(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973305
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】フルオロアルミノシリケートガラス粉末を製造する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 6/06 20060101AFI20160809BHJP
C03C 3/068 20060101ALI20160809BHJP
C03C 12/00 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
A61K6/06 A
C03C3/068
C03C12/00
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-217619(P2012-217619)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-70047(P2014-70047A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000181217
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100070105
【弁理士】
【氏名又は名称】野間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】保木井 悠介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 克人
(72)【発明者】
【氏名】伏島 歩登志
【審査官】
鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−509106(JP,A)
【文献】
特開平05−331017(JP,A)
【文献】
特開平06−321724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00−6/10
C03C 3/068
C03C 12/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタン化合物を含む水溶液とランタンを含まないフルオロアルミノシリケートガラス粉末とを混合した後、加熱して、ポリカルボン酸と水との存在下で溶出するランタン化合物が表層にのみ存在するフルオロアルミノシリケートガラス粉末を製造する方法。
【請求項2】
ランタン化合物として水溶性のランタン化合物を使用する請求項1に記載のフルオロアルミノシリケートガラス粉末を製造する方法。
【請求項3】
水溶性のランタン化合物として、硝酸ランタン水溶液及び/又は塩化ランタン水溶液を使用する請求項2に記載のフルオロアルミノシリケートガラス粉末を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用グラスアイオノマーセメントの耐酸性を向上させることが可能なフルオロアルミノシリケートガラス粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用グラスアイオノマーセメントは、生体に対し優れた親和性を持ち、歯質に対する接着性もあり、硬化体が半透明性を有し審美性に優れていることに加え、硬化後に経時的にフッ素を徐放し歯質強化作用も期待できるという利点があることから、歯科の種々の用途で広く使用されている。この歯科用グラスアイオノマーセメントは、フルオロアルミノシリケートガラス粉末とポリカルボン酸水溶液とを主成分とする歯科用セメントであり、具体的にはポリカルボン酸の水溶液がフルオロアルミノシリケートガラス粉末の表面一層を溶かすことでガラス中の金属(アルカリ金属,アルカリ土類金属やアルミニウム)をイオンとして遊離させ、これらがポリカルボン酸のカルボキシル基とイオン結合し架橋構造を形成してゲル化し硬化する(以後、アイオノマー反応と呼ぶことがある)歯科用セメントである。
【0003】
しかし硬化後の歯科用グラスアイオノマーセメントは、酸によって極僅かに溶解してしまうことが知られている。これは通常は問題がないと考えられているものの、症例によっては、う蝕により酸の濃度が極めて高くなってしまった歯間や歯科用修復材の隙間等の部位において問題となることが懸念されている。そのため、より耐酸性の高い歯科用グラスアイオノマーセメントの開発が望まれていた。
【0004】
本発明者等は、ランタンを含んだフルオロアルミノシリケートガラス粉末(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)を用いると、ガラスと硬化後のマトリックスを化学的に安定させ、耐酸性が向上することを確認した。しかしながら、イオン半径の大きいランタンを含有させるとガラス粉末の屈折率が高くなり、セメント液であるポリカルボン酸水溶液側との屈折率差が大きくなるので、硬化体の透明性が低下してしまうという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−331017号公報
【特許文献2】特開平6−321724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、硬化体の耐酸性を向上させながら、透明性を低下させることのない歯科用グラスアイオノマーセメントを得ることが可能なフルオロアルミノシリケートガラス粉末とその製造方法を提供することを課題とする。
【0007】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意研究した結果、歯科用グラスアイオノマーセメントは、フルオロアルミノシリケートガラス粉末中の表面一層がポリカルボン酸によって溶出し、それらの中に含まれている金属イオンがポリカルボン酸を架橋することにより硬化するという点に着目した。即ち、ガラス粉末の表層にのみランタン化合物が存在していれば、硬化後にガラス粉末中に余分なランタンが存在しないために屈折率を低い状態に維持することができ、結果として硬化体の透明性を良好な状態に維持したまま耐酸性の向上を図ることができることを究明して本発明を完成した。
【0008】
即ち本発明は、ポリカルボン酸と水との存在下で溶出するランタン化合物が表層にのみ存在することを特徴とするフルオロアルミノシリケートガラス粉末であり、そのランタン化合物の量が酸化物換算で1〜5重量%であることが好ましいフルオロアルミノシリケートガラス粉末と、このフルオロアルミノシリケートガラス粉末を製造するための、ランタン化合物を含む水溶液とランタンを含まないフルオロアルミノシリケートガラス粉末とを混合した後、加熱する方法であり、ランタン化合物として水溶性のランタン化合物、好ましくは硝酸ランタン水溶液及び/又は塩化ランタン水溶液を使用する方法に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るフルオロアルミノシリケートガラス粉末は、硬化体の耐酸性を向上させながら透明性を低下させることのない歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化体を得ることが可能な優れたフルオロアルミノシリケートガラス粉末であり、本発明に係るフルオロアルミノシリケートガラス粉末の製造方法は、ランタン化合物を含む水溶液とランタンを含まないフルオロアルミノシリケートガラス粉末とを混合した後、加熱するという簡単な方法で本発明に係るフルオロアルミノシリケートガラス粉末を製造できる方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係るフルオロアルミノシリケートガラス粉末は、一般的に歯科用グラスアイオノマーセメントに使用されているランタンを含まないフルオロアルミノシリケートガラス粉末の表層のみにポリカルボン酸と水との存在下で溶出するランタン化合物が存在するものである。そのため基本的なガラス粉末としては、従来のランタンを含まないフルオロアルミノシリケートガラス粉末が特に制限なく使用可能である。中でも、その主な組成として、ガラスの総重量に対してAl
3+:10〜25重量%、Si
4+:5〜30重量%、F
-:1〜30重量%、Sr
2+:0〜20重量%、Ca
2+:0〜20重量%、アルカリ金属イオン(Na
+、K
+等):0〜10重量%であり、これらを含む原料を混合・溶融した後、冷却・粉砕し平均粒径0.02〜20μm程度の粉末に調製して作製されたものが好ましい。
【0011】
ポリカルボン酸と水との存在下で溶出するランタン化合物は、ランタン化合物を含む水溶液をランタンを含まないフルオロアルミノシリケートガラス粉末と混合してから加熱することにより表層のみに存在させることができる。この場合、溶媒に水を用いるためランタン化合物は水溶性であることが必要であり、硝酸ランタン及び/又は塩化ランタンが好ましい。
【0012】
この際、水溶液のランタン化合物のランタンを含まないフルオロアルミノシリケートガラス粉末に対する処理濃度が2〜10重量%程度となるように水溶液のランタン化合物が溶解された水溶液をランタンを含まないフルオロアルミノシリケートガラス粉末と混合し、100〜300℃の温度で加熱する。処理濃度が2重量%未満では処理後に表層のみに存在するポリカルボン酸と水との存在下で溶出するランタン化合物の量が足りない傾向があり、10重量%を超えるとフッ化ランタンが生成され透明性が悪化する傾向がある。
【0013】
加熱後、必要により乾燥させ、表層のみにポリカルボン酸と水との存在下で溶出するランタン化合物が存在するフルオロアルミノシリケートガラス粉末を得る。このポリカルボン酸と水との存在下で溶出するランタン化合物の量は、酸化物換算でフルオロアルミノシリケートガラス粉末全体の1〜5重量%であることが好ましい。1重量%未満では耐酸性を向上させる効果が得られ難く、5重量%を超えると同時にフッ化ランタン等が生成され易く硬化体の透明性が悪化する傾向がある。
【0014】
本発明に係るフルオロアルミノシリケートガラス粉末の製造方法に使用されるランタンを含まないフルオロアルミノシリケートガラス粉末は、従来のフルオロアルミノシリケートガラス粉末と同様の方法によりその表面を酸やフッ化物で処理してもよく、酸やフッ化物で表面処理することによりセメント泥の流動性が増加して操作性が向上し、更に硬化をシャープにすることができる。処理に使用する酸としては、例えばリン酸,塩酸,ピロリン酸,酒石酸,クエン酸,グルタル酸,リンゴ酸,酢酸等を挙げることができ、酸性物質である第1リン酸塩や第2リン酸塩等も含まれる。また、処理に使用するフッ化物としては、フッ化アルミニウム,フッ化亜鉛,フッ化錫,フッ化ジルコニウム,酸性フッ化ソーダ,酸性フッ化カリウム等を挙げることができる。
【0015】
本発明に係るフルオロアルミノシリケートガラス粉末は、従来の、粉と液とを混合して重合する従来型グラスアイオノマーセメント組成物や、重合性モノマーと化学重合触媒や光重合触媒を配合したレジン強化型グラスアイオノマーセメントにも使用できることは勿論であり、これらの場合でもセメント硬化体の耐酸性を向上させる効果がある。
なお当然ながら本発明に係るフルオロアルミノシリケートガラス粉末には必要に応じて通常用いられる顔料等を適宜配合することもできる。
【実施例】
【0016】
『ランタンを含まないフルオロアルミノシリケートガラスの調整』
フルオロアルミノシリケートガラス粉末I,II及びIIIの配合を表1に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
フルオロアルミノシリケートガラス粉末I及びIIIについては、原料を充分混合し1200℃の高温電気炉中で5時間保持しガラスを溶融させた。溶融後冷却し、ボールミルを用いて10時間粉砕し、200メッシュ(ASTM)ふるいを通過させた後の粉末をランタンを含まないフルオロアルミノシリケートガラス粉末とした。フルオロアルミノシリケートガラス粉末IIについては、1100℃で溶融した以外はフルオロアルミノシリケートガラス粉末I及びIIIと同様の操作を行った。
【0019】
比較例1〜3としては、ランタンを含んでいない従来のフルオロアルミノシリケートガラス粉末を用いた。比較例4〜7としては、更に、ポリカルボン酸と水との存在下で溶出するランタン化合物が表層に存在していないガラス粉末を用いた。
【0020】
ランタンを含まないフルオロアルミノシリケートガラス粉末に、水溶液に溶解したランタン化合物(実施例1〜13)、及び希土類でイオンとなった際に3価の状態をとる硝酸イットリウム比較例4〜7)を表2及び表3に記載の処理濃度で加え、乳鉢中で充分混合し、蒸気乾燥器を用いて表2及び表3に記載の加熱温度で乾燥した。
【0021】
<歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化方法>
実施例及び比較例のフルオロアルミノシリケートガラス粉末0.34gに市販のグラスアイオノマーセメント硬化液(商品名:フジIXGPエクストラの液,株式会社ジーシー製)0.1gの割合で混合してグラスアイオノマーセメント組成物の硬化体を得た。
【0022】
<耐酸性の評価>
セメント硬化体の耐水性・耐酸性をJIS T6609−1の酸溶解性試験に基づいて評価した。練和後の歯科用セメント組成物を、直径5mm、深さ2mmの孔が設けられたポリメチルメタクリレート製の型に填入し、フィルムを介して圧接した後に、37℃、相対湿度100%の恒温槽に24時間放置した。その後、セメント硬化体表面を型と一体のままで注水下耐水研磨紙#1200によって研磨を行い平坦にし、セメント硬化体表面とその反対側の面の初期厚さを測定した。この試験片を37℃の0.1mol/Lの乳酸/乳酸ナトリウム緩衝溶液(pH2.74)中に24時間浸漬させた後、同様に厚さを測定し、その減少量を評価した。
【0023】
<透明性の評価>
練和後のセメントを金属型に填入して直径15mm×厚さ0.5mmの硬化体を得た。練和開始から10分後に測色計(Spectrophotmeter CM−3610d,ミノルタ社製)を使用して白背景及び黒背景をそれぞれ測定した。CIE−L
*a
*b
*表色系でのL
*(black)、L
*(white)を算出しΔL=L
*(white)−L
*(black)を透明性の指標とした。
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
実施例及び比較例から明らかなように、本発明に係るフルオロアルミノシリケートガラス粉末の製造方法で製造したフルオロアルミノシリケートガラス粉末を用いた歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化体は、従来のポリカルボン酸と水との存在下で溶出するランタン化合物を表層に含まないフルオロアルミノシリケートガラス粉末と比較して、透明性を維持しながら耐酸性が向上していることが分かる。