(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973248
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F01M 1/06 20060101AFI20160809BHJP
F01L 1/04 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
F01M1/06 F
F01M1/06 N
F01L1/04 D
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-136285(P2012-136285)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2013-2449(P2013-2449A)
(43)【公開日】2013年1月7日
【審査請求日】2015年3月10日
(31)【優先権主張番号】10 2011 077 563.3
(32)【優先日】2011年6月15日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トーマス フレンダー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル クライズィヒ
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ メノナ
(72)【発明者】
【氏名】ファルク シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン シュテイシェーレ
【審査官】
小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−084531(JP,A)
【文献】
特表2008−528871(JP,A)
【文献】
特開2011−027083(JP,A)
【文献】
特開2009−144521(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102008058110(DE,A1)
【文献】
実開平06−028203(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/00− 1/46、9/00−9/04、
13/00−13/08
F01M 1/00− 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのベアリング(5)を介して取り付けられた少なくとも1つのカムシャフト(3)、および少なくとも1つのフェーズアジャスタ(4)を有する内燃機関(1)であって、
上記少なくとも1つのベアリング(5)はころがり軸受であり、
上記ころがり軸受に近接し、少なくとも1つの外側環状チャネル(7)、およびカムシャフト(3)の放射方向貫通孔(8’)に連なる少なくとも1つの放射方向貫通孔(8)を有し、カムシャフト(3)を取り囲む少なくとも2つのオイル供給リング(6)を備え、
上記少なくとも2つのオイル供給リング(6)の間に上記少なくとも1つのベアリング(5)が配置され、
上記オイル供給リング(6)の外径は、ころがり軸受の外径よりも小さく、
少なくとも1つのフェーズアジャスタ(4)へのオイル供給が、シリンダヘッド(2)内のオイル通路(10)を介して、オイル供給リング(6)の環状チャネル(7)から、放射方向貫通孔(8’)を通してカムシャフト(3)内へと行われることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
請求項1の内燃機関であって、
上記オイル供給リング(6)は、別個のオイルの流れ(9)が案内され得る、軸方向に間を空けた少なくとも2つの外側環状チャネル(7)を有していることを特徴とする内燃機関。
【請求項3】
請求項1および請求項2のうち何れか1項の内燃機関であって、
環状チャネル(7)に軸方向に近接して、オイル供給リング(6)の外径よりも突出し、シリンダヘッド(2)に接触する少なくとも1つのシールリング(11)が設けられていることを特徴とする内燃機関。
【請求項4】
請求項3の内燃機関であって、
上記シールリング(11)は、絞りとして構成され、少なくとも少量のオイルが通過するのを許容することを特徴とする内燃機関。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうち何れか1項の内燃機関であって、
上記カムシャフト(3)は、外シャフトと、上記外シャフトと同軸状に設けられ、外シャフトに相対的に回転し得る内シャフトを有することを特徴とする内燃機関。
【請求項6】
請求項5の内燃機関であって、
2つのフェーズアジャスタ(4)、または少なくとも2つのフェーズアジャスタ(4)を有するアセンブリを備え、
そのうちの第1のフェーズアジャスタ(4)は、内シャフトの、したがって第1のカムのドライブに対するフェーズ位置を調整し、第2のフェーズアジャスタは、外シャフトの、したがって第2のカムのドライブに対するフェーズ位置を調整することを特徴とする内燃機関。
【請求項7】
請求項1から請求項6のうち何れか1項の内燃機関であって、
上記少なくとも1つのベアリング(5)が、ボールベアリング、またはニードルベアリングであることを特徴とする内燃機関。
【請求項8】
請求項1から請求項7のうち何れか1項の内燃機関であって、
オイル供給リング(6)によって受け取られた少なくとも1つのオイルの流れ(9)をフェーズアジャスタ(4)に運ぶオイル案内スリーブ(12)、またはオイル案内プラグ(13)が、カムシャフト(3)内に設けられていることを特徴とする内燃機関。
【請求項9】
請求項8の内燃機関であって、
上記オイル案内スリーブ(12)、またはオイル案内プラグ(13)は、2つの分離したオイルの流れを運ぶように構成されていることを特徴とする内燃機関。
【請求項10】
請求項1から請求項9のうち何れか1項の内燃機関であって、
オイル供給リング(6)、およびころ軸受が共通のアセンブリを形成していることを特徴とする内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに従った、少なくとも1個のベアリングを介して取り付けられた少なくとも1本のカムシャフト、および少なくとも1つのフェーズアジャスタを備えた内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の内燃機関のカムシャフトは、しばしば、いわゆるフリクションベアリングを介して取り付けられ、それを通して、さらに、例えばフェーズアジャスタを動作させるために上記カムシャフト内にオイル供給ラインが設けられる。しかし、転がり軸受に比べて、特にボールベアリングに比べて、フリクションベアリングは大きな軸受抵抗を有し、そこで、フリクションベアリングを近年の転がり軸受によって置き換える要求が増大している。しかし、転がり部材がそれ自体を押しやるオイルが過剰な場合には、そのような転がり軸受の転がり抵抗、したがってまた軸受抵抗が急速に増大するという、カムシャフトの領域に使用される転がり軸受の連続的な問題が見出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、一般的なタイプの内燃機関の改良または少なくとも変形例を提供する課題に関し、特に、カムシャフトの改良された取り付け、およびカムシャフトへの代替のオイル供給によって特徴付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題は、独立請求項の主題による発明に従って解決される。有利な実施例は従属請求項の主題である。
【0005】
本発明は、従来使用されていたフリクションベアリングに代えて、今や転がり軸受を使用し、オイル供給リングをカムシャフトに設けるという概略のアイデアに基づき、上記オイル供給リングは、少なくとも1つの転がり軸受けに近接し、少なくとも1つの外側環状チャネル(outer annular channel)、およびカムシャフトの放射方向の貫通孔に連なる少なくとも1つの放射方向の貫通孔を有する。オイル供給リングの外径は、転がり軸受の外径よりも小さく、そこで、オイル供給リングは、通常、シリンダヘッド側のオイル通路(gallery)に直接接触しない。カムシャフトの調整のためには、本発明の内燃機関は、さらに、少なくとも1つのフェーズアジャスタを有し、この少なくとも1つのフェーズアジャスタへのオイル供給は、シリンダヘッド内のオイル通路を介し、オイル供給リングの環状チャネルへ、そして放射方向の貫通孔を通してカムシャフト内へと行われる。本発明では、実際のカムシャフトの取り付けと、実際のカムシャフトへのオイル供給とは、互いに切り離され、比較的スムーズに回る転がり軸受、特にボールベアリングが取り付けに用いられ、フェーズアジャスタへのオイル供給は、1つのオイル供給リングまたは複数のオイル供給リングを介して別個に行い得る。転がり軸受に近接したオイル供給リングの配置によって、上記オイル供給リングは、また、転がり軸受の保護をもたらし得、それは、転がり軸受への汚染物質の浸入と同時に、サービスライフの低下を防止する。しかし、何よりも、転がり軸受への摩擦を増大させるオイルの好ましくない侵入は、少なくとも、より生じにくくされる。
【0006】
本発明による解決の有利な改良では、オイル供給リングは、軸方向に互いに間を空けて、少なくとも2つの外側環状チャネルを有し、それを通して、分離したオイルの流れが供給され得る。例えば、2つのフェーズアジャスタにオイルが供給されるべき、いわゆるカムインカム−カムシャフトのためのオイル供給リングの実施例も考えられる。さらに、2つ以上の環状チャネル(annular channels)または外周リンググルーブ(circumferential ring grooves)を有する複数のオイル供給リング(oil feed rings)も、また、考えられ、2つ以上の分離したオイルの流れを伝達または供給(conduct or feed)し得る。さらに、2つ以上の環状チャネルまたは外周リンググルーブを有するオイル案内リング(oil guiding rings)も、また、もちろん考えられ、2以上の分離したオイルの流れを輸送または案内(convey or guide)することができる。
【0007】
有利には、オイル供給リングの外径よりも突出し、シリンダヘッドに接触する少なくとも1つのシールリングが、それぞれの場合に環状チャネルに軸方向に近接して設けられる。そのようなシールリングは、個々のオイルの流れを分離するため、また、オイル通路とオイル供給リングとの間の好ましくないオイルの流出を制限するために必要とされる。ここで、シールリングは、また、少なくとも少量のオイルが通過し得る絞りとして構成されることもできる。そのような絞りとして形成されるシールリングは、例えば、転がり軸受に近接して、オイル供給リングに設けられ、このシールリングが、ころがり軸受への好ましくない多量のオイルの流出を防ぎ、しかし、ころがり軸受を潤滑するために絶対的に必要なオイルの流出は許す。シールリングの構成によって、その結果、上記シールリングの絞り効果に影響を与えることが可能である。
【0008】
発明に従った解決の他の有利な実施例では、オイル供給リングから受け取った少なくとも1つのオイルの流れをフェーズアジャスタに運ぶオイル案内スリーブが、カムシャフト内に設けられる。そのようなオイル案内スリーブは、特に、異なるオイルの流れを別個に、例えば別個のフェーズアジャスタに運ぶためにも働く。そのようなオイル案内スリーブは、一般に、構造的に簡素に製造され得るとともに、カムシャフトに容易に組み込まれ得る。ここで、そのようなオイル案内スリーブは、一般に、また、カムシャフト内に端部から(from a front side end)詰め込まれて、その中に固定されるオイル案内プラグとしても構成され得る。
【0009】
本発明のさらに重要な特徴および利点は、従属請求項から、図面から、および図面に基づく図示の関連する記述から生じる。
【0010】
上記の特徴および以下に説明される特徴は、それぞれの述べられた組み合わせだけでなく、他の組み合わせ、または単独でも、本発明の文脈から逸脱することなく用い得ることは理解されるべきである。
【0011】
本発明の好ましい例示的実施例は、図面中に図示され、以下の記述中でより詳しく説明され、同じ参照番号は、同じ、または類似した、または機能的に同じ構成要素を指し示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に従った内燃機関のカムシャフト部分の断面図を示す。
【
図2】
図1と同様に、しかし異なって構成されたオイル供給リングの実施例を示す。
【
図3】カムシャフト内に設けられたオイル案内プラグを有する本発明に従ったカムシャフトの実施例を示す。
【
図4】異なるオイルの流れを案内するためにカムシャフト内に設けられたオイル案内スリーブを有する他の可能な実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1によれば、シリンダヘッド2、およびカムシャフト3の部分だけが図示される本発明の内燃機関1は、上記カムシャフト3と、フェーズアジャスタ4とを有し、上記カムシャフト3は少なくとも1つのベアリング5を介して取り付けられている。フェーズアジャスタ4は、公知の手法によって、ドライブに対する、特に、フェーズアジャスタ4のハウジングに設けられ得るチェーン/ベルトホイールに対するカムシャフト3の回転角度の調節のために働く。カムシャフト3を特にスムーズに回転させるように取り付け得るためには、少なくとも1つのベアリング5がころがり軸受、特にボールベアリングまたはニードルベアリングとして構成される。ベアリング5に近接して、カムシャフト3を環状に囲み、少なくとも1つの外側環状チャネル7と、カムシャフト3の放射方向貫通孔8’に連なる少なくとも1つの放射方向貫通孔8とを有するオイル供給リング6が設けられる。オイル供給リング6の外径は、少なくともベアリング5、すなわち、ころがり軸受の外径よりもわずかに小さく、少なくとも1つのフェーズアジャスタ4のオイル供給が、シリンダヘッド2内のオイル通路10を介してオイル供給リング6の環状チャネル7へ、そして放射方向貫通孔8,8’を通してカムシャフト3内へと行われる。本発明の内燃機関1では、したがって、少なくとも1つのフェーズアジャスタ4へのオイルの供給(oil feed or oil supply)は、もはやベアリング自身を通しては行われず、これに近接した別体の(separate)オイル供給リング6を介して行われるので、従来、カムシャフト3を取り付けるために用いられ、比較的大きな摩擦を有するフリクションベアリングを、摩擦の小さいころがり軸受、特にボールまたはニードルベアリングに置き換えることが可能になる。
【0014】
本発明のオイル供給リング6の構成は、必要とされるオイルの流れの数によって異なり得る。例えば、
図1の左側に示されるオイル供給リング6が考えられ、このオイル供給リング6は、それを通して、分離したオイルの流れ9が案内される、軸方向に間を空けた2つの外側環状チャネル7を有している。個々のオイルの流れ9は、その相違に関して異なる矢印、例えば実線矢印、クロス付矢印(gekreuzten Pfeilen)、点線矢印、または破線矢印で示されている。
【0015】
やはり
図1を参照すると明らかなように、軸方向に環状チャネル7に近接するそれぞれの場合において、オイル供給リング6の外径よりも突出し、オイル通路10の領域でシリンダヘッド2に接触する少なくとも1つのシールリング11が設けられている。シールリング11は、また、絞りとしても形成されることができ、少なくとも少量のオイルが通過するのを許容することができる。これは、ベアリング5に直接的に近接するシールリング11にとって特に非常に重要である。なぜならば、このシールリングは、過度の、そして好ましくないオイルの、ベアリング5、すなわちボールベアリングへの流出を防ぐ必要があり、しかし、ベアリング5を潤滑するために、所定のわずかな量のオイルが通過するのを許容するべきだからである。もちろん、
図2、および
図4に示されるように、そのようなシールリング11を有しないオイル供給リング6の実施例も、また、考えられる。
【0016】
さらに、カムシャフト3は、いわゆるカムインカム−カムシャフトとして構成されることができ、よって、外シャフト、および上記外シャフトと同軸状に設けられ、外シャフトに相対的に回転し得る内シャフトを有し得る。この場合には、通常、2つのフェーズアジャスタ4が共通のアセンブリ中に組み合わせられ、そのうちの第1のフェーズアジャスタ4は、内シャフトの、したがって第1のカムのドライブに対するフェーズ位置を調整し、第2のフェーズアジャスタは、外シャフトの、したがって第2のカムのドライブに対するフェーズ位置を調整する。カムシャフト3内でのオイルの流れ9の制御された輸送(directed conveying)のためには、いわゆるオイル案内スリーブ12(
図4参照)、またはオイル案内プラグ13(
図3参照)が上記カムシャフト内に設けられ得る。オイル案内スリーブ12、またはオイル案内プラグ13は、少なくとも1つのオイルの流れ9、しかし、好ましくは複数のオイルの流れ9の輸送のために構成される。全般的に、ベアリング5、本例ではボールベアリング、および近接するオイル供給リング6が、共通のアセンブリを形成することが考えられる。オイル供給リング6、またはベアリング5の内輪のカムシャフト3への固定は、例えば、締りばめ、または他の公知の手法によって実行することができる。もちろん、オイル供給リング6は、また、オイル通路10に固定的に接続されることもでき、そこで、シールリング11は、先に設けられた位置では除去されて、むしろオイル供給リング6と、カムシャフト3との間に設けられることもできる。
【0017】
特に
図4を参照すると、2つのオイル供給リング6の間にベアリング5、本例ではボールベアリングが設けられ、オイル通路10内の先に比較的近接して設けられたオイルチャネルは引き離されていることが明らかである。しかし、本発明のオイル供給リング6、および新たなベアリング5の使用は、通例、また、既に存在するオイル通路の場合にも考えられ、オイル供給リング6は、環状チャネル7を有するオイル通路10内のオイルチャネルと整列される必要がある。もし、これが不可能な場合、既に存在するオイル通路10内のオイルチャネルは、その配置およびコースに関して、ミリング、または類似の機械加工プロセスによって修正され得る。
【0018】
図1、および
図4によれば、それぞれ少なくとも1つの流出チャネル14がオイル通路10内に設けられ、好ましくない多量のオイル、または好ましくない高い圧力が、再利用されることができ、このようにしてベアリング5への好ましくない流出が防止される。ベアリング5への過度のオイル供給は、ベアリングのベアリング特性を悪化させ、さらに、その磨耗感受性を増加させる。さらに、シャフトの応力、および、また、曲げを低減するために、ベアリング5は、好ましくはチェーン/ベルトホイールに近接して、すなわち、この場合にはフェーズアジャスタ4に近接して配置される。
【0019】
本発明の内燃機関1によれば、したがって、一方で、カムシャフト3をスムーズに回転し、耐磨耗性を有するように取り付け、他方で、フェーズアジャスタ4にオイルを供給するための分離したオイル供給を構成することが可能になる。
【符号の説明】
【0020】
1 内燃機関
2 シリンダヘッド
3 カムシャフト
4 フェーズアジャスタ
5 ベアリング
6 オイル供給リング
7 環状チャネル
8,8’ 放射方向貫通孔
9 オイルの流れ
10 オイル通路
11 シールリング
12 オイル案内スリーブ
13 オイル案内プラグ
14 流出チャネル