特許第5972941号(P5972941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5972941
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】数値制御装置付き工作機械
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20160804BHJP
【FI】
   G05B19/18 X
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-160168(P2014-160168)
(22)【出願日】2014年8月6日
(65)【公開番号】特開2016-38653(P2016-38653A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2015年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中濱 泰広
【審査官】 中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−121867(JP,A)
【文献】 特開平5−116081(JP,A)
【文献】 特開平1−193134(JP,A)
【文献】 特開2010−23941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B19/18−19/416,19/42−19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値制御装置と、
該数値制御装置によって制御され、固定部と、積載物が設置可能な可動部と、を備えた工作機械とを備えた数値制御装置付き工作機械であって、
前記数値制御装置は、
前記固定部、前記可動部、及び前記積載物のそれぞれの重量及び重心位置が記憶された記憶手段と、
該記憶手段に記憶された前記固定部の重心位置及び重量、前記可動部の重心位置及び重量、前記固定部に対する前記可動部の相対位置、及び、前記積載物の重心位置及び重量とから前記工作機械と前記積載物を合わせた全体の重心位置である実重心位置を計算する実重心位置計算手段と、
前記工作機械と前記積載物を合わせた全体の重心位置の目標位置である目標重心位置を設定する目標重心位置設定手段と、
前記目標重心位置設定手段によって設定された前記目標重心位置に前記工作機械と前記積載物を合わせた全体の重心位置が一致するよう、前記固定部に対する前記可動部の相対位置を補正する可動部位置補正手段
とを備えたことを特徴とする数値制御装置付き工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値制御装置付き工作機械に関し、特に本体の重心位置を調整する機能を有する数値制御装置付き工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は、比較的小型で軽量のものであれば、近距離で移動されることも多い。その移動方法としては、クレーン等で吊り上げたり、台車や、フォークリフトやハンドリフトなどのリフトによって機械を持ち上げて運ぶ方式がある。特に、リフトを使用する方法は、リフト自体が小型であるため、工場建屋内などの比較的近距離での移設作業時に用いられることが多い。
【0003】
このようにリフトを用いて持ち上げる場合、機械の転倒事故等を防ぐために、リフトが有する2本のフォークの間に機械の重心がくるようにフォークの位置や幅を決める必要がある。この、フォークの位置や幅を決める際に、機械の重心位置を把握しておくことが重要となる。
【0004】
特許文献1には、産業用ロボットの輸送用補助装置において、フォークリフトを用い、フォークの受け部が、ロボット全体の重心が2本のフォークの間にくるように、ベース部に開口や専用部品を外付けして、ロボット本体を安定した輸送用姿勢をとりつつ、フォークを受け部に挿入して持ち上げる技術が開示されている。
【0005】
また、小型の工作機械においても、リフトによる移設作業が行われる。この場合、リフトの差込位置が決められていないものが多く、可動部の位置や、テーブル上面などの可動部に設置された積載物の重量が、移設作業ごとに毎回一定でない場合には、重心位置もまた一定ではないため、リフトの位置もこれに応じて決める必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3883535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
小型の工作機械のリフトによる移設作業においては、機械の重心位置に合わせてリフトを位置決めして持ち上げる場合と、リフトの位置を先に決めてしまったあとで、重心位置がフォークの間にくるよう可動部を位置決めする場合がある。
ここで、後者のリフトの位置を先に決めてしまったあとで、可動部を位置決めする場合、重心位置がフォーク間にくる可動部の位置を予想のうえまずは仮定し、位置決めして持ち上げた後、そのバランスを見て可動部の位置の修正を行うという作業を何度か試行することで安定する位置を最終的に決定することとなる。そのため、最初に見立てた重心位置が真の重心位置から著しく異なる場合、試行回数が多くなり工数が増加する。また、上げ下ろしを繰り返すことで機械部品に負担がかかる可能性がある。このため、フォーク間に重心がくるような可動部の位置を最初からなるべく正確に把握し、試行回数を少なくすることが望ましい。
【0008】
また、フォークによる持上げ作業は機械の電源を切断して行われる場合が多いが、その場合は数値制御装置による位置決めができないため、可動部の位置を修正する際には、人間の手で直接押すなどして強制的に移動させる方法が取られている。ただし、この方法も電源切断時に移動軸にブレーキがかかる構造の機械では行うことができない。
これらのことから、可動部の位置の修正においては、機械の通電中に数値制御装置により正確に位置決めできることが望ましい。
【0009】
そこで本発明は、数値制御装置付き工作機械において、工作機械の重心位置を簡単な方法で任意の位置に調整することができる工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の請求項1に係る発明では、数値制御装置と、該数値制御装置によって制御され、固定部と、積載物が設置可能な可動部と、を備えた工作機械とを備えた数値制御装置付き工作機械であって、前記数値制御装置は、前記固定部、前記可動部、及び前記積載物のそれぞれの重量及び重心位置が記憶された記憶手段と、該記憶手段に記憶された前記固定部の重心位置及び重量、前記可動部の重心位置及び重量、前記固定部に対する前記可動部の相対位置、及び、前記積載物の重心位置及び重量とから前記工作機械と前記積載物を合わせた全体の重心位置である実重心位置を計算する実重心位置計算手段と、前記工作機械と前記積載物を合わせた全体の重心位置の目標位置である目標重心位置を設定する目標重心位置設定手段と、前記目標重心位置設定手段によって設定された前記目標重心位置に前記工作機械と前記積載物を合わせた全体の重心位置が一致するよう、前記固定部に対する前記可動部の相対位置を補正する可動部位置補正手段とを備えたことを特徴とする数値制御装置付き工作機械が提供される。
【0011】
請求項1に係る発明によると、工作機械と積載物とを合わせた全体の重心位置の目標重心位置を設定して、全体の重心位置が目標重心位置に一致するように、固定部に対する可動部の相対位置を補正する可動部位置補正手段を備えたことによって、工作機械の重心位置を任意に調整することが可能となるため、フォークリフト等の機器を用いて移設作業を行う際に、リフトの位置を任意に設定しても、その後の可動部位置補正による重心位置の変更によって、安定した姿勢で作業を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、数値制御装置付き工作機械において、工作機械の重心位置を簡単な方法で任意の位置に調整することができる工作機械を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態における数値制御装置付き工作機械の概略図である。
図2】本発明の実施形態における工作機械と積載物とを合わせた全体の重心位置の計算手法のブロック図である。
図3】本発明の実施形態における数値制御装置付き工作機械における可動部の移動の様子を示す図である。
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態が適用される数値制御装置付き工作機械の概略図を示している。1は数値制御装置であり、内部にCPU7及びメモリ8を備え、表面に表示装置9と入力手段10とを備えている。また、数値制御装置1は工作機械11と接続されている。工作機械11は、ベッド2、コラム3、主軸頭4、テーブル5等から構成されている。6はテーブル5の上面に積載されているワークや冶具などの積載物である。ベッド2及びコラム3は、接地面に対して静止しており、本願の固定部に相当する。主軸頭4及びテーブル5は、数値制御装置1からの制御指令を受けて、ベッド2やコラム3の固定部に対して相対移動が可能であり、本願の可動部に相当する。
【0015】
数値制御装置1内のメモリ8には、工作機械11におけるベッド2やコラム3などの固定部の重心位置と重量、及び、主軸頭4やテーブル5などの可動部の重心位置と重量が予め記憶されている。また、CPU7では、主軸頭4やテーブル5などの可動部の、固定部に対する相対位置や、所定の方法で取得された、テーブル5上に積載された積載物6の重心位置と重量に関する情報から、工作機械11を積載物6とを合わせた全体の重心位置を計算する。具体的な計算方法については後述する。
【0016】
表示装置9は、CPU7で計算された工作機械11と積載物6とを合わせた全体の重心位置を表示する。重心位置の表示の際には、少なくともいずれか1方向成分に関する情報のみの表示とすることもできる。
【0017】
ワークの重心位置と重量に関する情報については、入力手段10を用いて、作業者が入力する。また、テーブル5上に乗せる積載物6の重心位置と重量と、テーブル5を加減速する際のパラメータとの関係が、数値制御装置1のメモリ8内に設定されている場合には、積載物6を乗せたテーブル5を移動させることにより、加減速する際のパラメータの値から、積載された積載物6の重量と重心位置を推定して用いることもできる。また、入力手段10は、後述する目標重心位置等を指定する際に使用することも可能である。
【0018】
図2は、これらの積載物6の重心位置と重量に関する情報を用いて、工作機械11と積載物6とを合わせた全体の重心位置の計算手法のブロック図である。以下ブロック毎に説明する。
まず、工作機械11を構成する部材を、設置面に対して静止している固定部と、固定部に対して相対的に移動可能な可動部とに分ける。本実施形態においては、固定部としてベッド2とコラム3とが含まれており、可動部として主軸頭4とテーブル5とが含まれている。まず、ブロックB1において、可動部の重心位置と重量、及び、固定部の重心位置と重量の値を取得する。また、ブロックB2において、可動部の位置情報を取得する。ブロックB3では、積載物6の重量を取得する。積載物6の重量の取得は、入力手段10により作業者が入力したり、積載物6を乗せたテーブル5を移動させて、加減速する際のパラメータの値を用いて、積載物6の積載重量を推定するといった手法を取ることが可能である。
【0019】
これらの可動部の位置情報、可動部の重心位置と重量、固定部の重心位置と重量、積載物の重量を用いて、ブロックB4において、CPU7で工作機械11と積載物6とを合わせた全体の重心位置を計算する。そして、計算された全体の重心位置の値を、ブロックB5において、メモリ8に保存する。また、この際に表示装置9において、全体の重心位置の値を表示するようにすることもできる。
一方、ブロックB6においては、入力手段10によって、目標となる重心位置を入力する。入力された目標となる重心位置は、ブロックB7において、メモリ8に保存する。これについても、入力された目標となる重心位置を、表示装置9において表示するようにすることもできる。
【0020】
ブロックB8においては、メモリ8に保存された現在の重心位置、及び、目標となる重心位置に基づいて、可動部の補正量を計算する。そして、計算された可動部の補正量に基づいて、ブロックB9において可動部位置の位置補正を指令し、可動部の位置が補正される。具体的な重心位置の算出や可動部の補正量の算出の方法については後述する。
【0021】
次に、重心位置の具体的な計算方法について説明する。
工作機械11と積載物6とを合わせた全体の重心位置は次式により算出される。
【0022】
【数1】
【0023】
【数2】
【0024】
ここで、重心位置の計算にあたって考慮する必要のない成分については、式の計算過程より省略することができる。
一例として、図3に示されているように、水平方向及び鉛直方向を基底とし、水平方向を工作機械を設置したときの側面の方向(y方向)と一致させ、鉛直方向がz方向となるようにした基準座標系90を用いることとする。また、例えば位置の基準となる基準位置マーク91を固定部に設け、基準座標系90の座標原点を基準位置マーク91に一致するものとする。
【0025】
これにより重心位置に関する情報は、基準位置マーク91を原点として数1で表されるベクトル量として扱うことができる。
以降、基準座標系90に対し、リフトをx方向に差し込む場合を例に考える。
このとき、重心位置で問題になるのはy方向成分のみとなるため、[数1式]はそのy方向成分のみ考えればよく、次式により算出される。
【0026】
【数3】
【0027】
ここで、テーブル5の重心位置のy方向成分と積載物6の重心位置のy方向成分がほぼ一致するものとみなせる場合、数3は次式のように近似され、積載物6の重心位置に関する情報を省略できる。
【0028】
【数4】
【0029】
次に、可動部補正位置の具体的な計算方法について説明する。
入力手段(10)によって任意の目標となる重心位置が与えられるとき、数1より次式が成立する。
【0030】
【数5】
【0031】
数5のy方向成分を考えるとき、図1に示す構成の工作機械においては、主軸頭4はZ方向にのみ変位可能であるためγHy=rHyであり、さらにγTy=rLyと見なせる場合、数4から次式が成立する。
【0032】
【数6】
【0033】
数4及び数6より、次式が成立する。
【0034】
【数7】
【0035】
テーブルのy方向成分を数7より算出されたγTyにとることで、機械全体の重心位置を目標位置γyに一致させることができる。
図3に基づいて具体的に説明すると、実線部によりテーブル5と積載物6の位置が示されており、その位置が現在の可動部の位置23として示されている。また、21はそのときの、固定部、可動部を合わせた工作機械全体の重心位置を示しており、22は工作機械全体の重心位置21のy方向成分を示している。
そして、入力手段10等により目標とする重心位置31が指定されると(32は目標とする重心位置31のy方向成分)、目標とする重心位置31に工作機械全体の重心位置が一致するようにするための可動部の位置33を可動部位置補正手段により算出し、可動部の位置をかかる可動部の位置33に一致させるように移動させる。
【0036】
また、一般に機械可動部には、物理的に、あるいはソフトウェアにより、可動範囲に制限が設けられているため、数7による値がこの範囲を超える場合は、メッセージを出すなどして警告を与えるようにすることもできる。
【符号の説明】
【0037】
1 数値制御装置
2 ベッド(固定部)
3 コラム(固定部)
4 主軸頭(可動部)
5 テーブル(可動部)
6 積載物
7 CPU
8 メモリ
9 表示装置
10 入力手段
11 工作機械
21 現在の重心位置
22 現在の重心位置のy方向成分
23 現在の可動部の位置
31 目標とする重心位置
32 目標とする重心位置のy方向成分
33 重心位置が目標とする重心位置に一致するための可動部の位置
90 基準座標系
91 基準位置マーク
図1
図2
図3