(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定部が、売電価格が所定の閾値未満であるか否か、前記マハラノビス距離、および前記運転可能時間により前記タービンのオーバーファイアリング運転の可否を判定する
請求項1に記載のプラント分析装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《第1の実施形態》
以下、図面を参照しながら第1の実施形態について詳しく説明する。
図1は、分析対象の一例に係る発電プラントの概略構成図である。
プラント分析装置1は、発電プラント2が備えるタービンのオーバーファイアリング運転の可否を判定する。本実施形態において、プラント分析装置1の分析の対象となる発電プラント2は、
図1に示すように、ガスタービンと蒸気タービンとを備えるGTCCプラントである。
図1に示す発電プラント2は、ガスタービン10と、第1発電機20と、排熱回収ボイラー30と、蒸気タービン40と、第2発電機50と、復水器60とを備えている。ガスタービン10は、空気Aを圧縮し、圧縮された空気中で燃料Fを燃焼させることで発生する高温高圧の燃焼ガスにより駆動する。第1発電機20は、ガスタービン10の駆動で発電する。排熱回収ボイラー30は、ガスタービン10からの排気ガスの熱で蒸気Sを生成する。蒸気タービン40は、排熱回収ボイラー30からの蒸気Sで駆動する。第2発電機50は、蒸気タービン40の駆動で発電する。復水器60は、蒸気タービン40から排気された蒸気Sを冷却水Cにより冷却することで復水Wに戻す。復水器60により戻された復水Wは、排熱回収ボイラー30に供給される。なお、
図1に示す発電プラント2は、分析対象の一例であって、プラント分析装置1の分析対象は、コンベンショナルプラントなどの他の発電プラントであっても良い。
【0015】
図2は、第1の実施形態に係るプラント分析装置の構成を示す概略ブロック図である。
プラント分析装置1は、データ収集部101、ヒートバランス算出部102、弱点特定部103、消費寿命算出部104、消費寿命記憶部105、入力部106、部品寿命データベース107、点検時期記憶部108、時間算出部109、距離算出部110、売電情報取得部111、判定部112、出力部113を備える。
【0016】
データ収集部101は、発電プラント2からリアルタイムにタービン等の発電プラント2の運転データを収集する。具体的には、データ収集部101は、タービン等に設けられたセンサから所定の収集周期(例えば、5分)ごとに、運転データを収集する。収集周期は、監視の即時性が失われない程度に短い周期である。運転データは、発電プラントが運転中であるか否かに関わらず収集される。運転データの例としては、流量、圧力、温度、振動、およびその他の状態量が挙げられる。タービンに設けられるセンサは、一般に用いられるセンサに加え、特殊計測用センサを含んでもよい。特殊計測用センサの例としては、最終段動翼で仕事をした流体のガス温度を計測するセンサおよび動翼先端と車室との隙間を計測するチップクリアランスセンサが挙げられる。データ収集部101は、タービンの状態量を取得する状態量収集部の一例である。
【0017】
ヒートバランス算出部102は、データ収集部101が収集した運転データに基づいて、タービン等の発電プラント2のヒートバランスを算出する。ヒートバランスとは、タービン等の発電プラント2の複数の部分それぞれにおける温度、圧力、エンタルピ、流量、およびその他の状態量である。ヒートバランス算出部102は、運転データに基づくシミュレーションによりヒートバランスを算出する。ヒートバランス算出のためのシミュレーションの手法の例としては、FEM(Finite Element Method)およびCFD(Computational Fluid Dynamics)が挙げられる。ヒートバランス算出部102は、タービンの状態量を取得する状態量収集部の一例である。
【0018】
弱点特定部103は、ヒートバランス算出部102が算出したヒートバランスに基づいて、タービンの各パーツのうち高負荷運転時に最も高温となる部位を特定する。
【0019】
消費寿命算出部104は、ヒートバランス算出部102が算出したヒートバランスに基づいて、直近の収集周期における各パーツの劣化量を示すLMP(Larson-Miller Parameter)値L
cを算出する。つまり、消費寿命算出部104は、状態量の履歴に関する履歴変数を算出する変数算出部の一例である。LMP値L
cは、以下に示す式(1)により求められるパラメータである。
【0021】
T
cは、パーツの熱力学温度を示す。熱力学温度は、セルシウス温度に273.15を加算した値と等価である。パーツの熱力学温度は、ヒートバランス算出部102が算出したヒートバランスのうち弱点特定部103が特定した部位の温度によって特定される。tは、温度T
cでのタービンの運転時間を示す。つまり、時間tは、データ収集部101による収集周期に等しい。Cは、パーツの材料により定められる定数である。例えばパーツの材料が低炭素鋼またはクロムモリブデン鋼である場合、定数Cは20であってよい。また例えばパーツの材料がステンレス鋼である場合、定数Cは15であってよい。
このように、LMP値は、パーツの熱力学温度と運転時間とから特定されるパラメータである。つまり、LMP値は、パーツに掛かる温度の履歴に関する履歴変数の一例である。LMP値により、クリープ変形の程度の状態を表すことができる。
【0022】
また消費寿命算出部104は、算出したLMP値L
cに基づいて、以下に示す式(2)により、パーツの定格温度T
sで換算したパーツの消費寿命t
cを算出する。
【0024】
消費寿命記憶部105は、消費寿命算出部104が算出した消費寿命t
cの積算値(以下、累積消費寿命Σt
cという)を、タービンのパーツごとに記憶する。
【0025】
入力部106は、運営者からオーバーファイアリング運転の可否判定処理の実行指示の入力を受け付ける。例えば、入力部106は、判定開始ボタンの押下により、実行指示の入力を受け付ける。
【0026】
部品寿命データベース107は、タービンの各パーツの設計寿命t
sおよび定格温度T
cを記憶する。
【0027】
点検時期記憶部108は、予め定められたタービンの点検時期を記憶する。点検時期は、プラント分析装置1の運営者によって指定される日時である。
【0028】
時間算出部109は、各パーツの累積消費寿命Σt
cと、各パーツの設計寿命t
sと、タービンの点検時期とに基づいて、タービンのオーバーファイアリング運転での運転可能時間t
oを算出する。具体的には、時間算出部109は、設計寿命t
sから累積消費寿命Σt
cを減算することで、パーツの残寿命t
lを算出する。残寿命t
lは、定格温度t
cでのパーツの運転可能時間である。時間算出部109は、算出された残寿命t
lとパーツの定格温度t
cとに基づいて、以下に示す式(3)によりLMP値L
lを算出する。そして、時間算出部109は、LMP値L
lとオーバーファイアリング温度T
oとに基づいて、以下に示す式(4)により、点検時期まで全てのパーツを製品寿命に至らせないための運転可能時間t
oを算出する。
【0031】
距離算出部110は、ヒートバランス算出部102が算出したヒートバランスに基づいてタービンのマハラノビス距離を算出する。マハラノビス距離は、特定時点のタービンの状態と正常状態との乖離の度合いを示す。具体的には、距離算出部110は、過去にタービンから取得された複数の状態量によって構成される単位空間に、ヒートバランス算出部102が算出したヒートバランスを射影することで、マハラノビス距離を算出する。単位空間とは、マハラノビス距離の算出の基準とするデータ群のことである。また、マハラノビス距離は、単位空間における状態量の分散や相関に応じて重み付けがなされた距離であり、単位空間におけるデータ群との類似度が低いほど大きい値となる。
【0032】
売電情報取得部111は、現在の売電価格を示す売電情報を取得する。売電情報取得部111は、インターネットを介して外部サーバから売電情報を取得してもよいし、運営者によって売電情報が入力されてもよい。
【0033】
判定部112は、時間算出部109が算出した運転可能時間、距離算出部110が算出したマハラノビス距離、および売電情報取得部111が取得した売電情報のそれぞれに基づいて、タービンのオーバーファイアリング運転の可否を判定する。判定部112は、運転可能時間が所定時間未満である場合に、オーバーファイアリング運転をすべきでないと判定する。また、判定部112は、マハラノビス距離が可否判定閾値を超える場合に、オーバーファイアリング運転をすべきでないと判定する。さらに、判定部112は、売電情報が示す売電価格が所定価格未満である場合に、オーバーファイアリング運転をすべきでないと判定する。
【0034】
出力部113は、判定部112による判定結果を示す提案情報を出力する。提案情報の出力形式の例としては、ディスプレイへの表示、記憶媒体への記録、およびシートへの印刷が挙げられる。提案情報の例としては、運転可能時間に基づくオーバーファイアリング運転の可否、マハラノビス距離に基づくオーバーファイアリング運転の可否、および売電価格に基づくオーバーファイアリング運転の可否が記載されたリストが挙げられる。
【0035】
ここで、本実施形態に係るプラント分析装置の動作について説明する。
図3は、第1の実施形態に係るプラント分析装置の収集周期ごとの動作を示すフローチャートである。
プラント分析装置1は、収集周期ごとに、以下に示す処理を実行する。
まず、データ収集部101は、タービン等に設けられたセンサからタービン等の発電プラント2の運転データを収集する(ステップS1)。次に、ヒートバランス算出部102は、収集された運転データを入力としてタービン等の発電プラント2のヒートバランスを算出する(ステップS2)。
【0036】
次に、プラント分析装置1は、タービンのパーツを1つずつ選択し、選択されたパーツについて、それぞれ以下に示すステップS4からステップS6の処理を実行する(ステップS3)。
まず、弱点特定部103は、ヒートバランス算出部102の現在の演算結果および過去の演算結果の少なくとも一方に基づいて、選択されたパーツのうち、オーバーファイアリング運転時に最も高温となる部位を特定する(ステップS4)。
【0037】
次に、消費寿命算出部104は、ヒートバランス算出部102が算出したヒートバランスのうち、弱点特定部103が特定した部位に係る温度Tを用いて、選択されたパーツの直近の収集周期tの間における消費寿命を算出する(ステップS5)。つまり、消費寿命算出部104は、上述した式(1)および式(2)により消費寿命を算出する。そして、消費寿命算出部104は、消費寿命記憶部105が記憶する選択されたパーツに関連付けられた累積消費寿命に、算出した消費寿命を加算する(ステップS6)。これにより、消費寿命算出部104は、消費寿命記憶部105が記憶する累積消費寿命を更新する。
【0038】
プラント分析装置1は、上記ステップS1からステップS6の処理を収集周期ごとに実行することで、消費寿命記憶部105が記憶する累積消費寿命を最新の状態に保つことができる。
【0039】
ここで、本実施形態に係るプラント分析装置1によるオーバーファイアリング運転の可否判定動作について説明する。
図4は、第1の実施形態に係るプラント分析装置によるオーバーファイアリング運転の可否判定動作を示すフローチャートである。
運営者がプラント分析装置1にオーバーファイアリング運転の可否判定処理の実行指示を入力すると、入力部106は、実行指示の入力を受け付ける(ステップS101)。時間算出部109は、タービンのパーツを1つずつ選択し、選択されたパーツについて、それぞれ以下に示すステップS103からステップS104の処理を実行する(ステップS102)。
【0040】
まず、時間算出部109は、部品寿命データベース107が記憶する選択されたパーツに関連付けられた製品寿命から、消費寿命記憶部105が記憶する選択されたパーツに関連付けられた累積消費寿命を減算することで、選択されたパーツの残寿命を算出する(ステップS103)。次に、時間算出部109は、算出された残寿命と点検時期記憶部108が記憶する点検時期とに基づいて、現在時刻から点検時期までの間に選択されたパーツが設計寿命に至らないように、最大のオーバーファイアリング運転時間を算出する(ステップS104)。つまり、時間算出部109は、上述した式(3)および式(4)により、オーバーファイアリング運転時間を算出する。
【0041】
時間算出部109は、全てのパーツについてステップS103からステップS104の処理を実行すると、算出された各パーツのオーバーファイアリング運転時間のうち、最も短いものを、点検時期までタービンを製品寿命に至らせないための運転可能時間として特定する(ステップS105)。
【0042】
距離算出部110は、ヒートバランス算出部102が算出した直近のヒートバランスに基づいて、マハラノビス距離を算出する(ステップS106)。また、売電情報取得部111は、売電価格に関する売電情報を取得する(ステップS107)。
【0043】
判定部112は、時間算出部109が算出した運転可能時間に基づいて、タービンのオーバーファイアリング運転の可否を判定する(ステップS108)。具体的には、判定部112は、時間算出部109が算出した運転可能時間が所定時間(例えば、1時間)未満である場合に、オーバーファイアリング運転をすべきでないと判定する。次に、判定部112は、距離算出部110が算出したマハラノビス距離に基づいて、タービンのオーバーファイアリング運転の可否を判定する(ステップS109)。具体的には、判定部112は、マハラノビス距離が可否判定閾値(例えば、2)を超える場合に、オーバーファイアリング運転をすべきでないと判定する。判定部112は、売電情報取得部111が取得した売電情報に基づいて、タービンのオーバーファイアリング運転の可否を判定する(ステップS110)。具体的には、判定部112は、売電情報が示す売電価格が所定価格(例えば、年間の平均売電価格)未満である場合に、オーバーファイアリング運転をすべきでないと判定する。
【0044】
出力部113は、判定部112によるステップS108からステップS110の判定結果に基づいて、それぞれの判定結果を示す提案情報を生成する(ステップS111)。出力部113は、生成した提案情報を出力する(ステップS112)。
【0045】
図5は、第1の実施形態に係るプラント分析装置が出力する提案情報の一例である。
図5に示すように、出力部113は、提案情報としては、運転可能時間に基づくオーバーファイアリング運転の可否、マハラノビス距離に基づくオーバーファイアリング運転の可否、および売電価格に基づくオーバーファイアリング運転の可否が記載されたリストを出力する。これにより、運営者は、提案情報を参照し、タービンをオーバーファイアリング運転させるか否かを判断することができる。なお、運営者は、提案情報において、一部の条件がオーバーファイアリング運転をすべきでないことを示す場合であっても、タービンをオーバーファイアリング運転させてよい。
【0046】
このように、本実施形態によれば、プラント分析装置1は、タービンの設計寿命とタービンに掛かる温度の履歴を示すLMP値とに基づいて、タービンのオーバーファイアリング運転での運転可能時間を算出する。タービンのひずみは、温度が高いほど大きくなる。そのため、プラント分析装置1は、タービンの温度の履歴に基づいてタービンの寿命を管理することで、タービンの残り寿命を正確に特定することができる。したがって、本実施形態に係るプラント分析装置1は、オーバーファイアリング運転での運転可能時間を正確に算出することができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、プラント分析装置1は、運転可能時間に基づいてタービンのオーバーファイアリング運転の可否を判定する。これにより、タービンの運営者は、タービンをオーバーファイアリングすべきか否かを容易に判断することができる。なお、本実施形態に係るプラント分析装置1は、オーバーファイアリング運転の可否を提案情報として出力するが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係るプラント分析装置1は、判定部112による判定結果に従ってタービンの運転を自動制御してもよい。また、他の実施形態に係るプラント分析装置1は、タービンのオーバーファイアリング運転の可否を判定せず、運転可能時間を出力するものであってもよい。
他の実施形態においては、プラント分析装置1は、LMP値を用いずに運転可能時間を算出してもよい。例えば、他の実施形態に係るプラント分析装置1は、LMP値以外の履歴変数に基づいて運転可能時間を算出してもよい。また、他の実施形態に係るプラント分析装置1は、温度によらない運転時間の積算値に基づいて運転可能時間を算出してもよい。
【0048】
また、本実施形態によれば、プラント分析装置1は、タービンの点検時期までタービンを製品寿命に至らせないための運転可能時間を算出する。これにより、当該運転可能時間に従ってタービンをオーバーファイアリング運転させた場合に、次回の点検時期に、ちょうど設計寿命に至ったパーツを交換することができる。つまり、当該運転可能時間に従ってタービンをオーバーファイアリング運転させることで、次回の点検時期の前にタービンを運転できなくなる可能性を低減することができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、プラント分析装置1は、タービンの状態量に基づいて算出されたマハラノビス距離によりタービンのオーバーファイアリング運転の可否を判定する。タービンのオーバーファイアリングは、ベースロード運転より高い負荷での運転であるため、パーツにクリープ以外の劣化が生じる可能性がある。そのため、プラント分析装置1がマハラノビス距離によりタービンのオーバーファイアリング運転の可否を判定することで、オーバーファイアリングにより異常が生じるか否かを予測することができる。これにより、プラント分析装置1は、オーバーファイアリング運転の可否を正確に判定することができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、プラント分析装置1は、売電価格が所定の閾値未満である否かに基づいて、タービンのオーバーファイアリング運転の可否を判定する。つまり、プラント分析装置1は、売電価格が比較的高いときにオーバーファイアリング運転ができると判定する。これにより、運営者は、オーバーファイアリング運転が収益に見合っているときに、タービンをオーバーファイアリング運転させることができる。
【0051】
また本実施形態によれば、プラント分析装置1は、マハラノビス距離および売電価格の少なくとも一方と運転可能時間とを含む基準に基づいてオーバーファイアリング運転の可否を判定する。これにより、運転可能時間のみに基づいてオーバーファイアリング運転の可否を判定する場合と比較し、より適切にオーバーファイアリング運転の可否を判定することができる。
【0052】
《第2の実施形態》
以下、図面を参照しながら第2の実施形態について詳しく説明する。
第1の実施形態に係るプラント分析装置1は、現在時刻の売電価格に基づいて、オーバーファイアリング運転すべきか否かを判定する。これに対し、第2の実施形態に係るプラント分析装置1は、日ごとの売電価格示す売電価格スケジュールに基づいて、点検時期までの運転スケジュールを出力する。第2の実施形態に係るプラント分析装置1は、第1の実施形態に係るプラント分析装置1と判定部112の処理が異なる。
【0053】
ここで、本実施形態に係るプラント分析装置1によるオーバーファイアリング運転の可否判定動作について説明する。なお、本実施形態に係る収集周期ごとの動作は、第1の実施形態と同様である。
図6は、第2の実施形態に係るプラント分析装置によるオーバーファイアリング運転の可否判定動作を示すフローチャートである。
運営者がプラント分析装置1にオーバーファイアリング運転の可否判定処理の実行指示を入力すると、入力部106は、実行指示の入力を受け付ける(ステップS201)。次に、時間算出部109は、タービンのパーツを1つずつ選択し、選択されたパーツについて、それぞれ以下に示すステップS203からステップS204の処理を実行する(ステップS202)。
【0054】
まず、時間算出部109は、部品寿命データベース107に記憶する選択されたパーツの製品寿命から、消費寿命記憶部105に記憶する選択されたパーツの累積消費寿命を減算することで、選択されたパーツの残寿命を算出する(ステップS203)。次に、時間算出部109は、算出された残寿命と点検時期記憶部108が記憶する点検時期とに基づいて、現在時刻から点検時期までの間に選択されたパーツが設計寿命に至らないように、最大のオーバーファイアリング運転時間を算出する(ステップS204)。
【0055】
時間算出部109は、全てのパーツについてステップS203からステップS204の処理を実行すると、算出された各パーツのオーバーファイアリング運転時間のうち、最も短いものを、点検時期までタービンを製品寿命に至らせないための運転可能時間として特定する(ステップS205)。
【0056】
次に、距離算出部110は、ヒートバランス算出部102が算出した直近のヒートバランスに基づいて、マハラノビス距離を算出する(ステップS206)。また、売電情報取得部111は、売電情報として、日ごとの売電価格の推移を示す売電価格スケジュールを取得する(ステップS207)。
【0057】
判定部112は、距離算出部110が算出したマハラノビス距離に基づいて、タービンのオーバーファイアリング運転の可否を判定する(ステップS208)。具体的には、判定部112は、マハラノビス距離が可否判定閾値(例えば、2)を超える場合に、オーバーファイアリング運転をすべきでないと判定する。
【0058】
判定部112は、マハラノビス距離に基づく判定においてオーバーファイアリング運転ができると判定した場合(ステップS208:YES)、時間算出部109が算出した運転可能時間を1日あたりの運転継続時間で除算し、オーバーファイアリング運転ができる日数である運転可能日数を算出する(ステップS209)。次に、判定部112は、売電情報取得部111が取得した売電価格スケジュールに基づいて、現在から点検時期までの日の中から、売電価格が高い順に運転可能日数分の日を特定する(ステップS210)。そして、判定部112は、特定した日を、オーバーファイアリング運転ができる日であると判定する(ステップS211)。また、判定部112は、残りの日を、オーバーファイアリング運転をすべきでない日であると判定する(ステップS212)。つまり、判定部112は、時間算出部109が算出した運転可能時間と売電情報取得部111が取得した売電価格スケジュールとに基づいて、現在から点検時期までの各日について、オーバーファイアリング運転の可否を判定する。
【0059】
他方、判定部112は、マハラノビス距離に基づく判定においてオーバーファイアリング運転をすべきでないと判定した場合(ステップS208:NO)、現在から点検時期までの各日を、オーバーファイアリングを運転すべきでない日であると判定する(ステップS213)。
【0060】
次に、出力部113は、判定部112によるステップS211およびステップS212の判定結果、またはステップS213の判定結果に基づいて、運転スケジュールを示す提案情報を生成する(ステップS214)。つまり、運転スケジュールは、オーバーファイアリング運転ができる日と判定された日について、オーバーファイアリング運転を提案する。運転スケジュールは、オーバーファイアリング運転をすべきでない日と判定された日について、ベースロード運転を提案する。出力部113は、生成した提案情報を出力する(ステップS215)。
【0061】
図7は、第2の実施形態に係るプラント分析装置が出力する提案情報の一例である。
図7に示すように、出力部113は、提案情報として、現在から点検時期までの運転スケジュールを出力する。
図7に示す提案情報は、6日、13日、20日、24日、25日、および27日について、オーバーファイアリング運転を提案し(
図7における「OF(Over Firing)」)、残りの日について、ベースロード運転を提案している(
図7における「BL(Base Load)」。これにより、運営者は、提案情報を参照し、タービンをオーバーファイアリング運転させるか否かを判断することができる。なお、運営者は、提案情報において、ある日についてオーバーファイアリング運転が提案されていない場合であっても、タービンをオーバーファイアリング運転させてよい。
【0062】
このように、本実施形態によれば、プラント分析装置1は、オーバーファイアリング運転での運転可能時間と売電価格スケジュールとに基づいて、現在から点検時期までの各日について、オーバーファイアリング運転の可否を判定する。これによりプラント分析装置1は、収益が最も高くなるような運転スケジュールを生成することができる。
【0063】
《第3の実施形態》
以下、図面を参照しながら第3の実施形態について詳しく説明する。
第3の実施形態に係るプラント分析装置1は、第1の実施形態に係るプラント分析装置1の動作に加え、さらにタービンの障害を検出する。
【0064】
図8は、第3の実施形態に係るプラント分析装置の構成を示す概略ブロック図である。
第3の実施形態に係るプラント分析装置1は、第1の実施形態の構成に加え、障害検出部114をさらに備える。
障害検出部114は、距離算出部110が算出したマハラノビス距離と障害検出閾値とを比較することにより、タービンの障害を検出する。具体的には、障害検出部114は、算出されたマハラノビス距離が障害検出閾値(例えば、3)を超える場合に、タービンに障害が発生していると判定する。オーバーファイアリング運転は、タービンの定格負荷を超える負荷による運転であるため、タービンに発生する保守部品の損壊等の障害の可能性がベースロード運転よりも高くなる。そのため、判定部112が用いる可否判定閾値は、障害検出部114が用いる障害検出閾値より小さく設定される。つまり、判定部112は、障害検出部114によって障害が発生していないと判定される場合であっても、オーバーファイアリング運転すべきでないと判定することがある。
【0065】
ここで、本実施形態に係る収集周期ごとの動作について説明する。なお、本実施形態に係るプラント分析装置1による点検時期決定動作は、第1の実施形態と同様である。
図9は、第3の実施形態に係るプラント分析装置の収集周期ごとの動作を示すフローチャートである。
プラント分析装置1は、収集周期ごとに、以下に示す処理を実行する。
まず、データ収集部101は、タービンに設けられたセンサからタービンの運転データを収集する(ステップS301)。次に、ヒートバランス算出部102は、収集された運転データを入力としてタービンのヒートバランスを算出する(ステップS302)。
【0066】
次に、プラント分析装置1は、タービンのパーツを1つずつ選択し、選択されたパーツについて、それぞれ以下に示すステップS304からステップS306の処理を実行する(ステップS303)。
まず、弱点特定部103は、ヒートバランス算出部102の現在の演算結果および過去の演算結果の少なくとも一方に基づいて、選択されたパーツのうち、オーバーファイアリング運転時に最も高温となる部位を特定する(ステップS304)。
【0067】
次に、消費寿命算出部104は、ヒートバランス算出部102が算出したヒートバランスのうち、弱点特定部103が特定した部位に係る温度を用いて、選択されたパーツの直近の収集周期の間における消費寿命を算出する(ステップS305)。そして、消費寿命算出部104は、消費寿命記憶部105が記憶する選択されたパーツに関連付けられた累積消費寿命に、算出した消費寿命を加算する(ステップS306)。これにより、消費寿命算出部104は、消費寿命記憶部105が記憶する累積消費寿命を更新する。
【0068】
プラント分析装置1が全てのパーツについてステップS304からステップS306の処理を実行すると、距離算出部110は、ヒートバランス算出部102が算出したヒートバランスに基づいて、マハラノビス距離を算出する(ステップS307)。
【0069】
次に、障害検出部114は、距離算出部110が算出したマハラノビス距離に基づいて、タービンの障害の有無を判定する(ステップS308)。具体的には、判定部112は、マハラノビス距離が障害検出閾値(例えば、3)を超える場合に、タービンに障害が発生していると判定する。タービンに障害が発生している場合(ステップS308:YES)、出力部113は、タービンに障害が発生していることを示すアラートを出力する(ステップS309)。他方、タービンに障害が発生していない場合(ステップS308:NO)、処理を終了する。
【0070】
このように、本実施形態によれば、障害検出部114は、距離算出部110が算出するマハラノビス距離に基づいて、タービンの障害の有無を判定する。これにより、プラント分析装置1は、オーバーファイアリング運転の可否を判定するとともに、タービンの障害の有無を検出することができる。
【0071】
なお、本実施形態のプラント分析装置1は、第1の実施形態の構成にさらに障害検出部114を備えるものであるが、これに限られない。例えば、他の実施形態のプラント分析装置1は、第2の実施形態の構成にさらに障害検出部114を備えるものであってもよい。
【0072】
以上、図面を参照していくつかの実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、上述した実施形態では、弱点特定部103が、オーバーファイアリング運転時に最も高温となる部位を特定するが、これに限られない。例えば、他の実施形態では、オーバーファイアリング運転時に最も高温となる部位が、タービンの設計者などによって予め特定されていてもよい。また他の実施形態に係る消費寿命算出部104は、オーバーファイアリング運転時に最も高温となる部位の温度ではなく、パーツの平均温度などの他の温度に基づいてLMP値を算出しても良い。
【0073】
また、上述した実施形態では、プラント分析装置1が温度履歴変数としてLMP値を用いることで、クリープ変形によりパーツが寿命に至るか否かを判定するが、これに限られない。例えば、他の実施形態では、他の温度履歴変数を用いても良い。例えば、他の実施形態に係るプラント分析装置1は、温度とサイクル数との関係を示す温度履歴変数を用いることで、低サイクル疲労によりパーツが寿命に至るか否かを判定してもよい。また、他の実施形態に係るプラント分析装置1は、複数の温度履歴変数を用いて、クリープ変形および低サイクル疲労など、複数の劣化事由に基づいてパーツが寿命に至るか否かを判定してもよい。
【0074】
また、上述した実施形態では、プラント分析装置1がタービンを構成する各パーツについてのオーバーファイアリング運転時間に基づいて、タービン全体のオーバーファイアリング運転での運転可能時間を算出するが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係るプラント分析装置1は、パーツごとのオーバーファイアリング運転時間の算出を行わずに、タービン全体の設計寿命に基づいて直接的にタービン全体のオーバーファイアリング運転での運転可能時間を算出してもよい。
【0075】
また、上述した実施形態では、弱点特定部103、消費寿命算出部104、および距離算出部110が、ヒートバランス算出部102が算出したヒートバランスに基づいて計算を行うが、これに限られない。例えば、他の実施形態では、弱点特定部103、消費寿命算出部104、および距離算出部110の少なくとも1つが、データ収集部101が収集した運転データに基づいて計算を行ってもよい。
特に、他の実施形態において、弱点特定部103、消費寿命算出部104、および距離算出部110のいずれもが、データ収集部101が収集した運転データに基づいて計算を行う場合、プラント分析装置1は、ヒートバランス算出部102を備えなくてもよい。
【0076】
図10は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、インタフェース904を備える。
上述のプラント分析装置1は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPUは、プログラムに従って、点検時期記憶部108および消費寿命記憶部105に対応する記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、部品寿命データベース107に対応する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0077】
なお、少なくとも1つの実施形態において、補助記憶装置903は、一時的でない有形の媒体の一例である。一時的でない有形の媒体の他の例としては、インタフェース904を介して接続される磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等が挙げられる。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。
【0078】
また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、当該プログラムは、前述した機能を補助記憶装置903に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【解決手段】状態量取得部は、タービンの状態量を取得する。時間算出部は、タービンの設計寿命と状態量とに基づいて、タービンのオーバーファイアリング運転での運転可能時間を算出する。距離算出部は、状態量に基づいてマハラノビス距離を算出する。判定部は、マハラノビス距離および運転可能時間によりタービンのオーバーファイアリング運転の可否を判定する。