(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973448
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】創傷クランプ
(51)【国際特許分類】
A61B 17/08 20060101AFI20160809BHJP
【FI】
A61B17/08
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-534134(P2013-534134)
(86)(22)【出願日】2011年10月19日
(65)【公表番号】特表2013-543421(P2013-543421A)
(43)【公表日】2013年12月5日
(86)【国際出願番号】CA2011001170
(87)【国際公開番号】WO2012051706
(87)【国際公開日】20120426
【審査請求日】2014年9月17日
(31)【優先権主張番号】61/394,566
(32)【優先日】2010年10月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513097366
【氏名又は名称】イノベイティブ トラウマ ケア インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】フィリップス デニス フランク
(72)【発明者】
【氏名】アトキンソン イアン ジョセフ
【審査官】
佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2005/0251204(US,A1)
【文献】
米国特許第456458(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)長手方向の軸に係合した第一の対面部材及び第二の対面部材であって、それぞれが閉位置及び開位置の間で、互いに対して、軸の周りを旋回して可動であり、対面部材のそれぞれが、長手方向の軸に隣接する近位端部と、遠位端部とを有する、第一の対面部材及び第二の対面部材;
(b)複数の針を含む、装置を固定するための皮膚貫通手段;
(c)各遠位端部に沿った圧力棒;及び
(d)装置を閉位置に偏らせるかまたは維持する解放可能なロック手段
を含む、創傷閉鎖装置であって、
該解放可能なロック手段が、第一および第二の対面部材の間に配置されたワンウェイ円筒状ベアリングと、ベアリング内に配置された長手方向ピンとを含み、該ワンウェイベアリングが一つの対面部材と共に回転し、該ピンがもう一つの対面部材と共に回転し、かつ該ピンが、ベアリングを一つの方向に自由に回転させるが他の方向には回転させないように働く係合部分と、ピンを自由にどちらの方向にも回転させる小径部分とを含み、該小径部分をベアリングの中および外にスライドさせるように、該ピンが長手方向に可動である、創傷閉鎖装置。
【請求項2】
遠位端部に対して実質的に垂直であり、かつ相対する端部閉鎖部材と整合する端部閉鎖部材を、対面部材のそれぞれが含む、請求項1記載の装置。
【請求項3】
針が、皮膚を貫通して下にある組織に刺さるのに十分な長さである、請求項1記載の装置。
【請求項4】
針がカーブしており、その曲率半径が、対面部材の曲率半径に実質的に類似する、請求項1記載の創傷閉鎖装置。
【請求項5】
二つの対面部材が、閉位置にあるように互いに摩擦で係合している、請求項1記載の装置。
【請求項6】
摩擦による係合が、一つまたは両方の対面部材の支持表面上の、長手方向の複数の隆起によって促進される、請求項5記載の装置。
【請求項7】
二つの解放可能なロック手段を含み、一つが装置のどちらかの端部にある、請求項6記載の装置。
【請求項8】
針がカーブしており、その曲率半径が、対面部材の曲率半径に実質的に類似する、請求項3記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、創傷閉鎖のためのクランプ装置に関連する。特に本発明は、特に緊急状況、例えば軍事行動の最中または民間の災害状況における、創傷を閉鎖するための出血制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
軍事的及び非軍事的双方の緊急医療状況においては、出血を止め、創傷の汚染を避けるために、創傷を一時的に閉鎖する必要性がしばしば生じる。大抵5〜10分かかる、創傷の縫合またはステープラーでの閉鎖は、多くの状況では実用的でない。
【0003】
ひも状の止血帯の利用は野外治療で広く受け入れられてきたが、これらの装置には数々の欠点がある。止血帯は、体肢の周囲を処置及び設置することに時間がかかり、かつ難しい。止血帯は、四肢に接して配置されうる高さに制限があり、大きい血管が走る鼠径部もしくは脇の下、または体の他の部分、例えば胴体、首、もしくは頭部における大出血に対応できない。止血帯は負傷者に大きな苦痛を与え、長くそのままにしておくと四肢を失うリスクがある。空気圧式止血帯は、痛みは少ないものの、解剖学的構造に関する前記制限の全てを有し、軍事的に野外で使用するには丈夫とはいえない。
【0004】
指圧およびガーゼパッキングの代替として、止血剤及び包帯剤が、創傷における凝固プロセスを促進させるために開発されてきた。QuickClot(登録商標)(Z-Medica)といわれる一つのそのような製品は、傷ついた血管に適用する粒状ゼオライトを含んでおり、血液からゼオライトへの水の吸収を引き起こし、凝固因子の濃度を上げて凝固形成を早める。しかし、粒状の形態は、風のある環境で使用するには扱いにくく、粉末または包帯装置は、創傷を負った患者を回収する際に動くことがあり、それは凝固をゆるめて傷口の穴から漏れを起こし失血を増大させうる。さらに、粒状材料は非常に発熱しやすく、この点においてやけどを引き起こし得、かつ温度が高くなるが故に指圧と組み合わせることが困難である。そこでQuickClot(登録商標)は、発熱性でなくかつ粒状パウダーの欠点を有さない、カオリン物質をしみこませたガーゼであるCombat Gauze(登録商標)(Z-Medica)に取って代われられている。これが効果を表すには、止血剤の上から少なくとも3〜5分の指圧を必要とする。
【0005】
野戦病院でさえも、複数貫通創に対しては創傷からの出血は問題であり得る。貫通創は、患者がショック状態にあるが故に出血が見られない場合があるものの、しばしば蘇生及び最高血圧の回復に伴って、出血が始まるかまたは出血が再開する。外科医には大抵の場合、救急手術のために手術室へ患者を運ぶ前に複数の創傷を閉鎖する十分な時間がない。
【0006】
多くの創傷閉鎖装置が当技術分野で公知であるが、多くの異なる面において改良しうる。当技術分野において、使用に便利であり得、比較的小さく、かつ緊急な状況、例えば戦争、テロリストの攻撃、事故、または自然災害下でおこりうる困難な状況において、創傷を閉鎖するのに効果的である創傷閉鎖装置が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は創傷閉鎖装置に関する。本装置は、皮膚を係合することよって皮膚端をすばやく再接合し、創傷をシールする。本装置は、二枚貝の構造で開閉するように構成されおり、片手で操作されるように構成され得る。一つの態様では本装置は、本装置が閉じているときに皮膚端に穴をあける針と、創傷の長軸に対し実質的に垂直の方向に圧力をかける圧力棒とを含む。一つの態様では、圧力棒は、圧力棒に対し実質的に垂直の方向に配置された端部閉鎖部材を含む。創傷を囲む皮膚上で装置を閉じることによって、最初は圧力を手動で加える。本装置は、偏らせる手段、ラチェット手段、摩擦またはいくつかの他の機械的構造によって、閉位置に維持されうる。
【0008】
理論にこだわることなく、出願人は、二つの対面部材の間で創傷をしっかり閉鎖することにより、皮膚表面の下に重大な創傷があったとしても、創傷が圧縮可能な位置にあるならば、創傷からの失血は最小限になりうると考える。患者はその後、移送中の出血のリスクを最小限として、手術施設に移送され得る。一つの態様では、端部閉鎖部材は端部から創傷を取り囲み、さらに創傷の閉鎖を促進する。
【0009】
出血の制御は、創傷内または創傷上の圧力が、動脈圧または静脈圧を超えるときに達成される。皮膚の閉鎖に先立つガーゼまたは止血剤での創傷のパッキングは、いくつかの創傷には好ましい場合がある。本装置は皮膚を外からシールするので、創傷からの腸の飛び出しを防ぐため、あるいは開放性胸部創の処置にも使用されうる。
【0010】
したがって、一つの局面では、本発明は、以下を含む創傷閉鎖装置を含む。
(a)長手方向の軸に係合した第一の対面部材及び第二の対面部材であって、それぞれが閉位置及び開位置の間で、互いに対して、軸の周りを旋回して可動であり、かつ第一の位置から第二の位置まで軸にそって長手方向に可動であり、対面部材のそれぞれが、長手方向の軸に隣接する近位端部と、遠位端部と、外面及び内面とを有する、第一の対面部材及び第二の対面部材;
(b)第一の部材の第一のラチェット、及び第二の部材の第二のラチェットであって、該第一及び第二の部材が第一の位置にあるときには、対面部材が閉位置に維持されるように互いに係合し、該第一及び第二の部材が第二の位置にあるときは係合しない、第一の部材の第一のラチェット、及び第二の部材の第二のラチェット;ならびに
(c)該第一及び第二の部材の遠位端部に配置された複数の針。
【0011】
一つの態様では、それぞれの対面部材は、端部閉鎖部材をそれぞれの端部に有し、これは遠位端部に対して実質的に垂直であり、もう一つの対面部材の端部閉鎖部材と整合する。
【0012】
別の局面では、本発明は、以下を含む創傷閉鎖装置を含む:
(a)長手方向の軸に係合した第一の対面部材及び第二の対面部材であって、それぞれが閉位置及び開位置の間で、互いに対して、軸の周りを旋回して可動であり、対面部材のそれぞれが、長手方向の軸に隣接する近位端部と、遠位端部とを有する、第一の対面部材及び第二の対面部材;
(b)本装置を固定するための皮膚貫通手段;
(c)各遠位端部に沿った圧力棒;及び
(d)本装置を閉位置に偏らせるかまたは維持する解放可能な手段。
[本発明1001]
(a)長手方向の軸に係合した第一の対面部材及び第二の対面部材であって、それぞれが閉位置及び開位置の間で、互いに対して、軸の周りを旋回して可動であり、かつ第一の位置から第二の位置まで軸にそって長手方向に可動であり、対面部材のそれぞれが、長手方向の軸に隣接する近位端部と、遠位端部と、外面及び内面とを有する、第一の対面部材及び第二の対面部材;
(b)第一の部材の第一のラチェット、及び第二の部材の第二のラチェットであって、該第一及び第二の部材が第一の位置にあるときには、対面部材が閉位置に維持されるように互いに係合し、該第一及び第二の部材が第二の位置にあるときは係合しない、第一の部材の第一のラチェット、及び第二の部材の第二のラチェット;ならびに
(c)該第一及び第二の部材の遠位端部に配置された複数の針
を含む、創傷閉鎖装置。
[本発明1002]
対面部材のそれぞれの遠位端部に取付けられた圧力棒をさらに含む、本発明1001の創傷閉鎖装置。
[本発明1003]
対面部材それぞれの外面に取付けられた安定化棒をさらに含む、本発明1002の創傷閉鎖装置。
[本発明1004]
対面部材それぞれの外面に取付けられたグリップをさらに含み、該グリップが、長手方向の軸に平行な第一のグリップ表面と、第一のグリップ表面に対して実質的に垂直なグリップ表面とを含む、本発明1001の創傷閉鎖装置。
[本発明1005]
対面部材のそれぞれが半円筒状である、本発明1001の創傷閉鎖装置。
[本発明1006]
針がカーブしており、その曲率半径が対面部材の曲率半径に実質的に類似する、本発明1001または1005の創傷閉鎖装置。
[本発明1007]
第一及び第二の部材を第一の位置に偏らせる、該第一及び第二の部材の間に配置された第一のばねと、該第一及び第二の部材を開位置に偏らせる、該第一及び第二の部材の間に配置された第二のばねとをさらに含む、本発明1001の創傷閉鎖装置。
[本発明1008]
(a)長手方向の軸に係合した第一の対面部材及び第二の対面部材であって、それぞれが閉位置及び開位置の間で、互いに対して、軸の周りを旋回して可動であり、対面部材のそれぞれが、長手方向の軸に隣接する近位端部と、遠位端部とを有する、第一の対面部材及び第二の対面部材;
(b)装置を固定するための皮膚貫通手段;
(c)各遠位端部に沿った圧力棒;及び
(d)装置を閉位置に偏らせるかまたは維持する解放可能なロック手段
を含む、創傷閉鎖装置。
[本発明1009]
遠位端部に対して実質的に垂直であり、かつ相対する端部閉鎖部材と整合する端部閉鎖部材を、対面部材のそれぞれが含む、本発明1008の装置。
[本発明1010]
皮膚貫通手段が、圧力棒のそれぞれに沿って配置された複数の針を含む、本発明1008の装置。
[本発明1011]
針が、皮膚を貫通して下にある組織に刺さるのに十分な長さである、本発明1010の装置。
[本発明1012]
針がカーブしており、その曲率半径が、対面部材の曲率半径に実質的に類似する、本発明1010または1011の創傷閉鎖装置。
[本発明1013]
二つの対面部材が、閉位置にあるように互いに摩擦で係合している、本発明1008の装置。
[本発明1014]
摩擦による係合が、一つまたは両方の対面部材の支持表面上の、長手方向の複数の隆起によって促進される、本発明1013の装置。
[本発明1015]
解放可能なロック手段が、二つの対面部材の間に配置されたワンウェイ円筒状ベアリングと、ベアリング内に配置された長手方向ピンとを含み、該ワンウェイベアリングが一つの対面部材と共に回転し、該ピンがもう一つの対面部材と共に回転し、かつ該ピンが、ベアリングを一つの方向に自由に回転させるが他の方向には回転させないように働く係合部分と、ピンを自由にどちらの方向にも回転させる小径部分とを含み、該小径部分をベアリングの中および外にスライドさせるように、該ピンが長手方向に可動である、本発明1008の装置。
[本発明1016]
二つの解放可能なロック手段を含み、一つが装置のどちらかの端部にある、本発明1015の装置。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図面において、類似の要素には類似の参照番号が指定されている。図面は必ずしも等倍で縮小されておらず、その代わりに本発明の原理が強調されている。さらに、描かれたそれぞれの態様は、本発明の基本概念を用いた数々の可能な配置の一つにすぎない。図面を以下のように簡単に説明する。
【
図1】完全な開位置にあるクランプの一つの態様の底面図である。
【
図2】部分的に閉位置にあるクランプの底面図である。
【
図3】完全な閉位置にあるクランプの底面図である。
【
図4】
図4A、4B 、4C、4D は、それぞれ開位置、部分的閉位置、及び閉位置にあるクランプの端面図である。
【
図5】部分的閉位置にあるクランプの上面図である。
【
図7】
図7Aは、ラチェットが係合した閉位置にあるクランプの上面図である。
図7Bは、閉位置にあるクランプの上面図であるが、ラチェットは係合しておらず、装置は開きうる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
本発明は、創傷閉鎖装置に関する。本発明を述べるに当たり、本明細書で定義されないすべての用語は、当業者が共通に認識する意味を有する。以下の説明は、特定の態様であるか、本発明の特別な仕様である範囲で説明されることのみを意図したものであり、特許請求の範囲の発明を限定するものではない。以下の説明は、添付の特許請求の範囲に規定されるように、本発明の主旨と範囲に含まれるすべての代替物、修正物、等価物を包含するものである。
【0015】
概して、本創傷閉鎖装置の一つの態様は、二枚貝型構造に構成されており、これに備えられた第一の対面部材(4)及び第二の対面部材(6)はそれぞれ、ピン(2)に旋回するように取付けられており、ピンは、回転の長手方向の軸を規定する。対面部材のそれぞれは、外面と内面と二つの端部とを有する。一つの態様において、対面部材のそれぞれは、近位端部(5)及び遠位端部(7)を有する略二分された円筒である。長手方向の旋回軸(2)は、近位端部に隣接している。二つの前記二分された円筒は、閉位置にあるときに二つの遠位端部が互いに隣接し、略円筒を二等分している。第一及び第二の部材が開位置まで旋回したとき、二つの遠位端部は別れて開く。
【0016】
第一及び第二の対面部材(4,6)は、本明細書で説明される態様において、半円筒部分であるように説明されているが、これらは、相互に接続した曲がった腕または他の同等な構造によって近似されうる。
【0017】
一つの態様において、各対面部材は、それぞれの端部に端部閉鎖部材(8)を含む。各端部閉鎖部材(8)は、遠位端部に対し実質的に垂直であり、もう一方の対面部材における端部閉鎖部材と整合する。好ましくは、装置が閉位置になるとき、二つの相対する端部閉鎖部材(8)は、互いに隣接するかまたは互いに近づいて、各端部における二つの対面部材間の空間を取り囲むかまたは部分的に取り囲む。別の態様では、装置が閉位置にあるときに、二つの遠位端部(7)の間の距離が二つの端部において減り得るように、遠位端部(7)は曲がっている。いずれの構造も、創傷端部からの、創傷からの出血を最小限にすることを意図している。
【0018】
理論に縛られることなく、出願人は、二つの対面部材の間および端部閉鎖部材の間で創傷をきつく閉鎖することによって、皮膚の表面下に重大な創傷があったとしても、体の圧迫可能な範囲において、創傷からの失血を最小限にできると考える。患者はその後、移送中の出血のリスクを最小限にして、手術施設に移送され得る。
【0019】
一つの態様において、対面部材(4,6)は、創傷の両側において皮膚を刺し通すための針(12)を有する。針は二つの基本的な機能を有する。一つは、創傷をシールする場所で装置を閉じるとき、その場所に装置を固定することである。装置が単に、皮膚との摩擦係合に頼っているなら、装置は簡単に外れてしまうかもしれない。二つ目は、
図8に説明されるように、皮膚とその下にある組織を、対面部材の間で束ねることである。一つの態様では、真皮層(D)に貫通しその下にある組織へ達するように、針は十分に長い。この働きは、本装置のシール作用を促進する。
【0020】
一つの態様では、針(12)は、針が交互になるように、対面部材の長さ方向に沿って 互い違いに配置されている。一つの態様では、
図8に示されるように、皮膚を突き通すように、かつ、装置を閉じると創傷の相対する端が持ち上がって装置に入り込むように、針は曲げられている。結果として、創傷の長さ方向に沿って真皮と真皮の接触が促進され、装置により作られたシールが強化される。当業者であれば理解すると考えられるが、針は、第一及び第二の部材の曲率半径に近い曲率半径を有しうる。
【0021】
一つの態様では、対面部材(4,6)のそれぞれは、圧力棒(18,20)を該部材の遠位端部(7)に沿って有する。装置が一旦創傷において閉じれば、圧力棒(18,20)は、創傷を閉鎖するように、創傷の長さ方向に沿って比較的均一な圧力を働かせる。圧力棒は、皮膚をつかむのを助けるために、摩擦要素、例えば、遠位端部と平行に走る隆起(21)を含みうる。
【0022】
一つの態様において、圧力棒(18,20)は、装置が閉位置に操作されているときに針が露出するのを防ぐために、対面部材の針と相互作用するか、または、隠されるように構成されている。一つの態様では、圧力棒は、針の先を包み隠す弾力のある材料(32)、例えばネオプレンまたは別のゴム材料で縁取られてもよい。弾力のある材料はまた、創傷に対して圧力を与える際の支援となりうる。
【0023】
一つの態様では、対面部材(4,6)のそれぞれは、外面にグリップ(10)を有する。一つの態様では、グリップは、旋回軸の近くに配置された、高くした凹面である。グリップは、それぞれ、長手方向軸に実質的に平行な、第一の握り面(40)を提供し、片手で開く作業を容易にする。一つの態様では、グリップは、第二の握り面(42)を提供し、第一及び第二の部材を長手方向軸に沿って押し広げる。第二の握り面(42)は、長手方向軸に対して実質的に垂直であってもよい。異なるグリップの構成は、好適な第一及び第二の握り面を提供しうる。一つの態様では、
図9に示したように、グリップはそのような使用に対して最適化され得る。
【0024】
装置は通常、閉位置で保管され、使用に際して使用者によって開かれる。好ましい態様では、種々の仕組みが、装置を開位置に偏らせておくために使用されうるが、閉位置での保管を可能にし、装置を保管するかまたは使用するときに閉位置でロックすることも可能とする。
【0025】
一つの態様では、第一のばね(26)によって、装置を開位置に偏らせてもよいが、第一及び第二の部材の内面に配置された、協働するラチェット(14,16)によって閉位置に保たれる。
図7Bの矢印で示したように、第一の部材を、第二の部材から離れるように長軸方向に動かすことによって、ラチェット(14,16)の係合が解かれ、装置が開く。第二のばね(28)は、第一及び第二の部材に長軸方向の圧力を与え、ラチェットの係合を保つ。
【0026】
相対するラチェットのそれぞれにおける複数のラチェットの歯が、使用者に閉位置を制御させる。完全な閉位置においては、
図4Dに示されるように、対面部材の遠位端部は互いに隣接しており、相対する針は重なり合い、かつすべてのラチェットの歯は係合している。装置は、相対するラチェットの歯の端のみを連結させることによって、創傷において配置されるときなどに、部分的に閉じてもよい。
【0027】
いったん開くと、第一のばね(26)の圧力に逆らって相対するラチェットが互いに係合するまで二つの対面部材を閉じることにより、装置を創傷上で閉じうる。
【0028】
別の態様では、長手方向軸の周りに互いに回転するように係合している二つの対面部材の表面が、摩擦によって互いに連結する支持要素を持っていてもよい。例えば、一つの対面部材が円筒状の外側表面を有し、もう一つの部材が円筒状の内側表面を有していてもよい。二つの円筒状の表面は互いに支え合っており、装置を閉位置に維持するのに十分な摩擦を提供しうる。円筒状の支持表面における隆起した畝のような摩擦要素が、追加的な摩擦を提供しうる。
【0029】
別の態様において、装置は、ワンウェイベアリングを含む、着脱可能な係合機構を含む。
図10に示したように、二つの対面部材(4,6)は、円筒状のベアリングと共に、軸状ピン(2)の周りに互いに回転するように係合している。ピン(2)は、それぞれの端部(3)で留められており、軸方向に可動でありながらも外側円筒(50)と一緒に回転する。内側円筒(52)は、外側円筒(50)内で回転する。ワンウェイベアリング(54)は、内側円筒内に嵌合取付けされており、ベアリング(54)を貫通しているピン(2)の係合部分に摩擦係合している。ピン(2)は二つの入れ子部分を含み、これらは内側ばねで外側に偏っているが、二つの端部(3)を内側に押すことによって乗り越えることができる。ピン(2)はまた、係合部分及びベアリング(54)の内径よりも小さい、小径部分を有する。ピンが伸びた状態のとき、ピンの係合部分はワンウェイベアリングの内径に係合しており、装置を閉じるように回転させることが可能であるが、開方向への回転は妨げる。二つの端部(3)を押し込むことによってピンが圧縮された時、ピンは横にスライドし、小径部分がワンウェイベアリング内に配置され、どちらの方向にも自由に回転することが可能になる。
【0030】
一つの態様では、円筒とワンウェイベアリング機構は、装置の両方の端部に提供され、閉位置の場合に装置に大きなトルク負荷をかける。またそれは、創傷において、装置のわずかな非対称的適用を可能にし、このとき二つの対面部材の遠位端部は必ずしも平行でない。ワンウェイベアリングのそれぞれの端部に働くねじり力は、異なっていてもよい。
【0031】
このように、使用者は、片手での一つの動作で、創傷の周りで装置を閉じることができ、装置は閉位置でロックしたままになる。装置は、簡単な動作でロックを外されて装置をその開位置に解放し、もし必要であるかまたは所望により、再び片手での使用が可能となる。
【0032】
本発明の範囲は、二つの対面部材の回転、及び、解放可能な装置の閉位置へのロックまたはラッチを可能にする、代替の機械的構成を含む。
【0033】
一つの態様では、対面部材(4,6)のそれぞれは、任意の安定化パッド(22,24)を、閉鎖した創傷の周りに装置を維持しておくために有していてもよい。装置の重量のため、創傷において閉位置にあるときに、装置は揺らぐ傾向があり得る。安定化パッド(22,24)は、揺れ動きを防ぐか、または制限する。一つの態様では、安定化パッドは、遠位端部の長さ方向に沿って広がっており、閉じた部材によって形成された円筒にほぼ接しており、創傷の表面に平行である。
【0034】
一つの態様では、対面部材(4,6)は、使用者が創傷を目視できるよう複数の開口(30)を規定する。開口(30)はまた、装置の使用中に、医療的、外科的道具を接近させることを可能とする。
【0035】
一つの態様では、創傷閉鎖装置は、無菌パッケージ内に創傷閉鎖装置を含むキットとして提供され、これは片手で開封しうる。したがって、使用者が無菌パッケージを取り、開き、閉位置で保管されている装置を取り出し、片手で開け、創傷上に置き、閉じるのを全て片手で非常に短い時間で行い得ることを、理解することができる。