【実施例1】
【0020】
本実施の形態の実施例1に係る内燃機関の油圧式可変バルブ装置100は、
図1に示すように、内燃機関の燃焼室(気筒)130に臨んで設けられる一対の弁(バルブ)110を油圧により開閉駆動する。なお、一対の弁110は、吸気弁、排気弁の何れであっても良いものであるが、ここでは吸気弁として、以下説明することとする。
【0021】
一対の吸気弁110は、
図1に示したように、シリンダヘッド160に開口されている一対の吸気ポート120と、燃焼室130と、を連通・遮断するための開閉弁(ポペット弁)であり、吸気弁110と略一体のスプリングアッパーシート150とシリンダヘッド160の間に介装されるバルブスプリング140により、通常は閉弁付勢されている(
図1の状態)。
【0022】
本実施例に係る油圧式可変バルブ装置100の油圧駆動装置200は、オイル供給通路210を含んで構成され、該オイル供給通路210の基端側は、図示しないオイルポンプ等に連通される一方、オイル供給通路210の先端側は、上下方向に摺動自在に支持されるピストン260の背面に油圧を作用させるための圧力室230に連通されている。
【0023】
オイル供給通路210の途中には、電磁弁220が介装され、この電磁弁220の開閉動作により、オイル供給通路210の連通・遮断が切り換えられるように構成されている。ここで、オイル供給通路210の電磁弁220よりオイル供給方向
下流側を高圧側油路と称し、
上流側を低圧側油路と称する。
【0024】
また、内燃機関のカムシャフト(図示せず)に取り付けられているカム300の外周にはタペット240が当接されており、回転駆動されるカム300は、その外周形状(カムプロフィール )に従ってタペット240をシリンダヘッド160に対して図中上下方向に相対移動させることができるようになっている。
【0025】
タペット240は有底円筒状に構成されていて、
図1において上側が有底とされてカム300と当接される一方で、
図1において下側が開口されてピストン260を収容するように構成されている。
【0026】
タペット240の内側には、
図1に示すように、ピストン260が摺動自在に収容されると共に、ピストン260の背面とタペット240の内壁とにより圧力室230が画成されると共に、タペット240の側面には、圧力室230とオイル供給通路210とを連通する通路250が開口されている。
【0027】
そして、油圧駆動装置200が、電磁弁220を閉弁動作して、オイル供給通路210の高圧側油路と低圧側油路との間の連通を遮断した状態とし、電磁弁220より先端側の高圧側油路内のオイルを高圧に維持可能な状態にすることで、カム300が回転することでタペット240を
図1下方に押し下げる動作に伴って、高圧側油路延いては圧力室230の油圧を高圧に昇圧させて、ピストン260延いてはブリッジ170を
図1下方に押し下げ、更には一対の吸気弁110を開弁させるようになっている。
【0028】
従って、例えば電磁弁220を閉弁タイミングを制御することで、高圧側油路の昇圧タイミングを可変とすることができるため、カム300の外周形状が一つであっても、例えば内燃機関の運転状態に応じて、吸気弁110の開弁タイミングを可変に制御可能となっている。
【0029】
この一方、吸気弁110の開弁状態から閉弁動作へ移行してカム300が回転することでタペット240が
図1上方に移動される際に、油圧駆動装置200が、電磁弁220を開弁動作してオイル供給通路210の高圧側油路と低圧側油路とを連通させた状態とすると、高圧側油路延いては圧力室230の油圧が解放されることとなるため、その解放タイミングに応じて一対の吸気弁110の閉弁タイミングを制御可能となっている。
【0030】
すなわち、電磁弁220を開弁タイミングを制御することで、高圧側油路延いては圧力室230の油圧の圧力解放タイミングを可変とすることができるため、カム300の外周形状が一つであっても、例えば内燃機関の運転状態に応じて、吸気弁110の開弁タイミングを可変に制御可能となっている(
図1のバルブリフト変化図を参照)。
【0031】
このような油圧駆動装置200を備えた油圧式可変バルブ装置100に関し、本実施例に係る異常診断装置(異常検出装置)500では、以下のようにして、異常発生の有無を診断(検出)するようになっている。異常診断装置500は、CPU、ROM,RAM,各種のインターフェースを備えて構成されるECU(エンジンコントロールユニット)などがその機能を奏することができる。
【0032】
本実施例では、
図1に示すように、高圧側油路延いては圧力室230の油圧を検出するため油圧センサ400が備えられていて、当該油圧センサ400により取得される油圧情報が、異常診断装置500に入力されている。
【0033】
そして、異常診断装置500では、油圧センサ400により取得される油圧情報に基づいて、油圧駆動装置200を備えた油圧式可変バルブ装置100の異常の有無を検出する。
【0034】
すなわち、本実施例に係る油圧式可変バルブ装置100は、電磁弁220を閉弁動作してオイル供給通路210の高圧側油路と低圧側油路との間の連通を遮断することで、高圧側油路延いては圧力室230内の油圧を維持可能な状態として、かかる状態においてカム300が回転することで高圧側油路延いては圧力室230内に高圧を発生させて、タペット240を
図1下方に押し下げ、ピストン260延いてはブリッジ170を下方に押し下げ、更には一対の吸気弁110を開弁させる構成である。そして、電磁弁220の開弁により、任意のタイミングで、高圧側油路延いては圧力室230内の油圧を解放させることで、一対の吸気弁110を閉弁させることができる構成となっている。
【0035】
このため、高圧側油路側の油圧(PH)が、低圧側油路側の油圧(PL)より高くなければ、一対の吸気弁110は閉弁することになる。
【0036】
この高圧側油路側の油圧(PH)を、油圧センサ400により取得し、電磁弁220を開弁してから、高圧側油路側の油圧(PH)の低下度合い(例えば高圧側油路側の油圧(PH)が低圧側油路側の油圧(PL)と同じになるまでの時間や、時間に対する圧力低下の傾きなど)によって、一対の吸気弁110のバルブリフト延いては油圧式可変バルブ装置100が正常に動作しているか否か(すなわち、高圧側油路や圧力室230の油圧漏れなどの異常の発生の有無)を判断することができる。
【0037】
図2(A)に示すように、正常時においては、内燃機関の運転状態に応じて設定された開弁タイミングにおいて電磁弁220を開弁すると、一対の吸気弁110のバルブリフト(量)は、実線に沿って低下する。
図2(A)中、破線は電磁弁220を開弁しない場合における一対の吸気弁110のバルブリフト(量)の低下の様子を示している。
【0038】
このとき、
図2(B)に示すように、正常時における高圧側油路側の油圧(PH)は、電磁弁220が開弁された後、所定時間後に、低圧側油路側の油圧(PL)まで低下する。なお、この所定時間は、予め定めることができるが、内燃機関の回転速度、バルブリフト特性等の運転状態に応じて変化する。
【0039】
一方で、異常がある場合には、
図3(A)に示すように、一対の吸気弁110のバルブリフト(量)が自身の開弁時から正常時のバルブリフト(量)に比べて小さいと共に、内燃機関の運転状態に応じて設定された開弁タイミングにおいて電磁弁220を開弁すると、一対の吸気弁110のバルブリフト(量)は、正常時に比べて早期に低下する傾向となる。
図3(A)中、異常時のバルブリフトに連続する破線は電磁弁220を開弁しない場合における一対の吸気弁110のバルブリフト(量)の低下の様子を示している。
【0040】
このとき、
図3(B)に示すように、異常時における高圧側油路側の油圧(PH)は、電磁弁220の開弁前から正常時の高圧側油路側の油圧(PH)に比べて小さいと共に、電磁弁220が開弁された後、低圧側油路側の油圧(PL)まで低下するのに要する時間が正常時に比べて短くなるといった傾向となる。
【0041】
すなわち、本実施例に係る異常診断装置500では、かかる特性を利用して、一対の吸気弁110のバルブリフト延いては油圧式可変バルブ装置100が正常に動作しているか否か(すなわち高圧側油路や圧力室230の油圧漏れなどの異常の発生の有無)を判断する。
【0042】
例えば、本実施例に係る異常診断装置500は、
図4のフローチャートに示すように、
ステップ(以下、Sと記す。)1では、高圧側油路側の油圧(PH)を、油圧センサ400により取得してモニターする。
【0043】
S2では、電磁弁220の開弁指令があったか否かを判断する。YESの場合はS3へ進み、NOの場合はリターンしてS2を繰り返す。
【0044】
S3では、高圧側油路側の油圧(PH)が所定レベルへ低下するまでに要した時間(TH)を計測する。この所定レベルとしては、例えば、運転状態に応じて予め設定された値(例えば低圧側油路側の油圧(PL)相当値)、或いは実際に油圧センサなどによって取得される低圧側油路側の油圧(PL)などとすることができる。
【0045】
S4では、S3で取得した時間(TH)と、予め定めた異常診断時間(TB)(異常診断のための基準値)と、を比較する。
時間(TH)<第1異常診断時間(TB1=TB−a)である場合には、S5へ進む。
時間(TH)が第1異常診断時間(TB1=TB−a)と第2異常診断時間(TB2=TB+b)の間の範囲(正常の範囲)にある場合には、S6へ進む。
時間(TH)>第2異常診断時間(TB2=TB+b)である場合には、S7へ進む。
なお、a,bの値は診断精度に影響するため適宜の値に設定することができ、a=bとすることもできるし、a,bを省略することなどもできる。
【0046】
S5へ進む場合は、時間(TH)<第1異常診断時間(TB1=TB−a)であるので、何らかの原因により、高圧側油路側の油圧(PH)の油圧低下速度が正常時に比べて速く、高圧側油路や圧力室230の油圧漏れなどの異常の発生しているおそれがあると異常診断(異常判定)する。
【0047】
S6へ進む場合は、時間(TH)が正常の範囲内にあるので、異常無しと診断(正常判定)する。
【0048】
S7へ進む場合は、時間(TH)>第2異常診断時間(TB2=TB+b)であるので、何らかの原因により、高圧側油路側の油圧(PH)の油圧低下速度が正常時に比べて遅く、油圧式可変バルブ装置100に異常が発生しているおそれがあると異常診断(異常判定)する。
【0049】
異常診断(異常判定)があった場合には、S8にて、運転者に異常を報知させるために警告音や警告灯などを作動させる一方で、メモリに異常診断結果を記憶させて修理等のサービスの際に情報を提供可能としてサービスの迅速化や質の向上に資すると共に、内燃機関に重大な損傷等が生じないように内燃機関の運転を強制停止したり、内燃機関の出力を制限したフェイルセーフモードでの運転のみを許可するなどの処置を施して、本フローを終了する。
【0050】
このように、本実施例に係る異常診断装置500によれば、一対の吸気弁110の開閉駆動のためにカム300の作用によって昇圧される油圧を蓄える高圧側油路の油圧(PH)を、油圧センサ400により取得し、高圧側油路の油圧(PH)を解放させるための電磁弁220への開弁指令があってからの高圧側油路の油圧(PH)の低下度合いに基づいて、一対の吸気弁110のバルブリフト延いては油圧式可変バルブ装置100が正常に動作しているか否か(すなわち、高圧側油路や圧力室230の油圧漏れなどの異常の発生の有無)を検出するようにしたので、比較的簡単かつ低コストな構成でありながら、内燃機関の油圧式可変バルブ装置100の油圧機構の故障等の異常の発生の有無を精度良く検出することができる。
【0051】
すなわち、本実施例によれば、比較的簡単かつ低コストな構成でありながら、内燃機関の油圧式可変バルブ装置における油圧機構の故障等の異常を精度良く診断(検出)することができる油圧式可変バルブ装置の異常診断装置を提供することができる。
【0052】
ところで、本実施の形態において、内燃機関は、例えばディーゼル燃焼を行うディーゼルエンジンとすることができるが、本発明は、これに限定されるものではなく、ガソリンその他の物質を燃料とする内燃機関とすることができる。
【0053】
また、本実施例では、吸気弁110を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく排気弁にも適用可能である。
【0054】
また、本実施例では、吸気弁110を1気筒当たりに2つ備えた一対の吸気弁110をとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、吸気弁110を1気筒当たりに1つ備えた場合や3以上備えた場合にも適用可能である。
【0055】
また、本実施例では、内燃機関の油圧式可変バルブ装置として
図1に例示したものを代表的に説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、電磁弁の開閉により高圧なオイル供給通路内の油圧を維持・解放する機構を備えた油圧式可変バルブ装置(例えば、
図5に示したような油圧式可変バルブ装置)の異常診断にも適用可能である。
【0056】
以上で説明した実施の形態は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは可能である。