(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973212
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】音叉型圧電振動子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 3/02 20060101AFI20160809BHJP
H03H 9/19 20060101ALI20160809BHJP
H03H 9/215 20060101ALI20160809BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20160809BHJP
H01L 41/22 20130101ALI20160809BHJP
H01L 41/18 20060101ALI20160809BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
H03H3/02 D
H03H9/19 J
H03H9/215
H01L41/08 C
H01L41/22
H01L41/18 101A
H01L41/08 L
H01L41/18 101B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-91862(P2012-91862)
(22)【出願日】2012年4月13日
(65)【公開番号】特開2013-223009(P2013-223009A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズンホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 純
【審査官】
橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−167529(JP,A)
【文献】
特開2004−088706(JP,A)
【文献】
特開2004−200915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 3/02
H01L 41/09
H01L 41/18
H01L 41/187
H01L 41/22
H03H 9/19
H03H 9/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料からなり、基部と、該基部から延在する複数の振動腕とを有し、前記振動腕に長溝を備える音叉型圧電振動子の製造方法であって、前記圧電基板にエッチング耐蝕膜を形成する工程と、前記エッチング耐蝕膜上にレジスト膜を形成する工程と、前記長溝を形成する領域上の前記レジスト膜および前記エッチング耐蝕膜に、前記長溝を形成する領域で前記振動腕の幅方向に分割する複数の開口部を形成する工程と、前記圧電基板のエッチング異方性によって、残渣が出やすい側の前記開口部の幅を、残渣が出にくい側の前記開口部の幅より狭くした前記エッチング耐蝕膜をエッチングマスクとして、前記圧電基板をエッチングし前記長溝の底部が前記圧電基板の表面に略平行な平坦面となるよう前記長溝を形成する工程と、を有することを特徴とする音叉型圧電振動子の製造方法。
【請求項2】
前記長溝を形成する工程は、音叉形状を形成する工程と異なることを特徴とする請求項1に記載の音叉型圧電振動子の製造方法。
【請求項3】
前記長溝を形成する工程は、音叉形状を形成する工程と同時に行われることを特徴とする請求項1に記載の音叉型圧電振動子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は携帯電話などの発信回路に用いられる音叉型圧電振動子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
音叉型圧電振動子110は、水晶などの圧電材料からなり、基部101と基部101から同じ方向に平行に延びる振動腕102から形成され、その振動腕102には、表裏面の長さ方向に長溝103が形成されている。
図7は、音叉型圧電振動子の概略斜視図である。振動腕102の側面や長溝103の内側面には、励振電極が形成され、励振電極に印加電圧を加えることで電界が発生し、屈曲振動をする。その音叉型圧電振動子110の振動腕102及び長溝103を形成する手法として、一般的には、まず圧電基板をエッチングして音叉形状の外形を形成し、次に長溝をハーフエッチングする手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−088706
【特許文献2】特開2005−016976
【特許文献3】特開2006−108765
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
長溝103のハーフエッチングでは、長溝103の形状に合わせた開口部107を有するエッチング耐蝕膜104を形成し、圧電材料に応じたエッチング液で、ハーフエッチングするが、水晶などの圧電材料は、結晶面に対してエッチング異方性によりエッチングスピードが異なるため、
図8に示すように、長溝103には他の領域と比べ厚く残る残渣108ができてしまい、長溝103の溝底は傾斜して平らな面を形成することが困難である。このため、振動腕102の側面および長溝103の内側面に励振電極106を形成しても、
図9に示すように、振動腕102の幅方向の長溝103の断面形状が左右非対称に形成されるため、振動腕102の左右の壁では、電界効率が異なることより、屈曲バランスが悪化してしまい、CI(クリスタルインピーダンス)値の増大を招く。
【0005】
長溝の形成を特許文献1などに記載されているように、複数回に分けてエッチングを行なうことで、長溝の断面形状を対称にする手法が提案されているが、長溝の形成工程が煩雑化し、生産コストが増加するという問題が生じる。
【0006】
また、
図10に示すように、狭い溝幅の長溝103を複数設けることで残渣を小さくすることができる。しかし、溝幅が狭いために、溝開口部が狭くなり、励振電極106をスパッタリングで成膜する際、スパッタ膜が溝底まで形成できず、長溝103の内側面への励振電極106の形成領域が狭くなり、電界効率が低下悪くなり、CI値が増大するという問題が生じる。
【0007】
本発明は、エッチング工程を簡素化しつつ、圧電材料のエッチング異方性の影響を抑え、屈曲バランスの良い圧電振動子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
圧電材料からなり、基部と、該基部から延在する複数の振動腕とを有し、前記振動腕に長溝を備える音叉型圧電振動子の製造方法であって、前記圧電基板にエッチング耐蝕膜を形成する工程と、前記エッチング耐蝕膜上にレジスト膜を形成する工程と、前記長溝を形成する領域上の前記レジスト膜および前記エッチング耐蝕膜に、前記長溝を形成する領域で前記振動腕の幅方向に分割する複数の開口部を形成する工程と、前記圧電基板のエッチング異方性によって、残渣が出やすい側の前記開口部の幅を、残渣が出にくい側の前記開口部の幅より狭くした前記エッチング耐蝕膜をエッチングマスクとして、前記圧電基板をエッチングし前記長溝の底部が前記圧電基板の表面に略平行な平坦面となるよう前記長溝を形成する工程と、を有することを特徴とする音叉型圧電振動子の製造方法。
【0009】
長溝を形成する工程は、音叉形状を形成する工程と異なる音叉型圧電振動子の製造方法。
【0010】
長溝を形成する工程は、音叉形状を形成する工程と同時に行われる音叉型圧電振動子の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
従来厚く残っていた部分が除去され、長溝の底部が平らになることにより、振動腕の左右の振動バランスが改善されるので、Z方向の変位やY方向の変位を抑え、CI値を低減することができる。また、最終的に複数の長溝ではなく単一の長溝が形成され、溝の開口部が広くなる。このため、複数の長溝では、溝開口部が狭くなり、励振電極をスパッタリングする際、スパッタ膜が溝底まで届かず、駆動電極として正常に働かないという問題についても解決できる。
【0013】
本発明により、エッチング工程を簡素化しつつ、圧電材料のエッチング異方性の影響を抑え、屈曲バランスの良い圧電振動子の製造方法を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施例における複数の開口部を形成したエッチング耐蝕膜の上面図
【
図3】本実施例における長溝のエッチング過程を説明する振動腕断面図
【
図4】本実施例における長溝のエッチング過程を説明する振動腕断面図
【
図5】本実施例における長溝のエッチング過程を説明する振動腕断面図
【
図6】本実施例における励振電極を形成した振動腕の断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を、音叉型水晶振動子を例に、図を用いて説明する。水晶基板には、基部1とその基部1から同じ方向に平行に延びる振動腕2から形成される音叉型水晶振動子10が複数形成される。本実施例では、音叉形状を形成した後の、振動腕の表面に長溝を形成するプロセスを説明する。
【0016】
まず、全長約1350μm、幅約540μm、厚さ約130μmの複数の音叉型水晶振動子10を水晶基板に形成した後、長溝形成のための水晶エッチングのエッチングマスクとなるエッチング耐蝕膜4をスパッタで成膜する。エッチング耐蝕膜4には、水晶のエッチング液であるフッ酸に耐性のあるAu、その下地膜としてCrが一般に用いられる。
【0017】
複数の音叉型水晶振動子10を形成した水晶基板にエッチング耐蝕膜4を形成した後、スピンコーターやスプレーコーターを用いて、レジスト膜5を水晶基板の両面に形成する。
【0018】
図1および
図2に示すように、フォトリソ技術を用いて、レジスト膜5およびエッチング耐蝕膜4に、長溝3を形成するための複数の開口部7を形成する。複数の開口部7は、音叉型水晶振動子10の振動腕2の長溝形成領域3aを、振動腕2の幅方向に分割するように形成する。複数の開口部7の幅を、残渣の出やすい側からa、c、eとし、開口部間のレジスト膜5およびエッチング耐蝕膜4の幅を、b、dとする。
【0019】
本実施例では、長さ約970μm、幅約52μmの振動腕2に、長さ約670μm、幅約37μmの長溝3を形成するための複数の開口部7の幅は、aを7μm、cとeを9μm、開口部間の幅b、dを3μmとした。振動腕2の幅方向に並べて形成した複数の開口部7で、特に、長溝3の内部に残渣が出やすい側の開口部7の幅aを、残渣が出にくい側の開口部7の幅c、eより狭くすることで、長溝3の側壁を、より左右対称に形成することが可能となる。尚、本実施例では、3つの開口部7を形成したが、これに限定されるのではなく、形成する長溝に合わせて、2つでも、4つ以上でも良い。
【0020】
長溝3のエッチング過程を説明する。水晶音叉振動子10を形成した水晶基板をエッチング液に浸漬すると、まず、
図3に示すように、複数の開口部7から振動腕2の厚み方向(長溝の深さ方向)に水晶のエッチングが始まり、複数の開口部7に応じた複数の溝が形成される。
【0021】
エッチングが進むと、振動腕2の厚み方向だけでなく、振動腕2の幅方向へもエッチングが進み、
図4に示すように、複数の溝の間の壁がエッチングされ、底部に凸部8がある一つの長溝3となる。さらにエッチングが進み、長溝3の深さが60μm程度になると、長溝3の底部にあった凸部8も除去され、
図5に示すように、水晶基板の表面に略平行な平坦面となり、残渣の発生を抑え略左右対称の断面を備えた長溝3が形成される。
【0022】
長溝3を形成した後、レジスト膜5やエッチング耐蝕膜4を除去し、音叉型水晶振動子10の表面に電極膜を形成する。
図6に示すように、振動腕2の側面と長溝3の内側面には、励振電極6を形成し、屈曲モードで振動するように電気的な配線を行なう。長溝3の底部が、水晶基板の表面に略平行な平坦面となり、長溝3の開口も広く形成されているので、長溝3の内側面への電極膜形成の作業性も良く、振動腕の左右の壁で、電界効率が同等になり、屈曲バランスが良い音叉型水晶振動子となる。
【0023】
本実施例では、音叉形状を形成した後に、長溝を形成したが、これに限定するものではなく、音叉形状の形成前や、音叉形状の形成と同時に行なっても良い。
【0024】
また、水晶以外にも、タンタル酸リチウムや、ランガサイトなどの圧電材料を用いた圧電振動子に適用できる。
【符号の説明】
【0025】
1 基部
2 振動腕
3 長溝
3a 長溝形成領域
4 エッチング耐蝕膜
5 レジスト膜
6 励振電極
7 開口部
8 凸部
10 音叉型水晶振動子
101 基部
102 振動腕
103 長溝
104 エッチング耐蝕膜
105 レジスト膜
106 励振電極
107 開口部
108 残渣
110 音叉型圧電振動子