(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、温度変化等の環境変化が製品の樹脂と金属の接合部に負荷された場合に、それらの金属材料及び樹脂材料の膨張係数の差によりそこに生じる力を緩和できるように構成した、耐久性に優れた樹脂材料と金属材料とからなるインサートモールドの接合継ぎ手構造を提供することを解決の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1は、樹脂との結合性を向上させる表面処理を施した金属部品を樹脂成型品の表面または内部に接合又は内装成型するインサートモールド接合
継ぎ手構造において、前記樹脂成形品に接合又は内装するインサートモールド部分の金属部品に、その接合部又は内装部の内端から外端までの間に、該内端から外端に向かう方向に直交する向きの断面による、
内端より厚さを膨らませた第一の断面積が異なる部分、最も厚さが小さい第二の断面積が異なる部分、外端に前記第二の断面積が異なる部分の厚さを超える第三の断面積が異なる部分、を形成したインサートモールドの接合継ぎ手構造である。
【0008】
本発明の2は、本発明の1のインサートモールドの接合継ぎ手構造において、前記金属部品の
第一の断面積が異なる部分、第二の断面積が異なる部分、及び第三の断面積が異なる部分を該金属部品の前記樹脂成形品への接合部又は内装部の全周に渡って連続して形成してあるものである。
【0009】
本発明の3は、本発明の1又は2のインサートモールドの接合継ぎ手構造において、
前記金属部品の
第一の断面積が異なる部分、第二の断面積が異なる部分、及び第三の断面積が異なる部分の各断面形状を該金属部品の両面を構成する略平行面部又は円形曲面状部の組合せで構成したものである。
【0010】
本発明の4は、本発明の3のインサートモールドの接合継ぎ手構造において、前記金属部品の
第一の断面積が異なる部分、第二の断面積が異なる部分、及び第三の断面積が異なる部分の各隣接する部位間の形状移行部の形状を円弧曲面状としたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の1のインサートモールドの接合継ぎ手構造によれば、温度変化等の環境変化がこれに負荷された場合には、金属材料と樹脂材料との膨張係数の差によって発生する力を緩和することが可能であり、これによって耐久性に優れた結果を得ることができる。
【0012】
インサートモールドの金属部品の樹脂部に接合又は内装された接合部又は内装部の内端(樹脂部の内外の境界)から外端(樹脂部の最も奥の部位)までの間に、該内端から外端に向かう方向に直交する向きの断面による断面積の異なる部位を三箇所以上形成してあるため、その断面積の異なる部位のうち、最も断面積の大きい部位は、該内端から該外端に向かう方向の力を受けた場合に樹脂部との間でアンカー効果を発揮し、該樹脂部と金属部品とのマクロ的なずれを防止することができる。なお、以上のように、この作用はマクロ的なものであるから、該部位における作用によって該樹脂部と金属部品との間の分子的な結合による気密性の保持を期待することができるものではない。
【0013】
前記金属部品の断面積のうち、最も小さい面積の部位は、言うまでも無く、最大の断面積の部位より小さく構成することにより、温度変化等に起因して継手部の外端部(先端部)に発生する力を抑制し、例えば、中間の断面積の部位を外端側に配した場合は、その中間の断面積の部位の外端(先端部)に対して、前記温度変化により発生する力の緩衝作用を発揮することになる。
【0014】
前記金属部品の断面積のうち、中間の面積の部位は、特にこれを外端に位置させると、前記最小面積の部位の効果を受けて、その外端部分とこれを外装する樹脂部品との間の分子的結合を保持し、高い気密性を維持することができるようになる。
【0015】
本発明の2のインサートモールドの接合継ぎ手構造によれば、前記金属部品の三箇所以上の断面積の異なる部位を前記金属部品の前記樹脂成形品への接合部又は内装部の全周に渡って連続して形成してあるため、温度変化等の環境変化がこれに負荷されても、該金属部品とその周囲の樹脂材との膨張係数の差によって生じる力を、全周のいずれの外端の部位(先端部)でも適切に緩和し得、全周のいずれの外端の部位(先端部)でも常に確実な気密性を確保できる。
【0016】
本発明の3のインサートモールドの接合継ぎ手構造によれば、前記金属部品の三箇所以上の断面積の異なる部位の各断面形状を、該金属部品の両面を構成する略平行面部又は円形曲面状部の組合せで構成したため、適切な形状及び適切な面積の断面形状を構成し得、これによって温度変化等の環境変化が負荷されても、金属部品とその周囲の樹脂材との膨張係数の差によって生じる力を適切に緩和し得、特に継手部の外端部において確実な気密性を確保できる。
【0017】
本発明の4のインサートモールドの接合継ぎ手構造によれば、前記金属部品の三箇所以上の断面積の異なる部位における隣接する部位間の形状移行部に応力集中が生じるのを回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明を実施するための形態を、図面を参照しながら、実施の形態による樹脂材料と金属材料のインサートモールドの構成及び各部分の作用の説明を通じて詳述する。
【0020】
図1は非常に簡素なインサートモールド部品の一例の外観を示す概略斜視図であり、
図2は
図1のA−A線断面を示す拡大図である。このインサートモールド部品は、
図1及び
図2に示すように、四辺形枠状の樹脂部1と四辺の継手部2aを該樹脂部1に埋め込んだ四辺形板状のインサート金属部品2とからなる。金属部品を樹脂部材にインサートして接続するインサートモールド部品は、以上のように、一般的に、樹脂部1の内部にインサート金属部品2の継手部2aが埋め込み状態となり、同図に示すように、該継手部2aが該樹脂部1の内部に固定される構成となっている。または樹脂部1の表面にインサート金属部品の継手部が接合状態となり、該継手部が該樹脂部の表面に固定される構成となっている。ここでは、以下に前者の例を利用して説明する。
【0021】
このような構成の場合に、相互に平行な両側の継手部2aの先端部2b間の距離をL、樹脂部1の樹脂材及びインサート金属部品2の金属材の線膨張係数をそれぞれα1、α2とし、インサートモールド部品全体の温度変化をΔtとした場合、前記距離L間に発生する線膨張差は、線膨張差=L×Δt×(α1-α2)となる。
【0022】
ここに発生する力は、前記樹脂部1の樹脂材の物性と前記金属部品2の金属材の物性とを合成してなる剛性値を線膨張差に乗じたものとなり、前記先端部(外端部)2bで最大となる。このようにして発生する力は、例えば、岩の割れ目に水が浸入しその水が凍結膨張して岩を割るような現象の例を想像すれば非常に大きなものとなることが容易に想像できる。
【0023】
次に、前記継手部2aに発生する力の関係等を解析し、前記先端部2bで発生する力が前記金属部品2の金属材の分子と前記樹脂部1の樹脂材の分子との結合による結合力よりも小さくなるように抑制する構造を検討してゆく。
【0024】
図3は継手部1の構成を解析するため、金属部品2の平行な二辺のうちの一方の辺におけるそれをモデル化した説明図である。このモデルでは、加えた力とその反力の関係が前記金属部品2の平行な両側の継手部2a、2aの先端部2b、2bで同一となるため、以上のように、前記片側の継手部2aのみを示しており、この
図3では、前記樹脂部1と前記インサート金属部品2は共通の壁3に固定されているものとして描いてある。さらに、線膨張差が最大となる前記先端部2bで最大の力が発生することになるので、樹脂部1とインサート金属部品2とが先端部2bのみで接合するものとし、該部分に作用する力を解析するモデルとしている。なお、同図中の符号及び記号で、
図1及び
図2のそれと同一のそれは、
図1及び
図2と同一の部品又は部位を示している。
【0025】
また
図4は
図3のB−B線断面を示しており、
図3と同様に図中の符号及び記号で、
図1及び
図2と同一のものは、
図1及び
図2と同一の部品又は部位を示している。
【0026】
前記樹脂部1は奥行きDで厚さt1、前記インサート金属部品2は奥行きDで厚さt2となっており、各々の断面積はそれぞれD×t1、D×t2で与えられる。
【0027】
計算にあたり各諸元とその記号を定義する。
計算諸元
温度変化:Δt
ヤング率
金属部材:Ea、樹脂部材:Ep
線膨張率
金属部材:αa、樹脂部材:αp
長さ要素
計算距離: L
材料の奥行き:D
金属部材厚さ:t2
樹脂部材厚さ:t1
断面積(金属部材:Sa、樹脂部材:Sp)
t1・D:Sp
t2・D:Sa
【0028】
諸元を基に線膨張差により発生する各材料の応力等の関係計算を以下に行う。
金属部材の伸び(変形量)λa
【0030】
ここで数1の右辺第1項は温度変化Δtによる金属部材自体の伸びを表し、第2項は相手側樹脂部材が発生する荷重による金属部材の変形を表している。
【0031】
ひずみεと変形量λとは次の式、ε=λ/Lの関係であり、この式よりλ=Lεを得、数1を整理すると、金属部材のひずみεaは、以下の数2で表せる。
【0033】
樹脂部材の伸び(変形量)λpも金属部材の伸び(変形量)λaを表す数1と同様に以下の数3で表せる。
【0035】
樹脂部材のひずみεpは以下の数4で表せる。
【0037】
ここでλa=λpなので、数1及び数3より、
αa・Δt・L+(σa・L)/Ea=αp・Δt・L-(σp・L)/Ep
であり、この式の両辺をLで除して整理すると、
αa・Δt+σa/Ea=αp・Δt-σp/Ep
となり、次の数5が得られる。
【0039】
力のつり合いからW1=W2であり、力は応力と断面積の積の関係、すなわち、W=σSであるから、σa・Sa=σp・Spであると云うことになり、次の数6が成立する。
【0041】
そこで、前記数5に数6を代入すると、
Δt(αa-αp)+σa/Ea+(σa・Sa/Sp)/Ep=0
これは、
Δt(αa-αp)+σa/Ea+(σa・Sa)/(Sp・Ep)=0
Δt(αa-αp)+σa(1/Ea+Sa/(Sp・Ep))=0
σa((Sp・Ep+Ea・Sa)/(Sp・Ea・Ep))=-Δt(αa-αp)
と順次書き換えられ、更に次の数7に書き換えることができる。
【0043】
以上の数7で金属部品2に作用する応力σaが分かった。次に求められた応力σaから金属部品2に発生する力Waを求める。前記のようにW=σSの関係があるので、数7のσaに断面積Sを乗じたものが発生する力Waであるということになる。
すなわち、
Wa=Sa(-Δt(αa-αp)((Sp・Ea・Ep)/(Sp・Ep+Ea・Sa)))
=(-Δt(αa-αp)(Sp・Ea・Ep))/((Sp・Ep+Ea・Sa)/Sa)
であり、更に書き換えると、以下の数8が得られる。
【0045】
数8の示す意味を説明する。
金属部材及び樹脂部材のそれぞれのヤング率であるEa及びEpはそれぞれその材質により決まる値であり、それぞれの線膨張率であるαa及びαpについても同様にその材質によって決まる値である。樹脂部1の断面積Spを一定の値とし、金属部品2の断面積Saを変数と見た場合は、その断面積Saが小さくなると数8の分母が大きくなるので、金属部品2に発生する力Waの値が小さくなる関係にあることが分かる。
【0046】
また、前記奥行きDの値を一定値とすると断面積Saの値を小さくするためには金属部材の厚さt2を小さくすれば良い。つまり前記インサート金属部品2の厚さを薄くすることにより、温度変化により該樹脂部1と該インサート金属部品2との間に線膨張差が発生した場合に、前記先端部2bに発生する力Wを小さくすることができることが分かる。
【0047】
図5は、前記樹脂部1と前記インサート金属部品2とからなるインサート部品に温度変化を与えた場合にインサート金属部品2に発生する力Wを前記金属部品2の厚さt2を変化させて前記数8を用いて計算した結果を示すグラフである。グラフの横軸にインサート金属部品2の厚さt2をとり、縦軸に発生する力Wをとったものである。インサート金属部品2の厚さt2が0に近づくに従い発生する力Wが急速に低下しているのが分かる。
【0048】
以上の計算によって分かる作用は身の回りにおいても、例えば、同種の接着剤を用いて樹脂材にある程度の厚み(10mm程度)を有するアルミニウム板を接着固定した場合と、同様の樹脂に非常に薄いアルミニウムの箔を接着固定し、これらに同様の温度変化を与えた場合に、明らかにアルミニウムの箔の方が剥離しにくいことが経験的にも分かる。これは、前記計算により解析された現象によるところであると考える。
【0049】
<実施の形態1>
続いて
図6を用いて今回の解析により得られた結果から導かれる前記インサートモールドの接合継ぎ手構造の最良の実施の形態である実施の形態1を説明する。なお、図中の符号又は記号で、
図1及び
図2のそれと同一のものは、
図1及び
図2のそれと同一の部品又は部位を示している。
【0050】
前記樹脂部1の内部にインサート金属部品2の継手部2aが埋め込み状態に構成されている。該樹脂部1は四辺形枠状の部材で、該金属部品2は該樹脂部1の枠内に位置する板状部とその四辺の継手部2a、2a…とからなり、四辺の該継手部2a、2a…が、以上のように、該樹脂部1に内側から外方に向かって装入され、埋め込まれた状態になっている。
【0051】
以上の継手部2aは、その外端の第三の断面積が異なる部分6に向かって連続する第一の断面積が異なる部分4と第二の断面積が異なる部分5と該第三の断面積が異なる部分6とで構成されている。なお、ここで云う断面積は、内部の樹脂部1に覆われていない部分から外端の第三の断面積が異なる部分6に向かう方向に直交する方向に断面した場合の断面積を云う。
【0052】
継手部2aについて、順次、その内側の部分から外側の部分の順序で、各部の構成及び作用を説明する。
【0053】
前記第一の断面積が異なる部分4は前記樹脂部1の内部で該樹脂部1に覆われていない部分に対して断面積が大きくなっている。すなわち、該第一の断面積が異なる部分4は、
図6に示すように、内側の樹脂部1に覆われていない部分から外端の第三の断面積が異なる部分6に向かう方向に沿って上下両面を円形曲面状に構成したものである。より具体的には、上面側を上方に膨らむ部分円形曲面状に、下面側を下方に膨らむ部分円形曲面状に、それぞれ構成し、内側の樹脂部1に覆われていない部分から外端の第三の断面積が異なる部分6に向かう方向に沿って断面した場合に、同図に示すように、部分円形状断面が表れるように構成したものである。
【0054】
こうして、前記したように、第一の断面積が異なる部分4は、内側の樹脂部1に覆われていない部分から外端の第三の断面積が異なる部分6に向かう方向に直交する向きの断面を問題とするものであるが、この断面の面積は、前記樹脂部1の内方で該樹脂部1に覆われていない部分の断面の面積に対して大きく構成してある。このことにより前記樹脂部1に対して、前記インサート金属部品2が、
図6に記載されている+X方向又は−X方向の力を受けた場合に、該部分(断面積の大きい第一の断面積が異なる部分4)のアンカー効果により該樹脂部1と該インサート金属部品2との該方向のマクロ的なずれを防止している。なお、ここでいうマクロ的とは、およその数値で10μmから数100μm以上のレンジを指している。また、この実施の形態1では、前記マクロ的なずれを想定しているので、該部分の前記樹脂部1と前記インサート金属部品2との間の分子的な結合による気密性を保持することを期待するものではない。
【0055】
次に第二の断面積が異なる部分5の構成及び作用について説明する。
該部分は、継手部2aの中で最も断面積の小さな部位であり、
図6に示すように、内側の樹脂部1に覆われていない部分から外端の第三の断面積が異なる部分6に向かう方向に沿って延びる上下両面を相互に平行な平行面に構成した板状部分である。上下両面間の寸法、すなわち、厚さが継手部2aの中で最も小さな部位である。
図6には、当然、最も薄い板状断面が表れている。
【0056】
該部位の作用は、従って、前記
図3及び
図4を用いて力の関係を解析して得られた前記断面積Saの最も小さな部分に相当し、前記インサート金属部品2の厚さt2を小さく設定することで、その断面積Saを小さくすることにより、先端部2bに発生する力Wを小さくするというものである。このような第二の断面積が異なる部分5の部位を、前記のように、継手部2a中に構成したため、以上のように、前記温度変化により先端部2bに発生する力の緩衝作用を発揮する。
【0057】
最後に第三の断面積が異なる部分6について説明する。
該部分は、上下両面を円形曲面状に構成し、外端側で該上下両面を接続した構成としたものである。結果として、該部分は、
図6に示すように、内側の樹脂部1に覆われていない部分から外端の第三の断面積が異なる部分6に向かう方向に沿って断面した場合に、前記第二の断面積が異なる部分5の外端(先端)にその厚さを越える直径の円形断面を付加した態様に表れる構成となっている。
【0058】
該第三の断面積が異なる部分6の作用は、前記第二の断面積が異なる部分5の前記作用を受けて、特にその外端部分、すなわち、先端部2bに発生する力Wが小さくなり、該部位に外装状態となっている樹脂部1との間の分子的な結合を確実に保持し、これによって高い気密性を維持することである。
【0059】
図7に、
図6に示した実施の形態1のインサートモールドの接合継ぎ手構造について、強度解析ソフトウェアを用いてシミュレーションにより計算された応力分布結果の例を示す。
これによると、前記第二の断面積が異なる部分5に大きな応力が発生していて、前記第三の断面積が異なる部分6の先端部2bは前記第二の断面積が異なる部分5に比べて応力の発生が小さいことがわかる。
一般に単位断面積を考えた場合に、応力値を力Wと見ることができるので、この
図7から、前記第二の断面積が異なる部分5で力Wが緩和されており、その結果、前記先端部2bに発生する力が小さくなっていることがわかる。
【0060】
もっとも、実際の製品設計においては、単純に前記断面積Saをより小さくするというような設定をすることはできない。その理由を以下に述べる。
【0061】
図8は、インサートモールド品に温度変化を与えた場合に前記インサート金属部品2の厚さt2に対する該インサート金属部品2に発生する応力を数7を用いて計算した結果を示すグラフであり、前記
図5で示した前記金属部品2に発生する力の計算結果と同一諸元を基に計算した結果である。
【0062】
図8のグラフから分かるとおり、インサート金属部品2の厚さt2が薄くなると発生する応力が増大してゆく。そしてインサート金属部品2がある厚さ、すなわち、許容ラインLr以下になると該応力がインサート金属部品2の材料固有の許容値を越えることが分かる。該許容ラインLrで示された許容値を越えると材料の破壊につながるので、実際にはインサート金属部品2の厚さt2を最小肉厚とする場合は該許容ラインLrの肉厚に設定しなければならない。従って発生応力の許容ラインLf は金属部品2の最少肉厚時のそれに対応するものとなり、発生応力は、それ以下が許容されることになる。
【0063】
更に、第三の断面積が異なる部分6の作用は、前記樹脂部1と前記インサート金属部品2との分子的な結合による気密性を保持する点にある。
前記第二の断面積が異なる部分5に比して、前記のように、第三の断面積が異なる部分6の断面積が大きくなっているのは、前記の分子的な結合を発揮させる観点から、
図6のX軸方向から見た前記先端部2bの投影面積を増大させるためである。
【0064】
図9は前記第二の断面積が異なる部分5及び前記先端部2bの詳細を示す。
図9中の前記先端部2bで矢印により指示している範囲の部分は、前記のように前記樹脂部1と前記インサートモールド金属部品2間に発生する力Wの小さい部分に当たり、前記発生する力Wが該部位の接合強度に比べて小さいので気密性を確保する目的での接合面範囲として適した部分となる。
【0065】
また、
図9中の前記第二の断面積が異なる部分5と第三の断面積が異なる部分6との内方から外方に沿った断面形状の移行部には、同図に示すように、概略円周の一部分形状をなす形状移行部6aが設けられている。このような形状移行部6aの作用は、工学的に良く知られた断面形状が変化する部分への応力集中緩和の形状のそれであり、
図6に示すように、該部分のみならず前記金属部品2の樹脂部1に覆われていない部分に延びるストレートな部分と前記第一の断面積が異なる部分4との間の断面形状が変化する部位へも形状移行部4aの設定が必要であり、該第一の断面積が異なる部分4と前記第二の断面積が異なる部分5との間の断面形状が変化する部位へも形状移行部5aの設定が必要である。以下の他の実施の形態の各々の形状についても、いちいち述べないが同様の部位への同様の設定が必要である。
【0066】
<実施の形態2>
図10は実施の形態2のインサートモールドの接合継ぎ手構造におけるインサート金属部品12の継手部12aを示している。この継手部12aは、
図6に示した実施の形態1の継手部2aと同様に、内方から外方に連続する第一の断面積が異なる部分14と第二の断面積が異なる部分15と第三の断面積が異なる部分16とで構成したものであるが、それぞれの形状が実施の形態1のそれらとは異なるものである。ただし、実施の形態1の継手部2aと実施の形態2の継手部12a、第一の断面積が異なる部分4と14、第二の断面積が異なる部分5と15、及び第三の断面積が異なる部分6と16とは、それぞれ同様の作用をする。なお、このインサート金属部品12と図示しない樹脂部1との結合態様は、実施の形態1のそれと全く同様である。
【0067】
この実施の形態2のインサート金属部品12の継手部12aでは、
図10に示すように、第一の断面積が異なる部分14の断面(内方から外方に沿った断面)形状が四角形となっているが、該断面形状は楕円であっても三角形その他の形状であっても、前記第一の断面積が異なる部分14が前記樹脂部1の内部で樹脂部1に覆われていない部分に対して断面積(内方から外方に向かう方向に直交する断面)が大きくなっていれば不都合ではない。そうであるならば、実施の形態1の第一の断面積が異なる部分4の断面形状の作用を鑑みれば有効であることは自明である。
【0068】
すなわち、以上のように、第一の断面積が異なる部分14の断面積が大きくなっていれば、前記樹脂部1に対して前記インサート金属部品12が、
図10中、左右方向(内方から外方に向かう方向)の力を受けた場合に該第一の断面積が異なる部分14のアンカー効果により前記樹脂部1と前記インサート金属部品12との内外方向のマクロ的なずれを防止することができる。
【0069】
第二の断面積が異なる部分15は、実施の形態1の第二の断面積が異なる部分5と全く同様の形状であり、同様の断面積であって、前記のように、同様に作用する。
【0070】
第三の断面積が異なる部分16についても、第一の断面積が異なる部分14の断面形状が四角形であることと同様に、該部分の作用から、
図10に示すように、台形断面となっていても、これ以外の、楕円、若しくは三角形その他の形状であっても同様に有効に成立することは明らかである。すなわち、前記実施の形態1の第三の断面積が異なる部分6の説明にあるのと同様であり、該第三の断面積が異なる部分16は、第二の断面積が異なる部分15より断面積が大きく、これによって前記分子的な結合を発揮させる観点から、内外方向から見た先端部12bの投影面積が増大するようになっていれば有効に成立する。
【0071】
<実施の形態3>
図11は実施の形態3のインサートモールドの接合継ぎ手構造におけるインサート金属部品22の継手部22aを示している。該継手部22aを、第一の断面積が異なる部分24と二個の第二の断面積が異なる部分25、25と二個の第三の断面積が異なる部分26、26とで構成した例である。第二の断面積が異なる部分25及び第三の断面積が異なる部分26がそれぞれ二個ずつ構成されている点が実施の形態1と異なっている。もっとも、実施の形態1の継手部2aと実施の形態3の継手部22a、第一の断面積が異なる部分4と24、第二の断面積が異なる部分5と25及び第三の断面積が異なる部分6と26とは、それぞれ同様の作用をする。継手部22aの先端部22bと樹脂部1との分子的な結合で気密性が確保されるのも同様である。なお、このインサート金属部品22と図示しない樹脂部1との結合態様は、実施の形態1のそれと全く同様である。
【0072】
この実施の形態3では、前記のように、第二の断面積が異なる部分25及び第三の断面積が異なる部分26が二個ずつ設けられているが、それらの各部位の数が1個以上であればその個々の作用は変わらないので、実施の形態1のインサートモールドの接合継ぎ手構造におけるインサート金属部品2の継手部2aと同様に成立する。
【0073】
なお、以上の実施の形態1、2、3において、金属部品2、12、22は、その継手部2a、12a、22aを埋め込む樹脂部1を構成する樹脂との結合性を向上させる表面処理を施しておくものであるが、この表面処理は公知の既存の種々の技法を用いて行うことが可能である。例えば、金属表面に、特定のトリアジン化合物と、該特定のトリアジン化合物と反応可能な有機化合物とからなる密着剤としての接着層を形成するTRI System(株式会社東亜電化 岩手県盛岡市玉山区渋民字岩鼻20−7の商標)と称される表面処理技術を用いて表面処理を施しておく等である。この表面処理は金属表面に以上の接着層である化成膜層を形成し、成型時の熱と圧力とにより発生する化学変化により金属と樹脂とを化学的に結合させるための手段である。
【0074】
以上の実施の形態1、2、3では、継手部を樹脂部に内方から外方に向かって埋め込み内装する場合に関してのみ説明した。前記のように、継手部は樹脂部の表面に接合する場合もある。そしてこのような継手部を表面に接合する場合も、実施の形態1、2、3のそれと同様に、複数の断面積が異なる部分、例えば、第一、第二、第三の断面積が異なる部分を形成し、これらを樹脂部の表面に接合するものであるが、この場合は、当然、継手部の各断面積が異なる部分は、内方から外方に向かう方向に直交する方向の寸法(厚さ)を変化させることで、それを実現するものであるから、接合すべき樹脂部の表面に対面する部分が該樹脂部の表面に向かって凹凸する面となる。従ってインサートモールド(金属樹脂複合体)を成形する際に、樹脂部の表面も対応する凹凸状に成形され、継手部の第一、第二、第三の断面積が異なる部分の厚さの厚いそれが樹脂部側に埋め込み状態になることになる。そして該継手部は、実施の形態1、2、3のそれと全く同様に作用する。