(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
実施形態に係るゴム組成物においては、ゴム成分としてジエン系ゴムが用いられる。ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)及び/又はジエン系合成ゴムを用いることができる。ジエン系合成ゴムとしては、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)などが挙げられる。これらのジエン系ゴムは、いずれか一種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。
【0013】
該ゴム成分としては、破壊特性に優れる天然ゴムを主成分とすることが好ましい。従って、ゴム成分は、天然ゴムの単独、又は、天然ゴムと他のジエン系ゴムのブレンドからなることが好ましく、ブレンドの場合、ゴム成分中に天然ゴムを50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上含有することである。
【0014】
本実施形態に係るゴム組成物には、変性液状ポリブタジエンが配合される。変性液状ポリブタジエンは、常温(23℃)で液状のポリマーであり、常温で固形状をなす上記ゴム成分には含まれない。該変性液状ポリブタジエンは、数平均分子量(Mn)が通常1,000〜10万であり、数平均分子量が通常20万以上である上記ゴム成分のジエン系ゴムとは明確に区別される。該変性液状ポリブタジエンの数平均分子量は、1,500〜5万であることが好ましく、より好ましくは1,500〜10,000であり、更に好ましくは2,000〜5,000である。数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)、溶媒:THF(テトロヒドロフラン)、40℃で測定される値である。
【0015】
本実施形態では、該変性液状ポリブタジエンとして、1,2−ビニル結合量が50モル%以上のポリブタジエンを水素添加して得られる水添ポリブタジエンが用いられる。このような高ビニルのミクロ構造を有する液状ポリブタジエンを用いることにより、ゴム表面へのブリードを抑えて、加工性及び高硬度化を図ることができる。また、液状ポリブタジエンとして水添したものを用いることにより、高硬度化を図ることができる。
【0016】
1,2−ビニル結合量は、水添前のポリブタジエンについて、そのポリマー中に含まれるブタジエンユニットの含有量に対する1,2−ビニル結合ユニットの含有量であり、
1HNMRスペクトルの積分比により算出される。なお、1,2−ビニル結合ユニットは水添によりビニル基がエチル基になるが、炭素数2の炭化水素基の側鎖を持つという1,2−結合の形態自体は保持されるので、水添及び未水添の1,2−ビニル結合ユニットを併せて1,2−結合成分とすれば、該水添ポリブタジエンは1,2−結合成分を50モル%以上含むものである。水添前の1,2−ビニル結合量は、70モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80〜95モル%である。
【0017】
該変性液状ポリブタジエンの水素添加率(水添前のポリブタジエンの二重結合に対する水添された二重結合の比率)は、特に限定されないが、20モル%以上であることが好ましく、より好ましくは50モル%以上であり、更に好ましくは80〜95モル%である。水素添加率は、
1HNMRスペクトルにおける不飽和結合部のスペクトル減少率から算出される。なお、水添は、パラジウムなどの触媒を使用した公知の方法で行うことができ、特に限定されない。
【0018】
本実施形態では、該変性液状ポリブタジエンとして、ヘテロ原子を含む官能基を有する官能基変性液状ポリブタジエンが用いられる。該官能基としては、ヘテロ原子として酸素原子を含むものが好ましく、例えば、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、カルボン酸誘導体基、及びエポキシ基などが挙げられ、これらはそれぞれ1種のみ導入されてもよく、あるいはまた2種以上組み合わせて導入されてもよい。これらの官能基は、フェノール系樹脂等のフェノール系成分の極性部分である水酸基と相互作用があるものであり、すなわち、水酸基との間で化学結合し得る反応性又は水素結合などの親和性を持つものである。そのため、フェノール系成分の分散性を向上させることができ、ビードフィラーの高硬度化、加工性及び低発熱性能の改良に寄与するものと考えられる。
【0019】
ここで、カルボキシル基としては、例えば、マレイン酸、フタル酸、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。カルボン酸誘導体基としては、これらカルボン酸由来のエステル基(カルボン酸エステル基)や、マレイン酸やフタル酸などのジカルボン酸の無水物からなる酸無水物基が挙げられる。カルボン酸エステル基としては、例えば、アクリレート基(-O-CO-CH=CH
2)及び/又はメタクリレート基(-O-CO-C(CH
3)=CH
2)(これらをまとめて、(メタ)アクリレート基という。)が好ましい例として挙げられる。
【0020】
このような官能基変性液状ポリブタジエンは、例えば、液状ポリブタジエンを水素添加した水添ポリブタジエンに対して官能基を有する化合物を反応させて化学修飾することにり、分子末端に上記官能基を有する液状ポリブタジエンを得ることができる。但し、その製造方法は特に限定するものではない。
【0021】
本実施形態に係るゴム組成物には、該変性液状ポリブタジエンを、上記ゴム成分100質量部に対して、1〜25質量部にて配合することができる。上記のように高ビニル品を水添してなりかつ官能基で化学修飾された変性液状ポリブタジエンを、かかる配合量にて用いることにより、高硬度化、加工性及び低発熱性能をバランスよく改良することができる。変性液状ポリブタジエンの配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して、5〜20質量部であることが好ましい。
【0022】
本実施形態に係るゴム組成物には、高硬度化のために、フェノール系樹脂及びフェノール類化合物からなる群から選択された少なくとも一種のフェノール系成分が配合される。フェノール系成分は、ゴム成分100質量部に対して1〜40質量部にて配合することができ、より好ましくは5〜30質量部、更に好ましくは10〜25質量部である。
【0023】
フェノール類化合物としては、フェノール、レゾルシンまたはこれらのアルキル誘導体が含まれる。アルキル誘導体には、クレゾール、キシレノールといったメチル基誘導体の他、ノニルフェノール、オクチルフェノールといった比較的長鎖のアルキル基による誘導体が含まれる。これらのフェノール類化合物を複数種組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、アルデヒドで縮合していないものを用いる場合、レゾルシンを用いることが好ましい。
【0024】
フェノール系樹脂は、上記フェノール類化合物をホルムアルデヒドなどのアルデヒドで縮合してなる熱硬化性樹脂である。上記フェノール類化合物を複数種用いて、アルデヒドと縮合してもよい。従って、フェノール系樹脂としては、フェノールとホルムアルデヒドを縮合してなる未変性フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂)、クレゾールやキシレノール、オクチルフェノール等のアルキルフェノールとホルムアルデヒドを縮合してなるアルキル置換フェノール樹脂、レゾルシンとホルムアルデヒドを縮合してなるレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシンとアルキルフェノールとホルムアルデヒドを縮合してなるレゾルシン−アルキルフェノール共縮合ホルムアルデヒド樹脂などの、各種ノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。また、カシューナッツ油、トール油、ロジン油などの各種オイルで変性されたオイル変性ノボラック型フェノール樹脂を用いることもできる。
【0025】
本実施形態に係るゴム組成物には、フェノール系成分とともに、メチレン供与体としてのヘキサメチレンテトラミンやメラミン誘導体を併用してもよい。メラミン誘導体としては、メラミンとホルムアルデヒドを反応させて得られるヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル、多価メチロールメラミンなどが挙げられる。これらのメチレン供与体の配合量は、上記フェノール系成分100質量部に対して30〜200重量部であることが好ましい。
【0026】
本実施形態に係るゴム組成物には、充填剤として、カーボンブラックを配合することができる。カーボンブラックとしては、特に限定されず、ビードフィラーに一般に用いられているグレード、例えば、ISAF、HAF、FEF、GPFのものを用いることができる。カーボンブラックの配合量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して30〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは50〜90質量部である。
【0027】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記の各成分の他に、シリカ等の他の充填剤、オイル、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤビードフィラー用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。上記加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分100質量部に対して0.5〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0028】
該ゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、第一混合段階で、ゴム成分に対し、上記変性液状ポリブタジエン及びフェノール系成分とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0029】
以上よりなる実施形態のゴム組成物は、空気入りタイヤのビードフィラーを構成するためのゴム組成物として用いられ、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、ビードフィラーを形成することができる。
【0030】
図1は、実施形態に係る空気入りラジアルタイヤの一例を示す半断面図である。タイヤは、左右一対のビード部(1)及びサイドウォール部(2)と、両サイドウォール部(2)間にまたがるトレッド部(3)とを備えて構成されている。ビード部(1)には、スチールワイヤを複数回巻回してなる環状のビードコア(4)が設けられている。左右一対のビードコア(4)間には、タイヤ周方向に対し直角に配列した多数のコードが延在してなるカーカスプライ(5)が設けられている。そして、カーカスプライ(5)の両端部は、ビードコア(4)をタイヤ軸方向内側から外側に包み込むように折り返されて係止されている。トレッド部(3)におけるカーカスプライ(5)の半径方向外側には少なくとも2枚のベルトプライを重ね合わせてなるベルト(6)が配されている。
【0031】
そして、ビードコア(4)のタイヤ外周側にゴム製のビードフィラー(7)が配設されている。ビードフィラー(7)は、カーカスプライ(5)の端部をビードコア(4)に沿って折り返して係止する際に形成される捲き上げ部(5A)とカーカスプライ本体とビードコア(4)とで包囲された空間に充填されるものである。従って、ビードフィラー(7)は、ビードコア(4)の外周に沿って配設される環状のゴム部材であり、一般に径方向外方ほど先細の断面三角形状に形成されている。このような構成からなるものにおいて、ビードフィラー(7)の全体が上記ゴム組成物で形成されている。
【0032】
図1に示す空気入りタイヤの構成はあくまでも一例であり、これに限定されるものではない。空気入りタイヤとしては、乗用車用でも、トラックやバスなどの重荷重用でもよく、各種空気入りタイヤのビードフィラーに適用することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、硫黄と加硫促進剤を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で硫黄と加硫促進剤を添加混合して(排出温度=90℃)、タイヤビードフィラー用ゴム組成物を調製した。表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0035】
[ゴム成分]
・天然ゴム:RSS#3
[液状ポリブタジエン]
・液状ポリブタジエン1:日本曹達株式会社製「BI-3000」(未変性の水添液状ポリブタジエン、Mn=3,300、水添前の1,2−ビニル結合量(Vi)=90モル%、水素添加率=90モル%以上)
・液状ポリブタジエン2:日本曹達株式会社製「GI-3000」(OH末端変性水添液状ポリブタジエン、Mn=3,100、水添前のVi=90モル%、水素添加率=90モル%以上)
・液状ポリブタジエン3:日本曹達株式会社製「TEAI-1000」(アクリレート基末端変性水添液状ポリブタジエン、Mn=2,000、水添前のVi=90モル%、水素添加率=90モル%以上)
・液状ポリブタジエン4:株式会社クラレ製「L-1502」(OH変性水添液状ポリブタジエン、Mn=7,000、水添前のVi=40モル%以下、水素添加率=90モル%以上)
・液状ポリブタジエン5:出光興産株式会社製「Poly pbR45HT」(OH変性液状ポリブタジエン、Mn=2,500、未水添、Vi=20モル%以下)
[その他の成分]
・カーボンブラック:N550(FEF)、東海カーボン株式会社製「シーストSO」
・オイル:昭和シェル石油株式会社製「エキストラクト4号S」
・亜鉛華:三井金属鉱業株式会社製「亜鉛華1号」
・老化防止剤:住友化学工業株式会社製「アンチゲン6C」
・ステアリン酸:花王株式会社製「ルナックSー20」
・フェノール系樹脂:オイル変性ノボラック型フェノール樹脂、住友ベークライト株式会社製「スミライトレジンPR13349」
・メラミン誘導体:ヘキサメトキシメチルメラミン、三井サイテック株式会社製「サイレッツ963L」
・硫黄:鶴見化学工業株式会社製「5%油入微粉末硫黄」
・加硫促進剤:大内新興化学工業株式会社製「ノクセラーNS−P」
【0036】
各ゴム組成物について、未加硫状態で加工性を評価するとともに、150℃で30分間加硫した所定形状の試験片を用いて、低発熱性能と硬度を評価した。各評価方法は以下の通りである。
【0037】
・加工性:JIS K6300に準拠して東洋精機(株)製ロータレスムーニー測定機を用い、未加硫ゴムを100℃で1分間予熱後、4分後のトルク値をムーニー単位で測定し、比較例1の値を100とした指数で示した。指数が小さいほど、粘度が小さく、加工性に優れることを意味する。
【0038】
・低発熱性能:JIS K6394に準じて、東洋精機(株)製粘弾性試験機を用いて、温度60℃、周波数10Hz、初期歪み10%、動歪み1%の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。60℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、低発熱性能の指標として一般に用いられているものであり、該指数が小さいほどtanδが小さく、従って、発熱しにくく、即ち低発熱性能に優れ、タイヤとしての低燃費性能に優れることを示す。
【0039】
・硬度:JIS K6253に準拠したタイプAデュロメータ(A型)を用いて、23℃で硬さを測定し、比較例1の値を100とした指数で示した。指数が大きいほど、硬度が高く、そのため、ビードフィラーとして用いた場合に、操縦安定性能に優れることを示す。
【0040】
【表1】
【0041】
結果は、表1に示す通りであり、比較例1に対してカーボンブラックを増量した比較例2及びフェノール系樹脂を増量した比較例3では、硬度は上昇したものの、加工性及び低発熱性能が悪化した。
【0042】
未変性の水添液状ポリブタジエンを配合した比較例4では、比較例1に対し、加工性は改善したものの、低発熱性能が損なわれ、また高硬度化も図れなかった。このことから、水添液状ポリブタジエンを用いた場合であっても、官能基で変性してないものでは、高硬度化も低発熱性能も改善効果が得られないことがわかる。
【0043】
比較例5では、液状ポリブタジエンとして、官能基変性の水添ポリブタジエンを用いているが、低ビニル品を水添したものであるため、ゴム表面にブリードが生じており、加工性と高硬度化の効果は得られなかった。これは、液状ポリブタジエンが表面にブリードすることで、フェノール系樹脂の分散剤としての効果や、液状であることによる粘度低減効果が損なわれたためと考えられる。
【0044】
比較例6では、液状ポリブタジエンとして、官能基変性ポリブタジエンを用いているが、低ビニル品でありかつ未水添であるため、高硬度化の効果は得られなかった。
【0045】
これに対し、高ビニル品を水添した官能基変性液状ポリブタジエンを、フェノール系樹脂とともに配合した実施例1〜5であると、高硬度化及び加工性、低発熱性能をバランス良く改良することができた。すなわち、実施例1〜5では、比較例1に対して、加工性及び低発熱性能を損なうことなく、むしろこれらを改善しながら、高硬度化を図ることができた。