(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
排気装置との結合部分が異なり残余の部分が共通構造に形成される第1および第2のエンジンと、特性が異なり前記第1および第2のエンジンにそれぞれ対応する2つの第1および第2の排気装置とを準備する準備工程と、
対応する前記エンジンと前記排気装置とを結合して、出力の異なる2種類の第1および第2の車両をそれぞれ組み立てる組立工程とを備えた車両製造方法であって、
前記準備工程において、前記第1のエンジンの前記結合部分に高出力用の前記第1の排気装置が結合可能で、前記第2のエンジンの前記結合部分に低出力用の前記第2の排気装置が結合可能で前記第1の排気装置が結合不能な、前記第1および第2のエンジンと前記第1および第2の排気装置とを準備し、
前記組立工程において、前記第1のエンジンの前記結合部分に前記第1の排気装置を結合して高出力の前記第1の車両を組み立て、前記第2のエンジンの前記結合部分に前記第2の排気装置を結合して低出力の前記第2の車両を組み立て、
前記第1および第2のエンジンと前記第1および第2の排気装置とは、一方が他方に嵌合する嵌合構造により結合され、
前記第1および第2のエンジンとで前記嵌合構造が異なることにより、前記第2のエンジンの前記結合部分に対して、低出力用の前記第2の排気装置が結合可能で高出力用の前記第1の排気装置が結合不能に構成され、
前記第1および第2のエンジンと前記第1および第2の排気装置とは、筒体内壁に筒体外壁が嵌合する嵌合部材を介して接続され、
前記第1および第2のエンジンとで前記嵌合部材の向きが逆に形成されることにより、前記第2のエンジンの前記結合部分に対して、前記第2の排気装置が結合可能で前記第1の排気装置が結合不能に構成されている車両製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、吸気系を改造する場合、改造後の試験工数が増えるうえに、ライダーのフィーリングへの影響も大きい。また、排気系を改造する場合、例えば、出力の大きい機種の排気系を、出力の小さい機種に取り付けることで、製造者の意図に反して出力改造される可能性がある。
【0005】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、設計、試験等に費やす工数を抑えつつ、出力の異なる2つの車両を製造でき、かつ、製造者の意図に反して出力改造されるのを防止することができる車両製造方法および車両群を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の車両製造方法は、
排気装置との結合部分が異なり残余の部分が共通構造に形成される第1および第2のエンジンと、特性が異なり前記第1および第2のエンジンにそれぞれ対応する2つの第1および第2の排気装置とを準備する準備工程と、
対応する前記エンジンと前記排気装置とを結合して、出力の異なる2種類の第1および第2の車両をそれぞれ組み立てる組立工程とを備え、
前記準備工程において、前記第1のエンジンの前記結合部分に高出力用の前記第1の排気装置が結合可能で、前記第2のエンジンの前記結合部分に低出力用の前記第2の排気装置が結合可能で前記第1の排気装置が結合不能な、前記第1および第2のエンジンと前記第1および第2の排気装置とを準備し、
前記組立工程において、前記第1のエンジンの前記結合部分に前記第1の排気装置を結合して高出力の前記第1の車両を組み立て、前記第2のエンジンの前記結合部分に前記第2の排気装置を結合して低出力の前記第2の車両を組み立てる。
ここで、エンジンは、エアクリーナ、スロットルボディ等を含む吸気系と、排気管、マフラ等を含む排気系とを除き、クランクケース、シリンダブロック、シリンダヘッド、ヘッドカバー等を含むエンジン本体部分をいう。ただし、エンジンは、前記エンジン本体部分と排気系の上流側部分である排気管を含む場合がある。
【0007】
この構成によれば、第1および第2のエンジンは、排気装置との結合部分が異なるだけであるから、エンジンの構造を大きく異ならせること無く、出力の異なる2つの車両を製造でき、設計、試験等に費やす工数を短縮できる。また、吸気系ではなく、排気装置を異ならせることで、出力特性に与える影響を抑えることができる。さらに、低出力の車両において、低出力用の排気装置が高出力用の排気装置に取り換えられるのを防いで、製造者の意図に反して高出力用に改造されるのを防止することができる。
【0008】
本発明において、前記第1および第2のエンジンと前記第1および第2の排気装置とは、一方が他方に嵌合する嵌合構造により結合され、前記第1および第2のエンジンとで前記嵌合構造が異なることにより、前記第2のエンジンの前記結合部分に対して、低出力用の前記第2の排気装置が結合可能で高出力用の前記第1の排気装置が結合不能に構成されていることが好ましい。この構成によれば、嵌合構造を異ならせるだけの簡単な構成により、第2のエンジンに高出力用の排気装置が結合不能であるから、製造者の意図に反して排気装置が高出力用に改造されるのを防止することができる。異なる嵌合構造としては、例えば、雄雌の向きが逆、凹部に対する凸部の形状が異なっている等である。また、嵌合後に、フランジで結合する場合、フランジに設けるボルト孔の位置を異ならせてもよい。
【0009】
嵌合構造を用いる場合、前記第1および第2のエンジンと前記第1および第2の排気装置とは、筒体内壁に筒体外壁が嵌合する嵌合部材を介して接続され、前記第1および第2のエンジンとで前記嵌合部材の向きが逆に形成されることにより、前記第2のエンジンの前記結合部分に対して、前記第2の排気装置が結合可能で前記第1の排気装置が結合不能に構成されていることが好ましい。この構成によれば、嵌合部材の向きを逆にすることで、非互換性構造を実現できるとともに、部品点数の増加も抑制できる。
【0010】
本発明において、前記第1および第2のエンジンは、シリンダヘッドと該シリンダヘッドから排出される排気を前記第1および第2の排気装置にそれぞれ導く第1および第2の排気管とを分離可能に有し、前記準備工程において、前記第1のエンジンの前記シリンダヘッドに対して、高出力用の前記第1の排気管が結合可能で、前記第2のエンジンの前記シリンダヘッドに対して、低出力用の前記第2の排気管が結合可能で前記第1の排気管が結合不能な、前記第1および第2のエンジンと前記第1および第2の排気管とを準備し、前記組立工程において、前記第1のエンジンの前記シリンダヘッドに前記第1の排気管を結合して前記第1の車両を組み立て、前記第2のエンジンの前記シリンダヘッドに前記第2の排気管を結合して前記第2の車両を組み立てることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、シリンダヘッドおよび排気管を含むエンジンと、排気装置との結合部分に加えて、シリンダヘッドと排気管との結合部分の構造も異ならせているので、排気装置の変更に加えて、排気管の変更により車両の排気特性を変更することができる。その結果、より広範囲の排気特性の変更に対応できる
【0012】
シリンダヘッドと排気管との結合部分の構造も異ならせる場合、前記第1および第2のエンジンのシリンダヘッドと前記第1および第2の排気管とは、一方が他方に嵌合する嵌合構造により結合され、前記第1および第2のエンジンのシリンダヘッドで前記嵌合構造が異なることにより、前記第2のエンジンの前記シリンダヘッドに対して、前記第2の排気管が結合可能で前記第1の排気管が結合不能に構成されていることが好ましい。この構成によれば、シリンダヘッドと排気管との嵌合構造が互いに異なっているので、機種の異なるシリンダヘッドと排気管同士は結合不能な非互換性構造となり、製造者の意図に反して出力改造されるのを防止することができる。
【0013】
本発明の車両群は、出力の異なる第1および第2の車両を含む車両群であって、前記第1の車両は、第1のエンジンと高出力用の第1の排気装置とを有し、前記第2の車両は、第2のエンジンと低出力用の第2の排気装置とを有し、前記第1および第2のエンジンは、前記第1および第2の排気装置との結合部分が異なり残余の部分が共通構造に形成され、前記第1の排気装置は、前記第1のエンジンに対して結合可能で、前記第2のエンジンに対して結合不能に形成され、前記第2の排気装置は、前記第2のエンジンに対して結合可能に形成されている。
【0014】
この構成によれば、第1および第2のエンジンは、排気装置との結合部分が異なるだけであるから、エンジンの構造を大きく異ならせること無く、出力の異なる2つの車両を製造でき、設計、試験等に費やす工数を短縮できる。また、吸気系ではなく、排気装置を異ならせることで、出力特性に与える影響を抑えることができる。さらに、低出力の車両において、第2のエンジンに対する低出力用の排気装置が高出力用の排気装置に取り換えられるのを防いで、製造者の意図に反して高出力用に改造されるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両製造方法または車両群によれば、第1および第2のエンジンは、排気装置との結合部分が異なるだけであるから、エンジンの構造を大きく異ならせること無く、出力の異なる2つの車両を製造でき、設計、試験等に費やす工数を短縮できる。また、吸気系ではなく、排気装置を異ならせることで、出力特性に与える影響を抑えることができる。さらに、低出力の車両において、低出力用の排気装置が高出力用の排気装置に取り換えられるのを防いで、製造者の意図に反して高出力用に改造されるのを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。本明細書において、「左側」および「右側」は、車両に乗車した運転者から見た左右側をいう。
図1は本発明の一実施形態に係る車両製造方法で組み立てた第1の車両である自動二輪車M1の側面図である。自動二輪車M1の車体フレームFRは、前半部を構成するメインフレーム1と、メインフレーム1の後部に連結されて後半部を構成するリヤフレーム2と、メインフレーム1の前部から後部にかけ渡された左右一対のサブフレーム4とからなっている。両サブフレーム4は、エンジンE1の外側方に位置する。
【0018】
メインフレーム1の前端に、ヘッドパイプ5が取り付けられ、このヘッドパイプ5に回動自在に挿通されたステアリングシャフト(図示せず)を介して、アッパブラケット6およびロワブラケット8がメインフレーム1に支持され、これらアッパブラケット6およびロワブラケット8にフロントフォーク10が支持され、このフロントフォーク10の下端部に前輪12が支持されている。フロントフォーク10の上端部のアッパブラケット6にはハンドル14が取り付けられている。
【0019】
メインフレーム1は後ろ下がりに傾斜した後端部にスイングアームブラケット16が形成され、このスイングアームブラケット16にスイングアーム18の前端部がピボット軸20を介して揺動自在に支持されている。このスイングアーム18の後端部に後輪22が支持されている。メインフレーム1の中央部の下方位置には第1のエンジンE1が前傾姿勢で搭載されており、この第1のエンジンE1によりチェーンのような伝達部材21を介して後輪22を駆動する。
【0020】
第1のエンジンE1は内燃機関で、この実施形態では4気筒4サイクルの並列多気筒エンジンであり、クランクケース24と、クランクケース24から上方に突出したシリンダブロック26と、その上方のシリンダヘッド28と、その上方のヘッドカバー29とを有している。シリンダヘッド28の後面には、スロットル弁を内蔵したスロットルボディ23、その上流のエアクリーナ(図示せず)を含む吸気系が接続されている。
【0021】
シリンダヘッド28の前面には、排気系が接続されている。すなわち、シリンダヘッド28の前面に4本の第1の排気管30が接続され、これら第1の排気管30が、第1のエンジンE1の下方の集合部32で集合され、この集合部32の下流端部と、後輪22の右側に配置された排気マフラ34とが接続管36により接続されている。これら第1の排気管30、集合部32、排気マフラ34および接続管36により第1の排気装置D1が構成されている。第1の排気装置D1における集合部32よりも下流側の部分は、カバー39により外側方から覆われている。第1の排気装置D1の詳細は後述する。
【0022】
集合部32の上流部に排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサ41が取り付けられ、集合部32における酸素センサ41の下流側に、排気ガス中の有害物質を浄化する触媒ユニット40が収納されている。触媒ユニット40は前後方向、すなわち排気ガスの流れ方向に間隔をあけて2つ配置されている。このように、排気温度の高い上流側に触媒ユニット40を配置することで、触媒の反応速度を向上させることができる。接続管36に、排気マフラ34へ向かう排気通路の面積を調整する排気デバイス42が取り付けられている。排気デバイス42を設けたことにより、所定条件に応じて排気デバイス42を駆動させて、出力特性を適正化させることができる。
【0023】
メインフレーム1の上部に燃料タンク44が配置されている。フロントフォーク10の前面にヘッドランプユニット46が支持されており、このヘッドランプユニット46に、フロントフォーク10上部の前方を覆う樹脂製のフロントカウル48が支持されている。
【0024】
第1のエンジンE1の前方斜め上方には、水のようなエンジン冷却媒体を放熱させるためのラジエータ50が配置されている。ラジエータ50の上方側方からサブフレーム4の上端部およびメインフレーム1前部の外側方にかけて延びる左右一対のサイドカウル52が配置され、メインフレーム1に支持されている。第1のエンジンE1の下部にロワカウル54が支持され、第1のエンジンE1の下部を外側方から覆っている。
【0025】
リヤフレーム2の上部には、操縦者用シート56および同乗車用シート58が装着されている。操縦者用シート56の下方に、第1のコントロール・ユニットCU1が搭載されている。サイドカバー60は、操縦者用シート56の下方から第1のエンジンE1のシリンダブロック26の後部まで延びて、第1のコントロール・ユニットCU1の外側方およびサブフレーム4の後半部を外側方から覆っている。サイドカバー60の前端部からサイドカウル52の下部にまで延びるサブフレームカバー62がサブフレーム4に支持され、サブフレーム4の前半部を外側方から覆っている。
【0026】
サイドカバー60を挟んで上下位置に、上部フレームカバー64と下部フレームカバー66とが配置されている。上部フレームカバー64は、サイドカウル52から燃料タンク44の下縁に沿ってサイドカバー60まで延び、メインフレーム1を外側方から覆っている。下部フレームカバー66は、サイドカバー60から下方に延び、スイングアームブラケット16を外側方から覆っている。
【0027】
スイングアームブラケット16の後部に、ブレーキペダル68および同乗車用フットレスト70を支持するブラケット72が固定され、スイングアームブラケット16から排気マフラ34に沿って後方斜め上方に延びている。
【0028】
図2に示すように、第1の排気装置D1は、第1の排気管30および集合部32からなる排気上流部分74と、接続管36および排気マフラ34からなる排気下流部分76とを有し、排気上流部分74と排気下流部分76とが、嵌合部69により着脱自在に連結されている。嵌合部69の詳細は後述する。
【0029】
排気上流部分74は、第1の排気管30と集合部32とを溶接により一体化してサブアセンブリとしたもので、第1の排気管30の上流側端部30aの連結部78を介して、第1のエンジンE1のシリンダヘッド28に着脱自在に連結されている。
【0030】
図3に示すように、第1の排気管30の上流側端部30aに、管の内径を拡張した拡径部80が形成され、拡径部80の外周面に、鍔状の排気管ホルダ82が溶接により固着されている。拡径部80の外周面における排気管ホルダ82よりも上端側に、カラー84が溶接により固着されている。カラー84は、内径は一定で、外径の小さい筒部84aと、筒部84aから径方向外方に延びた外径の大きい鍔部84bとを有する断面形状がL字形である。カラー84は、筒部84aの内径面で拡径部80の外周面に溶接され、筒部84aの先端は拡径部80の先端よりもシリンダヘッド28側に突出している。これら、拡径部80、排気管ホルダ82およびカラー84で、前記連結部78を構成している。
【0031】
一方、シリンダヘッド28には、カラー84の筒部84aが挿入される取付孔88(内径d1)を有する筒状の排気管取付部86が一体形成されている。
【0032】
図2に示す排気下流部分76は、接続管36と排気マフラ34とを溶接により一体化してサブアセンブリとしたものである。排気マフラ34は、上流側のチャンバ部92と下流側のマフラ部94とを有している。具体的には、排気マフラ34の外郭を形成するマフラケーシング96の内部が、前方から第1〜第3隔壁98,100,102によって4つの内部空間104,106,108,110に区画されている。
【0033】
最も前方の内部空間104は、接続管36と第1隔壁98との間に形成され、チャンバ部92のチャンバ室104を構成する。接続管36に連なる貫通パイプ112が、チャンバ室104を通過し、第1隔壁98を貫通した後、後方に隣接してマフラ部94の第1膨張室を構成する内部空間106に連通している。貫通パイプ112には、複数の連通孔114が形成され、貫通パイプ112内を流れる排気ガスの一部が連通孔114からチャンバ室104内に流入して、膨張、消音される。
【0034】
マフラ部94の第1膨張室106は、第1および第2隔壁98,100の間に形成されている。第1膨張室106では、貫通パイプ112から流入した排気ガスが膨張、消音される。第2隔壁100に、第1膨張室106と最も後方の内部空間110とを連通させる第1連通管116、および第1膨張室106と後方に隣接する内部空間108とを連通させる第2連通管118が設けられている。
【0035】
最も後方の内部空間110は、第3隔壁102とマフラケーシング96の後壁96aとの間に形成され、マフラ部94の第2膨張室110を構成する。第2膨張室110では、第1連通管116から流入した排気ガスが膨張、消音される。第3隔壁100に、第2膨張室110とマフラ部94の第3膨張室を構成する内部空間108とを連通させる第3連通管120が設けられている。
【0036】
マフラ部94の第3膨張室108は、第2および第3隔壁100,102の間に形成されている。第3膨張室108では、第2連通管118および第3連通管120から流入した排気ガスが膨張、消音される。第2および第3連通管118,120は、排気ガスの流れ方向に対向して配置されており、第2連通管118を介して第1膨張室106から流入する排気ガスと、第3連通管120を介して第3膨張室110から流入する排気ガスとが、第3膨張室108内で衝突することで、排気ガスの膨張、消音が一層促進される。第3隔壁100に、第3膨張室108とマフラケーシング96の外部とを連通させる2本の第4および第5連通管122,124が設けられており、第3膨張室108内で膨張、消音された排気ガスが、これら第4および第5連通管122,124を通って外部に排出される。
【0037】
マフラケーシング96の前端部付近の外周面に第1取付片126が溶接により固着されている。第1取付片126には、ボルト挿通孔126aが設けられている。さらに、マフラケーシング96の後端部付近の外周面に第2取付片128が溶接により固着されている。第2取付片128にも、ボルト挿通孔128aが設けられている。ボルト挿通孔128aは長孔により形成されている。
【0038】
図4に示すように、嵌合部69は、排気下流部分76の上流端部(前端部)に設けられた嵌合部材の一種である雄パイプ130と、排気上流部分74の下流端部(後端部)に設けられた嵌合部材の一種である雌パイプ132で構成されている。
【0039】
図5に示すように、雄パイプ130は、その後端部の外周面が接続管36の内周面に溶接により固着されて排気下流部分76に一体化されている。雌パイプ132は、その前端部の外周面が集合管32の内周面に溶接により固着されて排気上流部分74に一体化されている。雌パイプ132には、拡径・縮径を容易にするために、開口端縁(下流端縁)から軸方向に延びる複数の切欠溝133が周方向に等間隔で形成されている。
【0040】
つぎに、第1の排気装置D1の組み立て方法および車体への取付け方法、つまり車両製造方法を説明する。まず準備工程として、
図2に示す第1の排気管30、集合部32および雌パイプ132(
図4)からなる排気上流部分74と、雄パイプ130(
図4)、接続管36および排気マフラ34からなる排気下流部分76とを用意する。
【0041】
組立工程において、
図5に示すように、雌パイプ(嵌合部材)132をガスケット134を介して雄パイプ(嵌合部材)130の外周に嵌合させ、雌パイプ132の外周を、
図2に示すクランプ部材136で締め付ける。これにより、排気上流部分74と排気下流部分76とが結合され、第1の排気装置D1のアセンブリが完成する。
【0042】
つづいて、
図3に示すシリンダヘッド28の取付孔88に、第1の排気管30のカラー84を挿入する。排気管取付部86の先端面86aと、カラー84の鍔部84bとの間に、パッキン90が介在されている。これにより、
図2の第1の排気装置D1の上流端部(前部)が第1のエンジンE1に支持される。
【0043】
つぎに、第1の排気装置D1の排気マフラ34に設けた第1取付片126のボルト挿通孔126aにボルト(図示せず)を車体外側方から挿通し、スイングアームブラケット16に設けたねじ孔(図示せず)に締め付けることで、第1の排気装置D1の前後方向中間部がメインフレーム1のスイングアームブラケット16に支持される、つまり、車体に支持される。
【0044】
さらに、排気マフラ34に設けた第2取付片128のボルト挿通孔128aに、
図1のボルト138を車体外側方から挿通し、スイングアームブラケット16に固定されたブラケット72のねじ孔(図示せず)に締め付けることで、第1の排気装置D1の後部が車体に支持される。以上により、第1の排気装置D1の車体への取付けが完了する。
【0045】
つぎに、
図6〜9を用いて、本発明の車両製造方法で組み立てた第2の車両である自動二輪車M2について説明する。第1および第2の車両である自動二輪車M1,M2は部品構造、外観がほぼ同じの類似機種である。
図6〜9はそれぞれ
図2〜5に対応し、共通部分には同一の符号が付されており、共通部分については説明を省略する。
【0046】
図6の自動二輪車M2に搭載された第2のエンジンE2は、自動二輪車M1(
図1)の第1のエンジンE1と同一であるが、出力が小さく設定されている。つまり、第2のエンジンE2は、第2の排気装置D2によって出力が抑制されており、この出力特性に合わせた第2のコントロール・ユニットCU2を備えている点で、
図1の自動二輪車M1と相違し、それ以外の構成は同じである。
【0047】
このように低出力用の第2の車両M2を用意することで、運転初心者のような走行技能が未熟で、経験が浅い者が運転するにあたって、車両の出力が過剰となることを防いで、運転者の走行技能、経験に対する車両能力のずれを抑えることができる。また、低出力用の第2の車両M2と高出力用の第1の車両M1とのエンジンの主要部を共通化することで、第1および第2の車両M1、M2それぞれの製造コストを低減することができる。
【0048】
第1および第2のエンジンE1,E2は、第1および第2排気装置D1,D2との結合部分のみが異なり残余の部分は共通構造に形成されている。具体的には、
図7に示す第2のエンジンE2のシリンダヘッド28に形成される排気管取付部86Aの取付孔88Aの内径e2が、
図3の第1のエンジンE1のシリンダヘッド28の取付孔88の内径e1よりも小さく(e2<e1)形成されている。これ以外の構造は、第1および第2のエンジンE1,E2で共通である。
【0049】
また、
図7の第2の排気装置D2の排気上流部分74Aにおける第2の排気管30Aの内径d2も、
図3の第1の排気管30の内径d1よりも小さく(d2<d1)形成されており、これに伴い、
図7の第2の排気装置D2のカラー84Aの外径f2も、
図3のカラー84の外径f1よりも小さく(f2<f1)形成されている。このように、第1の排気管30の内径d1を、第2の排気管30Aの内径d2よりも大きくすることで、排気通路が広くなり共通のエンジンでありながら第1の車両M1の出力が向上する。
【0050】
さらに、第1の排気管30のカラー84の筒部84aの外径f1は、
図7のシリンダヘッド28の取付孔88Aの内径e2よりも大きく(e2<f1)設定されており、第2のエンジンE2の取付孔88Aには挿入できない。つまり、
図3の第1の排気管30は、
図7の第2のエンジンE2に取り付けることができない。
【0051】
さらに、
図6に示す第2の排気装置D2の排気下流部分76Aにおけるマフラ34Aの第2連通管118Aは、管の両端が閉塞されて排気ガスの一部が第1膨張室106から第3膨張室108に通過できないようになっている。つまり、第2の排気装置D2のマフラ34Aは、
図2の第1の排気装置D1のマフラ34に比べて、流路が狭くなっており、それだけ出力が低下している。このように、マフラ34に最低限の変更を行うことで、共通のエンジンを備えながら出力を抑えることができるから、設計、試験工数を削減できる。
【0052】
また、
図6に示す第2の排気装置D2の接続管36には、排気デバイスは設けられていない。第2の排気装置D2は、第1の排気装置D1(
図2)に比べて出力を落としているので、排気デバイスを用いて特性の適正化を図る要求が弱く、コストを削減できる。
【0053】
図8および9に示すように、第2の排気装置D2の中間部にある嵌合部69Aは、排気上流部分74Aの下流端部(後端部)に設けられた嵌合部材の一種である雄パイプ130Aと、排気下流部分76Aの上流端部(前端部)に設けられた嵌合部材の一種である雌パイプ132Aで構成されている。つまり、
図4の第1の排気装置D1の嵌合部69とは、雄パイプ130と雌パイプ132とが逆になっている。これにより、第1および第2の排気装置D1、D2の排気上流部分74,74Aと、第1および第2の排気装置D1、D2の排気下流部分76,76Aとは、互いに非互換性となっている。
【0054】
なお、第1のエンジンE1は、排気上流部分74を含んでいてもよく、その場合、
図3に示すシリンダヘッド28と第1の排気管30とを結合する連結部78は、
図7に示す第2のエンジンE2のシリンダヘッド28と第2の排気管30Aとを結合する連結部78Aと非互換性でなくてもよい。
図4の嵌合部材130,132が第1のエンジンE1と排気下流部分76(第1の排気装置)とを結合し、
図8の嵌合部材130A,132Aが第2のエンジンE2と排気下流部分76A(第2の排気装置)とを結合し、両結合が非互換性となる。
【0055】
図1のコントロール・ユニットCU1と、
図6のコントロール・ユニットCU2とでは、エンジンの制御方法(プログラム)が異なっている。この制御方法に違いによっても、出力を調整している。
図1のコントロール・ユニットCU1と、
図6のコントロール・ユニットCU2とは、互いに交換しても作動しないように構成されている。具体的には、交換しても作動しないようなプログラムを構築したり、コントロール・ユニットに接続されるカプラの形状を変えたりしている。
【0056】
コントロール・ユニットは、点火装置、燃料噴射装置、排気デバイス等の制御対象機器に駆動指令を与える。コントロール・ユニットは、第2の車両M2のほうが出力抑制されるように、制御対象機器へ指令するプログラムが異なっている。コントロール・ユニットの制御対象機器に吸排気バルブを含んでもよい。
【0057】
本実施形態では、コントロール・ユニットによってプログラムを用いて出力を抑制しているのに加えて、連通管の一部を閉塞させる、排気管の内径をかえる等の物理的に排気特性を変更して出力を抑制している。このようにソフトウェア、ハードウェアの両方を用いて出力を抑制することで、いずれか一方を用いて出力を抑制するのに比べて、設計者の意図に反した出力改造を防ぐことができる。出力抑制は、全域で出力を低下させるようにしてもよいし、最大出力を含む高出力領域のみについて出力を低下させるようにしてもよい。吸気装置よりも排気装置で出力を低下させるほうが、走行時のフィーリングに与える影響が小さい。また、マフラの特性を変えることで、外形を変えることなく排気効率を変更することができ、他の機器に対する影響も少なくて済む。
【0058】
本実施形態では、高出力用の排気下流部分76には排気デバイス42が搭載され、低出力用の排気下流部分76Aには排気デバイスが搭載されていない。したがって、仮に高出力用の排気下流部分76を低出力用の車両M2に取り付けても、低出力用の車両のコントロール・ユニットCU2では、排気デバイス42を駆動することができず、設計者の意図に反した出力改造を防ぐことができる。
【0059】
第2の排気装置D2の組み立て方法および車体への取付け方法、つまり車両製造方法は、シリンダヘッド28の取付孔88,88Aの内径e1、e2、排気管30,30Aの内径d1、d2、嵌合部69、69Aの嵌合部材の雄雌の向き等が異なるだけで、上述の第1の排気装置D1の場合と同様である。
【0060】
このように、配管の内径や嵌合部材の雄雌の向きの変更だけで済ませているので、第1および第2の排気装置D1,D2の間で、車体に対するマウント部である第1取付片126および第2取付片128の位置および構造を同じに形成できる。例えば、類似機種に変更する際に、第1および第2の排気装置D1,D2と第1および第2のエンジンE1,E2との間、あるいは第1および第2の排気装置D1,D2の排気上流部分74,74Aと排気下流部分76,76Aとの間に、別途アダプタを挟んで取り付ける場合、アダプタの分だけ排気装置が後方にずれてしまい、排気装置のマウント部と車体のマウント位置とがずれて、排気装置を車体に固定できなくなるので、マウント部を機種ごとに変更する必要がある。
【0061】
上記構成において、
図3および7に示すように、第1および第2のエンジンE1,E2は、第1および第2の排気装置D1,D2との結合部分であるシリンダヘッド28の取付孔88,88Aの内径e1、e2が異なるだけであるから、エンジンの主要部構造を異ならせること無く、出力の異なる2つの自動二輪車M1,M2を製造でき、設計、試験等に費やす工数を短縮できる。また、吸気系ではなく、排気系を異ならせることで、出力特性に与える影響を抑えることができる。さらに、低出力の自動二輪車M2において、低出力用の第2のエンジンE2に、高出力用の第1の排気管30を取り付けられるのを防いで、製造者の意図に反して高出力用に改造されるのを防止することができる。
【0062】
また、第1および第2のエンジンE1,E2の間で、シリンダヘッド28と排気上流部分74,74Aとの嵌合構造を異ならせているから、簡単な構造で第2のエンジンE2に高出力用の第1の排気装置D1を結合不能にできる。これにより、製造者の意図に反して、低出力用の自動二輪車M2の排気装置が高出力用に改造されるのを防止することができる。
【0063】
第1および第2のエンジンE1,E2は、第1および第2の排気装置D1、D2の排気上流部分74,74Aを含んでいてもよく、その場合、第1および第2のエンジンE1,E2と排気下流部分76,76Aとは、
図4および8に示すように、一方が他方に嵌合する嵌合構造により結合され、第1および第2のエンジンE1,E2との間で、嵌合部69,69Aの構造が異なることで、機種の異なる排気上流部分74,74Aと排気下流部分76,76Aとは結合不能な非互換性構造となる。その結果、製造者の意図に反して高出力用に改造されるのを防止することができる。しかも、嵌合部材130,130A,132,132Aの向きを逆にするだけなので、容易に非互換性構造を実現できるとともに、部品点数の増加も抑制できる。
【0064】
図4および
図8に示す排気上流部分74,74Aと排気下流部分76,76Aとの嵌合部69,69Aの構造に加えて、
図3および
図7に示す第1および第2のエンジンE1、E2と第1および第2の排気装置D1,D2との結合部分も異ならせているので、排気マフラ34,34Aの変更に加えて、第1および第2の排気管30,30Aの内径d1、d2の変更によりエンジン排気量を変更することができる。その結果、より広範囲のエンジン排気量の変更に対応できる
【0065】
上記実施形態では、エンジンと排気上流部分および排気上流部分と排気下流部分とが分割可能に構成されて、複数機種間でエンジンと排気上流部分および排気上流部分と排気下流部分とに非互換性を持たせたが、エンジンの排気系のどこか1箇所だけ、あるいは3箇所以上に非互換性を持たせてもよい。たとえば、排気上流部分は共通で、排気下流部分のみ非互換性としてもよい。
【0066】
上記実施形態では、第1および第2のエンジンE1、E2と排気上流部分74,74A、および排気上流部分74,74Aと排気下流部分76,76Aとを互いに非互換性としたが、少なくとも、低出力用の車両に、高出力用の装置が結合不能であればよく、高出力用の車両に、低出力用の装置が結合可能であってもよい。
【0067】
上記実施形態では、第1および第2の排気装置D1,D2の排気上流部分74,74Aと排気下流部分76,76Aとの間の異なる嵌合構造として、雄雌の向きを逆としたが、それ以外にも、例えば、凹部に対する凸部の形状異ならせたり、嵌合後に、フランジで結合する場合にフランジに設けるボルト孔の位置を異ならせたりすることもできる。また、シリンダヘッドと排気上流側部分との嵌合形状についても同様に、嵌合形状を異ならせたり、ボルト位置を異ならせたりしてもよい。雄雌のほか、内径寸法、孔形状等を異ならせてもよい。たとえば、一方が円形で、他方がキー溝を有する円形で形成され、あるいは、一方が円形で、他方が楕円形に形成される。
【0068】
さらに、上記実施形態では、高出力側の第1の排気装置D1で、排気上流部分74が雌パイプ132を有し、排気下流部分76が雄パイプ130を有するようにしたが、高出力側の第1の排気装置D1において、排気上流部分74が雄パイプ130を有し、排気下流部分76が雌パイプ132を有するようにしてもよい。これにより、高出力の第1の排気装置D1において、排気ガスが雄パイプ130の上流端面に衝突することが無くなる結果、流路抵抗が低減して一層の出力向上が期待できる。
【0069】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。例えば、上記実施形態では、自動二輪車について説明したが、これに限定されず、共通のエンジンを用いた類似機種を有する車両全般に適用できる。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。