(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973459
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】ネビボロールの調製のための方法
(51)【国際特許分類】
C07D 311/58 20060101AFI20160809BHJP
C12P 41/00 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
C07D311/58
C12P41/00 J
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-541461(P2013-541461)
(86)(22)【出願日】2011年11月30日
(65)【公表番号】特表2014-503509(P2014-503509A)
(43)【公表日】2014年2月13日
(86)【国際出願番号】IB2011055385
(87)【国際公開番号】WO2012095707
(87)【国際公開日】20120719
【審査請求日】2014年10月9日
(31)【優先権主張番号】RM2010A000622
(32)【優先日】2010年11月30日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】513135749
【氏名又は名称】メナリーニ インターナショナル オペレーションズ ルクセンブルク エス.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マウロ、サンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ファットーリ、ダニエラ
(72)【発明者】
【氏名】ダンドレア、ピエロ
(72)【発明者】
【氏名】チポローネ、アマリア
【審査官】
松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/010022(WO,A1)
【文献】
独国特許出願公開第04430089(DE,A1)
【文献】
米国特許第05912164(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式
【化1】
のd−ネビボロール及び/又はl−ネビボロールの合成のための方法であって、下記の工程:
a)6−フルオロ−2−カルボキシル酸エステル(1)、式中、R
1は、直鎖又は分岐C
1−5アルキル基である、のエナンチオマーの混合物を加水分解して、
【化2】
酸(2)及びエステル(3)の混合物を与える工程、
【化3】
b)かくして得られた酸(2)及びエステル(3)を、エポキシドの混合物(4)及び(5)のそれぞれの合成のために使用する工程、
【化4】
c)エポキシドの混合物(4)及び(5)を分割(resolve)させて、化合物(6)+(7)及び(8)+(9)をそれぞれ得る工程、
【化5】
d)アミノアルコール(6)及び(8)をエポキシド(7)及び(9)と反応させて、l−ベンジルネビボロール(10)及びd−ベンジルネビボロール(11)を得る工程、
【化6】
e)ベンジル保護基を除去する工程
を含み、
工程(a)において、立体選択的酵素的加水分解反応によって加水分解して、>70%のエナンチオマー過剰度を伴うR酸(2)及び>70%のエナンチオマー過剰度を伴うSエステル(3)の混合物を与え、かつ、工程(c)において、エポキシドの混合物(4)及び(5)を、それらをベンジルアミンと立体障害アルコールの中で反応することによって、動力学的に分割させて、実施することを特徴と
し、
前記酵素的加水分解反応が、オフィオストマ(Ophiostoma)属から得られたエステラーゼの使用により実施され、
ベンジルアミンでのエポキシドの混合物(4)及び(5)の動力学的分割が、イソプロパノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、イソアミルアルコール、2−メチル−2−ペンタノールから選択される立体障害アルコールの中で行われる、
上記方法。
【請求項2】
前記酵素的加水分解反応が、Ophiostoma novo−ulmiのAJ3株に由来するエステラーゼの使用により実施される、請求項1に記載の合成方法。
【請求項3】
前記酵素的加水分解反応が、8及び11の間に包含されるpHで行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素的加水分解反応が、8.5及び10の間に包含されるpHで行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記酵素的加水分解反応が、10°及び35℃の間に包含される温度で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記酵素的加水分解反応が、20°及び25℃の間に包含される温度で行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記酵素的加水分解反応が、水性環境の中で又は水非混和性溶媒の存在下で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
エステルの混合物(1)の酵素的加水分解反応が、(R)酸(2)及び(S)エステル(3)の両方の成分において>80%又は>90%のエナンチオマー過剰度を伴う混合物を産するように進行する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記酸(2)が、RR+RSエポキシドの混合物(4)へと変換され、片や、前記エステル(3)が、SS+SRエポキシドの混合物(5)へと変換される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
エポキシドの混合物(4)のベンジルアミンとの動力学的分解が、イソプロパノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、イソアミルアルコール、2−メチル−2−ペンタノールから選択される立体障害アルコールの中で行われ、アミノアルコールRS(6)のみを得て、一方で、エポキシドRR(7)が、変化しないで回収される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
エポキシドの混合物(5)のベンジルアミンとの動力学的分解が、イソプロパノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、イソアミルアルコール、2−メチル−2−ペンタノールから選択される立体障害アルコールの中で行われ、アミノアルコールSR(8)のみを得て、一方で、エポキシドSS(9)が、変化しないで回収される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記立体障害アルコールが、2−メチル−2−ブタノールである、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
アミノアルコールRS(6)が、エポキシドSS(9)と反応して、l−ベンジル化ネビボロール(10)を得るか、及び/又は、アミノアルコールSR(8)が、エポキシドRR(7)と反応して、d−ベンジル化ネビボロール(11)を得る、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
化合物(10)及び(11)が、1:1比で混合され、ベンジル基から脱保護化されて、最終産物ネビボロールを得る、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記最終産物ネビボロールが、塩酸で塩化され、対応する塩酸塩を得る、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネビボロールの合成のための新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネビボロールは、2つのエナンチオマー[2S[2R[R[R]]]]α,α’−[イミノ−ビス(メチレン)]ビス[6−フルオロ−クロマン−2−メタノール]及び[2R[2S[S[S]]]]α,α’−[イミノ−ビス(メチレン)]ビス[6−フルオロ−クロマン−2−メタノール]のラセミ混合物である(
図1)。
【化1】
【0003】
特に、生来又は組換え形態での、微生物Ophiostoma novo−ulmiからも取得可能な、エステラーゼのファミリーに属する立体選択性酵素での処理による原料クロマニルエステル(1)の酵素的分割(resolution)が報告されている。
【0004】
かくして得られたエステル及び酸は、当業者に知られる方法によって、対応する「半キラル」エポキシド、すなわちスキーム(1)の(RR+RS、4)及び(SS+SR、5)のペアへと変換することができる。
【0005】
次には、各ペアの成分は、第三級アルコールからなる溶媒の中でのベンジルアミンとのそれらの異なる反応性を利用して分離することができる。動力学的分割のこれらの条件下で、エポキシドRS及びSRは、対応する開環産物(6及び8)へと変換されるであろう、片や、エポキシドRR及びSSは、変化しないままとなっているであろう。
【0006】
次いで、エポキシドRR(7)は、アミンRS(6)から分離され、エポキシドSS(9)は、当業者に知られた方法で、そして優先的に塩基性成分の結晶化によってアミンSR(8)から分離される。
【0007】
次いで、アミンRSは、エポキシドSSと反応して、l−ベンジルネビボロールを得る。同様に、アミンSRは、エポキシドRRと反応して、d−ベンジルネビボロールを得る。
【0008】
かくして得られたl−及びd−ベンジルネビボロールは、等モル量でプールされ、結晶化されそして当業者に知られた方法に従ってネビボロールHClへと変換される。
【0009】
(技術常識)
ネビボロールは、アドレナリンβ受容体アンタゴニスト、抗高血圧剤、血小板凝集阻害剤及び血管拡張剤として知られている。
【0010】
ネビボロールは、塩基性の特性を有し、酸との処理によって受容可能な医薬的塩へと変換してもよい。塩酸塩の塩は、市場形態である。
【0011】
ネビボロールは、4つの非対称中心を含み、それゆえに16個の立体異性体が理論的に可能である。しかしながら、分子の特別な構造(対称の軸の存在)が要因で、10個の立体異性体のみが実際には形成することができる(スキーム2)。
【化2】
【0012】
実際、分子の対象性が要因で、RSSS=SSSR、RRSS=SSRR、SRSS=SSRS、RRSR=RSRR、SRSR=RSRS及びRRRS=SRRRである。
【0013】
米国特許第4,654,362号(欧州特許第0145067号、Janssen)には、合成の鍵となる中間体としてのエポキシド異性体の使用によるネビボロールシリーズの産物の合成が記載されている。産物は、絶対配置を定義しないで、時として混合物で、時としてエナンチオ純粋体として得られる。特に、前記特許の実施例84には、スキーム3で定義される異性体の混合物の取得が記載されている。
【化3】
【0014】
これらは、クロマトグラフィカラムによって、2つのエポキシドラセミ体(RS/SR、4/5)及び(RR/SS、7/9)へと分離される。引き続いて、エポキシドのペアのベンジルアミンによる開環、及び前記反応(6+8)の産物を使用して第2のエポキシドのペア(7+9)の開環が起こる。この操作は、4つのベンジル化されたジアステレオ異性体の産生へと導く。
【0015】
欧州特許第0334429号(Janssen)には、欧州特許第0145067号で報告されたものと同じ方法が記載されているが、より多くの実験的詳細と、ネビボロールの単一の異性体の調製に焦点を当てた注目をもって記載されている。この場合では、具体的に6−フルオロクロマンカルボン酸が(+)−デヒドロアビエチルアミンでの処理によって個々のエナンチオマーへと分割される。かくして得られた個々のエナンチオマーは、下記の合成スキーム(異性体Sが示される)に従って対応する半キラルエポキシドへと変換される。
【化4】
【0016】
異性体[2R,αS,2’S,α’S]−α,α’−[イミノビスメチレン]ビス[6−フルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−1−ベンゾピラン−2−メタノール]の立体選択性合成を記載する。
【0017】
使用される酸エステルの分割のための方法は、それの産業的適用に関連するいくつかの欠点に見舞われる。実際に、追加の工程(アミド形成、画分化結晶化、アミド加水分解)が導入され、そしてさらには全体的な収量はむしろ低い。かくして得られたジアステレオ異性体のエポキシドの混合物は、調製用HPLC上でランされて所望のキラリティの異性体を単離する。
【0018】
Hetero Drugs Limitedは、WO2006/016376及び引き続いてのWO2007/083318において、ベンジルネビボロールのジアステレオ異性体混合物(10、11、13、14)のレベルで適用された画分化結晶化方法を記載し、同様にこの場合において、欲していないジアステレオ異性体を除去する必要に関した、原料の約50%の廃棄へと導く。
【0019】
WO200
4/041805(Egis Gyogyszergyar)には、非常に異なる化合物から出発する[2S*[R*[R*[R*]]]]及び[2R*[S*[S*[S*]]]]−(±)−α,α’−[イミノビス(メチレン)]ビス[6−フルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−1−ベンゾピラン−2−メタノール]並びにそれの個々の純粋な[2S*[R*[R*[R*]]]]及び[2R*[S*[S*[S*]]]]エナンチオマーの調製のための方法が記載される。エナンチオマーの混合物としてのネビボロール合成のために使用される工程は、約30個であり、合成を非常に長大に及び非経済的に
する。
【化5】
【0020】
WO2008/010022(Cimex Pharma)では、その文献における方法に従って分割された6−フルオロクロマンカルボン酸から出発して、2つの分離したシーケンス(d−ネビボロールについてのスキーム
5)に従っての2つのネビボロールエナンチオマーの合成へと導く経路が報告されている。
【0021】
ベンジルアミンによるエポキシドの開環において、単独の開環産物が反応混合物から結晶化するが、他のジアステレオ異性体は、母液によって除去され、同様にこの場合において、合成シーケンスのすでにかなり進行したステージにおいて相当な画分の材料の除去へと導く。また、最後のキラル中心が、最後から2番目の工程で、ケトンの還元によって追加され、非常に敏感な反応であり、最適な結果を得るためには、BKH
4及びチタニウムイソプロポキシドの使用を想定する。
【0022】
WO2008/064826(Zach System)には、エポキシドの分割のための方法が報告され、かつては、ジアステレオ異性体のペア(RS/SR及びRR/SS)が、コバルトIIのキラル複合体によって媒介される同じエポキシドのエナンチオ選択性開環を通じて、分離されてきている(スキーム
6)。この場合では、その方法の見地からの実際的なものよりも少ない、クロマトグラフィの分離工程が必要であり、一方でコバルト複合体は、取り扱い及び廃棄において注意を要する。
【化6】
【0023】
WO2008/064827(Zach System)には、2,2−ジメチルアセタールといった、保護されたグリセルアルデヒドの2つの光学異性体から開始するd−及びl−ネビボロールの分離した及びエナンチオ選択性の合成が記載されている(スキーム7)。ジアステレオ異性体は、知られているが記載されていない方法によって分離される。合成工程の数は、古典的な合成のものよりも多く、一方でアルデヒド前駆体は、それほど安定ではない化合物として知られ、純粋な形態で室温で保存した場合に重合化する傾向がある。
【化7】
【0024】
6−フルオロ−クロマン−2−カルボン酸のレベルでのエナンチオマー分離については、(+)−デヒドロアビエチルアミンでのアミド形成、次いで画分化結晶化及びアミド加水分解をして酸を回収するための方法(欧州特許第0334429号)が労力が多く、及びむしろ低い収量を供することが知られている。
【0025】
カルボン酸のエステルの酵素的分割に関して、これは、その文献において知られている方法であるが、クロマン−2−カルボン酸のフッ素誘導体のエステルに用いられたことは決してなく、あるいは結果としてネビボロール合成のためにも使用されたことはなかった。
【0026】
具体的に、クロマン−2−カルボン酸塩に関する公知の例が報告されている。
【0027】
米国特許第5,037,747号では、(2R)−ヒドロキシ−置換ベンゾピラン−2−カルボキシルエステル及び(2S)−ヒドロキシ−置換ベンゾピラン−2−カルボキシルエステルは、対応するラセミ体のPseudomonasリパーゼで触媒された選択性加水分解によって調製される。
【0028】
Urban(米国特許番号第5,089,637号、欧州特許第0448254号)には、Pseudomonas fluorescensに由来するエステラーゼによる酵素的加水分解をして一般式(I)のラセミ混合物、式中、R=C
1−C
3アルキル、を分割することが記述される。
【化8】
【0029】
WO96/40975には、Serratia marcescensに由来する微生物エステラーゼの、同じ一般式のしかしR>C
3のクロマン−2−カルボキシルアルキルの分割のための使用が報告されている。
【0030】
ドイツ特許第4430089号には、クロマン−2−カルボキシルエステルが選択された群の酵素(キモトリプシン、Candida lipolytica由来のリパーゼ、Aspergillus oryzae由来のリパーゼ、Geotrichum candidum由来のリパーゼ、Aspergillus niger由来のリパーゼ)での酵素的加水分解に供される一連の例が報告されている。
【0031】
最後に、Ophiostoma novo−ulmi子嚢菌に由来するエステラーゼについて、大腸菌(E.Coli)の中でクローニングしてのそれの単離及びエステルの分割におけるそれの使用に関した詳細が、例えば、M.N.IsupovらによってActa Crystallographica−Biological Crystallography Section D60,p.1879−1882(2004)において、又は欧州特許第0687305号において報告され、一方で、アリールアルカノイド酸の、そしてより具体的にはケトプロフェンの、エナンチオマーの分割におけるそれの使用が、欧州特許第0693134号に記載される。
【0032】
今日まで利用可能な文献証拠に基づいて、ネビボロール合成は、依然として多数の合成上の問題を伴う。エポキシドを通過する原始的なJanssen合成(スキーム3、混合物6)は、確かにより短いものであるが、2つのジアステレオ異性体エポキシドペアの調製用HPLCによる分離を必要とする。他の方法は、一般的により多くの合成工程を想定する。
【0033】
報告された合成のかなりの部分において、50%まで到達し得る、中間体産物百分率が、適用された合成シーケンスにおいて不可避的に産生されてきた要求されていないジアステレオ異性体を除去するために、廃棄される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
それゆえに、産業的使用に適しかつクロマトグラフィ分離の使用を回避する新規の合成方法を開発する必要性、及び限定された数の合成工程を維持しながらもかなりの百分率の中間体化合物を排除する必要性が、著しく感じられる。
【課題を解決するための手段】
【0035】
今まさに、驚くべきことにネビボロールの合成のためのより効果的な方法(スキーム1)を見出した。その方法は、本明細書において強調された以前知られていた合成経路のための欠点を排除することを可能にする。すなわち、それは、
a) エポキシドエナンチオマーのペア(RR/SS RS/SR)の又は他のジアステレオ異性体中間体の調製用HPLCによる分離を、回避又は相当低減させる、
b) 望ましくない異性体で代表される産物の損失を目立って低減させ、結果的に全体的な収量の増加を伴う。
【0036】
6−フルオロクロマン−2−カルボン酸エステルの2つのエナンチオマーの混合物の処理は、Ophiostoma属から得られ得る真菌エステラーゼ(リパーゼ)によって行われる。好ましい種は、Ophiostoma novo−ulmi由来のエステラーゼであり、その文献においてナプロキセン又はケトプロフェン化合物のエステルに対する立体選択的活性についてすでに記載されている。
【0037】
水性又は水性/有機性媒質の中で実施される反応は、選択的様式で2つのエナンチオマーの中から1つのカルボン酸への加水分解へと導き、一方で、他の1つは、エステルの形態のままである。その反応は、迅速にかつ高い立体選択性を伴って進行する。かくして産生された2つの化合物は、酸−塩基抽出によって容易に分離することができる。
【0038】
それゆえに、本発明の目的は、ネビボロールの調製のための方法であって、その方法は、下記の工程を含む:
a. 酵素的加水分解反応によって、6−フルオロ−2−カルボン酸エステル(1)、式中R
1は、直鎖又は分岐C
1−5アルキル基である、のエナンチオマーの混合物を分割して、
【化9】
酸(2)及びエステル(3)の混合物を得る工程、
【化10】
式中、R酸(2)が、>70%のエナンチオマー過剰度で存在し、かつSエステル(3)が、>70%のエナンチオマー過剰度で存在し、エナンチオマー過剰度が、両方の成分において、好ましくは>80%であり、さらにより好ましくは90%である、
b. かくして得られた酸(2)及びエステル(3)をエポキシドの混合物(4)及び(5)の合成のために使用する工程、
【化11】
c.1) ベンジルアミンによるエポキシドの混合物(4)及び(5)に対する立体障害アルコールの中での動力学的分割をして、化合物(6)+(7)及び(8)+(9)をそれぞれ得てそれらの分離をする工程、
【化12】
c.2) c.1)で記載した動力学的分割に代えて、エポキシドの混合物(4)及び(5)のクロマトグラフィ分離及び、引き続いてのRSエポキシドのベンジルアミンでの反応をしてアミノアルコールRS(6)を得ること及び引き続いてのエポキシドSRのベンジルアミンでの反応をしてアミノアルコールSR(6)を得ることの工程、
d. アミノアルコールRS(6)をエポキシド(9)と反応させてl−ベンジルネビボロール(10)を得ること及びアミノアルコールSR(8)をエポキシド(7)と反応させてd−ベンジルネビボロール(11)を得ることの工程、
【化13】
e. 脱保護化して、ベンジル基の除去を伴い、ネビボロール形成を伴う工程。
【化14】
【0039】
本発明の最後まで、直鎖又は分岐C
1−5アルキル基として定義されるR
1は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、アミル、tert−アミルから選択されるラジカルを表し、好ましくは、メチル、エチル、プロピルから選択されるラジカルであり、さらにより好ましくは、エチル基である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明によれば、ネビボロール化合物は、スキーム1に記載される6−フルオロクロマン−2−カルボン酸エステル(1)のラセミ混合物から出発する方法により得られる。
【0041】
6−フルオロクロマン−2−カルボキシレート(1)は、Ophiostoma属から得られ得る真菌エステラーゼ(リパーゼ)により触媒されるエナンチオ選択性加水分解を通じて高い立体選択性を伴ってそれの2つのエナンチオマーへと分割され得る。好ましい種は、Ophiostoma novo−ulmi由来のエステラーゼであり、その文献においてナプロキセン又はケトプロフェン化合物のエステルに対する立体選択的活性についてすでに記載されている。
【0042】
酵素は、単離され及び結晶化された発現タンパク質の形態で、M.N.IsupovらによってActa Crystallographica−Biological Crystallography Section D60,p.1879−1882(2004)に記載されている。酵素は、欧州特許第B1−0687305号(WO94/20634)、欧州特許第0693134号、米国特許第5912164号、及び欧州特許第1626093号にもまた記載されている。
【0043】
大腸菌の中での酵素発現は、M.N.Isupovら(前出)によって又は欧州特許第B1−0687305 号(WO94/20634)において記載されるように実施してもよい。
【0044】
この株は、活性の良好な例を提供するが、広範な種類の関連する株においてむしろ広がった性質の活性があれば、本発明の範囲はこれにのみ限定されることを意図しない。Ophistoma属の微生物及びそれらの酵素的活性は、6−フルオロクロマン−2−カルボキシル化エチルのラセミエステルを立体選択的方法で加水分解し、それによってエナンチオマーRがかなり富化された、例えば45〜50%の変換で93〜100%のエナンチオマー過剰度での酸をもたらし、かつ富化された残存エステルがエナンチオマーSのままとなるために、使用してもよい。
【0045】
それゆえに、(R)6−フルオロクロマン−2−カルボン酸(2)は、>70%のエナンチオマー過剰度で、好ましくは>80%のエナンチオマー過剰度で及びさらに好ましくは>90%のエナンチオマー過剰度で産生され、一方で、(S)6−フルオロカルボン酸は、エステル(3)の形態のままであり、>70%のエナンチオマー過剰度で、好ましくは>80%のエナンチオマー過剰度で及びさらに好ましくは>90%のエナンチオマー過剰度を伴う。
【0046】
反応は、エナンチオマーの任意の混合物に対して行ってもよいが、一般的にラセミ体を使用する。
【0047】
この反応のために使用されるエステルは、6−フルオロ−2−カルボン酸エステル(1)であり、式中、R
1は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、アミル、tert−アミルから包含される群から、好ましくはメチル、エチル、プロピルから、さらに好ましくはエチル基から選択される、直鎖又は分岐C
1−5アルキル基である。
【0048】
反応は、好ましくはpH8〜11で、好ましくは8.5〜10.0で行われる。
【0049】
温度は、10及び35℃の間に、しかし好ましくは20及び25℃の間に包含されていてもよい。
【0050】
反応混合物は、水性環境の中に、又は水非混和性溶媒の存在下にあっていてもよい。
【0051】
両方の化合物の回収は、当業者に知られた方法によって、好ましくは一連の酸−塩基抽出を通じて可能である。
【0052】
両方の化合物は次いで、ネビボロール合成(スキーム1)のために使用される。
【0053】
当業者に知られた方法を通じて(
WO2008/010022に記載されたものに類似して、非限定的な例によって)、酸(2)は、それらの間でジアステレオ異性体となる、エポキシド(RS)及び(RR)の混合物(4)へと転換され、一方で、エステル(3)は、エポキシド(SR)+(SS)の混合物(5)へと変換される。
【化15】
【0054】
エポキシドの混合物(4)のベンジルアミンでの立体障害アルコール溶媒(例えば、イソプロパノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、イソアミルアルコール、2−メチル−2−ペンタノール)の中での開環の反応を実施することによって、単独でのアミノアルコールRS(6)の形成を伴う動力学的分割を受け、一方で、エポキシドRR(7)は、変化せずに回収される。
【化16】
【0055】
同じ手順を、混合物(5)に適用させ、アミノアルコールSR(8)及びエポキシドSS(9)を産生する。
【0056】
記載された動力学的分割に代えて、エポキシドの混合物(4)は、2つのエポキシドRS及びRRへと、及びエポキシドの混合物(5)は、2つのエポキシドSR及びSSへと、クロマトグラフィによって分離してもよく、引き続いて、エポキシドRSは、ベンジルアミンと反応して、アミノアルコールRS(6)を得て、一方で、エポキシドSRは、ベンジルアミンと反応して、アミノアルコールSR(8)を得る。
【0057】
最後に、アミノアルコール(6)のエポキシド(7)との反応は、l−ネビボロールのN−ベンジル化誘導体(10)を産生し、同様にアミノアルコール(8)のエポキシド(9)の反応は、d−ネビボロールのN−ベンジル化誘導体(11)を産生する。
【化17】
【0058】
化合物(10)及び(11)は、等モル量でプールされ、結晶化によって精製され(それによって原料のエステル/酸の不完全なエナンチオマー純度に由来する望まれないジアステレオ同位体化合物により構成されるあらゆる不純物を除外する)、脱ベンジル化され、及び引き続いて塩化されて所望の最終ネビボロール塩を得る。
【実施例】
【0059】
本発明は、以降において下記の実施例により詳細に記載され、純粋に例示によるものであり、限定的な目的のためではない。
【0060】
(例1)
欧州特許第0687305号に記載されるように、Ophiostoma novo−ulmiにおいて本来は発現するエステラーゼを含む組換え大腸菌の株を、当業者に周知の技術に従って培養する。細胞画分を超音波によって溶解し、溶解物は遠心されて無細胞上清溶液を得る。1.6mLのOphiostoma novo−ulmiから得られたエステラーゼ(リパーゼ)酵素を含有する溶液(6800単位/mL)及び約25gのエチル6−フルオロクロマン−2−カルボン酸(1)の25mLの脱イオン水及び100mLのTween80の中での懸濁液を、500mLの0.1N NaHCO
3緩衝溶液(pH9.7)に加え、任意でpHを2N NaOHで9.7の値へと調整する。かくして得られた混合物を穏やかに攪拌する。
【0061】
pHは、2N NaOH溶液の制御された添加により9.7の値で自動的に維持される。
【0062】
反応の進展は、HPLCによって制御される。
【0063】
加水分解反応の最後で、混合物をジクロロメタンで抽出し、それによってエステルを有機相中に得る。水性溶液を1N塩酸でpH1へと酸性化し、次いでジクロロメタンで酸の回収のために抽出する。
【0064】
2つの有機相を、別々に塩水で洗い、及び濃縮してそれぞれ12.2gのエチルエステル及び11.0gの酸を得る。
エナンチオマー比(HPLC):
(S)エステル(3)/(R)エステル:95.31/4.69
(R)酸(2)/(S)酸:95.36/4.64
【0065】
DMF中で25℃での酸の混合物(酸(2)を含む)についての旋光能の評価は、当該混合物が左旋回性であることを示し、欧州特許第0334429号においてR異性体について報告されたものと合致する。
【化18】
【0066】
分析方法:Kromasil5−AmyCoat(4.6×250mm)カラム;溶出液:(A)ヘキサン(0.1%TFA)、(B)イソプロパノール、均一溶媒(A)/(B) 85/15;流量:1mL/分、温度:40℃;検出器:280nmでのUV。
【0067】
(例2.アシルメルドラム誘導体の調製)
【化19】
28gの分割された(R)酸を250mL無水ジクロロメタン中に溶解し、結果として得られた溶液に、1.4当量の塩化オキサリル及びDMF滴下を添加する。溶液を攪拌下で室温でN
2下で維持し、1.5時間後に溶媒を蒸発させ、油分を得て、200mL無水ジクロロメタン中へと再溶解させる。別個に、メルドラム酸(1.05当量)及びピリジン(2当量)を無水ジクロロメタン(150mL)中に溶解して攪拌下0℃で15分間おく。この溶液に以前形成した酸塩化物を添加する。添加の最後で、混合物を攪拌下0℃で1時間、及び他に45分室温で置く。次いで、それを他の500mLジクロロメタンで希釈し及び有機相をH
2O(2×200mL)、2N HCl(100mL)、水、及び塩水で洗浄して、Na
2SO
4上で乾燥させる。20体積のジイソプロピルエーテル(diisopropyleter)で溶かし込んだ油分が得られ、濾過され及び乾燥された茶色の固体(40g、HPLC純度=81%、λ=280nm)を得る。得られた個体を、さらなる精製をせずに引き続いての反応において使用する。
【0068】
(例3.βーケトエステルの調製)
【化20】
40グラムの粗製アシルメルドラム誘導体(R)を、攪拌下で110mL tert−ブタノールとともに置き、HPLCによる制御が原料産物の消滅を呈示するまで、結果として得られる混合物を80℃へと1時間加熱する。反応の最後で、tert−ブタノールを減圧下で蒸発させ、それを500mLエチルアセテートで溶かし込んで、有機相を飽和NaHCO
3溶液で、中性までH
2Oで、塩水で洗浄してそれをNa
2SO
4上で乾燥させる。次いで、溶媒を蒸発させ、粗製βーケトエステル(HPLC純度=69%、λ=280nm)を油分として得て、さらなる精製をせずに引き続いての反応において使用する。
【0069】
(例4.クロロβーケトエステルの調製)
【化21】
28gの粗製βーケトエステル(R)を250mLエチルアセテート中に溶解して、この溶液に0.26当量のMg(ClO
4)
2を添加する。30分後、0.95当量のN−クロロスクシンイミドを2時間で添加する。添加の最後で、結果として得られる混合物を1時間の間室温で攪拌する。次いで、形成された固体を除去し、他の350mLのエチルアセテートでの希釈の後に、清澄な溶液を分液漏斗へと移送し、有機相を塩水、H
2Oで洗浄して、Na
2SO
4上で乾燥させる。溶媒を蒸発させ、34gの粗製塩素誘導体(HPLC純度=79.40%、λ=280nm)を得て、さらなる精製をせずに引き続いての反応において使用する。
【0070】
(例5.αークロロケトン(clorochetone)の調製)
【化22】
34gの粗製βーケトエステル(R)をHCOOH(100mL)、CH
3COOH(120mL)及びH
2O(30mL)で還流し、1.5時間後HPLCによる制御が反応の最後を呈示する。次いで、混合物を減圧下で蒸発させ、エチルアセテートに溶かし込んで、有機相を塩水、飽和NaHCO
3、H
2Oで洗浄して、Na
2SO
4上で乾燥させる。次いで、溶媒を減圧下で蒸発させ、21gのα−クロロ−ケトン(HPLC純度=60%、λ=280nm)を油分として得て、そのままで(tel quel)、さらなる精製をせずに引き続いての反応において使用する。
【0071】
(例6.αークロロアルコールの調製)
【化23】
前出の反応から得られた油分の21gを15体積のMeOH中に溶解し、この溶液に2.0当量のNaBH(OCOCH
3)
3をスパチュラで添加して、それを磁気攪拌下で室温で保持する。45分後に他の当量のNaBH(OCOCH
3)
3を添加する。最後の添加から1時間後、HPLCによる制御が反応の最後を表す。溶媒を減圧下で蒸発させ、全部をエチルアセテートとともに分液ロートへと移送して、有機相をH
2O及び塩水で洗浄して、Na
2SO
4上で乾燥させる。21gの油分が得られ、フラッシュクロマトグラフィ(シリカ/粗製物比:30:1、溶出液:石油エーテル/AcOEt 92:8)によって精製され、14.2gのαークロロ−アルコールを得る(HPLC純度=86.5%、λ=280nm)。
【0072】
(例7.(RR+RS)エポキシド(4)の調製)
【化24】
14gのα−クロロ−アルコールを20体積の無水Et
2O中に溶解して、この溶液に2.8gの前出のNaHを、石油エーテルで洗浄したものを、添加する。1時間後、TCL(シリカゲル、溶出液:石油エーテル/AcOEt 85:15)が原料クロロアルコールの消滅(TCL中の1個のブロット)及び2つのエポキシドの形成(TCL上の2個の明確に異なったブロット)を表す。次いで、反応混合物を他の30体積のEt
2Oで希釈して、全部を100mLの1M NaHSO
4中に注ぎ、勢いのよい攪拌を維持する。有機相をNaHCO
3、H
2O、塩水で洗浄して、Na
2SO
4上で乾燥させる。次いで、溶媒を減圧下で蒸発させ、11.4gのエポキシドの混合物を油分として(HPLC純度>98%、λ=280nm)、51:48の比にて得る。
【0073】
キラルHPLCでの分析において示された、その比においてわずか2個の主要ピークのみが存在することは、(R)酸からジアステレオ異性体(RR+RS)エポキシドの混合物へと進む反応シーケンスにおいて、立体中心キラリティの明白な保持を伴って、ラセミ化がもたらされなかったことを示す。
【0074】
(SR+SS)エポキシドの混合物(5)を、例2〜7に記載されたものと同様に、エステル(3)から開始し、加水分解の後に対応する酸へと向かって、調製する。この場合では、かくして得られた酸についてのDMF中で25℃での旋光能の評価は、それが右旋回性であることを示し、欧州特許第0334 429A1号においてS異性体について報告されたものと合致する。
【0075】
(例8.(SS+SR)エポキシドの混合物に対する動力学的分割)
(SS+SR)エポキシドの混合物(4.50g,22.5mmol)及びベンジルアミン(3.8mL,35mmol)の2−メチル−2−ブタノール(38 mL)中の溶液を、室温で12時間の間混合する。反応の最後で、形成された(SR)アミン8を真空下で濾過し、そして乾燥させる(1.90g,6.30mmol)。濾過された溶液をシクロヘキサン(250mL)中に注ぎ、そしてかくして得られた溶液を1M NaHSO
4(100mL)及びH
2O(50mL×2)で洗浄して、次いで減圧下で濃縮して1.30(6.00mmol)gの(SS)エポキシド9を得る。
【0076】
(RS+RR)の混合物に対する動力学的分割を、例8に記載されたものと同様に行う。
【0077】
(例9.l−ベンジルネビボロール(SSSR)の合成)
化合物(RS)−2−ベンジルアミノ−1−(6−フルオロクロマン−2−イル)エタノール及び(SS)エポキシドを絶対エタノール(6 mL)中に溶解して、原料試薬の消滅まで還流で維持する。反応の最後で、混合物を放置して室温に到達させ、そして溶媒を減圧下で除去する。
【0078】
(例10.d−ベンジルネビボロール(RRRS)の合成)
化合物(SR)−2−ベンジルアミノ−1−(6−フルオロクロマン−2−イル)エタノール及び(RR)エポキシドを例9でのように処理してd−ベンジルネビボロールを得る。
【0079】
(例11.d,l−ベンジルネビボロールの合成)
例9に記載されたl−ベンジルネビボロール(3.00g)及び例10に記載されたd−ベンジルネビボロール(3.00g)をプールして、かくして得られた混合物(6.0g)を結晶化によって精製し、5.0gのN−ベンジルネビボロールを得た(83%、HPLC純度=99.6%)。結晶化による精製の間に、原料エチル6−フルオロクロマン−2−カルボン酸(1)の不完全なエナンチオ選択性加水分解に由来する望ましくない異性体からなる不純物もまた除去される。
【0080】
(例12.ネビボロール塩酸塩の合成)
化合物d,l−ベンジルネビボロール(5.0g,410mmol)をメタノール(400mL)並びに20%Pd(OH)
2/C(1%b/w)中に溶解する。混合物を攪拌下で水素雰囲気下で維持する。反応の最後で、触媒を多孔隔膜上で濾過して、濃縮HCl(36mL)を濾液に添加する。溶液を減圧下で濃縮して得られた残渣を絶対エタノール(50mL)とともに加熱処理する。得られた固体を濾過して真空下で乾燥させる(1.0g、収量:82%、HPLC純度:99.9%)。
【表1】