(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973668
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】試薬品質を推定するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20160809BHJP
F01N 11/00 20060101ALI20160809BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20160809BHJP
G01N 33/00 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
F01N3/08 B
F01N11/00
B01D53/94 222
B01D53/94 400
G01N33/00 B
【請求項の数】19
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-528879(P2015-528879)
(86)(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公表番号】特表2015-526644(P2015-526644A)
(43)【公表日】2015年9月10日
(86)【国際出願番号】EP2012003658
(87)【国際公開番号】WO2014032686
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2015年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】503083889
【氏名又は名称】ボルボ トラック コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100116757
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 英雄
(74)【代理人】
【識別番号】100123216
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 祐一
(72)【発明者】
【氏名】ブランケンフィエル,マグヌス
(72)【発明者】
【氏名】ケレン,ペール−オロフ
【審査官】
永田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−209771(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0178575(US,A1)
【文献】
特開2009−79584(JP,A)
【文献】
特開2010−261326(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0133384(US,A1)
【文献】
特表2003−525380(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0022659(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0074229(US,A1)
【文献】
特開2010−106671(JP,A)
【文献】
特開2012−36840(JP,A)
【文献】
特開2010−242728(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0209461(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00−3/38,9/00−11/00,
B01D 53/73,53/86−53/96,
G01N 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素濃度に関し尿素系試薬の品質を推定するための方法であって、前記試薬は排気後処理システム(1)においてSCR触媒(5)の上流に注入されるものであり、以下のステップ含むことを特徴とする、前記方法:
必要NOx変換率を前記SCR触媒(5)の現推定最大NOx変換率より実質的に低く設定するステップ、但し、劣化及び経時変化を受けたSCR触媒は、前記必要NOx変換率において新規SCR触媒と本質的に同一のNOx変換率を示す;
一定期間の間、実NOx変換率を監視するステップ;及び
前記期間の間に、監視する実NOx変換と必要NOx変換との比較に基づいて前記試薬の尿素濃度を推定するステップ。
【請求項2】
前記SCR触媒のアンモニアバッファが、前記期間の間、実質的に空のままとなるように、前記期間の前、及び前記期間の間において試薬の注入率を制御することによって、前記SCR触媒(5)内に保持されたアンモニアが前記尿素濃度推定の結果に影響を及ぼさないことをさらに確実にすることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記期間の開始時と終了時とにおける推定SCR触媒アンモニア保持レベルが同じとなるように、前記期間の間、試薬の注入率を制御することによって、前記SCR触媒(5)内に保持されたアンモニアが前記尿素濃度推定の結果に影響を及ぼさないことをさらに確実にすることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記SCR触媒(5)からのアンモニアスリップが防止されるように前記必要NOx変換率を設定することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記SCR触媒の現推定最大NOx変換率より少なくとも10%低く、前記必要NOx変換率を設定することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記SCR触媒の現推定最大NOx変換率より少なくとも20%低く、前記必要NOx変換率を設定することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記SCR触媒の現推定最大NOx変換率より少なくとも30%低く、前記必要NOx変換率を設定することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記SCR触媒(5)の最大NOx変換率を監視することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記SCR触媒(5)の現推定最大NOx変換率の10〜50%の範囲に、前記必要NOx変換率を設定することを特徴とする、請求項1乃至4又は8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記SCR触媒(5)の現推定最大NOx変換率の10〜40%の範囲に、前記必要NOx変換率を設定することを特徴とする、請求項1乃至4又は8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記SCR触媒(5)の現推定最大NOx変換率の10〜30%の範囲に、前記必要NOx変換率を設定することを特徴とする、請求項1乃至4又は8のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
所定の値により前記期間を選択するか、又は実際のエンジンパラメータ及び/又は排気後処理システムパラメータに基づいて前記期間を決定することを特徴とする、請求項1乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記期間の間におけるエンジンNOx排出の累積レベルに基づいて前記期間を決定することを特徴とする、請求項1乃至12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記試薬の前記尿素濃度の推定は、前記実NOx変換と前記必要NOx変換との比を算出し、前記比に前記試薬における尿素の予想割合に対応する係数を乗じることに基づくことを特徴とする、請求項1乃至13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記期間の間における前記SCR触媒(5)の上流のNOx排出レベルと前記SCR触媒(5)の下流のNOx排出レベルとの差を積分することによって前記期間の間における前記実NOx変換を算出することを特徴とする、請求項1乃至14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記期間の間における前記必要NOx変換率と前記SCR触媒(5)の上流のNOx排出レベルとの積を積分することによって前記期間の間における前記必要NOx変換を算出することを特徴とする、請求項1乃至15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
一定期間内の少なくとも2つの時点で、SCR触媒のアンモニアバッファが空であることを決定することに関し試薬品質の推定を開始するものであり、前記SCR触媒のアンモニアバッファを回復するために前記時点の間に試薬用量率の上昇時間が生じることを特徴とする、請求項1乃至16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
必要NOx変換率を設定するステップが、実際のエンジンパラメータ及び/又は排気後処理システムパラメータに基づいて排気後処理システム(1)においてSCR触媒(5)の上流で注入される試薬の量を制御するステップを含む、請求項1乃至17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
SCR触媒(5);
前記SCR触媒(5)の上流に配置される試薬注入器(9);
前記SCR触媒(5)の下流に配置されるNOxセンサ(11);及び
前記試薬の用量を制御するための電子制御装置(8)
を含む、燃焼機関のための排気後処理システムであって、
前記電子制御装置(8)は、以下のステップによって尿素濃度に関し尿素系試薬の品質を推定するように構成されていることを特徴とする、前記排気後処理システム:
必要NOx変換率を前記SCR触媒(5)の現推定最大NOx変換率より実質的に低く設定するステップ、但し、劣化及び経時変化を受けたSCR触媒は、前記必要NOx変換率において新規SCR触媒と本質的に同一のNOx変換率を示す;
一定期間の間、実NOx変換率を監視するステップ;及び
前記期間の間に、監視する実NOx変換と必要NOx変換とを比較することに基づいて前記試薬の尿素濃度の推定値を計算するステップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素系試薬の品質を推定するための方法、及び尿素系試薬の品質を推定できるように構成された排気後処理システムに関する。同方法は、特に、例えば中型トラック若しくは大型トラック、バス、建設用車両等に設置されるディーゼル燃焼機関に適用され得る。
【背景技術】
【0002】
本発明は、選択接触還元(Selective Catalytic Reduction;SCR)触媒を含む排気後処理システムに関するものである。この選択接触還元においては、触媒に侵入する排ガス混合物に試薬を積極的に注入することによりNOx(窒素酸化物)が連続的に除去される。この種のNOx還元システムは、高いNOx変換効率を達成することで知られている。尿素系SCR触媒は、活性NOx還元試薬として気体アンモニアを用いる。一般に、尿素水溶液は車輛のボード上に担持され、注入システムを用いて、SCR触媒に侵入する排ガス流に同尿素水溶液を注入するものであり、そのSCR触媒において尿素水溶液はシアン化水素酸(NHCO)と気体アンモニア(NH
3)とに分解され、次いで気体アンモニアはSCR触媒と反応して排気流におけるNOxが無害な窒素と水とに変換される。
【0003】
駆動機構が尿素を水又はその他液体で希釈することを防止するために、様々な排ガス法令において試薬品質の監視が要求されている。尿素の希釈水溶液は、車両から排出されるNOxの排出レベルに直接影響を及ぼすものである。
【0004】
例えば尿素の品質を検出するために、単純に試薬品質センサを用いることが知られている。ある既知のセンサ手法では、試薬の超音波密度測定又は電気的特性評価の利用を伴う。しかしながら、例えばウォッシャー液、冷却剤、塩水等、多くの液体は、標準的な尿素水溶液と同程度の密度を有することから、そのような試薬密度は希釈された試薬の決定的な指標とはならない。従って、試薬の希釈が検出されないことが生じ得る。さらに、尿素品質センサは高価であり、その結果、メンテナンス費用が増加する。
【0005】
尿素水溶液の希釈を検出するための他の解決手段が特許文献1に示されている。同特許文献においては、エンジン停止後のNOx変換率がエンジン停止直前のNOx変換率と比較される。NOx変換率がエンジン停止の前後で異なる場合は、停止の間において尿素水溶液が希釈されたものと結論される。この尿素品質診断法の問題は、エンジン稼働の際に生じる希釈が検出されないことである。さらに、車両の停止の間に生じる、NOx変換率に影響するその他変化により、試薬希釈について誤った結論に至る場合もある。
【0006】
このように、前記不利な点を解消する、試薬品質を監視するための改良法のニーズが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2010 000 626号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、尿素濃度に関し尿素系試薬の品質を推定するための方法を提供することにある。ここで、前記試薬は、排気後処理システムにおいてSCR触媒の上流に注入されるものであり、前述の問題が少なくとも部分的に回避されるものである。
【0009】
この目的は、以下のステップを含む、請求項1の特徴的部分の特徴によって達成される:
必要NOx変換率を前記SCR触媒の現推定最大NOx変換率より実質的に低く設定するステップ;
一定期間の間、実NOx変換率を監視するステップ;及び
前記期間の間に、監視する実NOx変換と必要NOx変換との比較に基づいて前記試薬の尿素濃度を推定するステップ。
【0010】
本発明の更なる目的は、SCR触媒、前記SCR触媒の上流に配置される試薬注入器、前記SCR触媒の下流に配置されるNOxセンサ、及び前記試薬の用量を制御するための電子制御装置を少なくとも含む、燃焼機関のための排気後処理システムを提供することにあり、本システムにおいては前述の問題が少なくとも部分的に回避される。
【0011】
この目的は、請求項16の特徴的部分の特徴によって達成され、前記電子制御装置は、以下によって尿素濃度に関し尿素系試薬の品質を推定するように構成されている:
必要NOx変換率を前記SCR触媒の現推定最大NOx変換率より実質的に低く設定すること;
一定期間の間、実NOx変換率を監視すること;及び
前記期間の間に、監視する実NOx変換と必要NOx変換との比較に基づいて前記試薬の尿素濃度の推定値を計算すること。
【0012】
本発明の方法及びシステムは、SCR触媒の決定したNOx変換効率に単に基づいて試薬品質を推定することを狙いとするものである。これには、コストのかかる更なる尿素品質センサの必要性が排除される利点があり、全体の排気後処理システムがあまり複雑になることがない。しかしながら、SCR触媒のNOx変換不良の根本的原因を決定することは難しい。希釈試薬以外のNOx変換不良の考えられる理由としては、例えばSCR触媒の劣化及び経時変化が挙げられる。劣化を受けたSCR触媒は、NH
3保持容量が低下し、最大NOx変換率も低下する。本発明の方法及びシステムは、劣化を受けたSCR触媒には依然として必要NOx変換率を提供する能力はあるが、NOx変換率が低下しているという事実に依拠したものである。従って、SCR触媒の劣化は、より高い必要NOx変換率において主に目立ったものとなる。劣化及び経時変化を受けたSCR触媒は、比較的低い必要NOx変換率においては新規SCR触媒と本質的に同一のNOx変換率を示す。このSCR触媒特性が本発明による方法及びシステムにおいて用いられ、即ち、前記SCR触媒の現推定最大NOx変換率と比較して低いレベルの必要NOx変換率で試薬品質の監視を実施する。これによって、SCR触媒の如何なる劣化及び経時変化の作用は多かれ少なかれ除外され、必要NOx変換率と実NOx変換率との比較の結果が、試験期間中に注入される試薬の品質と多かれ少なかれ直接的に相応するものとなる。
【0013】
従属項の特徴の一又は幾つかを実施することによって、更なる利点が達成される。
【0014】
本方法は、前記SCR触媒内に保持されたアンモニアが前記尿素濃度推定の結果に影響を及ぼさないことを確実にするステップをさらに含み得る。SCR触媒のアンモニアバッファが試験期間の間に変化した場合、例えば増加し、その増加を試薬の尿素濃度を推定する際に考慮しなかった場合、試験の間に、試薬に由来する未知量のアンモニアが触媒基材上に吸着し、SCR触媒に保持されるようになる。しかしながら、本発明による試薬尿素濃度の推定は、試験期間の間に、注入された試薬の累積量とSCR触媒における累積NOx還元量とを比較することに基づくものである。試験期間の間のSCR触媒における累積NOx還元量は例えば、SCR触媒の下流に設置されるNOxセンサと試薬注入器の上流に設置される更なるNOxセンサとを利用し、かつ試験期間の間のセンサ出力の差を単純に積分することによって、或は前記更なるNOxセンサをSCR触媒上流の排ガスにおけるNOxレベルの推定値と置換することによって測定され得る。試薬の尿素濃度推定は、SCR触媒中の実NOx変換を記述するモデルに更に基づくものである。このモデルは例えば、試験期間の間の排ガスの質量又は容積による流量、SCR触媒に侵入する排ガスのNO/NO
2比、及びSCR触媒の予測NH
3-NO/NO
2反応モデル、並びにSCR触媒排ガス温度に基づくものであってよい。
【0015】
前記SCR触媒内に保持されたアンモニアが前記尿素濃度推定の結果に影響を及ぼさないことを確実にするステップは、最も単純なアプローチとして、前記SCR触媒のアンモニアバッファが、前記期間の間、実質的に空のままとなるように、前記期間の前、及び前記期間の間において試薬注入率を制御することによって実現され得る。SCR触媒のアンモニアバッファの推定値は、エンジン設定及びエンジン負荷、試薬注入率、SCR触媒前後の排ガスNOxレベル等に基づいて、しばしば多少連続的に更新される。従って、前記アンモニアバッファ推定値、エンジン設定、及び試薬注入率を用いることにより、前記SCR触媒アンモニアバッファが、前記期間の間、実質的に空のままとなることを確実にできる。
【0016】
前記SCR触媒内に保持されたアンモニアが前記尿素濃度推定の結果に影響を及ぼさないことを確実にするステップは、或は、前記期間の開始時と終了時とにおける推定SCR触媒アンモニア保持レベルが同じとなるように、前記期間の間、試薬注入率を制御することによっても実現され得る。これにより、試薬の尿素濃度推定に全ての注入尿素が含まれることも確実となる。
【0017】
本方法は、前記SCR触媒からのアンモニアスリップが防止されるように前記必要NOx変換率を設定するステップをさらに含んでもよい。SCR触媒からのアンモニアスリップは、SCR触媒に侵入したアンモニア全てが触媒によって吸着されず、その結果、未反応の触媒を通過した場合に生じ得る。アンモニアスリップは、車両からの全窒素排出の一因となり、幾つかの国では法令によって最大値が規制されている。さらに、試薬品質推定は試験期間中の累積試薬注入量と累積SCR触媒NOx変換とを比較することに基づくものであることから、アンモニアスリップは試薬品質推定を歪めてしまう。何故ならば、注入試薬に由来するアンモニア全てが触媒において変換されたものと仮定されるからである。さらに、多くのNOxセンサはNOxとアンモニアに対し交差感受性があり、アンモニアスリップがNOx排出と考えられてしまい、それによって記録される実SCR触媒NOx変換率を歪め、その結果、得られる尿素濃度推定も歪めたものとしてしまう。前記SCR触媒からのアンモニアスリップは、単純に前記必要NOx変換率を十分に低く設定することによって防止されるが、この事は試薬注入率を十分に低く設定することを意味する。十分に低い試薬注入率では、現エンジンNOx排出レベルとSCR触媒アンモニアバッファレベルを考慮すると、触媒に侵入したアンモニア全てが触媒基材上に吸着し、続いてNOxと触媒的に反応して窒素分子(N
2)と水とに変換され、その結果、未反応の触媒を通過する未反応のアンモニアは存在しないこととなる。
【0018】
本方法は、前記SCR触媒の現推定最大NOx変換率より少なくとも10%低く、具体的には少なくとも20%低く、より具体的には少なくとも30%低く前記必要NOx変換率を設定するステップをさらに含んでもよい。前述したとおり、必要NOx変換率の低下は、尿素品質推定の正確性を向上させることに役立つ。第一に、必要NOx変換率の低下はSCR触媒の劣化及び経時変化の影響を減少させ、第二に、必要NOx変換率の低下はSCR触媒アンモニアバッファの蓄積を回避し、或は少なくともSCR触媒アンモニアバッファを増加させることはなく、第三に、必要NOx変換率の低下はアンモニアスリップの可能性を減少させる。
【0019】
あまり有意でない量で試験期間の間、低下した必要NOx変換率レベルを最小にすることを目的として、前記SCR触媒の現推定最大NOx変換率をSCR触媒の耐用期間の間、連続的に監視してもよい。SCR触媒の現最大NOx変換率は例えば、アンモニアスリップが検出されるまで試薬注入率をゆっくり増加させることによって推定してもよく、この場合、アンモニアスリップ検出のイベントは、恐らくアンモニアスリップ触媒の影響を考慮に入れ、現最大NOx変換率を示す。SCR触媒の現最大NOx変換率は、前述の試験とは別の手段として、或は同試験に加えて、累積NOx変換、エンジン設定、燃料品質、試薬注入ストラテジー等の様々な入力パラメータに基づくものであってよいSCR触媒劣化ソフトウェア・モデルによって推定してもよい。
【0020】
SCR触媒の現推定最大NOx変換率は、単純に新規SCR触媒の最大NOx変換率に相当するものと考えられてもよい。しかしながら、これには、潜在的に劣化を受けるSCR触媒を補償するために、試験期間の間により顕著に低下した必要NOx変換率がしばしば必要となるであろう。一般に、このアプローチは、前記SCR触媒の現推定最大NOx変換率の10〜50%の範囲、具体的には10〜40%の範囲、より具体的には10〜30%の範囲に前記必要NOx変換率を設定することに繋がり得る。
【0021】
本方法は、所定の値により前記期間を選択するか、又は実際のエンジンパラメータ及び/又は排気後処理システムパラメータに基づいて前記期間を決定するステップをさらに含んでもよい。低い現排ガス流量は次いで低い累積レベルの実NOx変換率に繋がるであろうことから、固定した所定期間はしばしば精度の低い推定となってしまう。実際のエンジンパラメータ及び/又は排気後処理システムパラメータにより当該期間を選択すると、しばしば、同様の理由により、より精度の高い尿素品質推定に繋がり、当該期間の間におけるエンジンNOx排出の累積レベルに基づく期間であることが好ましい。
【0022】
前記試薬の尿素濃度の推定は、前記実NOx変換と前記必要NOx変換との比を算出し、前記比に前記試薬における尿素の予想割合に対応する係数を乗じることに基づくものであってもよい。試薬がAdblue(登録商標)である場合は、例えば同係数は32.5であってよい。
【0023】
前記期間の間における実NOx変換は、好ましくは、前記期間の間における前記SCR触媒上流のNOx排出レベルと、前記SCR触媒下流のNOx排出レベルとの差を積分することによって算出される。前記SCR触媒上流のNOx排出レベルはNOxセンサで測定されるか、或はエンジン設定、エンジン負荷、エンジン速度等に基づいて計算される。前記SCR触媒下流のNOx排出レベルは、大抵NOxセンサで測定される。
【0024】
前記期間の間における必要NOx変換は、前記期間の間における前記必要NOx変換率と前記SCR触媒の上流における測定上若しくは推定上のNOx排出レベルとの積を積分することによって計算される。
【0025】
試薬の品質推定試験は幾つかの方法で開始され得る。例えば、試薬品質推定は、一定期間内の少なくとも2つの時点で、SCR触媒のアンモニアバッファが空であることを決定することに関し試薬品質推定試験を開始してもよく、この場合、前記SCR触媒アンモニアバッファを回復するために前記少なくとも2つの時点の間に試薬用量率の上昇
時間が生じる。その他多くの開始機序が可能であり、本発明の範囲内に存在する。
【0026】
必要NOx変換率を設定するステップが、実際のエンジンパラメータ及び/又は排気後処理システムパラメータに基づいて排気後処理システムにおいてSCR触媒上流で注入される試薬の量を制御するステップを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
以下に与えられる発明の詳細な説明においては以下の図が参照される。
【
図1】
図1は、排気後処理システムのレイアウトを示す。
【
図3】
図3は、本発明による方法の主要なステップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を説明するものであるが、限定するものではない添付の図面と併せて本発明の様々な態様を以下に説明する。同様の表示は同様の要素を意味するものであり、本発明の態様のバリエーションは、具体的に示した実施形態に限定されるものではなく、本発明のその他のバリエーションに適用可能である。
【0029】
図1は、特に大型のトラック又はバス等のためのディーゼルエンジン2の排気後処理システム1のレイアウトの一例を模式的に示す。示された具体的な排気後処理システム1は、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及び粒子状物質のレベルを減少させるためのディーゼル酸化触媒3及び粒子フィルタ4を含むユニット13を含む。エンジン2からのNOx排出も規制排出基準を満たすように削減されなければならず、この理由のためSCR触媒5が排ガスパイプ6に沿って設置される。選択接触還元は、触媒を用いてNOxを窒素(N
2)と水(H
2O)とに変換する手段である。試薬、典型的には水と混合した尿素が、試薬注入器9を利用してSCR触媒5上流の排ガス流に加えられ、加水分解によりアンモニアに変換され、アンモニアはSCR触媒5上に吸着される。SCR触媒5は、鉄系若しくは銅系のゼオライト型、又はバナジウム系型のものであってもよい。アンモニアスリップ触媒7は、SCR触媒5の下流に設置してもよく、SCR触媒5と共に単一ユニット14を構成する。アンモニアスリップ触媒はしばしば、アンモニア酸化触媒を利用してSCR触媒からの未反応のアンモニア(NH
3)をN
2及びH
2Oに変換することによって機能する。排気後処理システム1と関連付けられた電子制御装置8は、試薬用量モデルを利用してSCR触媒5の上流の試薬注入器9で試薬注入を制御するように構成されていてもよく、試薬用量モデルは、温度センサ10によって与えられる、SCR触媒5に侵入する排ガスの温度等の様々なパラメータを入力信号として用いたものであってもよい。或は、温度センサがSCR触媒の各側に設けられてもよく、それら2台のセンサの平均値が電子制御装置8に供給されてもよい。SCR触媒5の下流に位置するNOxセンサ11は、主に、排ガスにおけるNOx排出レベルを検出するために設けられている。しかしながら、NOxセンサ11は、アンモニアに対し交差感受性がある。SCR変換効率が精度良く決定され得るように、さらなるNOxセンサ12をSCR触媒5の上流に設置することが好ましい。ここで、本発明は、例えばSCR触媒5、試薬注入器9、及びSCR触媒からの現NOx排出レベルを測定するためのNOxセンサ11のみを含む、あまり複雑でない排気後処理システムに同等に適用可能であることに留意されたい。
【0030】
本発明の重要な態様は、出来る限り、SCR触媒NOx変換効率と試薬品質との直接的な関係を取得すること、即ち、SCR触媒5の劣化、経時変化、及び/又は汚染の如何なる否定的な影響をも除外することにある。これは、必要NOx変換率が現在達成できる最大SCR触媒5NOx変換率に対して減少した場合、劣化を受けたSCR触媒5はなお前記必要NOx変換率を満たすことができるという事を利用して達成される。このSCR触媒特性は、
図2に模式的に説明されている。
図2は、X軸をパーセント[%]による必要NOx変換率とし、Y軸をパーセント[%]による実NOx変換率とし、さらに4つの異なるSCR触媒の劣化レベルに対してSCR触媒特性の例をプロットしたX−Y図を示す。図におけるカーブA〜Dは、例示であるSCR触媒特性に対応するものであり、Aは新規SCR触媒の関数を表し、カーブBはわずかに劣化を受けたSCR触媒を表し、カーブCはより劣化を受けたSCR触媒を表し、カーブDはさらに劣化を受けたSCR触媒を表す。
【0031】
カーブAに対応するSCR特性は、だいたい、最新式のSCR触媒によって達成可能な非常に良好なNOx変換率により一次関数となっている。100%の必要NOx変換で、95%超の実NOx変換率が一般に達成可能であり、最適条件下では、97%超でさえ達成可能である。
図2では、100%の実NOx変換率が単純化のために示されている。
【0032】
SCR特性Bはかなりの程度で特性Aと一致しており、上位レベルの必要NOx変換率において主に異なっている。わずかな劣化により、B特性のSCR触媒は、アンモニア保持レベル及びアンモニア吸着率の両面においてアンモニア吸着能の僅かな減少がある。その結果、100%の必要NOx変換において、約92%のNOx変換率しか獲得されない。さらに、SCR触媒能力の低下に起因して、一定レベルのアンモニアスリップが、100%の必要NOx変換において生じる可能性があり、そのアンモニアスリップが、続くアンモニアスリップ触媒7において完全に又は少なくとも部分的に変換され得る。
【0033】
過剰なアンモニアスリップを回避するために、SCR触媒の現推定最大達成可能実NOx変換率を監視してもよく、必要NOx変換率を設定する際に同NOx変換率を考慮してもよい。例えば、カーブBに関して
図2に図示される通り、ここで、SCR触媒の現推定最大達成可能実NOx変換率は、100%の必要NOx変換率(点20)に対して約92%と推定される。この作用点20は触媒の劣化に起因して過剰なアンモニアスリップを生じる結果となり得るものであることから、必要NOx変換作用点を約85%(点21)に低下させてもよく、このような約85%(点21)であれば約84%の実NOx変換率となり、アンモニアスリップのレベル低減につながる。
【0034】
本発明による品質を推定するための方法は、実NOx変換率が監視される期間を含み、少なくともこの期間の間においては、必要NOx変換率は、SCR触媒の劣化による影響を可能な限り排除できるように減じられなければならない。
図2において、これは、斜線に沿って、即ちカーブAに沿って作用点を有することに対応する。何故ならば、試薬の尿素濃度の推定は、実NOx変換と必要NOx変換との比を算出し、前記比に試薬における尿素の予想割合に対応する係数を乗じることに基づくからである。従って、実NOx変換と必要NOx変換との比が、触媒が劣化しているという理由により単一状態(1.0)と差異がある場合、得られる尿素品質推定は歪められることになる。ここで、前記期間の間における実NOx変換が、前記期間の間におけるSCR触媒上流のNOx排出レベルとSCR触媒下流のNOx排出レベルとの差を積分することによって算出され、前記期間の間における必要NOx変換が、前記期間の間における必要NOx変換率とSCR触媒上流のNOx排出レベルとの積を積分することによって算出される。例えば、必要NOx変換率は前記SCR触媒の現推定最大NOx変換率より少なくとも10%低く、具体的には少なくとも20%低く、より具体的には少なくとも30%低く設定してもよい。
図2において、カーブBに対応するSCR触媒の現推定最大NOx変換率は92%であり、必要NOx変換率は、試験期間の間、例えば62%(点22)に設定し得る。
【0035】
触媒劣化が監視されない場合、即ちSCR触媒の現推定最大NOx変換率が新規触媒に常に等しい場合には、最悪のケースのシナリオ、即ちSCR触媒が顕著な劣化を受けた場合に基づいて劣化の影響を最小にするのに十分に低く必要NOx変換率を設定することができる。これには、必要NOx変換率の顕著な低減が必要となり、例えば、前記SCR触媒の現推定最大NOx変換率の10〜50%の範囲、具体的には、10〜40%の範囲、より具体的には10〜30%の範囲が挙げられる。
【0036】
試験期間の間における必要NOx変換率のレベル低下は、SCR触媒劣化の有害な影響を軽減するだけでなく、試験期間中のアンモニアスリップ及びアンモニア緩衝作用を防止するのに役立つものであり、アンモニアスリップとアンモニア緩衝の両方が尿素品質推定を潜在的に歪めるものである。試薬品質推定は、試験期間中に累積必要NOx変換と累積実NOx変換とを比較することに基づくものであり、累積必要NOx変換は累積注入試薬レベルに相応する。注入試薬に由来するアンモニア全ては触媒において変換されたものと想定されることから、如何なるアンモニアスリップも試薬品質推定を歪める。加えて、多くのNOxセンサは、NOxとアンモニアに対し交差感受性がある。アンモニアスリップは、試験期間の間にNOx排出として記録されることになり、従って、記録される実SCR触媒NOx変換率を歪め、その結果、得られる尿素濃度推定も歪められ得る。前記SCR触媒からのアンモニアスリップは、前記必要NOx変換率を十分に低く設定することによって防止される。
【0037】
さらに、試験期間の間において記録されていないSCR触媒アンモニアバッファの変化、例えばバッファ増加も、試薬品質推定を歪めることになる。本発明による試薬の尿素濃度推定は、試験期間の間に注入された試薬の累積量とSCR触媒における累積NOx還元量とを比較することに基づくものであり、試験の間にアンモニアバッファが変化した場合、SCR触媒内のNOxの実際の変換を記述するための所定モデルに基づくと、SCR触媒におけるNOx還元累積量は、もはや、注入された試薬の累積量に由来するアンモニアの量と一致しない。このため、アンモニアバッファは、試験期間の開始時においては空であるか、或は少なくとも実質的に空であることが好ましく、必要NOx変換率は、試験の間、アンモニアバッファの如何なる増加も防止する程度に減少させることが好ましい。
【0038】
図3は、本発明による、尿素濃度に関し尿素系試薬の品質を推定するための方法の典型的なステップを模式的に記載したものである。最初に、試薬の潜在的な希釈を示す開始機序31は、試薬品質推定過程32に入ることとなる。試薬品質推定過程32は、前記SCR触媒の現推定最大NOx変換率よりも実質的に低く必要NOx変換率を設定するステップ33を含み、ステップ33において前記現推定最大NOx変換率は連続的に監視され、かつ適応又は固定され得る。必要NOx変換率は、例えば、現推定最大NOx変換率の70%に設定してもよい。バッファは試験期間の開始前は空であることが好ましく、必要NOx変換率は、アンモニアスリップ及びバッファの増加を防止するのに十分低く設定される。その後、一定期間、実NOx変換率を監視することを含むステップ34、並びにそれに続き、前記期間の間に監視した実NOx変換と必要NOx変換との比較に基づいて前記試薬の尿素濃度を推定することを含むステップ35が続く。
【0039】
開始機序31は、多数の異なる構成を取り得る。一の開始機序が、SCR触媒アンモニアバッファが空であることを検出する第1ステップ41を有する
図4に開示されている。これは、NOx変換率の突然の減少によって検出され得る。続くステップ43においては、アンモニアバッファを、一時的に試薬注入率を増加させることによって回復させる。次いで、続くステップ44において、最初の空バッファ検出から一定期間内に別の空バッファが検出された場合、制御システムは試薬が希釈されたという仮定に帰結してもよく、従って、行程45において、試薬品質推定過程32に入ることとなる。
【0040】
請求項において言及される引用符号は、請求項によって保護される事項の範囲を限定するものと理解してはならず、それら引用符号の唯一の役割は請求項をより容易に理解しやすくすることにある。
【0041】
理解される通り、本発明は、添付の請求項の範囲から逸脱することなく様々な明らかな点において修正が可能である。
よって、図面及びその説明は、本来的に説明のためのものであり、限定するものではないと考慮されるべきものである。