【実施例1】
【0028】
この発明の実施例1に係る車両用マッドガードを
図1〜
図4にしたがって説明する。
図1に示すように、車両用マッドガード10は、車両のボディパネル1のフロントのホイールアーチ部2(又はリアのホイールアーチ部3)の後下端部を覆うようにして装着される。なお、リアのホイールアーチ部3の後側部はリヤバンパ4の一部によって形成されている。
また、車両用マッドガード10は、
図2と
図4に示すように、マッドガード本体11と、このマッドガード本体11の意匠外面に形成された塗装膜50とを備えている。
【0029】
マッドガード本体11は、熱可塑性エラストマー材料からなる弾性体によって一体成形されている。
また、JISK7215に基づくデュロメータA硬さ(HDA)が90以上で、かつデュロメータD硬さ(HDD)が40以下のオレフィン系熱可塑性エラストマー材料からマッドガード本体11が形成されることが望ましい。
【0030】
また、
図2〜
図4に示すように、マッドガード本体11は、基部12と、連結部20と、装飾部30と、突条部40とを一体に有している。
マッドガード本体11の基部12は、フロントのホイールアーチ部2(又はリアのホイールアーチ部3)の後下端部の前側に装着されてホイールアーチ部2(又はリアのホイールアーチ部3)の後下端部の車幅方向に沿って延びる下部12aと、この下部12aの車外側部から上方に沿って延びる立上り部12bとを有して側面形状が鉤形をなしてホイールアーチ部2(又はリアのホイールアーチ部3)の前側を覆う。
【0031】
また、この実施例1において、
図2に示すように、基部12には、フロントのホイールアーチ部2(又はリアのホイールアーチ部3)にビスやクリップ等の取付部材によって取り付けるための単数又は複数の取付孔14、16、18が形成されている。
この実施例1において、基部12の下部12aの一箇所と、立上り部12bの上下部の二箇所、計三箇所に台座部13、15、17が形成されている。そして、下部12aの台座部13には、車幅方向に長い取付孔14が形成されている。さらに、立上り部12bの下側の台座部15には、取付の基準となる円形の取付孔16が形成され、立上り部12bの上側の台座部17には、上下方向に長い取付孔18が形成されている。
【0032】
図に示すように、マッドガード本体11の装飾部30は、基部12の外周縁から車両のボディパネル1の外側面に向けて連結部20を介して形成されると共に、下部30a及び立上り部30bを有して側面形状が鉤形をなし、かつホイールアーチ部2の後下端部に対応する車両のボディパネル1のロッカー部(又はリヤバンパ4)の外側面を覆う。
【0033】
図2〜
図4に示すように、突条部40は、基部12の外周縁と連結部20との境界部で前方に向けて横断面半円弧状をなして突出されている。
【0034】
塗装膜50は、マッドガード本体11の意匠外面をなす突条部40と、この突条部40の外周側部分の連結部20及び装飾部30との外表面に形成されている。
そして、突条部40の内周側部分の基部12の外表面は、塗膜層が施されていない非塗装面とされている。
【0035】
また、この実施例1において、
図2〜
図4に示すように、マッドガード本体11の基部12の外周縁と突条部40の内周側根元部との間には凹溝45が形成され、塗装膜50は、凹溝45から、この凹溝45の外周側部分の突条部40と連結部20と装飾部30との外表面に形成されている。
また、
図4に示すように、凹溝45の内周側部分の基部12の外表面は、塗装膜が施されていない非塗装面とされている。
また、凹溝45の深さ寸法hは、凹溝45の底面から基部12の内表面までの肉厚寸法tの30%〜80%の値に設定されることが望ましい。なお、この実施例1において、装飾部30の端面を含む端部30cの表面にも塗装膜50が形成されている。
【0036】
この実施例1に係る車両用マッドガードは上述したように構成される。
したがって、車両用マッドガード10は、マッドガード本体11の突条部40の外表面と、この突条部40の外周側部分の連結部20及び装飾部30の外表面(意匠外面)にそれぞれ塗装膜50が形成され、突条部40の内周側部分の基部12の外表面は、塗膜層が施されていない非塗装面とされている。
そして、突条部40が塗装した部分と塗装しない部分との境界に位置するため、塗装した部分と塗装しない部分との境界線(見切り線)がはっきりしているように見えて見栄えが良い。
【0037】
また、この実施例1において、マッドガード本体11の基部12の外周縁と突条部40の内周側根元部との間には凹溝45が形成されている。この凹溝45から、凹溝45の外周側部分の突条部40と連結部20と装飾部30とのそれぞれの外表面に塗装膜50が形成され、凹溝45の内周側部分の基部12の外表面は、塗膜層が施されていない非塗装面とされている。
これによって、凹溝45が塗装した部分と塗装しない部分との境界に位置するため、塗装した部分と塗装しない部分との境界線(見切り線)がはっきりしているように見えて見栄えが良い。
【0038】
また、この実施例1において、マッドガード本体11の凹溝45の底面から基部12の内表面までの肉厚寸法tの30%〜80%の値に凹溝45の深さ寸法hが設定されることで、マッドガード本体11の剛性低下を抑制することができる。
すなわち、凹溝45の深さ寸法hが、凹溝45の底面から基部12の内表面までの肉厚寸法tの30%よりも小さいと、凹溝45としての効果が明らかとならず、80%を越えると、マッドガード本体11の剛性低下が顕著となる。
【0039】
また、この実施例1において、車両のボディパネル1のフロントのホイールアーチ部2(又はリアのホイールアーチ部3)に対し、車両用マッドガード10を、そのマッドガード本体11の基部12に形成された複数の取付孔14、16、18によって容易に取り付けることができる。
【0040】
また、この実施例1において、基部12の下部12aの一箇所に形成された取付孔14は、車幅方向に長い長孔によって形成され、基部12の立上り部12bの上側の取付孔18は上下方向に長い長孔によって形成され、基部12の立上り部12bの下側の取付孔16は取付の基準となる円形孔によって形成されている。
このため、車両のボディパネル1のフロントのホイールアーチ部2(又はリアのホイールアーチ部3)や車両用マッドガード10の製作や加工にばらつきがあったとしても、車幅方向のばらつきを車幅方向に長い取付孔14によって吸収でき、上下方向のばらつきを上下方向に長い取付孔18によって吸収することができる。
また、マッドガード本体11に対し複数の取付孔14、16、18を利用して後述する塗装マスキング治具60を容易に位置決めして装着することもできる。
【0041】
次に、この発明の実施例1に係る車両用マッドガードを製造する方法を
図5〜
図10にしたがって説明する。
熱可塑性エラストマー材料からなる弾性体によって、基部12と、連結部20と、装飾部30と、突条部40とを一体に有するマッドガード本体11を製作して準備する。
その後、マスキング工程と、塗装行程と、を行って車両用マッドガード10を製造する。
【0042】
マスキング工程において、マッドガード本体11の装飾部30と連結部20と突条部40とのそれぞれの外表面を露出させた状態で、マッドガード本体11の基部12の外表面及び内表面を覆うようにしてマッドガード本体11に塗装マスキング治具60を装着する。
図5と
図6に示すように、塗装マスキング治具60は、マッドガード本体11の基部12の外表面側に装着されるベース部材61と、基部12の内表面側に装着されるキャップ部材80とを備えている。
【0043】
図5と
図7と
図9に示すように、ベース部材61は、マッドガード本体11の基部12の外表面側に装着されたときに基部12の外表面を覆うベース本体62と、このベース本体62の外周縁に沿って内面側へ突出された外側壁部75と、この外側壁部75の外周縁から延出され、かつ基部12の外周縁に対応する外周縁形状に形成された外側フランジ76と、ベース本体62の内表面から突出され、かつ基部12の内周縁の端面と対向する内側壁部70と、この内側壁部70の内周縁から延出された内側フランジ71と、ベース部材61をマッドガード本体11の基部12に位置決めして着脱可能に固定する単数又は複数の固定部63と、を一体に有している。
【0044】
この実施例1において、固定部63は、マッドガード本体11の基部12の複数の取付孔14、16、18に対応するベース本体62の内表面の各位置にそれぞれ突出された台座部64、66、68の座面から横断面円形の軸状をなして突出された複数の突出部65、67、69によって構成されている。そして、突出部65、67、69は、マッドガード本体11の基部12の複数の取付孔14、16、18にそれぞれ嵌挿されて位置決め固定される。
また、この実施例1において、複数の突出部65、67、69の先端部には、次に詳述するキャップ部材80の位置決め固定部としての貫通孔85、87、89に係脱可能に係合する弾性クリップ65a、67a、69aが一体に形成されている。
【0045】
また、この実施例1において、
図10に示すように、マッドガード本体11の基部12の外表面側にベース部材61が装着されたときには、ベース部材61の外側フランジ76は、その外端部がマッドガード本体11の基部12の外周縁に近接又は当接し、外側フランジ76の外端部から内端部に向けてマッドガード本体11の基部12に対し徐々に隙間が増大される傾斜状に形成されている。さらに、外側フランジ76の外端部76aは断面鋭角をなしている。
【0046】
図8と
図9に示すように、キャップ部材80は、マッドガード本体11の基部12の内表面側に装着されたときに基部12の内表面の少なくとも一部を覆うキャップ本体81と、このキャップ本体81の内周縁に沿って形成され、基部12の内表面側に装着されたときに基部12の内周縁とベース部材61の内側壁部70との間を覆うカバー部90と、カバー部90の内周縁から延出され、かつベース部材61の内側フランジ71に合掌状に重ね合わされる内側フランジ95と、キャップ部材80をマッドガード本体11の基部12又はベース部材61のベース本体62に位置決めして着脱可能に装着する単数又は複数の位置決め固定部83と、を有している。
この実施例1において、マッドガード本体11の基部12の複数の取付孔14、16、18に対応する位置でキャップ本体81の内表面側から外表面に向かって凹まされた凹部84、86、88が形成されている。これら凹部84、86、88の底板部に位置決め固定部83としての貫通孔85、87、89がそれぞれ形成されている。
【0047】
また、この実施例1において、ベース部材61及びキャップ部材80は、マッドガード本体11を形成する材料の線膨張係数と同じか又は近い線膨張係数の材料によって形成されることが望ましい。
また、ベース部材61及びキャップ部材80は、塗装加熱炉内で加熱されるマッドガード本体11の加熱温度に耐え得る耐熱性材料(例えば、PP、ABS、ポリアセタール、ナイロン等の樹脂材料や熱可塑性エラストマー材料等の耐熱性を有する材料)によってそれぞれ形成されることが望ましい。
さらに、ベース部材61及びキャップ部材80は、ビカット軟化点(耐熱温度)が80℃以上であることが望ましい。例えば、ベース部材61及びキャップ部材80がPP(ポリプロピレン)材料で形成された場合には、荷重温度が60℃、ビカット軟化温度が130℃〜150℃となる。
【0048】
次に、塗装行程において、予め、ベース部材61の複数の突出部65、67、69がマッドガード本体11の基部12の複数の取付孔14、16、18にそれぞれ嵌挿され、ベース部材61の複数の突出部65、67、69の弾性クリップ65a、67a、69aがキャップ本体81の位置決め固定部としての貫通孔85、87、89に嵌込まれて弾性的に係合される。これによって、マッドガード本体11に対しベース部材61とキャップ部材80とがそれぞれ容易にかつ正確に位置決めされて固定(装着)される(
図6と
図9参照)。
【0049】
そして、
図9に示すように、マッドガード本体11の基部12の外表面側にベース部材61が装着されたとき、ベース部材61が、そのベース本体62及び外側フランジ76によって基部12の外表面のうち突条部40よりも内周側の部分の凹溝45の一部を覆って突条部40を露出させる。
また、マッドガード本体11の基部12の内表面側にキャップ部材80が装着されたとき、キャップ部材80が、そのキャップ本体81によって基部12の内表面の少なくとも一部を覆い、カバー部90によって基部12の内周縁とベース部材61の内側壁部70との間を覆う。
【0050】
前記したように、マッドガード本体11にベース部材61とベース本体62とを有する塗装マスキング治具60が装着された状態で、塗装加熱炉内に移送される。
ここで、
図9と
図10に示すように、塗装スプレー100によって、マッドガード本体11の装飾部30と、連結部20と突条部40とがそれぞれスプレー塗装され、これによって、装飾部30と、連結部20と突条部40とのそれぞれの外表面に塗装膜50が形成される。
【0051】
この実施例1に係る車両用マッドガードの製造方法は上述したように構成される。
したがって、マスキング工程において、マッドガード本体11の基部12の外表面側にベース部材61を装着し、基部12の内表面側にキャップ部材80を装着することによって、ベース部材61のベース本体62及び外側フランジ76によってマッドガード本体11の基部12の外表面のうち突条部40よりも内周側の部分を覆いかつ突条部40を露出させて、マッドガード本体11を容易にマスキングすることができる。
このため、マッドガード本体11と、意匠外面(突条部40と、この突条部40の外周側部分の連結部20及び装飾部30との外表面)に塗装膜50とを有する車両用マッドガード10を容易に製造することができる。
【0052】
また、この実施例1に係る車両用マッドガードの製造方法に用いる塗装マスキング治具において、
図9と
図10に示すように、マッドガード本体11の基部12の外表面側にベース部材61が装着されたときには、ベース部材61の外側フランジ76は、その外端部から内端部に向けてマッドガード本体11の基部12に対し徐々に隙間が増大される傾斜状に形成される。
これによって、ベース部材61の外側フランジ76の外端部をマッドガード本体11の基部12の外周縁に近接又は当接させることができる。
このため、ベース部材61の外側フランジ76とマッドガード本体11の基部12の外周縁との間に過大な隙間が生じて、この隙間から噴霧状態の塗料が浸入することを抑制することができる。
【0053】
すなわち、ベース部材61の外側フランジ76が平坦に形成されると、ベース部材61やマッドガード本体11の基部12の製作のばらつきによって、マッドガード本体11の基部12の外周縁に対しベース部材61の外側フランジ76の外端部が不測に浮き上がり、過大な隙間が生じることが想定される。
これに対し、外側フランジ76が傾斜状に形成されることで、外側フランジ76の外端部とマッドガード本体11の基部12の外周縁との間に過大な隙間が生じることを抑制することができる。
【0054】
また、この実施例1において、
図10に示すように、ベース部材61の外側フランジ76の外端部76aが鋭角をなすことで、外側フランジ76の外端部76aに塗料が溜まることを抑制することができ、塗料溜まりによるバリの発生を防止することができる。
【0055】
また、この実施例1において、
図6と
図9に示すように、マッドガード本体11に対するベース部材61の位置決め固定部63としての複数の突出部65、67、69をマッドガード本体11の複数の取付孔14、16、18に嵌挿して固定することで、マッドガード本体11にベース部材61を容易に位置決めして固定することができる。
さらに、マッドガード本体11又はベース部材61に対するキャップ部材80の位置決め固定部83としての貫通孔85、87、89を、ベース部材61の複数の突出部65、67、69の弾性クリップ65a、67a、69aに嵌込むことで、マッドガード本体11にキャップ部材80を容易に位置決めして固定することができる。
【0056】
また、ベース部材61及びキャップ部材80は、マッドガード本体11を形成する材料の線膨張係数と同じか又は近い線膨張係数の材料によって形成されることで、塗装加熱炉内で加熱された場合のベース部材61及びキャップ部材80と、マッドガード本体11との膨張量や、収縮量が近くなり、マッドガード本体11に対するベース部材61及びキャップ部材80の取付状態がばらつきにくい。
また、ベース部材61及びキャップ部材80は、塗装加熱炉内で加熱されるマッドガード本体11の加熱温度に耐え得る耐熱性材料(例えば、PP、ABS、ポリアセタール、ナイロン等の樹脂材料や熱可塑性エラストマー材料等の耐熱性を有する材料)によってそれぞれ形成されることで、ベース部材61及びキャップ部材80が熱変形して使用不能となることを抑制することができ、ベース部材61及びキャップ部材80を繰り返し使用することができる。
【0057】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の形態で実施することができる。
例えば、前記実施例1においては、マッドガード本体11の基部12の外周縁と突条部40の内周側根元部との間に凹溝45が形成される場合を例示したが、
図11に示すようにマッドガード本体11の基部12の外周縁と突条部40の内周側根元部との間に凹溝45がない構造としてもこの発明を実施することができる。