特許第5972842号(P5972842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972842
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】磁気共鳴撮像装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20160804BHJP
   G01R 33/36 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
   A61B5/05 351
   A61B5/05 311
   G01N24/04 530Y
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-167597(P2013-167597)
(22)【出願日】2013年8月12日
(62)【分割の表示】特願2008-117722(P2008-117722)の分割
【原出願日】2008年4月28日
(65)【公開番号】特開2013-240711(P2013-240711A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2013年8月12日
【審判番号】不服2015-17063(P2015-17063/J1)
【審判請求日】2015年9月16日
(31)【優先権主張番号】特願2007-121061(P2007-121061)
(32)【優先日】2007年5月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】東芝メディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】岡本 和也
【合議体】
【審判長】 郡山 順
【審判官】 泉 卓也
【審判官】 渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特公平5−65179(JP,B2)
【文献】 特開2003−334177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場中の被検体に対し傾斜磁場および高周波磁場を印加することにより前記被検体から放射される磁気共鳴信号に基づいて前記被検体を撮像する磁気共鳴撮像装置において、
前記高周波磁場を発生させるための送信高周波パルス信号を発生する発生手段と、
FOV(field of view)に応じて、複数の高周波コイルのうちの1つまたは複数を送信用として決定する送信用コイル決定手段と、
送信用として決定された1つまたは複数の前記高周波コイルへと前記送信高周波パルス信号が供給されるように制御する制御手段とを具備し、
前記発生手段は、複数の前記送信高周波パルス信号を発生するものであり、前記FOVに応じて、前記送信高周波パルス信号を前記高周波コイルに設定し、
前記制御手段は、前記設定に応じて前記信高周波パルス信号が供給されるように、1チャネル分の送信高周波パルス信号を1つの前記高周波コイルへ与える場合と、1チャネル分の送信高周波パルス信号を複数の前記高周波コイルへ分配する場合とを制御することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項2】
前記高周波コイルのうちの複数を受信用として決定する受信用コイル決定手段と、
前記受信用として決定された複数の前記高周波コイルで受信された前記磁気共鳴信号に基づいて、前記受信用として決定された複数の前記高周波コイルの感度分布を求める算出手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置。
【請求項3】
前記受信用コイル決定手段は、前記送信用として決定された複数の前記高周波コイルを受信用として決定し、
前記算出手段は、受信用として決定された複数の前記高周波コイルで受信された前記磁気共鳴信号に基づいて、前記受信用として決定された複数の前記高周波コイルの感度分布を求めることを特徴とする請求項2に記載の磁気共鳴撮像装置。
【請求項4】
前記受信用として決定された複数の高周波コイルのそれぞれで、前記感度分布を求めた後に受信された前記磁気共鳴信号に対し、前記感度分布を用いた行列演算を行うパラレルイメージング法により画像を得る手段をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の磁気共鳴撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静磁場中の被検体に対し傾斜磁場と高周波パルスとを印加することにより上記の被検体にて発生する磁気共鳴信号に基づいて上記の被検体の撮像を行うもので、高周波パルスの送信および磁気共鳴信号の受信に複数の送受信兼用高周波コイルを使用する磁気共鳴撮像装置(以下、MRI装置と称する)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年はパラレルイメージングの発展により、MRI装置による高速かつ歪の少ない撮像が可能になってきた。そして、MRI装置にて使用可能なコイルの数やMRI装置が備える受信チャネルの数はますます増加する傾向にある。
【0003】
一方、近年の別の傾向として、静磁場強度が増大している。静磁場強度が高くなるほど、磁気共鳴周波数が大きくなる。例えば静磁場強度が3Tである場合、磁気共鳴周波数は128MHzに及ぶ。このような磁気共鳴周波数の上昇のために高周波パルスの波長が短くなり、これが生体内の高周波磁場分布の不均一化、ひいては画像の感度ムラを生じさせる原因となる。例えば、従来、送信用高周波コイルとしては均一な高周波磁場分布を持つバードケージ型コイルが用いられてきた。このバードケージ型コイルでは、周波数が上がることで送信高周波磁場が不均一となり、画像コントラストや均一性が不十分となる不具合があった。
【0004】
これを克服するために、送信コイルとしてアレイコイルを用いる方法が注目されている(非特許文献1を参照)。これは、被検体を取り囲むように配置したアレイコイルのそれぞれから、振幅や位相の異なった高周波磁場を印加し、被検体への均一な励起を実現するものである。
【0005】
一方、受信コイルとしては、既にアレイコイルが使用されている。このような受信用アレイコイルとは別に送信用アレイコイルを使用するならば、これら送信用アレイコイルおよび受信用アレイコイルの双方をガントリ内や被検体周りや寝台に装着しなければならない。
【0006】
さらに送信用および受信用としてそれぞれ別々のアレイコイルを使用する場合には、被検体および受信用アレイコイルをカバーする程度に大きい送信用アレイコイルを準備することになる。そしてこの場合には、送信電力が多くかかって不経済であるとともに、被検体の広い領域に高周波を印加することにより被検体の高周波吸収(SAR:specific absorption rate)が増大する恐れがあった。すなわち、高周波磁場の印加は撮影したい領域にのみに印加することが望ましいのであるが、上記の構成ではそれを実現することが困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Katscher U et al: Transmit SENSE. Magn Reson Med 49: 144-150 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように送信用アレイコイルと受信用アレイコイルとをそれぞれ使用することは、種々の不具合を生じさせる。
【0009】
また、広い領域内の様々な箇所での撮像を可能とするために上記の大きな領域をカバーするような大きな送信用コイルを使用することは、種々の不具合を生じさせる。
【0010】
そこで、1つのアレイコイルを送信用および受信用に共用できることが望まれることが必然であるが、それを実現するための磁気共鳴撮像装置は知られていない。
【0011】
また、送信用コイルによる高周波磁場の印加領域を変化させられることが望まれるが、それを実現するための磁気共鳴撮像装置は知られていない。
【0012】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、1つのアレイコイルに含まれる複数の要素コイルのような複数の高周波コイルを送信用および受信用に共用することができる磁気共鳴撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、静磁場中の被検体に対し傾斜磁場および高周波磁場を印加することにより前記被検体から放射される磁気共鳴信号に基づいて前記被検体を撮像する磁気共鳴撮像装置において、前記高周波磁場を発生させるための送信高周波パルス信号を発生する発生手段と、FOV(field of view)に応じて、複数の高周波コイルのうちの1つまたは複数を送信用として決定する送信用コイル決定手段と、送信用として決定された1つまたは複数の前記高周波コイルへと前記送信高周波パルス信号が供給されるように制御する制御手段とを備え、前記発生手段は、複数の前記送信高周波パルス信号を発生するものであり、前記FOVに応じて、前記送信高周波パルス信号を前記高周波コイルに設定し、前記制御手段は、前記設定に応じて前記信高周波パルス信号が供給されるように、1チャネル分の送信高周波パルス信号を1つの前記高周波コイルへ与える場合と、1チャネル分の送信高周波パルス信号を複数の前記高周波コイルへ分配する場合とを制御することとした。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るMRI装置の要部の構成を示すブロック図。
図2図1中のアレイコイルの使用状況の一例を示す斜視図。
図3図1中のアレイコイルの使用状況の一例を示す斜視図。
図4図1中のアレイコイルの構造を示す図。
図5図1に示したMRI装置における送信系の詳細な構成を示す図。
図6図1中の送受信切り替えユニットの詳細な構成を示す図。
図7図1に示したMRI装置における受信系の詳細な構成を示す図。
図8図6中の送受信切り替え器の回路図。
図9図6中の送受信切り替え器の回路図。
図10】FOVの設定状況の一例を示す図。
図11】FOVの設定状況の一例を示す図。
図12】FOVの設定状況の一例を示す図。
図13】FOVとRFコイルとの位置関係の一例を示す図。
図14】3次元のFOVを得るための基本的なパルスシーケンスの一例を示す図。
図15】3次元のFOVを得るための複数のRFコイルを使用する場合のパルスシーケンスの一例を示す図。
図16】本発明の一実施形態に係るMRI装置の要部の変形構成例を示すブロック図。
図17】本発明の一実施形態に係るMRI装置の要部の変形構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0016】
ここで実施形態の具体的な説明に入る前に、本実施形態で考慮すべき技術的背景について説明する。
【0017】
受信に関しては、期待されるSNR(signal-to-noise ratio)やパラレルイメージングによる高速化率への要求から8個から32個あるいはそれ以上のチャネル数が必要とされる。一方、送信に関しては、被検体への均一な励起を実現するためには受信で必要とされる程のチャネル数は必要無いことと、送信RFアンプが高価であることなどから、受信チャネルよりも少ないチャネル数とされる。つまり、送信チャネル数をK、装着される高周波コイルの数をM、受信チャネル数をNとすると、N≦M、M≧K、K<Nという関係にある。
【0018】
図1は本実施形態に係るMRI装置の要部の構成を示すブロック図である。
【0019】
図1に示すMRI装置は、メインコンピュータ1、シーケンスコントロールユニット2、送信ユニット3、分配ユニット4、送信用割り当てユニット5、送受信切り替えユニット6、アレイコイル7、合成ユニット8、受信用割り当てユニット9、受信ユニット10およびデータ収集・処理ユニット11を含む。このMRI装置は他に、静磁場磁石や傾斜磁場コイルなどを周知のように備えたガントリや、被検体を載置するための寝台などを備えているが、これらの構成は周知であるためにここでは図示を省略している。
【0020】
メインコンピュータ1は、既存のMRI装置が備えている各種の周知の機能を実現するようにMRI装置の各部を総括制御する。
【0021】
シーケンスコントロールユニット2は、予め定められたシーケンスで撮像のための動作を行うようにMRI装置の各部を制御する。シーケンスコントロールユニット2は、Kチャネルの送信高周波パルス信号(以下、送信パルス信号と称する)の波形や周波数を表したパルス情報を送信ユニット3へ与える。このパルス情報は、アナログ信号およびデジタルデータのいずれとして送信ユニット3へ与えられても良い。
【0022】
送信ユニット3は、パルス情報に基づいてKチャネルの送信パルス信号を発生し、これをパラレルに分配ユニット4へ与える。
【0023】
分配ユニット4は、Kチャネルの送信パルス信号をそれぞれL本に分配し、K×L本の送信パルス信号を得る。分配ユニット4は、K×L本の送信パルス信号を、パラレルに送信用割り当てユニット5へ与える。
【0024】
送信用割り当てユニット5は、M本の信号線を介して送受信切り替えユニット6に接続されている。送信用割り当てユニット5は、K×L本の送信パルス信号のうちの一部を、M本の信号線のいずれかにそれぞれ割り当ててその信号線へ出力する。
【0025】
送受信切り替えユニット6は、アレイコイル7を用いて送信を行う状態と、アレイコイル7を用いて受信を行う状態とを切り替える。
【0026】
アレイコイル7は、1つまたは複数が被検体または寝台に装着される。1つまたは複数のアレイコイル7は、それぞれ複数の高周波コイル(RFコイル)を内蔵している。そしてアレイコイル7に備えられたRFコイルのうちの最大M個を送受信切り替えユニット6に接続することができる。アレイコイル7のRFコイルは、送受信切り替えユニット6から与えられたM本の送信パルス信号が供給されると、高周波パルスを放射する。またアレイコイル7は、被検体から放射された電磁波状態の磁気共鳴信号を電気信号状態の磁気共鳴信号に変換する。アレイコイル7は、送受信切り替えユニット6に接続されているRFコイルで得られた磁気共鳴信号をパラレルに送受信切り替えユニット6へ与える。
【0027】
合成ユニット8は、Q本ずつの磁気共鳴信号を合成して得られるP本の合成信号を受信用割り当てユニット9へと与える。なお、P≧Nである。なお、合成するQ本の磁気共鳴信号は、同一のRFコイル群71に含まれるQ個のRFコイル71aにより受信されたものとしても良いし、体軸方向に交差する方向に並んだQ個のRFコイル71aにより受信されたものとしても良い。
【0028】
受信用割り当てユニット9は、N本の信号線を介して受信ユニット10に接続されている。受信用割り当てユニット9は、P本の合成信号のうちのN本を選択する。受信用割り当てユニット9は、N本の合成信号をN本の信号線にそれぞれ割り当て、その信号線へ出力する。なお、通常は送信パルス信号の照射範囲と撮像範囲とを同じにする場合が多く、その場合にはN=K×Lとなる。
【0029】
受信ユニット10は、N本の合成信号のそれぞれについての受信処理を並列的に行い、処理後のN本の合成信号をパラレルにデータ収集・処理ユニット11へ与える。
【0030】
データ収集・処理ユニット11は、N本の合成信号を収集し、これらに基づいて画像を再構成する。
【0031】
なお、上記の変数K、L、M、N、P、Qはいずれも最大数を表し、各ユニットはそれらの数よりも少ない信号を有効とする動作状態をとることも可能である。
【0032】
図2および図3はアレイコイル7の使用状況の一例を示す斜視図である。
【0033】
図2および図3に示す例では、2つのアレイコイル7を被検体100の腹側と背側とにそれぞれ配置している。アレイコイル7は、図3に示すように曲げることが可能となっており、被検体100の体表面に沿うように配置される。
【0034】
図4はアレイコイル7の構造を示す図である。
【0035】
図4に示すように、アレイコイル7は、それぞれ16個ずつのRFコイル71aを、4×4のマトリクス状に配列して構成されている。アレイコイル7は、図4中の矢印200の方向を被検体の体軸方向に合わせて使用される。通常、被検体の体軸方向は静磁場方向(Z軸方向)に一致する。すなわち通常は、矢印200の方向はZ軸方向に一致する。以下においては、矢印200の方向に並んでいる複数のRFコイル71aのまとまりをRFコイル群71と称する。なお、複数のアレイコイル7が矢印200の方向に並べて配置される場合もあり、この場合にはいずれのアレイコイル7に属するかに拘わらずに、矢印200の方向に並んでいる全てのRFコイル71aが同一のRFコイル群71に属することとする。
【0036】
図5図1に示したMRI装置における送信系の詳細な構成を示す図である。図6は送受信切り替えユニット6の詳細な構成を示す図である。
【0037】
送信ユニット3は、K個の振幅/位相制御ユニット31およびK個の送信アンプ32を含む。分配ユニット4は、K個のパワー分配器41を含む。送信用割り当てユニット5は、K個の割り当て器51を含む。
【0038】
振幅/位相制御ユニット31、送信アンプ32、パワー分配器41および割り当て器51は、それぞれ1つずつが図5に示すように直列に接続されていて、Kチャネル分の送信処理系が構成されている。
【0039】
K個の振幅/位相制御ユニット31には、シーケンスコントロールユニット2から与えられたKチャネル分のパルス情報がそれぞれ入力される。振幅/位相制御ユニット31は、入力されたパルス情報に示された波形や周波数を持つように振幅および位相を制御した高周波パルスを発生する。
【0040】
送信アンプ32は、振幅/位相制御ユニット31で発生された高周波パルスのそれぞれを、被検体内のスピンを励起するために適切なレベルまで増幅することによって送信パルス信号を得る。
【0041】
パワー分配器41は、送信アンプ32で増幅された送信パルス信号を複数本に分配する。なお、ここでは、パワー分配器41での分配数を4本とする。パワー分配器41は、送信パルス信号を分配せずに、4本の出力のうちの1本としてそのまま出力することもできる。この2つの状態のいずれで動作するかは、メインコンピュータ1により指示される。
【0042】
割り当て器51は、パワー分配器41により分配された4本の送信パルス信号を、図6に示すように送受信切り替えユニット6に含まれた多数の送受信切り替え器61のうちの最大4つへ出力する。割り当て器51としては、例えばマトリクススイッチを使用できる。1つの割り当て器51に接続される送受信切り替え器61の数は、1つのRFコイル群71に含めることを許容するRFコイル71aの数Rと同数とする。図6では、アレイコイル7を体軸方向に3つまで並べて使用することを許容することとし、R=12である場合の構成を示している。従って図6では、12個の送受信切り替え器61が1つの割り当て器51に接続されている。
【0043】
なお、図6は1系統の送信系に関してのみ図示しており、他の送信系についても同様に構成されているがその図示は省略している。従って、送受信切り替えユニット6は、総計でR×K個の送受信切り替え器61を含んでいる。なお、R×K=Mである。
【0044】
同一の割り当て器51に接続されたR個の送受信切り替え器61は、同一のRFコイル群71に属する最大R個のRFコイル71aにそれぞれ接続される。また全ての送受信切り替え器61は、合成ユニット8に接続される。かくして送受信切り替え器61は、割り当て器51、合成ユニット8およびRFコイル71aのそれぞれに接続された3本の信号線が接続されている。そして送受信切り替え器61は、送信期間には割り当て器51に接続された信号線とRFコイル71aに接続された信号線とを電気的に導通させ、また受信期間には合成ユニット8に接続された信号線とRFコイル71aに接続された信号線とを電気的に導通させる。
【0045】
図7図1に示したMRI装置における受信系の詳細な構成を示す図である。
【0046】
最大K群のRFコイル群71に含まれた全てのRFコイル71aは、図6に示されたように送受信切り替え器61を介して合成ユニット8に接続が可能である。すなわち合成ユニット8には、M本の信号線が接続されている。M本の信号線を介してそれぞれ伝送された磁気共鳴信号の一部をQ本ずつ合成し、P本の合成信号として受信用割り当てユニット9に送る。なお合成ユニット8は、Q本の磁気共鳴信号のうちの一部(1本だけの場合も含む)として実際の磁気共鳴信号を入力し、その他を無信号として合成処理を行うことによって、Q本よりも少ない磁気共鳴信号を合成して得た合成信号を出力したり、1本の磁気共鳴信号をそのまま合成信号として出力することができる。
【0047】
受信用割り当てユニット9は、P本の合成信号のうちのN本をパラレルに受信ユニット10へと与える。受信用割り当てユニット9としては、例えばマトリクススイッチを使用できる。
【0048】
受信ユニット10は、N個の受信処理部101を含む。受信用割り当てユニット9から与えられるN本の合成信号は、N個の受信処理部101にそれぞれ入力される。受信処理部101は、入力される合成信号についての受信処理を行い、処理後のN本の合成信号をパラレルにデータ収集・処理ユニット11へ与える。
【0049】
図8は送受信切り替え器61の回路図である。
【0050】
図8に示す送受信切り替え器61は、ピンダイオード61a、コンデンサ61b、コイル61c,61d、ピンダイオード61e、コンデンサ61f、コイル61g,61hおよびプリアンプ61iを含む。
【0051】
図8に示す構成の送受信切り替え器61は、RFコイル71aのインピーダンスが同調用コンデンサC1と整合用コンデンサC2とによって調整されている場合に適応する。なお、RFコイル71aのインピーダンスは、例えば50Ωに調整される。そして整合用コンデンサC2とプリアンプ61iとは、ケーブル61jによって接続されている。ケーブルとしては、例えば50Ωの同軸線が使用される。
【0052】
ピンダイオード61aは、アノードが割り当て器51に接続され、カソードがコンデンサ61bの一端に接続されている。コンデンサ61bの他端は、P点にてケーブル61jに接続されている。コイル61cは、一端がピンダイオード61aのアノードに接続されている。コイル61dは、一端がピンダイオード61aのカソードに接続されている。
【0053】
ピンダイオード61eは、アノードが接地され、カソードがコンデンサ61fの一端に接続されている。コンデンサ61fの他端は、ケーブル61jにO点にて接続されている。コイル61gは、一端がピンダイオード61eのアノードに接続されている。コイル61hは、一端がピンダイオード61eのカソードに接続されている。
【0054】
プリアンプ61iは、入力端にケーブル61jが接続されるとともに、出力端に合成ユニット8が接続されている。プリアンプ61iは、RFコイル71aで受信されてケーブル61jを介して入力される磁気共鳴信号を増幅した上で合成ユニット8へ与える。プリアンプ61iは、入力インピーダンスがほとんど0か、せいぜい数Ωとなっている。
【0055】
ケーブル61jにおけるP点とO点との間の長さは、[λ/4+(λ/2)×(n−1)]である。ただしλは、磁気共鳴周波数における波長であり、nは整数である。
【0056】
なお、ケーブル長[l+m+λ/4+(λ/2)×(n−1)]とコンデンサC1,C2とが所望の周波数において共振するように、lおよびmを調整する。
【0057】
RFコイル71aのインピーダンスが、図9に示すようにコンデンサCとインダクタLとによって調整される場合もあるが、この場合にも送受信切り替え器61は図9に示すように図8と同一の回路により実現できる。図8と同様にケーブル長とコンデンサCとインダクタLとが所望の周波数において共振するように、lおよびmを調整する。
【0058】
次に以上のように構成されたMRI装置の動作について説明する。
【0059】
(1) 送信および受信の切り替え。
【0060】
まず、送信期間には、コイル61c,61dを介してピンダイオード61aに電流を流すと同時に、コイル61g,61hを介してピンダイオード61eに電流を流す。そうすると、ピンダイオード61aがONとなることにより、割り当て器51がケーブル61jに電気的に接続される。一方、ピンダイオード61eがONとなることにより、O点がショートされる。このため、O点からλ/4離れたP点から見たプリアンプ側のインピーダンスが高くなる。この結果、割り当て器51から与えられる送信パルス信号は、そのパワーがほとんどRFコイル71a側に送られる。
【0061】
受信期間には、コイル61c,61dおよびコイル61g,61hを介してピンダイオード61a,61eにそれぞれ逆電圧をかける。そうすると、ピンダイオード61a,61eがOFFとなることにより、割り当て器51がケーブル61jから電気的に切り離される。この結果、RFコイル71aで受信された磁気共鳴信号は、そのパワーがほとんどプリアンプ61iに入力される。
【0062】
(2) 送信動作
一般的には、FOV(field of view)が、アレイコイル7の感度領域内の限定された領域である場合には、FOVの内部および周辺を感度領域とするRFコイル71aのみを使用することが、SAR(specific absorption rate)を低減するためには望ましい。
【0063】
そこでメインコンピュータ1は、FOVとRFコイル71aとの位置関係を考慮して、送信高周波パルス信号の送信に使用するべきRFコイル71aを自動的に決定する。あるいはメインコンピュータ1は、送信高周波パルス信号の送信に使用するべきRFコイル71aを、ユーザによる指定に応じて決定する。
【0064】
例えば、サジタル面、アキシャル面およびコロナル面のそれぞれにおいて図10図11および図12に破線で示すように表されるような3次元のFOVが設定されているとする。そして、FOVとRFコイル71aとが図13に示す位置関係にあるとするならば、図13中の中央の4つのRFコイル71aが送信高周波パルス信号の送信に使用するべきものとして決定される。
【0065】
そしてメインコンピュータ1は、このように選択したRFコイル71aへと送信パルス信号が供給されるように、送信ユニット3、分配ユニット4および送信用割り当てユニット5を制御する。
【0066】
本実施形態のように送信用に複数のRFコイル71aを用いる場合には、例えば非特許文献1に示されるような2次元励起の手法を使う。例えば、スピンエコー法を使う場合の2次元励起シーケンスとは、図14に示すように、2次元領域を励起する90度パルスと、残りの1次元を励起する180度パルスとを使用する。本実施形態では、励起領域に応じて各RFコイル71a毎に設定された送信パルス信号を例えば図15に示すように各RFコイル71aに印加する。
【0067】
このとき、1チャネルの送信パルス信号を複数のRFコイル71aに供給する場合もあるし、複数のRFコイル71aのそれぞれに異なるチャネルの送信パルス信号を供給する場合もある。以下に、送信パルス信号の供給の具体例を2例記す。
【0068】
(2-1) 1チャネルの送信パルス信号を1つのRFコイル71aを用いて送信する場合。
【0069】
1チャネル分の送信パルス信号はパワー分配器41によって分配されずに、そのまま割り当て器51に与えられるこの1本の送信パルス信号が割り当て器51により選択されて、所要のRFコイル71aへと送受信切り替え器61を介して与えられる。割り当て器51は、1つのRFコイル群71に含まれたRFコイル71aのいずれに対しても送信パルス信号を与えることができる。
【0070】
(2-2) 1チャネルの送信パルス信号を4つのRFコイル71aを用いて送信する場合。
【0071】
1つのパワー分配器41によって分配された4本の送信パルス信号が、例えば図6に破線で囲って示すような隣り合う4つのRFコイル71aへと送受信切り替え器61を介して与えられる。
【0072】
(3) 受信動作
合成ユニット8は、P組のそれぞれについて、各組に属するQ本の磁気共鳴信号を合成する。このとき、撮像領域をカバーするのに必要なRFコイル71aで受信された磁気共鳴信号のみ使用し、他のRFコイル71aに関する信号は合成処理に用いない。このとき、1つの組に属するQ本の磁気共鳴信号は、同一のRFコイル群71に属するRFコイル71aで得られたものである必要は無い。例えば、体軸方向に直交する方向に並んだ4つのRFコイル71aでそれぞれ得られた4本の磁気共鳴信号を合成しても良い。
【0073】
送受信用割り当てユニット9は、合成ユニット8から与えられるP本の磁気共鳴信号のうちで撮像領域をカバーするのに必要なRFコイル71aで受信された磁気共鳴信号が合成されているものをN本まで選択し、受信処理部101にそれぞれ与える。
【0074】
以上のように本実施形態によれば、RFコイル71aの数よりも少ない本数の送信パルス信号を与えるRFコイル71aを変更することができる。従って、少ないチャネルの送信パルス信号を用いて様々な撮像状態に対応することが可能である。
【0075】
また本実施形態によれば、1チャネルの送信パルス信号を送信するのに使用するRFコイル71aの位置および数を変化させることができる。すなわち、1チャネルの送信パルス信号の照射領域の位置および大きさを変化させることができる。
【0076】
なお、2本または3本の送信パルス信号を2個または3個のRFコイル71aに与えるようにしても良い。
【0077】
また、パワー分配器41の分配数を増加させれば、より広範囲への送信パルス信号の照射や、送信パルス信号の照射領域のより細かな制御を行えるようになる。
【0078】
ただし、上記の動作により照射領域が変更できるのは、体軸方向についての位置や大きさである。しかし、他のチャネルに関して他のRFコイル群71を用いてそれぞれ上記と同様な動作を行うことができ、かつ送信パルス信号の送信を行うか否かをチャネル毎に設定することができるから、体軸方向に交差する方向についても送信パルス信号の送信領域の位置および大きさを変更することができる。
【0079】
また本実施形態によれば、多数のRFコイル71aのうちで撮像領域をカバーするのに必要なRFコイル71aで受信された磁気共鳴信号を受信処理部101へと与えることができる。少ないチャネル数の受信系により様々な撮像状態に対応することができる。
【0080】
そして本実施形態によれば、送受信切り替えユニット6による送受信切り替えの前に送信パルス信号のRFコイル71aへの割り付けを行う。また送受信切り替えの後に磁気共鳴信号の受信処理部101への割り付けを行う。このため、送信系のチャネル数Kと受信系のチャネル数Nとが異なっているにも拘わらず、多数のRFコイル71aを送信用および受信用に適正に共用することができる。
【0081】
この実施形態は、次のような種々の変形実施が可能である。
【0082】
(1) 図16に示すように、分配ユニット4および合成ユニット8を省略しても良い。ただしこの場合には、送信用割り当てユニット5に代えて送信用割り当てユニット12を備えるとともに、受信用割り当てユニット9に代えて受信用割り当てユニット13を備える。送信用割り当てユニット12は、送信ユニット3で発生されたKチャネルの送信パルス信号をM本の信号線のうちの任意のK本へとそれぞれ出力する。受信用割り当てユニット9はP本の磁気共鳴信号のうちのN本を選択して出力するものであったのに対し、受信用割り当てユニット13はM本の磁気共鳴信号のうちのN本を選択して出力する。
【0083】
このようにすると、送信パルス信号の照射領域の大きさを変更することができなくなったり、画像の再構成に利用可能な磁気共鳴信号の数が減少してしまったりするが、簡易な構成により実現することが可能である。
【0084】
(2) 図17に示すように、合成ユニット8を省略するとともに、受信用割り当てユニット9に代えて受信用切り替えユニット13を備えるものの、分配ユニット4は備えるようにしても良い。すなわち、送信ユニット3のチャネル数を増加することは困難であるので、送信ユニット3のチャネル数の少なさは分配ユニット4による前述の効果により対応する。そして、受信ユニット10は送信ユニット3に比べてチャネル数を増加し易いので、チャネル数Nを増加することによって画像の再構成に利用可能な磁気共鳴信号の数の減少を抑える。
【0085】
(3) 分配ユニット4は、Kチャネルの送信パルス信号のうちの一部のみを分配しても良い。
【0086】
(4) 送信用割り当てユニット5は、1チャネルの送信パルス信号を複数のRFコイル群71に属するRFコイル71aに対して割り当て可能としても良い。
【0087】
(5) アレイコイル7に含まれたRFコイル71aとは異なるRFコイルが接続されても良い。
【0088】
(6) 合成ユニット8では、P/T組(Tは2以上の自然数)のそれぞれについて、各組に属するQ本の磁気共鳴信号を異なるT種類の方法でそれぞれ合成することによってP本の合成信号を得るようにしても良い。例えば、4本ずつの磁気共鳴信号に基づいて、同相合成、反相合成、QD(quadrature)合成、AntiQD合成のそれぞれにより4本ずつの合成信号を得るようにしても良い。この具体例ではQ=TであるためにP=Mとなるが、Q>TとすることによってP<Mとすることもできるし、Q<TとすることによってP>Mとすることもできる。このとき、1つの組に属するQ本の磁気共鳴信号は、同一のRFコイル群71に属するRFコイル71aで得られたものである必要は無い。例えば、体軸方向に直交する方向に並んだ4つのRFコイル71aでそれぞれ得られた4本の磁気共鳴信号に基づいて4本の合成信号を得ても良い。
【0089】
(7) 合成ユニット8は、入力されるM本の磁気共鳴信号の全てを合成に用いる必要は無く、一部の磁気共鳴信号はそのままで出力しても良い。また、合成に用いた磁気共鳴信号についても、そのままでも出力することとしても良い。
【0090】
(8) 前記のMRI装置では、パラレルイメージング法により撮像しても良い。
【0091】
パラレルイメージング法では、複数のRFコイル71aを用い、各RFコイル71aにて位相エンコードステップを間引いたシーケンスを実行する。そして例えば、各RFコイル71aで取得された磁気共鳴信号に対し、各RFコイル71aの感度分布を用いて折り返し画像を行列演算を行うことで展開する画像再構成を行う。通常、パラレルイメージング法では、各RFコイル71aの感度分布をプリスキャンにより取得する。しかしながら、各RFコイル71aの感度分布を直接算出する事は難しく、一般的には比較的感度分布の均一な全身用ボディコイル(ホールボディコイル)の感度画像を用いて、各RFコイル71aで取得した感度画像をそれぞれ除算し、近似的なコイルの感度分布を求めて行列演算を行う。
【0092】
前記実施形態のようにFOVに応じて送信に用いるRFコイル71aを選択する場合、全身用ボディコイルではなく、選択したRFコイル71aによりプリスキャンを行い感度画像を生成する。この除算対象の感度画像は、各RFコイル71aの感度画像を合成したものを用いるのが良い。そして合成画像から各RFコイル71aの感度画像を除算し、各RFコイル71aの感度分布を求める。図13の例では、FOVの大きさに応じて送信用および受信用に共通の4つのRFコイル71aが選択されるが、この場合にはパラレルイメージングに必要な基準となる感度画像は、選択された4つのRFコイル71aの合成感度画像を用いる。これにより、全てのRFコイル71aのそれぞれの感度画像を合成した画像に比べて、シェーディングの少ない感度画像を得ることができる。
【0093】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0094】
1…メインコンピュータ、2…シーケンスコントロールユニット、3…送信ユニット、4…分配ユニット、5,12…送信用割り当てユニット、6…送受信切り替えユニット、7…アレイコイル、8…合成ユニット、9,13…受信用割り当てユニット、10…受信ユニット、11…データ収集・処理ユニット、31…位相制御ユニット、32…送信アンプ、41…パワー分配器、51…割り当て器、61…送受信切り替え器、61a,61e…ピンダイオード、61b,61f…コンデンサ、61c,61d,61g,61h…コイル、61i…プリアンプ、61j…ケーブル、71…コイル群、71a…RFコイル、101…受信処理部。
図1
図2
図3
図4
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