が終息すると、摺動部材14は
図3(a)の状態に戻る。また、この免震装置11の固有周期は、上部取付部材12の変位によって変化するため、共振点を持たない。
【0045】
上記免震装置11は、摺動部材14が摺動する下部取付部材13の摺動面13a、13bが傾斜した平面状であるため、
図2に示すように、摺動部材14が移動を開始した後、上部取付部材12の変位に関わらず摩擦力F及び復元力Rは一定である。そのため、摩擦力を超える復元力を設定することができ、残留変位が残ることがなく、地震等が終息した際には最下点である原点Oに容易に復帰する。
【0046】
一方、上記免震装置11は、アーム16とローラ17によって構成される振り子機構を備えるため、地震等が発生した際に上部取付部材12が移動を開始しても、摺動部材14が即座に追従せず、摺動部材14の摩擦力が徐々に増加し、上部取付部材12がある程度の距離を移動した後、摺動部材14が摺動を開始するように振り子機構によって摺動が助長されるため、滑り始めの抵抗力を小さく抑えることができる。
【0047】
次に、本発明に係る免震装置の第3の実施形態について、
図4を中心に参照しながら説明する。
【0048】
この免震装置21は、上部構造物に取り付けられる上部取付部材22と、下部構造物に取り付けられ、最下点を挟んで相対向する一対の平面状傾斜面23a、23bを備えた下部取付部材23と、上部取付部材22に固定され、下部取付部材23の平面状傾斜面23a、23bを摺動する摺動部材24と、振り子機構を構成するアーム26等を備える。
【0049】
上部取付部材22は、上部構造物の下面に取り付けられ、上部取付部材22の下面には、アーム26が鉛直下向きに垂下するように固着される。
【0050】
下部取付部材23は、最下点(原点O)を挟んで、各々斜め上方向に傾斜する一対の平面状傾斜面23a、23bを備える。
【0051】
摺動部材24は、底面に摩擦係数の大きい摩擦板24a、24bを備え、摩擦板24a、24bが下部取付部材23の平面状傾斜面23a、23bに当接する。この摺動部材24の天井面24cは、半円弧状の凹状に形成される。
【0052】
アーム26は、上部取付部材22から垂下し、アーム26の下端部に設けられた摺動部26aが摺動部材24の天井面24cを摺動可能に固定される。
【0053】
次に、上記構成を有する免震装置21の動作について、
図2及び
図4を参照しながら説明する。
【0054】
通常の状態では、
図4(a)に示すように、摺動部材24は、下部取付部材23の上面の最下点、すなわち原点Oに位置し、上部取付部材22、アーム26を介して上部構造物の荷重を支持している。この状態は、
図2では、点(a)で示す状態である。
【0055】
地震等が発生し、
図4(a)の状態から、上部取付部材22が例えば右方へ移動すると、上部取付部材22の右方への移動に対応してアーム26も右方へ移動するが、
図4(b)に示すように、摺動部材24は原点Oに位置したままである。すなわち、上部取付部材22の初期移動に対して摺動部材24が即座に追従するのではなく、摺動部材24はある程度原点Oに留まった状態を維持する。この状態は、
図2では、点(b)で示される。
【0056】
図4(b)の状態から、上部取付部材22がさらに右方へ移動すると、アーム26も右方へ移動し、アーム26の摺動部26aが摺動部材24の天井面24cの右側最上部に達し、それ以上右斜め上方に摺動することができないため、
図4(c)に示すように、摺動部材24は、上部取付部材22、アーム26を介して上部構造物の荷重を支持しながら、下部取付部材23の平面状傾斜面23bを斜め上方に摺動して減衰機能を発揮する。この状態は、
図2では、点(c)で示される。地震等が終息すると、摺動部材24は
図4(a)の状態に戻る。また、この免震装置21の固有周期は、上部取付部材22の変位によって変化するため、共振点を持たない。
【0057】
上記免震装置21は、摺動部材24が摺動する下部取付部材23の摺動面が傾斜した平面状であるため、
図2に示すように、摺動部材24が移動を開始した後、上部取付部材22の変位に関わらず摩擦力F及び復元力Rは一定である。そのため、摩擦力を超える復元力を設定することができ、残留変位が残ることがなく、地震等が終息した際には最下点である原点Oに容易に復帰する。
【0058】
一方、上記免震装置21は、アーム26とその摺動部26aによって構成される振り子機構を備えるため、地震等が発生した際に上部取付部材22が移動を開始しても、摺動部材24が即座に追従せず、摺動部材24の摩擦力が徐々に増加し、上部取付部材22がある程度の距離を移動した後、摺動部材24が摺動を開始するように振り子機構によって摺動が助長されるため、滑り始めの抵抗力を小さく抑えることができる。
【0059】
次に、本発明に係る免震装置の第4の実施形態について、
図5〜
図8を参照しながら説明する。
【0060】
図5に示すように、この免震装置41は、複数(本実施例では4つ)の免震装置41A〜41Dからなり、これらが上部構造物に取り付けられる上部取付部材40と下部構造物(不図示)との間に装着される。尚、免震装置41A〜41Dは、同一の構成を備えるため、以下の説明では、免震装置41Aについて説明する。
【0061】
免震装置41Aは、
図6(a)及び
図7(a)に示すように、下部構造物に取り付けられ、すり鉢状の凹円錐面43aを備えた下部取付部材43と、下部取付部材43のすり鉢状の凹円錐面43aを摺動する摺動部材44と、摺動部材44と上部取付部材40(
図5参照)との間に装着され、振り子機構を構成するリンクプレート42A、42B、第1リンクアーム46A〜46D、及び第2リンクアーム47A、47B等を備える。
【0062】
リンクプレート42A、42Bは、各々矩形板状に形成され、これらの上面が上部取付部材40(
図5参照)の下面に取り付けられる。リンクプレート42A、42Bの下部の相対向する面の間には、支持部材49がリンクプレート42A、42Bに対して回転可能に設けられる。また、支持棒50が支持部材49を貫通し、支持部材49と一体化される。
【0063】
摺動部材44は、下部に円錐状の摺動部44aを有し、この摺動部44aが下部取付部材43の凹円錐面43aを摺動する。摺動部材44の上面44bには、矩形板状の支持板45A、45Bが立設される。尚、摺動部44aは、円錐台状であってもよい。
【0064】
第1リンクアーム46A〜46Dは、隣接する第1リンクアーム同士が接続部材48A〜48Dによって接続された上面視八角形状に形成され、第1リンクアーム46B、46Dが支持板45A、45Bの上部に回転可能に支持される。
【0065】
第2リンクアーム47A、47Bは、各々の上部が第1リンクアーム46A、46Cに回転可能に支持され、各々の下部が支持棒50の両端部に固着される。
【0066】
次に、上記構成を有する免震装置41Aの全体的な動作について、
図2、
図5及び
図6を参照しながら説明する。
【0067】
通常の状態では、
図5(a)及び
図6(a)に示すように、摺動部材44は、下部取付部材43の凹円錐面43aの最下点、すなわち原点Oに位置し、上部取付部材40及びリンクプレート42A、42Bを介して上部構造物の荷重を支持している。この状態は、
図2では、点(a)で示す状態である。
【0068】
地震等が発生し、
図6(a)の状態から、上部取付部材40に装着されているリンクプレート42A、42Bが矢印A方向へ移動すると、これに対応して第1リンクアーム46A〜46Dが回転し、第2リンクアーム47A、47Bも揺動するが、
図5(b)及び
図6(b)に示すように、摺動部材44は原点Oに位置したままである。すなわち、リンクプレート42A、42Bの初期移動に対して摺動部材44が即座に追従するのではなく、摺動部材44は、ある程度原点Oに留まった状態を維持する。この状態は、
図2では、点(b)で示される。
【0069】
図5(b)及び
図6(b)の状態から、リンクプレート42A、42Bがさらに矢印A方向へ移動すると、第1リンクアーム46A〜46D及び第2リンクアーム47A、47Bも矢印A方向へ移動し、
図5(c)及び
図6(c)に示すように、摺動部材44は、上部取付部材40、リンクプレート42A、42B、支持部材49、支持棒50、第2リンクアーム47A、47B、第1リンクアーム46A〜46D、支持板45A、45Bを介して上部構造物の荷重を支持しながら、下部取付部材43のすり鉢状の凹円錐面43aを斜め上方に摺動して減衰機能を発揮する。この状態は、
図2では、点(c)で示される。地震等が終息すると、摺動部材44は
図6(a)の状態に戻る。また、この免震装置41Aの固有周期は、リンクプレート42A、42Bの変位によって変化するため、共振点を持たない。
【0070】
上記免震装置41Aは、摺動部材44が摺動する下部取付部材43の凹円錐面43aの断面が傾斜した平面状であるため、
図2に示すように、摺動部材44が移動を開始した後、リンクプレート42A、42Bの変位に関わらず摩擦力F及び復元力Rは一定である。そのため、摩擦力を超える復元力を設定することができ、残留変位が残ることがなく、地震等が終息した際には最下点である原点Oに容易に復帰する。
【0071】
一方、上記免震装置41Aは、リンクプレート42A、42Bと、第1リンクアーム46A〜46Dと、第2リンクアーム47A、47B等で構成される振り子機構を備えるため、地震等が発生した際にリンクプレート42A、42Bが移動を開始しても、摺動部材44が即座に追従せず、摺動部材44の摩擦力が徐々に増加し、リンクプレート42A、42Bがある程度の距離を移動した後、摺動部材44が摺動を開始するように振り子機構によって摺動が助長されるため、滑り始めの抵抗力を小さく抑えることができる。
【0072】
次に、上記免震装置41Aの二次元方向の動作の詳細について、
図7、
図8を参照しながら説明する。
【0073】
地震等が発生し、
図7(a)の状態から、
図7(b)に示すように、リンクプレート42A、42Bが移動して、支持板45Bを貫通する回転支持部51Bを中心に第1リンクアーム46Bが回転すると(同時に、支持板45Aを貫通する回転支持部(不図示)を中心に第1リンクアーム46D(
図7(a)参照)が回転する。以後、この回転方法を「X方向」という)、これに伴って、第1リンクアーム46A、46C、接続部材48A〜48DがX方向に回転する。さらに、第2リンクアーム47A、47B、支持棒50及び支持部材49がX方向に回転し、リンクプレート42A、42Bの移動量が大きくなると、摺動部材44が下部取付部材43の凹円錐面43aを摺動する。
図7(c)は、
図7(b)とは逆方向に第1リンクアーム46A、46Bが回転した場合を示している。
【0074】
一方、地震等が発生し、
図7(a)の状態から、
図8(a)に示すように、リンクプレート42A、42Bが移動して、第1リンクアーム46Aを貫通する回転支持部51Aを中心に第2リンクアーム47Aが回転すると(同時に、第1リンクアーム46Cを貫通する回転支持部51Cを中心に第2リンクアーム47B(
図8(b)参照)が回転する。以後、この回転方法を「Y方向」という)、これに伴って、支持棒50及び支持部材49がY方向に回転し、リンクプレート42A、42Bの移動量が大きくなると、摺動部材44が下部取付部材43の凹円錐面43aを摺動する。
図8(b)は、
図8(a)とは逆方向に第2リンクアーム47A、47Bが回転した場合を示している。
【0075】
図8(c)、(d)は、上記X方向及びY方向の回転が同時に起こった場合を示し、免震装置41Aが二次元方向に動作している。この場合も、リンクプレート42A、42Bの移動量が大きくなると、摺動部材44が下部取付部材43の凹円錐面43aを摺動する。