(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972913
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】窒素酸化物の選択的触媒還元を行うための触媒活性材料および触媒コンバータ
(51)【国際特許分類】
B01J 29/76 20060101AFI20160804BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20160804BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20160804BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20160804BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20160804BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20160804BHJP
B01J 35/08 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
B01J29/76 AZAB
B01J37/02 101Z
B01J37/08
B01D53/94 222
F01N3/10 A
F01N3/08 B
B01J35/08 B
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-555869(P2013-555869)
(86)(22)【出願日】2012年3月1日
(65)【公表番号】特表2014-512940(P2014-512940A)
(43)【公表日】2014年5月29日
(86)【国際出願番号】EP2012053488
(87)【国際公開番号】WO2012117042
(87)【国際公開日】20120907
【審査請求日】2015年1月14日
(31)【優先権主張番号】11001790.2
(32)【優先日】2011年3月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ゼーガー, ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】アーデルマン, カチャ
(72)【発明者】
【氏名】ザイラー, ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ポーリー, トーマス アール.
(72)【発明者】
【氏名】イエスケ, ゲラルト
【審査官】
安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−137996(JP,A)
【文献】
特開平08−071428(JP,A)
【文献】
特開2000−024511(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/011575(WO,A1)
【文献】
特表2010−519020(JP,A)
【文献】
特表2007−501353(JP,A)
【文献】
特表2008−508090(JP,A)
【文献】
特開2002−001067(JP,A)
【文献】
特表2009−519824(JP,A)
【文献】
特表2004−513086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86−53/96
F01N 3/08−3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内核(1)およびこの核を取り囲む外殻(2)からなる選択的触媒還元(SCR)触媒のコーティングとしての使用のための触媒活性材料であって、前記核が、セリウム、マンガン、鉄、および/またはこれらの混合物からなる群から選択される1種または2種以上の遷移金属で交換されたゼオライトから形成されており、かつ前記外殻が、二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、二酸化ジルコニウムおよびこれらの混合酸化物からなる群から選択される1種または2種以上の酸化物から形成されており、前記触媒が、還元剤としてのアンモニアまたはアンモニアに分解可能な前駆体化合物とともに使用される、触媒活性材料。
【請求項2】
前記ゼオライトが、β−ゼオライト、ZSM−5、ZSM−20、USYおよびMORからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の触媒活性材料。
【請求項3】
前記外殻の前記酸化物の粒度分布のd50が100nm以下であり、前記酸化物の粒度分布のd50とは、前記酸化物全体の体積の50%が、d50と報告された値以下の直径を有する粒子のみを含むものと理解されることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一項に記載の触媒活性材料。
【請求項4】
前記核を形成する前記ゼオライトに、式(I):
(RO)n−mMeR’m (I)
(式中、
nは、3または4であり、かつm<nであり、
Meは、ケイ素、ゲルマニウム、アルミニウム、チタン、スズ、セリウムまたはジルコニウムであり、
Rは、(C1〜C4)アルキルまたはフェニルであり、
R’は、(C1〜C8)アルキル、アミノ−(C1〜C4)アルキル、アミノ基がアミノ−(C1〜C4)アルキルで置換されたアミノ−(C1〜C4)アルキルまたはメタクリロイルオキシ−(C1〜C4)アルキルである)の1種または2種以上のアルコキシドを含む溶液を含浸させる工程ステップと、
前記アルコキシドを加水分解および縮合させる工程ステップと、
対応する酸化物を形成させるために、前記工程ステップから得られた固体を乾燥およびか焼するステップと
を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の触媒活性材料を製造するための方法。
【請求項5】
Rが、メチル、エチル、イソプロピル、ブチルまたはフェニルであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
R’が、アミノ−(C1〜C4)アルキル、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル、イソプロピル、イソブチル、フェニル、オクチルまたはメタクリロイルオキシ−(C1〜C4)アルキルであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
触媒活性を有しない支持体およびそこに適用された少なくとも1種のコーティングからなる選択的触媒還元(SCR)触媒であって、前記コーティングが、請求項1〜3のいずれか一項に記載の触媒活性材料を含むことを特徴とし、前記触媒が、還元剤としてのアンモニアまたはアンモニアに分解可能な前駆体化合物とともに使用される、選択的触媒還元(SCR)触媒。
【請求項8】
炭化水素を含有するディーゼルエンジン排ガス中の一酸化窒素および二酸化窒素を含む窒素酸化物の量を低減するための方法であって、
窒素酸化物および炭化水素を含む、浄化すべき排ガスに、還元剤として、アンモニアまたはアンモニアに分解可能な前駆体化合物を添加する工程ステップと、
結果として得られた排ガスおよび還元剤の混合物を、請求項7に記載の触媒を通過させる工程ステップと
を含む、方法。
【請求項9】
前記排ガスを、アンモニアまたはアンモニアに分解可能な前駆体化合物の前記添加を行う前に、前記排ガス中に存在する前記一酸化窒素の少なくとも一部を二酸化窒素に転化するのに有効な酸化触媒を通過させることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記酸化触媒が、フロースルー型ハニカム状モノリス上および/またはウォールフロー型フィルタ基材上の触媒活性を有するコーティングの形態にあることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒活性材料と、これを用いて製造された、ディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物を選択的触媒還元するための触媒であって、ディーゼル排ガス中に同じく存在する炭化水素に対する耐被毒性(resistance to the hydrocarbon)が改善されたことを特徴とする触媒と、ディーゼル排ガスを浄化するための、特に自動車用途におけるその使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガスには、燃料の不完全燃焼によって生じる汚染ガスである一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)に加えて、スス粒子(PM)や窒素酸化物(NO
x)も含まれている。さらに、ディーゼルエンジンの排ガスには最大で15体積%の酸素も含まれている。酸化可能な汚染ガスであるCOおよびHCは、好適な酸化触媒を通過させることによって無害な二酸化炭素(CO
2)に転化することが可能であることと、粒子状物質は排ガスを好適なスス粒子フィルタを通過させることとが知られている。先行技術においては、酸素の存在下に排ガスから窒素酸化物を除去する方法もよく知られている。その1つである「脱硝プロセス」はSCRプロセス(SCR=選択的触媒還元)と称されるものであり、すなわちこれは、窒素酸化物を、還元剤であるアンモニアを用いて、好適な触媒つまりSCR触媒で選択的触媒還元するというものである。このプロセスにおいて、アンモニアは、そのままでまたは周囲条件でアンモニアに分解可能な前駆体化合物の形態で排ガス流に加えることができる。「周囲条件」とは、当該化合物をアンモニアに分解することができる、SCR触媒上流の排ガス流中の環境を意味するものと理解される。SCRプロセスを実施するためには、還元剤を供給するための供給源、還元剤を必要に応じて排ガス中に計量添加するための噴射装置および排ガスの流路に配置されたSCR触媒が必要である。還元剤供給源、SCR触媒およびSCR触媒の流入側に配置される噴射装置全体はSCRシステムとも称される。
【0003】
将来的に適用されるであろう法規制を考えると、一般に、新たに登録されるすべてのディーゼル車には、エンジンから排出されるあらゆる汚染ガスを除去する排ガス後処理が必要になるであろう。したがって、ディーゼル排ガス後処理の現行の用途に、ディーゼル酸化触媒、ディーゼルパティキュレートフィルタおよびSCRシステムを併用することが必要となるであろう。そして、これらのユニットを併用すると、特にSCR触媒の運転条件を変更することが必要になるであろう。現在、欧州特許出願公開第1054722号明細書による「SCRT(登録商標)System」において、ディーゼル酸化触媒、ディーゼルパティキュレートフィルタおよびSCRシステムが排ガスの流れ方向に直列に配置されている、この種の3種類のシステムが試験されている。別法として、SCRシステムは、車体底部の直結型(close−coupled)ディーゼル酸化触媒とディーゼルパティキュレートフィルタとの間に配置することもできるし(DOC−SCR−DPF)、あるいはディーゼル酸化触媒およびディーゼルパティキュレートフィルタから構成されるユニットの上流側に配置することもできる(SCR−DOC−DPF)。
【0004】
排ガス通路においてディーゼルパティキュレートフィルタおよびSCRシステムを併用することは、SCR触媒が、運転される特定の位置において、既存の用途よりもはるかに高いHC濃度に長時間曝されることを意味する。このようにHC濃度が高くなる理由は幾つか挙げられる。
【0005】
まず第1に、今や内燃機関における燃焼は、費用のかかる排ガス後処理段階を省略することを目的として調整されるのではなく、動力の最適化という観点から、許容される粒子状物質およびHCの排出量と窒素酸化物の排出量との均衡を図るように調整されている。それによって、排ガス後処理システムはある水準以上のHCで汚染されることになり、この排ガス中のHC濃度は既に、現在SCRシステムが用いられている用途に一般的な濃度をはるかに上回っている。第2に、ディーゼルパティキュレートフィルタは定期的に再生することが必要であり、これを達成する1つの方法は、堆積した粒子状物質を制御下に燃焼除去することである。そのためには、ススの発火温度を超える温度までフィルタを加熱しなければならない。この加熱は、シリンダのピストンの排気行程(output piston stroke)もしくは排ガス通路に燃料をポスト噴射することによるかまたは酸化を行う触媒(いわゆる「昇温(heat−up)触媒」)上で未燃炭化水素を触媒浄化(catalytic conversion)することによって実施される。通常は、上流のディーゼル酸化触媒が昇温触媒の機能を担っている。これが存在しない場合は、SCR触媒が場合により昇温機能を担う可能性もある。どちらの場合も、発火後に噴射される炭化水素は昇温時に触媒上で完全に燃焼するわけではないので、フィルタ再生中はSCR触媒上流のHC濃度がより高くなる。ディーゼル酸化触媒およびディーゼルパティキュレートフィルタがSCR触媒の上流にあるSCRT(登録商標)システムの場合は、一定の運転時間が経過すると、SCR触媒にさらなる永久的なHCの堆積が見られるようになる。これは、ディーゼル酸化触媒の酸化機能および任意的に触媒コートされたフィルタが水熱劣化したことに起因する。
【0006】
ディーゼルパティキュレートフィルタの再生とは別に、例えば、冷間始動による遅延を補うことを目的として燃料のポスト噴射を行うと、さらなる加熱手段が必要となる可能性があり、その結果としてSCR触媒上流のHC濃度は短時間で劇的に増加する。
【0007】
これらのことが影響して、最近の併用型(combination)排ガス浄化システムでは、SCR触媒上流の排ガス中に存在するHC含有量が既存の用途と比較して非常に高くなっているため、SCR触媒は運転条件を変更して用いられている。通常、このような条件下では、従来のSCR触媒の活性は、炭化水素を含まない排ガス中と比較して窒素酸化物の浄化性能が明らかに低下する。最近では、先行技術において、耐炭化水素被毒性SCR触媒も記載されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、a)排ガス通路の一部を構成していない供給源から、アンモニア(NH
3)を、そのままでまたは周囲条件でアンモニアを発生させる化合物の形態で、窒素酸化物および炭化水素を含む排ガス流に添加することと;b)NO
xと排ガス流に添加されたNH
3とを、銅(Cu)および/または鉄(Fe)交換ゼオライトを含むSCR触媒上で選択的に反応させることとを含む、窒素酸化物(NO
x)および炭化水素(HC)を含むディーゼルエンジンの排ガスを処理するためのプロセスが開示されている。これは、ゼオライトが分子篩様の作用を示すことによって、排ガス中に存在する炭化水素を触媒の反応が起こる活性部位に近づけないことを特徴とするものである。使用されるゼオライトは、小細孔ゼオライト、特に、フェリエライト、チャバザイトおよびエリオナイトである。排ガス中に存在する炭化水素は、その大きさのために、これらのゼオライトの細孔構造内に侵入することができない。
【0009】
これらの耐炭化水素被毒性SCR触媒は、炭化水素を含まない排ガス中における窒素酸化物の浄化活性と比較すると、炭化水素を含む排ガス中における活性の低下が非常に小さいことを特徴とする。しかしながら、総合的に見れば、これらの触媒を用いて達成することができる窒素酸化物の浄化は、炭化水素を含まない排ガス中においてさえも、従来のSCR触媒と比較するとはるかに劣っている。この耐HC被毒性触媒は、水熱耐久性に関しても同様に、従来のSCR触媒の水熱耐久性よりも著しく劣っている場合が多い。
【0010】
浄化すべき排ガス中の炭化水素含有量が高いと、通常は、SCR触媒の長期安定性にも悪影響が及ぼされる。このことは、中細孔以上の遷移金属交換ゼオライト、例えば、モルデナイト、β−ゼオライト、USY、ZSM−5またはZSM−20のSCR活性に基づいて機能する従来のSCR触媒の場合に特に当てはまる。それは、これらの炭化水素が排ガスからゼオライト骨格中に吸蔵される可能性があるからである。排ガス中に存在する炭化水素は、運転温度が比較的低温の場合はアンモニアと競争しながらゼオライト骨格中に吸蔵される。その後、触媒が炭化水素の接触酸化を開始するライトオフ温度を超える高い運転温度に曝されると、吸蔵された炭化水素はゼオライト内で「燃焼」する。そして、放出される反応エンタルピーによって触媒中でかなりの発熱が生じ、それに対応して温度が上昇することによって、ゼオライト系触媒の触媒活性部位がかなりの損傷を被る可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2009/135588号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、従来のゼオライト系SCR触媒と比較して耐HC被毒性が改善されていると同時に、先行技術による耐HC被毒性触媒よりも水熱劣化前後のSCR活性が高いことを特徴とするSCR触媒を提供することにあった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、
図1に示す、内核(1)およびこの核を取り囲む外殻(2)からなる触媒活性材料により達成することができる。この触媒活性材料の核は、1種または2種以上の遷移金属(ニッケルおよびクロムを除く)で交換されたゼオライトまたはゼオライト様化合物から形成されており、この核を取り囲む外殻は、二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、二酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、二酸化ジルコニウムおよびこれらの混合酸化物からなる群から選択される1種または2種以上の酸化物から形成されている。
例えば、本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
内核(1)およびこの核を取り囲む外殻(2)からなる触媒活性材料であって、前記核が、ニッケルおよびクロムを除く1種または2種以上の遷移金属で交換されたゼオライトまたはゼオライト様化合物から形成されており、かつ前記外殻が、二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、二酸化ジルコニウムおよびこれらの混合酸化物からなる群から選択される1種または2種以上の酸化物から形成される、触媒活性材料。
(項目2)
前記ゼオライトまたは前記ゼオライト様化合物が、β−ゼオライト、ZSM−5、ZSM−20、USYおよびMORからなる群から選択されることを特徴とする、項目1に記載の触媒活性材料。
(項目3)
前記遷移金属が、セリウム、マンガン、鉄、銅、銀、金、白金、パラジウムおよび/またはこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、項目1および/または2に記載の触媒活性材料。
(項目4)
前記外殻の前記酸化物の粒度分布のd50が100nm以下であり、前記酸化物の粒度分布のd50とは、前記酸化物全体の体積の50%が、d50と報告された値以下の直径を有する粒子のみを含むものと理解されることを特徴とする、項目1〜3のいずれか一項に記載の触媒活性材料。
(項目5)
前記核を形成する前記ゼオライトまたは前記ゼオライト様化合物に、式(I):
(RO)n−mMeR’m (I)
(式中、
nは、3または4であり、かつm<nであり、
Meは、ケイ素、ゲルマニウム、アルミニウム、チタン、スズ、セリウムまたはジルコニウムであり、
Rは、(C1〜C4)アルキルまたはフェニルであり、
R’は、(C1〜C8)アルキル、アミノ−(C1〜C4)アルキル、アミノ基がアミノ−(C1〜C4)アルキルで置換されたアミノ−(C1〜C4)アルキルまたはメタクリル酸(C1〜C4)アルキルである)の1種または2種以上のアルコキシドを含浸させる工程ステップと、
前記アルコキシドを加水分解および縮合させる工程ステップと、
対応する酸化物を形成させるために、前記工程ステップから得られた固体を乾燥およびか焼するステップと
を含むことを特徴とする、項目1〜4のいずれか一項に記載の触媒活性材料を製造するための方法。
(項目6)
Rが、メチル、エチル、イソプロピル、ブチルまたはフェニルであることを特徴とする、項目5に記載の方法。
(項目7)
R’が、アミノ−(C1〜C4)アルキル、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル、イソプロピル、イソブチル、フェニル、オクチルまたはメタクリル酸(C1〜C4)アルキルであることを特徴とする、項目5に記載の方法。
(項目8)
触媒活性を有しない支持体およびそこに適用された少なくとも1種のコーティングからなる触媒であって、前記コーティングが、項目1〜4のいずれか一項に記載の触媒活性材料を含むことを特徴とする、触媒。
(項目9)
炭化水素を含有するディーゼルエンジン排ガス中の一酸化窒素および二酸化窒素を含む窒素酸化物の量を低減するための方法であって、
窒素酸化物および炭化水素を含む、浄化すべき排ガスに、還元剤として、アンモニアまたはアンモニアに分解可能な前駆体化合物を添加する工程ステップと、
結果として得られた排ガスおよび還元剤の混合物を、項目8に記載の触媒を通過させる工程ステップと
を含む、方法。
(項目10)
前記排ガスを、アンモニアまたはアンモニアに分解可能な前駆体化合物の前記添加を行う前に、前記排ガス中に存在する前記一酸化窒素の少なくとも一部を二酸化窒素に転化するのに有効な酸化触媒を通過させることを特徴とする、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記酸化触媒が、フロースルー型ハニカム状モノリス上および/またはウォールフロー型フィルタ基材上の触媒活性を有するコーティングの形態にあることを特徴とする、項目10に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】1種もしくは2種以上の遷移金属で交換されたゼオライトまたは1種もしくは2種以上の遷移金属で交換されたゼオライト様化合物から形成された内核(1)と、この核を取り囲む、二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ジルコニウムおよびこれらの混合酸化物からなる群から選択される1種または2種以上の酸化物である外殻(2)とからなる、本発明の触媒活性材料の粒子の略図である。
【
図2】測定開始前に炭化水素を吸蔵(laden)させた、先行技術によるSCR触媒(CC1)の上流および下流の排ガス温度であり、反応器温度/触媒上流の温度を400℃に昇温することによりHCが燃焼したことによって発熱が起こったことが明らかである。
【
図3】測定開始前の触媒に炭化水素を吸蔵させておき、反応器温度/触媒上流の温度を400℃に昇温した後の、触媒の上流および下流の排ガス温度の温度差ΔT=T(触媒下流)−T(触媒上流)であり、新触媒の状態の本発明の触媒C1〜C11および先行技術による触媒(CC1)上でHCを燃焼除去することにより生じる発熱を比較したものである。
【
図4】測定開始前の触媒に炭化水素を吸蔵させておき、反応器温度/触媒上流温度を400℃に昇温した後の、触媒の上流および下流の排ガス温度の温度差ΔT=T(触媒下流)−T(触媒上流)であり、水熱劣化させた状態の本発明の触媒であるC’1〜C’6および先行技術による触媒(CC’1)上でHCを燃焼除去することにより生じる発熱を比較したものである。
【
図5】予め水熱劣化させておいた触媒CC’2(先行技術)およびC’1(本発明)の、炭化水素を含まない排ガス中におけるNO
x浄化率を、α値に対し標準化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本文書における「ゼオライト様化合物」とは、典型的なゼオライト構造(「ゼオライト骨格」)を形成しているが、ケイ酸アルミニウムから形成されていないかまたはケイ酸アルミニウムのみから形成されていないものを意味するものと理解される。このようなものとして、特に、ケイ酸リン酸アルミニウム(SAPO)およびリン酸アルミニウム(ALPO)が挙げられる。
【0016】
本発明に従い使用されるゼオライトおよびゼオライト様化合物は、ニッケルおよびクロムを除く1種または2種以上の遷移金属で交換されている。これは、対応するゼオライトまたはゼオライト様化合物のH形またはNH
4+形から開始し、イオン交換によって、H
+イオンまたはNH
4+イオンを対応する等価な遷移金属陽イオンと交換したことを意味する。しかしながら、これは、ゼオライトまたはゼオライト様化合物の基本格子を形成するアルミニウム、ケイ素および/またはリン原子が遷移金属で交換されていることを意味するものではない。そうではなくて、このイオン交換の後も、基本格子は変化せずそのままである。
【0017】
本発明の触媒活性材料の核は、好ましくは1種もしくは2種以上の遷移金属で交換されたゼオライトまたは1種もしくは2種以上の遷移金属で交換されたゼオライト様化合物からなり、β−ゼオライト、ZSM−5、ZSM−20、USYおよびMORからなる群から選択される。遷移金属は、好ましくは、セリウム、マンガン、鉄、銅、銀、金、白金、パラジウムおよび/またはこれらの混合物からなる群から選択される。セリウム、鉄および銅が特に好ましい。本文書の文脈における「遷移金属」という語には、ニッケルおよびクロムは含まれない。
【0018】
本発明の一実施形態においては、遷移金属で交換することによる変性を行う前のゼオライトまたはゼオライト様化合物の細孔は、最大径が7Åを超える。この種のゼオライトは、例えば、β−ゼオライト、ZSM−20およびUSYである。
【0019】
外殻は、好ましくは、内核を完全に取り囲んでいる。しかしながら、外殻が実質的に完全なだけでも本発明の効果は得られる。より具体的には、外殻が核を囲む度合いが、それぞれ核の表面積を基準として、90〜100%、より好ましくは95〜100%である。
【0020】
本発明の触媒活性材料の外殻は、好ましくは、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウムまたはセリウム−ジルコニウム混合酸化物から形成されている。二酸化ケイ素が特に非常に好ましい。
【0021】
外殻材料に、所望の反応体、アンモニアおよび窒素酸化物を通過させる一方で、排ガス中に存在する炭化水素に対しては十分な障壁作用を示すのに十分な気孔率を確保するためには、外殻中の酸化物の粒度分布のd
50を、好ましくは100nm以下とする。粒度分布のd
50が70nm以下である酸化物が特に好ましい。粒度分布のd
50が20nm以下である酸化物が最も好ましい。酸化物の粒度分布のd
50とは、酸化物全体の体積の50%が、d
50として報告された値以下の直径を有する粒子のみを含むことを示している。
【0022】
理想的な実施形態においては、触媒活性材料の核粒子は、非晶質酸化物の層に囲まれたゼオライト系材料またはゼオライト様材料から形成されている。「非晶質酸化物」とは、長距離秩序構造を有しない酸化物系の材料を意味するものと理解される。
【0023】
触媒活性材料を製造するためには、核を形成するゼオライト系材料またはゼオライト様材料を、最終的な本発明の触媒活性材料の外殻を形成する酸化物の1種または2種以上の可溶性前駆体を含む溶液に含浸させる。そうすると、外殻を形成する酸化物が、プロセスの後段でそのまま核粒子上に形成される。
【0024】
本発明の触媒活性材料は、核を形成するゼオライトまたは核を形成するゼオライト様化合物を、一般式(I):
(RO)
n−mMeR’
m (I)
(式中、
nは、3または4、かつm<nであり、
Meは、ケイ素、ゲルマニウム、アルミニウム、チタン、スズ、セリウムまたはジルコニウムであり、
Rは、(C
1〜C
4)アルキルまたはフェニルであり、
R’は、(C
1〜C
8アルキル、アミノ−(C
1〜C
4)−アルキル、アミノ基がアミノ−(C
1〜C
4)アルキルで置換されているアミノ−(C
1〜C
4)アルキルまたはメタクリル酸(C
1〜C
4)アルキルである)の1種または2種以上のアルコキシドを含む溶液に含浸させることによって得られる。
【0025】
このアルコキシドが加水分解し、加水分解生成物が縮合して、粒子表面にMe−O鎖および網目を形成した結果として酸化物が形成される。加水分解および縮合反応が完結したら、こうして得られた固体を場合により単離、乾燥およびか焼し、酸化物の形成を完了させる。
【0026】
上述のアルキル基は、直鎖または分岐であっても、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチルまたはi−ブチルであってもよい。さらに、(C
1〜C
8)アルキルは、例えば、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルまたはオクチルであってもよい。
【0027】
Rは、好ましくは、メチル、エチル、イソプロピル、ブチルまたはフェニルである。
【0028】
R’は、好ましくは、アミノ−(C
1〜C
4)アルキル、特に、アミノメチルおよびアミノエチル、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル、イソプロピル、イソブチル、フェニル、オクチルまたはメタクリル酸(C
1〜C
4)アルキル、特に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルまたはメタクリル酸プロピルである。
【0029】
より好ましくは、Meは、ケイ素を表す。この場合、使用される式(I)のアルコキシドは、特に、テトラエトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランおよびトリエトキシオクチルシランである。
【0030】
触媒活性材料を粉末形態で調製するためには、ゼオライト系核材料を好ましくはアルコキシドのエタノール溶液またはエタノール−水混合物(水は50重量%まで)に含浸させる。縮合反応を完結させるために、場合により少量のプロトン酸、例えば、硝酸、硫酸、塩酸または酢酸を混合物に添加することができる。結果として得られる混合物を乾燥させ、乾燥した材料をか焼する。こうすることにより粉末形態の本発明の触媒活性材料が得られる。
【0031】
自動車排ガス用として適用できる触媒を得るためには、本発明の触媒活性材料を不活性な支持体にコーティングの形態で適用するかまたは機械的に安定なハニカムとして押出成形しなければならないかのいずれかである。本発明の触媒活性材料は、例えば水中に懸濁させることができ、触媒活性を有しない支持体に、当業者に周知の従来の浸漬、吸引またはポンプ送液(pumping)プロセスの1つを用いて適用することができる。
【0032】
あるいは、本発明の触媒活性材料は、コーティング用懸濁液中で「その場で」効果的に製造することも可能であり、これを、触媒活性材料を途中で単離することなくそのまま使用して、従来の浸漬、吸引またはポンプ送液プロセスを用いて、不活性支持体にコーティングする。この目的のためには、例えば、ゼオライト系核材料を水中に懸濁させ、得られた懸濁液にアルコキシドのエタノール性溶液を撹拌しながら加える。アルコキシドのエタノール性溶液の添加が完了したら、加水分解および縮合反応を、場合により少量のプロトン酸を懸濁液に添加することによって完結させることができる。撹拌を適切な時間継続したら、こうして生成した懸濁液をそのまま使用して支持体をコーティングすることができる。
【0033】
本発明の触媒材料のコーティングを有する、支持体に支持された触媒を製造する場合、酸化物の外殻を製造する前すなわちアルコキシドのエタノール性溶液を添加する前にゼオライト系の基体材料を磨砕することによって、コーティングに必要な粒度に調整することが好ましい。この磨砕作業を本発明の触媒活性材料に対して行うと、粒子に加わる機械応力が核材料および外殻材料を部分的または完全に分離してしまうので、結果として得られる触媒の耐HC被毒性が損なわれる可能性がある。
【0034】
本発明の触媒活性材料を含む触媒は、炭化水素を含有するディーゼルエンジン排ガス中の一酸化窒素および二酸化窒素を含む窒素酸化物の量を低減するのに特に適している。浄化すべき排ガスに、アンモニアまたはアンモニアに分解可能な前駆体化合物を還元剤として添加する。結果として得られる混合物は排ガスおよび還元剤の混合物であり、次いでこれを、本発明の触媒活性材料を含むコーティングを有する触媒を通過させる。
【0035】
好ましくは、浄化すべき排ガスを、アンモニアまたはアンモニアに分解可能な前駆体化合物を添加する前に、排ガス中に存在する一酸化窒素の少なくとも一部を二酸化窒素に転化するのに有効な酸化触媒を通過させる。SCR触媒上流の酸化触媒および任意のさらなる排ガス浄化ユニットは、好ましくは、浄化すべき排ガスが本発明の触媒活性材料を含むSCR触媒に流入する前に、浄化すべき排ガス中の一酸化窒素および二酸化窒素の比率に影響を及ぼし、二酸化窒素含有量が窒素酸化物の30〜70%になるように選択すべきである。窒素酸化物の二酸化窒素含有量がこのようになることで、NO
xから窒素への転化が特に良好に達成される。この場合、本発明のSCR触媒の上流に連結される酸化触媒は、好ましくは、フロースルー型ハニカム状モノリス(monolithic flow honeycomb)および/またはウォールフロー型フィルタ基材上の触媒活性コーティングの形態にある。
【0036】
本発明の触媒活性材料を使用することにより、高HC含有量の排ガス中でさえも炭化水素の許容量が極めて高いことが特徴的なSCR触媒を得ることができる。
【0037】
次に、幾つかの図面および実施例を用いて本発明を詳細に例示する。図面は次のものを示す。
【実施例】
【0038】
比較例1:
市販のSCR触媒に用いるための鉄交換β−ゼオライトをベースとするコーティング用懸濁液を製造した。この目的のために、市販のSiO
2バインダー、市販のベーマイトバインダー(塗工助剤、硝酸鉄(III)九水和物およびSiO
2/Al
2O
3のモル比(SAR)が25である市販のβ−ゼオライトを水に懸濁させ、1平方センチメートル当たりのセル数が62個であり、セル隔壁の厚みが0.17ミリメートルであるフロースルー型セラミックハニカム(ceramic flow honeycomb)に、従来の浸漬プロセスで適用した。コーティングされた部品をまず最初に350℃で15分間、次いで500℃で2時間か焼した。こうして得られた触媒CC1のコーティングはβ−ゼオライト90%からなり、鉄含有量は4.5重量%(Fe
2O
3として計算)であった。
【0039】
比較例2:
国際公開第2009/135588号パンフレットに従う耐HC被毒性SCR触媒を製造した。この目的のために、SiO
2/Al
2O
3のモル比(SAR)が20である市販のフェリエライト型小細孔ゼオライトを水中でスラリー化した。硝酸鉄(III)九水和物を懸濁液に加えた。磨砕を行った後、この懸濁液を使用して、1平方センチメートル当たりのセル数が62個であり、セル隔壁の厚みが0.17ミリメートルであるフロースルー型ハニカム状モノリスに従来の浸漬プロセスでコーティングした。コーティングされた部品を350℃で15分間、次いで500℃で2時間か焼した。こうして得られた触媒CC2のコーティングはフェリエライトからなり、鉄含有量は4.5%(Fe
2O
3として計算)であった。
【0040】
実施例1:
第1ステップにおいて、市販のβ−ゼオライト(ZeolystからのCP814T)に液体イオン交換によって鉄を導入した。この目的のために、市販のβ−ゼオライトを水中に懸濁させ、硝酸鉄(III)九水和物を懸濁液に加えた。この懸濁液を20時間撹拌した後、80〜90℃で乾燥させた。次いで、こうして得られた固体を350℃で10分間および500℃で2時間か焼した。最終的に得られた鉄交換β−ゼオライトは、鉄を5重量%(Fe
2O
3として計算)含んでいた。
【0041】
予め調製しておいた鉄交換β−ゼオライト1kgを、粉末含浸工程により、エタノール中にテトラエトキシシラン7.5gおよび水2.5gを含む溶液(60%)と接触させた。使用した溶液の量は、ゼオライトの吸水量に合わせて、湿ってはいるが自由流動性を有する粉末が得られるようにした。この粉末を乾燥させ、50℃で6時間、次いで120℃で2時間、最後に500℃で2時間か焼した。
【0042】
こうして得られた粉末を水中に再懸濁させ、バインダーとしてシリカゾル10重量%(懸濁液中の固体の総量を基準として、SiO
2で計算)を添加した後、1平方センチメートル当たりのセル数が62個であり、セル隔壁の厚みが0.17ミリメートルであるフロースルー型セラミックハニカムに従来の浸漬プロセスを用いてコーティングとして適用した。こうして得られた触媒C1を後段で350℃で10〜15分間、次いで500℃で2時間か焼した。
【0043】
実施例2:
N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン8.1gおよび水2.7gのエタノール210g中溶液を含浸溶液として使用したことを除いて、実施例1と同様にして、さらなる触媒C2を調製した。
【0044】
実施例3:
ジイソブチルジメトキシシラン7.4gおよび水2.5gのエタノール210g中溶液を含浸溶液として使用したことを除いて、実施例1と同様にして、さらなる触媒C3を調製した。
【0045】
実施例4:
フェニルトリエトキシシラン8.7gおよび水2.9gのエタノール210g中溶液を含浸溶液として使用したことを除いて、実施例1と同様にして、さらなる触媒C4を調製した。
【0046】
実施例5:
メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン9.0gおよび水3.0gのエタノール210g中溶液を含浸溶液として使用したことを除いて、実施例1と同様にして、さらなる触媒C5を調製した。
【0047】
実施例6:
トリエトキシオクチルシラン10.0gおよび水3.3gのエタノール210g中溶液を含浸溶液として使用したことを除いて、実施例1と同様にして、さらなる触媒C6を調製した。
【0048】
実施例7:
上述の実施例と同様にして、まず最初に液体イオン交換によって鉄を市販のβ−ゼオライトに導入した。方法および原料は実施例1に規定した手順に対応させた。最終生成物である鉄交換β−ゼオライトは鉄を5重量%(Fe
2O
3として計算)含んでいた。
【0049】
第1槽において、事前に調製しておいた鉄交換β−ゼオライト1kgの水中懸濁液をコーティング用として製造した。コーティング用懸濁液のpHを酢酸で4に調整した。
【0050】
第2槽において、テトラエトキシシラン7.5gおよび水2.5gのエタノール252g中溶液を含む含浸溶液を調製した。
【0051】
この2種類の溶液を、注入システムで制御しながら一定のpHで混合した。バインダーとしてシリカゾル10重量%(懸濁液中の固体の総量を基準として、SiO
2として計算)を添加した後、この懸濁液を、1平方センチメートル当たりのセル数が62個であり、セル隔壁の厚みが0.17ミリメートルであるスルーフロー型セラミックハニカムに従来の浸漬プロセスを用いてコーティングした。結果として得られた触媒C7をまず350℃で10〜15分間、次いで500℃で2時間か焼した。
【0052】
実施例8:
テトラエトキシシラン70.5gをエタノール125g中に含む含浸溶液を使用したことを除いて、実施例7と同様にして、さらなる触媒C8を調製した。
【0053】
実施例9:
テトラエトキシシラン7.2gをエタノール180g中に含む含浸溶液を使用し、コーティング用懸濁液のpHを7に調整したことを除いて、実施例7と同様にして、さらなる触媒C9を調製した。
【0054】
実施例10:
テトラエトキシシラン72.7gをエタノール108g中に含む含浸溶液を使用し、コーティング用懸濁液のpHを7に調整したことを除いて、実施例8と同様にして、さらなる触媒C10を調製した。
【0055】
実施例11:
テトラエトキシシラン73.3gをエタノール115g中に含む含浸溶液を使用し、コーティング用懸濁液のpHを2に調整したことを除いて、実施例8と同様にして、さらなる触媒C11を調製した。
【0056】
ここで調製した触媒C1〜C11および比較触媒CC1すべてに関し、以下に示す条件下で、新触媒の状態における耐HC被毒性の調査を行った。
【0057】
この目的のために、ここで調製した触媒の直径1インチ、長さ3インチのボーリングコア(drill core)を、エンジンテストベンチ(engine test bed)で100℃で60分間炭化水素と接触させた。次いでこのボーリングコアを、反応器温度を100℃として、標準ガスシステム(model gas system)中で事前に10分間状態調整した(O
2を10%、CO
2を10%、H
2Oを5%、残余N
2、全体の流量4m
3/h)。次いで、反応器温度を同じ気体混合物と一緒に30秒以内に400℃に昇温した。触媒のボーリングコアの流入口の上流から5ミリメートルの排ガスの温度およびボーリングコアから3インチ下流の排ガスの温度を、生じた発熱の指標として評価した。
【0058】
図2に、一例として、比較触媒CC1の流入口の上流から5ミリメートルの排ガス温度および比較触媒CC1から76.2ミリメートル下流の排ガス温度の測定値を示す。t=600秒で反応器温度を昇温した直後に明らかな発熱が観測され、これが、触媒下流の排ガス温度が800℃を超えることに反映されている。
【0059】
触媒により生じた発熱の比較をより正確に行えるように、温度制御の不正確さを考慮に入れ、ΔT=T(触媒下流)−T(触媒上流)の定義に基づいて、触媒上流の温度および触媒下流の温度の温度差ΔTを求めた。ここでは、T(触媒上流)をボーリングコアの上流5ミリメートルの排ガス温度とし、T(触媒下流)を、ボーリングコアから76.2ミリメートル下流の排ガス温度とした。触媒下流の上流に最高温度が存在していた場合、t
upstream of catalyst=t
max,upstream of catalystまたはt
downstream of catalyst=t
max,downstream of catalystとなった時点で温度を記録した。
【0060】
図3は、ここで調製した新触媒の状態の触媒C1〜C11およびCC1に関し測定された温度差を比較したものである。上述した方法によって評価を行うと、本発明の触媒の場合は温度差が負になる。これは、反応熱に由来する温度差が、反応器(この場合は断熱されていない)を介した通常の熱損失に打ち消されることに起因する。本発明の触媒上でHCを燃焼除去することに由来する反応熱はまったくまたはほとんどなく、そのため、断熱されていない反応器を介して認められる熱損失の大きさは、触媒供試体下流の排ガスが触媒供試体上流よりも低温になるほどである。このように、全体としては、吸蔵された炭化水素が燃焼除去されることによる顕著な発熱は、本発明の触媒では認められなかった。したがって、本発明の触媒C1〜C11はいずれも、従来のゼオライト系SCR触媒CC1と比較して耐HC被毒性が著しく改善されていることが明らかである。
【0061】
別のボーリングコアをそれぞれ触媒C1〜C6ならびに比較触媒CC1およびCC2から採取した。これらを、窒素中に水蒸気10重量%および酸素10重量%を含む雰囲気中、750℃のオーブンで16時間かけて人為的に水熱劣化させた。この劣化手順終了後、得られた触媒CC’1およびC’1〜C’6を用いて再び発熱試験を行った。
【0062】
図4に、劣化後の触媒C’1〜C’6およびCC’1に関し測定した温度差の比較を示す。水熱劣化後の状態においても、本発明の触媒上でHCを燃焼除去することにより生じる発熱は、先行技術CC’1によるゼオライト系SCR触媒よりもはるかに低い。先行技術(CC1)によるSCR触媒も、水熱劣化後の発熱が大幅に低下しているが、これは劣化によって触媒活性部位が損傷したことに起因する可能性があり、それにより、触媒が炭化水素を燃焼させる能力も悪影響を受けている。したがって、全体として、本発明の触媒は、従来のSCR触媒よりも耐HC被毒性がはるかに高いことがわかる。これらの炭化水素の許容量は、例外なく、先行技術による従来の鉄交換ゼオライト触媒よりも明らかに改善されている。
【0063】
本発明の触媒のSCR反応における触媒活性を試験するために、実施例1で調製した触媒を人為的に水熱劣化させた後のNO浄化活性を調査した。
【0064】
調査は、次に示す気体濃度の標準ガスシステムを用いて静的試験で行った。
【0065】
【表1】
【0066】
SCR活性調査においては、通常、アンモニア対窒素酸化物のモル比はアルファで定められる。
【数1】
【0067】
表に列挙した気体濃度を用いると、アルファ値α=0.85となる。標準ガス試験は空間速度を30000h
−1として実施した。
【0068】
本文書においては、測定されたNO
x浄化率を、アルファ値に標準化した形態すなわちNO
x浄化率/α値で報告する。
【0069】
図5は、SCR活性試験の結果を、予め人為的に水熱劣化させておいた触媒C’1を、対応する劣化後の比較触媒CC’2(先行技術(国際公開第2009/135588号パンフレット)に従うより耐HC被毒性の高いSCR触媒)の浄化性能と比較したものである。本発明の触媒は、250〜450℃の温度範囲におけるNO
x浄化性能が著しく改善されている。
【0070】
この実施例から、本発明の触媒活性材料およびこれを用いて得られる触媒から、従来のゼオライト系SCR触媒よりも耐HC被毒性が明らかに改善されていると同時に、現在までに先行技術により周知の耐HC被毒性SCR触媒よりも著しく高い窒素酸化物浄化性能を達成することが可能なSCR触媒を得ることができることがわかる。