(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳述する。なお、特に断らない限り、数値A及びBについて「A〜B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。
【0022】
<(A)潤滑油基油>
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油は、特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油や合成系基油が使用できる。
【0023】
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガス・トゥ・リキッド・ワックス)を異性化する手法で製造される潤滑油基油等が例示できる。
【0024】
合成系潤滑油としては、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリα−オレフィンまたはその水素化物、イソブテンオリゴマーまたはその水素化物、パラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。このほか、アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、及び芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0025】
本発明の潤滑油組成物においては、潤滑油基油として、鉱油系基油、合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
【0026】
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油の動粘度、NOACK蒸発量、及び粘度指数は、当該潤滑油組成物の用途に応じて適宜調整することが可能である。
【0027】
<(B)ボラジン化合物>
本発明の潤滑油組成物は、下記一般式(1)で表されるボラジン化合物を含有する。
【0029】
上記一般式(1)において、窒素原子上の置換基であるR
1、R
3、及びR
5はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜30の炭化水素基、又は、リン及び硫黄以外のヘテロ元素を含有する炭素数1〜30の炭化水素基である。
【0030】
ここで、上記炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基(シクロアルキル基やアルキルシクロアルキル基であってもよい。)、アルケニル基(二重結合の位置は任意である)、アリール基、アルキルアリール基、及びアリールアルキル基等を例示できる。
【0031】
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5以上7以下のシクロアルキル基を挙げることができる。また上記アルキルシクロアルキル基において、シクロアルキル基へのアルキル基の置換位置は任意である。
【0032】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。また上記アルキルアリール基及び上記アルキルアリール基において、アリール基へのアルキル基の置換位置は任意である。
【0033】
上記「リン及び硫黄以外のヘテロ元素を含有する炭素数1〜30の炭化水素基」は、炭化水素基がリン及び硫黄以外のヘテロ元素を含むように官能基化されている基であって、炭素数が1〜30である基を意味する。該炭化水素基としては、上記同様の炭化水素基を例示できる。上記「リン及び硫黄以外のヘテロ元素」としては、リン、硫黄、及び希ガス元素以外の非金属典型元素を好ましく挙げることができる。中でも酸素O、ホウ素B、窒素N、ケイ素Si、及びハロゲン(フッ素F、塩素Cl、臭素Br、及びヨウ素I)を好ましく例示でき、これらの元素のうち一種以上を含有する基を好ましく採用できる。なおハロゲンとしては結合安定性の点でF及びClが好ましく、Fがより好ましい。
具体的な官能基化の態様としては、エステル結合を有している態様(アルコキシカルボニル置換やアシロキシ置換)、アシル基を有している態様、カルボキシ基又はその金属塩を有している態様、エーテル結合を有している態様(アルコキシ置換)、ボリル基(例えばジヒドロカルビルボリル基。)を有している態様、ホウ酸エステル結合を有している態様(例えばジアルコキシボロキシ置換。)、アミノ基(例えばジヒドロカルビルアミノ基。)を有している態様、アミド結合(−CO−N<結合)を有している態様(アミノカルボニル置換やアシルアミノ置換)、シリル基(例えばトリヒドロカルビルシリル基。)を有している態様、及び、ハロゲノ基(例えばフルオロ基。)を有している態様等を例示できる。
【0034】
上記「リン及び硫黄以外のヘテロ元素を含有する炭素数1〜30の炭化水素基」の好ましい一形態としては、「酸素若しくはホウ素若しくは窒素を含有する炭素数1〜30の炭化水素基」を挙げることができる。該「酸素若しくはホウ素若しくは窒素を含有する炭素数1〜30の炭化水素基」は、炭化水素基が酸素、ホウ素、又は窒素を含むように官能基化されている基であって、炭素数が1〜30である基を意味する。該炭化水素基としては、上記同様の炭化水素基を例示できる。
当該形態における具体的な官能基化の態様としては、エステル結合を有している態様(アルコキシカルボニル置換やアシロキシ置換)、アシル基を有している態様、カルボキシ基を有している態様、エーテル結合を有している態様(アルコキシ置換)、ボリル基(例えばジヒドロカルビルボリル基。)を有している態様、ホウ酸エステル結合を有している態様(例えばジアルコキシボロキシ置換。)、アミノ基(例えばジヒドロカルビルアミノ基。)を有している態様、アミド結合(−CO−N<結合)を有している態様(アミノカルボニル置換やアシルアミノ置換)等を例示できる。
【0035】
上記「リン及び硫黄以外のヘテロ元素を含有する炭素数1〜30の炭化水素基」の他の好ましい一形態としては、「酸素若しくはホウ素を含有する炭素数1〜30の炭化水素基」を挙げることができる。該「酸素若しくはホウ素を含有する炭素数1〜30の炭化水素基」は、炭化水素基が酸素又はホウ素を含むように官能基化されている基であって、炭素数が1〜30である基を意味する。該炭化水素基としては、上記同様の炭化水素基を例示できる。
当該形態における具体的な官能基化の態様としては、エステル結合を有している態様(アルコキシカルボニル置換やアシロキシ置換)、アシル基を有している態様、カルボキシ基を有している態様、エーテル結合を有している態様(アルコキシ置換)、ボリル基(例えばジヒドロカルビルボリル基。)を有している態様、ホウ酸エステル結合を有している態様(例えばジアルコキシボロキシ置換。)等を例示できる。
【0036】
なお上記一般式(1)において窒素原子上の置換基であるR
1、R
3、及びR
5のそれぞれについて、水素以外の基である場合には、その炭素数は好ましくは3以上であり、より好ましくは6以上であり、また好ましくは24以下であり、より好ましくは18以下であり、さらに好ましくは12以下である。
【0037】
上記一般式(1)において、ホウ素原子上の置換基であるR
2、R
4、及びR
6はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜30の炭化水素基、又は、酸素若しくはホウ素若しくは窒素を含有する炭素数1〜30の炭化水素基である。
【0038】
R
2、R
4、及びR
6について、上記炭素数1〜30の炭化水素基は、R
1、R
3、及びR
5について上記説明した炭素数1〜30の炭化水素基と同様である。
上記「酸素若しくはホウ素若しくは窒素を含有する炭素数1〜30の炭化水素基」は、炭化水素基が酸素、ホウ素、又は窒素を含むように官能基化されている基であって、炭素数が1〜30である基を意味する。該炭化水素基としては、上記同様の炭化水素基を挙げることができる。官能基化の態様としては、エステル結合を有している態様(アルコキシカルボニル置換やアシロキシ置換)、カルボキシ基を有している態様、エーテル結合を有している態様(アルコキシ置換)、ボリル基(例えばジヒドロカルビルボリル基。)を有している態様、ホウ酸エステル結合を有している態様(例えばジアルコキシボロキシ置換。)、アミノ基(例えばジヒドロカルビルアミノ基。)を有している態様、アミド結合(−CO−N<結合)を有している態様(アミノカルボニル置換やアシルアミノ置換)等を例示できる。
【0039】
なお上記一般式(1)においてホウ素原子上の置換基であるR
2、R
4、及びR
6のそれぞれについて、水素以外の基である場合には、その炭素数は好ましくは3以上であり、より好ましくは6以上であり、また好ましくは24以下であり、より好ましくは18以下であり、さらに好ましくは12以下である。
【0040】
なお、ボラジン化合物の揮発性を低減する観点からは、上記一般式(1)におけるR
1乃至R
6の6つの置換基のうち1つ以上が水素以外の基であることが好ましく、2つ以上が水素以外の基であることがより好ましく、3つ以上が水素以外の基であることが特に好ましい。
また、ボラジン化合物の製造を容易にする観点から、上記一般式(1)において窒素原子上の置換基であるR
1、R
3、及びR
5は同一の基であることが好ましい。同様の観点から、上記一般式(1)においてホウ素原子上の置換基であるR
2、R
4、及びR
6は同一の基であることが好ましい。
これらの要請をみたすボラジン化合物として、上記一般式(1)において窒素上の置換基(R
1、R
3、及びR
5)の全て、若しくはホウ素上の置換基(R
2、R
4、及びR
6)の全て、又はその両方(R
1乃至R
6全て)が、水素以外の基であるボラジン化合物を特に好ましく採用することができる。
【0041】
なお本発明の潤滑油組成物において、上記一般式(1)で表されるボラジン化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(ボラジン化合物の製造)
上記一般式(1)で表されるボラジン化合物を製造する方法は特に制限されるものではなく、公知の合成方法を適宜採用することができる。
説明を単純化するため、窒素原子上の置換基であるR
1、R
3、及びR
5が同一の基であり、かつホウ素原子上の置換基であるR
2、R
4、及びR
6が同一の基である場合を主に例にとって説明する。この場合、上記一般式(1)で表されるボラジン化合物の置換態様は、次の(イ)乃至(ヘ)の類型に分類することができる。
(イ)N−水素又は脂肪族置換、B−水素;
(ロ)N−水素又は脂肪族置換、B−脂肪族置換;
(ハ)N−水素又は脂肪族置換、B−芳香族置換;
(ニ)N−芳香族置換、B−水素;
(ホ)N−芳香族置換、B−芳香族置換;
(ヘ)N−芳香族置換、B−脂肪族置換
以下、上記(イ)〜(ヘ)の類型別に合成法の例を説明する。
【0043】
(ボラジン化合物の製造:(イ)N−水素又は脂肪族置換、B−水素の場合)
一般式(1)においてR
1=R
3=R
5=水素又は脂肪族基、R
2=R
4=R
6=水素である場合には、例えば下記式(3)に示すように、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化ホウ素アルカリABH
4(Aはアルカリ金属である。)と、アルキルアンモニウムクロライド等のアンモニウムハライドRNH
3X(Xはハロゲンであり;Rは環状構造を有していてもよく(例えばシクロアルキル基等。)、二重結合を有していてもよく、芳香族置換されていてもよく(例えばアリールアルキル基等。)、水素であってもよい。)を溶媒中で反応させる方法によって合成することが可能である。該方法における反応条件等の詳細は、例えば特開2008−201729号公報等に開示されている。
【0045】
また例えば下記式(4)に示すように、ボラン−テトラヒドロフラン錯体等のボラン(BH
3)錯体又はジボラン(B
2H
6)と、ニトリルRCN(Rは脂肪族基(環状構造を有していてもよく、二重結合を有していてもよい。)又は芳香族基。)とを溶媒中で反応させる方法によって合成することも可能である。該方法における反応条件等の詳細は、例えば特開2010−173945号公報等に開示されている。
【0047】
また例えば下記式(5)に示すように、トリクロロボランBCl
3と、アルキルアンモニウムクロライド等のアンモニウムハライドRNH
3X(Xはハロゲンであり;Rは環状構造を有していてもよく(例えばシクロアルキル基等。)、二重結合を有していてもよく、芳香族置換されていてもよく(例えばアリールアルキル基等。)、水素であってもよい。)とを溶媒中で反応させることによりトリクロロボラジン化合物を合成した後、下記式(6)に示すように該トリクロロボラジン化合物を水素化ホウ素ナトリウムで還元する方法によって合成することも可能である。一段階目の反応(式(5))の反応条件等の詳細は、例えば特開2005−112723号公報や、特開2005−104869号公報等に開示されている。二段階目の反応(式(6))は周知である。
【0050】
(ボラジン化合物の製造:(ロ)N−水素又は脂肪族置換、B−脂肪族置換の場合)
上記一般式(1)においてR
1=R
3=R
5=水素又は脂肪族基、R
2=R
4=R
6=脂肪族基である場合には、例えば上記式(5)について説明したようにトリクロロボランBCl
3と、アルキルアンモニウムクロライド等のアンモニウムハライドRNH
3Xとを溶媒中で反応させることによりトリクロロボラジン化合物を合成した後、該トリクロロボラジン化合物を下記式(7)に示すように脂肪族グリニャール試薬R’MgX(Xはハロゲンであり;R’は環状構造を有していてもよく(例えばシクロアルキル基等。)、二重結合を有していてもよく、芳香族置換されていてもよい(例えばアリールアルキル基等。)。)と反応させる方法により合成することが可能である。該方法における反応条件等の詳細は、例えば特開2005−053854号公報、特開2005−104869号公報、特開2005−112723号公報等に開示されている。
【0052】
また例えば、上記説明した(イ)N−水素又は脂肪族置換、B−水素であるボラジン化合物と、アルケン化合物とを触媒(例えばRhCl(PPh
3)
3等。)存在下に2段階に分けて逐次的に反応させる方法(下記式(8))により合成することも可能である。該方法における触媒や反応条件等の詳細は、例えば特開2011−037789号公報に開示がある。
【0054】
(ボラジン化合物の製造:(ハ)N−水素又は脂肪族置換、B−芳香族置換の場合)
上記一般式(1)においてR
1=R
3=R
5=水素又は脂肪族基、R
2=R
4=R
6=芳香族基である場合には、例えば上記説明した(イ)N−水素又は脂肪族置換、B−水素であるボラジン化合物と、アリールグリニャール試薬とを反応させる方法によって合成することが可能である(下記式(9))。該方法における反応条件等の詳細は、例えばJ.Am.Chem.Soc.,1959,81,582−586に開示がある。
【0056】
また例えば、上記説明した(イ)N−水素又は脂肪族置換、B−水素であるボラジン化合物と、アリールハライドArX(Xはハロゲンであり;Arはアリール基であり、アルキル基等で置換されていてもよい。)とを触媒(例えばPdCl
2(PPh
3)
2等。)存在下で反応させる方法により合成することも可能である(下記式(10))。該方法における触媒や反応条件等の詳細は、例えば特開2010−280637号公報に開示されている。
【0058】
(ボラジン化合物の製造:(ニ)N−芳香族置換、B−水素の場合)
上記一般式(1)においてR
1=R
3=R
5=芳香族基、R
2=R
4=R
6=水素である場合には、例えば下記式(11)に示すように、トリクロロボランBCl
3等のトリハロボランと、アリールアミンArNH
2(Arはアリール基であり、アルキル基等で置換されていてもよい。)とを反応させることによりトリハロボラジン化合物を合成した後、下記式(12)に示すように該トリハロボラジン化合物を水素化ホウ素ナトリウムで還元する方法である。一段階目の反応(式(11))の反応条件等の詳細は、例えば特開2005−170857号公報に開示がある。二段階目の反応(式(12))は周知である。
【0061】
(ボラジン化合物の製造:(ホ)N−芳香族置換、B−芳香族置換の場合)
上記一般式(1)においてR
1=R
3=R
5=芳香族基、R
2=R
4=R
6=芳香族基である場合には、例えば上記式(11)について説明したようにトリクロロボランBCl
3等のトリハロボランと、アリールアミンArNH
2とを反応させることによりトリハロボラジン化合物を合成した後、下記式(13)に示すように、該トリハロボラジン化合物と、アリールハライドAr’Y(Yはハロゲンであり;Ar’はアリール基であり、アルキル基等で置換されていてもよい。)をリチオ化又はグリニャール試薬化してなる有機金属化合物とを反応させる方法により合成することが可能である。該方法における反応条件等の詳細は、例えば特開2005−170857号公報に開示がある。
【0063】
(ボラジン化合物の製造:(ヘ)N−芳香族置換、B−脂肪族置換の場合)
上記一般式(1)においてR
1=R
3=R
5=芳香族基、R
2=R
4=R
6=脂肪族基である場合には、例えば上記式(11)について説明したようにトリクロロボランBCl
3等のトリハロボランと、アリールアミンArNH
2とを反応させることによりトリハロボラジン化合物を合成した後、上記式(7)について説明したように該トリハロボラジン化合物に脂肪族グリニャール試薬R’MgXを作用させる方法により合成することが可能である(下記式(14))。
【0065】
(ボラジン化合物の製造:その他の場合)
ボラジン化合物の製造方法に関する上記説明では、上記一般式(1)において窒素原子上の置換基R
1、R
3、及びR
5が同一の基であり、かつホウ素原子上の置換基R
2、R
4、及びR
6が同一の基である場合を例にとって説明したが、本発明において使用可能なボラジン化合物はこれらの態様に限定されるものではない。窒素原子上の置換基R
1、R
3、及びR
5が相互に異なっている、又は、ホウ素原子上の置換基R
2、R
4、及びR
6が相互に異なっている態様のボラジン化合物も使用可能であり、そのようなボラジン化合物も合成可能である。例えば、ボラジン骨格の窒素源として使用するアンモニウム塩やアミンを2種以上組み合わせること;ボラジン骨格のホウ素原子上に置換基を導入するための有機金属試薬を2種以上組み合わせること;上記式(9)の反応においてB−無置換ボラジンとグリニャール試薬との化学量論関係を適宜調整すること;上記式(8)の反応において1段階目の反応で付加させるアルケン化合物と2段階目の反応で付加させるアルケン化合物に異なるアルケン化合物を用いること、等により、窒素原子上の置換基R
1、R
3、及びR
5が相互に異なっている、若しくは、ホウ素原子上の置換基R
2、R
4、及びR
6が相互に異なっている、又はその両方である態様のボラジン化合物を合成することも可能である。
また例えば、置換基が有する官能基を適当な保護基によって保護した状態で合成を進め、全ての置換基を導入した後に脱保護してもよい。これら保護基の導入及び脱保護は公知の手法によって行うことが可能である。また例えば、全ての置換基を導入した後で、置換基が有する官能基を公知の合成手法により他の官能基に誘導してもよい。
【0066】
(含有量)
本発明の潤滑油組成物における上記説明した(B)成分(ボラジン化合物)の含有量は、組成物全量基準で、すなわち潤滑油組成物の全量を100質量%として、通常0.01質量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上であり、特に好ましくは0.1質量%以上である。また通常5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、特に好ましくは1.0質量%以下である。
【0067】
<(C)摩擦調整剤>
本発明の潤滑油組成物は、下記一般式(2)で表される摩擦調整剤を含有する。
【0069】
一般式(2)において、pは0又は1である。なおp=0であるとき、一般式(2)はアミン化合物を表す。
p=1である形態においては、qは0又は1である。なおp=1かつq=0であるとき、一般式(2)はアミド化合物を表す。
p=1かつq=1である形態においては、rは0又は1である。なおp=1、q=1、かつr=0であるとき、一般式(2)はウレア化合物を表す。またp=1、q=1、かつr=1であるとき、一般式(2)はウレイド化合物を表す。
【0070】
一般式(2)において、R
7は炭素数8以上の炭化水素基である。R
7の炭素数は好ましくは10以上であり、より好ましくは12以上である。また好ましくは30以下であり、より好ましくは24以下である。
【0071】
炭素数8以上の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基(シクロアルキル基で置換されていてもよい。)、アルキルシクロアルキル基、アルケニル基(二重結合の位置は任意である)、アリール基、アルキルアリール基、及びアリールアルキル基等を挙げることができる。
【0072】
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5以上7以下のシクロアルキル基を挙げることができる。またシクロアルキル基へのアルキル基の置換位置は任意である。
【0073】
上記アリール基及びアルキルアリール基としては、例えば、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基といったアルキルフェニル基や、置換又は無置換ナフチル基等の炭素数8以上のアリール基及びアルキルアリール基(アルキル基は直鎖であることが好ましい。またアリール基へのアルキル基の置換位置は任意であるが、好ましくはパラ位である。)を挙げることができる。
【0074】
上記アリールアルキル基としては、例えばフェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数8以上のアリールアルキル基(アルキル基は直鎖であることが好ましい。またアルキル基へのアリール基の置換位置は任意であるが、ω位(α位とは反対側の鎖末端)が好ましい。)を挙げることができる。
【0075】
上記R
7の炭化水素基は、アルキル基又はアルケニル基であることが好ましい。なお、R
7がアルケニル基である場合には、二重結合を挟むアルキル基は直鎖であることが好ましい。
【0076】
また、R
7がアルキル基である場合には、R
7は直鎖であることが好ましい。ただし、低温条件下での使用を容易にする観点からは、R
7がα位にメチル基を有する構造のアルキル基であることがより好ましい。R
7をかかる構造のアルキル基とすることにより、R
7が完全に直鎖のアルキル基である場合に比較して凝固点を下げることが可能になる。
【0077】
一般式(2)において、R
8、R
9、及びR
10は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜4の炭化水素基であり、R
9及びR
10のうち少なくとも一方が水素であることが好ましく、R
9及びR
10の両方が水素であることがさらに好ましい。またp=1かつq=1の場合(すなわちR
8が存在する場合)には、R
8が水素であることが好ましく、R
8、R
9、及びR
10が水素であることが特に好ましい。このようにR
7以外の基に水素が占める割合を増やすことにより、摩擦面に対する吸着力が増すので、摩擦低減効果を高めることが容易になる。
【0078】
一般式(2)においてp=0であるとき、一般式(2)はアミン化合物を表す。かかるアミン化合物は、公知の手法によって適宜合成することが可能である。
【0079】
一般式(2)においてp=1かつq=0であるとき、一般式(2)はアミド化合物を表す。かかるアミド化合物は、例えばカルボン酸とアミンとの縮合反応等、公知の手法によって適宜合成することが可能である。
【0080】
一般式(2)においてp=1、q=1、かつr=0であるとき、一般式(2)はウレア化合物を表す。かかるウレア化合物の合成法としては、公知の合成法を特に制限なく採用可能である。例えば、下記式(15)に示すような、イソシアネート化合物とアンモニア又はアミン化合物との縮合反応による合成法を挙げることができる。
【0082】
上記式(15)におけるイソシアネート化合物としては公知のイソシアネート化合物が特に制限なく使用可能である。上記式(15)に表される反応に使用可能なイソシアネート化合物としては、R
7が炭素数8以上の炭化水素基、好ましくはアルキル基又はアルケニル基であるイソシアネート化合物を例示できる。
【0083】
また、上記式(15)に表される反応においては公知の1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアを求核試薬として特に制限なく使用可能である。上記式(15)に表される反応に使用可能な1級若しくは2級アミン化合物としては、例えば、炭素数1以上4以下の炭化水素基を有するアミン化合物を挙げることができる。
【0084】
また一般式(2)においてp=1、q=1、かつr=1であるとき、一般式(2)はウレイド化合物を表す。かかるウレイド化合物の合成法としては、公知の合成法を特に制限なく採用可能である。例えば、下記式(16)に表される、酸塩化物と尿素又はウレア化合物との反応による合成法を挙げることができる。
【0086】
上記式(16)に表される反応における酸塩化物としては、公知の酸塩化物を特に制限なく使用可能である。上記式(16)に表される反応において使用可能な酸塩化物としては、例えば、R
7が炭素数8の炭化水素基、好ましくはアルキル基又はアルケニル基であるカルボン酸塩化物を挙げることができる。
【0087】
上記式(16)に表される反応におけるウレア化合物としては、公知のウレア化合物を特に制限なく使用可能である。上記式(16)に表される反応において使用可能なウレア化合物としては、ウレア、N−メチルウレア、N−エチルウレア、N−tert−ブチルウレア、N,N’−ジメチルウレア等が例示できる。これらのウレア化合物は、例えば、イソシアネートとアンモニア又はアミン化合物との反応等の公知の合成法により得ることができる。
【0088】
本発明の潤滑油組成物における(C)成分としては、境界潤滑条件下での摩擦低減効果により優れる点で、アミド化合物(一般式(2)においてp=1かつq=0)又はウレア化合物(一般式(2)においてp=1、q=1、かつr=0)を特に好ましく用いることができる。
【0089】
なお本発明の潤滑油組成物が境界潤滑条件下において向上した摩擦低減性能を発揮する機構について、本発明者は次のように推測している。すなわち、ボラジン化合物である(B)成分によってホウ素及び窒素を含んでなるh−BNシート類似の膜が摩擦面に形成されること;窒素原子を極性基に有する無灰摩擦調整剤である(C)成分が当該膜のホウ素原子と相互作用することにより当該膜が保護されること;及び、無灰摩擦調整剤((C)成分)自体も摩擦低減に寄与すること、により相乗的に摩擦低減効果を示すものと考えられる。
【0090】
(含有量)
本発明の潤滑油組成物における(C)成分の含有量は、組成物全量基準で、すなわち潤滑油組成物の全量を100質量%として、通常0.01質量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上であり、特に好ましくは0.1質量%以上である。また通常10.0質量%以下であり、より好ましくは5.0質量%以下であり、特に好ましくは3.0質量%以下である。
【0091】
<その他の添加剤>
本発明の潤滑油組成物は、上記説明した(A)潤滑油基油、(B)ボラジン化合物、及び(C)摩擦調整剤のほかに、無灰分散剤、酸化防止剤、上記(B)成分及び(C)成分以外の摩擦調整剤、摩耗防止剤、金属系清浄剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤及び着色剤からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。
【0092】
無灰分散剤としては、公知の無灰分散剤を使用可能である。本発明の潤滑油組成物に無灰分散剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、すなわち潤滑油組成物全量を100質量%として、通常0.01質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上である。また、通常20質量%以下であり、好ましくは10質量%以下である。
【0093】
酸化防止剤としては、公知の酸化防止剤を使用可能である。本発明の潤滑油組成物に酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、また好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。
【0094】
(B)成分及び(C)成分以外の摩擦調整剤としては、公知の摩擦調整剤を使用可能である。例えば、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、脂肪酸エステル等の油性剤系摩擦調整剤、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等の硫黄含有モリブデン錯体、モリブデンアミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体等の硫黄を含有しない有機モリブデン錯体等のモリブデン系摩擦調整剤を挙げることができる。本発明の潤滑油組成物にこれらの摩擦調整剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.1質量%以上5質量%以下である。
【0095】
摩耗防止剤としては、公知の摩耗防止剤を使用可能である。例えば、(モノ、ジ、トリ−チオ)(亜)リン酸トリエステル類や(モノ、ジ−チオ)リン酸亜鉛、リン酸亜鉛等のリン化合物、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、ジチオカーバメート類等の硫黄含有化合物等が挙げられる。本発明の潤滑油組成物にこれらの摩耗防止剤を含有させる場合には、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005質量%以上5質量%以下である。
【0096】
金属系清浄剤としては、公知の金属系清浄剤を使用可能である。例えば、アルカリ金属スルホネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ金属サリシレート、アルカリ土類金属サリシレート、及びこれらの混合物等を挙げることができる。これら金属系清浄剤は過塩基化されていてもよい。本発明の潤滑油組成物に金属系清浄剤を含有させる場合、その含有量は特に制限されない。ただし、内燃機関用の場合、潤滑油組成物全量基準で、金属元素換算量で通常、0.01質量%以上5質量%以下である。
【0097】
粘度指数向上剤としては、公知の粘度指数向上剤を使用できる。例えば、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの重合体又は共重合体及びそれらの水添物等の、いわゆる非分散型粘度指数向上剤、さらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン−ジエン共重合体の水素化物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、並びに、ポリアルキルスチレン等を挙げることができる。粘度指数向上剤の平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、通常、重量平均分子量で5,000以上1,000,000以下である。また例えばポリイソブチレン又はその水素化物を内燃機関用に用いる場合には、数平均分子量で通常800以上5,000以下である。また例えばエチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物を内燃機関用に用いる場合には、数平均分子量で通常800以上500,000以下である。
本発明の潤滑油組成物にこれらの粘度指数向上剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物基準で、通常0.1質量%以上20質量%以下である。
【0098】
流動点降下剤としては、使用する潤滑油基油の性状に応じて、例えばポリメタクリレート系ポリマー等の公知の流動点降下剤を適宜使用可能である。本発明の潤滑油組成物に流動点降下剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.01〜1質量%である。
【0099】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等の公知の腐食防止剤を使用可能である。本発明の潤滑油組成物にこれらの腐食防止剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物基準で、通常0.005質量%以上5質量%以下である。
【0100】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等の公知の防錆剤を使用可能である。本発明の潤滑油組成物にこれらの防錆剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物基準で、通常0.005質量%以上5質量%以下である。
【0101】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等の公知の抗乳化剤を使用可能である。本発明の潤滑油組成物にこれらの抗乳化剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物基準で、通常0.005質量%以上5質量%以下である。
【0102】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、並びにβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等の公知の金属不活性化剤を使用可能である。本発明の潤滑油組成物にこれらの金属不活性化剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物基準で、通常0.005質量%以上1質量%以下である。
【0103】
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコール、及びフルオロアルキルエーテル等の公知の消泡剤を使用可能である。本発明の潤滑油組成物にこれらの消泡剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物基準で、通常0.0005質量%以上1質量%以下である。
【0104】
着色剤としては、例えばアゾ化合物等の公知の着色剤を使用可能である。
【0105】
本発明の潤滑油組成物は、上記(C)成分である油性剤系摩擦調整剤に加えて上記(B)成分としてボラジン化合物を含有することにより、上記(C)成分単独の場合と比べて境界潤滑条件下における摩擦低減性能がさらに向上しているので、各種機械の潤滑に好ましく採用できる。特に、上記(B)成分は硫黄分やリン分を含有しないので、境界潤滑条件下における摩擦低減性能を向上させつつも、潤滑油組成物中の硫黄分やリン分の含有量の増加を抑制することが可能である。したがって、内燃機関、とりわけ排ガス中に移行する硫黄分、リン分等を抑制することが望まれる内燃機関(例えば排ガス処理装置を装備した内燃機関。)の潤滑に特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0107】
<実施例1〜2及び比較例1〜4>
表1に示されるように、本発明の潤滑油組成物(実施例1〜2)、及び比較用の潤滑油組成物(比較例1〜4)をそれぞれ調製した。表1中、成分量の数値の単位は全て質量%(組成物全量基準)である。
【0108】
【表1】
【0109】
(摩擦低減性能の評価)
実施例1〜2及び比較例1〜4の潤滑油組成物のそれぞれについて、ボールオンディスク型の往復動摩擦試験機(Optimol社製SRV摩擦試験機、ボールは直径12.7mm、ディスクは直径24mm厚さ7mm、いずれも材質SUJ―2相当)を用いて耐摩耗性の評価を行った。温度100℃、振動数50Hz、荷重20N、振幅1mmの摩擦条件で30分間の慣らし試験を行った後、温度100℃、振動数10Hz、荷重20N、振幅1mmの摩擦条件で摩擦係数の測定を行った。なお上記荷重20Nという値は境界潤滑条件に相当する。摩擦係数の測定結果を表1中に併せて示している。
【0110】
表1から判るように、実施例1及び2の潤滑油組成物は、(C)成分を含有しない比較例1の潤滑油組成物に対して、摩擦係数を約49%以上低減できた。(B)成分を含有しない比較例2〜3の潤滑油組成物に対しては、摩擦係数を約22%以上低減できた。また、(C)成分に該当しない油性剤系摩擦調整剤であるグリセロールモノオレエートを含んでなる比較例4の潤滑油組成物に対しては、摩擦係数を約35%以上低減できた。
これらの結果から、本発明の潤滑油組成物によれば、境界潤滑条件下における摩擦低減性能を向上させ得ることが示された。