(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973268
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】ファンカットドリル
(51)【国際特許分類】
E21B 7/02 20060101AFI20160809BHJP
【FI】
E21B7/02
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-155939(P2012-155939)
(22)【出願日】2012年7月11日
(65)【公開番号】特開2014-15819(P2014-15819A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】594149398
【氏名又は名称】古河ロックドリル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(72)【発明者】
【氏名】宮越 征一
(72)【発明者】
【氏名】都築 翔
【審査官】
竹村 真一郎
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3009405(JP,U)
【文献】
特開2000−337073(JP,A)
【文献】
特開平10−082269(JP,A)
【文献】
特開平08−128293(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0093525(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0149392(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 7/02−7/10
E21C 1/00−11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルまたは坑道内で用いられるファンカットドリルであって、
台車と、該台車上に前後傾動可能に枢支されたチルトブームと、該チルトブームの先端に左右に揺動可能に自身基端部が枢支されたスイングアームと、該スイングアームの先端部に設けられた水平面旋回機構と、該水平面旋回機構上に枢支された垂直面旋回機構と、該垂直面旋回機構の側面に枢支されて当該垂直面旋回機構の駆動により水平な軸回りに回動されるガイドマウンチングと、該ガイドマウンチングに沿って支持されたガイドシェルと、該ガイドシェルに搭載されたさく岩機とを備え、
前記水平面旋回機構は、自身の垂直な軸回りに所定範囲で前記垂直面旋回機構を回動させて、少なくとも前記さく岩機の穿孔軸心の位置を、当該水平面旋回機構の回転軸心の位置よりも前記トンネルまたは坑道の側壁に近い側に位置させられるように構成されていることを特徴とするファンカットドリル。
【請求項2】
前記水平面旋回機構は、前記所定範囲が、ファンカットドリルが格納姿勢からチルトブームを水平な状態とした準備姿勢のときを基準として、左右に振り分けの回動範囲を有し、
前記垂直面旋回機構は、前記準備姿勢のときに、前記ガイドマウンチングを枢支している前記側面が、台車の後方を向く面とされていることを特徴とする請求項1に記載のファンカットドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、さく岩機を備え、トンネルや坑道の周壁に穿孔するファンカットドリルに係り、特に、さく岩機の穿孔範囲を調整する穿孔角度調整機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トンネルや坑道の周壁に穿孔するために、さく岩機を備えるファンカットドリルが使用されている(例えば特許文献1参照)。
この種のファンカットドリルは、
図3(b)に示すように、台車1の前端部に、前後に傾動するチルトブーム2が設けられている。このチルトブーム2には、左右(同図の紙面方向)にスイングするスイングアーム3の基端部が枢着されている。スイングアーム3の先端部には、360°旋回する旋回機構4が穿孔角度調整機構として設けられている。そして、この旋回機構4の車両後方を向く側面に、ガイドマウンチング5を介してガイドシェル6が支持され、このガイドシェル6に、さく岩機7が搭載されている。穿孔の際には、チルトブーム2、スイングアーム3、旋回機構4の作動によってガイドシェル6を位置決めし、さく岩機7で周壁に穿孔する。
【0003】
ところで、従来のファンカットドリルの穿孔範囲は、ガイドマウンチング5が、旋回機構4の水平軸4aまわりに360°の旋回をすることから、同図(a)にさく岩機7の穿孔範囲のイメージを示すように、台車1に垂直な平面に沿って全周(360°)方向の範囲内でガイドシェル4を位置決めして穿孔可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】登録実用新案第3009405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のファンカットドリルは、垂直な平面の範囲内に穿孔範囲が限定される。そのため、例えばトンネルや坑道の真上や真横には穿孔可能なものの、台車の斜め前方に向けて任意の角度には穿孔できないという問題がある。また、さく岩機を台車の前後方向に向けての傾動ができないことから、さく岩機を台車の左右方向にしか動かすことができないので、ホース等の設備の干渉をさけられず、側壁近傍では穿孔が困難であった。
そこで、本発明は、上述のような問題点に鑑みてなされたものであって、斜め前方に向けて任意の角度に対しても穿孔し得るファンカットドリルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るファンカットドリルは、
トンネルまたは坑道内で用いられるファンカットドリルであって、台車と、該台車上に前後傾動可能に枢支されたチルトブームと、該チルトブームの先端に左右に揺動可能に自身基端部が枢支されたスイングアームと、該スイングアームの先端部に設けられた水平面旋回機構と、該水平面旋回機構上に枢支された垂直面旋回機構と、該垂直面旋回機構の側面に枢支されて当該垂直面旋回機構の駆動により水平な軸回りに回動されるガイドマウンチングと、該ガイドマウンチングに沿って支持されたガイドシェルと、該ガイドシェルに搭載されたさく岩機とを備え、前記水平面旋回機構は、自身の垂直な軸回りに所定範囲で前記垂直面旋回機構を回動させ
て、少なくとも前記さく岩機の穿孔軸心の位置を、当該水平面旋回機構の回転軸心の位置よりも前記トンネルまたは坑道の側壁に近い側に位置させられるように構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係るファンカットドリルは、穿孔角度調整機構として、垂直面旋回機構および水平面旋回機構を備えており、水平面旋回機構は、垂直面旋回機構を自身の垂直な軸回りに所定範囲(例えば左右それぞれに90°)で回動させることができるので、ガイドシェルに搭載されたさく岩機の向きを台車の斜め前方に向けて任意の角度に位置させることができる。そのため、台車の斜め前方に向けて任意の角度に対しても穿孔することができる。
また、水平面旋回機構は、
少なくとも前記さく岩機の穿孔軸心の位置を、当該水平面旋回機構の回転軸心の位置よりも前記トンネルまたは坑道の側壁に近い側に位置させられるように構成されているので、水平面旋回機構を回動させることにより
、ホース等の設備の干渉を回避できるため、従来は穿孔が困難であった側壁近傍の領域まで穿孔可能範囲を広げることができる。
【0008】
特に、本発明の一態様に係るファンカットドリルによれば、台車の斜め前方に向けて任意の角度に対しても穿孔可能なので、これにより、天面に向かって斜め方向にも穿孔可能となる。そのため、鉱山などにおいて、当該ファンカットドリルが設置されている階層よりも上または下の階層の坑道に向かってケーブル通し孔や水抜き孔を任意の角度で設けることができる。
【0009】
ここで、本発明の一態様に係るファンカットドリルにおいて、前記水平面旋回機構は、前記所定範囲が、ファンカットドリルが格納姿勢からチルトブームを水平な状態とした準備姿勢のときを基準として、左右に振り分けの回動範囲を有し、前記垂直面旋回機構は、前記準備姿勢のときに、前記ガイドマウンチングを枢支している前記側面が、台車の後方を向く面とされていることは好ましい。このような構成であれば、台車側から穿孔口を容易に視認できるので、穿孔作業の能率と安全性を向上する上で好適である。
【発明の効果】
【0010】
上述のように、本発明に係るファンカットドリルによれば、台車の斜め前方に向けて任意の角度に対しても穿孔することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一態様に係るファンカットドリルの一実施形態の側面図である。なお、同図では、ファンカットドリルが格納姿勢からチルトブームを水平な状態とした準備姿勢のときを示している。
【
図2】
図1のファンカットドリルにおけるガイドシェルの旋回範囲を説明する図((a)〜(c))であり、同図(a)はその正面図、(b)は(c)でのA矢視図、(c)は側面図である。
【
図3】従来のファンカットドリルの一例におけるガイドシェルの旋回範囲を説明する図であり、同図(a)はその正面図、(b)は側面図である。
【
図4】側壁近傍での穿孔姿勢を説明する図であり、同図(a)は、従来の方法での穿孔例であり、同図(b)は、本発明の一実施形態のファンカットドリルの構成を利用した穿孔例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一態様に係るファンカットドリルの一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1に示すように、このファンカットドリルは、走行可能な台車1を有する。台車1は前後にアウトリガ9を備えている。台車1上には、走行用エンジン11と、さく岩機7を含む油圧アクチュエータを作動させるための油圧パック12と、制御盤13とが配置されている。また、台車1の後部には走行コントロールボックス14、台車1の前部には穿孔コントロールボックス8が設けられている。
【0013】
上記台車1の前端部にはチルトブーム2が枢支されている。チルトブーム2はチルト用シリンダ(図示略)で前後傾動可能になっている。チルトブーム2の前端部には、側面視がL字状となるようにスイングアーム3の基端部が枢着されている。スイングアーム3は、スイング用シリンダ41で左右に揺動可能になっている。
ここで、スイングアーム3の先端部には、水平面旋回機構としてエキストラスイング20が配設されている。エキストラスイング20は、垂直方向を向く駆動軸20aと、駆動モータ20bとを有する。また、エキストラスイング20の上部には、垂直面旋回機構としてガイドロータリー4が、エキストラスイング20の駆動軸20aに連結されることで枢支されている。ガイドロータリー4は、水平方向を向く駆動軸4aを有し、駆動軸4aが360°回動するようになっている。
【0014】
より詳しくは、エキストラスイング20は、駆動モータ20bの駆動により不図示の減速機構を介して駆動軸20aを回動する。これにより、駆動軸20aに連結されたガイドロータリー4が台車1に水平な平面に沿って所定範囲で回動される(回動のイメージを
図2(b)に示す(回動方向は同図の符号R2)。本実施形態の例では、ファンカットドリルが格納姿勢(走行時の姿勢)からチルトブームを水平な状態とした準備姿勢のときを基準にして、左右に振り分け90°の位置まで回動される(
図2(b)参照)。
【0015】
そして、ガイドロータリー4には、ガイドロータリー4の
図1での後面(つまり、ファンカットドリルが準備姿勢のときにおける台車1の後側を向く側面)にガイドマウンチング5が装着される。また、ガイドマウンチング5に沿ってガイドシェル6が支持される。これにより、ガイドロータリー4が駆動されると、チルトブーム2に対してほぼ垂直な面上でガイドシェル6が360°旋回するようになっている。
ガイドマウンチング5は、一端にアンカ51、他端にガイドスライドシリンダ52を備えており、穿孔時にガイドシェル6を穿孔位置に固定できる。ガイドシェル6にはさく岩機7が搭載され、さく岩機7は公知の送り機構(図示略)によりガイドシェル6上をスライド移動する。
【0016】
次に、上記実施形態のファンカットドリルでの穿孔動作および作用・効果について説明する。
このファンカットドリルで穿孔作業を行う場合には、台車1を走行させて坑道内の穿孔位置付近に設置し、アウトリガ9で安定を確保した後、チルト用シリンダを伸長してチルトブーム2を走行時の格納姿勢から前方へ傾動させてチルトブーム2を水平な準備姿勢(
図1に示す状態)とする。次に、スイング用シリンダ41を伸縮させ、
図2(a)に示すように、スイングアーム3を左右に揺動してガイドロータリー4を所望の位置まで移動させる。次いで、2つの旋回機構を作動させてガイドシェル6を所定の穿孔位置へ位置決めする。
【0017】
すなわち、このファンカットドリルは、穿孔角度調整機構として、垂直面旋回機構であるガイドロータリー4と、水平面旋回機構であるエキストラスイング20とを備えているので、穿孔する際は、エキストラスイング20を駆動することによって、
図2(b)に示すように、ガイドロータリー4の回転軸の延設方向を水平面で左右に90°回転させることができる。これにより、
図2(a)の左側のイメージ(実線)に示すように、台車1に対して平行な方向に沿ってガイドシェル4を位置させることができる。
【0018】
そして、ガイドロータリー4は、垂直な面に対して360°旋回可能であるので、その位置でガイドロータリー4を駆動することで、
図2(c)に示すように、ガイドシェル4をガイドロータリー4の水平な軸まわりに回転させて、台車1に対して垂直な面に対する孔の位置を任意に決定することができる。
そして、アンカ51とガイドスライドシリンダ52を伸長してガイドシェル6を穿孔位置に位置決めする。その後、さく岩機7を駆動して周壁に穿孔を行なう。これにより、坑道等の天盤、側壁、下盤のいずれの方向にも穿孔することができる。
【0019】
例えば、
図4に示すように、従来の方法では、さく岩機を台車の左右方向にしか動かすことができないので、同図(a)に示すように、側壁近傍では穿孔が困難であった。これに対し、本実施形態のファンカットドリルによれば、同図(b)に示すように、穿孔角度調整機構として、垂直面旋回機構であるガイドロータリー4と、水平面旋回機構であるエキストラスイング20とを備えているので、側壁近傍での穿孔が容易である。
【0020】
なお、上記の穿孔の操作は、オペレータが穿孔コントロールボックス8で行う。このように、このファンカットドリルによれば、台車1の斜め前方に向けて任意の角度に対しても穿孔できるため、穿孔範囲を拡大することができる。
なお、本発明に係るファンカットドリルは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0021】
1 台車
2 チルトブーム
3 スイングアーム
4 ガイドロータリー(垂直面旋回機構、穿孔角度調整機構)
5 ガイドマウンチング
6 ガイドシェル
7 さく岩機
8 穿孔コントロールボックス
9 アウトリガ
11 走行用エンジン
12 油圧パック
13 制御盤
14 走行コントロールボックス
20 エキストラスイング(水平面旋回機構、穿孔角度調整機構)
41 スイング用シリンダ
51 アンカ
52 ガイドスライドシリンダ