(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973001
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月17日
(54)【発明の名称】表面被覆材料及びこれを利用する切削工具及び工作機械
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20160804BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20160804BHJP
【FI】
C23C14/06 A
B23B27/14 A
C23C14/06 P
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-560738(P2014-560738)
(86)(22)【出願日】2014年1月30日
(86)【国際出願番号】JP2014052025
(87)【国際公開番号】WO2014123053
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2015年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-22091(P2013-22091)
(32)【優先日】2013年2月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】315017775
【氏名又は名称】三菱重工工作機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100182224
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】三▲崎▼ 雅信
(72)【発明者】
【氏名】菊池 泰路
【審査官】
山田 頼通
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−284642(JP,A)
【文献】
特開2010−207916(JP,A)
【文献】
特開2010−001547(JP,A)
【文献】
再公表特許第2009/037776(JP,A1)
【文献】
再公表特許第2010/150411(JP,A1)
【文献】
特開2009−101491(JP,A)
【文献】
特開2011−045970(JP,A)
【文献】
特開2010−137335(JP,A)
【文献】
特開2010−137336(JP,A)
【文献】
特開2008−007835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム,クロム,ケイ素の窒化物からなるA層と、アルミニウム,クロム,イットリウムの窒化物からなるB層とが交互に1層以上積層してなる上部層を表面に有し、
前記上部層が、前記A層および前記B層とは別の下部層をなす金属窒化物の表面に設けられ、
前記B層がさらにケイ素の窒化物を含み、
前記A層および前記B層の厚さは、それぞれ150nm以下である
ことを特徴とする表面被覆材料。
【請求項2】
請求項1に記載された表面被覆材料であって、
前記A層は、組成式:(Al1-a-bCraSib)Nで表した場合、原子比で、0.15≦a≦0.60、0.01≦b≦0.1を満足し、
前記B層は、組成式:(Al1-c-d-eCrcSidYe)Nで表した場合、原子比で、0.15≦c≦0.60、0.01≦d≦0.1、0.005≦e≦0.1を満足している
ことを特徴とする表面被覆材料。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された表面被覆材料であって、
前記上部層の厚さが2μm以上8μm以下である
ことを特徴とする表面被覆材料。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載された表面被覆材料であって、
前記下部層の前記金属窒化物が、チタン,アルミニウム,クロム,ジルコニウムのうちの少なくとも一種の窒化物からなる
ことを特徴とする表面被覆材料。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載された表面被覆材料であって、
前記下部層の前記金属窒化物が、基材の表面に設けられている
ことを特徴とする表面被覆材料。
【請求項6】
請求項5に記載された表面被覆材料であって、
前記基材が、高速度工具鋼または超硬合金からなる
ことを特徴とする表面被覆材料。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載された表面被覆材料からなる
ことを特徴とする切削工具。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載された表面被覆材料からなる切削工具を備えている
ことを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被覆材料及びこれを利用する切削工具及び工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械で切削加工を行う切削工具として、イオンプレーティングに代表される物理蒸着法を用いて基材の表面に高硬度皮膜を形成するものが開発されている。その中でも、TiN系やTiAlN系などの金属窒化物の層を基材の表面に形成するものが最も実用化が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−25566号公報
【特許文献2】特開2005−330539号公報
【特許文献3】特開2009−285758号公報
【特許文献4】特許第3963354号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した切削工具は、800℃を超えるようなさらなる高温領域で使用すると、上記金属窒化物の酸化が始まるため、長時間使用できないという問題があった。このため、さらなる高温領域での使用を可能にする切削工具として、AlCrN皮膜や(AlCrM)N皮膜(MはCrを除く周期律表4a,5a,6a族の元素、B,Si,Yのうちから選ばれた少なくとも1種又は2種以上の元素)などの表面被覆材料を基材の表面に設けることが考えられている(例えば、上記の特許文献1〜4参照)。
【0005】
しかしながら、上述した表面被覆材料を基材の表面に設けた切削工具においては、表面被覆材料の密着性の点で問題があり、高い発熱に伴い切れ刃部に局部的に高負荷がかかるような高速高送りの切削条件では、表面被覆材料の剥離やチッピング(微少欠け)が早期に発生し、比較的短時間で寿命に至りこの表面被覆材料が本来持つ高温領域での耐摩耗性に優れた特性を十分発揮できないという課題がある。
【0006】
このような問題は、上述したような工作機械に使用される切削工具に限らず、高温領域での耐摩耗性に優れた特性を要求される表面被覆材料が適用される部品や金型であれば、上述の場合と同様に生じ得ることである。
【0007】
このようなことから、本発明は、前述した課題を解決するために為されたものであって、高耐剥離性及び高耐チッピング性を発現することができる表面被覆材料及びこれを利用する切削工具及び工作機械を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決する第1の発明に係る表面被覆材料は、
アルミニウム,クロム,ケイ素の窒化物からなるA層と、アルミニウム,クロム,イットリウムの窒化物からなるB層とが交互に1層以上積層してなる上部層を表面に有し、
前記上部層が、
前記A層および前記B層とは別の下部層をなす金属窒化物の表面に設けられ
、
前記B層がさらにケイ素の窒化物を含み、
前記A層および前記B層の厚さは、それぞれ150nm以下である
ことを特徴とする。
【0012】
上述した課題を解決する第
2の発明に係る表面被覆材料は、前述した
第1の発明に係る表面被覆材料であって、
前記A層は、組成式:(Al
1-a-bCr
aSi
b)Nで表した場合、原子比で、0.15≦a≦0.60、0.01≦b≦0.1を満足し、
前記B層は、組成式:(Al
1-c-d-eCr
cSi
dY
e)Nで表した場合、原子比で、0.15≦c≦0.60、0.01≦d≦0.1、0.005≦e≦0.1を満足している
ことを特徴とする。
【0014】
上述した課題を解決する第
3の発明に係る表面被覆材料は、前述した第1
または第
2の発
明に係る表面被覆材料であって、
前記上部層の厚さが2μm以上8μm以下である
ことを特徴とする。
【0015】
上述した課題を解決する第
4の発明に係る表面被覆材料は、前述した第1乃至第
3の発明の何れか一つに係る表面被覆材料であって、
前記下部層の前記金属窒化物が、チタン,アルミニウム,クロム,ジルコニウムのうちの少なくとも一種の窒化物からなる
ことを特徴とする。
【0016】
上述した課題を解決する第
5の発明に係る表面被覆材料は、前述した第1乃至第
4の発明の何れか一つに係る表面被覆材料であって、
前記下部層の前記金属窒化物が、基材の表面に設けられている
ことを特徴とする。
【0017】
上述した課題を解決する第
6の発明に係る表面被覆材料は、前述した第
5の発明に係る表面被覆材料であって、
前記基材が、高速度工具鋼または超硬合金からなる
ことを特徴とする。
【0018】
上述した課題を解決する第
7の発明に係る切削工具は、前述した第1乃至第
6の発明の何れか一つに係る表面被覆材料からなることを特徴とする。
【0019】
上述した課題を解決する第
8の発明に係る工作機械は、前述した第1乃至第
6の発明の何れか一つに係る表面被覆材料からなる切削工具を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る表面被覆材料によれば、高耐剥離性及び高耐チッピング性を発現することができることから、上部層が本来持っている高温領域での耐摩耗性に優れた特性を十分に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る表面被覆材料の一実施形態の構造説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る表面被覆材料及びこれを利用する切削工具及び工作機械を好適に実施するための形態を図面に基づいて説明するが、本発明は、図面に基づいて説明する以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0023】
本発明に係る表面被覆材料及びこれを利用する切削工具及び工作機械の一実施形態を
図1に基づいて説明する。
【0024】
図1に示すように、本実施形態に係る表面被覆材料10は、高速度工具鋼や超硬合金からなる基材11と、基材11の表面に設けられてチタン(Ti),アルミニウム(Al),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも一種の窒化物(N)からなる下部層12と、下部層12の表面に設けられて、アルミニウム(Al)とクロム(Cr)とケイ素(Si)との窒化物(N)からなるA層14と、アルミニウム(Al)とクロム(Cr)とイットリウム(Y)との窒化物(N)からなるB層15とが交互に1層以上(図示例では7層)積層してなる上部層13とを備えてなるものである。
【0025】
また、前記B層15は、ケイ素(Si)の窒化物(N)を含むことが好ましい。
【0026】
このような表面被覆材料10は、スパッタ蒸着法やイオンプレーティング法等のような物理蒸着法(PVD)等により、前記基材11に対して、上述した組成物からなる前記下部層12を設けた後に、前記A層14と前記B層15とを交互に1層以上積層してなる前記上部層13を設けて、容易に製造することができる。
【0027】
このような前記表面被覆材料10においては、(AlCrSi)NからなるA層14と(AlCrY)Nまたは(AlCrSiY)NからなるB層15との交互積層構造(多層構造)にすることにより、上部層13の耐剥離性及び耐チッピング性を向上させ、Al,Cr,Si,Yを必須成分とする複合窒化物である硬質皮膜が本来持っている高温領域での耐摩耗性に優れた特性を十分に発揮させることができる。
【0028】
さらに、下部層12が、チタン(Ti),アルミニウム(Al),クロム(Cr),ジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも一種の窒化物(例えば、TiN、CrN、ZrN、TiAlNなど)からなることにより、基材11(切削工具表面)との密着性を向上させることができる。
【0029】
したがって、本実施形態に係る表面被覆材料10を利用した切削工具及び工作機械においては、局部的に高負荷がかかるような条件で使用しても、前記上部層13の剥離やチッピングの発生を長期に亘って防止することができることから、前記上部層13が本来持っている高温領域での耐摩耗性に優れた特性を十分に発揮させることができる。
【0030】
なお、前記B層15は、組成式:(Al
1-c-dCr
cY
d)Nで表した場合、原子比で、0.15≦c≦0.6、0.005≦d≦0.1を満足することが好ましい。なぜなら、前記cの組成比率が0.15よりも小さいと、アルミニウム(Al)元素比率が高くなる程、特に、アルミニウム(Al)元素比率が0.75を超えると、B層15自体の硬度が低下しやすくなるため、あまり好ましくなく、前記cの組成比率が0.6よりも大きくなると、クロム(Cr)元素比率が高くなる程、B層15自体の硬度が低下しやすくなるため、あまり好ましくなく、前記dの組成比率が0.005よりも小さいと、イットリウム(Y)添加による耐熱性向上の効果を得にくくなるため、あまり好ましくなく、前記dの組成比率が0.1よりも大きくなると、B層15自体を製造しにくくなるため、あまり好ましくないからである。
【0031】
前記B層15を、原子比で、0.15≦c≦0.6、0.005≦d≦0.1を満足する組成式:(Al
1-c-dCr
cY
d)Nで表すことができるとき、前記A層14は、組成式:(Al
1-a-bCr
aSi
b)Nで表した場合、原子比で、0.15≦a≦0.59、0.01≦b≦0.1を満足することが好ましい。なぜなら、前記aの組成比率が0.15よりも小さいと、アルミニウム(Al)元素比率が高くなる程、特に、アルミニウム(Al)元素比率が0.75を超えると、A層14自体の硬度が低下しやすくなりやすいため、あまり好ましくなく、前記aの組成比率が0.59よりも大きくなると、クロム(Cr)元素比率が高くなる程、A層14自体の硬度が低下しやすくなりやすいため、あまり好ましくなく、前記bの組成比率が0.01よりも小さいと、ケイ素(Si)添加による耐熱性向上の効果を得にくくなりやすいため、あまり好ましくなく、前記bの組成比率が0.1よりも大きくなると、A層14自体を製造しにくくなりやすいため、あまり好ましくないからである。
【0032】
なお、前記B層15は、組成式:(Al
1-c-d-eCr
cSi
dY
e)Nで表した場合、原子比で、0.15≦c≦0.60、0.01≦d≦0.1、0.005≦e≦0.1を満足することが好ましい。なぜなら、前記cの組成比率が0.15よりも小さいと、アルミニウム(Al)元素比率が高くなる程、特に、アルミニウム(Al)元素比率が0.75を超えると、B層15自体の硬度が低下しやすくなるため、あまり好ましくなく、前記cの組成比率が0.60よりも大きくなると、クロム(Cr)元素比率が高くなる程、B層15自体の硬度が低下しやすくなるため、あまり好ましくなく、前記dの組成比率が0.01よりも小さいと、ケイ素(Si)添加による耐熱性向上の効果を得にくくなるため、あまり好ましくなく、前記dの組成比率が0.1よりも大きくなると、成膜時のターゲット放電が不安定になりB層15自体を製造しにくくなるため、あまり好ましくなく、前記eの組成比率が0.005よりも小さいと、イットリウム(Y)添加による耐摩耗性向上の効果を得にくくなるため、あまり好ましくなく、前記eの組成比率が0.1よりも大きくなると、成膜時のターゲット放電が不安定になりB層15自体を製造しにくくなるため、あまり好ましくないからである。
【0033】
前記B層15を、原子比で、0.15≦c≦0.60、0.01≦d≦0.1、0.005≦e≦0.1を満足する組成式:(Al
1-c-d-eCr
cSi
dY
e)Nで表すことができるとき、前記A層14は、組成式:(Al
1-a-bCr
aSi
b)Nで表した場合、原子比で、0.15≦a≦0.60、0.01≦b≦0.1を満足することが好ましい。なぜなら、前記aの組成比率が0.15よりも小さいと、アルミニウム(Al)元素比率が高くなる程、特に、アルミニウム(Al)元素比率が0.75を超えると、A層14自体の硬度が低下しやすくなりやすいため、あまり好ましくなく、前記aの組成比率が0.60よりも大きくなると、クロム(Cr)元素比率が高くなる程、A層14自体の硬度が低下しやすくなりやすいため、あまり好ましくなく、前記bの組成比率が0.01よりも小さいと、ケイ素(Si)添加による耐熱性向上の効果を得にくくなりやすいため、あまり好ましくなく、前記bの組成比率が0.1よりも大きくなると、A層14自体を製造しにくくなりやすいため、あまり好ましくないからである。
【0034】
また、前記A層14が(AlCrSi)Nからなり、前記B層が(AlCrY)Nからなる場合、前記A層14及び前記B層15は、厚さがそれぞれ240nm以下(特に、200nm以下)であると好ましい。なぜなら、A層14及びB層15の厚さが240nmよりも厚くなると、前記A層14及び前記B層15(単層)での塑性変形性が低下し、交互積層構造より得られる耐剥離性及び耐チッピング性が低くなりやすいため、あまり好ましくないからである。
【0035】
前記A層14が(AlCrSi)Nからなり、前記B層15が(AlCrSiY)Nからなる場合、前記A層14及び前記B層15は、厚さがそれぞれ150nm以下(特に、100nm以下)であると好ましい。なぜなら、A層14及びB層15の厚さが150nmよりも厚くなると、前記A層14及び前記B層15(単層)での塑性変形性が低下し、交互積層構造より得られる耐剥離性及び耐チッピング性が低くなりやすいため、あまり好ましくないからである。
【0036】
前記A層14と前記B層15は、厚さが同じであると好ましい。なぜなら、前記A層14と前記B層15の厚さが異なると、前記A層14と前記B層15との間での剥離性が高まりやすいため、あまり好ましくないからである。
【0037】
前記上部層13は、厚さが2μm〜8μm(特に、3μm〜6μm)であると好ましい。なぜなら、上部層13の厚さが8μmを超えると、高速高送りの切削条件において、特に断続切削加工において、切れ刃部に剥離やチッピングが発生し易くなり、寿命が短くなりやすいため、あまり好ましくなく、上部層13の厚さが2μmを下回ると、上部層13の耐摩耗性を十分に発現することができず、切削性能を長期に亘って確保しにくくなるため、あまり好ましくないからである。
【0038】
前記基材11は、高速度工具鋼または超硬合金からなることが好ましい。なぜなら、前記基材11が高速度工具鋼または超硬合金からなることにより、高速高送りの切削条件のときに、特に断続切削加工において、下部層12の剥離やチッピングなどを発生させることなく、優れた耐摩耗性を発揮し、長期に亘って安定した切削性能を示すことができるからである。
【0039】
また、上記切削工具としては、切削加工を施す工具であれば、特に限定されるものではないが、ホブやピニオンカッタ等のような歯切り工具や、ブローチであると、非常に好適であり、上記工作機械としては、切削加工を施すものであれば、特に限定されるものではないが、ホブ盤や歯車形削り盤等のような歯切り盤や、ブローチ盤であると、非常に好適である。
【0040】
[他の実施形態]
なお、前述した実施形態においては、高速度工具鋼や超硬合金からなる基材11を適用した表面被覆材料10の場合について説明したが、他の金属材料(例えば、各種の特殊鋼や合金鋼等)からなる基材を適用することも可能である。
【0041】
前述した実施形態においては、A層14とB層15とを交互に1層以上積層してなる上部層13を備え、A層14の表面にB層15を設けた表面被覆材料10の場合について説明したが、A層14とB層15とを交互に1層以上積層してなる上部層13を備え、B層15の表面にA層14を設けた表面被覆材料とすることも可能である。
【実施例】
【0042】
本発明に係る表面被覆材料及びこれを利用する切削工具及び工作機械の作用効果を確認するために行った実施例を以下に説明するが、本発明は、各種データに基づいて説明する以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
[確認試験1]
本試験において、アークイオンプレーティング装置を用いて高速度工具鋼SKH55を基材とした舞ツール工具(切削工具)の表面に以下の表1に示す表面被覆材料を設けた試験体及び比較体及び参考体を作製した。これら試験体及び比較体及び参考体に対し、下記の切削条件で加工試験を行い、工具の逃げ面摩耗幅を測定した。
【0044】
<切削条件>
被削材種 :SCM415
切削方法 :断続切削
切削速度 :200m/分
送り :1.2mm/刃
切込み深さ:1mm
切削油材 :エアーブロー
切削長 :1m
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
上述した表2及び表3に示すように、アルミニウム(Al),クロム(Cr),ケイ素(Si)の窒化物(N)からなるA層と、アルミニウム(Al),クロム(Cr),イットリウム(Y)の窒化物(N)からなるB層とが交互に1層以上積層してなる上部層を表面に有し、前記上部層を金属窒化物の表面に設けた表面被覆材料とすることにより、基材11あるいは上部層13での耐剥離性及び耐チッピング性を改善することができることが確認された。これにより、アルミニウム(Al),クロム(Cr),ケイ素(Si),イットリウム(Y)を主成分とする複合窒化物である上部層13が本来持っている高温領域での耐摩耗性に優れた特性を十分に発揮させることができる。
【0049】
[確認試験2]
本試験において、アークイオンプレーティング装置を用いて高速度工具鋼SKH55を基材とした舞ツール工具(切削工具)の表面に以下の表4に示す表面被覆材料を設けた試験体及び比較体及び参考体を作製した。これら試験体及び比較体及び参考体に対し、上記確認試験1と同じ切削条件で加工試験を行い、工具の逃げ面摩耗幅を測定した。
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
上述した表5及び表6に示すように、アルミニウム(Al),クロム(Cr),ケイ素(Si)の窒化物(N)からなるA層と、アルミニウム(Al),クロム(Cr),ケイ素(Si),イットリウム(Y)の窒化物(N)からなるB層とが交互に1層以上積層してなる上部層を表面に有し、前記上部層を金属窒化物の表面に設けた表面被覆材料とすることにより、基材11あるいは上部層13での耐剥離性及び耐チッピング性を改善することができることが確認された。これにより、アルミニウム(Al),クロム(Cr),ケイ素(Si),イットリウム(Y)を主成分とする複合窒化物である上部層13が本来持っている高温領域での耐摩耗性に優れた特性を十分に発揮させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る表面被覆材料及びこれを利用する切削工具及び工作機械は、高耐剥離性及び高耐チッピング性を発現することができ、上部層が本来持っている高温領域での耐摩耗性に優れた特性を十分に発揮させることができるので、産業上、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
10 表面被覆材料
11 基材
12 下部層
13 上部層
14 A層
15 B層