(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
<(A)成分>
(A)成分の熱可塑性樹脂は、ベース成分となるものであり、用途に応じて選択できるものである。
(A)成分としては、ポリプロピレン、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートから選ばれるものが好ましく、ポリプロピレン、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミドがより好ましい。
【0010】
脂肪族ポリアミドは、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・9、ナイロン6・10、ナイロン6・12、ナイロン4・6、ナイロン11、ナイロン12等を挙げることができる。
芳香族ポリアミドは、ポリ(ヘキサメチレンテレフタラミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタラミド)、ポリ(m−キシリレンアジパミド)等を挙げることができる。
【0011】
<(B)成分>
(B)成分の炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維の組み合わせからなるものである。
ピッチ系炭素繊維は熱伝導性の付与効果が大きいが、PAN系炭素繊維と比べると折れやすいという性質を有しており、熱可塑性樹脂に添加したとき溶融混練する過程において折れて短くなってしまうため、添加量に応じた熱伝導性等の向上効果を得ることができなかった。
一方、PAN系炭素繊維は折れにくいという性質を有しているものの、熱伝導性等の向上効果は十分ではなかった。
本願発明は、(B)成分としてピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維を組み合わせることによって、ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維のそれぞれの性質を発現させることで課題を解決することができたものである。
【0012】
(B)成分の炭素繊維において、ピッチ系炭素繊維の長さとPAN系炭素繊維の長さ(混練する前の原料としての長さ)は、
ピッチ系炭素繊維の長さは3〜30mm、好ましくは5〜20mm、より好ましくは6〜15mmであり、
PAN系炭素繊維の長さは3〜30mm、好ましくは5〜20mm、より好ましくは6〜15mmである。
ピッチ系炭素繊維の長さとPAN系炭素繊維の長さは同じ長さであってもよく、また異なっていても良い。
【0013】
(B)成分の炭素繊維は、上記課題を解決するためには、ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維が(A)成分の熱可塑性樹脂で一体化された樹脂複合繊維束であることが好ましい。
樹脂複合繊維束は、炭素繊維束の表面又はその近傍が(A)成分の熱可塑性樹脂で覆われることで一体化されたものである。
ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維が(A)成分の熱可塑性樹脂で一体化された複合繊維束の長さは、好ましくは3〜30mm、より好ましくは5〜20mm、さらに好ましくは6〜15mmである。
樹脂複合繊維束を構成するピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維の合計本数は500〜25,000本が好ましく、2,000〜15,000本がより好ましい。樹脂複合繊維束の直径は特に制限されるものではないが、0.5mm〜5mmの範囲にすることができる。
【0014】
さらに(B)成分の炭素繊維は、上記課題を解決するためには、ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維が長さ方向に揃えた状態で束ねられ、前記繊維束に(A)成分の熱可塑性樹脂が含浸されて一体化されたものが切断された樹脂含浸繊維束であることがより好ましい。
樹脂含浸繊維束は、炭素繊維束の表面から中心付近まで樹脂が含浸されることで一体化されたものである。
樹脂含浸繊維束の長さは、好ましくは3〜30mm、より好ましくは5〜20mm、さらに好ましくは6〜15mmである。
樹脂含浸繊維束を構成するピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維の合計本数は500〜25,000本が好ましく、2,000〜15,000本がより好ましい。樹脂含浸繊維束の直径は特に制限されるものではないが、0.5mm〜5mmの範囲にすることができる。
【0015】
上記の樹脂複合繊維束及び樹脂含浸繊維束は、ダイスを用いた周知の製造方法により製造することができ、例えば、特開平6−313050号公報の段落番号7、特開2007−176227号公報の段落番号23のほか、特公平6−2344号公報(樹脂被覆長繊維束の製造方法並びに成形方法)、特開平6−114832号公報(繊維強化熱可塑性樹脂構造体およびその製造法)、特開平6−293023号公報(長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法)、特開平7−205317号公報(繊維束の取り出し方法および長繊維強化樹脂構造物の製造方法)、特開平7−216104号公報(長繊維強化樹脂構造物の製造方法)、特開平7−251437号公報(長繊維強化熱可塑性複合材料の製造方法および製造装置)、特開平8−118490号公報(クロスヘッドダイおよび長繊維強化樹脂構造物の製造方法)等に記載の製造方法を適用することができる。
【0016】
(B)成分の炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維の合計量中、
ピッチ系炭素繊維は30〜80質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましく、50〜75質量%がさらに好ましく、
PAN系炭素繊維は70〜20質量%が好ましく、60〜20質量%がより好ましく、50〜25質量%がさらに好ましい。
【0017】
組成物中の(B)成分の炭素繊維の含有割合は、15〜60質量%が好ましく、15〜50質量%がより好ましく、20〜45質量%がさらに好ましく、組成物中の(A)成分の含有量は、合計で100質量%となる残部割合である。
なお、(B)成分として樹脂複合繊維束及び樹脂含浸炭素繊維束を使用したときには、それらに使用した(A)成分の熱可塑性樹脂も(A)成分の含有量に含まれる。
【0018】
本発明の組成物は、上記した樹脂複合繊維束及び樹脂含浸炭素繊維束を使用するときは、それ自体が(A)成分と(B)成分を含むものであるため、別途(A)成分を配合する必要はないが、(A)成分と(B)成分の含有割合を調整するためにさらに別途(A)成分を配合することもできる。
【0019】
本発明の組成物は、本発明の効果が得られる範囲内にて、用途に応じた各種の熱可塑性樹脂用の添加剤を含有することができる。
このような添加剤としては、酸化防止剤、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、核剤、滑剤、離型剤、着色剤、可塑剤等の公知の各種樹脂添加剤を挙げることができる。
【0020】
<成形体>
本発明の成形体は、上記した本発明の組成物を用いて射出成形等の公知の樹脂成形法により成形されるものである。
本発明の成形体は、成形体中に残存する(B)成分の炭素繊維の平均長さ(実施例で測定する重量平均繊維長)は0.4mm以上であり、好ましくは0.5mm以上である。
本発明の組成物の(B)成分として樹脂複合繊維束又は樹脂含浸繊維束を使用すると、上記した成形体中の残存繊維長をより長くすることができ、熱伝導性や電磁波シールド性が高められるので好ましい。
【0021】
本発明の成形体は、MD方向(組成物の流れ方向)の熱伝導率が4W/mK以上で、好ましくは5W/mK以上である。
本発明の成形体は、MD方向の熱伝導率(Y値)と厚み方向の熱伝導率(Z値)の比(Y/Z)が15以下であり、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。
本発明の成形体は、表面固有抵抗が1×10
2(Ω/□)以下であり、好ましくは5×10
1(Ω/□)以下である。
【0022】
本発明の組成物及びそれから得られる成形体は、各種機器の放熱部材用の材料(成形体)として使用することができる。具体的には、LEDを使用した照明器具や表示装置のハウジング用(外装材料用)、ヒートシンク用、電気・電子機器のハウジング(筐体)用として好適である。
【実施例】
【0023】
(1)炭素繊維の残留繊維長(重量平均繊維長)
成形体から約3gの試料を切出し、硫酸により樹脂を溶解除去して炭素繊維を取り出した。取り出した繊維の一部(500本)から重量平均繊維長を求めた。計算式は、特開2006−274061号公報の〔0044〕、〔0045〕を使用した。
【0024】
(2)引張強さ(MPa)
JIS K7113に準じて引張り弾性率を測定した。
(3)曲げ弾性率(MPa)
1mm厚みの平板状成形体を用いて、ISO178に準拠して曲げ試験を行い、曲げ強さ及び曲げ弾性率(FM)を測定した。
(4)シャルピー衝撃強さ(kJ/m
2)
ISO179に従い、衝撃強度を測定した。
【0025】
(5)熱伝導率(W/mK)
レーザーフラッシュ法により、
図1に示す試験片(ダンベル片)(a=20mm,b=120mm,c=10mm,厚み4mm)のY方向とZ方向の熱拡散率を測定した。
Y方向はダンベル片の長さ方向であり、Z方向は厚さ方向(長さ方向に直交する方向)である。
(6)電磁波シールド性(KEC法/電界波、磁界波)
ANRITSU製のMA8602B測定器を用いて、KEC法により近傍界の電界/磁界シールド特性を周波数0.1MHz〜1000MHzの範囲で測定した。
(7)表面固有抵抗(Ω/□)
表面抵抗計[三菱化学(株)製、ロレスターGP(MCP−T600)]を用いて、JIS K7194に準じて表面抵抗値を測定した。
なお、例えば表1中、実施例1の「6E+00」との表記は「6×10
0」を示す。
【0026】
<(A)成分>
PP:ポリプロピレン(サンアロマー(株)製、PMB60A)
<(B)成分>
ピッチ系炭素繊維(ヤーン):日本グラファイトファイバー製XN−60−A2S,繊度 445g/1000m、フィラメント数 12,000、繊維密度2.12g/cm
3、繊維方向の熱伝導率140W/mK,平均繊維径10μm,引張強度3.4GPa。
PAN系炭素繊維(ヤーン):東レ製トレカT700SC,繊度 1650g/1000m、フィラメント数 24,000、繊維密度1.80g/cm
3、繊維方向の熱伝導率10W/mK,平均繊維径7μm,引張強度4.9GPa。
【0027】
比較例1
(B)成分のピッチ系炭素繊維ヤーンからなる繊維束(約12000本の繊維の束)を、予備加熱装置による150℃の加熱を経て、クロスヘッドダイに通した。
そのとき、クロスヘッドダイには、2軸押出機(池貝製作所製PCM30、シリンダー温度280℃)から溶融状態の(A)成分:ポリプロピレン(サンアロマー(株)製のPMB60A)を供給し、繊維束にポリプロピレンを含浸させた。
その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより所定長さに切断し、長さ11mmの樹脂含浸繊維束(円柱状、PP60質量%、ピッチ系炭素繊維40質量%)を得た。射出成形前の炭素繊維長さは前記ペレット長さと同一となる。このようにして得たペレット中では、ピッチ系炭素繊維が長さ方向にほぼ並行になっていた。
【0028】
比較例2
比較例1で、PP80質量%、ピッチ系炭素繊維20質量%とした以外は同様にして長さ11mmの樹脂含浸繊維束を得た。
【0029】
比較例3
比較例1で、(B)成分をPAN系炭素繊維とし、PP60質量%、PAN系炭素繊維40質量%とした以外は同様にして、長さ8mmの樹脂含浸繊維束を得た。
【0030】
比較例4
比較例1で、(B)成分をPAN系炭素繊維とし、PP80質量%、PAN系炭素繊維20質量%とした以外は同様にして、長さ8mmの樹脂含浸繊維束を得た。
【0031】
実施例1、2
比較例1で得られた樹脂含浸繊維束(円柱状、長さ11mm、PP60質量%、ピッチ系炭素繊維40質量%)と、比較例3で得られた樹脂含浸繊維束(円柱状、長さ8mm、PP60質量%、PAN系炭素繊維40質量%)を表1に示す割合で混合して、(A)成分と(B)成分からなる熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0032】
実施例3
表1に示すピッチ系炭素繊維ヤーンからなる繊維束(約12000本の繊維の束)とPAN系炭素繊維ヤーンからなる繊維束(約24000本の繊維束)を一緒に予備加熱装置に通して150℃に加熱した後、クロスヘッドダイに通した。
そのとき、クロスヘッドダイには、2軸押出機(池貝製作所製PCM30、シリンダー温度280℃)から溶融状態の(A)成分:ポリプロピレン(サンアロマー(株)製のPMB60A)を供給し、繊維束にポリプロピレンを含浸させた。
その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより所定長さに切断し、長さ11mmのペレット(円柱状、ピッチ系炭素繊維=PAN系炭素繊維=11mm、PP60質量%、炭素繊維40質量%)を得た。
射出成形前の炭素繊維長さは前記ペレット長さと同一となる。このようにして得たペレット中では、ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維が長さ方向にほぼ並行になっていた。
【0033】
得られたペレットを用いて、下記の条件で射出成形して、
図1で示す熱伝導性射出成形体を得た。
射出成形機:日本製鋼所製J150E−II(比較例1〜4及び実施例3の
図1成形体)、住友重機工業社製SH100−NIV。
成形条件:シリンダー温度230℃、金型温度60℃。
【0034】
【表1】