【実施例】
【0052】
1.電池の製造
(実施例1)
図3に示すような、縦(L)が3mm、横(W)が3mm、厚さ(H)が約1.0mmの略矩形の板状をなし、作動温度が90℃であるPTCサーミスタ40を準備した。なお、PTCサーミスタ40のコーナー部は、ラウンド状に形成されている
【0053】
一方、第1のリード半体42及び第2のリード半体44としては、厚さが約0.2mmのニッケルからなる帯状体を準備した。これら第1及び第2のリード半体42,44は、
図4に示すように、縦(L1)が3.5mm、横(W1)が3.5mmの矩形のオーバーラップ端部54,56と、幅(W2)が3mmの本体部62,66とを含む。なお、オーバーラップ端部54,56と本体部62,66との間には、幅(W3)が2.5mm、長さ(L2)が1mmの狭幅部64,68が設けられている。
【0054】
ここで、第1のリード半体42のオーバーラップ端部54には、
図4,
図5に示すように、PTCサーミスタ40の平面視形状と同形状の第1の嵌込凹部70が設けられている。すなわち、第1の嵌込凹部70は、縦(L4)が3mm、横(W4)が3mm、深さ(D1)が約0.3mmの略矩形状をなしている。
なお、第2のリード半体44の第2のオーバーラップ端部56は、凹部を有さず、平坦である。
【0055】
次に、第1のリード半体42における第1の嵌込凹部70の底面71及び第2のリード半体44の第2のオーバーラップ端部56に半田ペーストを塗布した。その後、PTCサーミスタ40を、上端面46側から第1のリード半体42の第1の嵌込凹部70に嵌め込んだ。次いで、PTCサーミスタ40の下端面47に第2のリード半体44の第2のオーバーラップ端部56を重ね合わせた。このとき、第2のリード半体44は、その本体部62が、第1のリード半体42の本体部62とは反対側に延びるように配設されている。このように第1のリード半体42、PTCサーミスタ40及び第2のリード半体44を積層した状態で全体を加熱し、半田を溶融させた後、冷却する工程を経て、半田付けを行った。
【0056】
その後、PTCサーミスタ40の周囲で、且つ、第1のリード半体42の第1のオーバーラップ端部54と第2のリード半体44の第2のオーバーラップ端部56との間の隙間に耐アルカリエポキシ樹脂を充填した。これにより、PTCサーミスタの側面48のうち露出した部分の全体を保護材72で被覆した。このようにして実施例1の正極リード30を製造した。
【0057】
得られた正極リード30を用いて一般的なAAAサイズのニッケル水素蓄電池を作製した。この電池を電池aと称する。
【0058】
(比較例1)
実施例1と同様なPTCサーミスタ40を準備した。
一方、第1のリード半体90及び第2のリード半体92として、厚さ約0.2mmのニッケルからなる帯状体を準備した。これら第1及び第2のリード半体90,92は、
図7に示すように、幅(W5)が3mmの本体部94,96と、この本体部94,96の先に延びる幅(W6)が2.5mmの先端部98,100とを含む。
次に、第1のリード半体90及び第2のリード半体92の先端部98,100に半田ペーストを塗布した。この半田ペーストは、先端部98,100のPTCサーミスタ40に対向する面の所定位置に塗布した。その後、専用工具で保持されたPTCサーミスタ40に対し、その上端面46に第1のリード半体90の先端部98を重ね合わせた。一方、第2のリード半体92については、その本体部96が第1のリード半体90の本体部94とは反対側に延びるように配置するとともに、その先端部100をPTCサーミスタ40の下端面47と重ね合わせた。そして、この状態で全体を加熱し、半田を溶融させた後、冷却する工程を経て、半田付けを行った。
【0059】
この比較例1において、第1のリード半体90及び第2のリード半体92は、
図7,8に示すように、その先端98a,100aから長さ(L5)が2mmの範囲のみPTCサーミスタ40とオーバーラップさせている。これにより、比較例1のPTCサーミスタ40は、側面48だけではなく上下の端面46,47も部分的に露出している。このため、比較例1においては、この露出している面を全て被覆すべく、先端部98,100の外面を含めPTCサーミスタ40が存在する部分全体にエポキシ樹脂102を塗布した。このエポキシ樹脂102は、耐アルカリ性を備えていない一般的な樹脂であるので、アルカリ成分から保護するために、エポキシ樹脂が塗布された部分の全体を更に耐アルカリ性を備えたポリプロピレン製の透明な保護テープ104で被覆した。この保護テープ104は、縦(L7)が約9mm、横(W7)が約9mmの大きさでPTCサーミスタ40が組み込まれた部分を上下面から覆っている。このようにして比較例1の正極リード33を製造した。この比較例1の正極リード33は、エポキシ樹脂の被覆厚さが実施例1の正極リード30に比べて厚く、更にその上に、大判の保護テープ104が配設されているので、PTCサーミスタ40が組み込まれた部分は、実施例1に比べてかさばっている。
【0060】
得られた正極リード33を用いて一般的なAAサイズのニッケル水素蓄電池を作製した。この電池を電池bと称する。
【0061】
なお、比較例1の正極リード33は、上記したようにかさばっているため、AAAサイズのニッケル水素蓄電池には組み込むことはできなかった。
【0062】
(比較例2)
PTCサーミスタを備えていない一般的な正極リードを用いて、一般的なAAAサイズのニッケル水素蓄電池を作製した。この電池を電池cと称する。
【0063】
(実施例2)
作動温度が80℃であるPTCサーミスタを用いたことを除いては、実施例1と同様にして正極リードを製造した。
得られた正極リードを用いて一般的なAAAサイズのニッケル水素蓄電池を作製した。この電池を電池dと称する。
【0064】
(実施例3)
作動温度が100℃であるPTCサーミスタを用いたことを除いては、実施例1と同様にして正極リードを製造した。
得られた正極リードを用いて一般的なAAAサイズのニッケル水素蓄電池を作製した。この電池を電池eと称する。
【0065】
(実施例4)
作動温度が60℃であるPTCサーミスタを用いたことを除いては、実施例1と同様にして正極リードを製造した。
得られた正極リードを用いて一般的なAAAサイズのニッケル水素蓄電池を作製した。この電池を電池fと称する。
【0066】
(実施例5)
作動温度が
110℃であるPTCサーミスタを用いたことを除いては、実施例1と同様にして正極リードを製造した。
得られた正極リードを用いて一般的なAAAサイズのニッケル水素蓄電池を作製した。この電池を電池gと称する。
【0067】
2.電池の評価
(1)得られた電池a〜cに対し、初期活性化処理を施し、使用可能状態とした。その後、各電池は、充電され、フル充電状態とされた。
【0068】
次いで、これら電池a〜電池cは、25℃の環境下に置かれた。そして、各電池において、正極端子と負極端子とを金属線でつなぎ外部短絡を発生させた。このときの電池の表面の温度を測定し、外部短絡時の電池表面の最高温度を求めた。得られた結果を電池の表面温度として表1に示した。
【0069】
【表1】
【0070】
この表1から以下のことがわかる。
実施例1の正極リードは、PTCサーミスタよりも大きいオーバーラップ端部を有し、しかも、このオーバーラップ端部には、PTCサーミスタのための嵌め込み凹部が設けられている。かかるオーバーラップ端部では、PTCサーミスタの上下面及び側面の一部が覆われているので、PTCサーミスタの露出面積は従来よりも小さくなっている。このため、PTCサーミスタにおいて被覆すべき箇所の面積は小さいので、保護用の樹脂の使用量を少なくすることができる。しかも、実施例1の正極リードにおいては、耐酸素用の保護及び耐アルカリ性の保護が耐アルカリエポキシ樹脂のみで可能であるので、PTCサーミスタの保護対策が従来よりも簡略化できる。よって、PTCサーミスタの組み込み箇所がかさばらないので、実施例1の正極リードは、AAAサイズの電池に十分搭載が可能となっている。
【0071】
また、PTCサーミスタを含む従来型の正極リードである比較例1の正極リードを搭載した電池bは、外部短絡が起こった場合、その電池表面の温度は、44.8℃である。これに対し、実施例1にかかる電池aは、外部短絡発生時の電池表面温度が52.5℃であり、電池bよりも7.7℃高い。これは、電池aは、AAAサイズの電池であり、AAサイズの電池bよりも小さく、温度が上昇し易いことから、電池bよりも温度が高くなったと考えられる。しかしながら、電池aの表面温度は、国内玩具基準(電池の最高発熱温度は70℃以下)を下回るものであり、十分発熱を抑制することができていると考えられる。
【0072】
一方、PTCサーミスタを組み込んでいない電池cは、外部短絡が発生すると、138.0℃程度まで発熱してしまった。これに比べると、電池aは、外部短絡を起こしてもその半分以下の温度までしか昇温しないので、このことからも、十分発熱を抑制することができていると考えられる。
【0073】
以上より、本発明は、従来はかさばってAAAサイズの電池に搭載が困難であったPTCサーミスタ組み込み正極リードをAAAサイズの電池に搭載可能とし、しかも従来と同等の発熱抑制効果を奏していると言える。
【0074】
(2)次に、得られた電池a、d〜gに対し、初期活性化処理を施し、使用可能状態とした。その後、各電池は、充電され、フル充電状態とされた。
【0075】
そして、これらの電池を60℃の環境下に2時間放置し、同じ温度環境で、正極端子と負極端子との間の電気抵抗値を測定した。その結果を60℃の環境下における電池の抵抗値として表2に示した。
【0076】
ついで、これら電池a、d〜gを室温まで冷却し、25℃の環境下に置いた。そして、各電池において、正極端子と負極端子とを金属線でつなぎ外部短絡を発生させた。このときの電池の表面の温度を測定し、外部短絡時の電池表面の最高温度を求めた。得られた結果を電池の表面温度として表2に併せて示した。
【0077】
【表2】
【0078】
この表2から以下のことがわかる。
まず、電池a、d〜gについては、25℃における外部短絡時の電池表面の最高温度が、PTCサーミスタを搭載していない電池cの外部短絡時の電池表面の最高温度に比べて、いずれも低い値となっているので、PTCサーミスタが有効に機能して、発熱の抑制がなされていると言える。
ここで、PTCサーミスタの作動温度が60℃に設定されている電池fは、60℃の環境下に置かれると、そこに含まれるPTCサーミスタも環境温度の影響で温度が上昇する。その結果、電流抑制機能が作動し、電池の電気抵抗値がおよそ1000Ωに上昇してしまった。このため、電池fは、置かれる環境の温度が60℃程度となる場合、例えば、夏季の自動車の中等に置かれた場合、実際には外部短絡をおこしていないのに、電流を抑制して、機器を駆動できなくさせてしまう可能性がある。これに対し、電池fよりもPTCサーミスタの作動温度が高い電池a,
d,e,gでは、60℃の環境下でも抵抗値が0.020Ω以下と低く、電池fのような不具合は、生じないと言える。
【0079】
一方、これらの電池が、25℃の環境下で外部短絡を起こした場合、電池a、電池d〜fの表面温度は、65.0℃以下であるのに対し、電池gの表面温度は、74.8℃まで上昇している。
このことから、誤作動防止のため、PTCサーミスタの作動温度を高くし過ぎると、実際に外部短絡が生じた場合、電池の表面温度も比較的高くなることがわかる。
【0080】
以上のことから、PTCサーミスタの誤作動防止と、実際に外部短絡が生じた場合に、国内玩具基準(電池の最高発熱温度は70℃以下)を満足できるようにするためには、PTCサーミスタの作動温度を80℃〜100℃の範囲とすることが好ましいと言える。
【0081】
なお、本発明は、上記した実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、本発明が適用される電池は、ニッケル水素蓄電池に限られるものではなく、他のアルカリ蓄電池にも適用可能である。また、本発明に用いられるPTCサーミスタは、その形状は、ラウンドコーナーを有する矩形状に限定されるものではなく、コーナーが角形の矩形状、円形状、三角形状等種々の形状のものを採用することができる。この場合、嵌込凹部の形状は、かかるPTCサーミスタの形状に合致する形状とする。