特許第5973293号(P5973293)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973293
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】静電型スピーカ
(51)【国際特許分類】
   H04R 19/02 20060101AFI20160809BHJP
【FI】
   H04R19/02
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-193479(P2012-193479)
(22)【出願日】2012年9月3日
(65)【公開番号】特開2014-50046(P2014-50046A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年8月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100067541
【弁理士】
【氏名又は名称】岸田 正行
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100180699
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 渓
(72)【発明者】
【氏名】中山 鶴雄
(72)【発明者】
【氏名】直原 洋平
【審査官】 大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭48−051621(JP,A)
【文献】 特開2012−065295(JP,A)
【文献】 実公昭36−005711(JP,Y1)
【文献】 特開昭50−089017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜状部材からなる振動膜と、
前記振動膜に対向して配置される導電性の音響透過性を有する平面電極と、
前記振動膜と前記平面電極との間に配置され、前記振動膜との接触により前記振動膜を帯電させる緩衝部材と、を備え
前記緩衝部材は、少なくとも表面にカチオン性の官能基を有することを特徴とする静電型スピーカ。
【請求項2】
前記緩衝部材のカチオン性官能基がアミノ基、アンモニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基のうちいずれか1種であることを特徴とする請求項1に記載の静電型スピーカ。
【請求項3】
前記緩衝部材の単位質量当たりのカチオン性官能基量が0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の静電型スピーカ。
【請求項4】
前記緩衝部材の通気度が150cm3/cm2/sec以上400cm3/cm2/sec以下であることを特徴とする請求項1からのいずれか1つに記載の静電型スピーカ。
【請求項5】
前記緩衝部材の少なくとも前記振動膜に対向する表面には、無機微粒子または高分子微粒子と、バインダー成分及び/又はシランモノマーと、を含む薄膜が形成されていることを特徴とする請求項1からのいずれか1つに記載の静電型スピーカ。
【請求項6】
前記振動膜は、少なくとも表面の一部にフッ素系高分子を含む層が形成されていることを特徴とする請求項1からのいずれか1つに記載の静電型スピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性に優れ、高電圧を必要とせず、長時間使用しても優れた音質を維持でき、様々な環境でも安定な音質が提供できる静電型スピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スピーカの一つとして静電型スピーカが知られている。この静電型スピーカは、振動膜と、それぞれ振動膜の両面に対向して所定の空隙を隔てて平行に配置される平面電極などにより構成されている。平面電極に駆動電流を流すことにより、振動膜が振動し、音が発生する。また、振動膜は10μm程度の薄い高分子膜の表面に、導電性の薄膜を真空蒸着やスパッタリングなどの方法により形成して用いられる。この振動膜に高い電圧を印加して、振動膜を帯電させることで効率よく振動させて音を発生させることから、消費電力を低減できることが静電型スピーカの特徴である。さらに、平面波により音を伝播させるため、距離による減衰がほとんどない。また、音源が広いため、特定の周波数に帰還のピークが集中せず、ハウジングを起こさないなど、様々な優れた特徴も備えている。
【0003】
しかしながら、従来の静電型スピーカは、振動膜に高電圧を印加することから、安全性の課題が残されており、また、高電圧を印加するためのトランスも必要となる。さらに、乾燥した環境で長時間使用すると、振動膜ならびに緩衝部材の表面には塵が付着し、振動膜の振動の妨げや放電を引き起こし、音質や音量に影響を及ぼす。また、湿度の高い環境に長時間放置すると、帯電した振動膜が放電して帯電が低下し、音が出にくくなるなどの問題がある。
【0004】
このような課題を解決する方法として、高分子フィルム表面を導電性高分子で処理したフィルムを振動膜に使用して湿度の影響を抑制する方法(特許文献1)や、集塵機能を有する部材を設置してごみの付着を抑制する方法(特許文献2)や、振動膜表面に形成する導電性膜を縁部分に形成しないことで、放電が発生し難くする方法(特許文献3、4)などが提案されている。
【特許文献1】特開平7−046697号公報
【特許文献2】特開2008−148195号公報
【特許文献3】特開2010−016603号公報
【特許文献4】特開2010−021646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高分子フィルム表面を導電性高分子で処理したフィルムを振動膜に使用して湿度の影響を抑制する方法では、湿度に対しては対策が可能ではあるが、使用経時に伴って塵や埃の付着が発生する。また、帯電させるために高電位を印加することも必要であり、根本的な対策とはならない。また、集塵機能を有する部材を設置して塵や埃の付着を抑制する方法や、振動膜表面に形成する導電性膜を縁部分に形成しないことで、放電が発生し難くする方法などでは、構造が複雑になってスピーカシステムが厚くなる。また、放電は一部緩和できるものの、振動膜表面からの放電を防止することは不可能である。さらに、システムとしては高電圧を印加することが必要であることから、根本的な改善にはならないのが現状である。
【0006】
そこで本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、音を発生させるために振動膜に対して印加する必要がある印加電圧がより低い、静電型スピーカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち第1の発明は、薄膜状部材からなる振動膜と、前記振動膜に対向して配置される導電性の音響透過性を有する平面電極と、前記振動膜と前記平面電極との間に配置され、前記振動膜との接触により前記振動膜を帯電させる緩衝部材と、を備え前記緩衝部材は、少なくとも表面にカチオン性の官能基を有することを特徴とする静電型スピーカである。
【0008】
また、第2の発明は、前記緩衝部材のカチオン性官能基がアミノ基、アンモニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基のうちいずれか1種であることを特徴とする前記第1の発明に記載の静電型スピーカである。
【0009】
さらにまた、第3の発明は、前記緩衝部材の単位質量当たりのカチオン性官能基量が0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下であることを特徴とする前記第1または第2の発明に記載の静電型スピーカである。
【0011】
さらにまた、第の発明は、前記緩衝部材の通気度が150cm3/cm2/sec以上400cm3/cm2/sec以下であることを特徴とする前記第1から第の発明のいずれかに記載の静電型スピーカである。
【0012】
さらにまた、第の発明は、前記緩衝部材の少なくとも前記振動膜に対向する表面には、無機微粒子または高分子微粒子と、バインダー成分及び/又はシランモノマーと、を含む薄膜が形成されていることを特徴とする前記第1から第の発明のいずれかに記載の静電型スピーカである。
【0013】
さらにまた、第の発明は、前記振動膜は、少なくとも表面の一部にフッ素系高分子を含む層が形成されていることを特徴とする前記第1から第の発明のいずれかに記載の静電型スピーカである。
【発明の効果】
【0014】
本発明における静電型スピーカは、緩衝部材がカチオン性の官能基を有することにより、振動膜の振動により摩擦帯電することで、振動膜の電荷量がより一層大きくなる。そのため、高電位を印加した場合と同様の効果が得られ、特に低音域側での音響特性が優れる。このことから、音を出力する際に必要な印加電圧をより低くすることができ、高電位による感電のおそれがなくなるとともに、低音域での音響を著しく改善することができる。
【0015】
さらに、緩衝部材表面に無機微粒子や高分子微粒子からなる微粒子層が形成されることや振動膜表面に微細な凹凸が形成されることで、表面への塵やごみの付着が抑制されるとともに、塵やごみが付着したとしても、その接触面積が極めて低くなり、振動膜の振動により振動膜表面から容易に脱離するので、長期間使用しても、音質の変化や音量の低下などが抑制できる。従って、長期間使用しても塵やごみの付着による影響をより受けにくい静電型スピーカを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本願発明における静電型スピーカの断面模式図
図2】本実施形態の静電型スピーカの緩衝部材の断面模式図
図3】本実施形態の静電型スピーカの緩衝部材の他の例の断面模式図
図4】本実施形態の静電型スピーカの振動膜の断面模式図
図5】本実施形態の静電型スピーカの振動膜の他の例の断面模式図
図6】実施例と比較例の周波数特性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態の静電型スピーカについて詳述する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態の静電型スピーカ100の断面の一部を拡大した模式図である。本実施形態の静電型スピーカ100は、平面電極1と、緩衝部材2と、薄膜状部材である振動膜3と、を備える。
【0019】
平面電極1は、振動膜3に対して電圧を印加する一対の電極である。平面電極1は、振動膜3に対向して設けられる導電性を有する部材であり、音響透過性を有する。交流電源から平面電極1に対して電力が供給されることで、平面電極1と振動膜3との間に電圧が印加され、振動膜3を振動させて音を出すことができる。平面電極としては、たとえば、銅、ステンレス、鉄やアルミニウムなどの金属材料、又カーボンなどの導電性材料や樹脂やセラミックスの基材に導電性材料を塗布やスパッタリングなどで処理して導電性を付与した材料など、導電性を有すればどのような材料を用いてもよい。
【0020】
緩衝部材2は、振動膜3と平面電極1とが直接接触して、振動膜3にチャージした電荷が放電してしまったり、摩擦による削れや破損を回避する目的で、振動膜3と平面電極1との間に配置される。また、緩衝部材2は振動膜3との間で摩擦帯電し、音響透過性、制振性、電気絶縁性を有する。緩衝部材2と振動膜3は摩擦帯電する必要があるので、緩衝部材2は振動膜3と接触した状態で配置されるか、少なくとも振動膜3が振動した場合に接触する位置関係で配置される。緩衝部材2は、帯電列上において、振動膜3の材料とは離れた材料で構成されることが望ましい。なお、緩衝部材2は、緩衝部材の全体が振動膜3と帯電列上離れている場合に限られず、緩衝部材2の少なくとも振動膜3に対向する表面部分が、振動膜3と帯電列上離れた材料を含んで形成されていてもよい。たとえば、緩衝部材2の基材と振動膜3とが同じ材料であっても、緩衝部材2の振動膜3に対向する側に振動膜3と帯電列上離れた材料の層が形成されていたり、帯電列上離れた材料が含まれていてもよい。同様に、振動膜3の緩衝部材2に対向する表面部分がそのほかの部分と異なる材料で形成されている場合には、緩衝部材2は、その振動膜3の緩衝部材に対向する表面部分とは帯電列上離れた材料で形成されていればよい。
【0021】
ここで材料の帯電列とは、高分子フィルムや繊維を互いに摩擦すると一方はプラス側に帯電し、他方はマイナス側に帯電するという現象に対して、帯電によって生ずる極性を正負の順に並べたものである。帯電列としては、Lehmickeの帯電列やJ.Hennikerによる帯電列が知られており、静電気対策などに広く用いられる。
【0022】
帯電列でプラス側に位置するものとしては、アクリル(PMMA)やポリアミド(ナイロン)、羊毛やホルマリン樹脂であり、マイナス側に位置するものはポリエチレンやポリ塩化ビニルが良く知られており、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は最も強くマイナス帯電する材料の一つとされている。
【0023】
緩衝部材2が、振動膜3と帯電列上において異なる材料であることにより、振動膜3が振動すると、緩衝部材2との間での摩擦により、振動膜3が帯電する。そして、緩衝部材2が振動膜3に対して、帯電列上においてより離れていれば、振動膜の電荷量はより大きくなり、高電位を印加した場合と同様の効果が得られる。従って、緩衝部材2と振動膜3とを、帯電列上において互いに離れた材料を用いて形成すれば、より低い印加電圧であっても音を発生させることができるようになり、高電位による感電のおそれがなくなる。
【0024】
本実施形態に用いられる緩衝部材2としては、振動膜3と帯電列上はなれた材料からなる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレン樹脂や、ポリプロピレン樹脂や、ポリスチレン樹脂や、ポリメチルペンテン樹脂や、ポリ塩化ビニリデン樹脂や、ポリアクリル酸メチル樹脂や、ポリアミド樹脂や、ポリイミド樹脂や、ポリエチレンテレフタレート樹脂や、ポリブチレンテレフタレート樹脂や、ポリアリレート樹脂や、ポリエーテルフェニルエーテルサルホン樹脂や、ポリフッ化ビニリデン樹脂や、PVFや、FEPや、ETFEや、PTFE、PVDFなどの熱可塑性樹脂や、ポリアリレートや、PPTAなどの溶融液晶ポリマーなどの高分子材料や、ガラスやセラミックスなどの無機材料、カーボンや竹や絹や綿などの天然材料を用いても良い。これらの材料は単一で用いてもよく、また2種類以上を積層したり塗布、含浸、混練等により複合化して用いてもよく、特に無機材料では複合化して用いることが望ましい。
【0025】
そして本実施形態の緩衝部材2は、少なくとも表面にカチオン性の官能基を有する。緩衝部材2の表面や内部に、化学的に正電荷を持つ官能基が存在することで、緩衝部材2の正の電荷量を増加させることが可能となる。緩衝部材2がカチオン性官能基を有していれば、カチオン性官能基を導入する方法は特に限定されない。例えば、モノマーの化学反応による表面改質法や化学的グラフト重合法や放射線グラフト重合法等があげられる。特に放射線グラフト重合法を用いることで、緩衝部材2の表面だけでなく内部にまで均一に多くのにカチオン性官能基を付与することが可能となるため特に好ましい。
【0026】
カチオン性官能基を有する緩衝部材2はカチオン性官能基の無い緩衝部材よりも帯電性能が向上する。従って、帯電列上、より離れた部材を用いるのと同様の効果を得ることが出来る。すなわち同一の振動膜3で同等の摩擦を行った場合、カチオン性官能基を有する緩衝部材2には、同じ材質の緩衝部材であってカチオン性官能基を有しないものより、より多くの電荷が帯電することとなる。帯電性が向上することで振動膜3の電荷量もより大きくなり、印加される電圧を優れた音響特性を発現するとの効果が得られる。
【0027】
本実施形態の緩衝部材2が有するカチオン性官能基としてはアミノ基やアンモニウム基、スルホニウム揮、ホスホニウム基などが挙げられる。有機高分子繊維の生産性や電荷量や導入のしやすさなどの点からカチオン性官能基としてはアミノ基が特に好ましい。
【0028】
本実施形態において、緩衝部材の単位質量当たりのカチオン性官能基量は0.5mol/g以上3.0mol/g以下であることが好ましい。カチオン性官能基量が0.5mol/g未満の場合、官能基量が少ないため摩擦による電荷量の増加効果が十分でなく、振動膜への帯電効果、すなわち音響特性の向上効果が低い。また、官能基量が3.0mol/gより大きくなると、基材が脆くなったり硬くなるなど、機械的物性の低下や柔軟性が失われるなどするため緩衝材として適さない。
【0029】
本実施形態において、緩衝部材2にカチオン性官能基を導入する方法として、化学的グラフト重合法や放射線グラフト重合法などを挙げたが、重合プロセスの簡便性、生産スピード等の観点から放射線グラフト重合法が特に適している。放射線グラフト重合法は緩衝部材2の材料として有機高分子基材を用いた場合に、有機高分子基材の表面から内部までグラフト側鎖を導入することが可能であり、カチオン性官能基の導入量を格段に向上できるためである。ここで、グラフト重合において用いられる放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線などを挙げることができるが、本発明において用いるのには、γ線、電子線が特に適している。放射線グラフト重合法は、以下に記した方法により好適に官能基を導入できる。第一の好適な方法としては、基体とモノマーの共存下に放射線を照射する同時照射グラフト重合方法があり、第二の好適な方法としては、予め基体表面にγ線、電子線、などの放射線を照射した後にモノマーと接触させて反応させる前照射グラフト重合方法がある。
【0030】
カチオン性官能基を導入する方法は、カチオン性官能基を有するモノマーをグラフト重合するか、またはカチオン性官能基に変換可能な官能基を有するモノマーをグラフト重合した後、カチオン性官能基に変換する方法のいずれも用いることができる。
【0031】
カチオン性官能基を有するモノマーとしては、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、トリメチルアミンなどが挙げられる。また、カチオン性官能基に変換可能な官能基を有するモノマーとしてはメタクリル酸グリシジル、スチレン、クロロメチルスチレン、アクリロニトリル、アクロレインなどが挙げられる。
【0032】
緩衝部材2は平面電極1と振動膜3とを電気的に絶縁できればよく、フィルム状やシート状や、不織布状や、織物状や、メッシュ状や、編み物状や、パンチング加工により貫通孔が形成された形状で使用することができる。このうち、柔軟性や音響透過の均一性の観点から、不織布状や織物状やメッシュ状などの有機高分子の繊維構造体であることが好ましい。
【0033】
緩衝部材2は振動膜の振動により発生する音響である空気の振動を、外部に伝達する機能が必要であり、この指標として緩衝部材の通気度が150cm3/cm2/sec以上400cm3/cm2/sec以下のものが好ましい。通気度が400cm3/cm2/secより高い場合、緩衝部材としての密度が低くなるため、空気の透過性すなわち音響透過性には優れるものの、絶縁性や制振性が低くなってしまう。また、通気度が150cm3/cm2/secより低くなると、緩衝部材として密度が高くなりすぎるため、絶縁性には優れるものの、空気が透過しにくくなるため音響透過性が低く、緩衝部材として適さない。
【0034】
また、本実施形態に係る少なくとも表面にカチオン性官能基を有する緩衝部材2の表面には、無機微粒子や高分子微粒子による微小な凹凸を形成することができる。図2は本実施形態の静電型スピーカ100に用いる緩衝部材2の断面模式図である。図2には、バインダー成分14を用いて、無機微粒子12aや高分子微粒子12bを含む薄膜を緩衝部材の基体11の表面上に形成したものを例示する。なお、図2においてはカチオン性官能基を図示していないが、緩衝部材2は少なくともその表面部にカチオン性官能基を有しており、その上に無機微粒子12aや高分子微粒子12bの薄膜が形成される。
【0035】
この無機微粒子12aや高分子微粒子12bによって形成される凹凸により、緩衝部材2の表面に付着した塵や埃は、接触する緩衝部材2との面積が少なくなり、かつ振動膜3の振動による効果と相乗して、容易に脱離することで塵や埃の蓄積が抑制できる。さらに、無機微粒子12aや高分子微粒子12bを誘電体材料とすることにより、緩衝部材2と振動膜3との摩擦による帯電が一層容易となると伴に、帯電した電荷が放電しづらく、優れた音響透過性を長期間維持できるとの効果がある。
【0036】
緩衝部材2の表面に形成される薄膜に用いられる無機微粒子12aとしては、例えば、Al2O3、TiO2、ZrO2、SnO2、FeO、Fe2O3、Fe3O4、Sb2O3、PbO、CuO,Cu2O、NiO、Ni3O4、Ni2O3、CoO、Co3O4、Co2O3、WO3、CeO2などの単一の無機酸化物が挙げられる。また、無機微粒子として、例えば、BaTiO3、SrTiO3、ZnFe2O4、SiO2・Al2O3、SiO2・B2O3、SiO2・P2O5、SiO2・TiO2、SiO2・ZrO2、Al2O3・TiO2、Al2O3・ZrO2、Al2O3・CaO、Al2O3・B2O3、Al2O3・P2O5、Al2O3・CeO2、Al2O3・Fe2O3、TiO2・CeO2、TiO2・ZrO2、SiO2・TiO2・ZrO2、Al2O3・TiO2・ZrO2、SiO2・Al2O3・TiO2、SiO2・TiO2・CeO2、TiC、TaC、KNbO3-NaNbO3系強誘電体セラミックス、(Bi1/2Na1/2)TiO3系強誘電体セラミックス、タングステン・ブロンズ型強誘電体セラミックスなどの複合酸化物が挙げられる。
【0037】
これらの無機微粒子12aは単独で、或いは2種類以上を混合して用いることができる。また、これらの無機微粒子粒の粒子径は、微小な凹凸を形成するうえで10nmから500nmが好ましい。
【0038】
また、緩衝部材2の表面に形成される薄膜に用いられる高分子微粒子12bとしては、例えば、ポリエチレン樹脂や、ポリプロピレン樹脂や、ポリスチレン樹脂や、ポリメチルペンテン樹脂や、ポリ塩化ビニリデン樹脂や、ポリイミド樹脂や、ポリエチレンテレフタレート樹脂や、ポリブチレンテレフタレート樹脂や、ポリアリレート樹脂や、ポリフッ化ビニリデン樹脂や、PVFや、FEPや、ETFEや、PTFE、PVDFなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの高分子微粒子は単独で、或いは2種類以上が混合されて用いられる。これらの高分子微粒子の粒子径は、微小な凹凸を形成するうえで10nmから1.0μmが好ましい。
【0039】
無機微粒子12aや高分子微粒子12bを緩衝部材2の表面に固定したり、撥水性や親水性や撥油性を付与するためにバインダー成分を薄膜中に含んでも良い。バインダー成分14としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどがシランモノマーが挙げられる。
【0040】
静電型スピーカを、高湿度の環境下や急激な温度変化により結露が生じ易い環境下で使用する場合などでは、バインダー成分14として、撥水性を有する化合物を用いれば一層好適である。撥水性を有するバインダー成分14としては、例えば、ステアリン酸アクリレートや、反応性シリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、反応性シリコーンオリゴマーなどが挙げられ、例えば、松下電工株式会社製フレッセラD(「フレッセラ」は登録商標)が用いられる。
【0041】
さらに、撥水性を有するバインダー成分14としては、パーフルオロアルキル基を有するアクリル単量体、例えば、2−(パーフルオロプロピル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロペンチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロノリル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロデシル)エチルアクリレートや、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートや、パーフルオロオクチルエチルメタクリレートや、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートや、3−パーフルオロデシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートなどのフッ素系化合物が用いられる。
【0042】
さらに、撥水性を有するバインダー成分14として、例えば、2−パーフルオロオクチルエタノールや、2−パーフルオロデシルエタノールや、2−パフルオロアルキルエタノールや、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)や、パーフルオロアルキルアイオダイドや、パーフルオロオクチルエチレンや、2−パーフルオロオクチルエチルホスホニックアシッドなどのフッ素化合物を用いても良い。
【0043】
さらに、撥水性を有するバインダー成分14として、パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤、例えば、CF(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCHや、CF(CF11(CHSi(OCHや、CF(CF15(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCや、CF(CHSiCH(OCHや、CF(CF(CHSiCH(OCH、CF(CF(CHSiCH(OCHや、CF(CF(CHSiCH(OCHや、CF(CF(CHSiCH(OCH5)や、CF(CF(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCH5)や、CH(CF(CH)8Si(OCH5)3や、CF(CFCONH(CHSi(OCHや、CF(CFCONH(CHSiCH(OCHや、パーフルオロアルキル基とシラノール基を有するオリゴマー、例えば、KP−801M(信越化学工業株式会社製)や、X−24−7890(信越化学工業株式会社製)や、パーフルオロブテルビニルエーテルおよびその重合体などを用いても良い。
【0044】
さらに、本実施形態の緩衝部材2の表面上に、無機微粒子12aを固定する場合の別の方法として、バインダー成分14を使用せずに、無機微粒子12aの表面を、不飽和結合部を有するシランモノマーで被覆し、そのシランモノマーによって無機微粒子12aを緩衝部材2の基体11表面に固定してもよい。
【0045】
図3は、無機微粒子12aを、無機微粒子12a表面に化学結合したシランモノマー13によって、緩衝部材の基体11に固定した緩衝部材2の断面模式図である。
【0046】
シランモノマーで被覆した無機微粒子12aを用いることで、無機微粒子12aを緩衝部材2の基体11の表面に強固に固定することができる。これは、薄膜内の無機微粒12a同士は、互いのシランモノマー13の不飽和結合又は反応性官能基が化学結合し、かつ薄膜内の無機微粒子12aに結合するシランモノマー13の不飽和結合又は反応性官能基が緩衝部材2の基体11の表面部に化学結合するためである。
【0047】
ここで、シランモノマー13が不飽和結合部または反応性官能基を無機微粒子12aの外側に向けて配向して結合する理由について詳述する。これは、シランモノマー13の片末端であるシラノール基が親水性であるため、同じく親水性である無機微粒子12aの表面に引きつけられやすく、一方、逆末端の不飽和結合部または反応性官能基は疎水性であるため、無機微粒子12aの表面から離れようとするからである。このため、シランモノマー13のシラノール基は、無機微粒子12aの表面に脱水縮合反応により共有結合するため、シランモノマー13は不飽和結合部または反応性官能基を外側に向けて配向しやすい。したがって、多くのシランモノマー13については、不飽和結合部または反応性官能基を外側に向けて無機微粒子と共有結合している。
【0048】
すなわち、本実施形態で用いられる無機微粒子12aの薄膜が形成された緩衝部材2は、不飽和結合部または反応性官能基を有する反応性に優れたシランモノマーを用いることで、シランモノマー間の化学結合により緩衝部材2上の複数の無機微粒子12a同士を結合するとともに、緩衝部材2と対向する無機微粒子12a表面のシランモノマーと緩衝部材2表面との間で化学結合を形成することで、無機微粒子を緩衝部材2上に強固に固定することができる。
【0049】
脱水縮合により無機微粒子12aに共有結合するシランモノマー13が有する不飽和結合部または反応性官能基としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基及びイソシアネート基などが挙げられる。
【0050】
本実施形態で用いられる無機微粒子12aからなる薄膜が形成された緩衝部材2において、無機微粒子12aを被覆するシランモノマーの例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0051】
これらの無機微粒子12aの表面に被覆されているシランモノマーの量としては、無機微粒子12aに対して、0.1質量%以上、10質量%以下担持されてあればよい。0.1質量%以上とすれば無機微粒子12aの緩衝部材2上への結合強度はより高くなる。また、10質量%より多く担持しても結合強度はほぼ一定状態となる。
【0052】
次に、図3に示す、シランモノマーで表面を被覆した無機微粒子12aを固定した緩衝部材2の製造方法について説明する。まず、シランモノマーが表面に化学結合している無機微粒子をメタノールやエタノール、MEK、アセトン、キシレン、トルエンなどの分散媒に混合し、分散させる。ここで、分散を促進させる為に、必要に応じて界面活性剤や、塩酸、硫酸などの鉱酸や、酢酸、クエン酸などのカルボン酸などを加えるようにしてもよい。続いて、ビーズミルやボールミル、サンドミル、ロールミル、振動ミル、ホモジナイザーなどの装置を用いて無機微粒子を分散媒中で解砕・分散させ、無機微粒子を含むスラリーを作製する。
【0053】
なお、無機微粒子と不飽和結合部または反応性官能基を有するシランモノマーとの共有結合は通常の方法により形成させることができ、例えば、無機微粒子の分散液にシランモノマーを加え、その後、還流下で加熱させながら、無機微粒子の表面にシランモノマーを脱水縮合反応により共有結合させてシランモノマーからなる薄膜を形成する方法や、粉砕により微粒子化して得られた分散液にシランモノマーを加えた後、或いは、シランモノマーを加えて粉砕により微粒子化した後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマーを無機微粒子の表面に脱水縮合反応により共有結合させ、次いで、粉砕・解砕して再分散する方法が挙げられる。
【0054】
ここで、還流下、または、粉砕により微粒子化して得られた分散液にシランモノマーを加えた後、或いは、シランモノマーを加えて粉砕により微粒子化した後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマーを無機微粒子の表面に脱水縮合反応による共有結合させる場合、シランモノマーの量は、無機微粒子の平均粒子径にもよるが、無機微粒子の質量に対して0.01質量%以上40.0質量%以下であればよく、特に0.1質量%以上、10質量%以下であれば無機微粒子と緩衝部材2との結合強度の点で好ましい。また、結合に預からない余剰のシランモノマーがあっても良い。
【0055】
続いて、以上のようにして得られた無機微粒子が分散したスラリーを、無機微粒子を固定する緩衝部材2の表面に塗布する。具体的な無機微粒子が分散したスラリーの塗布方法としては、一般に行われているスピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、キャストコート法、バーコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法を用いれば良く、目的に合った塗布ができれば特に限定されない。
【0056】
次に、必要に応じて、加熱乾燥などで分散媒を除去した後、緩衝部材2と、無機微粒子とを化学結合する。具体的には、無機微粒子の表面のシランモノマー間で化学結合を形成させることにより無機微粒子同士を結合させるとともに、結合した無機微粒子を、シランモノマーと緩衝部材の表面との間の化学結合を形成させることにより固定させる。
【0057】
本実施形態においては、緩衝部材2とシランモノマーとを化学結合させる方法として、グラフト重合による結合方法を用いることが好ましい。
【0058】
本実施形態において用いることができるグラフト重合としては、例えばパーオキサイド触媒を用いるグラフト重合、熱や光エネルギーを用いるグラフト重合、放射線によるグラフト重合(放射線グラフト重合)などが挙げられ、形状や形態に応じて適宜選択して用いられる。なお、パーオキサイド触媒による処理、熱や光エネルギーによる処理、および放射線による処理によって、無機微粒子2a表面とシランモノマー間の化学結合を形成させることができる。
【0059】
ここで、シランモノマーのグラフト重合を効率良く、かつ、均一に行わせるために、予め、緩衝部材2の表面を、コロナ放電処理やプラズマ放電処理や、火炎処理や、クロム酸や過塩素酸などの酸化性酸水溶液や水酸化ナトリウムなどを含むアルカリ性水溶液による化学的な処理などの親水化処理をしてもよい。
【0060】
以上説明したように、無機微粒子12aの表面にシランモノマー13を化学結合させ、そのシランモノマー13を介して無機微粒子12aを緩衝部材2の基体11に固定した場合、無機微粒子12aはシランモノマー13により強固に緩衝部材2上に保持されるので、剥がれなどを抑制することができる。
【0061】
なお、本実施形態においては、無機微粒子12aを、バインダー成分14で緩衝部材2に固定する方法と、無機微粒子12a表面に化学結合させたシランモノマー13を介して緩衝部材2に固定する方法を説明したが、これに限られない。バインダー成分14と、無機微粒子12aの表面に化学結合させたシランモノマー13と、を両方用いて、無機微粒子12aを緩衝部材2の基体11に固定しもよい。この場合は、無機微粒子12aは一層強固に緩衝部材2の基体11に固定されるので、耐久性の高い緩衝部材2を形成することができる。
【0062】
なお、微小な凹凸の形成方法としては、無機微粒子12aや高分子微粒子12bを含む膜を緩衝部材の基体11上に形成する方法に限定されず、エンボス加工や、ナノインプリンティング法や、酸素プラズマなどの物理的な方法で凹凸を形成したり、化学エッチングなどの化学的な方法で凹凸を形成してもよい。
【0063】
次に振動膜3は、平面電極1から印加される電圧の変化によって振動膜3に作用する静電力(クーロン力)が変化し、その静電力によって振動して音を発生させる。音響信号に応じた電圧が印加されることで、振動膜3が音響信号に対応した音響を発する。本実施形態の振動膜3は、緩衝部材2との摩擦により自己帯電する方式の振動板であり、摩擦帯電することで平面電極1に電圧が印された場合に振動膜3に静電力が作用し、振動する。
【0064】
振動膜3としてはとしては、帯電性にすぐれた材料で形成されることが好ましく、たとえば高分子からなるフィルムあるいはシートが好ましい。具体的な材料として、例えばポリエチレン樹脂や、ポリプロピレン樹脂や、ポリスチレン樹脂や、ポリメチルペンテン樹脂や、ポリ塩化ビニリデン樹脂や、ポリアクリル酸メチル樹脂や、ポリアミド樹脂や、ポリイミド樹脂や、ポリエチレンテレフタレート樹脂や、ポリブチレンテレフタレート樹脂や、ポリアリレート樹脂や、ポリエーテルフェニルエーテルサルホン樹脂や、ポリフッ化ビニリデン樹脂や、PVF(poly vinyl fluoride)や、FEP(fluorinated ethylene propylene copolymer)や、ETFE(ethylene tetra fluoroethylene)や、PTFE(polytetrafluoroethylene)、PVDF(poly vinylidene difluoride)などの熱可塑性樹脂や、ポリアリレートや、PPTA(Poly(p-phenylene terephthalamide))などの溶融液晶ポリマーが挙げられる。
【0065】
これらの材料は単独で用いてもよいし、基材として用い、その表面を他の材料の高分子層を形成して用いてもよい。特に振動膜としては薄く軽量で、振動に対する耐久性の点から強度があることが必要であり、フッ素系の材質やフッ素系高分子層を形成した高分子膜が望ましい。フッ素系の薄膜は摩擦により負に帯電する傾向が強く、この点より緩衝部材は正に帯電し易い傾向の部材を選定することで、より音響特性に優れたスピーカを構成することが可能となる。
【0066】
図4は、本発明の実施形態における静電型スピーカの振動膜3の断面の一部を拡大した図である。薄膜状部材からなる振動膜3は、有機高分子(繊維)基体の表面にカチオン性の官能基を導入した緩衝部材2とは帯電列上一層離れた材料からなる材料で形成される高分子フィルムであり、フィルム基体16の表面にフッ素系高分子層15が形成されたものである。これにより、フッ素系高分子の持つ高い撥水性や低誘電率などの特徴を備えた、一層優れた静電型スピーカを構成することができる。
【0067】
振動膜3のフッ素系高分子層15に用いるフッ素系高分子としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂や、PVFや、FEPや、ETFEや、PTFE、PVDFなどの熱可塑性樹脂や非結晶質のフッ素樹脂などを用いることができる。また、これらのフッ素系高分子を単独で用いてもよいし、非フッ素系高分子やフッ素系高分子の2種類以上を積層したり塗布等により複合化してもよく、表面がフッ素系高分子で被覆された振動膜3であればどのような構成でもよい。
【0068】
さらに図5に示すように、前記の振動膜3の表面は、その算術平均粗さRaを5nm以上500nm以下の微小な凹凸を形成することにより、振動膜3の表面に付着した塵や埃を容易に脱離することで塵や埃の蓄積が好適に抑制できる。微小な凹凸の形成方法としては、エンボス加工や、ナノインプリンティング法や、酸素プラズマなどの物理的な方法や、化学エッチングなどの化学的な方法を用いることができる。
【0069】
また、振動膜3の表面に凹凸を形成する方法として、緩衝部材2と同様に、振動膜3の表面にバインダー成分を含んだ無機微粒子や高分子微粒子からなる薄膜を形成してもよい。この場合でも、塵や埃の付着を抑制したり容易に離脱させる効果が発現する。振動膜3の表面は、その算術平均粗さRaを5nm未満に制御することは工業的に難しく、また500nmより大きいと生活環境にて日常的に発生する綿埃状のごみ、いわゆるコットンリンタが付着しやすく、また、脱離しづらくなるためなるため好ましくない。また、振動膜3と緩衝部材2の両構成材料の表面に微小な凹凸を形成することで、塵や埃が付着しづらく、また付着したとしても容易に脱離することにより、さらに優れた音響特性が長期間維持される。
【0070】
本発明の実施形態の静電型スピーカ100は、薄膜状部材からなる振動膜3に対向して設けられた導電性の音響透過性を有する平面電極1と、有機高分子(繊維)基体の表面にカチオン性の官能基を導入した緩衝部材2を、振動膜3と平面電極1との間に設けたことを特徴とする。ここで平面電極1と緩衝部材2とはそれぞれを独立に構成してもよく、また、一体化して構成しても良い。
【0071】
以上説明した本実施形態によれば、振動膜の振動により振動膜3と緩衝部材2が摩擦し、振動膜3が帯電する。そして、本実施形態では、振動膜3が有機高分子(繊維)基体の表面にカチオン性の官能基を有することから、摩擦帯電によって振動膜3の電荷量がより一層大きくなり、平面電極1により高電位を印加した場合と同様の効果や、特に低音域側での音響特性が優れている。このことから、音を出力する際に必要な印加電圧をより低くすることができ、高電位による感電のおそれがなくなるとともに、低音域での音響が著しく改善される。
【0072】
さらに、緩衝部材2表面に無機微粒子や高分子微粒子からなる微粒子層が形成されることや振動膜表面に微細な凹凸が形成されることで、表面への塵やごみの付着が抑制されるとともに、塵やごみが付着したとしても、その接触面積が極めて低くなり、振動膜3の振動により振動膜表面から容易に脱離するので、長期間使用しても、音質の変化や音量の低下などが抑制できる。従って、長期間使用しても塵やごみの付着による影響をより受けにくい静電スピーカを提供できる。
【0073】
なお、本実施形態では電極(平面電極1)と緩衝部材2とをそれぞれ一対有するスピーカを例示したがこれに限られず、電極と緩衝部材と振動膜3で構成されるような、電極を1枚だけ有するスピーカであってもよい。
【実施例】
【0074】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0075】
(振動膜および緩衝部材の作製)
(実施例1)
まず、振動膜は、ポリエステルフィルム(東レ(株)製、厚さ1.4μm)に対して、フッ素系皮膜材料として、CT-solv.100E(商品名:旭硝子(株)製)にて希釈したサイトップ(商品名:旭硝子(株)製CTL-102AE)を浸漬にて塗布し、100℃で、1分間乾燥して作製した。
【0076】
次に緩衝部材は以下のようにして作製した。まず、ナイロン不織布(旭化成せんい製、目付40g/m2)を窒素雰囲気下で岩崎電気株式会社製、エレクトロカーテン型電子線照射装置、CB250/15/180L、を用い電子線を200kVの加速電圧で20Mrad照射した。ついで、この不織布を10%のメタクリル酸グリシジル溶液に浸漬し、グラフト重合させた。このとき、重量増加率((グラフト重合後の不織布重量―グラフと重合前の不織布重量)/グラフト重合前の不織布重量×100(%))で定義されるグラフト率は134%であった。得られた不織布をGMAグラフト重合不織布とよぶ。その後、得られたGMAグラフト不織布を10%のジエチルアミン水溶液に浸漬した。この反応により、グラフト高分子鎖中のエポキシ基をアミノ基に転化し、アミノ基を導入した緩衝部材を作製した。得られた緩衝部材をアミノ基導入緩衝部材とよぶ。カチオン性官能基量は反応に伴う緩衝部材の重量増加量から次式(1)により算出した。
カチオン性官能基量(mmol/g)=1000(W2-W1)/73/W1 (1)
ここで、W1はGMAグラフト不織布(アミノ基導入前の緩衝部材)の重量、Wはアミノ基導入緩衝部材の重量である。また、「73」はジエチルアミンの分子量である。上記より、実施例1の緩衝部材が有するカチオン性官能基量は2.1mmol/gと算出された。
なお、カチオン性官能基としてジエチルアミン以外のモノマーを用いる場合には、(1)式でのカチオン性官能基量の計算には、「73」に替えてそのモノマーの分子量を使用すればよい。
【0077】
(実施例2)
振動膜は実施例1と同じものである。緩衝部材は、実施例1においてナイロン不織布への電子線の照射量を5Mradとした以外は実施例1と同様である。得られたGMA不織布(アミノ基導入前の緩衝部材)の重量増加率で定義されるグラフト率は60%、アミノ基導入緩衝部材のカチオン性官能基量は0.6mmol/gであった。
【0078】
(実施例3)
振動膜は、実施例1のポリエステルフィルムの代わりに、PVDFフィルム(クレハ製、厚さ4μm)を用いた以外は実施例1と同様の方法で作製した。
【0079】
緩衝部材は、まずポリプロピレン不織布(旭化成せんい製、目付40g/m2)を窒素雰囲気下で岩崎電気株式会社製、エレクトロカーテン型電子線照射装置、CB250/15/180L、を用い電子線を200kVの加速電圧で20Mrad照射した。ついで、この不織布を10%のメタクリル酸グリシジル溶液に浸漬しグラフト重合反応を行い、重量増加率で定義されるグラフト率140%のポリプロピレン製のGMAグラフト不織布を得た。さらに、10%のジエチルアミン水溶液にこのGMAグラフト不織布を浸漬し、アミノ基を導入して緩衝部材を作製した。カチオン性官能基量は2.8mmol/gとなった。
【0080】
(実施例4)
振動膜は実施例1と同じものを用いた。緩衝部材は、実施例1における電子線照射処理において、電子線照射量を30Mradとした。それ以外は実施例1と同様の操作により緩衝部材を得た。比較例2においてGMA不織布のグラフト率は198%、アミノ基導入緩衝部材のカチオン性官能基量は4.0mmol/gであった。
【0081】
(実施例5)
振動膜は実施例1と同じものを用いた。緩衝部材は、実施例1における電子線照射処理において、電子線照射量を2Mradとした。それ以外は実施例1と同様の操作により緩衝材を得た。比較例3において得られたGMA不織布のグラフト率は15%、アミノ基導入緩衝材のカチオン性官能基量は0.2mmol/gであった。
【0082】
(実施例6)
振動膜は実施例1と同じものを用いた。緩衝部材は、まず、ナイロン不織布(旭化成せんい製、目付100g/m2)を窒素雰囲気下で岩崎電気株式会社製、エレクトロカーテン型電子線照射装置、CB250/15/180L、を用い電子線を200kVの加速電圧で20Mrad照射した。ついで、この不織布を10%のメタクリル酸グリシジル溶液に浸漬し、グラフト重合反応を行い、重量増加率で定義されるグラフト率105%のナイロン製のGMAグラフト不織布を得た。さらに、10%のジエチルアミン水溶液にこの不織布を浸漬しアミノ基を導入し、カチオン性官能基量は2.6mmol/gの緩衝部材を得、振動膜は実施例1と同様とした。
【0083】
(比較例1)
振動膜は実施例1と同じものを用いた。緩衝部材は、実施例1で用いたナイロン不織布(旭化成せんい製、目付40g/m2)を、そのまま緩衝部材とした。
【0084】
(比較例2)
振動膜は実施例3と同じものを用いた。緩衝部材は、実施例3で用いたポリプロピレン不織布(旭化成せんい製、目付40g/m2)を、そのまま緩衝部材とした。
【0085】
(比較例3)
振動膜は実施例1と同じものを用いた。実施例6で用いたナイロン不織布(旭化成せんい製、目付100g/m2)を、そのまま緩衝部材とした。
【0086】
上記にて作製した試料を表1に示す。
【0087】

【表1】
【0088】
(通気度測定)
JIS L 1096(フラジール形法)により緩衝部材の通気度を測定した。
【0089】
(スピーカ周波数特性評価)
あらかじめ、それぞれの振動膜及び緩衝部材を直流送風式除電器(春日電機製、KD−410)にて除電して、振動膜と緩衝部材の電荷量をほぼ0.0nCにした。その後、平面電極をSUS325のメッシュ板とし、図1に示すように平面電極間に実施例及び比較例それぞれの緩衝部材を設け、さらにその緩衝部材にそれぞれの振動膜を挟み込みスピーカを作製した。作製したスピーカの電極間に20Hzから10kHzの正弦波での電圧100Vを供給し周波数特性を評価をした。周波数の評価は、スピーカから25cmの距離に設置した騒音計(NL-20 リオン(株)製)にて測定した。
【0090】
(電荷量測定)
振動膜及び緩衝部材の電荷量の測定は、周波数特性評価用に作製したスピーカに100Hz及び1kHzの正弦波での電圧100Vを供給し、その後スピーカから振動膜を取り出し、春日電機株式会社製のクーロンメーター(NK-1001)を接続した静電電荷量測定器(ファラデーケージ型 KQ-1400)を用いて、それぞれの周波数における電荷量を測定した。
【0091】
上記騒音計での測定結果として実施例1と比較例1の周波数に対する音圧特性を図6に示す。この周波数特性結果から、特に1kHz以下の低周波数領域において、カチオン性官能基を導入した緩衝部材の周波数特性が優れていることがわかる。そこで周波数特性を代表する評価として、100Hzと1kHzでの音圧の値を、緩衝部材及び振動膜の電荷量の測定結果と伴に表2に示した。
【0092】

【表2】
【0093】
本実施例で用いた材料の帯電列上における順位を表3に示す。表3の帯電列は、静電気防止技術で広く使用されるLehmickeの帯電列等を参考とし、最も正に帯電しやすい材料であるナイロン、および最も負に帯電しやすい材料であるテフロン(登録商標)を基準材料とし、基準材料との相互摩擦時における正負の帯電および電荷量を測定することで位置づけた。
【0094】

【表3】
【0095】
表2の結果より、実施例1〜3と比較例1、2を対比すると、カチオン性官能基であるアミノ基を緩衝部材に導入することで、摩擦帯電による緩衝部材の電荷量が高くなり、それに伴い振動膜の電荷量も高くなり、その結果として音圧が向上することがわかる。特に周波数特性の代表値として100Hzの周波数で示すように、低周波数領域においてカチオン性官能基を導入することによる音響効果の向上が著しいことが分かる。
【0096】
ここで、実施例4ではカチオン性官能基であるアミノ基の導入量を多くしたが、実施例1と比較すると電荷量及び音圧の向上はやや少ない。これは電子線の照射量を多くしてグラフト率を高めることにより、カチオン性官能基量は高くなるものの、基材の柔軟性が失われ硬くなる事により、緩衝部材としてのクッション性が低下することにより、摩擦による帯電性に悪影響が出るためと考えられる。また、電子線の照射量が多くなると基材の強度・伸度などの物理的特性にも悪い影響がでるため、スピーカの音響特性の持続性やスピーカ構成時のハンドリング性において注意を要することがある。また、実施例5ではカチオン性官能基の導入量が少ないため、緩衝部材の電荷量の向上効果はある程度限られ、振動膜の電荷量の変化も大きくはなく、音響特性の向上も限定的となったと考えられる。
【0097】
さらに、実施例6に示すように、緩衝部材の通気度が低いものを用いると、カチオン性官能基を導入していない比較例3に比べれば摩擦帯電量や音響特性の向上は見られるものの、音響透過性が低くなるためにカチオン性官能基を導入した効果が抑制されることが分かる。
【0098】
よって、本発明で得られた静電型スピーカは緩衝部材にカチオン性の官能基を導入することで、振動膜と緩衝部材の摩擦帯電量を増加させ、音響特性を著しく向上することが出来ることが確認された。
【符号の説明】
【0099】
100 静電型スピーカ
2 緩衝部材
3 振動膜
11 緩衝部材の基体
12a 無機微粒子
12b 高分子微粒子
13 シランモノマー
14 バインダー
15 フッ素系高分子層
16 振動膜の基体
図1
図2
図3
図4
図5
図6