特許第5973174号(P5973174)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5973174高周波帯可変減衰器の調整装置及び調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973174
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】高周波帯可変減衰器の調整装置及び調整方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/40 20060101AFI20160809BHJP
【FI】
   G01S7/40 121
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-11229(P2012-11229)
(22)【出願日】2012年1月23日
(65)【公開番号】特開2013-148549(P2013-148549A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】599161890
【氏名又は名称】NECネットワーク・センサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124154
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】工藤 みゆき
【審査官】 ▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−205876(JP,A)
【文献】 実開昭60−155219(JP,U)
【文献】 米国特許第06091247(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 − G01S 7/42
G01S 13/00 − G01S 13/95
H01C 13/00
H03H 7/24 − H03H 7/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波帯可変減衰器の高周波減衰特性を調整する調整装置であって、
前記高周波帯可変減衰器からの高周波出力信号を所定の掃引信号の下で計測し、これを計測信号として、該計測信号と前記掃引信号とに基づき前記高周波減衰特性の線形性を判断する計測ユニットと、
前記掃引信号を所定の減衰量で減衰させ、かつ、その際に前記高周波減衰特性の線形性に関する前記判断の結果に応じて設定された減衰量で前記掃引信号を減衰させて減衰制御電圧信号を生成し、当該減衰制御電圧信号を前記高周波帯可変減衰器に出力する制御信号生成ユニットと、を備えることを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波帯可変減衰器の調整装置であって、
前記計測ユニットは、スペクトラムアナライザ、ネットワークアナライザ、高周波電力計、コンピュータ装置のうちの1つを含むことを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高周波帯可変減衰器の調整装置であって、
前記計測ユニットは、
前記高周波帯可変減衰器からの高周波出力信号を所定の掃引信号の下で計測する計測部と、
前記計測部から前記掃引信号及び計測信号が入力して、これらに基づき前記高周波減衰特性の線形性を判断する調整判断部と、を備えることを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高周波帯可変減衰器の調整装置であって、
前記掃引信号は、前記計測ユニットで内部生成されて前記制御信号生成ユニットに供給され、又は前記制御信号生成ユニットで内部生成されて前記計測ユニットに供給されることを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の高周波帯可変減衰器の調整装置であって、
前記制御信号生成ユニットは、
前記掃引信号を減衰させる減衰器と、
前記掃引信号に含まれるオフセットを除去するオフセット調整回路と、
前記オフセット調整回路からの信号が予め設定されたリミット値より大きくならないように、当該リミット値を超える信号成分に対して抑圧を行うリミット回路と、を備えることを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
【請求項6】
請求項5に記載の高周波帯可変減衰器の調整装置であって、
前記調整判断部は、前記減衰量制御電圧信号の値と前記高周波帯可変減衰器における前記減衰量の値との関係が、予め設定された範囲に収るときに、前記高周波減衰特性は線形であると判断することを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
【請求項7】
請求項5に記載の高周波帯可変減衰器の調整装置であって、
前記調整判断部は、前記高周波減衰特性の線形性を判断した結果を判断結果信号として前記減衰器に出力し、該減衰器は、前記判断結果信号に応じた減衰量で前記掃引信号を減衰させることを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
【請求項8】
請求項3乃至7のいずれか1項に記載の高周波帯可変減衰器の調整装置であって、
前記調整判断部は、少なくとも前記減衰量制御電圧信号の値と前記高周波帯可変減衰器における前記減衰量の値との関係を表示する表示器を備えることを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
【請求項9】
高周波帯可変減衰器の高周波減衰特性を調整する調整方法であって、
前記高周波帯可変減衰器からの高周波出力信号を所定の掃引信号の下で計測し、これを計測信号として、該計測信号と前記掃引信号とに基づき前記高周波減衰特性の線形性を判断する計測手順と、
前記掃引信号を所定の減衰量で減衰させ、かつ、その際に前記高周波減衰特性の線形性に関する前記判断の結果に応じて設定された減衰量で前記掃引信号を減衰させて減衰制御電圧信号を生成し、当該減衰制御電圧信号を前記高周波帯可変減衰器に出力する制御信号生成手順と、含むことを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整方法。
【請求項10】
請求項9に記載の高周波帯可変減衰器の調整方法であって、
前記計測手順は、
前記高周波帯可変減衰器からの高周波出力信号を所定の掃引信号の下で計測する手順と、
前記掃引信号及び計測信号が入力して、これらに基づき前記高周波減衰特性の線形性を判断する調整判断手順と、含むことを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波帯可変減衰器の調整装置及び調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波帯可変減衰器は、レーダ等の高周波信号を扱う幅広い分野において利用されている。例えば、特許文献1では、PINダイオードを用いた高周波帯可変減衰回路が開示されている。そして、このPINダイオードのバイアス電流を変化させることによって、PINダイオードの抵抗値を変化させて減衰率を調整している。
【0003】
また、特許文献2には、このような高周波帯可変減衰器をレーダ装置におけるRF−STC(Radio Frequency−Sensitivity Time Control)に用いたレーダ装置が開示されている。
【0004】
高周波帯可変減衰器の高周波減衰特性は、通常線形性を持たない。しかし、RF−STCにおいては、例えば減衰量制御電圧1ボルト当り10デシベル(10dB/V)の直線性が要求されることがある。
【0005】
図10(a)は、PINダイオードのバイアス電流に対する抵抗値の変化を示した図である。図10(a)に示すように、減衰特性はバイアス電圧(印可電圧)に対して非線形性を示している。なお、図10(b)は、RF−STC等において要求される線形性を持つ減衰特性の例である。
【0006】
このように、図10(a)に示すような非線形性を持つPINダイオードに、図10(b)に示すような線形性を示させるために、非線形増幅回路を用いることがある。この場合、非線形増幅回路からPINダイオードに印可する電圧は、PINダイオードの非線形性をキャンセルするような非線形な電圧である。
【0007】
しかし、PINダイオードには個体差が存在するため、広範囲に直線性を持つ減衰特性を得るための非線形増幅回路の調整に多くの時間を要する問題がある。
【0008】
一方、特許文献3、4には、計測器により利得曲線を表示させて、可変減衰器を調整する技術が開示されている。例えば、特許文献3には、可変減衰器の減衰量を自動的に設定する自動利得制御装置が開示されている。即ち、可変減衰器に入力する受信信号を検出し、検出された受信信号のレベルに応じた可変減衰制御信号を発生する。可変減衰器には、複数の減衰量が設定されて、可変減衰制御信号に応じて減衰量が設定されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−144567号公報
【特許文献2】特開2008−89469号公報
【特許文献3】特開2003−158435号公報
【特許文献4】特開平11−55644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3、4では、可変減衰制御信号は、可変減衰器に入力する信号に基づいて生成されているため、可変減衰器のを構成するPINダイオード等の減衰器の個体差に応じた制御ができない問題がある。即ち、特許文献3における構成では、受信信号に基づき可変減衰制御信号が発生される。従って、同じレベルの受信信号した場合には、同じ可変減衰制御信号が生成されて、可変減衰器に入力する。しかし、減衰器には個体差が存在するため、出力信号は、減衰器毎に異なることになる。このことは、可変減衰器の減衰特性は、減衰器の個体差等により線形にならない場合があることを意味する。
【0011】
そこで、本発明の主目的は、個体差等の個別的な特性を取込んで減衰量が調整できる高周波帯可変減衰器の調整装置及び調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、高周波帯可変減衰器の高周波減衰特性を調整する調整装置にかかる発明は、高周波帯可変減衰器からの高周波出力信号を所定の掃引信号の下で計測し、これを計測信号として、該計測信号と掃引信とに基づき高周波減衰特性の線形性を判断する計測ユニットと、掃引信号を所定の減衰量で減衰させ、かつ、その際に高周波減衰特性の線形性に関する判断の結果に応じて設定された減衰量で掃引信号を減衰させて減衰制御電圧信号を生成し、当該減衰制御電圧信号を高周波帯可変減衰器に出力する制御信号生成ユニットと、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、高周波帯可変減衰器の高周波減衰特性を調整する調整方法にかかる発明は、高周波帯可変減衰器からの高周波出力信号を所定の掃引信号の下で計測し、これを計測信号として、該計測信号と掃引信とに基づき高周波減衰特性の線形性を判断する計測手順と、掃引信号を所定の減衰量で減衰させ、かつ、その際に高周波減衰特性の線形性に関する判断の結果に応じて設定された減衰量で掃引信号を減衰させて減衰制御電圧信号を生成し、当該減衰制御電圧信号を高周波帯可変減衰器に出力する制御信号生成手順と、含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高周波帯可変減衰器の出力を計測して減衰制御電圧信号を生成し、この減衰制御電圧信号に基づき高周波帯可変減衰器の減衰量が調整できるようにしたので、高周波帯可変減衰器の個体差等の個別的な特性を取込んだ減衰量が調整できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施形態にかかる調整装置のブロック図である。
図2】第1の実施形態にかかる制御信号生成ユニットのブロック図である。
図3】第1の実施形態にかかるリミッタ回路の作用を説明する図である。
図4】第1の実施形態にかかる制御信号生成ユニットから出力される減衰量制御電圧信号の図である。
図5】第1の実施形態にかかる調整判断部の作用を説明する図である。
図6】第1の実施形態にかかる調整方法を示すフローチャートである。
図7】第1の実施形態にかかる他の構成の調整装置のブロック図である。
図8】本発明の第2の実施形態にかかる調整装置のブロック図である。
図9】本発明の第3の実施形態にかかる調整装置のブロック図である。
図10】関連技術の説明に適用される可変減衰器の減衰特性を示す図で、(a)は非線形の減衰特性、(b)は理想的な減衰特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態を説明する。図1は、本実施形態にかかる電圧制御方式による高周波帯可変減衰器の調整装置のブロック図である。調整装置10Aは、高周波帯可変減衰器3を調整対象として、この高周波帯可変減衰器の減衰特性を調整する。信号発生器6は、この高周波帯可変減衰器3に入力される信号発生源である。そして、信号発生器6からの信号が高周波入力信号G1として高周波帯可変減衰器3に入力する。高周波帯可変減衰器3は、入力した高周波入力信号に対して所定の減衰処理を行い、その出力は高周波出力信号として調整装置10Aに入力する。
【0017】
このような調整装置10Aは、計測ユニット11Aと、制御信号生成ユニット12とを主要構成としている。計測ユニット11Aは、計測部11a、調整判断部11b、表示部11cを備える。計測部11aは、周波数掃引信号である掃引信号G3により高周波出力信号G2を計測する。なお、掃引信号G3は、計測部11a内で発生している。無論、本発明は、掃引信号G3を計測部11aの内部で発生する構成に限定しない。かかる実施形態については、後述する他の実施形態において説明する。そして、計測部11aは、掃引信号G3及び計測信号G4を調整判断部11bに出力すると共に、掃引信号G3を制御信号生成ユニット12に出力する。
【0018】
調整判断部11bは、掃引信号G3と計測信号G4とを用いて、高周波減衰特性の線形性を判断する線形性判断処理を行う。この線形性判断処理については後述する。
【0019】
表示部11cは、CRT (Cathode Ray Tube)や液晶パネル等により形成されて、調整判断部11bの判断結果を表示する。
【0020】
図2は、制御信号生成ユニット12のブロック図である。この制御信号生成ユニット12は、減衰器12a、オフセット調整回路12b、リミッタ回路12cを備える。
【0021】
減衰器12aは可変減衰素子を含み、この可変減衰素子の減衰量(非線形な減衰特性)が調整できるようになっている。そして、入力した掃引信号G3を調整された減衰量で減衰させて掃引信号G3’を出力する。このとき、減衰器12aは、単に信号を減衰させるだけではなく、計測ユニット11Aとの間のインピーダンス整合も行っている。本実施形態では、ユーザが調整判断部11bの判断結果に基づき減衰器12aの減衰量を調整する場合について説明するが、後述する実施形態のように、調整判断部11bの判断結果に基づき減衰器12aの減衰量を自動的に調整させてもよい。
【0022】
オフセット調整回路12bは、減衰器12aからの掃引信号G3’がオフセットしている場合に、このオフセット量を除去する。計測部11aは、スペクトラムアナライザ、ネットワークアナライザ、高周波電力計、コンピュータ装置等を含むことができる。これらスペクトラムアナライザ等の各計測器における掃引信号G3には、0ボルトを中心にマイナス極性側から掃引を開始してプラス極性側で終わる場合、0ボルトから+10ボルトまで掃引する場合等のように、機種やメーカー等によりさまざまである。そこで、オフセット調整回路12bは、オフセット量を除去して、掃引信号G3’が0ボルトから掃引を開始するようにする。
【0023】
リミッタ回路12cは、オフセット調整回路12bの出力信号(リミッタ回路入力信号)G6’のうち予め設定されたリミット値を超える信号成分の電圧値をリミット値に抑圧する。そして、リミッタ回路12cから出力された信号は、減衰量制御電圧信号G6として高周波帯可変減衰器3に入力する。なお、リミッタ回路12cの機能としては、負荷(この場合は、高周波帯可変減衰器3)とのインピーダンス整合を図ることもある。高周波帯可変減衰器3の負荷インピーダンスは、一般的に使用される同軸ケーブルの特性インピーダンスと同じ値の50オームや75オーム等の低い抵抗値である場合が多い。このため、減衰量制御電圧信号G6が高周波帯可変減衰器3に入力すると、電圧降下等により適正な電圧値の減衰量制御電圧信号G6が高周波帯可変減衰器3に入力しなくなる恐れがある。そこで、かかる不都合を防止するため、リミッタ回路12cは、インピーダンス整合機能を備えている。
【0024】
図3は、リミッタ回路12cの機能を説明する図である。同図において、縦軸は信号値、横軸は時間であり、掃引信号G3、減衰量制御電圧信号G6、リミッタ回路12cのリミッタ回路入力信号G6’を示している。リミッタ回路入力信号G6’と掃引信号G3との傾きが異なるのは、掃引信号G3が減衰器12aで減衰処理を受けて減衰しているためである。
【0025】
減衰器12aで減衰処理が行われた掃引信号G3は、掃引信号G3’としてオフセット調整回路12bに入力する。そして、オフセット調整回路12bで掃引信号G3’に対してオフセット除去処理が行われて、リミッタ回路入力信号G6’としてリミッタ回路12cに入力する。なお、図3においては、掃引信号G3がオフセット量ゼロの場合を示している。リミッタ回路12cにはリミット値V_limが予め設定されている。そして、リミッタ回路入力信号G6’がリミット値を超えると、超えた領域の信号成分の電圧値をV=V_limに抑圧する。従って、減衰量制御電圧信号G6は、リミット値V_limで折れ曲った形状の波形を持つようになる。以下、かかる処理をリミット処理と記載する。
【0026】
このように、リミット処理を行うのは、高周波帯可変減衰器3が正常動作するためには、減衰量制御電圧信号G6が上限値を超えないことが条件となるためである。そこで、減衰量制御電圧信号G6が上限値を超えないように、リミット処理を行っている。
【0027】
図4は、掃引信号G3と減衰量制御電圧信号G6とを時間で表示した図である。横軸は時間、縦軸はそれぞれの信号の値(電圧)を示している。なお、図4において、V_offは、掃引信号G3に含まれるオフセット電圧を示している。オフセット調整回路12bは、このオフセット電圧V_offを除去する。オフセット処理されたリミッタ回路入力信号G6’は、リミッタ回路12cでリミット値V_lim以下に規制されて、減衰量制御電圧信号G6となる。図4においては、リミッタ回路12cが動作した領域(リミット領域)がΔtで示されている。
【0028】
次に、調整判断部11bにおける線形性判断処理について説明する。図5は、計測した高周波出力信号G2と理想的な高周波出力信号G2’とを、横軸に減衰量制御電圧信号、縦軸に減衰量で示した減衰量制御電圧−減衰量で表示した図である。ここで、理想的な高周波出力信号G2’とは、高周波帯可変減衰器3の高周波減衰特性が線形性を持つと判断するための信号である。
【0029】
図5から解るように、高周波減衰特性は、右側に行くほど大きくなる(減衰量制御電圧値が大きくなるほど)ため、領域(以下、傾斜領域という)K1は右下がりとなる。この傾斜領域K1は、図3における領域Kに対応している。そして、制御信号生成ユニット12のリミッタ回路12cが動作して、高周波出力信号G2の減衰量は一定値になる(リミット領域K2)。
【0030】
傾斜領域K1における理想的高周波出力信号G2’の減衰量は、計測精度や許容範囲内で、減衰量制御電圧に対して直線的に変化している。即ち、この傾斜領域K1では高周波減衰特性は線形である。一方、傾斜領域K1における計測した高周波出力信号G2は、曲線(非直線)である。傾斜領域K1における計測した高周波出力信号G2の高周波減衰特性は、理想的高周波出力信号G2’の高周波減衰特性と一致する必要がある。
【0031】
調整判断部11bは、傾斜領域K1における高周波出力信号G2と高周波出力信号G2‘との最も大きな差分Mを求める。この差分Mが予め設定された線形性判断基準より小さいときは、調整判断部11bは、高周波帯可変減衰器3の高周波減衰特性は、線形であると判断する。一方、差分Mが線形性判断基準より大きいときは、調整判断部11bは、高周波帯可変減衰器3の高周波減衰特性は、非線形であると判断する。
【0032】
計測ユニット11Aには表示部11cが設けられ、この表示部11cに図5に示すような減衰量制御電圧−減衰量が表示される。また、差分M等の線形性の判断に用いられた情報も表示される。これによりユーザは、高周波出力信号G2’と高周波出力信号G2とのずれ量や、大小関係から、減衰器12aの減衰量の増減量を容易に知ることが可能になる。
【0033】
従って、高周波帯可変減衰器の高周波減衰特性等をリアルタイムで観察しながら、高周波減衰特性が調整できるようになり、調整時間の飛躍的な短縮が図れる。また、高周波減衰特性をリアルタイムに観察できるので、高周波帯可変減衰器に不具合が発生した場合や不安定になった場合にも迅速な対応が可能になる。
【0034】
次に、このような電圧制御方式による高周波帯可変減衰器の調整方法を、図6に示すフローチャートに従い説明する。
【0035】
ステップS1: 先ず、信号発生器6から高周波周波数の信号(高周波入力信号)G1が出力される。このとき、高周波入力信号G1の信号レベルは、高周波帯可変減衰器3の減衰性能に応じて設定されている。
【0036】
ステップS2: 高周波帯可変減衰器3は、この高周波入力信号G1を調整装置10Aから入力している減衰量制御電圧信号G6に基づき減衰処理する。減衰処理された信号は、高周波出力信号G2として調整装置10Aの計測部11aに出力される。
【0037】
ステップS3: 計測部11aは、高周波出力信号G2を計測する。その際に、計測部11aは、測定周波数を信号発生器6と同一の周波数で、かつ、測定周波数を掃引しないゼロスパンの状態で測定する。また、計測部11aのレゾレーションバンドフィルタ及びビデオフィルタ及び掃引時間設定は、高周波帯可変減衰器3の出力性能に応じて設定する。この測定周波数の信号が掃引信号G3である。
【0038】
ステップS4: 計測部11aは、計測した信号(高周波出力信号G3)と、計測に用いた掃引信号G4とを、調整判断部11bに出力する。調整判断部11bは、少なくとも高周波出力信号G2の減衰量制御電圧−減衰量を表示部11cに表示させると共に、傾斜領域K1が予め設定された直線性を持つか否かを判断する。そして、高周波出力信号G2の高周波減衰特性が線形性を持つと判断した場合は、調整が完了したとして処理は終了する。一方、高周波出力信号G2の高周波減衰特性が非線形性を持つと判断した場合は、その旨の表示を行う。この表示は、特に限定するものではないが、少なくともユーザに不十分であることを知らせることができればよい。先の説明では、傾斜領域K1における高周波出力信号G2と高周波出力信号G2‘との最も大きな差分Mを表示する場合を例示している。
【0039】
ステップS5: ユーザは調整判断部11bの判断結果に基づき、減衰器12aの減衰量を調整する。これにより、掃引信号G3は、設定された減衰量で減衰されて、オフセット調整回路12b、リミッタ回路12cを経て、減衰量制御電圧信号G6として高周波帯可変減衰器3に出力される。
【0040】
ステップS6: 高周波帯可変減衰器3は、減衰量制御電圧信号G6に基づき設定された高周波減衰特性で高周波入力信号を減衰させて、出力する。これにより、新たに設定された高周波減衰特性による高周波出力信号が計測ユニットに出力されて、上述した処理を繰返す。
【0041】
以上により、高周波帯可変減衰器の高周波減衰特性の線形性をリアルタイムで判断できるので、高周波減衰特性を短時間で容易に調整できるようになる。
【0042】
また、高周波減衰特性の直線性をリアルタイムに判断するので、高周波帯可変減衰器に不具合が発生した場合や不安定になった場合にも迅速な対応が可能になる。
【0043】
なお、上記説明においては、掃引信号は、計測部内で発生されるとした。しかしながら、掃引信号は外部供給されることを前提とした計測器もある。このような場合には、例えば図7に示すように、調整判断部11bで掃引信号G3を発生させて、計測部11a及び減衰器12aに出力するようにしてもよい。また、掃引信号G3を発生させる信号発生器を別途設けてもよい。
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。なお、第1の実施形態と同一構成に関しては、同一符号を用い説明を適宜省略する。
【0044】
第1の実施形態では、調整判断部の判断結果に基づき、ユーザが減衰器12aの減衰量を調整した。これに対し、本実施形態では、調整判断部は判断結果を信号として減衰器12aに出力し、減衰器12aはこの判断結果信号に基づき減衰量を調整する。
【0045】
図8は、本実施形態にかかる調整装置10Cのブロック図である。同図に示すように、調整判断部11bから判断結果信号G7が減衰器12aに入力している。そして、調整判断部11bは、図5に示すような傾斜領域K1における計測した高周波出力信号G2の減衰量M1と理想的高周波出力信号G2’の減衰量M2との差分M(M=M1−M2)と、予め設定された線形性判断基準Mtとの差分ΔM(ΔM=Mt−M)を算出して、その値を判断結果信号G7として出力する。
【0046】
減衰器12aは、判断結果信号G7が正値のときは(M1>M2)、減衰量制御電圧信号G6は、現在値より所定量小さい値に変更される。一方、判断結果信号G7が負値のときは(M1<M2)、減衰量制御電圧信号G6は、現在値より所定量大きな値に変更される。このようにして減衰量制御電圧信号G6が変更されて高周波帯可変減衰器3に入力し、当該高周波帯可変減衰器3の高周波減衰特性が調整される。
【0047】
従って、ユーザが介入することなく、自動で、高周波帯可変減衰器の高周波減衰特性を調整することが可能になる。
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態を説明する。なお、第1又は2の実施形態と同一構成に関しては、同一符号を用い説明を適宜省略する。
【0048】
これまで説明した調整装置は、計測ユニットと制御信号発生ユニットとにより構成されていた。このことは、計測ユニットと制御信号発生ユニットとを別体に設けることを要求するものではない。そこで、本実施形態では、計測用のコンピュータ装置により、調整装置を構成した。計測用のコンピュータ装置では、ディジタル信号が扱われるので、アナログ信号である高周波出力信号をディジタル信号に変換する必要がある。もし、かかるアナログ−ディジタル変換機能を備えない場合には、別途アナログ−ディジタル変換器(A/D変換器)を設けて、高周波出力信号を取込む。以下の説明では、計測用のコンピュータ装置はアナログ−ディジタル変換機能を備えているものとする。
【0049】
図9は、本実施形態にかかる調整装置10Dのブロック図である。上述したように、調整装置10Dは、計測用コンピュータ装置により構成されて、計測部13a、調整判断部13b、表示部13c、A/D変換器13dを含む計測ユニット13と、減衰器15a、オフセット調整回路15b、リミッタ回路15c、D/A変換器15dを含む制御信号生成ユニット15とにより構成されている。
【0050】
計測部13a、調整判断部13b、表示部13c、減衰器15a、オフセット調整回路15b、リミッタ回路15cは、それぞれ計測部11a、調整判断部11b、減衰器12a、オフセット調整回路12b、リミッタ回路12cと同じ機能であるので、説明を省略する。
【0051】
このような構成により、高周波出力信号G2はA/D変換器13dでディジタル信号に変換され、計測部13aがこの信号を受信する。そして、調整判断部13bには計測信号G4及び掃引信号G3が送られ、減衰器15aには掃引信号G3が送られる。調整判断部13bは、先に説明したような調整判断処理を行い、判断結果信号G7を減衰器15aに出力する。
【0052】
減衰器15aには、判断結果信号G7と掃引信号G3とが入力する。そこで、減衰器15aは、判断結果信号G7に従って減衰量を設定して掃引信号G3を減衰させて掃引信号G3’を出力する。オフセット調整回路15bは、掃引信号G3’に含まれるオフセットを除去してリミッタ回路15cにリミッタ回路入力信号G6’を出力する。リミッタ回路15cは、リミッタ回路入力信号G6’のうちリミット値を超える信号成分の抑圧を行う。この段階では、信号はディジタル信号であり、高周波帯可変減衰器3はアナログ信号により動作するので、リミッタ回路15cからの信号をD/A変換器15dでアナログ信号に変換し、これを減衰量制御電圧信号G6として高周波帯可変減衰器3に出力する。
【0053】
掃引信号G3の減衰やオフセット除去、リミット処理は、データのソフトウェアにより、容易に行うことができ、かつ、種々のパラメータを容易に変更等することができる。従って、かかるコンピュータ装置により構成された調整装置10Dは、高い汎用性を持つ。
【0054】
以上により、高周波帯可変減衰器の高周波減衰特性の線形性を正確に、かつ、短時間で調整することが可能になる。
【0055】
なお、コンピュータ装置にD/A変換機能がない場合には、ディジタル信号により制御可能な基準電圧発生器又は直流安定化電源を、図9におけるD/A変換器として用いても良い。
【0056】
上記実施の形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
<付記1>
高周波帯可変減衰器の高周波減衰特性を調整する調整装置であって、
前記高周波帯可変減衰器からの高周波出力信号を所定の掃引信号の下で計測し、これを計測信号として、該計測信号と前記掃引信とに基づき前記高周波減衰特性の線形性を判断する計測ユニットと、
前記掃引信号を所定の減衰量で減衰させ、かつ、その際に前記高周波減衰特性の線形性に関する前記判断の結果に応じて設定された減衰量で前記掃引信号を減衰させて減衰制御電圧信号を生成し、当該減衰制御電圧信号を前記高周波帯可変減衰器に出力する制御信号生成ユニットと、を備えることを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
<付記2>
付記1に記載の高周波帯可変減衰器の調整装置であって、
前記計測ユニットは、スペクトラムアナライザ、ネットワークアナライザ、高周波電力計、コンピュータ装置のうちの1つを含むことを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
<付記3>
付記1又は2に記載の高周波帯可変減衰器の調整装置であって、
前記計測ユニットは、
前記高周波帯可変減衰器からの高周波出力信号を所定の掃引信号の下で計測する計測部と、
前記計測部から前記掃引信号及び計測信号が入力して、これらに基づき前記高周波減衰特性の線形性を判断する調整判断部と、を備えることを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
<付記4>
付記1乃至3のいずれか1項に記載の高周波帯可変減衰器の調整装置であって、
前記掃引信号は、前記計測ユニットで内部生成されて前記制御信号生成ユニットに供給され、又は前記制御信号生成ユニットで内部生成されて前記計測ユニットに供給されることを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
<付記5>
付記1乃至4のいずれか1項に記載の高周波帯可変減衰器の調整装置であって、
前記制御信号生成ユニットは、
前記掃引信号を減衰させる減衰器と、
前記掃引信号に含まれるオフセットを除去するオフセット調整回路と、
前記オフセット調整回路からの信号が予め設定されたリミット値より大きくならないように、当該リミット値を超える信号成分に対して抑圧を行うリミット回路と、を備えることを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
<付記6>
付記3乃至5のいずれか1項に記載の高周波帯可変減衰器の調整装置であって、
前記調整判断部は、前記減衰量制御電圧信号の値と前記高周波帯可変減衰器における前記減衰量の値との関係が、予め設定された範囲に収るときに、前記高周波減衰特性は線形であると判断することを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
<付記7>
付記3乃至6のいずれか1項に記載の高周波帯可変減衰器の調整装置であって、
前記調整判断部は、前記高周波減衰特性の線形性を判断した結果を判断結果信号として前記減衰器に出力し、該減衰器は、前記判断結果信号に応じた減衰量で前記掃引信号を減衰させることを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
<付記8>
付記3乃至7のいずれか1項に記載の高周波帯可変減衰器の調整装置であって、
前記調整判断部は、少なくとも前記減衰量制御電圧信号の値と前記高周波帯可変減衰器における前記減衰量の値との関係を表示する表示器を備えることを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整装置。
<付記9>
高周波帯可変減衰器の高周波減衰特性を調整する調整方法であって、
前記高周波帯可変減衰器からの高周波出力信号を所定の掃引信号の下で計測し、これを計測信号として、該計測信号と前記掃引信とに基づき前記高周波減衰特性の線形性を判断する計測手順と、
前記掃引信号を所定の減衰量で減衰させ、かつ、その際に前記高周波減衰特性の線形性に関する前記判断の結果に応じて設定された減衰量で前記掃引信号を減衰させて減衰制御電圧信号を生成し、当該減衰制御電圧信号を前記高周波帯可変減衰器に出力する制御信号生成手順と、含むことを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整方法。
<付記10>
付記9に記載の高周波帯可変減衰器の調整方法であって、
前記計測手順は、
前記高周波帯可変減衰器からの高周波出力信号を所定の掃引信号の下で計測する手順と、
前記掃引信号及び計測信号が入力して、これらに基づき前記高周波減衰特性の線形性を判断する調整判断手順と、含むことを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整方法。
<付記11>
付記10に記載の高周波帯可変減衰器の調整方法であって、
前記調整判断手順は、前記減衰量制御電圧信号の値と前記高周波帯可変減衰器における前記減衰量の値との関係が、予め設定された範囲に収るときに、前記高周波減衰特性は線形であると判断することを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整方法。
<付記12>
付記10又は11に記載の高周波帯可変減衰器の調整方法であって、
前記調整判断手順は、前記高周波減衰特性の線形性を判断した結果を判断結果信号として出力する手順と、
前記判断結果信号に応じた減衰量で前記掃引信号を減衰させる手順と、を含むことを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整方法。
<付記13>
付記9乃至12のいずれか1項に記載の高周波帯可変減衰器の調整方法であって、
前記調整判断手順は、少なくとも前記減衰量制御電圧信号の値と前記高周波帯可変減衰器における前記減衰量の値との関係を表示する表示手順を含むことを特徴とする高周波帯可変減衰器の調整方法。
【符号の説明】
【0057】
3 高周波帯可変減衰器
6 信号発生器
10A,10C,10D 調整装置
11A、13 計測ユニット
11a、13a 計測部
11b、13b 調整判断部
11c、13c 表示部
12A、15 制御信号生成ユニット
12a、15a 減衰器
12b、15b オフセット調整回路
12c、15c リミッタ回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10