(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973315
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】刺激感が増強された発酵麦芽飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12H 1/00 20060101AFI20160809BHJP
【FI】
C12H1/00
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-231041(P2012-231041)
(22)【出願日】2012年10月18日
(65)【公開番号】特開2014-79220(P2014-79220A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】宮下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】女川 裕司
(72)【発明者】
【氏名】竹田 道代
【審査官】
吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−146804(JP,A)
【文献】
特開平08−310843(JP,A)
【文献】
特開平08−283015(JP,A)
【文献】
特開2008−131945(JP,A)
【文献】
特公昭51−032599(JP,B1)
【文献】
特表2009−519285(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/057406(WO,A1)
【文献】
宮地 秀夫,ビール醸造技術,株式会社食品産業新聞社,1999年,p.359-378
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
C12H
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/FSTA/FROSTI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵麦芽飲料を製造する過程で得られる中間液に対し、ベントナイトを接触させる工程を包含する発酵麦芽飲料の刺激感を増強する方法であって、
ベントナイトを接触させることにより、中間液のホルダチン含有量を接触前の80重量%以下に低減し、中間液のタンパク質含有量を接触前の96.6重量%以下に低減するものであり、
該中間液が熟成工程終了後の液である方法。
【請求項2】
前記接触におけるベントナイトの使用量が、中間液中のベントナイト濃度が0.005〜0.2重量%になる量である、請求項1に記載の発酵麦芽飲料の刺激感を増強する方法。
【請求項3】
ベントナイトを接触させることにより、中間液のタンパク質含有量を接触前の90重量%以下に低減する、請求項1又は2に記載の発酵麦芽飲料の刺激感を増強する方法。
【請求項4】
ベントナイトを接触させた後に得られる吸着処理液のホルダチン含有量が6ppm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料の刺激感を増強する方法。
【請求項5】
ベントナイトを接触させた後に得られる吸着処理液のタンパク質含有量が100ppm以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料の刺激感を増強する方法。
【請求項6】
分子量30〜50kDaのタンパク質が選択的に除去される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料の刺激感を増強する方法。
【請求項7】
前記分子量30〜50kDaのタンパク質が大麦由来タンパク質Serpin−Z4を含む、請求項6に記載の発酵麦芽飲料の刺激感を増強する方法。
【請求項8】
前記中間液が貯酒工程中に得られる液である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料の刺激感を増強する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発酵麦芽飲料の製造方法に関し、特に、刺激感が増強された発酵麦芽飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵麦芽飲料は、一般に、酵母を用いて麦汁等の原料を発酵させることにより製造される。麦汁は、麦芽を含む穀類を粉砕し、副原料及び水と混合して加熱することによりデンプンを糖化し、得られる糖液にホップを加えて更に煮沸して製造される。消費者は発酵麦芽飲料に苦味、コク感、刺激感を期待し、その期待が満足されたときに、当該発酵麦芽飲料に対する消費者の嗜好性が形成される。
【0003】
消費者の嗜好性には季節及び用途等の外部環境又は流行等の時代背景に依存して一定の幅があり、コク感が要求される場合があれば、刺激感が要求される場合もある。商品開発の際には、消費者の嗜好性を損なわない範囲で発酵麦芽飲料の香味を調節する技術が必要である。
【0004】
発酵麦芽飲料中の刺激感を増強させるための簡単な方法として、炭酸ガス圧を高めることが従来から知られている。
【0005】
しかしながら、炭酸ガス圧を高めた製品の製造には、耐圧を高めたタンク、缶又は瓶の使用に加え、充填設備を通常設備から変更する必要があるなど、大幅なコスト増に伴う経済的損失が大きくなる問題がある。
【0006】
また、特許文献1には、ビール等の発酵飲料においては、アルコール度を高めると、飲み応えとしての喉越しの刺激感が増強されることが記載されている。
【0007】
しかしながら、発酵麦芽飲料のアルコール度を高めると香味バランスの維持が困難になり、飲み易さが損なわれ、製品に対する消費者の嗜好性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−36129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、容器又は設備の仕様を変更する必要が無く、香味品質を確保しながら、発酵麦芽飲料の刺激感を増強する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、発酵麦芽飲料を製造する過程で得られる中間液に対し、モンモリロナイトを主成分とし、かつ、膨潤力が6〜18ml/2gである吸着剤を接触させる工程を包含する発酵麦芽飲料の製造方法を提供する。
【0011】
好ましい一形態においては、前記接触における吸着剤の使用量が、中間液中の吸着剤濃度が0.005〜0.2重量%になる量である。
【0012】
好ましい一形態においては、前記発酵麦芽飲料の製造方法は、吸着剤を接触させることにより、中間液のホルダチン含有量を接触前の80重量%以下に低減する。
【0013】
好ましい一形態においては、前記発酵麦芽飲料の製造方法は、吸着剤を接触させることにより、中間液のタンパク質含有量を接触前の90重量%以下に低減する。
【0014】
好ましい一形態においては、吸着剤を接触させた後に得られる吸着処理液のホルダチン含有量が6ppm以下である。
【0015】
好ましい一形態においては、吸着剤を接触させた後に得られる吸着処理液のタンパク質含有量が100ppm以下である。
【0016】
好ましい一形態においては、分子量30〜50kDaのタンパク質が選択的に除去される。
【0017】
好ましい一形態においては、前記分子量30〜50kDaのタンパク質が大麦由来タンパク質Serpin−Z4を含む。
【0018】
好ましい一形態においては、前記吸着剤がベントナイトである。
【0019】
好ましい一形態においては、前記中間液が貯酒工程中に得られる液である。
【0020】
また、本発明は、発酵麦芽飲料を製造する過程で得られる中間液に対し、モンモリロナイトを主成分とし、かつ、膨潤力が6〜18ml/2gである吸着剤を接触させる工程を包含する発酵麦芽飲料の刺激感を増強する方法を提供する。
【0021】
また、本発明は、ホルダチン含有量が6ppm以下であり、タンパク質含有量が100ppm以下であり、かつ、大麦由来タンパク質であるSerpin−Z4を含まない、発酵麦芽飲料を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法によれば、容器又は設備の仕様を変更する必要が無く、香味品質を確保しながら、発酵麦芽飲料の刺激感を増強する方法が提供される。その結果、低コストで、かつ消費者の嗜好性を損なうことなく、発酵麦芽飲料の刺激感を増大させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】ビールの製造に使用するベントナイトの量とビール中のタンパク質濃度及び渋味物質濃度との関係を示すグラフである。
【
図2】ビールの製造に使用するベントナイトの量とビールの刺激強度及び嗜好性との関係を示すグラフである。
【
図3】ビールの製造に使用する活性白土の量とビールの刺激強度及び嗜好性との関係を示すグラフである。
【
図4】ビールの製造に使用する酸性白土の量とビールの刺激強度及び嗜好性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の方法では、発酵麦芽飲料を製造する過程で得られる中間液に対し、特定の吸着剤を接触させる。吸着剤は、モンモリロナイトを主成分とし、かつ、膨潤力が高い粘土鉱物を用いる。この粘土鉱物は、膨潤力が6〜18ml/2gである。膨潤力の測定方法は日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS−104−77に記載されている。また、この粘土鉱物を水中に均一に分散させた液は中性からアルカリ性を示す。吸着剤として、具体的には、ベントナイトを使用することが好ましい。
【0025】
ベントナイトは市販されているものを使用すればよい。市販されているベントナイトのうち、好ましいものには、関東ベントナイト鉱業社製の「早蕨」(商品名)、WYO−BEN社製の「ベンゲル」(商品名)、ホージュン社製の「BigHorn」(商品名)等が挙げられる。
【0026】
後に詳述するように、発酵麦芽飲料を製造する過程には、例えば、製麦、仕込、発酵、熟成、濾過等の工程が包含される。中間液とは、これらのいずれかの工程の最中又は終了後に得られる液をいう。中間液の概念には、例えば、麦汁、発酵液、熟成(貯酒)液などが含まれる。
【0027】
上記吸着剤は、発酵麦芽飲料に含まれるタンパク質、特に、分子量が30〜50kDaのタンパク質を特異的に吸着する。上記吸着剤に吸着されるタンパク質には、例えば、大麦由来タンパク質であるSerpin−Z4が含まれる。また、上記吸着剤は、発酵麦芽飲料に含まれる渋味成分を吸着する。上記吸着剤に吸着される渋味成分としては、例えば、ホルダチンが含まれる。
【0028】
他方、上記吸着剤は、タンパク質又は渋味成分以外の香味成分に対する吸着性が低く、過剰に使用しない限りはビール本来の風味に貢献する香味成分まで吸着することはない。特に、使用する吸着剤の量を特定範囲に調節することにより、発酵麦芽飲料の本来の風味が維持される。
【0029】
発酵麦芽飲料とは、上述のとおり、酵母を用いて麦汁等の原料を発酵させることにより製造される飲料を指していう。発酵麦芽飲料の具体例には、ビール、発泡酒、雑酒、リキュール類、スピリッツ類、低アルコール発酵飲料などが含まれる。
【0030】
発酵麦芽飲料を製造する過程は、通常、製麦、仕込、発酵、熟成、濾過等の工程を包含する。まず、製麦工程として、収穫された麦を、水に浸けて適度に発芽させた後、熱風により焙燥して、麦芽を製造する。該麦芽は常法により破砕してもよい。尚、ここで言う麦には大麦及び小麦などが含まれる。
【0031】
次に、糖化工程として、主原料である麦芽と、副原料である麦芽以外の澱粉質から麦汁を調製する。まず、麦芽の破砕物、大麦等の副原料、及び温水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。マイシェの調製は、常法により行うことができ、例えば、35〜50℃で20〜90分間保持することにより行うことができる。また、必要に応じて、主原料と副原料以外にも、後述する糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤や、スパイスやハーブ類等の香味成分等を添加してもよい。
【0032】
その後、該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる。糖化処理時の温度や時間は、用いる酵素の種類やマイシェの量、目的とする麦芽アルコール飲料の品質等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、60〜72℃にて30〜90分間保持することにより行うことができる。糖化処理後、76〜78℃で10分間程度保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な麦汁を得る。
【0033】
その他、麦芽の一部、大麦の一部又は全部、及び温水を仕込釜に加えて混合して調製したマイシェを、糖化処理した後、前述の仕込槽で糖化させたマイシェと混合したものを、麦汁濾過槽にて濾過することにより麦汁を得てもよい。
【0034】
得られた麦汁を煮沸釜に移し、ホップを加えて煮沸する。ホップは、煮沸開始から煮沸終了前であればどの段階で混合してもよい。煮沸した麦汁を、ワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固したタンパク質等を除去した後、プレートクーラーにより適切な発酵温度まで冷却する。該発酵温度は、通常8〜15℃である。
【0035】
次いで発酵工程として、冷却した麦汁に酵母を接種して、発酵タンクに移し、発酵を行う。さらに、熟成工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させる。
【0036】
次いで濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより酵母及びタンパク質等を除去して、目的の発酵麦芽飲料を得ることができる。また、酵母による発酵工程以降の工程において、例えばスピリッツと混和することにより、酒税法におけるリキュール類を製造することができる。
【0037】
上記副原料とは、麦芽とホップ以外の原料を意味する。該副原料として、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等の澱粉原料や、液糖や砂糖等の糖質原料がある。ここで、液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれている。その他、香味を付与又は改善することを目的として用いられるスパイス類、ハーブ類、及び果物等も、副原料に含まれる。
【0038】
上記糖化酵素とは、澱粉質を分解して糖を生成する酵素を意味する。該糖化酵素として、例えば、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ等がある。
【0039】
上記大麦とは、未発芽の大麦を意味する。大麦は、未発芽のものであれば、特に限定されるものではなく、可食性の任意の品種の大麦を用いることができるが、麦芽の製造に用いられている品種の大麦であることが好ましい。大麦には、澱粉の他に窒素源や有機酸、ビタミンやミネラルが豊富に含まれており、大麦が有する麦芽アルコール飲料に対する麦芽感の増強効果は、これらの成分によるものと考えられている。
【0040】
大麦は、未精白のものであってもよく、精白されたものであってもよい。ポリフェノール等の渋味成分や雑味成分は、大麦穀皮等に多く含まれているため、大麦穀皮が除去されている精白された大麦であることがより好ましい。また、糖化酵素による糖化がなされ易いため、粉砕大麦や大麦押麦であることが好ましく、大麦押麦をさらに粉砕したものであることも好ましい。ここで、粉砕大麦は、未精白又は精白された大麦を粉砕したものであり、大麦押麦は、未精白又は精白された大麦を、蒸気で加熱した後に圧扁したものである。
【0041】
本発明の方法において、吸着剤と接触させる中間液は、酵母を使用して麦汁を発酵させた後に得られるものが望ましい。好ましくは、当該中間液は、ビール様飲料を製造する過程の最終段階で得られるもの、例えば、麦汁を熟成させる工程の後、又は貯酒工程中に得られる液である熟成液又は貯酒液が挙げられる。ここでいう最終段階とは、ビール様飲料の香味が自発的に変化する工程が終了した段階を意味する。例えば、中間液に含まれる成分の反応が進行している間は、ビールの香味は自発的に変化する。他方、中間液に含まれる成分の反応が実質的に終了した後は、ビールの香味は自発的に変化しない。
【0042】
上記中間液と吸着剤との接触は、例えば、吸着剤に水を加えて均一な分散液を製造し、得られた分散液を中間液中に添加し、要すれば撹拌することにより行う。
【0043】
吸着剤の使用量は、中間液中の吸着剤濃度が0.005〜0.2重量%になる量である。吸着剤の使用量が0.005重量%未満であると発酵麦芽飲料の刺激感が十分に増強されず、0.2重量%を超えると嗜好性が低下する。好ましくは、吸着剤の使用量は、中間液中の吸着剤濃度が0.01〜0.1重量%になる量であり、より好ましくは0.025〜0.1重量%になる量である。
【0044】
中間液に対して吸着剤を接触させる時間は特に限定はないが、2分以上が好ましい。この接触時間が2分未満であると刺激感の増強が不十分になる。なお、接触時間を延長しても刺激感の増強に有意な変化は無い。例えば、製造工程上、吸着剤を短時間で除去することは困難であり、吸着剤の接触時間が20日以上となることもあり得るが、刺激感に影響はない。
【0045】
その後、吸着剤が添加された中間液から吸着剤を除去する。吸着剤の除去はろ過、遠心分離等の操作により行えばよい。吸着剤を除去して得られた吸着処理液は、タンパク質の含有量及び渋味物質の含有量が減少している。
【0046】
吸着処理液のタンパク質含有量は、吸着剤に接触させる前の中間液に存在していた量の90重量%以下、好ましくは70重量%以下、より好ましく60重量%以下である。また、吸着処理液のホルダチン含有量は、吸着剤に接触させる前の中間液に存在していた量の80重量%以下、好ましくは75重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。
【0047】
より具体的には、吸着処理液のタンパク質含有量は、100ppm以下、好ましくは90ppm以下、より好ましくは70ppm以下である。吸着処理液のタンパク質含有量が100ppmを超えると発酵麦芽飲料の刺激感が十分に増強されず、5ppm未満であると嗜好性が低下する。
【0048】
また、吸着処理液のホルダチン含有量は、6ppm以下、好ましくは5ppm以下、より好ましくは3ppm以下である。吸着処理液のホルダチン含有量が8ppmを超えると発酵麦芽飲料の刺激感が十分に増強されない。
【0049】
吸着処理液はそのまま発酵麦芽飲料として使用することができる。また、要すれば、香料等の副原料が添加されて香味品質の調製を行った後に、発酵麦芽飲料として使用することができる。
【実施例】
【0050】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0051】
実施例1
熟成工程終了後のビール中間液を準備した。室温の環境下で、このビール中間液1リットルに対して、ベントナイト(関東ベントナイト鉱業社製「早蕨」(商品名))を添加した。ベントナイトの添加量は、中間液に対する固形分濃度として、0.0001〜4重量%の範囲内で変化させた。混合液を30分間攪拌することにより、ビール中間液に対してベントナイトを十分に接触させた。その後、遠心分離(7000rpm×15分)を行うことによって混合液からベントナイトを除去した。
【0052】
ベントナイトを除去して得られた吸着処理液について、タンパク質含有量及びホルダチン含有量を測定した。測定結果を表1及び
図1に示す。ベントナイトによって中間液から低減乃至除去されたタンパク質には、次のものが含まれていた。
[表1]
【0053】
ベントナイトを除去して得られた液をビールとして調製した。そして、専門評価者によって、調製したビールの刺激強度、及びビールとしての嗜好性の官能評価を行った。その際、ベントナイトと接触させないビール中間液から調製したビールを対照として使用し、評価値は、3名の専門評価者の平均値を採用した。刺激強度の評価基準は、対照品(ベントナイト0ppm添加)の刺激強度を3とし、試験品の刺激強度を1(著しく弱い)〜5(著しく強い)の5段階評価とした。また、嗜好性の評価基準は、1(著しく欠く)〜4(全く問題ない)の4段階評価とした。評価結果を表2及び
図2に示す。
【0054】
[表2]
測定結果及び評価結果
【0055】
評価結果に示されるように、ビールの刺激強度はベントナイトの添加量が増えるに従い増強された。しかし、0.3重量%添加区では嗜好性が大きく低下した。つまり、ベントナイトの添加量が過剰になると香味成分が幅広く吸着・除去されてしまい、ビールらしさ、おいしさを損なうと考えられる。
【0056】
従って、ビール中間液に対するベントナイトの添加量は0.005〜0.2%の範囲が適当である。
【0057】
実施例2
関東ベントナイト工業社製「早蕨」(商品名)の代わりにWYO−BEN社製のベントナイト「ベンゲル」(商品名)をビール中間液に対して0.1重量%の量で使用すること以外は実施例1と同様にしてビールを製造し、分析及び評価した。
分析結果として、総蛋白量は25ppm及びホルダチン量は0ppmであった。また、評価結果として、刺激強度は5及び嗜好性は4であった。
【0058】
実施例3
関東ベントナイト鉱業社製「早蕨」(商品名)の代わりにホージュン社製のベントナイト「BigHorn」(商品名)をビール中間液に対して0.1重量%の量で使用すること以外は実施例1と同様にしてビールを製造し、分析及び評価した。
分析結果として、総蛋白量は10.3ppm及びホルダチン量は0ppmであった。また、評価結果として、刺激強度は4.7及び嗜好性は4であった。
【0059】
実施例1〜3では製造元が相違するベントナイトを使用したが、いずれの場合も同様に、ビールの嗜好性を維持しながら刺激強度を増強する効果が示された。
【0060】
比較例1
本願発明で吸着剤として使用したベントナイトと同様に、モンモリロナイトを主成分とする吸着剤には酸性白土及び酸性白土がある。しかし、ベントナイトは、酸性白土及び酸性白土と対比すると、次の通り、性状が相違する。
【0061】
[表3]
※関東ベントナイト鉱業社製「早蕨」(商品名)
【0062】
本比較例では、関東ベントナイト鉱業社製「早蕨」(商品名)の代わりに関東ベントナイト鉱業社製の活性白土「SA1」(商品名)を使用すること以外は実施例1と同様にしてビールを製造し、官能評価した。評価結果を表4及び
図3に示す。
【0063】
[表4]
官能評価結果
【0064】
比較例2
本比較例では、関東ベントナイト鉱業社製「早蕨」(商品名)の代わりに関東ベントナイト鉱業社製の酸性白土「ニッカナイトS−200」(商品名)を使用すること以外は実施例1と同様にしてビールを製造し、官能評価した。評価結果を表5及び
図4に示す。
【0065】
[表5]
官能評価結果
【0066】
比較例1及び2の評価結果に示されるように、吸着剤として活性白土又は酸性白土を使用した場合には、嗜好性を維持しながら刺激強度を増強する効果は得られない。