(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項6記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクのパターン形成用の薄膜に、転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
請求項8から11のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクの薄膜に、転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
請求項12記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクのパターン形成用の薄膜に、転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スクラブ洗浄法は、スクラブブラシをガラス基板表面及び薄膜表面に物理的に接触させる方法であるため、処理枚数の増加に伴いスクラブブラシが消耗する。消耗したスクラブブラシは、新しいスクラブブラシに交換することになる。しかし、現在のスクラブブラシの製造技術では、完全に異物が付着していないスクラブブラシを製造することは困難であり、新しいスクラブブラシであってもその表面には異物が付着している。したがって、新しいスクラブブラシに何の処理も施さずに、そのスクラブブラシをガラス基板表面及び薄膜表面に接触させると、そのスクラブブラシに付着していた異物がガラス基板表面及び薄膜表面に移ってしまう。このため、新しいスクラブブラシを用いる前に、スクラブブラシを純水中に浸漬させる処理と、清澄なガラス基板であるダミー基板の表面に対してスクラブブラシを接触させてスクラブブラシからダミー基板の表面に異物を移す処理とのサイクルを複数サイクルだけ繰り返す、いわゆる立ち上げ処理(立ち上げ工程)を行う必要がある。
【0007】
従来のスクラブ洗浄法では、スクラブブラシに付着している異物の個数がマスクブランク用のガラス基板及び薄膜の洗浄に用いることのできるレベルに到達するまで、上記の立ち上げ工程における純水中に浸漬させる処理とダミー基板に異物を移す処理とを何サイクルも繰り返す必要があり、新しいスクラブブラシに交換してからガラス基板表面及び薄膜表面の洗浄を行う工程を再開するまでに多くの時間がかかっていた。
【0008】
そこで、本発明は、立ち上げ工程にかかる時間を短縮することができ、その結果としてガラス基板表面及び薄膜表面の洗浄工程のスループットが向上した基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、転写用マスクの製造方法、および反射型マスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々の検証を重ねた結果、スクラブブラシの立ち上げ工程のダミー基板に異物を移す処理においては、スクラブブラシを、ガラス基板であるダミー基板の表面に対して接触させるよりも、ガラス基板上に薄膜が形成された薄膜付きダミー基板の薄膜の表面に対して接触させた方が、1回の処理でより多くの異物をスクラブブラシから薄膜の表面に移動させることができることを発見した。また、ガラス基板上に形成された薄膜の材料の種類によって、1回の処理でスクラブブラシから薄膜の表面に移動させることのできる異物の個数が異なることを発見した。特に、クロムを含有する材料からなる薄膜の表面に対してスクラブブラシを接触させた場合、立ち上げ速度が飛躍的に向上することが分かった。スクラブブラシから薄膜の表面に移動させることのできる異物の個数が大幅に増加した要因は、薄膜の表面エネルギーの違いにあると推察される。すなわち、クロムを含有する材料からなる薄膜は、他の材料(遷移金属シリサイド系材料、タンタル系材料等)からなる薄膜よりも、表面エネルギーが高いことが要因であると推察される。
【0010】
本発明は、以下の構成を有する。
(構成1)
基板の製造方法であって、
スクラブブラシを金属含有材料からなる物体の表面に接触させて、前記スクラブブラシに付着している異物を前記物体の表面に移動させる立ち上げ工程と、
前記立ち上げ工程後のスクラブブラシを用いて、前記基板の表面を洗浄するスクラブ洗浄工程と、を有することを特徴とする基板の製造方法。
【0011】
(構成2)
前記物体の表面は、表面エネルギーが30mN/m以上であることを特徴とする構成1記載の基板の製造方法。
【0012】
(構成3)
前記金属含有材料からなる物体は、クロムを含有する材料からなることを特徴とする構成1または2に記載の基板の製造方法。
【0013】
(構成4)
前記金属含有材料からなる物体は、ガラス基板上に形成された前記金属含有材料からなる薄膜であることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載の基板の製造方法。
【0014】
(構成5)
前記基板は、合成石英ガラスまたはSiO
2−TiO
2ガラスからなることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載の基板の製造方法。
【0015】
(構成6)
構成1から5のいずれかに記載の基板の製造方法で製造された基板上に、パターン形成用の薄膜を形成する工程を有することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【0016】
(構成7)
構成6記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクのパターン形成用の薄膜に、転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【0017】
(構成8)
基板上に薄膜を備えたマスクブランクの製造方法であって、
スクラブブラシを金属含有材料からなる物体の表面に接触させて、前記スクラブブラシに付着している異物を前記物体の表面に移動させる立ち上げ工程と、
前記立ち上げ工程後のスクラブブラシを用いて、前記薄膜の表面を洗浄するスクラブ洗浄工程と、を有することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【0018】
(構成9)
前記物体の表面は、表面エネルギーが30mN/m以上であることを特徴とする構成8記載のマスクブランクの製造方法。
【0019】
(構成10)
前記金属含有材料からなる物体は、クロムを含有する材料からなることを特徴とする構成8または9に記載のマスクブランクの製造方法。
【0020】
(構成11)
前記金属含有材料からなる物体は、ガラス基板上に形成された前記金属含有材料からなる薄膜であることを特徴とする構成8から10のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【0021】
(構成12)
前記基板上の薄膜は、露光光を反射する機能を有する多層反射膜であり、
前記多層反射膜の上に、パターン形成用の薄膜を形成する工程を有することを特徴とする構成8から11のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【0022】
(構成13)
構成8から11のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクの薄膜に、転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【0023】
(構成14)
構成12記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクのパターン形成用の薄膜に、転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ガラス基板表面及び薄膜表面のスクラブ洗浄工程で使用するスクラブブラシの立ち上げ工程にかかる時間を短縮することができ、その結果としてガラス基板表面及び薄膜表面の洗浄工程のスループットが向上した基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、転写用マスクの製造方法、および反射型マスクの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る基板の製造方法は、スクラブブラシを金属含有材料からなる物体の表面に接触させて、前記スクラブブラシに付着している異物を前記物体の表面に移動させる立ち上げ工程と、前記立ち上げ工程後のスクラブブラシを用いて、前記基板の表面を洗浄するスクラブ洗浄工程と、を有している。
【0027】
上記立ち上げ工程において、金属含有材料からなる物体の表面に接触させるスクラブブラシとしては、基板等の洗浄に一般的に用いられるスクラブブラシを用いることが好ましい。例えば、PVA(ポリビニルアルコール)製のスポンジからなるスクラブブラシを用いることが好ましい。スクラブブラシの形状は、特に制限するものではなく、例えばロール状あるいはシート状のスクラブブラシを用いることが可能である。スクラブブラシとしては、例えば、特開2000−312863号公報、特開2000−246187号公報、特開2004−155886号公報等に開示されたスクラブブラシを用いることが可能である。
【0028】
スクラブブラシを接触させる金属含有材料からなる物体としては、基板の表面に形成された金属含有材料からなる薄膜を用いることが好ましい。例えば、基板の表面に形成されたクロム(Cr)を含有する材料からなる薄膜、遷移金属シリサイド(例えばMoSi)を含有する材料からなる薄膜、タンタル(Ta)を含有する材料からなる薄膜等を用いることが可能である。この中では、クロムを含有する材料からなる薄膜を用いることが最も好ましい。後述するように、クロムは表面エネルギーが他の金属材料よりも高いため、スクラブブラシに付着している異物を薄膜の表面により多く移動させることができるためである。
【0029】
スクラブブラシを接触させる金属含有材料からなる物体の表面は、表面エネルギーが30mN/m以上であることが好ましい。スクラブブラシを接触させる物体の表面エネルギーがこの範囲にある場合、スクラブブラシに付着している異物を物体の表面により多く移動させることが可能である。なお、スクラブブラシを接触させる金属含有材料からなる物体の表面は、表面エネルギーが、40mN/m以上であることがより好ましく、50mN/m以上であるとさらに好ましい。
【0030】
上記立ち上げ工程では、ガラス基板の表面に形成された薄膜(薄膜付きダミー基板の薄膜)に対してスクラブブラシを接触させる処理と、スクラブブラシを純水中に浸漬させる処理とを交互に繰り返して実施してもよい。このような処理を実施することにより、スクラブブラシに付着した異物をより多く薄膜の表面に移動させることができる。なお、スクラブブラシを純水中に浸漬させる処理では、純水中に超音波を印加する超音波洗浄によってスクラブブラシに付着した異物を取り除いてもよい。
【0031】
スクラブブラシの立ち上げ処理を行った後、そのスクラブブラシを用いて基板の洗浄を行う(スクラブ洗浄工程)。
スクラブ洗浄工程では、公知のスクラブ洗浄装置を用いることが可能であり、例えば、特開2005−208282号公報に開示されているようなスピン洗浄装置を用いることが可能である。このスピン洗浄装置は、基板の表面に洗浄水を供給しつつ、電動モータによって回転する基板の表面に対して基板とは反対方向に回転するスクラブブラシを押しつけることによって、基板の表面を洗浄することのできる装置である。スクラブ洗浄工程では、基板を一枚ずつスクラブブラシによって洗浄する枚葉式洗浄装置を用いることが好ましい。
【0032】
本発明の基板の製造方法は、露光光を透過させる透過型マスクブランク用基板、露光光を反射する反射型マスクブランク用基板のいずれであっても適用することが可能である。
透過型マスクブランク用基板としては、例えば合成石英ガラス基板を用いることができる。
反射型マスクブランク用基板としては、例えば合成石英ガラス基板あるいは低熱膨張ガラス基板を用いることができる。
【0033】
本発明の基板の製造方法は、特に、露光光にEUV光を用いる反射型マスクブランク用の基板に対して好適に適用することができる。反射型マスクブランク用の基板としては、低熱膨張ガラスを好適に用いることができる。低熱膨張ガラスとしては、露光時の熱によるパターンの歪みを防止するため、0±1.0×10
−7/℃の範囲内、より好ましくは0±0.3×10
−7/℃の範囲内の熱膨張係数を有するものが好ましい。この範囲の熱膨張係数を有するガラス基板としては、例えばアモルファスガラスであれば、SiO
2に例えば5〜10重量%程度の範囲内でTiO
2を添加したSiO
2−TiO
2系ガラス基板を好ましく用いることができる。
【0034】
本発明の基板の製造方法によって得られたガラス基板の表面に、パターンを形成するための薄膜を形成する。これにより、転写用マスクを製造するためのマスクブランクを得ることができる。なお、ガラス基板への薄膜の形成は、公知の方法を用いて行うことができる。
また、このようにして得られたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成することによって、転写用マスクを得ることができる。なお、マスクブランクの薄膜への転写パターンの形成は、公知の方法を用いて行うことができる。
【0035】
本発明の基板の製造方法によって得られたガラス基板の表面に、露光光を反射する多層反射膜を形成する。これにより、反射型マスクブランクを製造するための多層反射膜付きガラス基板を得ることができる。なお、ガラス基板への多層反射膜の形成は、公知の方法を用いて行うことができる。
また、このようにして得られた多層反射膜付きガラス基板に吸収体膜を形成することによって、反射型マスクを製造するための反射型マスクブランクを得ることができる。なお、多層反射膜付きガラス基板への吸収体膜の形成は、公知の方法を用いて行うことができる。
さらに、このようにして得られた反射型マスクブランクの吸収体膜に転写パターンを形成することによって、反射型マスクを得ることができる。なお、反射型マスクブランクの吸収体膜への転写パターンの形成は、公知の方法を用いて行うことができる。
【0036】
つぎに、本発明の実施形態に係るマスクブランクの製造方法について説明する。
本実施形態に係るマスクブランクの製造方法は、基板上に薄膜を備えたマスクブランクの製造方法であって、金属含有材料からなる物体の表面にスクラブブラシを接触させて、前記スクラブブラシに付着している異物を前記物体の表面に移動させる立ち上げ工程と、前記立ち上げ工程後のスクラブブラシを用いて、前記薄膜の表面を洗浄するスクラブ洗浄工程と、を有している。
【0037】
上記立ち上げ工程において、金属含有材料からなる物体の表面に接触させるスクラブブラシとしては、基板等の洗浄に一般的に用いられるスクラブブラシを用いることが好ましい。例えば、PVA(ポリビニルアルコール)製のスポンジからなるスクラブブラシを用いることが好ましい。スクラブブラシの形状は、特に制限するものではなく、例えばロール状あるいはシート状のスクラブブラシを用いることが可能である。スクラブブラシとしては、例えば、特開平2000−312863号公報、特開2000−246187号公報、特開2004−155886号公報等に開示されたスクラブブラシを用いることが可能である。
【0038】
スクラブブラシを接触させる金属含有材料からなる物体としては、基板の表面に形成された金属含有材料からなる薄膜を用いることが好ましい。例えば、基板の表面に形成されたクロム(Cr)を含有する材料からなる薄膜、遷移金属シリサイド(例えばMoSi)を含有する材料からなる薄膜、タンタル(Ta)を含有する材料からなる薄膜等を用いることが可能である。この中では、クロムを含有する材料からなる薄膜を用いることが最も好ましい。後述するように、クロムは表面エネルギーが他の金属材料よりも高いため、スクラブブラシに付着している異物を薄膜の表面により多く移動させることができるためである。
【0039】
スクラブブラシを接触させる金属含有材料からなる物体の表面は、表面エネルギーが30mN/m以上であることが好ましい。スクラブブラシを接触させる物体の表面エネルギーがこの範囲にある場合、スクラブブラシに付着している異物を物体の表面により多く移動させることが可能である。なお、スクラブブラシを接触させる金属含有材料からなる物体の表面は、表面エネルギーが、40mN/m以上であることがより好ましく、50mN/m以上であるとさらに好ましい。
【0040】
上記立ち上げ工程では、ガラス基板の表面に形成された薄膜(薄膜付きダミー基板の薄膜)に対してスクラブブラシを接触させる処理と、スクラブブラシを純水中に浸漬させる処理とを交互に繰り返して実施してもよい。このような処理を実施することにより、スクラブブラシに付着した異物をより多く薄膜の表面に移動させることができる。なお、スクラブブラシを純水中に浸漬させる処理では、純水中に超音波を印加する超音波洗浄によってスクラブブラシに付着した異物を取り除いてもよい。
【0041】
スクラブブラシの立ち上げ処理を行った後、そのスクラブブラシを用いて薄膜の洗浄を行う(スクラブ洗浄工程)。
スクラブ洗浄工程では、公知のスクラブ洗浄装置を用いることが可能であり、例えば、特開2005−208282号公報に開示されているようなスピン洗浄装置を用いることが可能である。このスピン洗浄装置は、基板の表面に洗浄水を供給しつつ、電動モータによって回転する基板の表面に対して基板とは反対方向に回転するスクラブブラシを押しつけることによって、基板上に形成された薄膜の表面を洗浄することのできる装置である。スクラブ洗浄工程では、基板上を一枚ずつスクラブブラシによって洗浄する枚葉式洗浄装置を用いることが好ましい。
【0042】
本発明のマスクブランクの製造方法は、露光光を透過させる透過型マスクブランク、露光光を反射する反射型マスクブランクのいずれであっても適用することが可能である。
【0043】
本発明のマスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成することによって、転写用マスクを得ることができる。なお、マスクブランクの薄膜への転写パターンの形成は、公知の方法を用いて行うことができる。
【0044】
本発明のマスクブランクの製造方法は、特に、露光光にEUV光を用いる反射型マスクブランクに対して好適に適用することができる。なお、反射型マスクブランク用の基板としては、低熱膨張ガラスを好適に用いることができる。低熱膨張ガラスとしては、露光時の熱によるパターンの歪みを防止するため、0±1.0×10
−7/℃の範囲内、より好ましくは0±0.3×10
−7/℃の範囲内の熱膨張係数を有するものが好ましい。この範囲の熱膨張係数を有するガラス基板としては、例えばアモルファスガラスであれば、SiO
2に例えば5〜10重量%程度の範囲内でTiO
2を添加したSiO
2−TiO
2系ガラス基板を好ましく用いることができる。
【0045】
本発明のマスクブランクの製造方法は、ガラス基板上に露光光を反射する多層反射膜を備えたマスクブランクに好適に適用することができる。
また、このようにして得られたマスクブランクの表面に、吸収体膜を形成する。これにより、反射型マスクを製造するための反射型マスクブランクを得ることができる。
さらに、このようにして得られた反射型マスクブランクの吸収体膜に転写パターンを形成することによって、反射型マスクを得ることができる。
【0046】
本発明の基板の製造方法は、例えば、以下の(1)〜(5)に示すマスクブランクを製造するためのガラス基板に適用することができる。
また、本発明のマスクブランクの製造方法は、例えば、以下の(1)〜(5)に示すマスクブランクに適用することができる。
(1)遷移金属を含む材料からなる遮光膜を備えたバイナリマスクブランク
かかるバイナリマスクブランクは、透光性基板上に遮光膜を有する形態のものであり、この遮光膜は、クロム、タンタル、ルテニウム、タングステン、チタン、ハフニウム、モリブデン、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ロジウム等の遷移金属単体あるいはその化合物を含む材料からなる。例えば、クロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素から選ばれる1種以上の元素を添加したクロム化合物で構成した遮光膜が挙げられる。また、例えば、タンタルに、酸素、窒素、ホウ素などの元素から選ばれる1種以上の元素を添加したタンタル化合物で構成した遮光膜が挙げられる。
かかるバイナリマスクブランクは、遮光膜を、遮光層と表面反射防止層の2層構造や、さらに遮光層と基板との間に裏面反射防止層を加えた3層構造としたものなどがある。
また、遮光膜の膜厚方向における組成が連続的又は段階的に異なる組成傾斜膜としてもよい。
【0047】
(2)遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイド、特にモリブデンシリサイドを含む)の化合物を含む材料からなる光半透過膜を備えた位相シフトマスクブランク
かかる位相シフトマスクブランクとしては、透光性基板(ガラス基板)上に光半透過膜を有する形態のものであって、該光半透過膜をパターニングしてシフタ部を設けるタイプであるハーフトーン型位相シフトマスク用のマスクブランクが挙げられる。かかる位相シフトマスクにおいては、光半透過膜を透過した光に基づき転写領域に形成される光半透過膜パターンによる被転写基板のパターン不良を防止するために、透光性基板上に光半透過膜とその上の遮光膜(遮光帯)とを有する形態とするのが好ましい。また、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクのほかに、透光性基板をエッチング等により掘り込んでシフタ部を設ける基板掘り込みタイプであるレベンソン型位相シフトマスク用やエンハンサー型位相シフトマスク用のマスクブランクが挙げられる。
【0048】
前記ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜30%)を透過させるものであって、所定の位相差(例えば180度)を有するものである。この光半透過膜をパターニングした光半透過部と、光半透過膜が形成されていない実質的に露光に寄与する強度の光を透過させる光透過部とによって、光半透過部を透過して光の位相が光透過部を透過した光の位相に対して実質的に反転した関係になるようにすることによって、光半透過部と光透過部との境界部近傍を通過し回折現象によって互いに相手の領域に回り込んだ光が互いに打ち消しあうようにし、境界部における光強度をほぼゼロとし境界部のコントラスト即ち解像度を向上させるものである。
【0049】
この光半透過膜は、例えば遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイドを含む)の化合物を含む材料からなり、これらの遷移金属及びケイ素と、酸素及び/又は窒素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、クロム等が適用可能である。
また、光半透過膜上に遮光膜を有する形態の場合、上記光半透過膜の材料が遷移金属及びケイ素を含むので、遮光膜の材料としては、光半透過膜に対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)特にクロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素を添加したクロム化合物で構成することが好ましい。
【0050】
レベンソン型位相シフトマスクは、バイナリマスクブランクと同様の構成のマスクブランクから作製されるため、パターン形成用薄膜の構成については、バイナリマスクブランクの遮光膜と同様である。エンハンサー型位相シフトマスク用のマスクブランクの光半透過膜は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜30%)を透過させるものではあるが、透過する露光光に生じさせる位相差が小さい膜(例えば、位相差が30度以下。好ましくは0度。)であり、この点が、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜とは異なる。この光半透過膜の材料は、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜と同様の元素を含むが、各元素の組成比や膜厚は、露光光に対して所定の透過率と所定の小さな位相差となるように調整される。
【0051】
(3)遷移金属、遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイド、特にモリブデンシリサイドを含む)の化合物を含む材料からなる遮光膜を備えたバイナリマスクブランク
この遮光膜は、遷移金属及びケイ素の化合物を含む材料からなり、これらの遷移金属及びケイ素と、酸素及び/又は窒素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。また、遮光膜は、遷移金属と、酸素、窒素及び/又はホウ素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、クロム等が適用可能である。
特に、遮光膜をモリブデンシリサイドの化合物で形成する場合であって、遮光層(MoSi等)と表面反射防止層(MoSiON等)の2層構造や、さらに遮光層と基板との間に裏面反射防止層(MoSiON等)を加えた3層構造がある。
また、遮光膜の膜厚方向における組成が連続的又は段階的に異なる組成傾斜膜としてもよい。
【0052】
また、レジスト膜の膜厚を薄膜化して微細パターンを形成するために、遮光膜上にエッチングマスク膜を有する構成としてもよい。このエッチングマスク膜は、遷移金属シリサイドを含む遮光膜のエッチングに対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)特にクロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素を添加したクロム化合物からなる材料で構成することが好ましい。このとき、エッチングマスク膜に反射防止機能を持たせることにより、遮光膜上にエッチングマスク膜を残した状態で転写用マスクを作製してもよい。
【0053】
(4)1以上の半透過膜と遮光膜との積層構造を備えた多階調マスクブランク
半透過膜の材料については、前記のハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜と同様の元素のほか、クロム、タンタル、チタン、アルミニウムなどの金属単体や合金あるいはそれらの化合物を含む材料も含まれる。各元素の組成比や膜厚は、露光光に対して所定の透過率となるように調整される。遮光膜の材料についても、前記のバイナリマスクブランクの遮光膜が適用可能であるが、半透過膜との積層構造で、所定の遮光性能(光学濃度)となるように、遮光膜材料の組成や膜厚は調整される。
【0054】
また、上記(1)〜(4)において、透光性基板(ガラス基板)と遮光膜との間、又は光半透過膜と遮光膜との間に、遮光膜や光半透過膜に対してエッチング耐性を有するエッチングストッパー膜を設けてもよい。エッチングストッパー膜は、エッチングストッパー膜をエッチングするときにエッチングマスク膜を同時に剥離することができる材料としてもよい。
【0055】
(5)高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層してなる多層反射膜上に吸収体膜を備える反射型マスクブランク
反射型マスクは、EUVリソグラフィに用いられるマスクである。反射型マスクは、基板上に露光光を反射する多層反射膜が形成され、多層反射膜上に露光光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成された構造を有する。露光機(パターン転写装置)に搭載された反射型マスクに入射した光(EUV光)は、吸収体膜のある部分では吸収され、吸収体膜のない部分では多層反射膜により反射された光像が反射光学系を介して半導体基板上に転写される。
【0056】
多層反射膜は、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層して形成される。多層反射膜の例としては、Mo膜とSi膜を交互に40周期程度積層したMo/Si周期積層膜、Ru/Si周期多層膜、Mo/Be周期多層膜、Mo化合物/Si化合物周期多層膜、Si/Nb周期多層膜、Si/Mo/Ru周期多層膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層膜、Si/Ru/Mo/Ru周期多層膜などがある。露光波長により、材質を適宜選択することができる。
【0057】
吸収体膜は、露光光である例えばEUV光を吸収する機能を有するもので、例えばタンタル(Ta)単体又はTaを主成分とする材料を好ましく用いることができる。このような吸収体膜の結晶状態は、平滑性、平坦性の点から、アモルファス状又は微結晶の構造を有しているものが好ましい。吸収体膜が、本発明の「パターン形成用の薄膜」に対応している。
【0058】
Taを主成分とする材料としては、TaとBを含む材料、TaとNを含む材料、TaとBを含み、さらにOとNの少なくともいずれかを含む材料、TaとSiを含む材料、TaとSiとNを含む材料、TaとGeを含む材料、TaとGeとNを含む材料、TaとHfを含む材料、TaとHfとNを含む材料、TaとZrを含む材料、TaとZrとNを含む材料、等を用いることができる。TaにBやSi、Ge等を加えることにより、アモルファス状の材料が容易に得られ、平滑性を向上させることができる。また、TaにNやOを加えれば、酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができるという効果が得られる。
【0059】
以下、本発明の基板の製造方法及びマスクブランクの製造方法の実施例及び比較例について説明する。
[実施例1]
実施例1では、まず、スクラブブラシを接触させる金属含有材料からなる物体として、
図1に示す薄膜付きダミー基板1を12枚準備した。
図1に示すように、薄膜付きダミー基板1は、両主表面及び端面が精密研磨された約152.1mm×約152.1mm×約6.25mmの石英ガラスからなる基板2を備えている。基板2の上には、第1層3、第2層4、及び第3層5がこの順番で積層された薄膜を有している。第1層3は、窒化クロム〔CrN、Cr:80原子%、N:20原子%(以下、at%という)〕からなり、膜厚が150オングストロームである。第2層4は、炭化クロム(CrC、Cr:94at%、C:6at%)からなり、膜厚が600オングストロームである。第3層5は、酸化窒化クロム(CrON、Cr:30at%、O:45at%、N:25at%)からなり、膜厚が250オングストロームである。準備した12枚の薄膜付きダミー基板1のうちの1枚に対し、表面エネルギー評価用テストインク(Arcotest社製)を用いて、薄膜(第3層)の表面の表面エネルギーを評価した。その結果、この薄膜の表面エネルギーは、34mN/mと判定できた。
【0060】
つぎに、PVA製スポンジからなる新品のスクラブブラシ(アイオン社製)を、特開2005−208282号公報に開示されているスピン洗浄装置に取り付け、そのスクラブブラシを超音波が印加されている純水(DIW:Deionized Water)中に10分間浸漬させる処理と、薄膜付きダミー基板1の第3層の表面に10分間擦りつける処理と、を交互に行い、このような処理を11サイクル繰り返した(立ち上げ工程)。なお、薄膜付きダミー基板1は、1サイクル毎に新しいものに交換した。
【0061】
以下の表1は、立ち上げ工程において、各サイクルで使用した薄膜付きダミー基板1の薄膜の表面に付着している異物の個数をそれぞれ測定した結果を示している。異物の個数の測定には、マスクブランク検査装置(レーザーテック株式会社製 M1320)を使用した。表1において、サイズ別の異物欠陥個数におけるサイズdは、予め粒径が分かっているPSL粒子を散布した基板を用いて較正したマスクブランク検査装置で判定された異物のサイズのことを指す。
【0063】
表1を見ればわかるように、スクラブブラシを薄膜付きダミー基板1の薄膜の表面に擦りつける処理を繰り返すにつれて(サイクルが多くなるにつれて)、薄膜付きダミー基板1の薄膜の表面に付着した異物の個数は徐々に減少している。また、薄膜付きダミー基板1の薄膜の表面に付着している異物のサイズも、サイクルが多くなるにつれて小さくなってきている。この結果より、クロムを含有する材料からなる薄膜の表面にスクラブブラシを接触させることによって、スクラブブラシに付着している異物を薄膜の表面に移動させることができることを確認できた。
【0064】
続いて、薄膜付きダミー基板1に使用した基板2と同じ仕様の基板を6枚準備した。そして、立ち上げ工程を行った後のスクラブブラシを用いて、準備した各基板の主表面に対するスクラブ洗浄をそれぞれ1分間ずつ行った(スクラブ洗浄工程)。
【0065】
以下の表2は、スクラブ洗浄工程後における、基板の主表面に付着している異物の個数を測定した結果を示している。測定には、立ち上げ工程における異物の個数の測定で使用したものと同じマスクブランク検査装置を使用した。なお、表2に示す異物の個数の測定値は、6枚の基板に対してマスクブランク検査装置で測定してそれぞれ得られた各検出個数の平均個数を示している。
【0067】
表2を見ればわかるように、スクラブ洗浄工程後における基板の表面には、平均で1.8個の異物が付着していた。この異物の個数は、マスクブランクや転写用マスクの製造に用いられるマスクブランク用基板として一般的に要求されるレベルを十分に満たすものであった。
【0068】
[実施例2]
実施例2では、最初に、
図1に示す薄膜付きダミー基板1と同様の構成を有するマスクブランク6枚を予め準備した。次に、PVA製スポンジからなる新品のスクラブブラシが取り付けられたスピン洗浄装置に対し、実施例1と同様の手順で立ち上げ工程を行った。続いて、立ち上げ工程を行った後のスクラブブラシを用いて、準備した各マスクブランクの薄膜(遮光膜)の表面洗浄をそれぞれ1分間ずつ行った(スクラブ洗浄工程)。
【0069】
以下の表3は、スクラブ洗浄工程後における、マスクブランクの薄膜の表面に付着している異物の個数を測定した結果を示している。測定には、実施例1の場合と同じマスクブランク検査装置を使用した。なお、表3に示す異物の個数の測定値は、6枚のマスクブランクに対してマスクブランク検査装置で測定してそれぞれ得られた各検出個数の平均個数を示している。
【0071】
表3を見ればわかるように、スクラブ洗浄工程後におけるマスクブランクの薄膜の表面には、平均で3.5個の異物が付着していた。この異物の個数は、転写用マスクの製造に用いられるマスクブランクに一般的に要求されるレベルを十分に満たすものであった。
【0072】
[比較例]
比較例では、まず、実施例1と同様のマスクブランクを6枚準備した。つぎに、特開2005−208282号公報に開示されているスピン洗浄装置に取り付けたPVA製スポンジからなる新品のスクラブブラシを超音波が印加されている純水(DIW:Deionized Water)中に10分間浸漬させる処理と、実施例1の薄膜付きダミー基板1の基板2と同様の合成石英ガラスからなる基板の表面に10分間擦りつける処理と、を交互に行い、このような処理を11サイクル繰り返した(立ち上げ工程)。なお、基板は、一サイクル毎に新しいものに交換した。そして、この比較例の立ち上げ工程を行った後のスクラブブラシを用いて、準備した各マスクブランクの薄膜の表面洗浄をそれぞれ1分間ずつ行った(スクラブ洗浄工程)。
【0073】
以下の表4は、この比較例のスクラブ洗浄工程後における、薄膜の表面に付着している異物の個数を測定した結果を示している。測定には、実施例1の場合と同じマスクブランク検査装置を使用した。なお、表4に示す異物の個数の測定値は、6枚のマスクブランクに対してマスクブランク検査装置で測定してそれぞれ得られた各検出個数の平均値を示している。
【表4】
【0074】
表4を見ればわかるように、この比較例のスクラブ洗浄工程後におけるマスクブランクの薄膜の表面には、平均で53.0個の異物が付着していた。この異物の個数は、転写用マスクの製造に用いられるマスクブランクに一般的に要求されるレベルを満たすものではなかった。